第三十六話 うんこの勇者
「やったわね、コーター」
「ああ、分身と再生のスキルには驚かされたけど、アリーのおかげで助かったよ」
「コーター殿、アリー殿。
ありがとうございます」
「ワシらだけでは倒せなかったのう……」
「いや、ウルグル……
倒せる倒せないどころか、ダメージすら入らなかっただろ。
本当に助かった。
コーター殿、アリー殿」
「しかし、アリーちゃんもとてつもなく強いのじゃな……
ワシの大魔法が効かない魔王を一瞬で刺身にするとは……」
「アリーの料理スキルレベルも10に達していますからね」
「あら、コーター。
さっきレベルアップして『スーパー料理』スキルレベル1になったから、あなたと同じレベル11相当だと思うわよ」
「そうか、レベルアップおめでとうアリー」
ここで脳内にあのアナウンスが流れる。
スキル『スーパーうんこ』がレベルアップしました……
俺はしばし遠い目をしてその場に佇む。
「大丈夫?
もしかして、コーター……
スキルレベルがまた上がったの?」
「ああ、そのようだが、大丈夫だ。
もう俺は叫び出したりはしないよ。
魔王も極悪勇者もこのうんこスキルがなかったら倒せなかった。
俺のスキルは無駄じゃないって分かっているから、もう理不尽だとは思わないよ」
「そう……
成長したわねコーター」
「ああ、アリーの夫としてしっかりしなきゃな」
「嬉しいわコーター」
アリーはそっと俺の胸に寄りかかる。
「おいおい、お二人さん。
こっちはゴーグのおかげでご無沙汰なんだ。
あまり見せつけないでくれないか」
「違いない。
二人だけの世界に入り浸るのは街に帰ってからにして欲しい」
「そうじゃそうじゃ。
わしとてまだ引退したわけではないのじゃぞ」
俺達の様子に、ブラウンさん、パーサーさん、ウルグルさんの元勇者パーティー三人がニヤニヤしながら突っ込んでくる。
アリーは顔を赤らめて少し俺から離れたが、代わりに3人から見えない方の手をつないできた。
もちろん恋人つなぎだ。
「ああ、それなら早く街に帰らないとな」
俺は素早くうんこ雲を形成し、みんなを乗せる。
「んっ!?
来たときと違って何かいいにおいがするな」
大神官のパーサーさんが一番最初に気がつく。
「ああ、さっきレベルアップしたとき、新しく『スーパーうんこ変化』のバージョンに『臭わないうんこ』と『いい香りのうんこ』が加わったんだ。
早速使ってみた」
「なんと、何ともうんことは思えない変化じゃな」
俺の返答にウルグルさんがあきれ気味にいう。
「まあ、何にしてもこれで空の旅の快適性も増したと言うことさ。
さあ、乗った乗った」
俺に促されてみんなはうんこ雲に乗り込んだ。
レベルアップのおかげでうんこ操作によるうんこ雲の移動スピードも格段に上がり、俺達は夕方には街へ帰還した。
冒険者ギルドへ顔を出すと、俺達を見たルーアナ達が驚いた表情でこちらを見る。
「アニキ、こんなに早く帰ってきたってことは、何か忘れ物ですかい?」
「まさか、討伐失敗!?」
「そんな……」
「安心しろ。
魔王はきっちりうんこにしてきた」
「「「えっ」」」
俺の言葉にギルドないの全員が息をのみ、辺りは静寂が支配する。
しかしそれも一瞬。
すぐに誰とはなしに、雄叫びにも似た歓声が上がる。
「「「「うをおおおぉぉーーー」」」」
「さすがアニキだ」
「おれは信じていたぞ!」
「ふっ、俺はわかっていたぞ!!!」
「すげー、コーターはすげえ」
「外道勇者でもなし得なかった魔王討伐をわずか一日で……」
「勇者だ! コーターこそが勇者だ」
「そうだ。コーターはうんこの勇者だ!!!!」
最後には俺は勇者扱いにされた。
しかも『うんこの勇者』だ。
けど、そう言われるのも悪くないと、今は思える。
あれほど嫌っていたうんこスキルなのに……
それからギルドは飲めや歌えやのお祭り騒ぎとなった。
いや、正確にはギルドを中心とした町中がお祭りだった。
俺やアリーも主役と言うことで飲み慣れないエールに少しだけ付きあう。
みんな酒が入り、既に前後不覚になっているものも見受けられる。
俺がアリーと二人、みんなからの祝いの言葉を受けていると、しとどに酔ったルーアナ達三人組がこちらへやってきた。
「アニキ、本当におめでとうございます」
「あっしは、あっしは、アニキの舎弟で本当によかった!」
「アニキ!記念に俺達にもご褒美をください」
思えばこいつらも、俺の舎弟となってからは本当に改心してくれた。
俺は酒の勢いもあり、奴らの望みを叶えてやることにした。
「よし、お前達、今日は特別だ。
お前達にとっての特大のご褒美をくれてやる」
「「「うをぉーーー、やったぜ」」」
俺は狂喜する三人の腹の中に、特盛りのブツをプレゼントする。
「きたーーーー」
「久しぶりのこの感覚!!」
「俺はこれが欲しかったんだ!!!」
三人は喜びの声を上げ、トイレへと駆け込んだ。
もはや、奴らはあっちの世界から帰って来られない人種になったと言えるだろう。
トイレから聞こえる特大の音に、一部始終を見守っていた人々は唖然とする。
頃合いを見計らって俺は特盛りのおかわりを奴らにプレゼントした。
「ふおおおぉーーー」
「きたーーー、追加がきたーーー」
「最高だぜあにきーーー」
トイレからは三人組の狂喜する声が漏れ聞こえる。
「がはははっ、コーター。あいつへのご褒美はあいつらにしか嬉しくない物だな」
ギルド長のライバーさんは俺の肩をばしばし叩きながら大爆笑し、その笑いがいつの間にかギルドのみんなへと伝染した。
楽しい夜はまだまだ終わりそうもない。
これにて一旦完結です。
余裕があればエピローグか後日譚を1話加筆するかも知れません。
ここまでこんなうんこ作品にお付き合いくださりありがとうございました。
よろしかったら、感想や評価、レビューなどいただければ嬉しく思います。
2018年9月22日 安井上雄