第三十二話 後始末
「それでは、やはりあの大男が噂の極悪勇者だったんですね……」
「ああ、そうだ。
このたびは本当に迷惑をかけた」
そういうのは、意識を取り戻した長槍の聖騎士、ブラウン・イェガーさんだ。
意識を取り戻した勇者パーティから攻撃を受けるかと警戒していたが、どうやら勇者と違ってパーティーメンバーは常識人だったようだ。
「すまなかった。
ゴーグの暴走が始まったときになんとしてでも止めなければならんかったんだが、我々ではそれが叶わなかった」
勇者に殴り倒されたときのダメージをヒーリングで癒やしながら、大神官のパーサー・ノットさんが謝ってくる。
「しかし、勇者も、聖剣もなしで、魔王を倒すことができるんじゃろうか……
魔王も、勇者と同じ自分のレベル以下のスキルを無効化するという話じゃし、
聖剣の特殊能力、レベルを二段階上げる効果なしでは、たとえ勇者が生きていても、ヤツにダメージは入らないんじゃないか……」
そう言って心配しているのは初老の大魔道師、ウルグル・グーギャノールさんだ。
どうやらこの人はぜーぜー言っているだけの人ではなかったようだ。
「すいません。
私たちあまり詳しくないんですが、魔王はスキルを無効化できるんですか」
アリーがウルグルさんに聞く。
「ああ、ワシらの調べじゃ、魔王はレベルが7の魔王スキルを持っているらしい。
勇者のレベル6に聖剣の能力でレベル8相当の攻撃が決まれば魔王を倒せるという計算じゃったのじゃ」
なるほど、魔王はレベル7か。
人類の到達限界と同じだな……
んっ?
待てよ……
「ねえ、コーター
もしかして私たちなら……」
どうやらアリーも気がついたようだ。
俺の限界突破したうんこスキルは、スキル無効のはずの勇者に効いた。
魔王に効かないはずはない。
アリーも俺と一緒にレベルアップを重ねており、料理スキルはカンストしてレベル10になっていると言うことだ。
「そういえば、あなたたちはどうして勇者ゴーグにダメージを与えられたんですか」
ブラウンさんがそこに気がついて聞いてきたので、俺達は自分のスキルについて簡単に説明した。
「なっなんと……」
「レベル11相当の限界突破スキルとは……」
ブラウンさんとウルグルさんが絶句する。
「もしかしてあなたたちなら、魔王にダメージを……」
パーサーさんがその可能性に気がつく。
「ええ、俺達も今、そのことに気がついたんです」
「お二人とも、こんなことを頼めた義理ではないんだが、俺達と魔王討伐に向かってくれないか」
ブラウンさんの提案に、俺はアリーと視線を交わした後頷いた。
「分かりました。
不可抗力とは言え、当代の勇者をうんこにしてしまったのは俺です。
冒険者として、正式な依頼であればお受けします」
俺の返答を聞いて、勇者を失ったことで意気消沈していた三人の瞳に輝きがもどった。
「よし、そうと決まれば善は急げじゃ
早速お前達の街のギルドへ向かって移動しよう」
「そういうウルグルが一番鈍足なんだがな」
ウルグルさんの言葉にブラウンさんが突っ込む。
「まあ、そう言うな。
ゆっくりでも1時間とかからんだろ」
「ああ、そうだな」
パーサーさんの言葉に頷いて、ブラウンさんが腰を上げる。
「それじゃあ、もどりますか」
俺たちは三人を先導して街へと引き返した。