第三十話 勇者が街へやってくる
みなさんご無沙汰しています。
お盆の休みの間に『うんこ』の続きを書く時間が取れましたので、一挙に放出します。
『うんこ』の物語もあと少しで最終章です。
不定期更新ですがよろしくお願いします。
ジャーク達を街で衛兵に引き渡した翌日、冒険者ギルドはいつもと違う喧騒に包まれていた。
いつもなら依頼が張り出される掲示板にたむろする冒険者達は、飲食スペースでグループごとになにやら噂話に興じている。
俺はアリーと一緒に依頼版と飲食スペースの中間にある受付前のロビーで状況を確認しようと辺りを見回す。
すると、俺達より早くこちらの存在に気がついたルーアナ達チンピラ3人組がこちらへ寄ってきた。
「おはようございます、アニキに姐さん」
リーダーのルーアナが挨拶をしてきたので、現在の状況を聞いてみる。
「この騒ぎはいったい何なんだルーアナ」
「へい、ギルド長から重大発表があるから、今日の依頼受け付けはその発表のあとだという事で、みんな何の話か噂していたんで……」
「そうか、それで依頼板の方に誰も来ていないんだな。
それでギルド長は何時その重大発表をすると言うんだ?」
「もうすぐでさぁ
最初の発表が朝8時で、その内容を聞いたものだけが依頼を受けることができるらしいですぜ」
「それじゃあ、8時の発表を聞けなかった冒険者はどうするんだ」
「それから1時間おきに同じ内容を伝えて、それを聞いたヤツから依頼を受けることができるってことです」
そんな話をルーアナとしていると、騒然としていたギルド内が突然静かになる。
カツカツと階段を降りる靴音が聞こえ、やがて受付カウンター奥の扉から待ち人が登場した。
「みんな、待たせたな。
それじゃあ、重大発表を伝えるからよく聞いてくれ」
静まりかえったギルドホールにライバーギルドマスターの声がよく通る。
「昨夜遅くに王都のギルドから早馬で連絡が届いた。
この街に当代の勇者パーティーが立ち寄ることになった」
「「「「「なっ!!!」」」」」
辺りに息をのむ音が響く。
「知っての通り、当代の勇者は最強の力と最凶の性格から、泣きを見た人間は枚挙に暇がない。
お前達が巻きこまれないのはもちろん、町の人もできるだけ被害を受けないようにお前達でできることをしてくれ。以上だ……」
ギルドマスターのライバーさんはそれだけ言うと踵を返し、再び扉の奥へと消えた。
当代の勇者、ゴーグ・アーク……
神から最強のスキル勇者を戴き、そのレベルを人類の到達限界と言われるレベル7まであと1つのレベル6まで高めたという伝説の強者にして、逆らうもの、目に付いたものには容赦しない熾烈な性格と、気に入ったものは勇者の権威で全て自分のものにしようとする欲の深さで勇名をはせている男。
伝説級の魔物を倒すその力は人類にとって必要不可欠であるため、多少とは言えないその暴挙に誰も文句を言えない状況が作り出した暴君でもある。
噂では気に入った女がいれば他人のものであろうがなかろうがお持ち帰りして味見し、その結果、飽きたらポイ……
その行為に泣いた女の数は4桁を優に超えると言われ、奴の前に女を出してはいけないとみんなから言われている。
2ヶ月前には王都の隣町で、女が見当たらないことに腹を立てたゴーグが民家に押し入り、地下室に隠れていた少女を無理やりお持ち帰りしたという話もまことしやかに囁かれている。
もしもそんな餓えた野獣のような勇者がこの街を訪れたら……
もしもそんな性欲の権化のような勇者がアリーに目をつけたら……
「まずい、アリー……
すぐに引っ越ししよう」
「分かったわ、コーター」
俺の提案の意図に気がついたアリーは二つ返事で同意する。
「アニキ……、どちらに引っ越されるんですか」
ルーアナも俺の提案の意図が分かっているらしく、特に引っ越す理由を聞いてきたりはしない。
「あの、災厄の勇者がいなくなるまで、王都から遠い街への方へ行って見るよ」
「わかりやした。道中お気をつけて」
「アニキ、短い間でしたがお世話になりやした」
「お戻りの際は是非声をかけてください」
ルーアナ、イーゲ、モホーに見送られて、俺達はギルドを後にし、常宿にもどって荷造りをする。
そして、すぐに旅に必要そうなものを買い込むと、王都と反対の方向へ旅立った。