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第二十五話 天敵 VS 最凶スキル

今回はスキルを使用している割には、人間相手ではないためか不快指数が低めです。


 街に帰った俺達は、いつもと変わらない日常を取り戻した。

 道路の掃除がないときは薬草の採取を行い、収入は安定している。

 と言うか、稼ぎすぎかも知れない。


 注意すべきは最初に俺達に絡んできた三人組で、隙あらば俺の役に立ってご褒美をもらうために、虎視眈々と機会を伺っている。

 奴らの自己紹介によると、リーダー格のルーアナが火炎魔法剣使い、長身細身のイーゲが高速剣使い、中肉中背のモホーが重量剣使いで、いずれも上位スキルの持ち主だった。

 まじめに仕事をしていれば俺達にたかるようなまねをしないでも済むくらい稼げるはずなのだが、三人ともそのずぼらな性格が災いして騎士団を首になってからというもの、自堕落な生活を送り、冒険者としても鳴かず飛ばずの生活をしていたと言うことだ。

 それが今では俺のご褒美ほしさに日夜まじめに働き、討伐依頼で俺とアリー並みに稼いでいるという。

 冒険者ギルドでたまに出くわすと、物欲しそうな目で俺を見てくるが、正直俺には、奴らの相手をしてやるような趣味はないのだ。


 さて、そんなこんなであっという間に2週間がたち、村長むらおさに頼まれた物資を購入して故郷に帰る日が来た。

 もちろん、母さんに頼まれた魔道コンロも忘れていない。

 計画では午前中に買い物して、午後にはうんこ雲にのり一路故郷の村を目指す。


 朝6時に起き出した俺はアリーが宿の厨房を手伝っている間に買い物第一陣をすませる。

 まずは、町中を引いて歩ける荷車だが、これは役場の仕事のつてで借りられることになっている。

 もちろん道掃除用の荷車とは違う、普通の荷車だ。

 夕べのうちに貸し出しの手続きをすませておいたので、今朝は受け取りに行くだけだ。

 その後、中央広場で行われている朝市に向かう。村にはない商品を購入するのだ。


 しかし、荷車を引いていると、ついついいつもの癖で、道ばたに落ちているブツを回収しそうになる。

 思わず『うんこ操作』で荷車へ向けて飛ばしてしまい、慌てて荷車に着地寸前でユーターンさせることも一度や二度ではない。

 ここで荷車に無事着陸させてしまえば、たとえスキルで綺麗に取れるとは言え、これからこの荷車に入れる荷物の荷主や、荷車の貸し主であるゲーハさんに申し訳ができない。


 数度の危機を乗り越え、何とか無事に中央広場に辿り着く。

 朝早いせいか、広場に人はまばらで、朝市の商品を露天の店先に並べている人が何人かいるくらいだ。

 朝市の商品としては、食品類が大半を占める。


 金物や雑貨は鮮度を売りにするわけではないので、概ね午前10時くらいからの開店である。


 食事や総菜を取り扱う店はほとんどがランチタイム狙いなので午前11時回転の店が多いが、中には朝一狙いのお客さん目当てに朝食を提供している露天もあるようだ。

 午前7時の段階で全体の1割程度しか開店していない状態なので、今開いているのはそれよりも少ない。


「誰かーーー

 助けておくれーーー

 モンスターが出たよーーー」


 そんな中、聞き覚えのある女性の叫び声が聞こえた。


 こんな町中でモンスターが出るなどあり得るのだろうか……

 俺は疑問に感じながらも反射的に声がした方へ走り始める。



 声の主は俺達がよく利用する野菜の露天のおばちゃんだった。


「ああ、コーター君、いいところに。

 野菜と果物の荷車にスライムが紛れ込んでいたんだよ。

 何とかしておくれ」

 おばちゃんは俺を見ると即座に頼ってくる。

 俺が冒険者をしているのを知っているからだろうが、俺はもっぱら道掃除専門で、スライムの討伐はアリーにまかせっきりである。


「おばちゃん、道掃除専門の俺では足止めがせいぜいだよ。

 何とか食い止めておくから、早く衛兵を呼んできてくれ」

「わかったよ。

 何とか商品をたくさん食べられちゃうのを防いでおくれ。

 多少の礼はするからね。頼んだよ」


 おばちゃんはそう言うと衛兵を呼びに走って行く。


 さて、どうしたものか……

 俺のスキルは今ひとつ戦闘向きではない。

 鉄壁の防御を誇るうんこアーマーもスライムには無意味だ。

 攻撃手段のうんこ棒に至っては、打撃に強い耐性をもつスライムには相性最悪である。

 スライムに有効なのは刺突、次が斬撃だが、うんこ棒に鋭さを求めることはできない。

 まあ、追い払うくらいはできるかも知れないが、相性最悪である。


「ああ、アリーがいればなあ……」

 ぼやいてみても始まらないが、ついつい愚痴がこぼれる。


 そうこうしていると、スライムが取り込んだニンジンを消化し終わり、次の獲物に向かって触手を伸ばす。

 まずい。その先にあるのは、村から頼まれた農産物の一つ、パイナップルだ。


「ええい、ままよ!」

 俺はうんこ棒を長めに生成し、超硬いうんこへと変質させると、スライムに向けて突っ込んだ。


 ウニョンとうねるスライムボディはへこむことはあっても突き刺さることはない。

 スライムの核を狙った一撃だったが、スライムは全くノーダメージ。

 それどころかうんこ棒にまとわりついて、あまつさえうんこ棒を消化し始めた。


 そうだった。

 スライムは草原や森の掃除屋、糞尿処理は彼らの得意技だ。


「くっ、このままでは……」

 俺はうんこ棒が消化され尽くす前に満身の力を込めてまとわりつくスライムごとうんこ棒を持ち上げ、スライムを広場の路面に叩きつける。

 ベチンと音を立てて路面に叩きつけられたスライムだが、うんこ棒を離さずに消化を続けている。


 このまま戦っても、俺のスキルではヤツに給餌しているのに他ならない。

 うんこアーマーを纏って突撃しようものなら、アーマーごと消化されかねない。


 こうしている間にも、スライムは長さ180センチで形成したうんこ棒を着々と消化している。


 どうする。コーター……

 考えろ。このままではヤツにこの辺りの食品を食い尽くされるのは時間の問題だ。


「こんな時こそ基本にもどって状態の確認だな……」

 打開策が見つからない俺は、改めて自分のスキルを再確認する。



 スキル『うんこ』レベル9

 スキル『うんこ操作』レベル8

 スキル『うんこ変化』レベル4

 スキル『うんこ創造』レベル2

 スキル『うんこ化』レベル1

 スキル『うんこの下僕』レベル6



 見事なまでにうんこづくくしだ。


 スキル『うんこ』レベル9はうんこに関するスキル全般に影響するが単体では効果があるのかどうか今でも不明だ。


 スキル『うんこ操作』レベル8は自分の周り9メートル以内のうんこを自由に操れるが、残念ながらスライムは操れない。仮にうんこに乗せてスライムを飛ばしても、乗せたうんこが消化されて終わるだろう。


 スキル『うんこ変化』レベル4は自分の周り5メートルのうんこを変化させるスキルだが、残念ながらスライムを変化させることはできない。


 スキル『うんこ創造』レベル2は自分の周り3メートルに自由にうんこを作り出せるスキルだが、このスキルを使ってもスライムに餌を与えているのと変わりない。


 スキル『うんこ化』レベル1は自分の周り2メートルのものを自由にうんこ化できるスキルだが、今その辺のものをうんこに変えてもスライムの餌が増えるだけだ。


 スキル『うんこの下僕』レベル6は俺に心酔している下僕のステータスを引き上げるスキルだが、今この場に下僕はいない。


 うーん……

 どうにかならないのか……



 必至に考えていると、俺の脳裏に形になりきれていない考えがひらめいたように感じた。

 スキル『うんこ化』レベル1……、一筋の光明があるとすればこれしかないのではなかろうか……

 もしかしたら……


 俺は思い立ったが吉日とばかり、即実行に移す。


 まずはスキル『うんこ化』レベル1の射程である2メートルまでスライムに近づく。

 続いてスキル『うんこ化』レベル1をスライムに向けて発動……



 瞬間、直径70センチを越えていた大きなスライムは、スライムの形をした巨大なうんことなった。


 まだ生きているのだろうか。

 うんことなっても若干動いている。


 俺は続いて『うんこ変化』を発動し、スライムの形のうんこを液便に変える。


 ビシャッ、と音がして、直径70センチの液便が路面に広がった。

 中心付近にはスライムの魔石が落ちている。


 やった……


 俺は天敵スライムを屠ることに成功した。


 喜びもつかの間、周囲には液便の悪臭が立ちこめ始める。


 まずい……


 この辺りは飲食店系の出店や野菜、肉などの食品を扱うテントが特に多い一角だ。

 この臭いはまずい。

 俺はすぐに魔石を回収すると、うんこ操作で液便となって広がったスライムのうんこをひとかたまりの球状にし、もっとも臭いが出にくい超硬いうんこへと変質させ、そのまま転がして役場の糞尿処理施設へ向おうとする。


 するとそのとき、またもや俺の脳内にあの声が響く。



「スキル『うんこ』がレベルアップしました。

 スキル『うんこ』はレベル9からレベル10になります。

 スキル『うんこ』はレベル上限に到達しました。

 スキル『うんこ操作』がレベルアップしました。

 スキル『うんこ操作』はレベル8からレベル9になります。

 スキル『うんこ変化』がレベルアップしました。

 スキル『うんこ変化』はレベル4からレベル5になります。

 スキル『うんこ創造』がレベルアップしました。

 スキル『うんこ創造』はレベル2からレベル3になります。

 スキル『うんこ化』がレベルアップしました。

 スキル『うんこ化』はレベル1からレベル2になります。

 スキル『うんこの下僕』が条件を満たしていないのでそのままです。

 スキル『うんこの下僕』はレベル6です。



 ついに恐れている事態が発生した。

 俺はスキル上限に到達した最初の人類となってしまった。うんこだけど……


 それにしても、スキルの上限がレベル10だという噂は本当だったのだと改めて思う。

 誰も到達したことがないのに何で上限レベルが10だなんてわかっていたのだろうか……


 俺はあまりの衝撃にどうでもいいことを考えて現実逃避していた。


 辺りは夜明けのすがすがしい空気に包まれ、紫雲たなびく清新な雰囲気に包まれている。

 にもかかわらず、俺の胸の内のこのモヤモヤ感はなんだ……


 なぜ俺だけが、こんな境遇に置かれる。


 スキルが人類の上限に到達したことの感慨は全くと言っていいほどない。

 上限とは言え、うんこはうんこなのだ……

 こんなのじゃ誰にも自慢できない。いやそれどころか言うのもはばかられる。


 辺りは今将に日ノ出を向かえ、紫雲は徐々に赤みを帯び、幻想的な美しさの朝焼けへと変わりつつある。


「綺麗な朝焼けのばっかやろーーーーー!」

 俺はやるせない思いを何の罪もない朝焼けに八つ当たりすることで発散する。


「大丈夫よ、コーター……

 これでもう、それ以上、上がることはなくなったんでしょ」

 後ろからアリーがそっと俺を抱きしめる。


「アリー、なぜここに……」

「朝の買い物にしては帰りが遅いんで様子を見に来たのよ」

「ありがとう、アリー……」

「さあ、こっちを向いて、コーター。

 涙を拭かなきゃね」


 アリーは例によって美しいハンカチを取り出し、俺の頬をぬぐう。

 今日は薄紫の生地に綺麗なコスモスがあしらわれている。

 一昨日、貴族の家の汲み取りをしたとき、トイレタンクの底で見かけたような模様だが、もはや俺が突っ込むことはない。


 俺とアリーが二人だけの世界を作って抱きしめ合う中、周囲の人は俺達を遠巻きにそっと見守ってくれていた。そんな中、八百屋のおばさんが衛兵を連れて帰ってきたのだが、俺達がそれに気がついたのは随分後のことだった。

 帰ってきているなら帰ってきているでもっと早めに声をかけて欲しいものである。







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 ネタが切れました。

 次にコーターが叫ぶのは何に向かってがいいか、アイデア募集中です。

 今のところコーターが叫んだもの一覧

(レベル2) 赤い夕日

(レベル5) 赤いバラ

(レベル6) 白い雲

(レベル7) 青い海

(レベル8) 蒼い空

(レベル9) まるい月

(レベル10) 綺麗な朝焼け

 レベル3と4になったときは作品中に表現されていません。


 基本、コーターは美しく感動的なものに八つ当たりします。



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