第二話 牙をむく狂犬たち
「あっ、あの、すいません
よく聞き取れなかったのですが……」
俺は動転してしまい聞き返す。
「うん、そうだね。
それではゆっくりといい直そう。
きみのスキルは『う・ん・こ』だ」
その言葉が神殿に響くと同時に、その場で待っていた同級生が一斉に噴き出して爆笑した。
「ぎゃははははっコーターの奴うんこだぜ」
「ははは、さすがコーターだ」
「コーターにふさわしいゴミスキルだ」
特に大爆笑しているのはジャークの奴とその取り巻きだ。
俺は呆然と立ち尽くす。
「コーター君。
なにぶん、見たことが無いスキルだから、このスキルがどんなものかそうぞも出来ないが、少なくとも中級学校で鍛えるようなスキルではない。
君も自宅に帰ってご両親と今後を相談しなさい」
神官に促されて、俺は爆笑する声が鳴り止まぬ中、とぼとぼと神殿の出口へ向かった。
神殿の外では、アリーが待っていた。
「コーター元気出して」
「聞こえていたのか」
「最初はわからなかったけど、神官様が言い直したんで聞こえたわ」
「はあ……
それがわかっているなら、アリーももう俺には関わらない方がいいよ」
「どうしてよ」
「うんこなんてスキル、どう考えても使い道がないよ。
将にうんこスキルだ」
「それは……
そんなの使ってみなきゃわからないでしょ。
それに、スキル使わなくても生きている人はたくさんいるわよ」
「まあ、そうだけど……」
「そうだ、コーター。
今から頑張ってお金貯めて、私と一緒に食堂やりましょう」
「えっ?」
「私のスキルの料理を使って食堂やるのを手伝ってって言ってるのよ」
「はははっ、ありがとう
励ましてくれて」
「私は本気よ」
「そうだね……
まあ、どっちにしても父さんと母さんに報告はしないとね……」
「うっ
確かに……」
「まあ、そんなわけだから一旦帰ろうか」
俺はアリーに励まされながら、重い足取りで自宅へ向かう。
自宅までちょうど半分という何もない野原で、俺は級に突き飛ばされてスッ転ぶ。
「いてて……
誰だ」
「おい、うんこ野郎。
俺様だよ」
なんとジャークの奴が俺を突き転がし、仁王立ちしていた。
「俺様達は来週、都に移動して中級学校に進学することになった。
そういうわけで心残りがないように、今からアリーを俺達の女にする。
お前はそこでアリーが女になるのを指でもくわえて見ておけ
ゲヒヒヒヒ」
ジャークは血走った目で下品に笑っている。
俺はすぐさま起き上がって、ジャークとアリーの間に入る。
「そんなことさせるわけないだろ。
アリー、俺が食い止める。
逃げろ!!」
「でも、コーターがそれじゃあ……」
「デモじゃない。急げ」
そう、戦力的に言って俺が時間稼ぎできる時間は少ない。
一秒も無駄にせずに、アリーは逃げるべきなのだ。
「わかった。
急いで帰ってお父さん達呼んでくる」
アリーが駆け出す。
アリーは12歳の同級生の中でも足が早い方なのだ。
「させるかよ。
お前は今日俺のものになるんだ
お前達、先にアリーを捕まえておけ。
俺はうんこ野郎をやってから行く。
一番は俺だから捕まえるだけにしておけよ」
ジャークの奴は腰巾着三人組に指示を出し、俺に向かって来る。
まずい。
他の奴はそうでもないがギーンの奴はクラスで一番足が速い。
アリーが追いつかれる。
俺は焦ってギーンを捕まえようとするがジャークがそれを許さない。
「おいおい、どこに行こうって言うんだ。
お前はこれから俺にぼこぼこにされるんだよ、うんこ野郎。
でも、安心しな。
アリーが女になるときには起こしてやるから安心して寝ていやがれ」
とんでもないことを言いながらジャークは大振りのパンチを繰り出してくる。
俺は屈んでよけたが、そこを下から蹴り上げられ宙を飛び地面に打ち付けられる。
何の因果か、俺の目の前には大きな馬糞が落ちていた。
この世界の交通手段はもっぱら馬車だ。
金がない貧乏人や農家は牛に荷車を引かせることもあるが、商人などは移動速度のある馬をよく使う。
そして、馬はところ構わず排泄する。
時間がたてば馬の糞をかたづける清掃業者が大きな街道の街付近は馬糞掃除してくれるが、うちのような田舎では雨が洗い流してくれるまで、馬糞はそのままだ。
しかも悪いことに、今俺の目の前の馬糞は湯気が出そうなくらい生まれたてのほやほやだ。
「へっ、うんこ野郎にはおあつらえ向きに大きな馬糞があるじゃねえか。
今からその馬糞で顔を洗わせてやるよ。
ウワッハハハハハ!」
邪悪はそう言うと俺の襟首を掴み、馬糞に顔を埋めようとする。
俺の顔に馬糞が迫る。
このまま馬糞で窒息するのが俺の運命なのか……
そのとき、絶望的なまでのひらめきが俺の脳裏をかすめる。
悩んでいる暇わない。
今、俺がやらなければアリーは死ぬよりひどい目に会うことが確実なのだ。
やれ、コーター!
俺は自分に活を入れ、目の前に迫った馬糞に右手を突っ込み、持てるだけをつかみ取る。
そのまま体を反転させて、大笑いしながら俺を馬糞に突っ込もうとしているジャークの口に右手ごと馬糞を突っ込んだ。
「ヒッ」
ジャークの笑いが止まる。
奴の口の中は俺の右手と馬糞でいっぱいだ。
そのまま馬糞を奴の口中で話すと、指先で喉の奥に押しやり右手を抜く。
弾みで俺を捕まえていた手を離し、喉を押さえるジャーク。
俺は残りの馬糞の真横に放り出される。
「ゲゲッ、ゴホゴホッ」
上手いこと馬糞が食堂と気管に入ったようだ。
ジャークの奴は涙目になって咳き込みながら、四つん這いになってゲーゲー言っている。
しかし、奴の戦闘力が失われたとは言い難い。
俺は素早く起き上がると、残った馬糞に両手を突っ込み、両手に握った馬糞を四つん這いになって俺の存在を忘れ、ゲーゲーやっているジャークの両目になすりつけた。
「ギャーーーー」
ジャークの悲鳴が響く。
「まだだ!」
俺は馬糞のついた手でこぶし大の石を拾い、うずくまって両目をぬぐおうとしているジャークの後頭部に叩きつけた。
「グゲッ」
ジャークが前のめりに倒れて意識を手放す。
その瞬間、俺の脳内にアナウンスが流れた。
「スキル『うんこ』がレベルアップしました。
スキル『うんこ』はレベル0からレベル1になります。
スキル『うんこ操作』が派生しました」
このタイミングで、よくわからない『うんこ』スキルがレベルアップし、更にわからない『うんこ操作』を手に入れた。
俺は残りの三人を倒すヒントがないかスキル『うんこ操作』に意識を集中する。
スキル『うんこ操作』:スキル保持者の周囲にあるうんこを自由に動かすことが出来る。
レベルとともに操作できるうんこまでの距離が増える。
レベル0では周囲1メートルのうんこを操れる。
流石にうんこスキルだ。とんだうんこスキルだった。
一瞬「使えねえ」と思ったが、これでもないよりはマシだ。
俺は早速足下に転がっている残りの馬糞に働きかける。
馬糞は俺の指示に従って、ふわりと浮かび上がると俺の右手に収まった。
俺は馬糞を持ったままアリーを追った腰巾着たちを追う。
途中、さっきよりは小さいが第二の馬糞、第三の馬糞を発見した。
横を通り過ぎるときにスキルで働きかけると、馬糞2号と馬糞3号もふわりと浮かび上がる。
試しにそのまま走ってみると、宙に浮いたまま馬糞達は俺についてきた。
これは意外と使える。
俺が走って行くと、100メートルほど離れたところに4人が見える。
ギーンにつかまったアリーにコーシーとチャックが襲いかかり、服を破こうとしているところだった。
俺は更にスピードを上げる。
心配のあまり声を上げたいが、ここは不意打ちこそが望ましい。
俺は叫び出したいのを我慢してアリーを襲っている3人に後ろから近づく。
そして、無言でアリーの服に手をかけているコーシーとチャックの顔面に馬糞2号と馬糞3号をたたき込む。
ニタニタと口を開けていた二人はもろに馬糞を口の中に入れ、巨大な馬糞は奴らの目も潰してくれた。
アリーを押さえつけていたギーンはあっけにとられて口を開けた。
俺はすかさず、両手に持っていた馬糞1号の残りを奴の口に押し込む。
「ウゲ」
うめき声をあげたところで、馬糞にまみれた両手で奴の目をこすってやる。
「うぎゃーーー」
ギーンもジャークと同じような声を上げ、アリーの上から転がり落ちると転げ回った。
俺は手近な石を拾うと、もがいている三人の頭に容赦なく打ち付ける。
頭は血液の宝庫だ。
ちょっと切れただけで血が噴き出す。
その傷口を馬糞まみれの手で更に殴る。
「ウアギャーー」「助けてクレー」「ううぇーー」
三人は三者三様の悲鳴を上げて走って逃げ出した。
「大丈夫だったか」
俺はアリーに声をかける。
「ええ、コーシーありがとう」
俺は馬糞まみれの右手をシャツの背中で拭いて倒れているアリーに右手を差し出す。
まだ、馬糞が残っているにもかかわらず、アリーは俺の右手をしっかりと握り、立ち上がると俺に抱きついてきた。
俺はもちろん、三人を追い払うときに使った馬糞のせいでアリーにも少なからぬ馬糞がついている。
しかし、今の俺達はそんなことは気にならなかった。
俺達はそのまま帰宅すると、まずアリーの両親に会って事情を説明する。
そのまま俺の両親にも説明すると、俺の父とアリーの父親は一緒に村の警備兵のところへ向かった。
ジャークは普段から素行が悪かったが、村の顔役の息子と言うことで大目に見られていたところがあった。
しかし、こんな明らかな犯罪行為なら間違いなく処罰される。
この世界では基礎教育の終わった12歳からは大人として扱われるのだ。
結局ジャーク達4人は翌日街へ行くことになった。
街といっても、中級学校入学のためではない。犯罪者専用の強制労働所へ入所するためだ。
父さんの話では、婦女暴行未遂は強制労働半年だそうだ。
これでしばらくの間は、嫌な奴らに会わなくてすむと、このときの俺は少しホッとしたのだった。
反響があれば続きを書くかも知れませんが、これで完結するかも知れません。
アホな話が書いてみたくて書いてしまいました。
悪評の方が多そうなら削除するかも知れません。
すいません。