第一九話 婚約の報告へ行こう ~ドキドキ二人旅~
本話からはうんこスキル全開となります。
ご注意ください。
お土産とエンゲージリングを購入した翌日の早朝、俺達は宿屋をたち、一路ふるさとへの道を進む。
朝6時に街を出たので、順調にいけば昼過ぎには村へ帰り着くだろう。
天気は雲一つない快晴。
2時間も歩けば、辺りは人通りも少なくなり、畑から草原へと景観は変わる。
ヒバリやシジュウカラの仲間だろうか。時折小鳥が藪から飛び出し俺達を驚かす。
3時間ほど歩いてちょうど街と村の中間地点に辿り着く。
太陽は徐々に高い位置へと昇り、気温がだんだんと上昇し始める。6月ともなれば夏至が近く、肌を刺すように日差しは強い。
朝のすがすがしい空気は、昼の熱気へと変わろうとしている。
俺もアリーも少し汗ばみ始めた。
遠くには森が見え始めており、あと30分の歩けば木陰の涼しい道を歩くことができる。
「アリー、大丈夫か。もう少ししたら森の中の道に入るから、少しは涼しくなる」
「ええ、コーター、大丈夫よ。
普段から薬草採取で鍛えているんだから、これくらいのお土産をもって歩くだけのことなんてどうと言うことはないわ」
俺の問いかけに頼もしい答えが返ってくる。
「さすがアリーだ。森の木陰には行ったら一旦休憩するから、そこまではこのペースで行こう」
「了解よ、コーター」
俺達は気合いを入れ直して森を目指す。
森は徐々に大きく見え始め、さあ、もう一息で木陰を歩けると思ったそのとき、後ろから蹄の音が聞こえてきた。
2頭立ての大きめな行商用馬車に、護衛と御者を兼ねていると思われる男が2人載っており、手綱を操作しながらこちらへ近づいてくる。
見覚えのある馬車だ。
あれは確か、村へ行商へ来ていたアコーギの荷馬車だ。
アコーギはいつも護衛に3人の冒険者をつけて行商している。
正面に見える2人以外に、後方を警戒している冒険者がいるのだろう。
アコーギと言えば、アリーを騙して娼館へ売り飛ばそうとした悪質行商人だ。
「コーター……」
それに気がついたのかアリーが不安そうな声を上げる。
どうする。
森まで走って木陰に隠れるには、まだ距離がある。
草原は草丈が低く、隠れるような場所はない。
このまま道を譲れば行き過ぎてくれるのだろうか。
いや、それは少し楽観的過ぎる。
悪い予感がする。
俺達は取りあえず道をはずれ、右側の草原の中へ入って姿勢を低くする。
もしかして俺達に気がついていなければ、このまま通り過ぎてくれるかも知れない。
しかし、そう上手くは行かないようだ。馬車は俺達の近くで止まり、幌の中からアコーギが顔を出す。
「おやおや、これは誰かと思えばアリーちゃんとコーター君じゃないかい。
どうだね、よかったら乗っていかないかい。
村に帰るところなんだろう」
アコーギはにやけた面で猫なで声を出している。
いかにも怪しい。
「お断りします。
あたし達は歩いて行きます」
アリーが草むらから立ち上がり、はっきりと拒絶する。
俺もアリーの前に立ち、アリーをアコーギの視線から外すように陣取る。
「まあまあ、そんなつれないことを言うもんじゃないよ。
人の善意は素直に受けなさい」
「アコーギさん、アリーを騙して娼館に売ろうとしておきながら、それを信じろという方がどうかしていますよ」
俺がはっきりと言うとアコーギの笑みが消え、怒りが顔面に現れる。
「ちっ、おとなしくしていれば痛い目に会わなかったものを……
こっちはエーロイのヤツに違約金を取られて大損しているんだ。
改めてたたき売ってやるから、おとなしくしろ。
コーター、お前は奴隷と男娼とどっちが好きだ?
ワハハハハハ」
ついに化けの皮が剥がれたようだ。
「どっちもお断りだ」
「フン、生意気な奴め。
いきがってもお前らのスキルは知れているんだ。
『うんこ』と『料理』でこいつらの『剣技』『魔法』から逃れられると思うな。
おい、お前ら、さっさとやってしまって荷台に積み込め。
あ、女の方は見えるところにあざを残すなよ」
「へい」「旦那、後で味見してもよろしいんで?」「ぐへへへ」
「どうせ、娼館に売るんだ。壊れない程度ならかまわんぞ」
「流石旦那だ」「やる気が出るってもんです」「ぐへへへへへ」
護衛の冒険者もアコーギに負けず劣らすのゲス野郎達のようだ。
そうとわかれば容赦無用、こいつらもルーアナ、イーゲ、モホーたち三人と同じ目に会ってもらおう。
俺は早速奴らの腹の中のブツに向かってうんこ操作を発動する。
うん……?
おかしい、手応えがない……
これはもしや……
今は朝9時過ぎ……、もしかして……
俺は疑問に思ったことを口にする。
「おい、お前達、もしかしてさっき野ぐそしたか?」
こちらに襲いかかろうとしていた連中は、俺の予想外の質問に一瞬止まる。
「ああ、10分ほど前に全員したぞ。朝から快調だった。それがどおした」
リーダー格らしい長剣使いが答える。
まずい……
奴らの腹の中には操るべきブツがない……
俺は一瞬で窮地に落ちいったことを理解する。
どうする、コーター……
考えろ……
そのとき、絶望的なひらめきが俺の脳裏をかすめる。
取得してから一度も使ったことのないあのスキル。
何のためにあるのかわからない、嫌がらせとしか思っていなかったスキル『うんこ創造』レベル0。
『自分の周囲1メートルに、自由にうんこを創造することができる。
量も形も思いのまま!
これで君もうんこアーティストになれる』
というふざけたスキル……
今はこれにかけるしかない。
「アリー、すまない。
しばらく我慢してくれ」
俺は叫ぶやいなや、アリーの肩を抱き寄せ、ぴったりと密着する。
瞬間、『うんこ創造』レベル0を発動、自分たちの首から下に直径1メートルを超えるうんこボールを創造する。
もちろん、俺とアリーの首から下はどっぷりとうんこボールの中だ。
突然の巨大ブラウンボールの出現に襲いかかろうとしていた冒険者達は唖然として動きを止める。
「それは……」「まさか……」「うんこなのか……」
口をポカンと開けて唖然としている。
今がチャンスだ。
俺は創造スキルで作り出したうんこボールを、スキル『うんこ操作』で空中へと運ぶ。
もちろん、うんこを対流させて俺達が置き去りにされないようにすることも忘れない。
ああ、久しぶりのこの感覚……
荷車と一緒に空を飛んだとき以来だ……
気持ちが悪い……
「ああぁん……」
と思っていると、アリーが悩ましげな声を出す。
そういえば、前回もアリーは開いてはいけない扉を開きかけたんだった。
まずい……。
俺は焦りを感じながらも、アリーに声をかけ励ますのだった。
次回当たりから、徐々に強くなっていきます。うんこだけど……