第一七話 海辺の道にて
お待たせしました。
ようやく1話分書き終えましたので投下します。
本話ではまたまたうんこスキルが活躍する関係で、それなりに不快な表現があります。
そんなに過激な表現ではないと思いますが、苦手な方はお気をつけください。
俺達が冒険者になって早2ヶ月、季節は春を通り越して夏を迎えようとしている。
あれから俺とアリーは薬草採取を中心に、たまに貴族や豪商のトイレタンクの汲み取りをしながら、とても新人冒険者とは思えない金額を稼いでいる。
アリーのスキルは薬草採取や宿屋の料理手伝いで更にレベルアップを重ね、『料理』がレベル5、『食材調達』がレベル4に、『ゲテモノ料理』がレベル3に上がっている。
単純なレベルでは俺のスキル『うんこ』に並んでしまった。
俺は道路清掃の仕事のようにスキルをフル活用する機会がなかったせいか、あれからスキルは上がっていない。
「ねえ、コーター……
カルバリズムって知ってる?」
ゲテモノ料理がレベル3に上がった日の夜、アリーがポツリと言った台詞に肝を冷やしたりしたが、俺とアリーの生活は概ね平穏だ。
そして季節は6月。
雨期が終わる。
日差しは日々強くなり、夏本番を迎えようとしているとき、その指名依頼は舞い込んだ。
「コーター君、君にゲーハさんから指名依頼だ」
朝、ギルドの扉をくぐると、ギルドマスターのライバーさんが入り口待ち構えており、いきなり奥の個別相談室へ通される。
ギルドマスター室でないところを見ると、秘匿する必要はない依頼のようだ。
また、貴族のトイレタンクの汲み取りなら美味しい依頼なのだがと思って、少し期待しながら勧められるままに席に着く。
「コーター君。
君に海水浴場までの道路掃除を依頼したい」
ゲーハさんの言葉は意外なものだった。
この街の海水浴場は馬車で1時間ほどのところにある綺麗な砂浜だ。
馬車は時速20キロほど出ているので、徒歩で移動すれば片道5時間、荷車を引きながらだと7時間から8時間はかかる。
途中で荷車いっぱいの馬糞が集まれば、引き返して役場の堆肥処理場へ持ち込み、また続きからとなる。
正直、移動時間が長すぎて割のいい仕事とは言えない。
「ゲーハさん、申し訳ないのですが、町中の清掃と違って、移動の手間がすごくかかると思うんです。
街から近いところは一日3~4往復できたとしても、海水浴場が近いと一日1往復が限界になります。
一日に平均2往復したとしても、いつもの荷車一台8000ギルだと、アリーと二人でも32000ギルでコストパフォーマンスが薬草取っているのと同じくらいになるんですが……」
正直に言うと、二人で32000ギルの日当は、かけだし冒険者としては多すぎる金額なのだが、俺達は普段からそれ以上に稼いでおり、特に道路掃除ではその4倍ほど稼ぐのが常だっだ。
俺が言葉を濁すとゲーハさんは慌てて言葉を付け足す。
「いや、これはこちらの説明不足だった。
実は海水浴場のオープンイベントには、街のお偉いさんがみんな集まるんだ。
そのため、途中の道の馬糞は毎年かなりのコストをかけて綺麗にしておく。
例年だと、糞尿運搬用大型馬車を2台だし、普通の荷車を10台、各荷車に2人の作業員を配置して、現場監督を含め総勢23人ほどで7日ほどかけて行うんだ。
作業員が集めた糞尿を大型馬車に移して、堆肥処理場まで二台の馬車で交互に運び、作業員はいちいち街まで戻らなくてもいいようにしいる。
日当は平均15000ギルで、7日間の総支払い額が240万ギルを越えるちょっとしたイベントだ。
ところが今年は雨期が例年より長かったため、海水浴場のオープンイベントに間に合わせるためには作業を3日で終わらせないといけない。
このままでは道路の清掃が間に合わない。
そこで目をつけたのがコーター君のスキルだ。
ところで君たち、御者のまねごとはできるかね?」
なるほど、理解した。
俺のスキルなら、いちいちスコップで馬糞を荷車に移したり、道を水洗いする必要がない。
確かに、馬車で一時間の距離なら、3日もあれば十分終わる可能性がある。
俺はゲーハさんに返事をする。
「俺も、アリーも荷馬車の御者程度ならできます。
馬が1頭で引くような小さな荷馬車しか扱ったことはありませんが……」
「今回の荷馬車は人力の荷車30杯分の大きなものだから、馬2頭立ての大型荷馬車だが、扱いはそう変わらんよ。
ちょっと練習して慣れたら出発してくれ。
報酬は二人で100万ギル支払う。
どうだね、三日で100万ギルなら悪くないだろ」
確かにゲーハさんの言う通りだ。
道路清掃を二人で頑張ったときの2倍以上になる。
「そんなにもらっていいんですか」
俺の問いにゲーハさんは笑いながら答える。
「ああ、元々総予算250万ギルの作業が100万ギルでできれば、こちらとしても恩の字さ」
話がまとまると、俺とアリーは早速役場の糞尿運搬馬車を受け取りに行く。
馬車は二台とも二頭のちょっとずんぐりとした馬が引いているようだ。
「この馬は、スピードはないが力が強い種類だ。
農作業で畑を耕したりするときに重宝する。
糞尿を満載した荷馬車でも、難なく引ける」
ゲーハさんから簡単な荷馬車の取り扱いを聞くと、俺とアリーはそれぞれの御者台に座り、早速出発した。
馬の取り扱いは、単騎仕立ての荷馬車と同じだったので問題ない。
作業用の馬は気性もおとなしく、制御しやすかった。
街の出入り口のゲートをくぐると早速作業開始だ。
俺はスキルを使って自分の馬車にどんどん糞尿を集めていく。
レベルが上がったせいで、自分の周囲6メートルまで操作可能となっている俺にとって、御者台に座ったまま幅10メートルに満たない道路の糞尿を回収することは用意だった。
取りこぼしがないようにゆっくりと馬車を進めながら糞尿を馬車の荷車に移動させる。
道行く人達は、馬糞や牛糞が勝手に空を飛び、自動的に荷車へ積まれていく様子を珍しそうに眺めている。
徐々に街から離れると見物客もへり、作業は淡々としたものになっていく。
時折、反対向きの馬車と離合するときだけ、道の中央を通れないので、馬車を右脇に寄せ、対向車とすれ違う。
脇に寄っているときだけは、反対側が俺のスキルの適応範囲外となるので、一旦馬車から降りて取りこぼしがないか確認する。
街を出てものの30分ほどもすると、俺の馬車は糞尿で満載となった。
清掃できた距離は3キロほど……、歩くより少し速いペースで進みながら作業できている。
この調子だと、三日もかからないような気がする。
俺はアリーと馬車を交換する。
アリーが御していた空の馬車を受け取り、糞尿の回収を続ける。
その間に、アリーは俺が糞尿を満載にした馬車を操り、街の糞尿処理施設へと運び込む。
アリーの運んだ糞尿を施設におろすのに人手が必要になるが、俺がいちいち戻るより効率がいいだろうということで、俺は作業を続行することになっている。
処理施設での糞尿の積み下ろしはゲーハさん達にまかせよう。
アリーと別れて40分ほど作業したところで、二台目の荷馬車が糞尿いっぱいになる。
「お待たせ、コーター」
ちょうどそのタイミングで、荷物を街に下ろしたアリーが空の馬車を操ってもどってきた。
現在地点は街から7キロ、海水浴場までの全行程の3分の1ほどだ。
街から離れるほど、糞尿の量は減っていくように感じる。
ここまで大型馬車2杯分、このペースならあと大型馬車4杯分ほどで作業が終了することになる。
「ありがとう、アリー。
ちょうど次の馬車が満杯になったところだ。
悪いが、早速交換してくれ」
俺は、アリーの持ってきた空の馬車に乗り込み、アリーは再び糞尿満載の馬車を御して街へと戻る。
街と海水浴場の半ばを過ぎたところで3杯目が満杯となる。このペースなら明日には終わりそうだ。
この辺りまで来ると、古い糞尿は完全に乾燥して固まっている。
そのまま積み込むと、かさばる上に、ちょっと風が吹いただけで風化したうんこが細かいほこりとなって空中に舞い散るのだ。
流石にうんこの粉末が充満する中で呼吸したくない。
最初はうんこ操作で粉うんこを無理やり荷馬車にもどしていたが、うんこを集めながら粉うんこを風から守るのはいささか神経を使う。
ちょっと考えた俺はすぐにひらめいた。
「うんこ変化があるじゃないか!」
俺は乾燥したうんこにスキル『うんこ変化』を用いて、全てをやわらかいうんこに変える。
この状態なら、アリーが街へ運ぶ途中もうんこがこぼれたりする心配は少ない。
唯一の欠点は、乾燥時にはあまり臭いがしないうんこだが、やわらかくすると新鮮なときの臭いも復活すると言うことだ。
まあ、既にこれまでの生活で、慣れた臭いとなっているので今更だが……
処理場でおろすときは、荷車を立てて一気におろすそうなので、やわらかいうんこで手が汚れることはなさそうだ。
街から距離が離れたため、次に荷馬車がいっぱいになってからアリーが帰ってくるまでには10分ほど待つことになった。
俺達は三度目の馬車交換をし、作業を続ける。
何事もなく作業は捗り、なんと午後2時には海水浴場が見えるところまで来ていた。今日中に終わりそうだ。
馬車は予想どおり6杯目がいっぱいになろうとしている。
5杯目の馬車を街へ戻しに行ったアリーはまだ帰ってこない。
俺は海水浴場の入り口までうんこの回収を終え、馬車を止めてアリーを待つ。
梅雨明けのよく晴れた空が海に映り、海面はコバルトブルーに輝いている。
「綺麗だ……」
俺は思わず馬車を降り、砂浜を波打ち際まで歩く。
「後でアリーが帰ってきたら少し二人で歩きたいな……」
自分の妄想を言葉にしながら、誰もいない真っ青な海をぼんやりと眺める……
そのときだった。
久しく聞いていなかったあの声が、俺の脳内で響き渡る。
「スキル『うんこ』がレベルアップしました。
スキル『うんこ』はレベル6からレベル7になります。
スキル『うんこ操作』がレベルアップしました。
スキル『うんこ操作』はレベル5からレベル6になります。
スキル『うんこ変化』がレベルアップしました。
スキル『うんこ変化』はレベル1からレベル2になります。
スキル『うんこ創造』レベル0が派生しました。
スキル『うんこの下僕』は条件を満たしていませんのでレベルは3のままです」
「なっ……
こ、このタイミングでレベルアップだと……」
まあ、考えてみればここのところスキル『うんこ』はあまり使っていなかったのだが、今日はこれでもかというくらい『うんこ操作』や『うんこ変化』を酷使した。
その結果がこれということか……
俺は見たくないがレベルアップしたスキルの詳細を確認する。
またどうせろくでもないことになっているのだろうとは思うが、見ずにはいられない。
これが怖いもの見たさというヤツか……
スキル『うんこ操作』レベル6
自分の周囲7メートルのうんこを操れる。
うん、これは予想どおりだ。
次行って見よう……
スキル『うんこ変化』レベル2
自分の周囲3メートルまでのうんこを変化させることができる。
レベル2では『超硬いうんこ』『とても硬いうんこ』『硬いうんこ』『普通のうんこ』『やわらかいうんこ』『下痢便』『液便』の7つに変化させることがでる。
おい、なんだこれは!
いきなり7段変形とかどうなっているんだ。
しかも『下痢便』とか『液便』とか、誰得?
もはや悪い予感しかしないが、俺にはもう一つ確認しなければならないスキルがある。
新しく派生したスキル『うんこ創造』だ。
スキル『うんこ創造』レベル0
自分の周囲1メートルに、自由にうんこを創造することができる。
量も形も思いのまま!
これで君もうんこアーティストになれる。
「なんじゃこりゃーーーーー!」
俺は思わず叫んでしまう。
自由にうんこを作り出して形も思いのままだと……
うんこで作った像に何の価値を見いだせと言うんだ。
何がうんこアーティストだ……
像にしていいのは銅像や石像、雪像、氷像までだろ!
誰がうんこ像なんて欲しがるんだよ!!!!!
俺の内心の動揺をよそに、海はどこまでも青く、空も穏やかに澄み渡る。
足下には少し満ち始めた潮が迫り、小さな波が寄せては返す。
のどかだ……
どこまでものどかなのに、なぜ俺はこんなにも苛まれる……
なぜ俺だけがこんな目に会う……
なぜ俺だけがスキル『うんこ』なんだ……
考えれば考えるほど腹立たしい……
こんなにも理不尽な状態にもかかわらず、何故に海はあんなにも青く、どこまでものどかなんだ……
「青い海の…………
ばっかやろーーーーーーーー!!!!」
俺は思わず人気のほとんどない海岸で大海原に向かって絶叫していた。
「大丈夫よ、コーター
私はいつも貴方と一緒よ」
いつの間にか帰ってきたアリーが俺を後ろから抱きしめてくれる。
「ありがとう、アリー……」
「どういたしまして。
さあ、コーター、こっちを向いて。
涙を拭いてあげるわ」
アリーはポケットから取り出したハンカチで、いつの間にか俺の頬を伝っていた涙を拭いてくれる。
「んっ」
俺はアリーのハンカチに目をやる。
やけに上等な布を使っているようだ。
それに見たことのない模様。
まさか、アリーさん。まだもっていらっしゃったんですか……
「アリー……
そのハンカチは……」
「大丈夫よコーター
きちんと洗濯してあるから」
うっ、認めやがった……、この尼……
やはりあれは伯爵邸の……
しかし、上目遣いでにっこりとほほえむアリーの笑顔に、俺は何も言えなくなる。
「いいよ、コーター」
アリーは静かに目を閉じる。
何が何だかわからないが、半ばやけくそで、俺はアリーの唇に自分の唇を重ねた。
「好きよ、コーター」
「ああ、俺もだアリー」
俺達は6月の海岸で互いの愛を確認した。
アリーのハンカチだけが俺の深層意識に影を残したのだった。
リアルの忙しさと、花粉症による副鼻腔炎の悪化のため、執筆が進まず、ここまで読んでいただいている方には大変お待たせしています。
花粉がおさまるまでは安定しないと思いますが、ご容赦ください。
花粉の飛んでいない北海道か沖縄に行きたいと切に思います……