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第一六話 最強の敵、その名は……

 本話には放送自粛表現は含まれておりません。

 安心してご覧ください。


 今日も薬草集めは絶好調だ。

 朝から来たのがよかったのか、芽吹いたばかりのみずみずしい薬草がほとんどで品質もよい。


 この調子で頑張れば薬草取りで30000ギル達成も夢ではないと張り切る俺達に罠が待ち受けていた。

 湿地の群生帯の採集を終わり、次の採集場所に向かおうとしたとき、気がつくと8匹のスライムに囲まれていた。


 スライムは単体での力も弱く、動きも緩慢だが、唯一飛びつき攻撃だけは侮れないスピードを持っている。

 打撃には強いが、刺突には弱いため、剣や槍を使う冒険者であれば、飛びつかれる前に核を攻撃して破壊すれば難なく倒せるので、初心者のレベルアップにはかかせない魔物となっている。


 しかしそれはあくまでも1匹や2匹で現れた場合である。

 3匹以上の場合は、一匹を攻撃している間に他の個体に飛びつかれ、奴らの中に取り込まれてしまう。

 奴らの体内では身動きが取れなくなり、窒息死した後、消化されてしまう。


 故に複数のスライムが現れた場合、冒険初心者は迷わず逃げを選択するのが普通である。


 今、こちらは俺とアリーの2人だけ。

 仮にアリーが戦えたとしても、2匹が限界だ。

 そして最大の問題は、俺もスライムと戦う術を持ち合わせていないことだ。

 武器は薬草を刈り取るナイフが俺とアリーで各1本ずつ、後はアリーがいつも持ち歩いている調理用の小型携帯包丁があるのみ。

 刃渡りの短いこのナイフや包丁では、スライムの核まで届くかわからない。


 俺のスキル『うんこ』ではスライムと戦う方法がない。

 今ここに、仮に大量のうんこがあったとしても、スライムに有効とは思えない。

 スキル『うんこ操作』でうんこを飛ばしてスライムにぶつけても、奴らはうんこを体内に取り込み吸収してしまう。餌を与えているに等しい行為だ。

 人間や他の動物なら、うんこ操作で腹痛を起こさせたりしてその隙に逃げることもできるだろうが、いかんせん、スライム達はうんこをしない。

 食事をしてもただ吸収、同化するだけだ。排泄はしない。

 奴らが森や草原の掃除屋と呼ばれるのはそのせいなのだ。


 言ってみれば、スキル『うんこ』で戦う俺にとって、スライムは天敵とも言える存在なのだ。


 そしてこの状況。

 逃げようにも八方位を全てスライム達がふさいでいる。

 隙間を抜けることができるとは思えない。


「まずいぞ、アリー……

 何か作戦を考えないと……」


 俺は相方のアリーに相談する。


「……」

 アリーは無言だった。恐怖からしゃべれなくなっているのだろうか……


「大丈夫かアリー、しっかりしろ。

 あきらめたらおしまいだぞ」

「ちょっと待って、コーター……

 これってもしかして……」

 どうやらアリーは恐怖しているわけでもあきらめているわけでもないらしい。

 正面のスライムを真剣な表情で正視している。


 スライム達は飛びかかるタイミングを測っているのか、ぷるぷる震えながら徐々に包囲の輪を狭めてくる。


「やっぱりだわ……

 コーター、こいつらはたぶん何とかできるわ」

 いよいよスライムに手を伸ばせば届くというところで、アリーはいつも腰のベルトにさしている調理用万能出刃包丁を取り出して構える。


 スパパパパッ


 一瞬だった。

 アリーの腕が何本にも見えるような高速で動く。

 正面のスライムはビシャッと潰れて液体になり、プルプルした小さな塊と魔石になった。


「えっ?」

 俺は思わず声を上げる。

「どうやら上手くいったわ……

 残りも片付けるわね」

 俺の驚きをよそに、アリーは再び素早く包丁を動かし、スライム達をさばいてしまった。


 後には草の上に小さな魔石とプルプルした塊が8つあるのみだ。

 アリーは一番手近に落ちているスカイブルーの小さなプルプルを拾い上げると、包丁でスパッと二つに切る。

 そして、その内一方を見つめていたが、突然その小さな塊をぱくりと口に含んだ。


「なっ、アリー!

 一体何をするんだ。

 そんなスライムの塊を食べたらお腹をこわすよ」


 もぐもぐ……

 ごくっ……


 アリーは飲み込んだようだ。


「大丈夫よ、コーター……

 意外といけるわ。

 歯ごたえのあるデリーみたいで、ほんのり野菜の香りがするわね。

 味はないから、加熱調理するときは味付けが必要ね。

 意外と刺身が一番美味しいかも」


「なっ、何を言っているんだアリー……」

 俺はアリーの言葉が理解できなかった。


「あっ、ごめんなさい。

 順を追って話すわね」

 アリーはそう言うと説明を始めた。


「実は、スライムに囲まれたとき、スキル『食材調達』が反応したのよ」

「えっ、食材調達って、薬草に反応していたスキルだろ」

「そうよ。

 食材なら何でも反応するっていう優れものよ。

 その『食材調達』によると、スライムの核の周りのゼリー質は珍味として食用にできると出たの。

 この国では一般に食べられていないけど、地域によってはかなり高価な食材らしいわね。

 もっとも、素早く核から切り離して、周囲のスライムボディーとも分離しないと、スライムが死んだとき一緒に壊れてしまうから、採集にはベテランの技量が必要らしいわね」

「と言うことは、アリーはその技量があるのかい」

「技量と言うより、スキル『食材調達』と『料理』のおかげね。

 食材としてのスライムゼリーを集めようとしたら、自然とできたわ。

 それより、コーターも食べてみて」


 そう言うとアリーは自分が食べた残りの小さな塊を薄くスライスして刺身にし、包丁の上に並べて俺に勧める。


 これは食べないわけにはいかないだろう。

 俺はこわごわ一切れを指で摘まみ取って口にする。


 もぐもぐ……

 ごく……

「確かに、以外といける。

 塩気があるともっと美味しいかも……」

「でしょ。

 せっかくだからもって帰って調理してみましょう」


 俺達はスライムの魔石と残りのスライムゼリーを回収し、薬草採取用の袋に入れた。


 なお、この日の夜はアリー手作りのスライムづくしを堪能した。

 衣をつけて揚げると食感がほくほくに変わり、パンにもよく合った。

 塩から揚げも刺身も旨い。

 俺達が上手そうに食べているのを見た宿屋のウッディーさんが物欲しそうにしていたので、厨房を借りた礼にお裾分けしたところ大好評だった。


「こんなに旨いのなら、宿の料理で出せるな……

 次に大量に取れたら買い取らせてくれ」

 とありがたい申し入れもあった。


 それまで、スライムと言うことでちょっと引き気味に見ていた奥さんのマチルさんもウッディーさんの様子を見てこわごわ口にし、意外な食感に驚いていた。

「確かに、美味しいわ……

 スライムに食べられるところがあったなんて……」

 と感動していた。


 スライムの塊を全て調理した段階でアリーに変化が起きた。

「コーター、レベルアップして新しいスキルもできたみたい……」


 アリーが早くも次のレベルに到達したのだ。

 早速アリーに確認してもらう。


 スキル『料理』レベル2

 スキル『食材調達』レベル1

 スキル『ゲテモノ料理』レベル0


 どうやら食材調達の有効範囲が2メートルにアップし、スライム料理で新しいスキルができたらしい。

 それにしても、スライム料理はゲテモノ料理に分類されるのかと改めて思った。







 もしかして、主人公よりヒロインの方が強くなるかも……

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