第一〇話 アリーの新スキル
アリーのスキルにも派生スキルが発生するとは……
そもそもスキルのレベルは10が限界だと言われている。
レベル一つあげるのも相当長い時間がかかり、マックスのレベル10にするにはよほど才能がない限り50年はかかると言われている。
しかし、そのスキルをたくさん使えば使うほど上がりやすいのも事実だ。
俺はゴミ掃除でスキルを使いまくったせいで、短期間にもかかわらずスキル『うんこ』がレベル4に、スキル『うんこ操作』がレベル3になっており、今では周囲4メートルまでのブツを操作できる。
しかし、これは異常だ。
剣術スキルで言えばレベル4はベテランの領域で12歳のペーペーが到達していい領域ではない。
まあ、『うんこ』がレベル4になったからと言って、うんこのベテランなんて考えたくもないが……
とにかく普通のスキルはそう簡単にレベルアップしないし、まして派生スキルもそう簡単には現れない。よほどの天才でない限り……。
すると、この段階で派生スキルまで手に入れたアリーは料理の天才ということなのだろうか……
俺の場合、うんこの天才になってしまうので考えたくもないが……
いや、俺のことはいい。
少し思考が飛んでしまったようだ。俺は現実に戻ってアリーに聞く。
「アリー、それでどんな派生スキルが出てきたんだ」
「ええっと……
食材調達?」
なんで、薬草採取してて食材調達なんだろう。
それに食材調達ってどんなスキルなんだ。俺は素直に疑問をぶつける。
「どんなスキルだ?」
俺の質問にアリーは自分のスキルを確認しながら答える。
「レベル0では自分の周囲1メートルにある食材がわかるみたい。
ちなみに今採取していた薬草は薬膳料理に使えるから、一応食材みたいね」
なるほど。
俺はアリーの答えに納得する。
薬草も食材だったから、その採取で新しい関連スキルが発現したんだ。
「アリー、この『素材調達』スキルはすごく便利かも知れないぞ」
俺はアリーの新スキルの可能性に気がついた。
このスキルは上手く使えば薬草採集に無類の強さを発揮するのではないだろうか。
「確かに、どんな料理に使えるかわかるのは便利だけど、薬草が料理に使えることがわかってもそんなに便利って言えるかしら」
「いや、そんな使い方で便利って言っているわけじゃない」
「どういうこと」
アリーは自分のスキルの便利さに気がついていないようだ。
俺は説明を始める。
「例えば、そのスキルを発動して移動すれば、スキルの有効範囲に入ったものが食材かどうかわかるってことだろ」
「ええ、そうね」
アリーはまだぴんときていない。
「と言うことは、藪の中に隠れている薬草があれば気がつく可能性が高い」
「あっ、なるほど」
やっと自分のスキルの可能性に気がついたアリーだが、それだけでなく更に有用な使い方ができるはずだ。
俺は説明を続ける。
「それだけじゃない。
薬草以外の食材が野に生えていればそれもわかる。
わかれば、ついでに取っておくと別収入になるかも知れないじゃないか」
「うっ、そう言われると確かに便利な気がしてきたわ」
「そうだろ。
と言うわけで、ここの薬草を急いで2人で取って、スキルを使いながら移動してみよう」
「わかった。やってみるね」
俺達は手早く傷薬になる薬草を採取すると、すぐにアリーのスキルの効果を確かめに行く。
結果は、予想以上だった。
自分の周囲1メートル以内とは言え、通るだけで食材のありかと何に使える食材かわかる。
薬草の大半が食べられるものだったことも相まって、普通に探していたら見つからないようなものまで見つかる。
木札に載っていない薬草も1種類発見した。アリーのスキルに薬膳料理に使えると表示されたので間違いないだろう。
更に、自然に生えるクレソンの仲間も大量に発見した。
こちらは薬理作用はないが、肉料理の付け合わせに大変人気のある野菜で、おそらくそれなりに買い取ってもらえる。
残念なのは、採取したものを入れる袋があまり大きくなかったので、取り過ぎても持ち帰れないことだ。
俺達はアリーのスキルが発動して一時間もすると、採取物を入れる袋がいっぱいになり、街へ引き返すことにした。
ギルドに持ち込んだ結果は、木札になかった薬草が2000ギルで最高値をつけ、最初に見つけた希少な薬草の1500ギルを上回った。
更に、傷薬に使われる薬草も大量に見つかり、3カ所で採取した分あわせて1500ギルほどとなる。
野生のクレソンはギルドで引き取ってもらえなかったが、中央公園のレタスもどきを購入した八百屋さんが引き取ってくれ500ギルの追加収入になった。
あわせて5500ギルだ。
午後三時を過ぎて始めたにしてはまあまあだと思っていると、冒険者ギルドマスターのライバーさんからあきれられた。
「お前達、普通にやっていたら新人の薬草採集なんて一日で3000ギルがいいところだぞ。
短い時間で希少な薬草を二つも見つけ、よくあるヤツとはいえ300も集めるなんて、薬草採取の新記録じゃないか」
「そんなになんですか」
アリーがビックリしている。
「ああ、そんなにだ」
ライバーさんの言葉にかぶせるように俺もアリーに話しかける。
「アリー、君のスキルがとても役にたったってことだよ。
これからは頼りにさせてもらっていいかな」
「ええ、もちろんよ。
今まではコーターのスキルのお世話になっていたんだもの。
私のスキルが役に立つのがとても嬉しいの」
アリーは本当に嬉しそうにほほえむ。
そのあまりの破壊力にめまいがしたくらいだ。
アリーを抱きしめたい衝動を抑えつつ、薬草代を受け取った俺達は宿屋に戻ったのだった。