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第一話 スキルの授与の儀


 この世界にはスキルがある。

 人々はスキルによって適性のある職業を見極め、それぞれ生計をたてる。

 スキルは12歳の決められた日に神の啓示によって与えられ、優秀なスキルを与えられた子供達はその年から中級学校に通い、各自が得たスキルを伸ばして将来の職業へとつなげる。ちなみに12歳までは基礎学校に通って最低限のことは全員学んでいる。


 スキル【剣術】を得た子供は剣士や兵士を目指し、スキル【水魔法】を得た子供は魔法使いとして貴族に使えたり商人に雇われたりする。

 スキル【商才】を得た子供は商人に弟子入りし、いつの日か独立することを目指す。

 スキル【暗殺】など、どう考えても物騒な職業しか思いつかないようなスキルを得た場合は治安機関の監視付きで教育され、やがては国家の諜報活動に関与するという。 

 そんな中、何に使えるのかよくわからないスキルが授けられることがある。

 過去の例ではスキル【おしゃべり】というのがあった。

 しゃべることなど口があれば誰でも出来る。

 そんなスキルを与えられたものは、中級学校に通う必要はないとされ、すぐに働きに出される。

 中級学校にも行けないような役に立つかどうかわからないスキルを得たものは結局雑用係のような職業にしか就けない。

 比較的マシなところで冒険者ギルドに登録して簡単な依頼をこなし、日銭を稼ぐと言う方法もあるが、たとえ採取系の依頼でもこの魔物が跋扈する世界では決して安全とは言えない死と隣り合わせの仕事となる。

 人々にとってスキル選定の儀は一生を占う最重要イベントであり、期待と不安が複雑に入り乱れてせめぎ合う落ちつかない一日でもあった。






「コーター君、迎えに来たよ」


 今日、俺、コーター・スルーは12歳のスキル選定の儀に望む。

 今、うちの玄関から声をかけてきたのは幼なじみのアリー・ポルトだ。

 アリーは隣の家に住む同級生の女の子で、先週一緒に基礎学校を卒業した仲である。


 今日の選定の儀を一緒に終えたら、スキルを鍛えて職業に結びつける中級学校にも一緒に行くことになっている。


「コーター君、まだーー」

 アリーが俺を急かす。

「アリー、すぐ行くからもうちょっと待って」

 俺はズボンをはきながら大声で返事をする。

「早く、早くーーー

 急がないとスキル選定の儀が始まっちゃうよ」

「わかってる、わかってるよ。

 すぐ行くから」


 俺は着替えをすませると急いで玄関へと向かう。

「コーター、どんなスキルを賜っても、お前は俺達の息子だ。

 心配するな」

「コーター、母さんも応援しているから、落ち着いていっておいで」


 両親に見送られながら、アリーと合流して家を出発する。


 途中でこの村の同級生がどんどん合流してくる。

「やい、コーター。

 お前、今日もアリーと一緒にいやがるな。

 いつも言っているがアリーは俺の女になるんだから近寄るな」

 一際体格のいい男子が絡んでくる。

 同級生のボス的存在、ジャーク・ヒドーだ。

 ジャークのうちのヒドー家は村の顔役を務めているので、その息子のヒドーもやりたい放題だ。

 同級生や下級生の可愛い女の子は自分の女にすると息巻いており、もうちょっと大人になったら性犯罪に走るんじゃないかとみんなで噂している。

 喧嘩も同級生では一番強く、腰巾着のコーシー、ギーン、チャークの三人をいつも引き連れて悪さしている。


「ジャーク、いつも言っているでしょ。

 私はあんたなんか大嫌いだって」

「お前の気持ちなんて関係ない

 お前はもうすぐ俺の女になるんだ。

 俺なしじゃいられない体にしてやるから楽しみにしていろ」

 アリーが反論するが、全く悪びれる様子もなく下卑た笑いを張り付かせながら言い放つ。


 アリーは身震いしながら俺の後ろに隠れた。


「ふん、そうしていられるのも今だけだ。

 今日のスキル選定の儀でいいスキルをもらってコーターをぶちのめしたらすぐに俺のものにしてやるからな」


 不穏なことを言い放ち、ジャーク達は先に行ってしまう。

「コーター……

 私を守ってくれるよね」

 アリーが不安そうに俺の服の袖を掴みながらいう。

「うっ、うん。

 腕力じゃ叶わなくても、どうにかしてアリーだけは守るよ」

「うん、お願いね」


 ここで自信を持って守ってやると言い切れないところが辛いところだが、大切な幼なじみを何とか守ってあげたいという俺の気持ちは本物だ。


「それじゃあ、神殿にいこう」

 アリーに促されて、俺は神殿へと歩き始めた。




 神殿につくとつづら折りの列の最後尾に並んだ。

 どうやら俺とアリーが最後だったようだ。

 出席を取っていた神官が、俺達の到着を確認すると、早速偉そうな服を着た壇上の神官が説明を始める。

「それでは、ただ今から今年度のスキル選定の儀を始める。

 スキルとは神から賜る恩恵である。

 最初は一人一つのスキルを賜るが、それを鍛えていくことでスキルが強力なものになったり、増えたりすることもある。

 しかしながら、鍛えようのないスキルを賜ったものは、残念だがスキルを鍛えて進化することは出来ない。

 そのときは、それが神の定めたおのれの道と覚悟を決め、スキルに頼らぬ方法で生きていく方法を探すことになる。

 有用なスキルと得たものは、街の中級学校でスキルを伸ばし、いい仕事に就くことが出来る。

 といっても、中級学校でどれくらいスキルを伸ばせるかはそのものの努力によって変わる。

 いいスキルをもらえたからと言って慢心してはいけない。

 わかったかね」


「「「「「はい」」」」」

 神官長の言葉にその場に集まっていた同級生みんなが一斉に返事をした。

 今日ここにいる同級生は、先週まで一緒に基礎学校に通っていた86人だ。

 今から、この86人の選定の儀が始まる。


「それでは始めよう。

 列の先頭の者から順に前に進みなさい。

 中級学校に行けるスキルを得た者は右の席にかけて待ちなさい。

 それ以外の者は家に帰ってご両親と今後について相談しなさい」


 神官の言葉に促されて最初の女の子が壇上へ上がる。


「君は火魔法だね。

 おめでとう。右の席へいきなさい」


「君は農業だね。

 残念だが、うちに帰ってご両親と相談を」


 選定の儀はよどみなく進む。


 待ち時間の退屈さに居眠りしかけたが、そんな中、聞きたくない奴の声が聞こえた。

「やった!

 豪剣術だ」

 ジャークの奴だ。

 あの性格破綻者はよりにもよって剣術の上位スキルと取得したようだ。

「僕は風魔法だ」

「俺は槍術」

「おいらは弓術だ」

 なんと、腰巾着3人も中級学校行きのスキルを手に入れたようだ。

 なんであんな奴らにいいスキルを与えるんだろう。神様の考えがわからない。


 そんな中、儀式はどんどん進み、ついに最後に並んでいた俺とアリーの番になった。

 アリーが先に登壇する。

「うん、君のスキルは料理だね。

 残念だが中級学校で学ぶスキルではない。

 しかし、食堂やレストランでは重宝されるスキルだから、ご両親と今後の進路を相談しなさい」

「はい」

 アリーはそう言うと段を降り、外へ向かう。

 俺とすれ違いざま声をかけてきた。

「それじゃあ出口のところで待っているね」

「ああ、俺もすぐ終わると思うよ」


 俺は登壇する。

壇上で神官の前に立つと、神官は俺の頭上に手をかざし、目を閉じて集中する。

「うん、きみのスキルは……

 うん?

 なんだこれは???」

 神官がフリーズする。

「あの……

 俺のスキル、何かありましたか?」

 俺が聞くと、神官は慌てて言葉を続ける。


「いや、あまりにも予想外なスキルだったのでちょっと混乱したのだ。

 すまなかった。

 それでは改めて……

 君のスキルは『うんこ』だ」


 その言葉が発せられると同時に、今まで雑談していた中級学校組の連中もぴたりと静かになった。







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