第71話/逆宝くじ……orz
誤字脱字報告がほんとに助かります。
諸事情により執筆時間が取れないので、再考少なく思い付くままに突っ走って執筆してるので、文章が荒いと思われます(汗
「いいですか? アビちゃん先輩はこっちにきてまだ日が浅いのはわかりますけど、ちょっと加減というか考えなしにやりすぎです」
「イエスマム」
ダンジョンイーターを大魔法でもって討伐した後、陣頭指揮で使用された台の上でオレ様はエルモからお説教を受けていた。正座で。
いや、確かに大魔法の一撃で地面が広範囲に抉れたりしたけれども。
ダンジョンイーターを倒したらなぜかレッサーイーター共が溶けるように消えて素材とかなんも取れなくなったけれども。
エルモが符術で防壁張ってくれたものの、切れ目から衝撃波が町の壁を直撃して半壊したけれども。
…………よく考えたらちょっとやらかしたかな?
「聞いてるんですかアビちゃん先輩?」
「イエスマム!」
にっこり笑顔で威圧してくるエルモさんにイエス以外の返答があろうか。いやない、反語。
そして町に戻り際にこちらを見てくる冒険者諸君。お母さんに怒られているお子様を見るような眼差しはやめて。
ちなみにマルガリーゼが「ギ、ギルド長、あんまり責めなくても……」と庇ってくれたが、エルモににこりと般若な笑顔を向けられ、
「じゃあ、一緒にお説教受けていきますか?」
と言われたところ、「お疲れさまでした!」とメルナリーゼやリリベルちゃんと一緒に早足で街へと帰っていってしまった。
……いやまあ、責めはしないけど。オレ様だってとばっちりで怒られるのは嫌なもんだし。
でも去り際に「……アビゲイル、頑張ってね」とか悲しげな表情で言うのはやめて? なんか酷いことになるフラグっぽいから。
「はぁ、まあ過ぎてしまったことは仕方ありません」
ようやくエルモが一息つく。よかった、許されたらしい。
「とりあえず、後の処理とお説教は後日に考えるとして。
まずは領主様に報告にいきましょう」
許されてなかった……。
項垂れるオレ様の腕を掴み、護送されるがごとくエルモに領主の元へと連れられていくのだった。
=====
領主の館へに着くと、執事さんから案内されて応接室へと通された。
例のごとく領主は体調不良につき、孫のサリシアさんが面会してくれるらしい。
出されたお茶とお菓子を頂いていると、ほどなくして扉がノックされて執事さんとサリシアさんが入ってくる。
エルモとの世間話をやめ軽く居住まいを正したところでサリシアさんが向かいの席に座り、執事さんがささっとお茶とお菓子を改めて三人分用意して静かに退室していった。
うん、一家に一人は欲しい有能さ。
「遠見鏡にて拝見していましたが、この度はギルドによる多大なる貢献にこの町の領主代行として心より感謝申し上げます」
お茶を一口飲みカップをテーブルに置いたサリシアさんがそう言い、姿勢を正してゆっくりと頭を下げた。
ちなみに遠見鏡というのはゲームにもあった双眼鏡のような魔道具である。
よく街の高台から他プレイヤーの女の子キャラを覗き、もとい観察しては自身のコスチュームやアクセサリーの組み合わせなどの参考にしたもんだ。
「いえ、こちらこそ領主代行による市民の迅速な避難のおかげで戦闘に集中することが出来ました」
エルモがそう答えるとサリシアさんが頭を上げ、二人で微笑み合う。
美女エルフと美少女お嬢様が微笑み合うとか絵になるよな。
くっそ、カメラとかあったら激写して保存しておきたいのに!!
なんて思っていたらサリシアさんがオレ様を見て、なぜか困ったような顔をする。
「……あの、それでですね、非常に言いにくい事なのですが――――」
「いえ構いません。本人の責任によるところも多少なりともありますので」
サリシアさんが申し訳なさそうな顔をオレ様に向ける中、なぜかエルモにはジト目で見られる。
え、なにこれどういう展開?
「えーと、あの、では率直に申し上げますね。
この度はギルド、ひいてはアビゲイル様には多大な尽力をして頂いたのですが、その……それに対して街に被害が出てしまいましてですね?」
まるで子供を心配して話しかけるような口調のサリシアさん。
うん、嫌な予感しかしない。
その後の話では遠見鏡で見ていたサリシアさん曰く、どうやらダンジョン喰らいを倒した大魔法の余波による被害があったらしい。
被害を大まかに分けると、
一つはオレ様もわかっていた事だけど、戦闘のあった街の門を中心とした周囲の防壁と、陥没した爆心地の損壊。
次に大魔法によって起きた地震による建物のひび割れや外壁破損等の損壊、又はそれに関連した転倒や落下物による人的被害。
細かいことを言えば色々あるものの、サリシアさんが見た被害状況や市民や兵士さんから持ち上がった街の被害報告を鑑みるにこの二つのようだった。
なんだろう。話を聞いていくうちに高まる胸の焦燥感と背中に冷たいものが走っていく。
「それでですね?当家としては、貢献してくれたアビゲイル様に対して非常に心苦しいのですが、大まかに算出した被害額があまりにも大きいということで、被害に対する賠償金を請求しなくてはならなくなりまして……」
大雑把に算出したものですが書類をご覧下さい、とサリシアさんが言うと静かに部屋の扉が開いて手元に書類を持った執事さんが入ってきた。
そしてテーブルの上にそっと書類を置いて一礼して去っていく執事さん。
「うわ……」
その書類を手に取ったエルモが小さく引いた声をあげる。
……というか書類って言ったけど、むしろ紙の束じゃん、束。
軽く見ても三十枚はあるよ。そりゃこれが被害額の枚数って聞いたらエルモも引くわ。
ついでにいうならオレ様、絶賛ドン引きなう。
なんなのこの枚数。恐くて見れないよ。
例えば一枚の皿を割っちゃったら、それが高価で実は高級品でしかも貴重なもので更には一点物の国宝級だったんですみたいに、次々と二次災害と金額が積み重なっていくような心境……!!
「あとでエルモ様にも被害件数などをまとめたものをお渡ししますが、えーっとですね、簡単に被害総額だけで言うとこれくらいになりまして……」
と言い、戦々恐々として何も言えないままのオレ様に、サリシアさんが申し訳なさそうにその細い指を一つ立てた。
「…………一万?」
「絶対違うでしょう」
うるさいよエルモ! わかってるよ! 現実逃避したかっただけだもん!!
サリシアさんもそんな可哀想な目で見ないであげて……!
「十万、じゃないよなぁ…………百万……」
僅かな抵抗をしてみるも、無言のままサリシアさんが小さく首を振る。
わかってたけどこんちくしょー!
生まれてこのかた五十万円以上の借金とかしたことないんだけど!?
そんな小市民に三桁オーバーな金額とか重すぎるんだけど!?
「い、一千万だなんてどうしようエルモ……!」
「え? そんな額で済むと思ってたんですか?」
「なん……だと……?」
え、なにその残念な子を見る表情?
というかそんな額って……。
「サリシアさん……!!」
嘘だよね!? という意味を込めて彼女に振り向くも、
「…………」
返って来たのは悲しそうな表情でエルモの言葉を肯定するかのように頷きが一つ。
マジか……。異世界に転生して一週間もしないうちに一千万越えの借金とか。
ありえなさ過ぎて現実感がどこか遠くへ旅立ってしまった気がする。
しかしオレ様も外見は女の子だけど心は男だ。不可抗力とはいえ、やらかしてしまったことに責任を取らねばなるまい。
「ふ、ふふふ。わかった、やるよ、やってやるよ。この身に換えてもきっちり払ってみせるよ一千十万ゴール!!」
「いや先輩、無駄な抵抗な上にその値上げの仕方はこすいですってば」
やかましい! オレ様の小さな努力を素で秒殺するな!!
心の準備が必要なんだよ! 心の準備が……!!
オレ様は一度深呼吸をし、覚悟を決めてサリシアさんに改めて向き直る。
「すみません取り乱した。えーっと、じゃあ、改めて、賠償金を……払って……行こうと、思いま……す……ぐすっ……」
あれ、どうしてだろう。
しかしどうやって返せばいいんだ、あれかな、期限とかもあるだろうし、もし払えなかったりしたらラノベにあるみたいに奴隷とかになるのかな、粗末なご飯とかやだな、もしくは売られたりするのかな、なんて考えていたら目から水が……。
「あ、ああ……そんな泣かないで下さいアビゲイル様。みているこっちがまるで苛めてるみたいで物凄く心苦しいですから……!
もちろんすぐにというわけでもなく、私やギルドでもいくらか賠償金の負担は致しますので安心して下さい」
「ほ、ほんとに……?」
オレ様が涙で滲んだ目をこすると、サリシアさんがにこりと微笑んでくれる。
「はい。ですから泣き止んでくださいまし。ね、エルモ様」
「大丈夫ですよアビゲイルさん。ギルドの方でも多くはないですが負担はしますから。
なので、その売られる子牛みたいな瞳でこっちを見るのはやめましょう。本気でこっちが悪者に思えてくるので……」
ああ、天使がいるよ。しかも二人。
目で助けを求めたのも功を奏したようだ。
それにしても二人がこれだけ言ってくれるならオレ様も泣いてなんかいられない。
一千万で違うという事はもうあれだ。一億なんだろう。
元の世界なら確実に発狂物の金額だが、今のオレ様には最強仕様の我が子の能力がある! やってやれないことはあるまい!!
そう思ったオレ様は涙を拭いて気持ちを切り替え、新たな決意を二人へと伝える。
「うん、オレ様がんばるよ! 二人にも協力してもらうと思うけど、例え一億でも返してみせる……!!」
「え、あ、十億ですよ?」
「マジで?」
「マジです」
「……え、あ、う…………あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝-っ!!」
サリシアさんからの無慈悲な一撃に決意を秒で砕かれたオレ様は、滝汗で頭を抱えて叫ぶしかなかった。
エイプリルフールの日に書籍化しましたとか言ってみようかなと思ったけどそのまま寝過ごした四月一日。




