第6話/とんがり帽子は魔法少女の正装。
文章の改行や行間の手直しにちょっと時間がかかって投稿時間がずれました(陳謝)。
皆様は魔法少女は何歳までだと思いますか?
作者は「夢見る少女はたとえ三十路げふん! いくつになっても魔法少女でいいじゃーないか」と思ってます。
とんがり帽子の少女から謝罪を受けた後、未だに「痛いー……」と呻くその額を覗き見たら赤くなっていたので、ごめんねと謝りながら急いでヒールをかけて治した。
「あ、ありがとう。あたしはリリベル。さっきはあなたのご飯を台無しにしちゃって、ごめんなさい……」
潤んだ瞳で上目づかいに素直にお礼をしてくるとんがり帽子、もといリリベルちゃん可愛い。
「オレ様はアビゲイル。さっきのことは謝ってくれたし、もう気にしなくていいよ。それよりも、次はリリベルさんの問題を片付けようか」
「え、でも、衛兵にこられたらあたし困るんだけど!?」
「来ても平気じゃなかったんかい」
「い、いやでもほら! よく考えたらこんなことで衛兵を呼ぶのも迷惑だと思うし!!」
急にあたふたして慌て始めたリリベルちゃんを見る限り、さっきの啖呵はその場の勢いで言ってしまったんだろう。
その姿を見てふと昔の事を思い出す。
昔、父親が母親の大事な物を傷つけてしまったことがある。
それを母親が咎めたが自分は知らないと言いあまつさえ開き直って「た、たとえ僕が大事にしている物をどうにかされたって、やってないからね!?」と口走り、それを聞いた母親が即行で父親の大事にしていた靴を近所の肥溜めに沈めようとしたところ、光の速さで自白と謝罪をしながら追いかけって行った父親を思い出した。
やってみればと言うくせにやってやろうとすると焦って大慌てする、あの時の父親と似たような感じがしたから間違いない。
「まあ悪いようにはしないから」
「ほ、ほんとに?」
「いいようにもしないけど」
「ほんとに!?」
「うそうそ(笑)」
不安そうなリリベルさんを冗談で宥めながら、オレ様は露天商の店主である三十代後半くらいのおっちゃんへと向き直る。
木箱に座るおっちゃんの前には風呂敷のような布が敷かれ、その上に鉱物っぽい塊や加工していない宝石のような色のついた石が商品のようだ。
商品の前には木札が立てかけられてあり、商品の名前と値段が書かれている。
鉱石類500ゴール~
魔石類2000ゴール~
魔晶石10,000ゴール~
書かれている文字は異世界言語だったけれど、読めたし意味もわかった。ありがとう優しい転生仕様。
「あー、なんだかわからねえけど、衛兵呼ばれたくなかったらとっとと帰んなお嬢ちゃん達」
呆気に取られていた露店のおっちゃんは我に返ったようで、しっしっと子供を追い払うように手を振る。
リリベルちゃんより見た目が年下で子供なオレ様が相手を名乗り出たせいか、余裕が戻ったっぽい露店のおっちゃん。
ふふふ、いい度胸だ。実を言うとさっきリリベルちゃんに見せていた、人をバカにするような態度にちょっとむかついていたんだ。
接客業を経験した身としては、お客さんに対してあの対応は許すまじ! とも思い、ちょっとリリベルちゃんに加勢しようと思う。
ということで交渉バトル開始といこうか。
「手っ取り早く聞くけど、客にまがいものを掴ませる露天商がいるっていう噂を流されるのと、払ったお金の九割を返金するのとどっちがいい?」
「はあ!? な、なに言ってんだお嬢ちゃん!?」
「え、なにそれ……」
露店のおっちゃんが信じられないものをみるような顔をする。ついでにリリベルちゃんも。
まあ普通はそう思うわな。ちょっと考えたらどっちに転んでもマイナスになる結果が待っているわけだし。
しかしここで追及の手を休めてはいけない。相手が状況を飲み込めないうちに叩き込むべし。
「でも仕方ないよなぁ。おっちゃんはこの子が値札を見て、実は物が違うのにその商品を買おうとしても止めなかったのは事実だし?」
わざと周りが興味を引く様に聞こえやすいように声を上げる。女の子なオレ様の高い声はよく通り、狙い通り周りで買い物する人や通りすがる人の足を止めることに成功した。
「そ、それは、そん時は止める暇がなかったからで――――」
周りの人の視線が集まり始めたのを感じたのか、露天商のおっちゃんはしろどもどろに弁解の言葉を並べるが、それを遮るように俺は畳みかける。
「しかも買った商品は払ったお金より安い物だっていうのに、商品を使ってしまったからってもともとの差額分のお金も返してくれないなんて、この子が可愛そう! ほら、あんなに涙目になって……!!」
「いやこれはあんたに頭を叩かれたせ――――ひぃっ! なんでもねーわよ!?」
余計な事を言いかけたリリベルちゃんに俺が笑顔で片手をあげ、軽く上下に振って見せるとわかってくれたようで素直に口を閉じてくれた。
うん。真心って大切。
ここで少し声のトーンを抑えて周りに聞こえないように、おっちゃんだけに話しかける。
「で、どうするおっちゃん。このままだと、"他のお客にも似たような手口で売っていたかも?"なんて推測が口から出てきそうなんだけど。今ならなんと八割で手を打てます」
「あ、悪魔かよお嬢ちゃん……。でも駄目だ。売ったもんだってただの魔石じゃなく、属性付きで安くねえんだ。…………いいとこ二割が限度ってところだ」
おっしゃノってきた! ここからが本当の勝負だろう。
ゲーム内で戦争イベントに参加した際、知り合いに戦争を仕掛けて来た相手の重要NPCを捕虜にし、勝利した後に交渉して多額の賠償金とレアアイテムをぶんどった、もとい交換したのはいい思い出だ。
「またまたぁ。ちゃんと価値を調べれば分かるんだから。七割でも全然儲かってるだろう」
「ば、ばか言っちゃいけねえよ。ただあれだ、俺にも非があるかもしれねえから、三割だそうじゃねえか」
儲かってないと否定する割には目が泳いでいるおっちゃん。
ここはもう一押しと判断して、ちょっとした賭けに出てみる。
「じゃあいっそのこと三割でいいから、そこの石を一個おまけにつけるってことでどう?」
「こいつはただの鉄鉱石の原石だが、ほ、ほんとにいいのか? お嬢ちゃんがいいならそれでいいが、あとでやっぱりやめたとかなしにしてくれよ?」
「おっけーおっけー。じゃあ商談成立ってことでお金と原石よろしく♪」
どこかほっとしたような表情をする露店のおっちゃんから、鉄色の貨幣を九枚とゴツゴツとしたソフトボールサイズの鉄鉱石の原石を受け取る。
オレ様が原石を”確認して”満足していると、露店のおっちゃんが敷いていた風呂敷のような布で商品ごと包み上げ立ち上がった。
「やれやれ、今日はちとケチがついちまったし、この辺で引き揚げさせてもらうぜ。あばよお嬢ちゃん達」
そういうと足早に逃げるように広場を後にして去っていった。
しかしオレ様は見逃さない。去り際に露店のおっちゃんの表情が”うまくいったぜ”というような笑みを浮かべていたことを。
…………ふふふ、 そう思いたいのは俺の方なんだけどな。後で後悔するがいい!
なぜだ……まんじりとして時間が進まないのは……。
次こそは! 次こそはきっと……!!
※トイレに立とうとしたらテーブルに足をぶつけてコーヒーをこぼした今夜orz……。