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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第二章 灰被りの魔女。

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第101話/ゴチになります。


ダンジョン運営についてくる問題のあれこれを聞き、ついに召喚令状が届く。


 

 召喚令状。


 ま、簡単に言えば用があるから来いというほぼ強制的な呼び出しである。


 ちなみに大した理由もないのに拒否すると、やましいことがあるものと見做され騎士が派遣されて逮捕&取り調べをされることもあるらしい。


 それがほぼ同日に行われるという令状が領主とギルド宛に一通ずつ届いた。


 召喚令状が届いた当初はその内容を見たサリシアさんとエルモは『やっぱり来ましたか……』とヤな顔をしていたが、それを見越しての準備はしていたのですぐに気を取り直していたけど。


 ちなみに二人がヤな顔をした内容の一部なんだけど、まず召喚による会議が十日後という案件。


「王都まで最低六日はかかるんですのよ!? 普通は相手の予定や護衛や食料、宿泊先の手筈等を鑑みて最低でも二週間は必要ですのに!!」

「まあ完全に足を引っ張ろうとしてるのは明白ですね。ダンジョンの詳しい調査などを含めればこちらの準備に一か月はかかるのを見越すのが普通ですし」


 サリシアさんがぷりぷりするのも無理はない。


 呆れたエルモ曰く、電車や車という高速で移動する手段がない異世界で、片道六日の道のりを事前準備や悪天候、道中のトラブルなどを加味するとこの期間は短すぎるらしいとのこと。


 そりゃそうか。元の世界とは違い、行けば大体揃うスーパーやネットで気軽に予約できる宿泊先などあるはずがなく、全てを一から自分たちで集めなければならないこの異世界。


 時間がかかるのは当然だろう。


 次いでヤな内容の案件だったのが、まあある意味当然と言える利権の確保の指示なんだけど、


「……ギルドと協力してダンジョンの運営をしていくと伝えたはずなのに、利権を最低7割確保しろとか、喧嘩を売れと言ってますのこれ?」

「こちらも似たようなものですね。しかも湾曲的にですが元の利権者である冒険者になにをしてもいいから(・・・・・・・・・・)、利権の確保をするようにとありますし。

 アビちゃん先輩相手に私に死ねと?」


 遠い目をして微笑しながら静かに怒る二人が怖かった。


 いやまあ手紙を出した奴も、まさか相手が最高レベルの吸血鬼(オレ様)ということを知らないから、こんな無謀なこと書いたんだろうけど。


 時に無知とは恐ろしいものである。


 しかしこの二つともオレ様がいる時点でほとんど解決しているのも同然だし、双方の手紙の中に素敵な一文を見つけ、ちょっとした嫌がらせと慰安を思いついたので二人に提案してみると、


『是非そうしましょう!』


 と、前のめりな同意を得たのでそれを実行すべく思案を巡らせるのであった。


 ☆


 召喚令状の手紙が来てから三日後、仕事の引継ぎや王都へ行くための準備の調整を済ませたオレ様達は馬車に乗ってハイドランジアの街を出発した。


 馬車はオレ様謹製で、サブスキルの錬成で創作錬成(クリエイティブ)により作り出したそこそこ立派な馬車とゴーレム製の馬であり、御者もゴーレムで人型にしてそれっぽく見えるようにしている。


 まあ馬車に乗ってるのがオレ様とエルモ、サリシアさんと世話役の侍女である十代後半位のハンナちゃんの四人だけというのが少し寂しいが。


 ほんとはマルメル姉妹やリリベルちゃんにミズカ、クイーンちゃんやファンナさん達も一緒に連れて行きたかったのだけど、ギルドの残留組である受付嬢さん達に泣いて引き止められた。


「いやー! 主力のクイーンちゃんやファンナさんが抜けたら業務を回せる自信がないんです!!」

「お願いします! どうかマルメル姉妹やミズカさんだけはどうか! 実力もあってギルドに貢献してくれる話の分かる方(・・・・・・)って貴重なんですよ!!」

「この町唯一の魔法薬やアイテムを安定して作れるリリベルさんを連れていかれると、ギルドの回復アイテム等の品質と在庫に不安が……!」

『ギルド長なら一人でも優秀なので使い倒してもらって構いませんので!!』


 うん、信頼と実績で褒めてるんだろうけど、ほら、なんか仲間外れされた感があってエルモが隅っこで膝を抱えてしくしく涙してるから。


 ファンナさんやクイーンちゃんが慰めてくれて事なきは得たけども。


 あ、ちなみにハンナさんは領主間でオレ様を案内してくれたあの出来る妙齢のメイドさんの妹さんらしい。


「……馬車に乗ってるはずなのにほとんど振動がないというのも、慣れませんわね」

「お嬢様お嬢様。私、今までの常識が凄い勢いで走り去っていく気がします」

「お二人とも、”アビゲイルさんだから”で済ませることをお勧めしますよ。下手に考えると常識がこじれるので」


 あれー? オレ様的に快適にしたつもりなのにこの言われようとはいかに?


 揺れないのは馬車特有の振動がヤバい、というのはラノベにより踏襲しているので創作錬成(クリエイティブ)で作成した浮遊石を馬車に設置して地面から十センチくらい浮かせているからである。


 あと今は午前のおやつタイムということで、町で買い込んだお菓子や飲み物をサーブしているだけなんだが?


「お嬢様お嬢様、普通なら三日はかかる村を一時間程で過ぎ去ってしまいました。ほんとにこれは現実なのでしょうか?」

「ハンナ、考えてはいけません、感じるのです。あ、このシナモン風味のクッキーおいしいですわ」

「お嬢様、それは現実逃避というのでは……」


 二人ともただこの快適さを楽しんでくれたらいいのに。


 エルモなんかさすがに元の現代世界の出身だけあって、電車のような乗り心地の馬車には慣れたようで優雅におやつタイムを楽しんでいる。


「私が今まで歩いたり走ったり馬車に揺られて感じていたあのお尻の痛みはなんだったんですかね……」


 ほら、遠い目をして黄昏る余裕もあるくらい。 


 そんな楽しい馬車ライフを送りながらもオレ様達はお昼前に目的地である、大都市ウォールナットへと辿り着いたのだった。


 ☆


 ウォールナットは王都までの中継地点であり、また東西にある大きな農園や鉱山等に続く道があるために多くの物資が行き交う交易の大都市としても栄えている(サリシアさん談)。


 さて、オレ様謹製の馬車であればその日のうちに王都まで辿り着くことが出来たのだがなぜそれをしなかったかというと。


「おお、これが名物料理のウォールナットポーク……!」


 答えはオレ様達の目の前に所狭しと置かれた料理の数々である。


 実は双方の召喚令状の一文の中に偶然にも”辺境の土地では急な出立に費用の工面が難しいだろうから、こちらで賄ってあげましょう”というものがあったので、高級料理や宿で存分に散財、もといご厚意に甘えようということにしたのだ。


 というわけで、お昼ごはんも近いということもあり向かったのは名物料理ウォールナットポークが食べられるこの町一番の高級レストランで、しかもThe個室。


 もちろん値が張るわけだけど、サリシアさんが自身の身分を証明し召喚令状にあった貴族の名前を出して「請求は後日そちらに」と伝えるとすんなり通された。


「勢いでやってしまいましたけど、もう少し節度というものを考えた方がよかったのでは……」

「いいのいいの。あっちが費用を持ってくれるっていうなら、最大限に活用してあげないと!」


 恐縮してるサリシアさんは真面目だなぁ。


 暗に”辺境は金がないだろうから恵んでやる”とディスってくるくらいなんだし、このぐらい気にしなくてもいいのに。


 なにより他人のお金で食べるご飯はおいしいよ?


「あ、あの、私もこの場にご一緒していてもよろしいのでしょうか……」

「気にしない気にしない。サリシアさんだってオーケー出したし、オレ様もエルモも気にする質じゃないから」


 ほらほら、エルモもサリシアさんも頷いてるし、ハンナさんも一緒に食べようじゃないか。


 それにご飯食べてる側でなにもせずに佇んで見られている方が落ち着かないし。


「それじゃ、せっかくのご馳走だしこっちのこと舐めてる相手が後悔するくらいたっぷりと散財してやろう!」

「そうですね。よく考えたらこちらの利益を掠め取ろうとする連中に遠慮する方がバカバカしいですから」

「ふふふ、アビー姉様もエルモ様も正直すぎますわ」

「あ、あわわ、私こんなご馳走初めてです……」


 9割程本気を含めた冗談で場も和やかになったことだし、うーん、どれから食べることにしようか。


 その後、四人であれこれと料理のシェアや感想を交えつつ、至極楽しくお昼の時間を過ごしたのだった。


 うん、お昼の時間、までは。




作者は小心者なので、誰かにご馳走してもらうときは高い値段のものは決して頼めません。

ええ、頼むなら安くて種類も豊富に数で勝負する作者です(結果的に値段は変わらない)。


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― 新着の感想 ―
国王にタレこんだら、その貴族死ぬんじゃないのかな? 前にそういう権利をもらっているのだし。
遠慮しなくてすむタダ飯なら大歓迎やな
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