第98話/お願いするときは心を込めて。
ダンジョン案内の前にお風呂イベントが発生するも、スキル『へたれ』が発動してエルモ、サリシア、クイーンちゃんの裸を前に意識を轟沈させるアビゲイルだった。
極度の興奮により目を回したオレ様が気がついた時、三人はすでに入浴後であり服を着た状態であり、もはやもう一度お風呂に入ろうというわけにもいかずに後悔の念を抱いたままダンジョンを案内するに事にした。
ただ入浴後の三人をまさか歩いて湯冷めさせるわけにはいかないので、『DMの指輪』の能力でサクッと別部屋を作り、そこでくつろぎながら映像として見ることに。
なお、案内した際に作った部屋を見たエルモがぷくっと頬を膨らませ、
「これって完全に居酒屋ですよね。おこたですよね。こんなの出来るなんてずるいです」
とちょい怒になったのでとりあえずオレ様の隣に座ってもらい、好きなおつまみを用意しつつ後でエルモにも使えるようにするということで機嫌を直してもらえた。
クイーンちゃんとサリシアさんは初めての居酒屋(?)な部屋を気に入ってくれたようで、オレ様とエルモの体面に座りおこたに入りながら隣同士できゃっきゃとはしゃいでいる。
なんだかダンジョンの案内というより、ちょっとした宴会の様子を呈してきた気がするけど。まあ、気にしない。
それよりもやっぱりオレ様としては未だに後悔が尾を引いていて。
「オレ様としたことがあんな貴重なシーンを見逃すとは……」
誠に遺憾である。まったくもって遺憾の意である。
オレ様の最後の記憶にあるのは目の前が肌色だったというだけで、何度脳内リピートしても詳細を思い出すことができない。
くそぅ、元の世界では数々の大人の映像作品を閲覧していたオレ様が、まさか興奮して気絶を見せるとは……。
「あいたっ。なにをする」
「アビゲイルさん、何考えてるか大体わかりますが、今は案内の方を優先してください」
隣から突然頭を指ツンされ、視線を向ければエルモがジトっとした目でこっちを見ていた。
そんなエルモがそっと側によってくると小声で、
「オフ会のプール遊びで女子勢の水着姿を直視できずにチラ見しか出来なかった人が、ましてや裸なんてまともにみられるわけがないじゃないですか」
「〇◇△▢✕……!?」
なぜそれをー!?
完全に意表を突かれた暴露に、言葉が出ずに口をぱくぱくさせてしまう。
なんだろうすごく嫌な汗がでてくるんだけども……!?
「とりあえず今はダンジョンの案内をお願いしますね?」
「い、いえす、まむ!」
「あら、なにを内緒話されてますの?」
いやー! やめてー! そっとしておいてーっ!!
「大したことじゃないですよサリシア様。ちょっとした確認です。デザートはあるのかとか、ね?」
「(ブンブンブン)!!」
さすが出来る女は違うよエルモさん! そのフォローに乗じてオレ様はただ頭を上下して肯定することしかできないよ!!
これ以上、墓穴を掘る前にダンジョンの案内に集中しなければ! オレの羞恥の壁が破られちゃう!!
なので『DMの指輪』を使用し、急いで液晶テレビみたいなのを作り出してそこへ映像を映し出す。
「わっ、なにか映りましたわ。……これは、森の中、ですの?」
「あ、ここで取れる果実がとってもおいしいのです」
いやクイーンちゃん? そこで妙に詳しいこと披露したら君が本当のダンマスになったことを隠してるのがばれちゃうから気をつけようね?
一瞬目が合ったクイーンちゃんに向けて『めっ』という気持ちで視線を送ったところ、なぜか顔を青くしてがくがくと頷いているけどきっと分かってくれたんだろう。
ともかく樹海のダンジョンの説明を始めようか。
「えーっと、この樹海のダンジョンは一粒で二度おいしい、一石二鳥ということをコンセプトとしていて――――」
時折変わる映像を見ながら説明していくのは、なんだか会社でのプレゼンを思い出させる。
ちなみにざっと説明すると、樹海のダンジョンは薬草や果実などが採取できるのに加え、オーク・フォレストバード・ホーンオックスというお肉もあるので自給自足が可能。
しかしそれだけだとダンジョンとして物足りないので、たまにアンデット系をうろつかせていて、それを倒せば魔石や持っている装備がドロップできるようにしている。
さらにアンデット系の魔物をある程度倒すとレイドボスが発生し、倒すと装備・アイテム・魔法書の三種類のどれかの宝箱が手に入るというお楽しみ仕様。
そしてレイドボスから手に入る『宝珠の欠片』を四つ手に入れることでダンジョンコアの間へと移動でき、そこでオレ様監修の剣盾・大剣・双剣を装備した『美少女版デスナイト三姉妹』を倒すことができれば豪華な宝箱を手に入れられる。
ちなみにその場にダンジョンコアを掲げた大樹があるのだが、破壊しようとすると警報が鳴り響き強化されて狂化した『美少女版デスナイト三姉妹』が全力で襲い掛かってくる。
まあ運よくダンジョンコアを破壊できたとしてもそれはダミーで、本物は地下のクイーンちゃんのダンマス部屋で照明器具と化しているんだけど。
「というわけで以上がこのダンジョンの仕様なんだけど、なにか質問ある?」
『…………』
クイーンちゃんだけが満足そうにうんうんと頷く中、なぜかエルモとサリシアさんが頭を抱えていた。
「え? なに? もしかしてなにか問題あるとか?」
「……いえ、冒険者のことや獲得できる素材もよく考えられていて、利便性が高いのはよく理解できたんですが」
「利便性が高すぎるのが問題だと思われますわ……」
「どゆこと?」
エルモとサリシアさんが言うには、ダンジョンというのは大体画一的で同系統の魔物や素材しかないのが普通なのだとか。
なので洞窟系のダンジョンならゴブリン等や鉱石が主で薬草なんか採取できず、森系のダンジョンならウルフ等や薬草が主で鉱石なんか採掘できない、ということでこの樹海のダンジョンのように一か所で種類の違う魔物や素材が出るのは稀も稀。
ついでにいえば類を見ない程の快適な温泉施設なんかあるので、これを知った冒険者はいうに及ばず貴族なんかも押し寄せてくるであろうことが予測されるらしい。
「それに伴って明らかにギルドの業務が激務化を超えてブラック企業化になることが予想されます……」
「わたくしの方も、貴族への対応やら町の治安やらで手が足りなくなることが考えられると思いますの……」
「そっかー大変だなぁ……まあ、がんばって?」
『他人事!?』
なにも二人して驚かなくても。
だってー、クイーンちゃんのためにダンジョンを作って目くらましでオレ様がダンジョンマスター(仮)になって、エルモとサリシアさんに問題を丸投げしたことで一応の目的は達成できたし?
「えー、だってもうオレ様が関与するようなことってなくない?」
「なに言ってるんですか! こんな便利なダンジョンが出来た以上ギルド本部に報告上げなきゃいけないし、そしたら絶対に利権目的の連中から面倒くさい横槍が入ってくるに決まってるんです!
そんなの大企業の重役連中に子会社の社員がつつかれるようなもんじゃないですか! 絶対面倒です! アビちゃん先輩も手伝ってくださいよ!!」
「わたくしも領主代行を任されているとはいえ、あくまで代行なので細かいところまでは対応できませんし……。
それにもし上級貴族などから物言いがあった場合、ダンジョンマスターであるアビー姉様の声があれば無理難題は避けられると思いますので、是非ご協力をお願いしたいですわ」
「ア、アビー、あたしからもさすがに問題が大きい気もするし、助けてほしいのです」
美女、美少女、美幼女からの懇願の視線が熱い。
苦節28年生きてきてこれほど見つめられることがあったろうか。いや、ない。しかしオレ様もただで引き受けるほどお人好しではない。
いまこそあの計画を発動する絶好のチャンス!
「まあオレ様もダンジョンを作った以上責任もあるし、協力するのも吝かではない。
しかーし! こっちの条件を飲んでからにしてもらおーか!!」
「なんですか? お風呂でも一緒に入りましょうか?」
うん、気持ちは嬉しいけどそれはオレ様を殺しにくる行為だから勘弁して?
そういうことじゃなく、今オレ様がもっとも必要としていること。それは今もなおオレ様の心を苛む原因。すなわち、
「ダンジョンのことは精一杯頑張らせていただきますので、どうかこれで10億の借金をチャラにして下さいお願いします!」
そうして、オレ様はおこたに入ったまま心から頭を下げたのだった。
タイトル『ギルド長エルモ』
大人の映像作品。昔、作者の先輩にあたる方の部屋に行き、なぜか本棚の一部にカーテンがかかっているのが気になってそっと開けてみたところ、
『裸エプロンオンリーの映像作品が多数』
という現実を目にしてそっとカーテンを閉め、それ以降作者の心の中でその先輩は『裸エプロン先輩』と呼ぶようになったとかならなかったとか。