ゆき2
「岸先生、昼休みの間だけ、ここにいさせてください!」
「やだ。」
岸先生は、白衣のポケットからタバコとライターを取り出し、一本目のタバコに火を付け始めた。
「お願いします!」
俺は、頭を下げて岸先生に頼み込む!
「ふぅー…。」
岸先生は俺をガン無視でタバコを吸う…。
「先生!!」
「チッ…。あぁー…もう、めんどくせぇな…。わかったよ、別にここに居てもいいよ…。」
やったぁ!
「先生、ありがとうございます!」
岸晃博先生は、2年4組の担任で担当科目は理科。
寝癖交じりの天パに、地味なメガネに白衣(毎日着ているけど、汚れもシワもなくしゃきっとしている)姿の絵にかいたような中年の理科教師。
生徒から陰で呼ばれているあだ名は『放送大学』。
命名理由は、岸先生の授業は大学の講義みたいに、生徒ガン無視で先生がただ淡々と話をするのがほとんどで、だるくてつまらなくて(てか、授業をしている先生もつまらなそうだし、やる気がないみたい)…テレビでやってる放送大学に出てくる教授みたいだから。
俺も岸先生の授業は苦手…。
岸先生の授業は、他の授業と違って生徒を指名して教科書読ませたり、質問したりしないからその点は楽なんだけど…毎回、授業のレポートを課題で書かせられるんだよ!だから、居眠りをしてるとレポート書けないからみんな眠気を堪えて必死に授業受けてるんだよ。
しかも、先生のレポートの添削は厳しくて、基準を満たしてないと何度でも再提出させられる…!
授業はテキトーなくせに、変なとこ厳しいんだよなー!
「はぁー…。」
先生は、けだるそうに大きなため息をついた…。
「…先生、疲れてるんですか?」
「そうだよ…。毎日、ガキ相手にクソつまんない授業して超疲れてるよ…。ニコチン摂取しなきゃやってらんねぇーよ。」
「はぁ…そうですか…。」
教師が生徒にそんなこと言っちゃっていいの…?
先生は二本目のタバコに火を付け、咥える。
いつの間に一本目を吸い終えたんだ!?
「ふぅー…。疲れてるっつーか、イライラしてるな。」
「何かあったんですか?」
「うちのクラスの馬鹿が1人、先々週の授業からのレポート出してねえんだよ。」
「先々週からですかー!?」
「そいつ、授業のレポートだけじゃなく、他の提出物の出もワリィんだよ!来月にあるPTA総会の出欠席票もクラスで、いや全学年でそいつだけまだ出てねぇし!あの野郎~!!」
「困った生徒ですねー…。一体、誰ですか?」
だらしない奴だなー。
総会の出欠席票なんて、親に名前と出欠席のチェックと判子押してもらうだけじゃん。
「クククク…。」
岸先生が突然、怪しく笑い始めた!?
「せっ、先生!何笑ってんですか!?」
突然笑いだすとか怖いんですけどーー!!
「昼休みが終わるまで、あと10分か…。それまでに、果たして奴がここまでたどり着けるかな?フフ
フ…。」
岸先生が腕時計を見ながら呟いた!
「先生、さっきから何を言ってるんですかー!?」
「未提出の多いその馬鹿野郎に言ってやったんだよ。『今日の昼休み中に先々週までのレポートを提出できなければ、アルバイトの許可証を取り消す!!』ってな!」
「アルバイトの許可証って…その子バイトしてるんですか!?」
中学生ってバイトできんの?
「ああ、いろいろと家庭の事情があって、そいつは特別にバイトの許可証を貰ってるんだよ。バイトの許可証の規定には『勉学に支障をきたさないこと』が絶対条件だからな。課題のレポート提出できない奴は、明かに規定違反だろ?」
「そりゃそうですけど…。」
中学生で、バイトをするなんて…よっぽど家が貧乏とか、そういう事情があるんだろうな…。
「ちなみに、奴には俺が昼休みにどこにいるかは言っていない!」
「ファッ!?」
「ククク…奴は今頃、校舎内を血眼になって俺を探しているだろうなぁー!!」
岸先生は、まるでアニメに出てくる極悪の首領のような恐ろしい笑みを浮かべる…!!
先生、授業で教卓に立っている時より、めっちゃ生き生きしてる…。
あぁー…。
その子かわいそう…。
まさか、岸先生が屋上(生徒は立ち入り禁止)にいるなんて思わないだろうなぁ…。