ゆき1
昼休みの学校の屋上。
上を見上げると…。
澄んだ青空に、白い雲…。
5月の爽やかな風…。
あぁ…。
この解放感…!!
同じ学校の中なのに、全く違う場所に来たみたいで…!
両腕を上に上げて、思いっきり背伸びをする…。
うぅーん…。
ふぁー。
痛ってぇ…っ!
体育のドッジボールで、ぶつけられた所に鈍い痛みが走る…。
ぶつけられた所って言っても…ほぼ全身なんだけど…。
アイツら、本気でボールぶつけてくれから…。
果てしなく広がる青空と白い雲を眺めていると…。
嫌なこととか全部忘れられそうで…。
学校に行くのが怖くて…気持ち悪くなって…通学路の途中にある公園のトイレで、朝食を全部吐き戻してしまったことも…。
今朝は、久しぶりにお母さんが作ってくれたのに…!
夜勤明けで疲れているのに…。
今日は仕事休みだから、ゆっくり寝てればいのに…。
俺のために…!
わざわざ、早起きして作ってくれたのに…!
柵に囲まれた四角い空間…。
この柵、邪魔だな…。
転落防止用の白い柵は、ここも結局『学校』の中であることに変わらないことを示してるみたいで…。
この柵の外を見てみたい。
きっと、この柵の向こうには…。
柵のない向こう側には…。
そのままの景色が広がっていて………。
「おい。お前、ここで何やってんだ?」
突然、後ろから誰かに声をかけられた…!?
誰…!?
後ろを振り返ると、そこにいたのは…。
「き、岸先生…!」
理科の岸先生だ…。
「お前、飛び降り自殺でもする気か?」
はぁっ!?
「自殺なんかするわけないじゃないですか!」
「じゃあ…なんでお前、柵によじ登ろうとしてんの?危ないから早く降りろよ。」
俺は、柵から降りる…。
「柵の外の景色が見たかったんです。」
「ふーん…。お前、学年と名前は?」
「…2年の波多野結希です。」
俺のこと憶えられてないんだ…。
先生の授業受けてるんだけどな…。
「ああ、5組の波多野か…。」
憶えててくれた…!
「お前の名前、なんか聞き覚えがあるんだよ…。」
あぁ…。
それ多分、俺の名前が某AV女優と一文字違いだからかな…。
「先生は何で、ここへ?」
「タバコ吸いに。」
「先生、学校の敷地内は全面禁煙ですよ?」
「ここは、治外法権だろ。」
「治外法権て…。」
「お前だって、生徒は屋上には立ち入り禁止だぞ。たしか、無断で侵入した場合の罰は反省文(2000字)と放課後の校内清掃…」
「先生!喫煙のことは絶対に誰にも言わないので、俺がここへ来たことも言わないでください!」
「いいだろう。見逃してやるから、さっさとここから出てけ。」
「えっ…!?」
嫌だ…。
ここから出たくない…!
「どうした?早く出てけ。」
だって、ここから出たら…。
アイツらに…!!