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 神域? いいえ、ただの危険地帯です

 神域に広がる森は、まるで太古の原生林である。

 シダみたいな植物が生い茂り、その葉を食料とする巨大な草食動物。

 その草食動物を狙う大型肉食獣と、その肉食獣に集団で襲い掛かる小型肉食獣。


 何コレ……ジュラシック過ぎないスかね?

 いや、食物連鎖は別に良いよ? だって自然の摂理だし……

 問題は此処に群生する木々が、樹齢何千年の物なのでしょうかね?

 異常に成長しておる。


 気分はもう、腐海の底に落ちた主人公です。

 おあつらえ向きにダンゴムシの化け物が居りますぜ?

 こちらは百倍気色悪い奴だけどね。


 所で、動物と魔物の区別がつかないんですが、どうしたら良いんでしょう?


 魔物=倒すとアイテムを残して消える。<ゲーム的やられキャラ。

 動物=倒しても消えてくれないので解体する必要があり。<見た目がモンスターと区別がつかない。


 いちいち鑑定するのが、めんどくさい!!

 うっかり動物を倒しても、解体している間に巨大な魔物が襲ってきます。

 何なのよ此処、蠱毒の森?

 弱肉強食の連鎖の中で、強力な化け物を生み出す仕組みなのか?

 動物のレベルもハンパ無く高い上に、めっちゃ強い。


 例えば……目の前に山羊。


 ======================================


 【グレート・スラッシュ・カプリコーン】 ランク5 Lv63


 巨体を誇る山羊。

 走るだけでソニックブームを引き起こし、群がる外敵を瞬殺する。

 金色に輝く体毛は美しく、値が付けられない程の高級品。

 気性は荒く、敵と判断したら容赦なく襲い掛かって来る。

 肉はとても美味であり、この山羊を倒し売れば一生遊んで暮らせるほどである。

 ただし、その分命を落とす危険度が高い動物である。

 別名【黄金の瞬殺者】。


『角から放たれる斬撃には注意。一撃必殺の威力です』


 ======================================


 動物じゃねーだろっ!! 何処の黄金戦士?!


 さっき、俺の目の前でTレックスみたいな魔物を瞬殺したぞ?!

 その魔物ですら、ランク6はありましたぜ?

 明らかに人間が勝てるような存在じゃねぇ―んですよ。

 それを一瞬で瞬殺。

 それも三頭でだぞ? 正直、こえぇ~っ!! 


「ここは……油断すら出来ない修羅の巷だ・・・・・・・」


 一撃必殺の攻撃を連続で、それも群れで叩き込んで来る。

 弱いと思った魔物や動物も、中々に侮れない能力を保有している。

 気配を断つのは当たり前の常識で、姿を隠したり、幻影を繰り出したり、更には猛毒などの状態異常も標準装備。

 そして……そんな野生の危険な世界に戦いを挑む、誇り高きハンター達・・・・・・。


「くそ、そっちへ行ったぞ!!」

「もう直ぐペイントが切れる、予備を用意しろ!!」

「落とし穴は、まだ準備ができんのか?!」

「準備は出来た! 爆弾を用意してくれ!!」


 リアルでモンスターハント……此処が神域なんて絶対に言えないよね?

 彼等の装備も何かソレっぽいし、魔法もスキルも使い放題だが、その代わり難易度が凄く高い。

 世界で最も危険な場所なんじゃねぇ~か?


 街が城塞都市化する理由が良く解る。

 周辺に生息する生物が異常なまでに強すぎる。

 ここで生き残る事が出来たら、外の世界では圧倒的に強い存在に見える事であろう。

 正に闘いの神の聖域と呼ぶに相応しい世界だとは思うが、難民達には難易度高過ぎね?


「来たぞっ! 準備は良いか?!」


 リーダーらしきうさ耳の青年は仲間達に率先して指揮を執っている。

 どうでも良いですが、うさ耳のイケメンて何処に需要があるのでしょう?

 こういう種族だと分かっているのですが、俺ちゃんとしては夜のキャバクラにいるお姉さんの方が良いです。

 ガッカリ感がハンパじゃありません。


 そして、襲い来る巨大なモスマン。


「罠がまだっ!」

「チッ、このまま戦うしかないか・・・・」

「・・・・ん・・・・任せる・・・」

「「「「誰ッ?!」」」」


 ちょ、メリッサさん?! 君、そんな所で何してるの?

 彼等の狩りの邪魔をしてはいけません! それが狩場のルールですぞ!!


「・・・・・縛・・・・・」


 メリッサが手元の糸を引くと、周囲の木々の間から銀糸が襲い掛かり、一瞬にしてもスマンを捕縛し動きを封じた。

 ご丁寧に魔力を込めており、モスマンの羽はズタズタになってござ候。

 何か、最近【躁糸術】に磨きが掛かって御座いませんかね?

 まぁ、物理法則も関係あるのでしょうが、こんな一瞬の出来事で判別は出来ませんぜ。


「ナイスだっ、お嬢ちゃん!!」

「今の内に集中砲火だ!!」

「助かったぜ、ビビらせた付けを払わせてやらぁ!!」

「ひゃはは!! 派手にフッ飛びな!!」


 ―――ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 爆弾が炸裂した。


 え~・・・・・・酷いリンチが始まっております。 

 惨い、タコ殴りだ・・・・・・。

 メリッサさんも接近戦に持ち込み、両手に俺が作ったコンバット・ナイフを持って切刻んでる。

 て、だから何してんのっ?!

 何で人の狩りに乱入しているんですか? しかも堂々と参戦して連携してるし……。

 君、採取が目的ですよね? バトルは避ける積もりは無いの?!


 程なくしてモスマンは光に消えましたが、鑑定したらランク6の【皇帝モスマン】でした。

 明らかのダンジョンのラスボスクラスです。

 こんなのがゴロゴロと生息しているんですか? 酷い鬼畜仕様だ。


「・・・むふぅ~っ♡・・・・素材獲得・・・」


 幸せそうでいいね……、見ている方は堪らんですたい。


「よし、ランクアップだ!」

「レベルも上がったぜ、これでランク5に上がったし……勇者レベルまでもう直ぐだ」

「目指せ、最強!」

「おっ? 【毒無効の宝珠】だ。先ず先ずの戦利品だな」


 獣人達は乱入された事すら忘れ浮かれている。

 それにしても、戦火で故郷を追われ此処に避難してきた時には、彼等は不安と絶望の表情しか無かったのに、今の彼等はスンごいアグレッシブです。

 環境が彼等をここまでWILDにしたのでしょうか?

 逞しく生きております。獣人だけに野生化したのだろうか?


「嬢ちゃんには助けられ・・・あれ? いねぇぞ?」

「さっきまでそこに居た筈だが?」

「気が付かなかった……いつの間に消えた?」

「まさか、ゴースト系の魔物か?」


 いえ、メリッサはいますぞ? 君達の頭上に……。

 君達が話し込んでいる間に、糸を使って木の上に移動したんだよ。

 因みにだが、俺も木の上にいるんだよね。

 木々の枝の付け根に薬草とか茸が生えているのだよ。


 メリッサさんてば、どこぞのヒーローの如く糸で木々の間を飛びまくっておじゃる。

 凄すぎですよメリッサさん。野生化してませんよね?


「・・・・むふふぅ~~っ♡・・・・・大量・・・」


 必要以上に採取してませんか?

 そんなメリッサの真下では、獣人やウチの眷属達が必死に戦っております。

 ランク5のモンスターを集団で狩りしておるよ。

 レイド級の巨大な魔物……て、【デミ・ベフェモス】?!

 全長50メートルはありそうな巨大なゾウ擬きだ。

 30人くらいで連携して攻撃してるし……しかも優勢。

 つーか、彼等、強過ぎね?! 

 宛らマンモスに挑む原始人、マンガ肉食べてみたいね。


「第三中隊、放矢の陣!!」

「全体、ランス構えっ!!」

「第五中隊、支援射撃用意!!」

「撃てぇ―――――――――――――っ!!」


 おいおい・・・・・どこの三国統一戦争?

 神武帝城から見た部隊はこいつ等だったんだな。

 多くの矢と魔法が飛び交っております。


「綺麗だなぁ~・・・・・・どこまで飛んでいくんだろう・・・・」


 薄暗い森の中に、眩い閃光が飛び交っている。

 幻想的で、それでいてやけに凶悪な威力が込められている。

 それは宛ら命の輝き……生きる為に戦う戦士達の魂の光なのだろう。


「・・・・違う・・・・ただの・・・魔法・・・・」

「おぉ?! 吃驚したぁ~、いつの間に戻って来たんだ?」

「・・・・・今・・・・」


 神出鬼没ですぜ、メリッサさん。

 あまり驚かせないでくださいな、蚤の心臓なんだからさぁ~。


「良い素材は見つかった?」

「・・・・・ん♡・・・・たくさん・・・・大量・・」

「それは何より。でも、あまり遠くに一人で行かないでくれ。探すのが大変だし」

「・・・・ん・・・・・気を付ける・・・」


 ホントに分かってんのかな?

 今一信じられないんだけど・・・・・・一人で先に進んじゃうしさ。

 採取している時、俺の事忘れてませんかね?

 泣いちゃうよ?


「ここ、木の実も中々旨そうなんだよなぁ~・・・て、いねぇ?!」


 また消えましたよ。

 何処に・・・・・居ました。遥か先の木に生えた実を取ってる。

 お願いだから一言言ってから移動してぇ~、凄く心配するからさぁ~。

 急に居なくなられると不安になるじゃないの。


 俺は木々を飛び越えてメリッサの元へ向かう。

 そんな俺の横で、リスみたいな小さい小動物が、10メートルはありそうな蛇の首を切断していた。

 強さの基準が判らねぇ――――――――――っ!!

 物理的にあり得ないでしょっ!! どんなレベルなんだよ、おかしいぞこの森っ!!

 下ではカピバラみたいな鼠が、サイみたいなモンスターを噛み殺してるし、レベルとランクのインフレが激しすぎるぞ!! 

 野生の大国なんて物じゃない。弱者が生き残れない凶悪な修羅の宴だよ!!


「・・・・ん♡・・・美味しい・・・・」


 果物を食っていやがりました。


 ======================================


【エレメント・マスカット】


 七色の粒を付けるブドウ。

 それぞれが異なる味をしており、至高の食材に数えられる。

 幻の果物とも言われ、伝説のメニューのデザート食材として名を連ねている。

 精霊が食べる果物としても有名であり、人が食べると一時的に魔力が向上する。

 同時に捕獲レベルも高く、魔力が高く凶悪な魔物が生息するような土地にしか生える事は無い。

 一粒だけで国家予算が動くほどの高級品であり、とても値が付けられない。

 王侯貴族なら誰もが憧れる幻の果物である。

 ワインを作る時は最低でも【エルダー・トレント】製の樽が必要である。


『ワインでも作る? もの凄く数が必要だけどね』


 ======================================


 俺の物欲に火が点いた!!


 幸いこの地には大量に生っている。

 これは俺に取れというのだな? こいつでワインを作れというのですな?

 よろしい、ならば乱獲だ!!

 俺の食欲は既にMax!! ストマックに空きがありますぜ?


 エルダー・トレント? 生えてますぜ?

 周囲に数えきれなくなる程大量によぉ~・・・・・・ふへへへ・・・。


「俺のアイテムボックスはブラックホール……如何なる食材も平らげてくれる」


 そう、俺は高級食材を食いたいのだ。

 一房で100万円もするブドウを涙を呑んで諦めた過去がある……はて? いつの話だ?

 そんな事はどうでも良い! 今は獲物を刈り尽すまでよ。

 俺は目の前の食材を凶器に駆られて採取して行く。


「トレント!! くたばりやがれぇえぇええええええええええっ!!」


 もう、オイラは止められない。

 目の前にいるトレントを問答無用で叩き斬った。

 あれ? 何か色が違うような……まぁ、良いか♡

 地下茎を飛ばしてきたが容赦なく消し飛ばし、一撃のもとに屠る。

 さぁ……次はどいつだぁ~? 大人しくワイン樽になりやがれ!!

 未成年だから酒は飲めない? そんなの異世界にはカンケー無いね。

 ましてや俺は人じゃない。飲酒制限は受けないのだよ。


 トレントを駆逐する。同時にエレメント・マスカットを確保する。

 俺はその工程を何度も繰り返した。

 何せ腐るほどあるのだ、ここは収穫するべきであろう。

 売却? する訳ね―じゃん。


 我が家には底無しの胃袋を持つ欠食児童が二人も……そう言えばメリッサさんは?

 何気に気付いて探してみると、木の上でメリッサはエレメント・マスカットにマヨネーズをかけていた。

 まて、それはこの果実に対して冒涜じゃないですかい?

 何故にマヨネージュを掛けるのですかっ!! しかも美味そうに咀嚼をしておじゃる。

 合うの? マヨネーズは合うのですか?!


「・・・・・・あわない・・・・不味い・・・」


 ですよねぇ~。


「・・・・・・もう少し・・・・さっぱりした方が良い・・・」


 そのマヨネーズはこってり濃厚ですぜ?

 無茶を言いなさんな、作るのは俺なんですよ?

 このマスカットは甘みが強いみたいだし、しかも魔力含有量が高い。

 食材の組み合わせ次第じゃ、凄く不味い事もあるんですぜ?

 魔力の量で使われている素材を変質させる事もありますし、危険な場合もあるんです。

 

「・・・・もう一個・・・・・」


 また食べるのっ?! 不味いって言ってたよね、今っ!?

 何処の青い汁ですかっ、止められない止まらない状態ですか?

 妙に後味を引くんですか?!

 

 何となく手にしたエレメント・マスカットを見る。


「・・・・・・・試してみるか?」


 徐に取り出したマヨネーズをマスカットの一粒に掛けて口に入れる。


「!?」


 何とも言えない危険な味がした。

 甘いとか、辛いとか、そう云った味じゃ無かった。

 口に出来ないほど不気味な味わいが、全身を嘗め回すかのような感覚と共に襲い来る。

 敢えて言うのであれば四次元の味。

 この味わいを口にできる言葉を俺は持っていない。

 一言で言えば……


「クソ不味い!!」


 本気で涅槃に飛ぶような味だった。

 こんな不味い物を俺は今まで味わった事が無い。

 混ぜるな危険! 最高にデンジャラス!!

 危うく天国に行く所だった。


 マヨがさっぱり系でも無理だよ。


「・・・・慣れて来ると・・・・美味しい・・・」


 マジでっ?! 嘘でしょ?!

 おや? 良く見るとメリッサさん、肌の色つやがやけによろしいですね?

 何で……まさか、マヨマスカットの影響か?


 鑑定さん、宜しく。


 ======================================


【マヨマスカット】


 エレメント・マスカットにマヨネーズを掛けた簡単な料理。

 その味わいは異次元的な物であり、心臓に悪い人にはお勧めしない。

 エレメント・マスカットの魔力により、マヨネーズの成分が変質した為に味が酷くなる。

 ただし、美容効果は飛躍的に高まるので、数粒食べるだけでツルツルテカテカに……。

 あまりにも不味いので試す事は危険である。

 最悪、死んじゃうよ?


『うふふふ・・・・・・引っかかった♡』


 ======================================


 野郎……先に伝えておくべき注意事項じゃねぇ―か!!


 美容効果は凄いけど、一歩間違えば御臨終じゃないかよ!!

 何で、この危険性を先に言わねぇんだ!

 あーっ、口の中が気持ち悪い……。異様な感覚がまだ口の中に残ってるよ。

 何故、何個も食えるんだ?

 味覚がおかしいですよ、メリッサさん!


「酷い目に遭った・・・・・森の幸すら油断が出来ねぇ・・・」


 神域は龍穴から大地の魔力を貯え、その魔力を結界内に名が撃事で維持されている。

 高濃度の魔力は生態系を変質させ、それは様々な方面で強力な効果を生み出す様だ。

 魔物ならより凶悪に、動物なら過酷な自然環境に耐えられるように進化し、植物なら種保存の為により美味しく、他の生物に種子を運んで貰う為に破格の効果を獲得する。

 薬草なんかも外の世界よりは高い効能で、同時に下手に調合できない高い技術力を要求される事となる。

 下手に調合すると高い魔力によって変質し、ただのマヨネーズすら吐き気を催す最悪の味になると云う訳だ。

 

 何て恐ろしい場所なんでしょう。

 ここは楽園ではありません。ただの危険地帯です。

 弱者は淘汰され、強い者しか生きられない地獄ですぜ。

 まぁ、冒険者なら一獲千金を夢見て挑むのでしょうが、開放はしませんよ?

 こんな所に来たら犠牲者の数がパネーですわ。

 最低でもランク5は欲しい所です。


「外の冒険者の平均ランクが4だから、先ず死ぬな……。命知らずも逃げ出すぞ」


 さて、採取も大体済んだ事だし、帰りますか。

 モーリーが餓死する可能性が高いですし、夕食の時間にも間に合わんだろ。

 準備するのは俺なんです。


 ―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


 何でしょう? この地響きは……。

 ヤバい感じがします。


「もう少しで倒せるぞ!」

「気合を入れろっ!!」

「右舷、弾幕薄いよ! 何やってるのっ!!」

「おいっ! 地面が何か揺れてるぞ? 地震か?」


 まだベフェモスと闘ってたの?

 それよりも逃げた方が良いんじゃないですかね?

 明らかに此方へ使づいて来てる気が……


 ―――GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!


「なっ、何だぁ~~~~~~~~~~~~っ!!」

「で、デカい……こいつはっ!!」

「聞いてねぇよ、こんなのっ!!」


 言わんこっちゃない。


 地中から出て来たのは長い胴体のドラゴン……龍と言った方が正しいのか?

 やけに刺々しい鱗が凶悪な印象を受けるが、見た感じ水生生物にも見えなくも無い。

 傍にいたベフェモスを一撃で昏倒させやがった。


 陣形を組んでいた獣人達は分断され、陣形はズタズタ……。

 どう見ても上位種なんだろうけど、威圧感がハンパ無い。

 何よ、こいつ……


 ======================================


【ガイア・リヴァイアサン】 ランク7 Lv99


 地上で生息するリヴァイアサンの亜種。

 獰猛で暴食、防御力が異常なまでに高い最悪クラスの竜種。

 魔王ですら戦う事を躊躇う最強の地上モンスターでもある。

 泥や岩などを体に纏い、自身の魔力で強固に固めている。

 一度目を付けられたら逃げる事は困難なため、戦うより道は無い。


『獣人さん、逃げてぇ―――――――――っ!!』


 ======================================


 魔王クラスが出たぁ―――――――――――――っ!!


 最早怪獣ですぜ。

 こんな奴を相手に出来るのなんて人間には不可能。

 俺なら必死で逃げるね。


 さっさと逃げ……ヤベ、奴はブレスを吐こうとしてやがる。

 射線上には獣人と……ゲッ!? メリッサ?!

 何で呑気に木の上でマスカットを食ってるの?! そこ、ヤバいからね!!

 しかも御替わりを所望しておじゃる。


「不味いっ、間に合えぇ―――――――――――――――――っ!!」


 俺は全力で飛び出し、背中の獄煉丸を抜き放った。

 急速に接近してくるリヴァイアサンの面に、思いっきり斬撃を叩き込む。

 血飛沫が舞うが傷口は浅く、大したダメージにはならなかった。


「か、固ぇっ!!」


 全力で斬り付けたのに、かすり傷より少し深いだけ……とんでもない防御力。

 奴は俺に目を向ける。

 まるで蠅でも追い払うかのように、長い首を振り俺を弾き飛ばした。

 その勢いは凄まじく、俺は巨木に叩き付けられ大穴を穿つ。


「カハッ・・・・・・」


 一瞬、息が詰まった。

 衝撃が全身を走り抜ける。


 奴は俺に顔を向け、ため込んだブレスの標的を俺にして放った。


「やば・・・・・・・武神化!」


 まだ体中が痺れて動き辛い。

 それでも防御力を少しでも上げるべく、俺は切り札の一つでもある武神化を使う。

 迫りくる灼熱の炎は俺を包み込み、巨木をぶち抜き吹き飛ばした。


 幸いにも獄煉丸は炎属性。

 更に俺の武神化で強化され、その威力は格段に跳ね上がっている。

 ある程度の炎なら操る事が可能であり、ブレスの威力を拡散させて難を逃れた。


「豚魔王より強い・・・・・・・」


 格が違い過ぎるぞ!!


 奴は俺を完全に敵とみなしたようで、強力な岩の弾丸を容赦なく撃ち込んで来る。

 それを迎撃して粉砕する俺、何処のスーパーな野菜戦士なのでしょう?

 効果ないと判断したのか、奴は全力で突っ込んで来る。


 ―――GYOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAA!!


 大音響で奴の方向が森中に響き渡る。

 通常なら委縮するレベルだと思う。


 巨体とは思えぬ速度で突っ込んできた奴を、俺は紙一重で避けながらも背中に斬撃を加えた。

 やはり背中も硬く、大したダメージは与えていない様だ。

 リヴァイアサンは巨木に突っ込み、大音響を立てて巨大な木が倒れて行った。

 周囲に日が差し込み、奴の姿を明確に照らし出す。


「おいおい……まるで鎧だな」


 泥と岩で固められた鎧は前進を覆いつくし、鉄壁の防御を誇っている。

 更に巨体に似合わぬ俊敏さと、そこから放たれる圧倒的な攻撃。

 地上に降りた俺は奴に向かい走る。

 それに気づいていたかは定かではないが、奴は長い尻尾を振る事で周囲の物を弾き飛ばした。

 膨大な土煙が森中に舞う。


「喰らえ、煉獄炎!!」


 魔術では無い鬼神の特殊攻撃。

 着弾すると圧倒的な熱量で周囲を灰燼と化す必殺攻撃だ。

 リヴァイアサンの体を覆っていた瓦礫の鎧は赤熱化し、溶岩の様には流れ剥がれ落ちて行く。

 これで防御力は格段に落ちた筈だ。

 

 雷を獄煉丸に集め収束させる。

 俺の魔力で生み出された雷は獄煉丸に纏う形で一点に集まり、巨大な大剣のように長く伸びた。

 所謂、ビームサーベルだ。

 別にライトセイバーでも構わないが、効果はどちらも同じだろう。


 流れ落ちる溶岩の中へと突っ込み、奴の懐へと飛び込んだ。

 大型の魔物は比較的に腹部が弱点の事が多く、どうやらコイツも同様の様である。

 柔らかそうな腹部目掛け、俺は獄煉丸を振りかざした。

 やってて良かったMHG……あれ? いつやったんだけ?


 ―――GYAOOOOOOOOOOOOOOOO!?


 大量の血液が腹部から飛び散り、リヴァイアサンが苦悶の叫びを上げる。

 いや、コレは致命傷を与えたのかもしれない。

 俺は容赦なく獄煉丸で斬撃を繰り出し、奴の傷口を広げて行く。

 だが、奴は俺を押しつぶす為に全身の力を抜いて倒れ込んで来た。

 幾ら俺でもこの巨体の重量を支える事は出来ない。

 

「ピット・ホール」


 落とし穴を連続で掘り、その穴の中へと逃れた。

 正直危なかったと思う。

 もし逃げる為に走りでもしていたら、間に合わなかっただろう。


 ・・・・・あ……嫌な予感。


 恐る恐る上を見上げると、俺がいる穴を奴が真上から覗いていた。

 奴はゆっくりと頭を上げると、俺がいる穴を目掛けて思いっきり頭部を突っ込んで来た。

 焦る俺は横穴を掘り続けたが間に合わず、奴が掘り続ける為に動かした足に弾き飛ばされ、大量の土砂と共に外へと放り出される。


 高々と飛ばされた俺は、その時……確かに永遠とも思える時間を感じた。

 周囲の動きがやけにゆっくりと感じられる。

 体制を整えるべく身を翻し、そこで見た物は奴が大口を開けて迫ってくる光景であった。

 再び獄錬丸に雷を纏わせ、奴の口に目掛けて飛び込んだ。


 迫りくる生えそろった牙。

 それよりも早く俺は奴の食道へと落ち、そこから肉壁に向けて剣を突き刺す。

 後は自重と勢いで斬り裂くだけであり、運を天に任せるだけだ。

 奴が痛みで暴れる程に傷口は広がり、俺は体内の奥へと落ちて行く。


 すると、奥の方からやけに明るい光が見え……て、奴のブレスじゃねぇかっ!!

 ヤバい!! このままだと突っ込んじまう!!

 多分倒せる所までは着てると思うが、これだと俺は灼熱の炎に突っ込んじまう。

 どうするか……あ、もう一つの切り札があった。


「鬼神化っ!!」


 鬼神化は炎に対しては完全な耐性を誇っており、炎系統の魔法は無力化される。

 同時にこのモードでは自身が炎を操る事が可能で、何よりも灼熱の浄化の炎を身に纏っているのだ。

 問題はこの姿だと異様に腹が減る事だろうが、今は緊急時なのでそれは無視。

 俺は奴の放つブレスを迎撃すべく、全身全霊を掛けて炎を集めて撃ち込んだ。


 ―――DOGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!


 爆発に巻き込まれて宙を舞う。

 何か、こんなのばっかしだなぁ~……今日は。 

 

 俺は地上へと着地すると、奴は喉元に大穴を開けて虫の息であった。

 止めを刺してやるかね。


「鬼神斬」


 膨大な魔力を込めた斬撃が、ガイア・リヴァイアサンの首を斬りおとした。

 程なくして奴は光となって消え去り、何かが俺の中へと入って来る。

 脳内を流れる情報を見る限り、ドロップアイテムが可成りの数に上る様だ。

 確かめるのは後でいいだろう。


 ―――パチパチパチパチ。


 顔を上げるとメリッサが俺に拍手を送っていた。


「・・・・・・ん・・・・お疲れ・・・」

「疲れたし、腹も減った。そろそろ帰るか?」

「・・・・ん・・・」

 

 マジでお疲れだよ。

 豚魔王よりも強いんだもん、少し疲れた。

 もう、こんな油断のならない場所にいるのは懲り懲りや。

 早く風呂に入りたい。

 

 俺達はこの修羅の森を後にし、城塞都市へと帰るのであった。



 * * * * * * * * *

 

 

 城塞都市に戻ると街は茜色に染まり、通り過ぎる人々は忙しそうに足を速め家路を急ぐ。

 これから家族や夕食の準備に追われるのだろう、其処には平穏な空気が流れている。

 とても此処に住む殆どが難民とは思えない。

 まるで当たり前のように日常を過ごし、細やかな営みに満足している。

 一歩外に出れば過酷な生存競争の森が広がっているとは思えない光景だ。

 この神域は天国と地獄の差が激しい。


「おっ? 王様じゃん。今ダンジョンから帰りか?」

「おぉ! これはレン殿。久しぶりの休日で羽目を外し過ぎましたわい。つい熱くなって17階層まで行ってしまいましたぞ」

「・・・・・・此処のダンジョン、そんなに難易度が低いのか?」

「いえ、寧ろ異常なまでに高いですな。今後の仕事が無ければ、攻略に明け暮れたいほどの刺激でしたぞ!」


 良いのかよ、王様よ……体が資本の筈じゃないのか?


「丁度階層ボスを倒しましたのでな、今日は城に戻って、明日はのんびり休養を取ろうかと思っています」

「その方が良いだろうな。何せ体が資本の政治家だ、何かあったら困るのは国民だぞ?」

「若返ってからと云うもの、身体を動かしたくて仕方が無かったのですが、いざ動かしてみると鈍っておりましたわい」

「程々にしておけよ……どんたけ無茶して来たんだ」

「再び挑戦する前に鍛え直さんといかんと分かっただけでも収穫でしたぞ? 戦利品もかなり良い物が手に入りましたからな」


 元気過ぎるだろ!

 本当に死の淵だったのかよ、この爺さん。

 いや、見た目は少年だけどな。


「次は50階層を目指したいと思っております」

「熱いな……さっさと後継者を作って隠居したらどうだ?」

「……成程・・・今の躰は若いですからな。今度は育児に失敗しない様にせねば……」


 長男はロクデナシ、次男は芸術に現を抜かし、長女は脳筋。

 確かに育児に失敗してんな。

 つ~か、本気で考えてやがる!?


「こいつはお土産だ。家族と共に食べると良いぞ」

「これは?」


 アイテムボックスから取り出したエレメント・マスカットを、フレアランスにお裾分けしました。

 だって、獲り過ぎちゃったんだもん♡

 知り合いにお裾分けは当たり前だよね?


「エレメント・マスカットだ。森で大量に生っていたんで収穫して来た」

「な、何とっ?! 外の森にはこの果物が大量に存在するのですか?!」

「ランク4程度じゃ死ぬような修羅の世界だ。嘗めて掛かると地獄行きだがな」

「それは……中々楽しそうですな」


 やべぇ、王様を煽っちゃった?!

 スゲェ~行く気満々だよ。


「行くのは構わんが、後継者問題を何とかした方が良いぞ? 魔王クラスが普通に生息しているからな」

「ほぅ……血が滾りますな。是非とも、その壁を超えたいものです」


 この人、実はもの凄く血の気が多いんじゃね?

 良く覇王にならなかったもんだ。


「俺はこれから帰るが、くれぐれも体は大事にしろよ?」

「無論です。ここで死んだら国民に顔向けができませんからな。はははは……」


 本当に分かってる?

 だって、去り際に『政治に優秀な子を育てるには、良い母となる女性を選んだが良いだろう。ストール伯爵の娘は母性に溢れているとか……第三后妃になってくれるだろうか?』なんて言ってやがりましたし。

 独り言の積りでも口に出してんじゃん。

 さっさと隠居する気満々じゃん。


 大丈夫かね、この人の国は……。

 まぁ、人の御家庭に口出しする気は無いけどね。


 こうして俺達は帰路に就いたのだが、この時俺は忘れていた……。

 転移ゲートを使うには、再び登山をせねばならない事に。

 

 長い石階段を上り詰め、ゲートまで辿り着く頃にはすっかり星の空であった。

 案の定、家に戻ったら空腹でモーリーが腐っていた。


 俺の所為じゃねぇ―よ!!



 久しぶりのバトル展開。

 ほんの少しだが難しいです。

 今後も増やして行きたいのですが、中々話が……


 この様な話でも楽しんでくだされば幸いです。

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