疑惑を持たれた。その趣味は俺には無い!
明けまして、おめでとうございます。
今年は……良い年であって欲しいですね。
去年は散々でしたから……ハァ…。
新年早々溜息が出るこの頃です。
森は良い。澄んだ空気が魔物の本能を呼び覚ます……
この豊かな自然の中に戻った時、俺は自分の中に宿る野生の本能を目覚めさせる。
そう、束縛から解放されたかのような爽快感。
勝てぬと分かっている筈なのに、健気にも牙を向けて来る魔物達。
それを圧倒的な力で排除した時、自分が元は魔物である事を実感する。
例え理性に縛られ様と、刹那的に目覚める野生の本能を解放た時、俺は言いようの無い充足感を感じるのだ。
意味も無く詩的になったかな? ……フッ…
どうも、レン君です。
現在、モーリーとメリッサを引き連れて、絶賛採取の真っ最中。
二人は嬉々として採取に吶喊し、いつの間にか俺を置いて行ってしまった。
そんな俺は、採取以外にも魔物(寧ろ此方がメイン)を殲滅し、アイテムボックス内をアイテムや素材で潤している。
何で、採取なんかをしているかって?
それは当然、俺の所為。
いや、思わず感染症に効く神薬を製作したでしょ?
考えてみるとアレ、他の錬金術師や薬師では作る事が出来ねぇ―んだわ。
で、素材に使った仙薬のレシピを教えた所、今度は素材集めを頼まれました。
あの裸族女、人使いが荒いったらありゃしない。
俺達が冒険者と知るや否や、問答無用で採取に叩き出しやがりましたよ。
けど、仙薬って錬金術と薬術で作れるのね。何か変!
錬金術師としての仕事じゃ無かったのか? ギルドの求人告知にそう書いてあったぞ?
しかも通信宝珠とやらで早速連絡していやがったし、どうやら他の村にも国から派遣された医者達が要る様で、彼等に治療薬の製造法を伝えたおかげで活動が活発化した。
重傷者は俺の作った神薬で治療したが、以前として症状が出ている患者がいるのだから仕方が無い。
でもね? 片道三日の長旅をしてきた俺達を、いきなり採取に放り出しますか?
まぁ、それだけ切羽詰まっているんだろうけど、準備も無しに採取に向かわせるのは危険だと思う。
そんな訳で、俺達は彼是三日ほど採取に勤しんでいます。
「たく……メリッサとモーリーは何処に行ったんだ? 採取だと凄く張り切るからなぁ~」
行ったきり戻って来ない二人。
失って初めて分かる重要さ……淋しい。
最近俺、扱いが適当過ぎる気がするんだが、どうなんでしょ?
二人とも我が道を行く人達だし、俺が傍にいる必要なんてないんじゃね?
いっそ、神域に引き籠った方が良いような気がしてきている今日この頃です。
「神様になるもんじゃないな、暇でしょうがない」
どこかの守護龍みたいに好き勝手に生きられれば良いんですけどね、俺はそこまで奔放じゃないんですよ。
寂しいと死んじゃいそうな繊細な性格なんです、多分だけど……。
力があっても、使い道が無いんじゃ意味が無いじゃん。
だって、チートほど狡い物は無いんですよ?
普通なら何百年もかかりそうなものを簡単に作れるし、知識が在れば非常識な存在を作る事も可能。
俺、この世界で存在する意味があるのかなぁ~?
少し、ナーバスになってます。
「ホントに何処へ行ったんだか……」
意味も無く呟いてみるが、誰も居ない。
ボッチです。寂しい……
「う~ん……向こうにでも行ってみるか」
あてもなく森を徘徊する俺。
安心してください、ボケてませんよ?
痴呆症でもありません、何となく歩いてるだけです。
「ん? これは……カボチャ?」
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【グレート・パンプキン・ゼロ】 Lv68 ランク4
見た目はカボチャ、中身はカボチャ。
ツルで獲物を捕らえ寄生し、養分を吸い取る食獣植物的な魔物。
実は調理すると美味であり、種を食べると寄生される。
最高級食材だが、調理するにはかなりの熟練度が必要。
生で食べるとランダムで状態異常を引き起こす。
飛び道具などの攻撃は物質の慣性運動を殺され効果が無い。
魔法攻撃は一切無力化され吸収される。
『生で食べてみぃ~、美味しいよ♡』
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「・・・・・・食わねぇよ」
つーか、名前が何となくカッコいいのが無性に腹立つ。
カボチャの分際で生意気な。
それ以前に、鑑定さんがウザい。
前々からちょくちょく干渉して来るし、余計な一言がムカつく。
そう思うのは俺だけでは無い筈だ。
取り敢えず倒してみる。
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【グレート・パンプキン】
甘みもあり、最高級の野菜食材。
刳り貫いてランタンにする風習がある地方では、良く栽培されている。
栽培したカボチャは味が劣り、天然の魔物からドロップ出来る食材の方が高価で取引されている。
このカボチャから取れる種には寄生能力は無く、畑に蒔く事が可能。
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あれ? 魔物から直接収穫すると、性質が変わるの?
養殖物より天然物の方が美味しいて事かな?
魔物から収穫するには骨だけど、栽培したらただのカボチャになるって、どゆこと?
やっぱり、土地と水の所為なのか?
分からん……
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【カボチャ・パンツ】
女性用の下着。
見た目がダサく、最近では履いている人は少ない絶滅危惧種。
主に子供が履く下着として定着している。
特に幼児向けとして幅広く愛用されているみたいだよ?
オムツの上から履かせるんだけどね☆(キラリ)
『履きますか? 意外に似合うかもしれませんよ?』
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「履かねぇ―よ……。つーか、何でだよ!」
何で、こんなのがドロップするの?
カボチャ繋がりか? つーか、要らねぇ!!
こんなの手に入れた所で使い道がねぇ―じゃんよ。
魔物から入手できるドロップアイテムが良く解らん。
明らかに笑いを狙っている奴が多かったりするし、何なの、この世界……。
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【小さいオッサン】
元冒険者でグレート・パンプキン・ゼロに喰われた被害者。
魂が成仏できず魔石化し、魔物として復活したが弱い。
妻と娘に逃げられ、酒に溺れて身を崩し、冒険者として再起を謀ったが失敗。
魔物化した所為で更に落ち込み、カボチャの中で引き籠ってた駄目親父。
それ以前に職場で女子職員にセクハラし、クビになった経歴を持つエロ親父でもある。
バーコード頭と冴えないメガネが特徴。
中にはハゲもいるが、今回はハズレである。
下着姿に腹巻、ステテコ姿が主な装備である。
酒と女がとにかく好きで、見た目から人気が高い事を良い事に、セクハラに勤しむ駄目な魔物である。
一般には殲滅対象として認識されている。
未だに往生際が悪く、逃げた奥さんに未練たらたら。
手のひらサイズ。
『シリーズ、集めてみるかい? 結構、数が多いよ?』
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「・・・・・・・・・・・・・」
どうしろと云うんだ?
こんなのドロップしても意味ないじゃん。
それ以前に、当たりハズレがあるの?
見た目はゆるキャラみたいなんだけど、どう考えても討伐対象だよな?
つーか、魔物だよね? 何でドロップ出来ちゃうの?
「……殺るか?」
だって、要らねーし、邪魔なだけだよね?
使い魔としても使えないオッサンだよ? 殲滅対象らしいし、殺しても良いよね?
『なぁ、お嬢ちゃん……』
「喋ったっ?!」
吃驚だ。こいつ、言葉が話せるのかよ。
まぁ、元は人間みたいだけど、今は只の有害指定生物だな。
『お嬢ちゃん、酒、持ってねぇ―か?』
「何でだよ。持っていたら、どうしろっつーんだ?」
『俺に寄越せや、楽しませてやっからよぉ~』
こいつ、意外に図々しい生き物なんじゃないか?
『俺が大人にしてやんぜぇ~』
「・・・・・・・・・・・」
何かムカつく。
見た目は可愛い……と言えるか微妙な所だが、口元に嫌らしい笑みを浮かべているのが気に入らん。
それ以前に……
『なぁ~、胸をデカくしてやるからよぉ~。酒くれよ、嬢ちゃん』
「俺は男だぁああああああああああああああああああああああっ!!」
―――グシャァアァァァッ!! 『ぎゃぶらっ!!』
獄煉丸で叩き潰してやりました。
ふざけやがって、誰が嬢ちゃんだ。
そりゃ~見た目がこんなんだから仕方いけどよ、おっさんに声を掛けられて誰がが喜ぶんだよ。
それ以前に俺は子供体型だぞ? ガキになんつ―事言いやがるんだ。
『経験値、1入りました』
しょぼっ?!
『380万6000リル手に入れました』
多いよっ?! 何で経験値が1なのに、そんなに金が入るんだよ!!
雑魚だよね? おかしくね?
『加えて、おっさんのパンティーコレクション10000点セットをドロップしました』
下着泥棒?!
10000点て、常習犯…寧ろプロじゃねぇか!!
まさか、下着泥棒でこの森まで逃げてきて、寄生されたのか?
それ以前に、要らねぇ!! 俺が犯人にされるじゃねぇか!!
「これ、処分した方が良いな……」
俺はドロップしたオッサンのコレクションを目の前に出し、ファイアーボールを撃ち込んで焼却した。
何か、自分で盗んだ物を裏で処分しているみたいで遣る瀬無い気分になったよ。
直接犯罪を犯した訳でもないのに、何でこんなに後ろめたい気分を味わなくちゃならねぇんだ?
小さいオッサンめ……余計な物を置いて行きやがる。
「ハッ?!」
今、何か視線の様な物が……
何となく視線を感じた方向を見ると、其処にはポニーテールのダークエルフの女が驚愕した目を俺に向けていた。
あれ? この人は……豊穣神の御付き人、確か……アーシェラだっけ?
何でいるの?
そして、何故そんな信じられない物を見るような視線を俺に向け……アッ…?
「まさか、貴方様にその様な趣味があるとは思いませんでした……」
「いや、俺のじゃねぇ―からっ、小さいオッサンの持ち物だからね!?」
やべぇ、下着泥棒と勘違いされた!?
「そこまで女性の下着に興味がおありだなんて……」
「無いからっ、こんなの集めた所でしょうが無いじゃん!!」
「そんなに御自分の下着が欲しかったのなら、一言私達に申し付けて下されば良かったものの……」
「待てっ、何で俺が女物の下着を欲しがるんだよ!!」
「ブラは無理でも、ショーツ位なら何とか……」
「だから、何で俺が欲しがっている事が前提なの?! ただのドロップアイテムを処分しただけだ!!」
この人、盛大に勘違いしてやがる。
一体、俺をどんな目で見てんだよ!!
「……男と女の間に揺れて、思わず窃盗した女性物の下着を処分していたのでは?」
「ちゃうわっ!! 誰が欲しがるんだよっ、中身があるなら兎も角……」
「目覚めた訳では無いので?」
「何に目覚めるんだよっ、盛大な思い違いだっ!!」
「履こうと思った事は?」
「無い、断じて無いっ!!」
「・・・・・・・チッ・・・」
舌打ちした?!
俺が女に目覚めるのを待ち望んでいるのかっ?!
真面な奴だと……いや、考えてみれば、あの女神の眷属が真面な筈は無いな。
今の態度で十分理解できるし。
「何か、失礼な事を考えていませんでしたか?」
「気の所為だろ。 ただの被害妄想だ」
意外に勘が鋭い。
ただの変人では無かったのか……。
「他の二人はどうしたんだ? 今日はアンタ一人? セネアとイネアレーゼはどうしたんだよ」
「セネアは現在炊き出しの最中、イネアレーゼ様は王族と会談中です」
「あぁ~……難民受け入れの準備か」
「ハイ。あの後3000名ほど聖域に難民が加わりましたから」
「はいっ?! 何でそんなに増えてんだよ、今メルセディア聖国は分裂の真っただ中だろ?」
「貴族達の独断専行ですね。セコンダリア獣帝国の国境付近の村や街を集中的に狙って来ています」
奴隷売買で私腹を肥やしている連中か……腐ってるねぇ~。
「で? 獣帝国は動いたのか?」
「はい。貴族軍は真っ先に殲滅されました。ついでに国境の何割かも奪い版図を広げている模様」
「聖国は馬鹿な真似をしたな。聖域が崩壊した以上、自分達に大義なんかねぇのに」
「獣帝国が存在しているから聖域が穢れたと言い出しまして、一分の狂信的な貴族が行動に移した模様」
「馬鹿は何処にでもいるか……で? アーシェラは何でここにいるんだ?」
何となくわかるけど、一応確かめるのは間違いでは無いよね。
「ノモモ村で治療活動に従事していまして、素材集めです」
「俺と同じかよ」
「錬金術師として薬の制作に来たのですけどね……」
其処も同じか、冒険者資格をもっている奴等は徹底的にこき使う訳ね。
て事は……
「アーシェラも冒険者なのか?」
「イネアレーゼ様とせネアで、【青い風】と云う冒険者パーティーを組んでいますが?」
「セネアは兎も角、あの無自覚ボランティア趣味の豊穣神が冒険者なんて出来るのか?」
「依頼の最中で立ち寄った村で善行を励んでいますが、その所為で依頼を失敗する事が度々……」
「駄目じゃん。依頼は期限付きなのが殆どなんだし、その所為で困る人もいるんだぞ?」
「一度、流行り病で村が全滅しかけ、その治療に専念している間に依頼した街がドラゴンに焼き尽くされました」
凄まじい話だ。
村を助けなければ街が助かったが、代わりに村の人々が死んでいた。
村を優先したために街一つが滅ぶ……天秤にかけられない問題だ。
どちらが正しいと言えないのが辛い所だな。
「因みに、その街は下衆な領主が作ったカジノが数多く存在し、街の住人も裕福層の人達でしたね。奴隷を連れ歩くような成金趣味の人々が数多く住んでいましたよ」
滅んでよかった……良かったのか?
幾らゲスい欲望の街でも、真面目に働いていた人もいるだろうし……。
「その街を任された代官は裏組織の人間で、その街自体が犯罪者の巣窟となっていたらしいです」
滅んで正解でした。
そんな街は消えた方が良い。
「レン様も採取ですか、どんな素材でしょう?」
「俺の場合は簡単に手に入る物だな。ソザギリの葉とか……」
「私の場合は……カイザーバッファロー胆石ですね。中々見つからなくて困ってます」
「代用できるスタンピード・ホルスタインの胆石ならあるぞ?」
以前、豚魔王を倒しに行った時に、森に入る前に襲われたんだよねぇ~。
殲滅したら大量にドロップしたから余ってます。
「では、交換してくださいませんか? この辺りでは採取不可能みたいなので」
「良いよ。何で交換するんだ?」
「マンダラの根ではどうですか? 何故か大量にあるので困っているのですが……」
「少しなら良いぞ? 俺も数がそれなりに持っているが、必要だからな」
「では、これとも交換してくださいますと、私も助かります」
「そ、それはっ?!」
アーシェラが手にしていたのは薄い本だった。
しかも美少年が、むさい野郎共に迫られている表紙が背徳的だ。
良く見ると主人公が俺に似ている……つーか、この本に見覚えがあるんだが……
「何で……そんな本を持っているんだよ?」
「モーリーでしたか? 途中で彼女達と出会った時に頂いたのですが、まさかレン様にこの様な性癖があるなんて……知りませんでした」
「ねーよっ!! それ以前にアイツは何してんだっ!!」
採取の最中に腐教活動をしてやがんのかっ?!
それより、何で俺がモデルになってんだよっ!!
何してくれちゃってんの、モーリー!!
名誉棄損で訴えるよっ、そして勝つよっ!!
「・・・・・・・実話では無いので?」
「当たり前だっ、そんな趣味は俺には無いっ!!」
「ホントに? 微塵の欠片も無いのですか?」
「無いっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ!」
すげぇ~、間があったぞ?
また、舌打ちしやがった。
こいつ、俺に何を期待してやがんだ?
「時にレン様、貴方様が担当する村に裸族はいませんでしたか?」
「はぁあっ?!」
何を行き成り、妙な事を口走ってんだ?
まぁ、実際一人居るが……
「何で裸族だよ……そっちの村には大量にいるのか?」
「保々、村人全員が裸族ですね」
どんな村だぁああああああああああああああああああっ!!
「牛のマスクを被り、毎日夜中まで踊りあかしているのですが……」
「奴等の同類か……関わり合いにはなるなよ?」
「なりません。私があのような変質的な趣味がある様に思えますか? レン様ではあるまいし」
「人聞きの悪い事を言うなぁああああああああっ!!」
こいつが俺をどう見ているのか、分かった気がする。
あれ? この辺りの村って、細菌に侵されて壊滅状態なんじゃねぇの?
何で毎晩サバトを開いてんだよ。
「此方の村は被害が少ないようです。なので他の村の援軍として採取を頼まれまして……」
「なるほど……」
つ―事は、意外に狭い範囲でアウトブレイクしてんだな。
感染源は何処にあるんだ? これは俺の仕事じゃないから良いけどよ。
多分、水源が汚染されているんだろうね。調べてみるか?
「この辺りの水源て、何処にあるんだ?」
「確か、あの山の麓に泉が有り、そこから水を引いている筈です。それより、早く素材の交換をしませんか? 少ないとはいえ、此方にも患者がいるのですけど」
「わりぃ、手早く用事を済ませよう。俺も仕事だしな……」
仕事……レベルAの感染病を癒すのは、果たして冒険者の仕事だろうか?
確かに、魔法薬は作れるが、これは違うような気がする。
医者や国家機関の仕事だよな? 魔物退治が本業の冒険者のする事じゃない筈だ。
それより、さっさと素材の交換をしよう。
あの裸族女、手ぶらで戻ったら怪しい宗教に入信させる様な事も厭わないと思う。
俺は嫌だぞ? 変な被り物を装着して、毎日全裸で踊りあかすようなカルト集団。
怪しい時空空間には踏み込みたくは無い。俺は自分の身が可愛いのだ。
保身のためなら、何だってする覚悟です!!
「・・・・・と、こんな所か?」
「助かりました。正直、何処を探しても見つからない素材が有りましたから」
「前に採取した残り物だがな、必要な時に使った方が良いだろう」
「そうですね。では、私はこれを村に運びますのでこの辺で……くれぐれも、趣味はお控えになった方が宜しいですよ?」
「だから、俺は女物の下着を盗む趣味はねぇ!!」
弁解の言葉を聞く積もりが無いのか、彼女は瞬時に消え去った。
『またまた、御冗談を…』と云う言葉御残して……。
野郎、信じてねぇ!!
俺の変態疑惑が消えるのは何時なのだろうか……泣いて良いよね?
「打ちひしがれてる場合じゃないか……水源に様子を見に行ってみるかね……」
感染症に感染するには、いくつか種類がある。
咳による飛沫感染、手を触れた事による接触感染、そして口から体内に侵入する経口感染。
前の二つはまず違う事から考えると、どうも経口感染の方が確率的に高い気がする。
毎日口にするものを考えると、水と考えた方が自然だ。
で、この辺りの井戸は水源から水を引いているらしく、その水源が汚染された場合、広範囲に病原体が広がる事になる。
井戸を鑑定した事は無いが、恐らく汚染されている事だろう。
まぁ、予想を確かな物にするため、確認をしに行くのは間違いでは無い筈だ。
「あの山の麓だったな……」
北西の方角に一際は高い山が見える、距離的には大分近い。
んじゃ、行ってみますか。
俺は本気で森を駆け抜けた。
流れて行く木々がハッキリ言って怖い。
単に俺が走る速度が速いだけなのだが、高速で接近してくる大木が、もの凄い勢いで俺を翳めて行くんだ。
ジェットコースターを乗れば分かると思うよ? 当たると痛いし……
事故になったらと思うと怖いね、人身事故だったらさぞかしグロい事でしょう。
真っ先に肉片です……うぇ~…。
「さて……水源は……?!」
臭う、もの凄い悪臭……これは腐臭か?
何と言いますか、鼻を突く臭いが漂っている。
正直、吐きそう。
「これは……ビンゴか?」
本気で行きたくないのだが、確かめないといかんでしょ?
うぇ……酷い臭いだ。
知らせるだけして、丸投げしよかね?
何だかんだ言いながらも、真面目に調査する僕……でも臭い。
足を進める程に臭いが強烈になるぅ~~~っ!
かすかに聞こえる水音が目的地が近い事を教えてくれるけど、これは酷すぎる……。
どう考えてもこれが原因だろう。
そして何とか水源に来てみたのですが……
「うげぇ……」
目の前には複数の屍が転がっていた。
しかも人間ですよ。こいつ等、山賊か何かか?
腐乱状態からして、だいぶ前に死んだようだな……一部白骨化しているのも見られる。
「これ……俺が始末するのか?」
やるしか無いよな? 一々村にまで戻って要請する訳にも行かんし。
一か所に集めて焼き払うか……
「ゴーレム・クリエイト」
数体の岩人形を操作し、屍を一か所に集める指示を出す。
だって、自分の手で屍なんて触りたくない。
しかも腐乱死体だよ? 俺は絶対に触りたくも無いよ、ヤバイ病原体が生息してそうじゃん。
そんな訳でして、腐乱死体を一か所に集めました。
ただ、気になる点がるんだけどね。
この死体、損傷は腐敗だけで、それ以外の痕跡が見当たらないんだわ。
つまり、何が原因で死んだのかが不明……近くに鍋が転がっているけど、それ以外は怪しい痕跡が見当たらない。
後は、散乱した荷物以外は無いな。
「こいつ等、何で死んだんだ?」
もしかして、間違って毒キノコでも食ったのか?
どう見ても一仕事を終えて、奪った戦利品を物色していたとしか思えん。
それに、荷物の脇に大量に転がっているキノコ……何だろね?
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【高級メガシイタケ(劣)】
最高級の美味を誇るシイタケ。
長時間放置されて劣化しており、味が著しく低下している。
最高品質だと多額の金で取引される。
===================================
これで一杯ひっかけてたのは間違いないな。
だが、死因が判明していないし……ん?
===================================
【擬態猛毒茸】
他のキノコに擬態する猛毒茸。
味は美味だが、食べると危険。
口に入れた瞬間、吐き気、眩暈、頭痛、痙攣、幻覚、などの症状が出る。
症状が出たら直ぐに適切な治療を行わないと死に至る。
毒性も強く、食べて直ぐに死ぬ事もあり。
『美味しいよ♡』
===================================
だから、食わねぇ―て!
成程、商品にこれが紛れ込んでいたのか。
こいつ等は商人を襲った後、キノコパーティーを開いている時に毒茸を喰ったんだな。
別に悪党がどうなろうと知った事じゃないけど、迷惑な場所で死んでくれたもんだ。
この馬鹿が水源で死んだ所為で細菌が繁殖、そして井戸に流れ体内に侵入し更に汚染……。
そしてこの騒ぎかよ……完全な人災だな。
「……メガ・フレア」
山賊共の死体を灰にしました。
肉の焼ける臭いが酷く臭い……凄く気持ち悪い。
念の為に周囲も焼き尽くし、雑菌を残らず焼却。
消火? ちゃんとしましたよ?
このまま山火事に発展したら大変です。
さて、サハラ村に戻りますか。
* * * * * *
戻ってきました、サハラ村。
取り敢えず素材を預けて来ますか。
「あっ、ご主人様! 遅かったですね?」
「・・・・・・ん・・・・・」
モーリーとメリッサが既に帰還していた。
君達、ちゃんと仕事をして来たよね? 遊びまくってたわけじゃないよね?
「モーリー……お前、何つ~物を世間にばら撒いてんだよ……」
「ギクゥ! な、何の事でしょう?」
こいつ、腐教活動を誤魔化す気だな?
「お前の趣味が腐っているのは別に良い……だが、何で俺がモデルなんだよ!!」
「ぐ、偶然ですよ! 偶々そうなっただけで……」
「偶然でアーシェラにあの本を渡したのか?」
「な、何でその事を……ハッ!」
語るに落ちたな。
自分で白状しやがりましたよ。
「お仕置き!!」
「うにゃぁああぁぁああああああああああああああああっ!!」
あの、嵐を呼ぶ伝説の園児を折檻する必殺技。
俺の拳がモーリーの両頭部にグリグリと炸裂する。
「お前は、俺がモーホーだとでも言いたいのかね?」
「NO――――――!! 暴力反対ぃ――――――――――っ!!」
「これは暴力では無い。教育だ!」
温いゆとり世代とは違うのだよ。
悪・即・斬!
「にゃぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
夕暮れのサハラ村に、お馬鹿の悲鳴が響いた。
ある程度お仕置きして満足した俺は、素材を裸族女に預け水源の汚染を報告した後、仙薬の製造に三日ほど費やす。
その後、この病気が沈静化したのを見届け、俺達はアットの街に帰還したのであった。
国からの依頼だったので、報酬はたんまりだったよ。
だが、何か大切な物を傷つけられた気がするのは、俺の気の所為であろうか?
モーリーの所為で、腐った人達が増殖して無い事を祈る。
井戸の滅菌? そんなの、国でやるでしょ。
俺は知らん。
* * * * * *
余談……某村
「うわぁ~……この描写、凄いわ……」
「此方も凄いですよ? 所で、この手の本は何処で手に入るのでしょう?」
二人の少女達は、薄い本を読み語らっていた。
それを見ていた少年二人は……
「二人は、遠い所に行ってしまったな……」
「あの汚れた視線が、俺達に向けられない事を祈ろう……」
彼等の目は死んでいた。
何もかも、手遅れの様だ。
腐敗は視覚感染するようである。