コースケ君、採取をする。
薄暗い森の中を俺達は必死になって歩いて行く。
周りは日が差さず湿り気が有り、多少ぬかるんでいる所もあって足を取られる事も何度もあった。
あっ、どーも……コースケです。
俺達が何をしているかって? 採取です。
いやね? あの日、スミズ村まで行ったんですけど……アウトブレイクの現場だった。
何だか知らない病原体が体の中で大量繁殖して、人間が生きたまま腐って行くんだよ。
正直、ドキュメンタリー番組で見た事ある様な悲惨な現場で参りました。
いや、マジで……
えっ? それで、何で採取しているかって?
何か、俺達が全員吐き気を抑えて蹲っている時にね? 通信宝珠とやらで連絡が来たんだよ。
特効薬が出来たって……いきなりだよ。
それから俺達は急に忙しくなってさぁ~……。で、採取。
分からない? 大丈夫、俺達も行き成り『素材取って来い』と言われただけだから、意味が解らん。
だって、着いてすぐに酷い状態の患者を見せられて、立ち直る前に特効薬が出来たから素材を取って来てくれと村を放り出されたんだよ?
長旅で休む間もなくだぞ、酷いと思わね?
それから他の冒険者達と分担して、周囲の森を素材を求めて彷徨っているんだ。
正直、聞いた事の無い薬草とかだけど、幸い俺達が知る素材もあったから助かった。
【ケミカルマッシュマン】の胞子だそうだ。彼是、三日ほど森の中を探し回っているよ。
ダンジョンで倒したけど、胞子なんてドロップしなかったぞ?
野生のモンスターとドロップアイテムが異なるのかな?
倒した後、消えるのは変わらないみたいだけど…。基準が今一解らない。
「あっ? これって、薬草じゃないの?」
「セリア、良く見つけたな……こんなに草が生い茂ってるのに…」
「私も見つけましたよ? クートさんは発見できないんですか?」
「無理、どれも雑草に見えて来る。どれが薬草なのか、さっぱり分からん」
「クート……お前が踏んでいるのが薬草だ」
「マジでっ?!」
クートは採取が苦手の様だ。
採掘なら面白いように鉱石を採掘するんだけど、性格が影響してるのかな?
「ケミカルマッシュマンを見つけないと、俺達は帰れないぞ?」
「そうは言うがよぉ~」
「こんな薄暗い森じゃ、あんな小さな魔物なんか見つからないわよ」
「掌サイズですからね。襲って来る時は集団なのですけど……」
ケミカルマッシュマンは弱い。
子供でも蹴るだけで倒せるほどに弱い。
問題は幻覚性の胞子を撒き散らし、他の魔物に敵を倒させ獲物を狩る習性がある事だろう。
奴等は倒した獲物に胞子を掛けて、苗床にするんだ。しかも集団で……
正直、厄介な奴なのは間違いない。
「時間が無い。俺達がもたついている間にも、症状が悪くなる患者が沢山いるんだ」
「感染症ですよね? 良く特効薬が見つかったものです」
「仙薬らしいわよ? 私達の知らないジョブが存在している様ね」
「仙人か……東方の島国にいると言う話は聞いた事あるけど、基本的に武闘派と云う噂だが?」
それ、仙人じゃねーだろ。
仙人と云えば基本的に世捨て人だし、薬術や宝具を作ったりしている生産職の筈だ。
ついでに幽霊などの退治を請け負う魔物ハンターの筈……キョンシーを使役したりしてさ。
あれ? 霊幻道士?
考えてみたら、仙人てのも良く解らん職業だな……。
「それじゃ、仙人が薬を作っているの? そんな人がいたら噂位にはなるのに……」
「かも知れませんね。薬師と錬金術師ですら作れなかった秘薬らしいですしね」
「グラードス王国は海があるからな、恐らく交易しているんだろう」
「だから仙人も居るのか……珍しいけど、あり得る…のかな?」
仙人て、そう簡単に見つかるモノなのか?
なんかおかしくね?
因みに、ケミカルマッシュマンの見た目は手足の生えたキノコだ。
ファンタジー特有のファンシーな外見の割に、幻覚剤だの毒薬だのを調合して撒き散らす。
中には魅了効果のあるフェロモンを放出するらしい。
意外に極悪な攻撃をして来るので厄介なんだよねぇ~。
「調合素材が錬金術と被るのは助かるな」
「だな。訳の分からん素材だったら探すのが困難だ」
「けど、肝心のケミカルマッシュマンが見つからないわよ?」
「警戒心が強いんでしょうか? どこかに隠れているのかもしれません」
そんな知能があるとは思えないんだけどなぁ~。
だって、キノコだよ? 菌糸で構築された魔物だよ? 複雑な思考があるとは思えん。
どこかの魔物みたいに、普通のキノコに擬態してるんだぞ。
恐らくその辺のキノコの中にいるかもしれない。
「クート……見逃してないよな?」
「「・・・・・・・・・」」
「・・・・・自信が無い。見逃したかもしれん」
みんな同じ考えに至ったんだね。
クートの奴がうっかり見逃したために、俺達が森を徘徊する羽目になっている可能性が高いんだ。
足元の薬草すら見逃すんだぞ? あり得ない話じゃないだろう。
「あんな毒々しい魔物を見逃すのか?」
「あり得ないわよね?」
「でも、クートさんだし……」
「ヒデェなっ!!」
いや、事実だし。
紫の笠に赤い斑点、どうやったら見逃すんだよ。
「大体、こんなにキノコが数多く生えているんだぞ? どれが奴なのか判別できないだろ」
「「「あっ?」」」
何気にクートが地面からむしり取ったキノコ。
紫の笠に赤い斑点……て、それは……
「「「お前が持っているのが、ケミカルマッシュマンだっ(よっ)(ですっ)!!」」」
「へっ?」
クートの手の中で、必死になってもがいてるケミカルマッシュマン。
予想を裏切らないお約束をぶちかました。
そのケミカルマッシュマンは、毒々しい緑色の胞子を撒き散らした。
「ゲッ?!」
「毒胞子っ?!」
「色からして、幻覚胞子のようです」
クートは緑色の胞子まみれになった。
俺はすかさず逃げ出そうとしたケミカルマッシュマンを蹴り倒した。
僅かに経験値とドロップアイテムが手に入る。
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【ケミカルパウダー】
ケミカルマッシュマンの胞子。
錬金術の素材となる薬効性の高い胞子である。
体内に侵入した悪性の微生物を抗菌する作用がある。
天然の抗生物質。
他の薬と混ぜる事により、その効果を高める作用がある。
魔法薬や仙薬に使用すると、その効果は飛躍的に高まる。
この世界のプロテインにも混入されているよ?
『君もガチムチマッスルを目指してみるかい?』
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「目指さねぇ―よっ!!」
「な、コースケ?! どうしたのよ、行き成り……」
「何か、余計な物まで見えたのでしょうか?」
何で、鑑定すると余計な一言が追加されるんだ?
このスキル……いや、この世界の法則は一々余計な一言が度々入る。
偶にウザいと思う事があるのは、俺だけじゃないよな?
「あっ、クートは大丈夫か?」
「そうでした。胞子を直接浴びたのでしたね?」
「大丈夫なんじゃない? だって、クートだし」
いや、セリアさん?
クートに関して、やけに冷たくね?
クートだからって何でも済まそうとしてないよね?
こいつも人間なんだよ? 酷くね?
そのクートは……
「・・・・・・・・・・・」
無言で俯いていた。
「おい、クート?」
「大丈夫ですか? まさか、毒だったのでしょうか?」
「緑色だったから幻覚性の胞子の筈よ? 真紫だったら毒の筈だし……」
クートの意識はちゃんとあるのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お・・・」
「「「お?」」」
「オ○レ兄さぁ―――――――――――――――――ん!!」
「「「変な幻覚を見ちゃってるっ!?」」」
奴の胞子は麻薬成分なのか?
クートが完全にキマちまってるよ。
ヤバい。完全に如何わしい薬を使った中毒患者の様になってる。
目は虚ろで、何か呼吸が荒いし……体が異常に震えてんよ。
「返せぇ~……○クレ兄さんの筋肉を返せぇ――――――――――――っ!!」
「お前、兄貴はいない筈だろ!!」
「どうでも良いから取り押さえるわよ、かなり錯乱してる!!」
「早く、回復魔法を!!」
「俺は……ガチムチ細マッチョの女が好きだぁ――――――――――っ!!」
「「「何、言っちゃってんのっ?!」」」
そんなカミングアウト、聞きたくなかったよ。
「胸板140cmが最高っ!!」
「それは細マッチョじゃねぇ、立派なガチムチだぁ――――――っ!!」
「性転換していれば問題なし!!」
「女じゃねーだろっ!! お前、どんな性癖してんだっ!!」
「クートさん……そっちの方だったのですか?」
「コースケ……お尻に気を付けて」
「錯乱しているだけだからね?! ……そうだと思いたい」
色々おかしな事になってる。
このままだとクートの人格が疑われかねないぞ?
いや、まさかとは思うが……潜在意識の中ではそっちの気があるのか?
だとしたら、俺、ピンチじゃん。
距離を置いて接した方が良いのかな?
幻覚の所為だと思いたい……。
クートが正気に戻ったのは、それから一時間後の事だった。
何をしていたかって? 見てたよ、だんだん面白くなって来たし……。
彼の名誉の為にも、何が起きたかは語らないで於く。
さて、ケミカルマッシュマンを探すか。
* * * * * *
「なぁ……お前等…。何で、俺から距離を取っているんだ?」
「別に……ケミカルマッシュマンを探しているだけだよ?」
「そうなのか? 他の二人は変な目で俺を見ているんだが……」
「気のせいよ。私達は何も知らないわ……」
「そうですよ……クートさんが両刀使いのガチムチでもイケる人だなんて、知りませんから……」
「何、言ってんだ?」
クートよ、世の中には知らない方が良い事もあるんだよ。
特に錯乱状態中、放送禁止的で表現不適切な言葉を口走ったヤバい話なんてな……。
俺達は、お前の名誉の為に口を閉ざしているんだ。
それだけでも分かってくれ……。
「全く……たかがキノコ探しが、こんなに時間が掛かるとは……」
「手足があるだけでなく、動き回りますからね。探すのも一苦労です」
「そうよねぇ~。見つける前に逃げちゃうし」
「アレは植物なのだろうか? 生物として見たら色々おかしいような……」
「キノコならそこいらに沢山生えているのにな」
クートが木に生えたキノコを無造作に採取した。
「「「あっ?!」」」
たちまち彼は赤い胞子に包まれる。
「「「学習しろよ……」」」
歴史は繰り返す。
二度あることは三度あるとも言うが……これは酷い。
俺は、落ちたケミカルマッシュマンを踏み潰した。
やっぱり経験値とドロップアイテムが懐に入る。
どうでも良いけど、何で金貨なんかも手に入れる事が出来るんだろ?
ファンタジー世界って、良く解らない摂理に満ち溢れてるよ。
「毒じゃないよな?」
「確か……魅了効果だと思いますけど……」
「嫌な予感がするわね」
魅了? スゲェー、嫌な感じがする……。
クートは未だ俯いたまま、身動きすらしない。
声を掛けるべきだろうか……?
「おい、クート……?」
俺が声を掛けた時、彼はゆっくりと顔を上げた。
しかも、何かもの凄く真剣な表情をしている。
「だ、大丈夫か?」
「あぁ……何ともない。心配かけたな……」
「……いや、雰囲気がおかしいような気がするが、……マジで大丈夫なのか?」
「すこぶる気分が良い。生まれ変わったような気分だ……」
あれ? 俺達の思い過ごし?
特に変な作用は無いみたいだけど……。
「なぁ、コースケ……」
「何だ?」
「お前、こうして見ると可愛いよな?」
「ハァッ?!」
何を言っちゃってんの、コイツ?
「何か……お前を見てると、心の奥から湧き上がる感情に押し流れそうになる」
「それ、まさかとは思うが……魅了の効果か?」
「魅了か……ある意味では確かに魅了されたのかもしれん。そう、お前にな……」
「何でだぁあぁぁぁあああああああああああああっ!!」
クートの奴、別方向で魅了されちまってるよ!!
つーか、惚れ薬じゃねぇか!! 誰か、ヘルプ・ミー!!
「そんなに怯えるなよ……ゾクゾクして来ちまうだろ?」
「誰だって怯えるだろっ、正気に戻れやっ!!」
「俺は、充分正気だが?」
「嘘だぁあああああああああああああああああっ!!」
ヤバい。
これは貞操の危機だ。
亜里沙達は、こんな時だと云うのに助けにも来ない。
まさか……
「クートさん……やっぱり浩介君の事…」
「これが噂のBL……まさか、この目で見る事になるなんて♡」
やっぱりだよっ!!
この二人、期待に満ちた目で俺達を見物してやがります。
裏切られた。
俺はノーマルだぁああああああああああああああああああああああっ!!
「おいおい、そんなに俺を否定するなよ。硝子のハートが傷つくだろ?」
「嘘つけっ!! メッチャ、タフなハートの癖にっ!!」
「何だかんだ言った所で、お前も期待していたんだろ? 素直に為れよ」
「俺は充分本気だっ!!」
「安心しろ、俺も本気だ」
何を安心しろと云うんだ?! 寧ろ、怖いよ!!
来るな。……そんな、俺を恋する乙女のような目で見るなぁっ!!
そして、何故に装備を外して俺の所に来る?!
「げっ?! 後ろが行き止まりだとっ?!」
ヤバイよ…俺、もの凄くピンチじゃん。
後ろが断崖絶壁……人生も崖っ淵っ、更に貞操は風前の灯火!?
「本当は、こうなる事を望んでいたんだろ?」
「んな訳あるかっ!!」
しかも、『壁ドン』で退路を塞がれた。
どうする……どうなるの、俺ぇっ!!
「……もう、俺は…自分の心を我慢する事が出来ない。覚悟は良いか?」
「良い訳があるかぁあああああああああああああああっ!!」
「いい加減、素直に為って俺を受け入れろよ。なぁに、天井の染みを数えている間に終わるさ」
「屋外じゃんっ!! 天井、無いじゃんっ!! しかも見物人までいるじゃんっ!!」
「それは、それで…燃える……」
「マジかよっ?!」
逃げ場がない。
ヤバいよマジで……殺るか?
クートは親友だろって? 誰だって我が身が可愛いんだよっ!!
こいつが一生モノのトラウマを抱えるのは良いよ?
けどね、俺までそんな経験はしたくは無い。
殺らなければ犯られる。犯られる前に殺れっ!!
友情? 何それ、美味しいの?
俺は迷いながらも剣に手を掛ける。
―――グフォルルルルル……
「「「「?!」」」」
何だ?
俺達が振り返ると、其処にはグレートボアが一匹姿を現した。
いや、何か見た目がおかしい。
===================================
【パラサイト・グレート・ボア】 ランク3 Lv53
ケミカルマッシュマンに寄生されたグレートボア。
攻撃力が大幅に上昇した危険な存在。
体中にケミカルマッシュマンを生やしている為、防御力は低い。
最低でも100匹近くが繁殖しており、胞子攻撃の危険度も格段に高い。
菌糸に侵されている為に肉の味は保証できない。
強い再生能力を持つ。
『惜しい……もう少しで薔薇の世界に扉を開く所だったのに…。残念、無念、また来週ぅ~』
===================================
「腐女子かよっ!!」
鑑定さん……俺が襲われる事を期待してやがったよ。
何つ~酷いスキルだ。腐ってやがる……
だが、助かった。寄生獣さん、ありがとう。
「俺の愛が成就すると処だったのに……よくも邪魔をしてくれたな?」
「愛はねぇから、一時的な気の迷いだからねぇ?!」
「もう少しで浩介君が……このお礼は倍にして返してあげないといけませんね?」
「ちょっと、亜里沙さぁ――――――――――んっ?!」
「チッ……このお邪魔猪が…」
セリア? 今、舌打ちしたよね?
俺が犯されそうだったのに、助ける気すらなかったの?
マジで今後の事を考える必要があるな、……独立した方が良いのかもしれん。
友情て、仲間ってなんだろね?
「死ねぇえええええええええっ、俺の愛の為にっ!!」
「愛はねぇて、言ってんだろっ!!」
剣を抜き放ち、グレートボアに斬りつけるクート。
―――ボシュウウウウウウウウウウウウウゥ!!
クート、三度胞子に塗れる。
そして……
「……お、オク○兄さぁ――――――――――――――んっ!!」
「いい加減にしろよ、今畜生っ!!」
再びキマった……。
何で簡単に引っかかるかな、一度経験してるのに……。
「クートは当てにならないわね」
「仕方が有りません。ウィンドストーム!!」
亜里沙が風の魔法で胞子を吹き飛ばした。
其処に俺とセリアが斬り込む。
「パワー・スラッシュ!!」
「ソニック・ファングッ!!」
短剣と大剣による斬撃で、パラサイト・グレートボアを斬り付けた。
だが、斬り口が菌糸で塞がれ再生して行く。
「こ、これは……」
「寄生されているから再生能力が異常に高い。炎系統の魔法剣で仕掛けるぞ!」
「了解、私は左から!」
再びグレートボアに向かって走り出す。
「我が剣に宿れ、暗き冥府の獄炎よ……ブラック・インフェルノバスター!」
「斬り裂く刃に、焼き尽くす炎の加護を与えん…フレイムソード!!」
俺の魔法剣とセリアの魔法剣の攻撃が、グレートボアの背中に叩き込まれた。
魔法を剣に加えると、耐久力が落ちるんだよなぁ~。
―――ギャピィイイイイイイイイイイイイッ!!
ケミカルマッシュマンが炎で焼き尽くされ、地面に落ちて行く。
何度も転がり火を消そうとしているが、食欲を誘う良い香りを漂わせて消滅した。
今夜はキノコの混ぜご飯にしよう。
「ファイアー・ランス!」
亜里沙の魔法が後方からグレートボアに突き刺さった。
爆炎に呑み込まれ、辺りを赤く染め上げる。
森の中で炎の魔法は危険だけど、こうでもしないと倒せないんだ。
山火事に為らない様に注意しないと。
炎に包まれながらもパラサイト・グレートボアは菌糸を周囲に伸ばし、周りから水分を補充しようとしている。
これって、水分補給で菌糸を急速成長させて再生するつもりなのか?
だとしたら不味い。再生させられたら、また元に戻っちまう。
「亜里沙!」
「はいっ! 大気よ凍てつけ、生きとし生ける者を氷塊に包め。フリージング・コフィン!」
「喰らえ、アイスランス・レイン!!」
「凍えよ氷結の風、静寂に消えよ命の炎……ダイヤモンド・ダスト!」
周囲が白銀に変わり、グレートボアは巨大な氷塊の中に閉じ込められた。
まだHPが存在している。このままタコ殴りにしよう。
「アイスランス・ドラッシュ!」
「アイス・ランサー!」
「止めのフレア・ナパーム!!」
グレートボアは粉々に砕け、爆炎が周囲を焼き尽くした。
経験値が入るのを確認すると、俺達は火消しに従事する。
何事も後始末が肝心だ。
「倒しましたね?」
「あぁ……ケミカルパウダーは?」
「まだ数が足らないわよ。もう少し採取しないと……」
ケミカルマッシュマンのドロップアイテムは少ない。
必要な数を揃えるのには、相応の数を倒さねばならないみたいだ。
「あの……クートさんは?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
忘れてた。
アイツはどうしているんだ?
「良い♡ キマってる……最高にキレてるよ、兄さん……。ハァハァ……」
「「「駄目だこりゃ……」」」
「YES、マッシブボディ!! ユニバ―――――――――――スっ!!」
何がだよ。
お前、今回役立たずだな。
その後、正気に戻ったクートを連れて採取を続けるのだった。
今度こそ変な胞子には気を付けてくれよ?
頼むぜ、マジで……。
* * * * * *
俺達はケミカルマッシュマンを殲滅するが如く徹底的に蹂躙していた。
だって、貞操の危機になったんだぞ?
こんな有害指定生物は殲滅するべきだと俺は思う。
特に、クートの活躍が目覚ましかった。
「クート……ケミカルマッシュマンに何か恨みでもあるの?」
「それを聞くのか? お前等は状況を楽しんでたから良いよな? 正気に戻ったら死ぬほど辛いぞ?」
「俺も同意見。この有害生物は滅ぼすべきだ!」
「浩介君……そこまで恨むの?」
恨みますとも!!
お前等に解るか? 親友に尻を狙われる辛さが……。
良いよね、女子は……楽しんでいたんだからさ。
「「何で私達も恨まれてるの?」」
それが判らないのかい?
君達も腐った女の子の仲間入りをしたのかい?
だったら戦争だ! 今後の付き合い方も考えておかないと……。
「もしかして、嫌われた?」
「少し興味があっただけですよ? 決して見捨てた訳じゃ……」
「「・・・・・・・・・・・・」」
今のこの二人は信用出来ねぇ……。
凄く良い顔で俺達を見物していたからな。
「!? クートっ!」
「あぁ……いるな。囲まれている」
俺達は武器を構え周囲を見回す。
そこにいたのはオークだった。けど、数が多い。
「ちょ、何なのよ、このオーク?!」
「まるで、先ほどのグレートボアみたい……まさか?!」
「そのまさか、みたいだぞ? こいつ等も寄生されている」
「冗談だろ、この数が全て奴に寄生されているだと?」
中にはゾンビみたいに痩せた個体も居るみたいだけど、不味いな。
範囲攻撃魔法だと被害が大きい。
「先手必勝! ダイヤモンド・ダスト」
セリアが氷結魔法をぶちかました。
オークは一気に凍り付き、活動が緩慢になる。
「やるしか無いか……フリージング・フィールド!!」
「ナイスだ、コースケ!! アイスロック・バインド!!」
クートが使った魔法は、相手を凍りつかせ、定期的に一定のダメージを与える。
俺が使ったのは、氷系統の魔法の威力を高めるフィールド魔法。
相乗効果はかなり高く、ケミカルマッシュマンぐらいなら殲滅できる。
「仕方ありません。アイス・サンクチュアリ」
これは俺が使った魔法の上位版。
威力が一気に三倍近くまで跳ね上がるが、俺が使った魔法を打ち消してしまう。
「数が多いから囲まれない様に注意しろ!!」
「了解」
「砕けろ、アイスロック・ブレイク!!」
「受けなさい。アイス・カース・ダガー!!」
一方的な戦いだった。
だけど、数で攻め込まれたら正直辛い。
MPにも限りがあるし、次第に劣勢に追い込まれてくる。
何で、こんなにもオークがいるんだ?
広範囲殲滅魔法なんて持っていないし、どうしろって言うんだよ。
俺達は次第に追い込まれて行く事になった。
それから一時間近く、俺達は全力で戦った。
最初は優位だったけど、次第に魔力切れから節約しなければならず、回復しつつも逃げながらの攻撃を続けていた。
ポーション自体は自作で用意したけど、頻繁に飲み続けると流石に胃袋に入りきれなくなるんだ。
当然休まないと倒れそうになるんだけど、レベルアップで全快して戦い続けたが、それでも終わりは来る。しかも、休んでいる暇が無い。
「こいつ等……こうやって獲物を追い込んでいたのか…」
「中には冒険者の姿があったぞ? あんな姿になりたくねぇ!!」
「MPが足りません。……格闘戦は苦手なのですが」
「私もヤバいわ。このままじゃ、ジリ貧よ?」
何処から出て来るんだよ、こいつ等……。
ヤバい。マジで死ぬぞ……そうなったら、こいつ等みたいに……。
冗談だろ? 俺は兄貴を探さないといけないんだっ!!
「あははははははは。弱すぎですぅ~♡」
「「「「えっ?!」」」」
何か、メイド服の牛角巨乳幼女が巨大な斧を振り廻し、寄生されたオークを粉砕しまくってこっちに来る。
てか、強過ぎだろ!! レベルはどうなってんだよ!!
即行で鑑定してみると……
===================================
『鑑定するにはランクとレベルが足りません。諦めてください♡』
===================================
ウザい。それより、鑑定不可能だと?!
「マジでか?!」
「どうしたんだよ、コースケ」
「あの子、ランクもレベルも俺達よりはるかに上だ」
「冗談だろ?! どう見ても子供じゃねぇか!」
でも事実なんだよ。
「凄い。一撃で木っ端微塵……」
「強過ぎですね。本当に人間……いえ、獣人なのでしょうか?」
これは酷い。
殲滅してるじゃないか……グラードス王国の冒険者は化け物か?
圧倒的過ぎる。
「師匠! コレ、凄く弱いですよ?」
師匠? 他に誰かいるのか?
「・・・・・・・ん・・・・コキュースト・・・・・」
次の瞬間、一面が極寒の凍土に変貌した。
アレ、上位の……いや、禁呪の広範囲殲滅魔法じゃないのか?!
オーク達が一気に氷結し砕け散った。
―――グフォオオオオオオオオオオオオオッ!!
「「「「危ない!!」」」」
「・・・・・・ん・・・・・・邪魔・・・・・・・・」
襲い掛かったオークが空中に吊し上げられた。
「どっか~~~ん!」
そして、メイド服巨乳幼女が斧で粉砕する。
何か、光るものが……糸? 仕事人?!
「嘘だろ……あの子も子供じゃないか」
「でも、鑑定が効きません。もの凄く強いです」
「何なのよ、あの強さ……あり得ない」
無表情の子もランクやレベルが見えない。
少なくとも、俺達よりは遥かに高みにいる事は間違いない。
何者だ?
「あっ? 師匠、冒険者の方達がいますよ?」
「・・・・・・・・・ん・・・・・・・」
無表情の黒髪ロリがメイド幼女の背に隠れた。
君、隠れてませんよ?
「済みませぇ~ん。どこの冒険者さんでしょうか?」
「俺達はスミズ村から来たんだが、君達は?」
「サハラ村からですぅ~。ほかにもノモモ村の冒険者さん達も居ましたよ?」
「私達だけじゃ無かったんですね。あの感染症を治療するための採取でしょうか?」
「はい。ケミカルパウダーは結構余っていますので、他の素材は持っていませんかぁ~?」
物怖じしない子だな。
「どんな素材が欲しいんだ? 俺達も分からない素材があるんだが……」
「えっと……師匠、何でしたっけ?」
「・・・・・ん・・・・【ナバナ草】【フルダニの実】【セコインダラの花】・・・」
「っだ、そうですぅ~」
それなら、少しあるかな?
アイテムを確認すると、少ないけど存在している。
「あるけど、交換する?」
「はい。ケミカルパウダーが大量にあるので、物々交換しませんかぁ~?」
「私達はケミカルパウダーが少ないのよ。こちらからお願いしたい所よ」
「毎度ありぃ~♡」
商談が成立した。
「お二人には、サービスでこれを差し上げます」
「あ……ありがとう…」
「これは、本……でしょうか?」
何やら薄い本を二人に手渡し、満面の笑みのメイド幼女。
それにしても、けしからん胸だ。
「おい、コースケ……あの本…」
「えっ?」
良く見ると、本の表紙は鎖で繋がれた美少年のあられもない姿が描かれている。
て、待てやこらっ! 名も知らぬ幼女、お前もかっ!!
「それじゃ、私達は村に戻りますねぇ~。ご主人様は何処に行ったのかなぁ~?」
「・・・・・・・ん・・・・多分、向こう・・・・・・」
二人は俺達を無視して森の中へと消えて行った。
この日、俺達は自分の弱さを痛感したのだった。
「わぁ~♡ これ、すんごい……」
「けしからん本ですね……ぜひ、回収しておかないと……」
「「お前等……そっちの趣味が芽生えたのかよ」」
薄々感づいていたけど、何つ~物を残して行ったんだよ!!
この日、俺達二人を除く他の二人は、新たな世界を垣間見たのだった。
お願いだから、その趣味を俺達に向けないでください。
マジでお願いします。
メインキャラと一時期の邂逅。
この後、話をどう持って行こうか悩ましい所です。
気まぐれで書いているので、予定が無いんですよね。
まぁ、グダグダな話です。
楽しんでいただけたら幸い。