命の現場でやらかした
馬車は行く行く、煙は出ない。
でない筈だよ馬車だもん……。
はい、まいど御馴染み、レン君です。
今俺達は馬車に揺られ、サハラ村へと進んでいる。
どうも、王都より西の山麓地帯の村のようでして、ギルドが用意した馬車に乗る事一週間。
流石にお穴が痛いであります。
サハラ村の人口は約200人余り、その内121名が原因不明の病気に侵されているそうです。
症状は高熱と嘔吐、頭痛……昏睡状態になった人も43名になったそうだ。
しかも、体中に紫の吹き出物が出来たらしく、どんな病なのかサッパリだそうだ。
何だろね? 何となく予想が付きそうなのですが、今の段階で結論を出すには早いと思っている。
因みにこの依頼は、臨時の治療犯として国からの報酬が出るそうです。
今後の事を考えると、治療方法を確立する事が最優先だとか。
まぁ、下手すると国民が危険に曝されるからな、当然の処置だろうと思う。
俺達は薬を作るお手伝いと言った所でしょうか。
魔道学院からの要請を受けて、一般からの治療師を招集しているそうです。
俺達は薬を作るための頭数ですかね?
早い話がゴリゴリ要員だ。
街のお薬屋さんが出来る事なんてHPを回復する事と、瀕死回復を助ける事じゃね?
俺達以外にも若い錬金術師が馬車に乗り、口を押さえて必死に吐き気と戦闘中ですぞ。
猫の手も借りたい所なんでしょうね。
現場は一体どうなってんだ?
「あっ、見えてきましたよぉ~?」
「・・・ん・・・」
「どれどれ……ゲッ?!」
其処には物々しい武装をした騎士達と、白衣を着た連中が忙しく走り回っていた。
周囲にはテントが張られ、冒険者達が薬草の類を以て中へと入って行く。
多分だけど、騎士達は村に侵入させないための防衛の役割なんじゃないかな? 完全な閉鎖隔離状態に思える。
何コレ、レベルA? アウトブレイク?
俺等、とんでもねぇ~所に来ちゃったんじゃね?
「コレ……どう見ても、ただ事じゃないですよね?」
「・・・ん・・・・失敗した?・・・・」
ヤバい現場のようです。
そんな俺達の気持ちを無視して、馬車はゆっくりと確実にサハラ村へ進んでいた。
「ご苦労、この者達が新たな研究要員か?」
「総勢15名の錬金術師達です。中には年端もいかない者も居りますが、それなりの腕を持った者達と報告が出ています」
「よし、奥へ行くと良い。くれぐれも慎重にな」
「了解」
すげぇー厳戒態勢なんですけど?
この村で一体何が起こったんでしょうね?
「急患だっ!! 病状が悪化したぞっ!!」
「ぺニセリス液を投与しろっ! 何としても助けるんだっ!!」
「クソッ!! 進行が早い、何としても助けて見えせるっ!!」
「ヤバいっ、痙攣し出したぞっ!! 早く点滴を用意しろっ!!」
……戦場だ。
ここは医療の戦場だよ。
ERやどこかの看護病棟並みに忙しい所だ。
外道なエロい医者が看護師に手を出す暇が無い位ヤバイ戦場だ。
「新薬を投与してみろっ!!」
「アレはまだ試作段階ですっ!! どんな副作用があるか解ってないんですよっ!?」
「今進行を止めないと命に係るんだぞっ!! お前はそれでも医者かっ?!」
「ヤバいっ!! 意識がもうないぞっ!?」
「心拍数低下っ!! パンタフル液を注入っ!! クッ……駄目か…」
「糞ぉ――――――――――っ!!」
バウアーさんがいませんでしたか?
所で、地面に染みついた黒いシミ跡は何でしょうか?
何か、鉄錆臭が漂っているんですけど……。
「「「・・・・・・・・・」」」
俺達、ここで何をさせられるの?
チートが役に立つような場所には思えないんですけど……。
こんな場所でどうしろと?
「お前達には、これから彼等の治療に専念してもらう。彼等の病状を緩和させる薬、若しくは完全に病を癒す、治療薬の研究をしてもらう」
マジで?!
おいちゃん、医者の真似事すらした事ねぇよ?
行き成りハードな展開で困っちゃう。
「ちょ、俺達は只の学生だったんですよ? ギルドで頼まれたから此処に来ただけなのに、いきなり荷が重すぎます」
「それは勿論、承知の上だ。だが、この原因不明の奇病の治療法を探し当てねば、国に蔓延した時に多くの命が失われてしまう。君達には命懸けの仕事を頼んでしまう事になるだろう……済まない」
「「「「・・・・・・・・・・・」」」」
騙されたっ!? 何で、ギルドの依頼書が普通の依頼書なんだよ。
この場合は緊急依頼になるんじゃねぇの? 聞いてねぇよ。
騎士さんは誠実ですなぁ~……けど、無茶を言いよりやがります。
俺達を含め15名、全員が青少年で成人していない者も居る。そもそも医療業務に携わった事が無いのに、どうして他人を直す事が出来るのでしょう。
錬金術師や薬師って、親の代から技術を教えて貰っているパターンが多いんですよ?
新の学生から育てたとして、使い物になるには大分時間が掛かる筈だ。
スキルアップして覚えられるレシピは全部基本の物だし、それ以外の製造方法を知るには研究するしかないので、メリッサの様に高名な錬金術師の血族じゃない限り、製作レシピを一から発見し続けなきゃならない。
名前が売れてる錬金術師は、その大半が貴族だったりするんだなぁ~これが。
まぁ、俺の場合は何となく素材を見ただけでレシピが頭に浮かぶんだけどね。
これが神スキルの力かっ!!
「細かい事はグラナード王国魔法学院教諭の、マリアナ―ド女史に聞いて欲しい。先生お願いします!」
何で、時代劇風?
一体どこの用心棒なんだよ。
「あー……今忙しいんだけど……。おっ? 新しい職員の補充ね。待ってたわ……」
―――プゥ―――――――――――――――――――ッ!!
気だるげに頭を掻きながら出て来た一人の眼鏡をかけた女性。
彼女を見た瞬間に赤い花が宙に咲いた。
「ハライソが……ハライソが見えた……」
「えへえへ………俺、もう死んでも良い……」
「アルカディアは……本当にあったんだ・・・・・・」
「へ、変態……」
「まさか……こんな事が……嘘よ…ね?」
「傷は浅いぞっ、死ぬなぁ――――――っ!!」
「俺は満足だ……この真実を友に伝えてくれ。これは……良い物だ……」
「馬鹿野郎っ!! こんな事をあいつに言えって言うのかっ、死ぬなっ!! 俺が殴られるだろっ、嫉妬でっ!!」
出てきた女性は……全裸に白衣だった。
彼女のヌードを見た瞬間、青い性の真っ只中にいる青少年達は盛大に出血したのだ。
彼等には刺激が強すぎた。
俺? 生後三か月ちょいの俺に性欲があるとでも?
正直ガッカリ感がハンパねぇーです。
「またですか? いったい何人地獄に送れば気がすむんです?」
「あぁ~……初心な童貞少年にはちょっと刺激が強かったかぁ~? 失敗失敗~♪」
また? またって言いましたか?
まさか、地面の黒い染み跡は……以前此処に来た前任者の出血痕?
あれ、死人が出るレベルだよね?
つーか、命の現場で何やってんの? 騎士さんは何で平気なの?
「私か? 毎日見てたらいい加減に慣れた。今更痴女に劣情する事は無い……」
「「「「「毎日こんな格好してんのかよ!?」」」」」
「別に痴女って訳じゃないわよ? 単に着替えるのがめんどくさいだけ」
「「「「「充分に痴女だよっ!!」」」」」
「どうせ汚れるんだから、着替えが幾らあっても無駄でしょ?」
「「「「「それでも服くらいは着ろよっ!!」」」」」」
どんたけめんどくさがりなの?
いい年して羞恥心を無くしたら嫁の貰い手が無くなりますぜ?
「これが今回の錬金術師たちのリストだ。幸い、まだ出血多量の重傷者はいないがな」
「あ~……学生が多いわね。ん? メリーセリア・ツェイザ? もしかして、マーセラ先生のお孫さんかい?」
「・・・・ん・・・お婆ちゃんの・・・・知り合い?」
「昔、命を助けて貰ってね。それから錬金術師を目指したのよ、……アタシは先生みたいな錬金術師になりたいのさ」
「へぇ~意外な所で縁が有りますねぇ~」
「・・・んふぅ~~♡」
あっ、お婆さんが自慢なのね。
しかし、どんな伝手でそんな事態になった……待て、全裸? まさか……
「ま、まさかとは思うが、トカゲの被り物……『―――がしっ!!』へっ?!」
「君は何も知らない……いいわね?」
「イ、イエッサー……」
両肩をすんごい力で掴まれ、ドアップでもの凄い迫力で迫られた。
にこやかな笑みが、触れてはいけない事だと柔弁に語っている。
予想通り、得体の知れない宗教の関係者でしたぁ―――――――っ!!
怖い、マジで怖かったとです。
「いい加減に説明してやってくれないか? 話が進まん」
「あ~めんどい、見ての通りよ?」
「それでは分からんだろ! 一から順に説明してやれっ!!」
「しょうがないわね……今から遡る事5000年前……」
「殴るぞ?」
「・・・・・・事の起こりは一週間前ね……」
騎士さんには弱いのね……。
どうやら一週間前に、近くの村人の一人が自分の体に突然痛みが走り、倒れたのが原因らしい。
その後高熱が出て危篤状態に陥り、体中に得体の知れない紫上のできものが現れ始め、やがて体が腐り出したらしい。
問題なのはその患者一人だけでなく、やがて村人全員にその病が広まった事だろう。
偶々商いに来ていた商人が倒れた村人達を発見、魔導士ギルドに駆け込んだそうな。
職員が慌ててその村に来てみれば、村人全員が死亡と最悪の事態となっていた。
やがてこの国の城に連絡が行き、状況は一気に緊急事態へと発展した。
似たような症状が出た村が三か所ほどあり、現在その村全てが封鎖されている。
はて? どこかで聞いた事ある様な……それって……。
「感染症じゃね?」
「「感染症?」」
騎士さんと痴女が何故か不思議そうに聞き返して来た。
「その感染症とは何だ?」
「アタシも聞いた事が無いわ」
感染症は体内に侵入したウィルスや細菌が増殖し、健康を脅かす症状を言う。
たいていは免疫機能により撲滅し、血中から排出される事になるのだが、免疫機能が何らかの原因で落ちていた時に発症すると命に係る病気だ。
肝機能に障害が出ると更に最悪、食事は取れない消化は出来ない。内臓が腐敗し死に至る。
詳しい事は良く解らんけど、大体こんなもんじゃね?
当たってはいないけど、間違いじゃない筈だ。
「む……確かに、当て嵌まる症状が出ているのは間違いない」
「そんな病があるのか……恐ろしい」
「鑑定して分からないのか?」
「鑑定師でも【原因不明の病】としか出ないのよ。そんな病気があるなんて知らなかったから、原因が掴めなかったのね」
真剣な表情で考察するのも良いが、服は着ろよっ!!
アンタの格好が色々とぶち壊しだよっ!!
【鑑定】スキルは、スキルを所有している者の知識に左右される。
知識が多ければ多い程、鑑定できる幅は広がるが、逆に無知であると全く鑑定できない。
その他にも【看破】や【探索】などのスキルがあれば、複合すれば大抵の事は分かるようになる。
俺の場合は全てを見通す【真・神眼】、知りたくも無い情報まで拾ってしまうヤバい能力だ。
最悪個人のプライバシーまで暴き出すから、能力を絞って使っております。
今もどこかの鑑定持ちが【鑑定】のスキルを上げるべく、必死になって猛勉強をしているに違いない。
「まぁ~、そんな訳だから新薬の開発に協力して頂戴。期待してるわよ?」
『『『『『学生に無茶な注文つけるなよっ!!』』』』』
学生さん達はめっちゃ不安になってますぜ?
ホント、大丈夫なのかよ……こんなんで。
正直……不安だ。
* * * * * * * * * * * * * * *
ども、コースケです。
俺達は今、街道を一両の馬車で鮨詰状態で進んでいる所だ。
荷馬車には数名の冒険者が乗り込み、この先にあるスミズ村に向かっている。
勿論依頼を受けてだが、薬針は薬草の採取。
金額が良いから引き受けて見た。
問題は、この村で原因不明の病気が流行っている事だろう。
俺達も感染なんかしないよね? 不安だ……
「なぁ、コースケ……」
「ん? 何だ、クート」
「何で、こんなに揺れる馬車の上で本なんか読んでんだ?」
「鑑定スキルは自分の知識量に左右されるからな、勉強は必須なんだ」
使えるスキルなんだけど、知識を増やさないと使い物にならないんだよね。
意外と面倒な能力だと思う。
幸い、一度得た知識なら、例え本人が忘れても鑑定が出来るという事だろう。
初めてこの世界に召喚された時に洗脳アイテムを鑑定できたのは、ラノベで似たようなアイテムの存在を知識として知っていたからだ。
俺達をこの世界に召喚した神官達も、まさかこんなくだらない事で目論見が崩されるとは夢にも思わなかっただろう。何が役に立つか分からない物だよ、ホント……。
「俺達は薬草なんかの素材を集めるのが仕事だよな?」
「そう聞いています。でも、何で騎士の姿があるのでしょう?」
「物々しい雰囲気よね? 嫌な予感しかしないわ」
セリアも亜里沙も不安に思っている。
俺もそうだけど、ギルドの要請を受けたんだからしょうがないよ。
あれから一ヶ月。ダンジョンを攻略しランクBに上がった俺達は、ギルドの要請は受けなければならない立場になった。
冒険者ギルドは国の要請は受け付けない中立な組織だが、緊急時には国に協力して依頼を受ける事がある。
まぁ、戦争には関わらないが、民衆が苦しむような非常事態は受け付けるという事だ。
線引きは曖昧だが、今回はその緊急依頼で場所はグラードス王国。
俺達は元からこの国を目指していたから丁度良かった。けど……
「何か、ヤバい事でも起きてんじゃないか?」
「俺も、そんな気がする」
一体、何が起きてるんだろうなぁ~……?
それから一時間後山道に入り、スミズ村に着いて俺達が目にした物は、あまりに衝撃的な物であった。
* * * * * * * * * * * * * * *
俺のターン、ドロー!! ……ハッ?! 俺は何を言ってるんだ?
レンです。
俺達が担当するのは製薬を担当する部署。
まぁ、テントなんだけどね……正直狭い上に薬品の数がパネェ。
臭いも漢方薬みたいな匂いだし、場所によってはオキシドールみたいな匂いもする。
ここでゴリゴリするにしても、些か狭いんじゃないでしょうか?
だけどね、人によってはこの場所が天国に見える時もあるのです。
例えば……
「ん~~~~~~~~~~~♡」
「凄いですねぇ~。知らない薬に薬効素材……やり甲斐がありますぅ~♡」
こんなの。
元から研究者肌で引きこもりの二人には、この場所は楽園に移るみたいだ。
いや、別に其れでも良いけどさ、……君達、お仕事の内容を分かっていますか?
メリッサさんてば、手をブンブン降って喜んでおります。
「これなら、研究にかこつけて好きなだけ新しい魔法薬が作れますね、師匠♡」
「・・・・ん・・・・・・良い職場・・・最高・・・」
待てや、今も苦しんでいる人達は無視ですか?
理由をこじつけて遊ぶ気満々ですよねぇ?
鬼か、お前等。
「そんな訳無いじゃないですかぁ~。ちゃんとお仕事はしますよぉ~?」
「・・・・ん・・・人助け・・・・それが使命・・・」
口に出してた? まぁ、良いや。
「どう考えても嘘だろ。お前等、此処の素材を使って遊ぶ気だろ? また妙な実験を繰り返す気だろ?」
「そ、そんな事はありませんよぉ~……」
「・・・・ん・・・・信じて・・・・?」
目が泳いでますよ? 嘘ついちゃいけません。
仕方が無い。チートやりますかね。
「まぁ、薬は直ぐに出来るけどね」
「「?!」」
この二人を放っておくと、正直趣味の限りを尽くす気がする。
なら出鼻を挫いて仕事のみに目を向けさせるだけだ。
事件は実験室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんですぜ。
「感染症、お前に相応しい薬は決まった!」
「「はいぃっ?!」」
アイテムボックスから瓶がが飛び出す。
「病原体すら強力浄化をする【仙浄丹】!」
「何ですか其れ?! 知りませんよっ?!」
「身体機能どころか欠損部すら癒す【快癒神水】!」
「・・・それも・・・・知らない・・・・」
「弱った体をたちどころに癒す【強壮兵糧丹】!」
更に携帯魔方陣を広げ、そこに素材アイテムを並べる。
「魔導錬成! 完成、神の秘薬【超仙神薬丸】+【超仙神薬酒】!!」
何も合成する必要は無いんだけどね、この二人を自由にさせると研究に没頭するからさぁ~。
空気読めない? 知ったこっちゃないね。
多分、先の三つの秘薬でも回復させる事は出来るよ?
けど、国の資金なのを良い事に、この二人を自由にさせる訳にはいかんでしょ。
どんな薬を作り出すかわかったもんじゃない。
一度キメラを作りかけてましたからね、ハッキリ言って危険なのです。
「ひ、酷い……いきなり特効薬を作るって……」
「・・・・ん・・・・・展開を無視・・・・物語が終わる・・・・」
「既に死人が出てんだよ?! 何を悠長な事を言ってるのかな!?」
犠牲者が減るんだから別に良くね? こうしてる間にも死人が出るんですよ?
まぁ、ここの素材が二人の実験と称したお遊びで無くなると困るから、これは妥当な処置だろう。
大体、この悲惨な命の現場で趣味を満喫しようとするお前等の神経を疑うよ。
作れるなら作っちまった方が良いじゃん。
言って於くけど、遊ばせねぇよ?
「てな訳で、早速持ち込もう」
「・・・・・待って・・・・もう少しだけ・・・・」
「せめて、研究くらいさせてくださいよぉ~う……」
「断る!」
だから、死人が出てんだって言ってるでしょ!
お前等に任せたら、即効性の致死性ガスを生産しそうで怖いんだよ。
この間、麻薬を作ったじゃねぇか! あの黒歴史は決して語れないヤバい話だからね?
君ら忘れたんですかね?
どんな事があったかは倫理的にも問題がありますので割愛させていただきます。
さて、この二人は無視してあの裸族女に持っていくか。
・
・
・
「と、言う訳で、薬が出来たぞ?」
「早いわよっ?! 何でそんなに早く作れるのよ!! つーか、その理由が二人に此処の薬品で遊ばせない為ってどゆことっ?!」
えっ? 何か、間違ってましたか?
国の予算で揃えた薬品や素材で遊ばれるんですよ?
研究や村人達を助ける訳でも無く、ただ自分達が遊ぶために国家予算を使い潰すんですよ?
無駄な予算を使わなくて良かったじゃないですか。
「まぁ、良いわ。所で、これは本当に効くの?」
「大丈夫だとは思うぞ? 使って見なければ何とも言えんが」
「しかし、速過ぎる。君はいったい何者だ?」
「ただのごぶりんさ☆」
鬼神ですなんて言えません。騎士さんよ、知らない方が良い事もあるんですぜ?
騒ぎにはなりたくないんですよ、オイラ。
「鑑定持ってるけど……ランクが高くて効能が読めないわ。何よこれ……」
おっ? 鑑定持ちだったんですかい。
では教えて進ぜよう。
===========================
【超仙神薬丸】+【超仙神薬酒】 ランク8
如何なる病や感染症すら治癒する非常識な仙薬
薬丸一粒、薬酒一滴垂らすだけで病人はたちまち回復します。
更に強壮効果により、病になる以前よりも遥かに強靭な健康を取り戻す。
ただし、無茶苦茶苦いのが欠点。
健康状態で飲むと、夜の営みが七日七晩フィーバー状態に……
八日目には可哀そうなくらいガリ痩せになるので注意が必要。
良薬だけど、使い間違うと毒になる良い見本。
『お試しいたしますか? 死なないのが不思議なくらいに痩せますけど』
===========================
「凄い効果ね……レシピはあるの?」
「初期から中期の症状の時に、コレを使うのはやめた方が良くね? もっと簡単な調合を渡すよ」
「そ、そうだな……。効果が高過ぎる分、副作用が気になるが……」
「健康な時に服用しなければ大丈夫じゃね?」
使って見ないと分からんけどね。
「では、早速実験してみるわ。幸い死にそうなのが其処にいるから」
「どうでも良いが、マジで服を着ろよ……裸族なの? アンタ、裸族なのか?」
「ち、違うわよっ?! 別に裸を見られて興奮なんかしてないからね?! ただめんどくさいだけなんだからねっ?!」
ツンデレで言われてもよ……説得力がねぇ―よ。
頼むから服を着てください。マジでお願いします……。
すぐさま重病人の所へと向かい、患者が寝かせられているベットの傍に来ると、今置かれているサハラ村の現状が嫌でもわかった。
患者は痩せ形の男性で、体が青紫に変色し、昏睡状態へと落ちた姿はあまりに痛ましい。
四肢が既に腐食し、向けた皮膚から壊死した肉がが剥き出しであった。
血液もシーツに流れ出しており、辛うじて息をしている酷い有様である。
生きていると言うよりは、死んでいないと言った方が正しいだろう。
「い、いくわよ……」
裸族女は超仙神酒をスポイトで一滴、患者の口の中に垂らした。
「「「・・・・・・・」」」
な、何で効かないんだ? あっ、もしかして、飲み込めてねぇんじゃね?
―――ビクンッ!!
「「「おっ? 効いてきたか?」」」
患者が僅かに反応し始め、薬酒の効果が出始めた。
―――ビクッ、ビクッ、ビクッ!!
「な、何か、危険な兆候ではないのか?」
「君……本当にコレ、薬なの?」
「その筈なんだが……あれぇ~~?」
おかしいな? こんな反応が出る筈じゃなかったんだけど。
もしかして、前に投与された薬と変な反応を起こしているんじゃないのか?
―――ズダン!! ドダン!! ガクガクガク!!
どこかのホラー映画の様な反応が出てますぜ。
ベットの上でのたうち回っている……間違いなく他の薬が体内で科学反応しているぞ。
ヤバい気がする。
「フオォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「「「飛んだっ!?」」」
背筋の力だけで男は高々と飛び上がった。
彼は体がまばゆい光で輝き、あまりの眩しさで目を合わせる事が出来ない。
何が起きているんだ?
―――ズダァアアアン!!
患者はベットの上に勢い良く立つ。
「血管に流れる、熱き血潮!」
―――ピクピク
「はち切れんばかりの美しき筋肉!
―――ギンッ! ムキィッ!!
「溢れんばかりの漲る、プゥアワァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「「「誰だよっ!?」」」
「ユニバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスッ!!!」
意味不明な叫びをあげた男は、見事なばかりにガチムチになっていた。
何でマッチョになるんだ? 俺が作ったのは薬ですよね? 治療薬だよね?
「前に投与した薬と過剰反応したのかしら? 興味深いわね……」
「待て、それだけであんな風に変身する物なのか?! おかしいだろっ!!」
騎士さんよ、世の中には、常識では計り知れない事が沢山あるんだぜ?
今起きた事は現実で、例え信じがたい事でも紛れも無い真実。
例え受け入れがたい事でも、目を背けちゃいけねぇよ?
「……君は、何故そんなニヒルな表情で俺を見るんだ?」
「ふっ、認めたくない物だな。自分自身の若さゆえの過ちと云うものを……」
「いや、わからんから……」
世の中は不条理に満ち溢れているんです。
受け入れてください。
「まぁ、効果が有ったし、他の患者にも試してみるわ」
「全員がガチムチマッチョにならんよな?」
「分からないわ。試してみないと効果のほどが確認できないんだから」
ですよねぇー。
「何にしても、この薬は効果が有ったって事だな」
「君、目の前のマッチョの事を無視しようとしてるわね?」
「マッチョでも良いじゃない。人間だもの」
「いや、コレをその一言で片づけていいのか?」
いいんです。
生きていれば、病気が治って健康を取り戻したなら、それで良いんです!
「他の患者にも投与して、様子を見る事にするわ」
「んじゃ、俺は、症状の軽い患者の為に別の薬を作ってみるよ」
「出来るなら頼む。流石にアレは危険だ」
俺は現実から逃げるかのように、この場を後にした。
テントに戻る途中で何やら雄叫びが聞こえたけど、俺は知りません。
『『『『『ユニバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスッ!!』』』』』
知りませんからね?