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 帰って来た男、でも忘れ去られていた

 チンピラ男はまるで自分の家に入るかのように、此方に足を進めている。

 あれ? どこかで見たような……気のせいだよな。


「俺の出所を祝ってくれるんじゃないのか? なぁ、親父ぃ~」


 実にネチッコイ目でバーバンさんを……いや、メリッサを嘗め回すかのように見ている。

 こいつ……ロリコンだな。


「おい……」

「何だよ、親父」

「お前、誰だ?」

「へ?」


 うん、俺もそう言おうと思ってた。

 何か、見た事ある様な……無いような……やっぱりある様な……はて?


「俺だよ、俺っ!!」

「だから、お前誰だよ。お前みたいなチンピラ見た事はねぇ!」

「おい、何忘れてんだよっ!! お袋も何とか言ってくれっ!!」

「・・・・・・・・あんた・・・・誰だい? 見た事ある様な、無いような気がするんだけどさぁ~」


 うん、俺と同じだね。


「あっ、もしかして、今流行りの俺俺詐欺じゃね?」

「何だそりゃ?」

「家族の振りして高齢者を巧みに騙し、金品を巻き上げる犯罪者の事だ。集団で詐欺をする悪質な連中だな」

「何っ?! 衛兵に連絡しねぇと、その前に殲滅が先か?」


 殲滅? まぁ、この程度なら余裕だな。

 楽に排除は可能だろう。


「俺だよ、俺っ!! ダーメスだっ、忘れたのかよ!!」

「「「ダーメス? 知らんなぁ~? 誰?」」」

「私も知りませんよぉ~? ご主人様は?」

「ぜ・・・・・・・・・ん然知らない。誰だっけ?」


 聞いた事ある様な……無い気もするし…思い出せん。

 て事は、知らない人だよなぁ~?


「本気で忘れたのかよっ!! メリッサは覚えているよなぁ?!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」

「お前もかよっ!?」


 うん、メリッサも知らないんじゃ他人だな。

 よし、抹殺しよう。


「何、テメェは馬鹿でかい剣を抜こうとしてやがんだっ!? 俺だよ、あんたの息子のダーメスっ!!」

「「「「息子?」」」」

「そうだよっ!! この家の長男!!」


 あれ? そんなの居たっけ?

 記憶にないんだが……そう言えば、やけに駄目スキルばかりを獲得した職人がいたような気が……。


「なぁ、一つ聞くが……」

「何だよ?」

「お前、何処に出しても恥ずかしい、全く使い物にならない役立たずな称号を獲得したばかりか、犯罪者臭が臭いまくるスキルを保有していて……あまつさえ、どんな犯罪に手を染めても失敗ばかりして使えない奴じゃ無かったか?」

「何かムカつくが、そうだ……」

「うん、死刑確定!」

「何でだよっ?! 久しぶりに我が家に帰って来て、何で殺されなくちゃなんねぇんだっ!!」


 いや、だって犯罪者でしょ?

 殺しても良いんじゃね?


「なぁ、ジニー……あいつの顔、何か見覚えがあるんだが……」

「ウチに息子何かいたっけ? 何か、犯罪者を衛兵送りにした記憶がある気がするんだけど……?」

「その衛兵送りにされたのが俺だよっ、ふざけんなっ!! アンタ等の可愛い一人息子だろうがっ!!」

「「何処が?」」


 息子かどうかは兎も角、衛兵に連行されたって事はロクデナシでしょ?

 なら遠慮する事は無いよなぁ~。


「テメェは、何でその剣をスイングしてんだよ?」

「ん? ジェノサイド?」

「何で不思議そうに殺す気満々なんだよっ!! 俺の方が不思議だわっ、何で忘れてんだっ!!」


 え? だって俺達の記憶にないし。


「まぁいい……忘れていようがいまいが、やる事は同じだ。テメェらには地獄を見せられたからなぁ~」


 恨みの籠った目で俺達を見てるけど、記憶にないんだよ。

 何かしたっけ?


「鉱山送りにされた俺は……毎日毎日鉱山を掘り続け、頭がおかしい連中に毎日尻を狙われ追い駆け回され、そして……とうとう大事な物を無くしちまった……」

「「「「うん、幸せな体験をしたんだな。リア充自慢?」」」」

「何処が幸せだよっ!! あの時の屈辱と恨み、テメェらに纏めて返してやる!!」

「「「「何で? お尻を掘られて幸せになったんでしょ?」」」」

「それの何処が幸せだよっ!!」


 え~? 幸せの形は人其々だぞ?

 そもそも衛兵送りは多分だけど、あんたが原因だよな? 自業自得じゃね?

 どうせクズだったんでしょ? 


「来る日も来る日も……ガチムチのむさ苦しい野郎共が来やがって………毎日のように俺を……」

「そこん所を詳しくお願いしますぅ~~~~~~~~っ!!」


 腐女子が食い付いたぁ―――――――っ!?


「奴等の相手をする度に……」

「やがて知らない真理の扉が開いて?」


モーリー? 何、誘導してんの?


「あぁ……苦痛が快楽になってよぉ~……」

「そして、それが悦楽に変わり…」

「何だか、野郎共が愛おしくなって……」

「おぉ!! それで男性としての自覚が砕かれ愛に目覚めたんですね?!」

「そうだよっ!! あんな体験は初めてだっ!! 俺の全てがぶち壊された。それ以上にあんな場所に俺を送り込んだテメェらが憎いっ!!」

「「「何だ、俺達良い事したんじゃん」」」

「・・・・ん・・・幸せ・・・・良い事・・・」


 何で恨まれなくちゃいけないんだ?

 幸せを掴んで宜しくやってたんじゃねぇの?


「何処がだよっ!! 苦痛と快楽で壊れそうになるのをテメェ等への恨みで堪えたんだっ!! この強靭な精神力をほめてやりてぇ」

「「「自慢話か? 他所でやってくんねぇかな?」」」

「どんな事をされたのか詳しくお願いしますぅ! 受けですね? 絶対に受けですね?」

「・・・・ん・・・逆恨み・・・見っとも無い・・・」


 何だ、囚人連中とよろしくやってたんじゃん。

 それで何で恨まれなきゃ為んねぇの? おかしいよな?


「お前等に解るか? 奴等に突っ込まれた時の痛みと屈辱……大切な何かを奪われた悲壮感と流され続ける快楽の苦しみと歓喜を……。押し寄せる虚無と哀愁と寂寥感…全てを打ち砕かれ、怪しい幸福に落とされた悲哀をよぉ~……」

「「「ゴメン、解りたくも無い」」」


 意味わかって言葉を使ってますか?

 何か少しおかしい気がすんだけどさぁ~、後モーホーの世界なんて理解したくねぇよ。

 何で涙流しながら話すのさ? 幸せを味わったんでしょ?


「助けを求めても周りはホモばかり、そん時理解したさ……俺は親に捨てられたんだってさ……」

「いや、そう言われてもよぉ~?」

「あんた、本当に私達の息子なわけ?」

「何で忘れてんだよっ、俺はその程度の存在なわけ?!」


 鉱山に送られた時点で気づけよ。

 あー……段々思い出して来たわ、こいつは確か……


「バーバンさん。俺、思い出したわ」

「何をだよ?」

「コイツな、確かにバーバンさんの息子なんだよ。認めたく無いだろうけどさ……」

「そうだろ? ようやく思い出したか!」


 何で嬉しそうなんだよ……。


「ただ、こいつはお二人にはその……記憶から消し去りたい、最低の屑息子だったんだわぁ~これが……」

「「そうなの?」」

「あぁ、幼い頃のメリッサを強姦しようと人気の無い小屋に連れ込んだり、他の幼い少女に手を出したり、強盗未遂や恐喝、詐欺まがいの事をやらかして、全てが失敗して衛兵さんの所に毎日の様にお世話になって、苦労させられてたんだよ」

「「・・・・・とんでもねぇクズだな」」

「だろぉ? その度に衛兵の詰め所に頭を下げに行ったり、何とか更生させようと仕事に就かせても、こいつは引き籠ったり仕事さぼったり、家の金を使い込んだり……喧嘩してボロ負けしたり、メリッサの家に転がり込もうと画策したりと……まぁ、記憶からも存在そのものを抹消したいほどの屑で……」

「あー……そんで耐え切れなくなって衛兵に連行させてっ!」

「後腐れなく綺麗さっぱり忘れた訳かっ!!」

「ようやく思い出したかよっ!!」


 だから、何でそんなに嬉しそうなんだ? 

 自分のしでかした事を忘れてんじゃね?


「「全然」」

「ちくしょ――――――――っ!!」


 ですよねぇ~。

 こんな糞みたいな存在は即行で忘れたいだろうし、思い出したくも無いだろう。

 自業自得なだけに同情する気には為れないな。

 さて、殺るか……フヘへへ…。


「何でそんなに殺す気になってんだ……?」

「いや、どうせお前はこの家にいる場所なんてねぇーから、いっそ一思いに……」

「ふざけんなよっ! 俺はこの家の跡取りだぞ? 他に後継者なんて……」

「残念だがいるぞ? ジニーさんの腹の中に」

「へ?」

「だから、既に兄弟が出来たからお前は用済み、何処でのたれ死んでも関係なし。序でに記憶から綺麗に忘れられてる……お前、存在してないんだよ」


 つまり、要らない子だね。


「う、嘘だろ?」

「マジ……記憶から消えるほどの迷惑かけたんだから、自業自得。疫病神が消えて今が幸せ」

「・・・・そうかよ・・・・・だったら、その幸せとやらを全部ブッ壊してやらぁ!!」

「どうやって?」

「こうすんだよっ!! お前等っ、手筈通りやっちまえ!!」


 馬鹿が合図を送った。


「・・・・・いや、それはちょっと・・・・」

「さすがにアンタ酷過ぎるぞ……?」

「あぁ……親の脛齧りで追い出されて、何処まで親にたかる気だよ……」

「俺達もクズだけどよぉ~……」

「さすがに幼い幼女に手を出すのはなぁ~……」

「親の方に同情するぞ」


 しかし残念ながら取り巻きの方々から顰蹙ひんしゅくを買った。

 まぁ、そうだろうね。


「裏切る気かっ?!」

「クズだけど、外道には落ちたくねぇよ……」

「だよな?」

「悪いが俺達は引かせてもらうぜ?」

「自業自得じゃねぇか、何処が非道な親を懲らしめるだよ」

「YESロリータ、NOタッチを忘れちゃ駄目だろ……紳士じゃねぇ」


 儚くも脆い友情だなぁ~……。


「金は払っただろっ、仕事しやがれっ!!」

「「「「「「さらばだっ!!」」」」」」

「おいっ、金を返しやがれっ!!」


 取り巻き連中は真っ先に走り出し、町へ消えて行った。

 冷たい風が吹き抜ける。


「お前だけだな……」

「お金で繋いだ信頼って、脆いですぅ~」

「・・・・ん・・・・・・無様・・・」


 何とも言えない空気が流れている。

 

「くっ……くはははははははははっ!!」

「ん? 狂ったか?」

「良いさ、どの道あいつ等には期待していねぇ、やはり俺が直々に引導を渡してやるよぉ~」

「出来るとでも?」

「出来るさ、俺を昔の俺と思った事を後悔させてやるぅうぅぅぅっ!!」

「「「「「!?」」」」」


 ―――ゴウッ!!


 突然ダメ男から黒色の気の様な物が放出された。

 俺はこの力を直ぐさま鑑定すると……


「瘴気?!」

「おうよ、俺はこの力を使って鉱山から抜け出して来たんだぜ? 今から皆殺しにしてやるぜ」

「けどよ、お前のステータスは以前のままだぞ? 勝てる気でいるのか?」

「今の俺は無敵だぁ! ヒャハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 瘴気は魔物が力とする負の力の事だ。

 この力が一か所に集中して凝縮される事により、魔物が自然発生する。

 自然界に生まれ落ちた魔物は摂理に沿って繁殖して増え、やがて一つの種族として定着する事になる。

 だが、生きた人間が瘴気を放出するのは呪いであり、本来であれば死につながる危険な状態であった。

 この状況がいつまでも続くと、人間から魔物へ変上する事にもなりかねない。

 また、生きている者にこの瘴気は猛毒で、僅かな時間でも浴び続ければどんな被害が出るか分からない危険なものであった。

 

 まぁ……普通なら、ではだけどね。


「「「浄化」」」


 ―――バシュウウウウウウウウウウウウウッ!!


「ひへ?」


 瘴気は負の力である以上、正の力で浄化が出来る。

 つまり聖属性魔法……光属性とも言うね。

 俺とメリッサ、モーリーは全属性の魔法を使う事が出来る訳で、瘴気の浄化など然程問題では無いんだな。

 念の為にこの辺り周辺も浄化しました。


「なっ? お、俺の力が……」

「残念だったな。お前の力程度じゃ俺達を倒す事なんて出来ねぇんだよ、無駄な事をしたな」

「返せ、俺の力を返しやがれっ!!」

「無理、一度浄化したら瘴気を得る事は二度と出来ない。これが世界の理だ」


 一度浄化されると体の隅々までキレイになるから、瘴気に侵され難くなるんだよ。

 相手が悪かったね?


「ちくしょぉ―――――――――――――――っ!!」


 元々マイナス・スキルしか持っていないから、どんな事をしても上手く行かないんだよなぁ~。

 いい加減に理解すればいいのに、すぐ忘れちゃうんだね。

 馬鹿だから……


 駄目男は泣きながら走り出した。


「逃がす訳無いでしょ、疫病神さんよ……」


 俺は地面に落ちた小石を拾い上げ、雷系統の魔法を掛けた。

 それを軽く指で弾くと、小石は凄い速さで駄目男に直撃した。


「ギャボッ?!」


 込められた魔法が発動し、駄目男は感電して倒れる事になった。

 ちょっとしたスタンガンだ。


「あいつ……鉱山を脱走したって言ってたよな?」

「・・・・ん・・・・言ってた・・・」

「それって……立派な犯罪ですよね?」


 そうなればやる事は決まっている。

 俺達は気絶したこの馬鹿を縛り上げ、衛兵の詰め所に連行する事にした。


「バーバンさん、こいつを衛兵に預けて来ます」

「おーぅ、構わねぇよ」

「こんな子供がいたかしら? 全然思い出せないわ……?」

「無理に思い出す必要は無いんじゃね? どうせ獄潰しだし、逆恨みして親を殺しに来るような奴だぞ?」

「そうね。思い出したくないほど手を焼いていたみたいだし、忘れた方が良いわ……この子の為にも」

「だな、ロクデナシの兄貴なんていない方が良い」


 うん、今は幸せになる事を考えた方が良いよ?

 お腹のこの為にもね。


「何ですか、このステータスは? マイナススキルがこんなに?! 酷い、性犯罪者?!」

「・・・・ん・・・こうは・・なりたくない・・・」

「自堕落な生活を送っていると、二人も孰れこうなるぞ? 最近の自分達の生活をよく考えてみろ」

「「!?」」


 人の振り見て我が振り直せ、悪い手本がここにいる。

 二人とも、気を付けようね?


「んじゃ衛兵の詰め所にレッツ・ゴー」

「・・・・ん・・・帰りに・・・卵・・買う・・・」

「好きですねぇ~、マヨネーズ」

「マヨネーズ・・・・真理・・・・万能♡・・・」


 万能じゃねーよ?

 兎も角、この馬鹿を牢屋にぶち込んで貰おう。

 臭い物は早めに処理しないとね。



 衛兵の詰め所は街の門の直ぐ傍にある。

 この街には四か所あり、西と東、そして北、南に門は無く代わりに警邏隊の本部が置かれていた。

 アットの街は地形から歪な形をしており、北門と東門が近く、西門は住宅街や工業区の地形が広く割と離れている。住人は保々中央の住宅区に密集している訳で、工業区と住宅街の中間の位置にあるこの場所は、西門が近い。

 それでも北門と比べると微妙な距離感なんだけどね。

 どちらにしても割と歩く事になる訳で、何か問題が発生すると通報するには些か不便な構造をしてるんだ。

 明らかに区画調整の段階で失敗してるよ、この街は……。


 最初から都市計画を立てて街の基盤を構築していたのなら、こんな不便な立地にはならなかった筈だ。

 文化水準から考えると、村から町へ発展する過程で地形その物を利用する訳で、適当に発展して行った結果こうした不便な街が出来上がったわけだ。

 今更やり直しは利かない。

 更に言えば、未だ街が防壁に囲まれていないため、何処からでも魔物や盗賊が侵入出来るのが辛い。

 最近防壁の工事が進められ、北門以外にも北西門が築かれ始めている。

 三か月前にゴブリンが襲撃してきた事で危機感を煽り、行政を取り締まる街の代官がようやく重い腰を上げたそうな。

 今更な気もするけどね、実際被害者が出ている訳だし……。

 交番でも作れば少しは楽になると思うが、何でやらないんだろうね?

 歩いて詰め所まで行くのは結構大変なんだよ、何かあっても後手に回るから警備の面ではかなり不安が残る街だ。安全性が考慮されていないんだから。


 まぁ、俺が愚痴を言った所で何が変わる訳でも無いんだけどね。

 そんな訳で、俺達は少し時間が掛かったが、無事に馬鹿野郎を連行して詰所の前に来た。

 建物自体は一見レンガ造りのアパートの様に見えるが、大勢の衛兵が待機して有事に備えている。

 主に街の外から来る商人を監視し、指名手配犯や密売を行う不逞の輩を取り締まっている。

 先ほど複数の衛兵とすれ違ったが、これから街を回り見回りの任務に就くのだろう。

 不便な街だから衛兵さんも大変だぁ~ねぇ~。

 

 俺は傍にいた衛兵の一人に声を掛けた。


「すみません」

「ん? どうしたんだ、お嬢ちゃん」

「いや、俺は男なんだけど?」

「マジでっ?! 嘘だろ?!」


 何故にそこまで驚く……?

 まぁ、いいや。


「犯罪者を捕まえて来ました」

「犯罪者? 其処で尻をだしている男か?」

「尻?」


 振り返ると、駄目男は確かに尻丸出しであった。

 多分、引きずってきた時に地面で擦れてこうなったんだろうね。

 少し擦り剥いているみたいだけど、別に良いか。

 だって、ロクデナシだし☆


「ただのゲスなんで、臭い飯を食わせてやってください」

「そうだな……あれ? こいつの顔、どこかで見たような気が……やっぱ知らん」

「知らないんですかぁ~? 何度も此処にお世話になったと聞いてますよ?」

「そう言われてもなぁ~……思い出せん」


 あー……衛兵さん達からも忘れ去られているんですね。

 こいつは何処まで行っても最低の屑野郎て事だな、記憶から消去したいほどの……泣いてるし。

 ようやく自分の居場所が無いって事を痛感したんだろうな。

 そうなったのは自業自得だぞ? 誰の所為でもねぇ。


「取り敢えず照合してみるか、君達も中へ入ってくれ。詳しい事情も聴きたいし、おいっ!」

「ほら、立て。自分で歩けんだろ」

「見た事ある気が……う~む………やっぱり知らんな……」


 こうして駄目男は再び牢屋へと帰って行った。

 俺達は詰め所内でお菓子を出され、実に良い待遇で事情聴取をされた。

 事細かに説明した後は、最近の話を聞く事聞かせてもらったよ。

 一ヶ月ほど前、オークに襲われた商人が得体の知れない存在に救われたとか、近くの村を荒らしまわっていた盗賊団が皆殺しにされたとか、そんな話だ。

 あれ? 何か身に覚えがある気がする。 


「・・・ん・・・このお菓子・・・美味しい♡」

「師匠、マヨネーズは駄目ですよぉ~……デンジャーです」

「これ、何処の店で売ってるんですか?」

「これか? 最近、商業区の大通りに出来た店でな、聖王国からこっちに移転して来たみたいなんだよ。家の女性職員に人気なんだ」


 おーそれはそれは、これは是非とも買いに行かねば。

 実に程良い甘みのクッキーですぜ、紅茶に合う。


「隊長、照合が終わりました」

「で、何か出たか?」

「サルマ鉱山から脱走した囚人のようです。賞金も懸けられてますね」

「そうか、馬鹿な奴だな。何でのこのこ街へ来るんだか……」


 フッ…坊やだからさ!

 最後まで親に縋ろうとする自立出来ない馬鹿野郎だったんだから。

 オマケに逆恨みして復讐しようなどと言語道断、とっちゃん坊やなのは間違いないでしょ。


「少ないが賞金だ。大事に使うんだぞ?」

「おぉ! 早速、新しい菓子店へ行ってみよう。珍しい物があるかもしれん」

「・・・・ん・・・・賛成・・・」

「紅茶も売っていると良いですねぇ~」

「子供は元気があって良いな、気を付けて帰るんだぞ?」

「「「はぁ~い」」」


 こうして俺達は臨時収入を手に入れた。

 序でだからバーバンさん処にもお土産を買って行くか。

 あなた方の息子さんは最後には親孝行をしましたよ? 美味しいお菓子を買う資金となって……。

 

 良い事をした後は気持ちが良い物である。



 * * * * * * * * * * * * * * *



 噂の菓子店【ハイテンション・ジャンキー】で買い物を済ませた俺達は、一路冒険者ギルドへと足を進めていた。

 クッキーの様な定番から、何とチョコレートまでありましたよ。

 結構高級なのだが、賞金全て使い一通り買いましたぜ。

 どうでも良いが菓子店の店名が酷過ぎる。

 店自体は落ち着いた雰囲気のカフェなのだが、何故にこんな店名が付いたんだ?

 見た目の印象から掛け離れた残念臭が漂っていました。


「あんまり食い過ぎると夕食に響くぞ?」

「・・・大丈夫・・・お菓子・・・・別腹・・・」

「そうです。お菓子好きの女子は胃袋を三つ持ってるんですよ?」

「それは牛………あぁ、牛だったな。やはり胃袋が三つあるのか……」

「ひどっ!?」


 二人をあの屑野郎と同じ駄目人間にする訳にはいかない。

 幸い奴を見てから仕事する事に意欲的になったし、ここは一つ何かの仕事を受けて脱却を図りたい所だ。

 俺達がギルドに行くと、何やら耳を抑えた男達が蒼い顔をしてテーブルに突っ伏している。

 何があったんだろうね?


「おっさん、どうしたんだ?」

「あぁ……実はトイレに恐ろしい連中が居座っててな?」

「恐ろしい連中?」

「【薔薇の閃激】と言う若い連中のパーティーなんだが、正気じゃねぇ……」


 何だろ、嫌な予感しかしねぇ……。


「どんなパーティーなんですかぁ~?」


 聞くのっ? 止めて於けや、脳みそが腐りそうな予感がする。


「あー……早い話、メンバー全員がリーダーの愛人でな……全員がホモだ……」

「マジですかっ?! トイレですね? 覗いて来ますぅ~!!」

「やっぱりかよ! ホモが多いなっ?!」


 つーか、何でそんな危険な連中がトイレ占拠してんの?

 もしかしてお楽しみの最中? 恐ろしい……。


「外から来た冒険者が奴等に絡んで来てな、その後返り討ちになってトイレに連れ込まれ……」

「それ以上は言わなくても良い……確かに頭を抱えたい状況だ」

「あんな連中でも、女子には人気があるんだよ」

「腐った女子だろっ!」


 ボランのおっさんも苦労してんだな……このギルドには変態しかいないのか?

 それにしても、何でモーホーがフラグ回収しちゃうの?

 俺、主人公だよね?


「・・・あ・・・・出て来た・・・・・」


 何つ―か、全員がイケメンでした。

 何でモーホーに走ったんだ? 人生損してるよね? 


「おー、イケメンばかりですねぇ~」

「目を合わせるな……掘られる」


 奴等が出て行くまで依頼手配のボード-でも見てみるか、目を合わせたくネェーですし。

 何々……。


 ===========================


【ナス沼の魔物狩り】 ランク2


 この沼の主、クエイカ―フィッシュを退治してくれ。

 奴の所為で漁業は出来ねぇし、貴重な薬草も採取できねぇ!

 偶に水棲魔獣ローパーも襲ってくるから注意してくれ。


 ===========================


 ……ナマズじゃないよね?


 ===========================

 

【スキュラを倒せ】 ランク4


 あのスキュラ……俺のハートを粉々に打ち砕きやがった。

 最初はあいつの方から近付いてきて、意気投合して数か月…本気に付き合ったんだ。

 俺はあいつを心の底から愛した……なのに、俺を裏切りやがった!

 よりによって俺の親友ともデキてやがったんだよっ!!

 しかも、あいつと二人仲良く湖に駆け落ちしやがった。

 許さねぇ……俺の心を弄んだあいつを許さねぇ!!


 ===========================


 ……痴情の縺れ?


 いや、寧ろ親友が魅了に掛かったアンタを助けようして、逆に湖に引きずり込まれたんじゃねぇの?

 確かスキュラって、子供を作るために人間の男を魅了で誘惑して繁殖するんだよな?

 その後、子供の栄養にする為に男を喰うんじゃなかったっけ?

 カマキリみたいなもんだけど……虜にされてた分、嫉妬の炎が凄まじいな……。

 真実は知らんけどね。


 ===========================


【求む、錬金術師】 ランク6


 オラが村で原因不明の病が流行してるだぁ~。

 医者も薬師様も匙を投げるばかりで、ちっとも役に立たねぇ~だぁよ。

 如何やら新種の病らしいだが、オラの頭じゃ難しい事は分かんねぇ~だ。

 どうにか薬が作れる人ば来てくんろ。

 もし村を救ってくれたら、オラが嫁こば行ってもよかたい。


 ===========================


 えっ? 嫁って……女だったの?


 まぁ、依頼自体は村から領主に嘆願して出された物みたいだが、何か怪しい。

 ただの婚活依頼じゃないよね? 結婚したいからこんな真似しくさったんじゃねぇよな?

 新種の病気ねぇ~? せめて症状を書いてくれたら判別できたかもしれないのに、参ったね。


「場所は……サハラ村? 何でこんな名称が付いたんだ? 砂漠じゃねぇ―し」 

「ほい、御免よ」

「あっ、すんません」


 ギルドの従業員が、今見ていた依頼書の上に別の依頼書が重ね貼る。

 似たような内容で、治癒魔法が使える冒険者を手配していた。

 どうやら同時進行らしい。 


「場所も程良いほど遠いし……メリッサ、モーリー、この依頼を受けるぞ?」

「どっちの依頼を受けるんですかぁ~?」

「錬金術師の方、これなら依頼を受けられるだろ?」

「・・・・・ん・・・遠い・・・」

「あの屑野郎みたいになりたいのか? スキル全てが最底辺のマイナススキルになるぞ?」

「「頑張ります」」


 あの馬鹿が戻ってきたのが、良い方向に動かせるネタになったな。

 流石にアイツのステータスは恥ずかしいからなぁ~。

 記憶にあるだけでも……あっ、あいつのステータス思いだせねぇ……。

 何となく最底辺だったのと、犯罪者スキルを所有していたくらいの情報しか思い出せん。

 称号も碌でも無い物だと言う認識はあるんだけど、どんなモノだったかはサッパリだな。


 どうでも良いか。だって忘れるという事は大した物じゃないて事だし、どうせ直ぐに忘れるだろう。

 記憶に留めておく必要が無いって事だろ? じゃぁ、思い出す必要ないじゃん。

 気にしない、気にしない♪


「ご主人様? 依頼書を受付に持って行かないんですかぁ~?」

「おっと、イケねぇ。忘れてたわ」

「・・・・レン君・・・・痴呆症?・・・・」


 誰がやねんっ!

 ぴっちぴちの幼児、生後三か月に何て事言うんでしょう。


 俺は依頼書を手に、受付へと手続きに向かった。

 モーホーパーティーの人達が俺を睨んでとても怖かったとです。


 ……俺、狙われていませんよね?


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