表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/42

 お隣さんの秘密を知っちゃった

 初夏の陽気に暑苦しさを感じるこの頃、お元気ですか?

 久しぶりの様な気がするレン君です。


 このアットの街に住みついて三ヶ月経ちました。

 流石に生活も慣れたのですが、家のほか二人の駄目少女達は相も変わらず引き籠りです。

 俺としてはそろそろ外に出ても良いと思うのですが、残念な事に彼女達は魔法薬製造にハマり、日がな一日ゴリゴリしております。

 

 年頃間近の娘が一日中引き籠り生活を送っていると云うのは、如何なものだろうか?

 昨日はヤバい薬を生成してしまい、最高なくらいキマッテ二人はラリってました。

 どれくらいヤバいかと言うと、衛兵さん達に捕縛され、一生鉱山で使い潰される程の重罪として扱われるレベルだ。なんて物を作るのだ……真っ先に回収して処分しましたよ。


 そろそろ外へ連れ出さねばと思っているんですが、実は俺も引き籠っています。

 何故かと言うとですね……


 ―――コッコッコツ!


 小型の金槌で工具の柄を上から叩き、先端の刃先が金属を少しずつ削って行く。

 今作ってるの装飾品、ブレスレットの類です。

 最近こうした物に凝りまして、制作活動に明け暮れている。

 才能がさほどでもないのか、超ド級の非常識な物を作り出していないのが幸いだ。

 細工師としてのレベルは既にMax、しかし未だヤバい物は作っていないのだよ。

 もしかして、俺はこっちの才能が有るのではないだろうか?

 特殊効果はついても、どれも無難な物で済んでいます。

 例えば……


 ===========================


【銀のイヤリング】 ランク6

 銀製の飾り気の少ないイヤリング。

 ダイヤの僅かな輝きがその趣味の良さを窺わせる一品。

 特殊効果として【幸運+50】上がる。

 ダンジョンなどで得られるアイテムが少しだけ良質になるかも?

 価格 1200リル


 ===========================


 無難だろ?

 

 こうした僅かな能力アップが追加される物しか作っていない。

 うん、これは良い商売ができそうだ。

 数が揃ったら露天商にでもなろうかな? 怪しい格好をして……

 まだ数が揃ってないから商売に出るのには無理だけど、似たような装飾品を現在1200個ほど作っていますぜ。

 今すぐ商売ができるんじゃないかって? 

 無理。全部デザインが異なるし、同じものを鋭意製作中。

 財布やバッグなんかも作ったけどさ、使っている素材が破格過ぎて値段が凄い。

 一般で買えるレベルでは無いのだ。


 しかも、特殊効果が酷過ぎてお蔵入り。

 その内誰かに上げようかと思っているが、知り合いと言えば冒険者の変な奴等か、バーバンさん夫妻しか知らん。

 近所の人達もあまりこの店に来ないし、精々ケガをして傷薬を買いに来る程度か?

 何と言うか、商店街のお薬屋さんみたいな立場ですかね?

 まぁ、普通の薬も置いてあるからあながち間違いでも無い。

 後は……


 ―――もろっけたんちょぷもにゃぁ――――――――っ!!


 時折、隣の家から聞こえるこの変な音。

 声じゃないんですよ、明らかに音なんです。

 ただ、そう聞こえるだけなんですが……気になる。

 何をどうしたらこんな音が出るのだろうか? 知りたくも無いけど見たいと思う様になったこの頃です。

 

 覗くべきか、我慢するべきか……そこが問題だ。


 時間はランダムで夜中に聞こえる事もあるが、いったい何をしている人なんでしょうかねぇ~?

 周りは板でで囲い、入り口は全て塞がれているんだ。

 生活はどうしているのかさえ謎の住人、気にならない訳が無い。


 まぁ良いや、作業を続けよう。


 ―――コツコツコツコツ……


 地味な作業です。

 削って、磨いての繰り返しですぜ。

 だが、それが楽しくてやっている。

 もう直ぐ完成するが、販売目的で同じ物を5個ほど制作してます。

 後は磨いて……


 ―――シュリシュリシュリ……


 うん、完成。

 後は魔力を込めて、僅かな付加能力を追加し価値を上げる。

 では魔力を込めてみましょう。

 俺は魔力を手に集め、作品に流し込む……完璧。

 さて、どんなものが出来たかな?


 ===========================


【鬼神のブレスレット】 ランク8

 装備した者に【鬼神の祝福】を与える神具。

 全ステータス大幅に補正、あらゆる状態異常を無効化。

 同じブレスレットを装備した者の居場所を知る事が出来る。

 経験値や成長の大幅補正。

 販売価格 測定不能。


『嵐の前の静けさでしたね? 諦めてください』


 ===========================


 ブゥ――――――――――――――――ッ!?


 またやっちまったっ!!

 いや、まだ間に合う。

 これを封印する形で別の物に作り変える事が出来るかもしれん。

 武器の類はヤバいけど、装飾品なら何とかなる、折角苦労して作った装飾品は破壊するには惜しい!

 ヤバい武器は潰すけどね。


 よし、これを購入した者は運が良かったと思う事にしよう。

 では早速……先ずは質の悪い銀でコーティングしてと……


 ―――コツコツコツコツコツコツ……


 長い時間が過ぎた。

 何とか完成できたけど……


 ===========================


【解呪のブレスレット】 ランク3

 呪いをかけられた者を少しづつ浄化する腕輪。

 呪力の大きさに応じてその浄化速度は遅くなる。

 同じ物を装着した仲間の居場所を特定する追加効果が有り。

 一度呪いを解いた時、真なる姿を現す封印の腕輪。

 一度腕に装着したら二度と取る事が出来ない。

 封印から開放すると着脱可能。

 販売価格2000リル


 ===========================


 よし、これなら大丈夫だろう。

 呪いの効果はあるけど、効果の面を考えるとは格だろう。

 売れるかどうかは微妙だが、これで充分だな。


 ……今日は此処までにしておこう。


 さて、少し外の空気を吸おうかね。

 そう言えば、ギルドの情報網にも消えたリビングアーマーの話は出て来ないな?

 一体どこへ消えたのだろうか……

 変な方向へ進化してたらことだぞ? あぁ……頭痛い。


 憂鬱な事を思い出しつつ、俺は薬草の繁殖地となった庭へと出てドアの鍵を掛ける。

 昼も少し過ぎた所か、食事は最近メリッサとモーリーが交代で作る様になって来た。

 先ほどもメリッサの作ったサンドイッチを食べて作業していたんだが、マヨネーズ特盛サンドだったよ。

 しかも具が少ないから参った。

 僅かな野菜に特盛のマヨネーズ、口に入れたらサイドから一気に流れ出る。

 正直、何かの罰ゲームなんじゃないかと思った。

 アレはもう、マヨネーズの味しかしません。

 俺、病気になりませんかね? 密かに保険金掛けられていませんかね?


 ―――ちょもっぷきはんぎょろんぽ―――――――――っ!!


 今日はいつに無く激しいな……四度目だ。

 普段は朝と晩の二回か、夜中の一回だけなんだけどね?

 何度も言うけど音だよ? 声じゃないからね?

 どんな物からあんな音が出るのかスンゴイ気になるっス。


 ……少し、覗いて見ようか?


 好奇心が抑えられない俺ちゃん。

 見たら後悔しそうだけれど、何もしないで後悔するより何かをして後悔したい。

 慎重に油断せずに行こう。

 俺は薬草を踏み潰さないように慎重な足取りで塀まで移動し、どこか覗ける穴が無いかを探す。

 この塀は下の土台の上に重なる様にして建てられているので、意外に高いんだ。

 穴は無いかなぁ~……ありました。

 二重壁になっていたようだが、所詮は質の悪い板壁ですぜ。

 均等な規格の板じゃないから隙間が結構ありました。


「さて、何が見えるのかな………」


 覗いて見て、直ぐに後悔した。

 何か、トカゲの被り物と着け尻尾を装着した全裸の男女が、五体投地を行いながら銅鑼の周りをぐるぐる回り、偉そうなトカゲの被り物をしたおっさんがフル○ンで変な踊りを踊っていた。

 そのおっさんが銅鑼を思いっきり叩く。


 ―――もいっしゅぺちゅきゃぶりゃぎゃぁ――――――っ!!


 えっ?! あれ、銅鑼の音だったの?!

 どう考えても金属が奏でる音じゃないよねぇ?!

 物理的にもこんな音はしないと思うが、ファンタジー世界在り得ねぇ―――っ!!

 どんな金属を使ったらこんな音が出るんだよっ!!


 つーか、こいつら何なのさ。

 変な宗教団体なのは分かるけど、まさかこんな連中が隣に住んでいたなんて。

 カルト団体が隣って、何て嫌な所に住んでるんだ……。

 それ以前に、こいつ等は何処から出入りしてんだよ。

 何とか周囲を確認した所、祭壇の傍に穴が開いており、そこから被り物をした全裸の女性が出て来た。


 地中にトンネルがあんのっ?!


 この女性、買い物袋を所持してるみたいで、食料を買いに行っていたようです。

 待て、街にあの格好で出て行ったのか?!

 いやいや、どこかで着替えてから買い物に行かないと、街で噂位になるだろう。

 だとしたら、地下に部屋でも作ってんのか?


「同志達よ、もう直ぐだ。もう直ぐコケモモやフンモモの連中との長きに渡る戦いの歴史が終わる」

「「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」」


 何それ? 他にも似たような団体があんのっ?!


「長き苦渋の時は終わり、我等が神リザレバ様の時代が到来するのだっ!!」

「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!」」」」


 宗教戦争でも始めるのか?

 だが、こんな変な連中の宗教なんて聞いた事が無いぞ?

 新手の新興宗教か?


「2000年の長き戦いに終焉を齎すのだっ!! 最後に笑うのは偉大なリザレバ神を崇める我等のみ、下賤な異教徒共を根絶やしにするのだっ!!」


 意外に歴史が古かった?!

 そんな昔からあるのかよ、この宗教……嫌過ぎる。

 

「奴等と決戦の方法を協議した所、その方法は【海老ぞりハイジャンプ大回転アンポワニギョフ煉獄闘技】と決まった」


 何それぇ――――っ!?


「あ、あの多大な犠牲を出したと言う、あの地の……危険な闘技場で戦うのですか?!」

「うむ、我等に負けは許されない。奴等に打ち勝ち栄光を取り戻すのだっ!!」

「恐ろしい……だが、聖戦の場に相応し行け戦場だ……」

「生きて帰れるか分からん……家族に別れを言わねば……」

「娘もようやく言葉が話せる様になったと言うのに……残念だわ……」

「奴と決着をつける時が来たか……武者震いが止まらん。フハハハハハハッ!!」


 どんな戦いだよ、気になるけど関わり合いになりたくねぇ!

 俺は知ってはならない世界を垣間見てしまった様だ。


「偉大なる教祖マーセラ様の予言が成就する時が来たのだ。我等に恐れるものは無いッ!!」


 プゥ―――――――――ッ!?


 そ、それってメリッサのお婆さん?!

 教祖って、何してくれちゃってんのっ?!

 まさか、メリッサもこの教団のお仲間?!

 嘘だよね? 嘘だと言ってよバーニー!!


 うん、これは夢だ。悪い夢を見ているに違いない。

 最近暑くなってきたから頭がおかしくなって来たんだろう、冷たい物を飲んで横になろう。

 熱中症だよね、アハハハハ。

 だって、実際頭がふらふらするし、きっと幻覚を見たんだよ。

 もしかしたらメリッサ達が作ったヤバい薬のせいかもしれない。

 体質の所為で今頃効いて来たんだ……きっとそうだ。

 確か冷蔵庫に【ナイストロベリー】があった筈だ、ジュースでも作って飲むとしますか。

 あ、メリッサ達にも作らないと拗ねるな……少し多めに作るか。


 あぁ~暑い、暑い。



 * * * * * * * * * * * * * * *



「うん、美味い……暑い時にはイチゴ牛乳が一番☆」


 初夏の野菜で知られる【ナイストロベリー】は、酸味がやや強めの実に甘い苺だ。

 野生の物は形が歪で味も甘みが強いが、農家で栽培されているのは酸味が少し強め、それを混ぜて使いました。実に甘酸っぱくて美味。

 かき氷のシロップも出来そうだな、海岸で海の家でもやってみようか?

 その前にかき氷でも試そう…………うん、合う。


 ―――シャグシャグシャグ……(かき氷を掻き込んでいます)


 そろそろ呼ぶか……。


「メリッサぁー、モーリー―――っ!! おやつが出来だぞぉ―――――っ!!」


 ―――ドドドドドドドドドドッ!!


 まるで闘牛の牛の如く超特急で走って来た。

 そんなにおやつが待ち遠しかったのか?

 

「今日は何のおやつですかぁ~?」

「・・・ん・・・来たよ・・・」

「イチゴ牛乳、潰した果肉入り。少し凍らせるとシャ-ベットになるんでやってみたが、どっちが良い?」

「「両方!!」」


 何でそんな戦場に向かう兵士の様な真剣な表情?

 ただのおやつですよ? 命をかける必要性は無いんだぞ?

 しかし両方か、じゃパフェみたく盛り付けたらどうだろうか?


「今、グラスを用意する。下がシャーベットになってるから、ヒンヤリして美味いぞ?」


 寧ろアイスの方が近いかな?

 まぁ、どっちも似たようなモンだけどね。

 えっ? 違う? 御尤もだが、特に気にしてないから。

 何となく作っただけだし、特にレシピとかも無いから適当な物なのだよ。


 俺は凍らせた少し硬めのシャ-ベットをコップ半分に入れ、果肉入りイチゴ牛乳を流し込んだ。

 味はシャーベットの方は他の果物も混ぜてありんす。

 シャリシャリですぜ? 何が入ってるかは秘密だ。


「おぉ~・・・・・・・」

「随分、豪快ですね? パフェ用のグラスなんて何処で手に入れたんですか?」

「ん? 直ぐそこのガラス工房だけど? 気前良く作ってくれたぞ?」


 工業区の個人経営の工房は一寸した知り合いが出来ました。

 偶にガラス細工や陶芸品を注文しに行ってます。

 因みにこんな物を合作しました……


 ===========================


【幸福の壺】 ランク3


 この壺を所有すると幸運が舞い込む……かも知れない。

 特殊効果として家庭内の家族に【幸運+80】。

 見た目が素晴らしい調度品で、花を生けると見栄えが良くなること間違いなし。

 一家に一つは必需品。

 家を出ると幸運の効果は消える。


 ===========================


 怪しい宗教が売りそうな代物だが、商人達はこぞって仕入れているらしい。

 商売で幸運は会った方が良いからなぁ~……作ってみてなんだが、何故か罪悪感を感じたよ。

 私は阿漕な事をしている……。


 ===========================


【幸運のガラス玉】 ランク3


 このガラス玉が砕けた時、何か良い事が起こるかもしれない。

 追加効果で【幸運+100】。

 ドロップアイテム確保率微上昇。

 時として瀕死の状況から免れる事もある。

 その時にはきちんと回復してください。


 ===========================


 こんな物も合作しました。

 他にも御守やら、置物やらと色々試し、今では勝手に出入りする事すら許される程信頼を勝ち取った。

 持つべきものは商人仲間、色々確保した素材を流し、工房で遊びまくりですぜ。

 冒険者が買って行くそうで、手伝った俺にも僅かだがマージンが入った。

 引き篭もりとは違うのだよ、引きこもりとは!


「ご主人様? 何でどや顔で私達を見るんですかぁ~?」

「・・・・ん・・・・甘くておいしい・・・・・キーンと来た・・・」


 冷たい物をガッつくからだぞ?

 メリッサが頭を押さえております。

 俺、かき氷食ってもキーンてならないんだよね。

 苺ミルクのかき氷を食ったけど、全然痛くならなかったぞ?

 二人には内緒だけどな。


「最近、何の魔法薬を調合してんだ?」

「師匠の師匠のレシピを見て、面白い物作ったんですよぉ~」

「面白い物?」


 何故かな……嫌な予感がビンビンします。


「・・・・ん・・・これ・・・」


 鑑定……


 ===========================


【性転換の秘薬】 ランク8


 性別を変化させる秘薬。

 飲んだら同じ物を飲まない限り元に戻らない。

 性同一性障害の方にお勧めの一品。

 性別が変化する以外に若干のHP回復効果が有る。

 価格 30000リル


 ===========================


 そろそろ来るんじゃないかと思ってたよ。


 実は俺も作った事があるけど、秘密にしてたんだよね。

 だって……飲まされそうじゃん。

 特にこいつ等は面白がって行動しそうだし……。


「・・・・・レン君・・・コレ・・・飲んで・・・」

「断る」


 ホラね? 言ってる傍からこれですよ。

 目をキラキラさせて期待を込めた眼で見ないでください。

 絶対に飲みませんよ?


「え~? 飲んでくださいよぉ~、つまらないじゃないですかぁ~」

「・・・ん・・・学術的に・・・・効果・・確かめる」

「断固、断る。そんで着せ変え人形にしたいわけだよな、俺を…」

「……チッ、読まれる……」

「・・・・ん・・・レン君…手強い・・・」


 わからいでかっ!

 お前等の魂胆は、きっちり、しっかり、かっちり、まるっとお見通しだっ!

 その上でぽっきり期待を圧し折る。


「念のために言って於くが、食事に混ぜたら絶縁するぞ? 食事に毒物混入すっる様な奴を家族とは思いたくねぇ」

「・・しょぼ~ん・・・」

「これもですか……手強いです、ご主人様……」 


 見た目が美少女なだけでも苦痛なのに、本当の女になって堪るか。

 釘を刺して於かないと、こいつ等は本気で実行するからな。


「そう言えば、バーバンさんに頼まれた疲労回復役は出来てるのか? 今日納品に行くんだろ?」

「・・・ん・・・・バッチリ・・・それがプロ・・」

「お仕事はちゃんとやりますよぉ~? 私は出来る女ですぅ~」


 黙れ、腐女子!

 お前が部屋で怪しげな本を執筆している事を知らないとでも思っているのか?

 何で俺が受けなんだよ! それ以前にモーホーじゃねぇ!!

 勝手に人を題材にすんじゃねぇよ、訴えるぞ? そして勝つぞっ!


「な、何か……背中に寒い物が走りました……」

「・・・・風邪?・・・・・これ・・・・飲む・・・」

「それ、性転換の薬じゃないですかぁ~! 私を実験台にしないでくださいぃ~!」

「・・・・残念・・・・」


 モーリーよ、お前がそれを言うのか?

 お前もメリッサと一緒になって、俺に実験しようとしてたじゃねぇか!

 時にメリッサさん、他人に実験しない様に。それは犯罪ですよ?


「ご主人様は良いんですよぉ~♡」

「・・・・ん・・・・可愛いは正義・・・・・」

「本気で殴って良いか? 偶にお前ら見てるとやさぐれて来るんだけどよ……」

「暴力反対」

「・・・・ん・・・暴力では・・・何も・・・解決しない」


 君らのしている事は、ある意味で暴力ですよ?

 他人の意思をまるきり無視しているんですよ? 気付いていますか?


 ―――ひゃっぷとぽきゃんちょむにやぁ――――――――っ!!


「何時に無く激しいですねぇ~……お隣さんて、どんな方が住んでいるんでしょうかぁ~?」

「・・・・・知らない・・・・ん・・・美味しい♡」

「ご主人様は知りませんかぁ~?」


 知らないよ~、僕はなぁ~んも知らないよぉ~……。

 そうか、メリッサは何も知らないんだね。

 少し安心……いやいや! 俺はなのも見てないし、知りません!

 トカゲの被り物をした全裸のカルト集団なんて全然見てないよぉ~?


 何故だろう、甘い筈のシャ-ベットの味がしない。

 

「何で死んだ魚のような目をしてるんですかぁ~?」

「それは……モーリーが描き上げてるヤ○イ本の所為だと思うなぁ~………」

「見たんですかっ?! いやぁ~~~~~~っ!! ご主人様のエッチっ!!」


 何故にし○かちゃん?

 大体、描きかけの原稿をリビングに置きっぱなしが悪いんじゃん。

 目立つ所に置いて於くなよ、どん引きしたぞ……。

 そして好感度は一気に下がった。


 それに俺は何も知らない。

 モーリーがBLラブ♡のガチムチハードゲイもイケる腐った女の子だとか、あのカルト集団の教祖がメリッサのお婆さんだったなんて、全然知らないからな?

 本当だぞ?


 あぁ~シャ-ベットが美味しい……味がしないけど……

 あれ? これってジェラートと言った方が良いんだけ?

 どっちでも良いや、味がしねーし……。



 * * * * * * * * * * * * * * *


 

 さて、お仕事です。

 結局、家に引き籠りで人に配達をさせようとする駄目人間。メリッサとモーリーを無理やり連れだして、配達の任務を監視しています。

 こいつら直ぐに俺を動かそうとすんだよ、しかも自分から外に出ようとすらしねぇ。

 外に放り出さないと自分で配達しようとすらしないんだ。


 受けた仕事は自分で最後まで責任を持つ、それがプロと云うものだろう。

 だが二人は調合に夢中になり、注文された魔法薬を配達する事無く調合を続けて忘れるんだ。

 その上配達すらしないから、一度大慌てて各依頼者に俺が配達に向かったよ。

 俺が配達に向かった先で『お使い、偉いねぇ~』とか言われ、お土産を貰って帰った時、この二人は『ずるぅ~い!』と言いながら腹を立てていた。

 俺は二人のしりぬぐいでお得意様に頭を下げたのに、何でこんな事を言われなきゃならんのだ? 納得できねぇ……。


 そんな訳で二人には強制的に配達に行ってもらっています。

 労働基準法? 何それ、おいしいの?

 この世界は幼児だって家の仕事は手伝うんだぞ? 引き篭もりは恥を知れ!

 プロだと言うなら最後まで自分の仕事は完遂しろ……と、言ってやりましたよ。

 だが、この二人はしょっちゅうサボるんだ。


「うぅ……太陽が……太陽が暑い…。血が足りないんだ……」

「・・・・ん・・・・怠い・・・」


 バンパイアかっ!

 自堕落な生活してるからそうなるんだ。

 どうでも良いが、溜まりまくった在庫を抱えてどうすんだ?

 いつか売りに出さないと、消費期限切れで使えなくなんぞ?


「・・・ん・・・その内・・・売る・・・」

「大丈夫ですよぉ~、師匠と私の美貌があれば、どんな商品も一気に売れます☆」

「その根拠の無い自信が何処から出て来る事は兎も角、他にも依頼が溜まってんだろ? しっかり捌いて配達しろや、必要な時に薬が無かったら困るのは客だぞ? 信用ガタ落ちにする気か?」


 商人としての心構えがねぇんだよ、この二人……。

 俺の苦労、分かってくれますかね?


「注文して君のは近所なんだから、配達くらい出来ねぇでどうすんだよ」

「・・・・ん・・・家・・・街のお薬屋さん・・・」

「薬が無ければ買いに来れば良いんですよ」


 駄目だ……商売っ気が全然ないんだな。

 地道な行動が信用に繋がるってなぜ思わない。

 小さな労力で大きな信用が勝ち取れるなら安いもんだろうに……。

 顧客を失う一方だぞ。


「私達は学者肌なんですぅ~! 肉体労働には向いてないんですぅ~!」

「黙れヒッキー腐女子! BLに現を抜かす奴が何をほざく! ガチムチの牛さんがベースの癖に、肉体労働が無理だと良く言える」

「・・・・ん・・・研究こそ我が使命・・・・」

「メリッサはめんどくさいだけ! 少しは動きなさい」


 言うべき事は言って於かないとね。

 既に駄目人間だし……


「ガチムチ……確かに元はミノタウロスですけど……」

「・・・動くの・・・・面倒・・・・」

「次に進化した時、種族やスキル欄に『腐』か『駄』の文字が入ったやつが無い事を祈ろうな? 行動次第でスキルが獲得され進化にも影響を与えるみたいだし」

「「それは嫌っ!」」

「今の生活次第じゃ充分にあり得るぞ? マジでマイナススキルを獲得したら、可哀想な奴扱いにするからな?」


 この世界は人に優しくは無い。

 時に変なスキルを獲得し、自分自身を苦しめる事になる。

 そう言えば……そんな奴がいたような、いなかったような…あれぇ~誰だっけ? 

 えっと……次の角を曲がって……おお、此処だったな。


「ゴメン臭い こりゃまた臭い あぁ~くっさぁ~」

「お約束はいい……用件は手短にな?」

「・・・・・ゴメンk『言わなくて良いからねぇ――――っ?!』・・・」


 モーリーの真似をして某芸人ネタを言おうとしたよ。

 ヤバいから止めてよね?


「おー……お前等か、久しぶりだな」

「お久しぶりですバーバンさん。注文の薬を持ってきたぞ……この二人が」

「相も変わらず引き籠りか? まぁ、仕事はしてるみたいじゃねぇか」

「俺がいなけりゃ飢え死にするほどの駄目人間だ、仕事じゃ無くて趣味だな」


 如何やら直ぐ其処にバーバンさんがいたようだ。

 これは気づかなかった。


「メリッサも相変わらずか……苦労しているようだな?」

「それは、もう……」

「・・・・ん・・・これ・・・疲労回復役・・・・」

「おぅ、悪いな。金は今持ってくらぁ」

「そう言えば、ジニーさんはいないんですか? この間、店の前で会いましたけど……」


 モーリーがバーバンさんの奥さんがいない事に気付いた。

 俺も最近見かけてないな? 偶に市場でジニーさんに会うんだけど……


 俺達が疑問に思っていると、バーバンさんはニカッと笑みを浮かべた。


「実はな、子供が出来たんだよ!」

「「「誰の子?」」」

「俺の子だよっ! 俺とジニーの子供っ!」


 何とっ?! おめでたですかいっ!!


「それはおめでとうございます。何かご祝儀でも送ろうか?」

「そうですねぇ~……ぬいぐるみなんかどうですか?」

「・・・ん・・・・・筋肉増強剤・・・・」

「「「そんなもん、如何しろと?!」」」


 生まれれくる赤ちゃんに筋肉増強剤をあげてどうすんの?!

 マッチョにするの? ユニバースなマッスルに育てんのっ?!

 

「五月蠅いわよ……玄関先で何を騒いでんのさ」

「あ、ジニーさん。この度は誠におめでとうございます」

「なんだい、旦那から聞いたのかい? ちょっと恥ずかしいんだけどね……」

「・・・・おめでとう・・・赤ちゃん・・・楽しみ」


 Ohーメリッサさん、嬉しそうですね。

 あれ? 何か違和感が……


「あら? メリッサも大きな赤ちゃんがいるじゃない」

「・・・レン君・・・・生まれて一日で・・・自立しちゃった・・・」


 そうでした。忘れてたけど、俺、生後三か月!

 普通なら赤ん坊でしたよ。


「私も似たようなものですよぉ~?」

「元が魔物とは言え、成長が早すぎたな……」


 メリッサは子育ての嬉しさと辛さを体験してません。

 生まれて直ぐに捨てられて、次の日には自立して親父をフルボッコにしたからなぁ~。

 良く考えてみれば異常だな。

 モーリーも生後一週間で急成長だし、何でしょうね?


「生まれたら仲良くしてね? メリッサ」

「・・・ん・・・・いっぱい遊んであげる・・・・」


 嬉しそうだな。

 考えてみればメリッサは一人っ子なんだよなぁ~、寂しいのかもしれんな。

 性格も子供と言うか、寧ろそれより幼い感じがするし。


「悪いなメリッサ、これが薬の金だ」

「・・・ん・・・・まいど・・御贔屓に・・・・」

「どこで覚えてくんだよ、そんな言葉……」

「・・・ん・・・レン君・・・・」

「俺? んな事言ったかなぁ~……記憶にねぇ」


 いつ言ったんだ? マジで記憶にないんだけどさ。


「何にしてもめでたい事だし、パーティーでもやるか?」

「「賛成!」」

「おいおい、あんまり無茶な事はすんなよ? ただでさえ身重なんだからよ」

「まだ大丈夫よ。これからお腹の子が大きくなったら大変だけどねぇ~」


 幸せそうですな。

 バーバンさん……爆ぜやがれ!


「おいおい、俺の為にパーティー開いてくれんのか? 俺を捨てた割には嬉しいサプライズじゃねぇか」

「「「「「!?」」」」」」


 俺達が声がした方向に振り向くと、そこには下卑た笑みを浮かべたチンピラ風の男が偉そうに立っていた。

 他にも数人の男共が似たような笑みを浮かべ、俺達を嘗め回すかのような目で見ていた。


「帰って来たぜ、親父、お袋」


 チンピラ男はそう言いながらバーバン邸に足を踏み入れた。

 こいつは……     

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ