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 コースケ君、初ボス戦に挑む?

 ダンジョンに潜り続けて一週間。

 俺達は地下五階まで降りてくることに成功していた。

 ここまで来るのに多少危険はあったけど、レベル上げを重点的にしていたので無理なく来れたよ。

 問題はこの階層……ボスがいるんだよね。


 モンスターの数も多くなり、得られるアイテムもかなり増えたけどさ……その分階層のエリアも広くなってきている。

 四人がかりで此処まで来れたのも快挙らしく、俺達は慎重にマップを埋めて進んでいた。

 どこかの探検隊みたいな気分を味わう余裕なんて無い。

 少しの油断がモンスターの接近を許し、命懸けの戦闘に発展するのを何度も経験した。

 その分レベルも上がったけどさ、それでもレベル53……できればランクも上げたい所だ。

 けど、ランクはレベルが99まで上がらねばランクアップせず、ランク2になってからはレベルも伸び悩み始めている。

 

 強いモンスターを倒せば一気にレベルアップ出来るのだろうけど、今の段階で高ランクモンスターを相手にするのは危険だろう。

 実際この階層のモンスターは倒せるけど、それでも数で攻めて来られたらどう仕様もない。

 ランクは俺達と同様2に対し、レベルは26と結構ギリギリの戦力差。

 序でに武器や防具にも耐久力が有り、あまり攻撃を受けると装備が破損しかねない。

 状況的にはゲームみたいな世界なんだけど、変な所で現実的なんだよねぇ~。

 モンスターは死ねば消えるのに、人間や他の種族は死んでも死体はなかなか消えないし、ダンジョン内でいくつもの死体を発見したよ。

 中には食い漁られて無残なものもあったし、嫌な物を見せられたよ。マジで……

 アレ? ダンジョンのモンスターて食事をしないんじゃないの?

 何であんな死体があったんだろ……不思議だ。


「亜里沙っ、左側から接近!! 数は2」

「任せてください、そいやぁあああああああああああっ!!」


 亜里沙はスパイクスタッフ(とげ付き鉄球の付いた杖)を叩き込み、二体のビックバイパーに致命傷を与えた。

 内一匹は気絶状態でこれはチャンス。

 所で亜里沙さん? 何で鈍器を愛用しているんですか? 正直怖いです。

 俺、何かの拍子に殴られたりしないよね?

 

「止めです!!」


 気絶してないビックバイパーを叩き伏せ、さらに気絶した方も再び殴りつけ倒した。


「おりゃぁあああああああああああああっ!!」


 クートは安定した動きでミドルスパイダーを斬り倒し、セリアに迫ってきたバッドラットの攻撃を盾手で防いだ。


「ありがと、クート! 後は任せてっ!!」


 セリアはクートの背後からバッドラットに走り出し、すかさずショートソードで斬り付ける。

 威力は弱いが手数は充分にあり、四回の斬撃であっさりと倒す。

 だが、このバッドラットは特殊攻撃が有り、死ぬ間際に毒ガスを体から放出するんだ。


「セリアっ、クート、退避っ!!」


 俺がミドルベアーを倒しているとき気付き思いっきり叫んだ。


「やばっ!?」

「逃げろっ!!」


 二人は逸早く反応し、バッドラットから離れると同時に毒々しい真紫のガスが放出される。

 それに気を取られた隙に、デミ・ボアが高速で突進して来た。

 懐に踏み込まれると判断した俺は咄嗟に盾を構え、突進を受け止める。


「グッ?!」


 腕に重い衝撃が加わるも何とか踏み止まり、俺はミドルボアに対して蹴りを放つ。

 この世界はスキルが多い程攻撃や防御と云ったステータスに補正が掛かり、身体能力が僅かにではあるが上がるようである。

 その為俺には複数の戦闘スキルを持ち、普通の冒険者よりも格段に強かった。

 格闘スキルは既にMaxで、これは実家で古流武術を学んでいた事が影響しているんだろう。

 武器で戦うよりも生身の攻撃の方が強いのは納得いかないが、武器スキルも順調に上がってきているのでこうして剣で戦っている。


「コースケっ?!」

「この野郎、死にやがれっ!!」


 格闘スキルは気絶判定が鈍器並みに出やすく、その効果は発生確率は武器よりも高い。

 重量武器で殴ったよりも出やすい代わりに、気絶効果時間は短いのが特徴だ……ドラゴン相手にはどうなんだろ?


 俺は即座に間合いを詰めると、連続して拳を叩き込んだ。

 腕に保永砕ける感触が伝わる……何時やっても嫌な感触だよ。

 だが、止めは刺せたようで、ミドルボアは弾けて消えて行った。

 ドロップアイテムはたぶん肉だな。


「フロア事にコレかよ……参ったね、どうも……」

「数が多いのが問題だが、囲まれなきゃ倒せる相手でもあるな」

「けど、倒してる間に援軍が出て来るのよ? しかも何も無い場所から……」

「正直、メンバーが欲しいですね。魔法職と遊撃か斥候職がですけど……」


 俺達四人は比較的レベルが上がりやすい傾向にある。

 俺の【経験値倍加・特大】と【成長促進・特大】の効果が、パーティー編成だとメンバーにも及ぶ様だ。

 その為新人にしては異常に成長が早く、こうして戦っている間にも経験値が溜まり続けている。

 資金もモンスターを倒せば大量に確保できるが、その分装備やアイテムの消費が激しく、懐具合が寒いのだ。

 まぁ、亜里沙のスキルも【成長促進・神】だから、俺達のスキルレベルが早くもMax状態。

 新たに別のスキルに変化したり、称号も得ているので効果が倍増しているのだが、やっぱり装備が一番のネックでもある。


 スキルレベルが上がれば武器の消耗が減るのも良いが、そこは数で攻め込まれれば結局消耗して行く事になる。何よりも武器の値段が高過ぎて、三日前に買った装備も今では傷だらけでヤバい。

 ドロップアイテムも売り捌いているんだけど、装備を直して予備の武器を買ったら一気に金欠状態になり下がる。

 けど、俺達はまだマシな方らしいと言うのが、道具屋のおっちゃんの話で聞いた。

 どうも新人冒険者の大半は金欠で挫折するらしい。

 スキルは鍛えれば何とか得られるもの、成長させるまでが困難なんだそうだ。

 俺のスキルの中で【格闘】は【格闘家・師範代】になってるし、【剣術】は【剣豪】になってる。

 他の武器のスキルもあるけど、何故か俺だけは【小鹿紅月流・師範代】何てスキルも在ったりする。

 これ、格闘家とどう違うの? 凄い事に全ての武器や格闘能力に補正が掛かるし、同じ名称の称号もある。

 更に同じような補正が掛かるし、しかも補正に加算されているみたい。

 ダブってるんだけでなく、補正の加算だけでも狡くね?


 因みに師範代が付いたのは、仲間に簡単な格闘術を教えた時に【格闘術講師】何てスキルが手に入った直後だ。

 怒涛の如くスキル調整が発生し、今では中堅の冒険者の下位に実力が匹敵するそうだ。

 スキル【勇者】は俺個人のスキル能力を僅かにだが上げるらしく、現在Maxだから50%UPする。

 セリアやクートは【勇者の従者】と言うスキルを手に入れ、効果は同じで25パーセントUP。

 俺の半分程度の補正効果だが、それでもこの世界の人達から見たら十分に破格だ。

 けど、人間自身の個人能力はレベルアップしても低いらしく、ランクが上がってもドラゴンに蹴散らされるほど弱い。だから皆数で勝負するんだろうね。

 所で、進化が全然反応しないけど…どうして?

 人間が進化したらどうなっちゃうの? 謎だ。


 そんな訳で、俺達は一般では苦戦するようなモンスターを保々2~3回の攻撃で倒せるんだ。

 チート、やべぇ……マジでやべぇ。

 ランクにもよるんだけどもね。


 勇者のランクは最大で6、7~Maxまでは未知の領域。

 それ以前にランクアップできないから、魔王のランクは最大で7、レベル次第では数で勝負しないと勝てない訳で、だからメルセディア聖国は俺達を大量召喚しようとしたのだろう。

 俺達を使い捨ての駒にしようとした訳だから、正直ムカつく話だ。

 しかも大勢の命を犠牲にしているし、俺達の世界でも死人が出ている。

 俺はその時兄貴が死んだわけで、あいつ等の為に戦ってやる義理はこれっぽっちも無い。

 正直滅んだ方が良いとさえ思ってるよ。


 数日前にダンジョンを出た時、今まで見えなかった巨大な大樹と山脈が現れ、それがイルモール神の聖域だと初めて知った。

 けど、そこに生えていた巨大樹…世界樹が崩れて行くのを目撃した。

 イルモール神の聖域が消滅したらしくて、今も外では大騒ぎだよ。

 イルモール神を信奉している神官達は、等々神に見放されたと本気で泣いていたっけ……ザマ―と内心喜んだのは俺達だけでは無い筈だ。


 勇者召喚で俺達をどうやって召喚したのかは判明しているし、その勇者である俺達が世界を管理する神々と会って話をした事も広がり、貴族階級に牛耳られていたメルセディア聖国の上層階級の連中は激しく非難されている。今じゃ神の意志に反した背教徒として民衆からも責立てられており、彼等は北部へと移動を開始しているとの事。

 その内何かをやらかすと思うんだが、何をするか分からない所があるから怖いな。

 大義名分をでっち上げるのはお手の者だろうし、権力に固執した連中だから武力衝突になる事は間違いない。

 どうなる事やら……。


「コースケ……おい、コースケ」

「あっ? 何?」

「何、ボーとしてんだよ。早くこのフロアから出るぞ。またモンスターが湧きだしたら敵わんだろ?」

「だね。つい、この間の事を思い出してね」

「この間? あー……聖域が崩壊したのを見たアレね。アレは凄かった」


 クートはうんうん頷いている。

 俺たち全員がその崩壊の瞬間を目撃し、誰もが目を話す事が出来なかった。

 世界樹……アレ、絶対成層圏まで届く大きさだったぞ?

 森林限界を無視しているんだから、ファンタジー世界ってスゲェー!


「世界樹の崩壊……神様はいよいよ私達を見放した訳ね」

「そうでしょうか? 私にはとてもそうとは思えませんけど……鬼神の事もあるでしょうし」

「鬼神なぁ~、闘いの神なんだろ?」

「鬼神と言っても二面性がありますよ? 例えば破壊神でありながら浄化の神であったり、慈悲深い神でありながら子供の為に他の子供を殺して食べさせたり……」

「まぁ、多分破壊神か軍神の類だと思う。グラードス王国の王様を気に入ったんだろ? 文武両道で、亜人種も排斥したりしない賢王らしいじゃん」


 グラードス国王の名声はこの国にまで響き渡っている。

 何度も戦に出ては常勝無敗、内政に於いては堅実一路、民衆には常に気を配る王の鑑とまで言われている。

 多分歴史に名を遺すだろうね、神に聖剣を賜った聖王として。

 おかげで親戚筋に当たる小国も完全にこの国に反発し始め、今では見向きもしないらしい。

 余程阿漕な事をしてたんだろうね、この国の上の連中は……当事者で被害者だから良く解る。


「フレアランス陛下は有名よ? 若い頃から武勇に於いては敵無しだったらしく、第二王妃との恋愛は女子にとっては憧れのロマンスだし、第一王女と第二王子は優秀らしいわ」

「第一王子は?」

「「アレは馬鹿だ(よ)、ろくでなし」」

「貴族出身の第一王妃とは政略結婚らしいですよ? お世継ぎの第一王子は相当甘やかされて育ったらしく……」

「調子に乗っちゃったんだぁ~」


 王様が病で臥せっている間、国王としての仕事を代行していたらしいんだけど、かなり考え無しの酷い有様だったらしい。

 今では責任を取らされ、別邸に軟禁状態らしいよ?

 その第一王子を担ぎ上げた連中も、今では責任追及を恐れ大人しくしているとの噂。

 親が優秀でも、子が優秀とは限らないんだなぁ~……。


「何か、貴族の血を引く連中て、王位継承権を持つと馬鹿にならねぇか?」

「確かに……多分、周囲に煽てられて舞い上がってんだろうな」

「現実を見せつけられると真っ先に絶望するタイプね」

「自分で何かを成し遂げた事が無いから、簡単に折れてしまうんでしょう」


 亜里沙さん、厳しぃ――――――っ!!

 流石芸能界と言う過酷な荒波に揉まれた事のあるお方、重みが違いますぜ。

 あれ? て、事は……俺は継承権争いをしている様な国に行こうとしてんの?

 噂じゃ、王様が若返ったなんて話も出ているけど、そんな事あり得るの?

 幾らファンタジーの世界と言ってもねぇ~……。


「出没するモンスターは何とかなるけど、いい加減数が多すぎるわ……」

「だな、こうして歩いているだけでも、湧いて出て来るしなぁ~」

「希少種が出ても、望みのアイテムがドロップ出来るとは限りませんし」

「階層が百階無くて良かったな。うんざりして来るぞ?」

「「「同感」」」


 ダンジョンて、見渡す限り同じ光景が広がっているから、今どこを進んでいるのか解り辛いんだよ。

 殆ど迷路だし、下に行くほど複雑に広くなって行くし、気が滅入る。

 地下五階まで降りてみると、一階層の5倍の広さはあるよ? しかも今だに拡大中らしい。

 建造物に見えて、実は生きている何てなぁ~……マジでおかしな話だ。

 本当にどうなってんの?


 このダンジョンの構造は、階段式ピラミッドが地中に埋もれている状態に近い。

 第一階層で降りると階段は端の方にあったし、宝箱も見つけたけど大した物は入っていなかった。

 この手の宝は長い時間をかけて変質させるからこそ意味があるらしく、既に解放されている迷宮では大した物は入っていない事が多い。

 箱自体に罠は仕掛けられていないけど、別のダンジョンはかなり悪辣らしいと言う噂を聞く事がある。

 階層が入れ替わるとか、宝箱が爆発するとか、罠が酷過ぎるとか……。

 ここが普通で良かった……割とマジに。


「マッピングの方はどうだ?」

「ん~~……左の角を曲がるとボスの部屋みたい。その奥に階段があるわ」

「転移ゲートは?」

「多分ですが、階段の傍にあるのではないでしょうか?」

「となると……ボス戦か?」

「行くしかないだろうな」


 ここのダンジョンのボスはランダム形式で、どんなモンスターが出て来るかは不明。

 行き成り高ランクのボスが出てきて倒せなかった場合、そこに居座り続ける事になるらしい。

 しかも、モンスターもレベルアップするから問題なんだよ。 

 最近、この階層のボス戦で負け続けているらしい。

 どんな奴が待っているのか分からないけど、厄介な魔物である事に間違いはないだろう。

 けど、先に進むのには挑まなければならない。

 

「挑むのか? 俺達で大丈夫かよ……最近負けてるって話だぞ?」

「俺達はランクは低いけど、レベルは高いしスキルも多い。補正を考えても十分対応できるレベルだと思うぞ?」

「コースケ達と出会ってからスキルが異常に増えたわね。おかげで強く離れたけど、ボス戦は初めてなのよ? 準備は大丈夫なの?」

「話では強力な肉食のモンスターらしいですから、正直不安ですね」


 兎に角、挑んで見て駄目なら逃げよう。

 幸いにもボスがいるフロアに扉は無いし、瀕死で逃げて来た人もいるから大丈夫だろう。

 何ならフロアに入る前に鑑定してみても良い。


「よし、ボスに挑む前に遠くから鑑定してみよう」

「なるほど、実力で何とかなるか分かる訳か」

「駄目なら逃げればいいしね!」

「無理せず確実に、ですね」


 方針決まれば進むのみ。

 さて、何がいるんでしょうねぇ~・……




 で、ボスがいるフロアに着ましたが、擂鉢状の闘技場みたいです。

 中央に四体の鎧がいるんですが、なんか変。

 二頭身やら、やけに腕がデカい鎧やら……胴体だけがデカい短足の鎧やら…何コレ?


 ===========================


【鎧戦隊 リッターフォー】 ランク3 Lv30

【ヘッドバッド・リッター】を中心に、【チョップ・リッター】【キック・リッター】【プレス・リッター】でチームを組むリビングアーマー。

 それぞれに一撃必殺の攻撃を所有する、生きた鎧。

 格闘戦を主体とする燃える闘魂、あんときの鎧。

 見なくても攻撃手段は分かるよね?

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 ===========================


 ネタ? いや、攻撃手段て……まんまじゃん。

 何? この解り易いモンスター。

 つーか、話違うよね? 肉食のモンスターて……こいつ等リビングアーマーじゃん。

 それより、この『?』が凄く気になる。

 何か、他に特殊能力があるんじゃね?


「ランク3だぞ? 勝てるのかよ……」

「でも、攻撃は分かりやすいわよ?」

「危険なら逃げても良いですしね。戦ってみて駄目なら逃げましょう」


 見た感じ、俺達でも十分に通用しそうだ。


「先制攻撃でダメージを与えて、出来るだけHPを消耗させよう。アイテムを総動員してでも倒す」

「【爆裂ジェム】を使うの?」

「出し惜しみはしない方が良いだろうな。ランクとレベルは向こうが上だし」

「アイテムを補充する分のドロップアイテムは確保しています。やってみますか?」


 魔法耐性も高そうだけど、脅威と云う訳でも無い。

 何とか倒せると思う。

 俺達は頷くと、手に【爆裂ジェム】シリーズを両手に持ち、一気に闘技場中心に走り出した。

 巻き添えを受けないように左右二人別れ、リッターフォ―を挟み込む形で接近する。


「大盤振舞いだ、受け取れっ!!」


 俺達は一斉に【爆裂ジェム】シリーズを投げつけた。


 ―――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 全ての最大属性攻撃が一斉に炸裂した。

【爆裂ジェム】シリーズは、属性に応じた最大魔法が封じ込められている言わば手榴弾だ。

 俺達四人それぞれが、所有している【爆裂ジェム】シリーズを全て投げつける。

 ハッキリ言えば広範囲高威力魔法攻撃の連続使用みたいな形かな。

 何つ―か、最早戦場みたいに爆炎に包まれております。

 魔法スキルのレベルがMaxだから可能な荒業だ。

 だが俺達は手を緩めない。出来るだけHPを奪うために、全ての【爆裂ジェム】シリーズを使い切る覚悟だ。

 卑怯? 何それ、おいしいの?

 俺達は生き延びねばならんのですよ、持てる手段は全て使い切る!


「や、やったか……?」

「クート、それフラグっ!!」


 爆炎の中からリッターフォ―が高々と飛び出す。

 チョップ・リッターが腕を振るった。


 ―――ズバァアアアアアアアアアアン!!


「「へ?」」


 何で床に亀裂が入ってるの?

 まさか……


「え、エクスカリバー?! 冗談でしょ?!」

「何だよ、今のっ!! 遠距離攻撃じゃねぇかっ!!」


 更に、キックとヘッドバッド、プレスの3リッターズが光を放ち、それぞれがこちらに突っ込んで来た。

 ヘッドバッドとボディプレスだ。

 そんで……


「ライダーキック……」

「おいおい、攻撃は単調だけど……威力がすげぇぞ?」


 何とか避けたけど、奴等の攻撃はダンジョンの闘技場を破壊するほどの必殺攻撃だった。

 まぁ、その分魔力が大量に減ってるけど、これはヤバイ!!

 コミカルな外見の癖に、異様に迫力があるんだけど……逃げるか?

 チョップとキックが俺達に突進して来た。


「なっ!?」

「こいつ等っ!!」


 チョップは手技中心、キックは足技。


「ボクシングとムエタイ……いや、テコンドー?!」

「リーチが長すぎて、攻撃が……」


 この二体、厄介だ。

 ヘッドバッドとプレスなんだけど……


「やだ、こいつら弱~い♡」

「走っても直ぐに転びますね……手足が短くて立てないみたいだし……」


 短足短腕で転んだら立てないプレスと、二頭身で動きがコミカルなヘッドバット。

 瓦礫で躓いて転んでるよ……弱っ!!

 タコ殴りになってHPがガンガン減ってる……何? この戦力差。

 俺は今も苦労して攻撃を避け、何とか一撃を叩き込んでる最中なのに……。

 キックとチョプが強すぎる!!


 まぁ、チョップには弱点があるけどね。


「よし、転んだっ!! 喰らいやがれっ!!」


 体の大きさがヘッドバットと同じ短足だから直ぐにコケる。

 腕が長いから直ぐに立ち直るけど、隙が簡単にできるんだ。

 問題はキック、連続して蹴りを入れて来るんだよっ!!

 俺だけ危険度が高い、ヒデェ!!


「けどなぁ、弱点もあるんだよっ!!」


 俺は蹴りの猛襲を掻い潜り、軸足を回し蹴りでさばくとキックはあっさりと転んだ。

 そう、こいつも足が長すぎて転ぶと立つのが困難なんだ。

 後はフルボッコにするだけ。ジタバタしている姿が情けない……勝てない相手じゃないよ。

 俺達はリッターフォ―のHPを0にした。


「……おかしい、何でこいつら消えないんだ?」

「そう言えば……他に何かあるのか?」


 嫌な予感がする。

 こいつ等はそれぞれの躰に適した攻撃手段を得意としている。

 頭、腕、胴体、足……まさかっ!!


「あっ、頭部が……」

「もしかして、元は一つのモンスター?」


 ヘッドバッド・リッターの頭部が空中に浮きあがる。

 嫌な予感、敵中。


『フォーム、アップ』

「「「「喋ったぁ――――――――っ!!」」」」


 足、腕、胴体が高速で飛び出し、空中で頭部と合体する。


 ===========================


【四体合体 シルバーリッタ―】 ランク3 Lv60

 リッターフォ―それぞれのパーツが合体した無敵の白銀戦士。

 リビングウェポンを呼び寄せる。

 パーフェクトモードは手の付けられない最強のガーディアン。

 ただ、無茶苦茶馬鹿。

 鎧だけに頭の中身が空っぽ、HP見てみな。

 それでも強い、気をつけろや!


 ===========================


 ……あ、HPがめちゃくちゃ低い……最初からこの姿の方が良かったんじゃね?

 最初から分割して出て来る意味あんの? ただの色物じゃん。


『リビングウェポン、カーム・ヒ~ヤァ!!』


 ダンジョンの天井できらりと光り、高速で接近する鋼の鳥。

 それが分解し、槍、剣、盾、弓となり、シルバーリッターに装着される。


『シルバーリッター、パーフェクトモード』


 うん、ランスや盾は良いよ?

 けど、弓を使うには両手が必要だよ?

 それに残りのHPが少ないんだけど、何回か攻撃当てたら死ぬよね?

 無駄な事をしてるよね? 合体しても意味ないよね?

 何で無駄な事をするんだろうか……あ、そうか……こいつ馬鹿なんだ。


「「「「エクスプロード!!」」」」


 一斉に最大級の魔法をぶち込みました。

 あっさり消えちゃったよ……何でこんなモンスターに死人が出たんだろ?

 俺達のランクとレベルが上がったけど、何か釈然としない物がある。

 何だろね、この虚しさ……。


「あっ、シルバーアーマー一式GETしてる……リビングアーマー?!」

「俺はリビングウェポンだって……剣、槍、弓、盾……これ、レベルアップするみたいだ」

「私は銀の腕輪でした。効果は魔法と呪いの耐性が大幅に上がるみたいです」

「あたしは……銀のガントレット? 魔力を蓄えて於く事が出来るみたいね。その魔力で雷魔法撃ち放題」


 俺は武器か……成長するなら便利だろうけど、武器としては最高品質。

 つーか、これは武器を得たと言うより、モンスターをティムしたって言うんじゃないか?

 だって、【ウェポンバード】て種族名だし、進化もするみたいだ。

 剣を使っただけでも他の武器とレベル共有してるし、一つの武器で全てがレベルアップする。

 何? この非常識な装備……うん、これからこの剣を優先的に使おう。

 全属性対応て……成長したら最強の武器じゃん。

 しかも買わなくて良いんだから、何てお手軽なんだろ。


「んじゃ、帰るか。明日から地下六階を探索だ」

「だな。良い装備も手に入ったし、焦らずに行こう」

「換金して……あっ、新しい装備が欲しいかも」

「そうですね。私達の装備はまだ初心者のままですし、そろそろ変えないと辛いかもしれません」

「じゃぁ、明日は休むか? 消費したアイテムも買う必要があるかもしれないからな」

「宿に戻ったらチェックして、明日の行動計画を立てよう」

「「「お~~~~っ!!」」」


 そう言えば、リビングアーマーて魔法生物だよな?

 誰かが作らないと存在しない筈なんだが、誰が作ってるんだ?

 種族にしたって繁殖できるわけじゃないし、どうなんってんだろ?

 不思議だなぁ~。



 * * * * * * * * * * * * * * *



 話は数日前に戻る。

 其処はある道具や裏の攻防で彼等は生まれた。


「出来た……まさかリビングアーマ―ができるとは……」

「ご主人様、何でバラバラで変な体や手足が付いてるんですか?」

「・・・・・ん・・・ちょっと・・・可愛い・・・」


 彼等を制作したのは褐色黒髪の美少j…もとい少年。

 額に角を持ち、深紅の瞳を持つ魔物から進化した新種であった。


「こいつ等は他の躰が破壊されると、本来の姿に合体するように出来てる」

「無駄な機能に思えるんですけどねぇ~」

「・・・・ん・・・可愛ければ許す・・・」


 彼等が自己を認識した時、聞こえてきた会話がこれである。

 だが、彼等にはその意味が理解できないでいた。


「前々から気になってたんだが、このリビングアーマーてゲームでは定番だろ? けど、誰かが作らないと存在何てしない。物によっては死んだ騎士の魂が乗りうつったとか、大魔導士が制作したなんてのもある」

「そうですね。定番ですぅ~」

「だったら、俺が作っても良いんじゃね?」

「「・・・・・・・・・」」


 単純な理由で彼等は生まれて来たようである。

 しかし、彼等はそれを認識する知能は備わっていなかった。

 ある意味幸せなのかもしれない。


「こっちは武器ですかぁ~? 何故鳥の姿を……あー某マンガとアニメですかぁ~」

「そう、最高の素材で作った武器。しかも、どうやら進化するみたいだな。この世界、マジでどうなってんだよ」

「知りませんよ。所で、お昼ご飯はまだですかぁ~?」

「・・・・・ん・・・お腹空いた・・・」

「お前等……本気で自分達で作ろうとは思わんのか? 俺がいつも家にいるとは限らんだろ?」

「大丈夫です。2~3日御飯を抜いても死にませんから」

「・・・ん・・・レン君の御飯・・・おいしい・・・」

「舌を肥えさせちまったか……一月ほど旅に出ようかなぁ~……」


 遣る瀬無い表情で深い溜息を吐く少年。

 哀愁が漂ってくる。


「こっちは何ですか? ガントレットと腕輪?」

「リビングアーマーシリーズの失敗作。生きてはいるけど動かない」

「でも、レベルアップはするみたいですねぇ~……不思議……」

「・・・・それより、御飯・・・・・」

「はいはい……これから自炊するなら作るぞ? でなきゃ飯は作らん」

「「えぇ~~~~……」」


 創造主の少年は意外に頑固だった。


「分かりましたよぉ~……努力しますぅ~・・・・・・・」

「・・・・ん・・・・気が向いたら・・・」

「明日から自分達で作ってくれ、もう飯は作らん」

「「頑張りますっ!!」」


 少女達の方は駄目人間のようだった。

 創造主の料理がいかほどかは分からないが、言う事聞くぐらいの物なのだろう。

 リビングアーマー達は、目の前の情報を拾うのが精一杯で、意味は理解できない。

 しかし、自分達の役割は理解していた。

 分割されているが今の自分達が元は一つの装備であり、倒した者に絶対の忠誠を誓う事だ。

 これは武器や防具として生まれた存在の本能で理解している。


「今日は何にしようか……」

「ハンバーグが食べたいですねぇ~……あっ、手伝いますよ?」

「・・・マヨネーズ♡ ・・・・たっぷり・・・」

「ハンバーグにマヨ……デンジャーだ…」


 賑やかに部屋を後にする創造主達。

 彼等を見送った後、リビングアーマー達は暗い部屋に取り残された。

 そして彼等は動き出す。

 ウェポンバードはガントレットと腕輪を加えたり転がしたりして遊び、アーマー達は情報を収集するべく周囲を歩きだした。

 その時、突如として床が光り出し、彼等は忽然と消え去ったのである。


 気が付けば彼等は妙な場所にいた。

 周囲が擂り鉢状と化した建造物の中心で、目の前には獰猛な牙を持つ肉食の魔物が彼等を見下ろしている。


 ―――グォオオオオオオオオオオッ!!


 魔物が威嚇の雄叫びを挙げた。

 最近に幾多の冒険者を倒し続けた大型の魔物である。

 だが、鎧たちは怖気づく事無く戦闘態勢に入る。


『敵性物ヲ確認……コレヨリ排除ニ移ル……』

『『『『了解。敵ヲ排除スル』』』』


 意志のこもらない言葉を交わし、目の前の敵を排除する事を決定する。

 魔物は強かったが、彼等の敵では無かった。


 そして彼等は決断する。

 この場に留まり、自分達の主と為る者を待つ事を……。

 それが彼等の本能であり、使命でもあった。


 創造主に与えられた役割を果たす為に彼等は待ち続ける……。

 そして、意外に早くその時は訪れるのであった。 


 初めての主人達は知らない。

 彼等リビングアーマー達のスキルの中に【鬼神の再生力】と云う物がある事を。

 破壊されても自己修復できる機能だが、ランクの低い主人達は確認する事は出来なかった。


 彼等生きている武具達は、この主人達と共に戦いに身を投じるのである。



 * * * * * * * * * * * * * * *



「不味い……何処へ行ったんだ?」


 食事をしている間に、俺が作ったリビングアーマー共が消えてしもうた……。

 不味いぞ、あいつ等が外に出たら死傷者が続出しかねん。

 だが妙だ。この部屋の扉は閉まっていたし、工場も鍵をかけて出て行ったんだぞ?

 仮にあいつ等が外に出たとして、どうやって外に出たんだ?


「取り敢えず【探査】スキルを……アレ? 魔力の残留が……転移魔方陣が作動した?!」


 待て、どういう事だ?

 工房の転移魔方陣が勝手に動いただと? 

 いや、違う……詳しく鑑定してみたら、外部干渉?!

 どこかに引きずり込まれた?

 だが、何で?

 分からんが、何らかの影響で転移魔方陣が作動して、どこかに召喚されたみたいだ。

 トレース出来るか? 無理でした……。


 ヤバい……仮にどこかの街だったら、最悪な事態が発生するかも……。

 ……うん、ここは知らん顔して於こう。

 何かが有ればギルドで依頼書が出るだろうし、俺が作ったと分かるにしても最低でもランク7は無いと鑑定不可能だし、バレる心配はないと思いたい。

 モンスターとしての鑑定はランク3でも可能だが、細かい事は確認できないと確認済みだ。

 しかし、何が起きたんだ? 

 転移魔方陣による召喚て……分からん。


 考えても仕方が無いか、今日は寝よう。

 嫌な事は寝て忘れるに限るからね、仕方が無いさ。

 アハハハハ……どうしよう……。


 それから暫くギルドで確認したけど、リビングアーマーの事は話題にすら出なかった。

 何処へ消えたんだ? マジで謎だ……。



 * * * * * * * * * * * * * * *



 ダンジョンとは、時として外部から魔物を召喚する時がある。

 内部の魔力を媒体にし、強力な魔物を引き込み侵入者を殺すのである。

 こうして殺された者の魔力はダンジョンに取り込まれ、ダンジョンの糧となる事になる。

 無論魔物も同様で、ダンジョンに生息する魔物の全てがダンジョンの餌であり、得られた魔力で体である迷宮を成長させて行くのだ。

 主に強力な魔力を持ち、それでいて知能が低い魔物が良く召喚される。

 時にダンジョンと共生関係が生まれ、魔王が生まれる事も稀にあるのだから侮れない。

 

 ダンジョンとは生物の形をしていない謎多き生物なのである。

 余談だが、時としてダンジョンは外部から装飾品なども召喚する時がある。

 主に魔力が込められた物を魔物と勘違いして召喚するらしく、そうした装飾品はダンジョン内で変質し、強力な装備や呪われた道具となる事が確認されていた。

 こうした道具の数々が何処から召喚されるのかは分からないが、それが需要があるだけに冒険者は今日もダンジョンへ挑むのである。 




 リビングアーマーてよく考えたら不可思議なモンスターだと思う。

 無機物なのに生きていて、その上で意思の様な物を持っていたりします。

 大体は主人を選ぶための物だが、中には呪いで装着した者を殺すなんて物も…。

 某ゲームではボス戦で出てきて、勝てば魔法が撃ち放題。

 生きたコインなんて物も居るんだが、これってどうなってんの?

 某ファンタジーでは古代魔法使いが制作してたり、死んだ騎士の魂が宿り人を呪ったり、ただ何となく出てきて主人公の鍛錬の為に壊されたり。

 扱いが悪い物が多い気がするが、健気に頑張っている御様子。

 某ゲームの生きた手甲は最強魔法を問答無用でぶっ放せるけど、ダンジョンで全滅した時には泣けた。

 回収に行けないし、何より相手が悪い。

 吸血鬼の王様が連続で出現し、捜索部隊もあえなく全滅。

 酷過ぎるトラウマを刻まれました。

 どうでも良いですが種族が人間で150歳て……最早化け物ですな。

 年齢設定に意味があるのか正直悩んだものです。

 蘇生させたらロストするし、バランスが悪いような……。

 転移魔法の時は即時リセットが当たり前、石の中に転移って酷い事に連チャンで発生しましたよ。

 盗賊は良く罠に引っかかるし、忍者は常に全裸……何なんでしょうね?

 魔法使いは魔力が無いと役立たず、回復魔法を所有するにも制限が……。

 何度もイラッとしたのが思い出です。


 もうあのゲームはやらねぇー……心の狭い安清でした。

 

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