コースケ君、迷宮に行く
俺の名は小鹿浩介、ぴちぴちの15歳さ。
今俺はダンジョンに挑むべく、冒険者ギルドの受付に来ている。
現在俺はどこかの絶叫マシーンや危険なアトラクションの様に、命を落としても責任は持ちませんと云う誓約書を書かされている。
召喚される前はこんな誓約書を書いたのは、海外旅行でバンジージャンプをした時の1度きりだ。
あの時はやたら高いタワーの上から地上にダイブしてめっちゃ怖かったとです。
それと同じ物をまさか異世界で書かされるとは思いもしなかった。
ダンジョンは危険なモンスターが出現し、駆け出しの冒険者の何割かが命を落とす危険な場所だ。
ギルドに来る前にダンジョンの入り口を確認するため現場へと赴いてみたんだけど、最悪な事に怪我人がタンカで運ばれて行くの見てしまった。
治療魔術を使える者が少ないせいか、片腕や酷いケガをした冒険者は重傷を直せず、ギルドの係員に診療所へと運ばれて行った。
稼げる場所だけど命の保証が無い、それがダンジョンだと改めて理解したよ。
冒険者は命懸けだと言うけれど、流石にこれは酷い状況だ。
それでもこのダンジョンは攻略されており、他の未攻略のダンジョンに比べれば難易度は遥かに低い。
最下層まで行くにはランク4まで上げなければならず、レベルも最低で50は無ければならない。
今の俺達のランクは2であり、レベルも15と低い。
腕を磨くには丁度良いけど、それでも命懸けの危険な場所なんだ。
それでも俺達は挑むしかない。弱いままだとこの世界で生きてはいけず、強い魔物に襲われ死ぬ事もある。
何より怖いのがこの世界の人間であり、ランクとレベルが高ければ大概の相手は蹴散らす事が出来る。
最悪、ただの盗賊に騎士が殺される事も十分にあり得るんだ。
「これで良いですか?」
「はい、これでダンジョンの利用は可能となります。くれぐれも命を大切にしてください」
「分かってます。ある程度稼いで資金を集める為ですからね、無茶はしませんよ」
「新人にしては慎重で好ましいですね。血の気の多い連中から死んで逝きますから……」
「危険な場所で油断はできませんからね。地道に実力を付けてからボスに挑みますよ」
受付のあんちゃんは親切な人で、ダンジョンの情報をきちんと説明してくれた。
階層は15階、最高ランク4の魔物が出没し罠の類は一切ない。
時に変異種や亜種の魔物が出現するが、無茶をしなければ生きて帰って来れるらしい。
ダンジョンで手に入れたアイテムの類は売買が可能で、魔石や鉱物はそれなりに高値で取引され、この街の貴重な収入源になっている。
ただ、それでも毎日数人は命を落とすらしい。
何度も言うようだけど、それ程危険な場所なんだ。四人で大丈夫かなぁ~?
手続き気を終えた俺は、仲間が来るのをテーブルに着いて待つ。
クートが一番早かったようだが、残念な事にダンジョンに関しての注意事項を殆ど聞いちゃいなかった。
それで良いのかよ、クート……。死んだら終わりなんだぞ?
「あっ、二人とも早いわね。受付の前に二人ほど居たから遅れちゃったぁ~」
「大して待っていないぞ? クートが一番早かったけどな」
「俺は説明を殆ど聞き逃してたし、質問もしてないからなぁ~。その分早かったんだよ」
「アンタ……ダンジョンの情報ぐらい頭に入れて於きなさいよ。命懸けなのよ?」
「その辺はコースケ達の判断に任せるよ。俺は楯役だからな」
理由になってねぇ―よ。
情報があるのと無いのでは攻略にも差が出て来るかも知れないんだぞ?
命を無駄にする気かね?
「セリアは装備の方は大丈夫か?」
「ん? あたしの武器はミスリルが含まれてるし、コースケ達の武器よりはマシだから……」
「親父さんから貰ったんだよな? 良いなぁ~、親が冒険者で……」
「冒険者になりたいと言ったら、泣きながら鼻水を垂らして説得しようとしたわ……ヤクザな商売に足を突っ込むなって…」
「それだけ心配してるという事じゃん。親に会えるだけ幸せだぞ?」
「コースケ……御免……」
二人は俺達が召喚された事を知っている。
この世界に呼ばれた以上、元の世界に帰れるかは定かでは無い。
下手をすれば両親にすら会える可能性も低く、最悪この世界で骨を埋める事になるだろう。
人の人生を勝手に捻じ曲げるのだから、この召喚と言う魔法は罪深き禁忌だと思う。
神様も怒る訳だよね、摂理を捻じ曲げ世界に混乱を齎しかねない危険なものなんだから。
そのメルセディア聖国も神様の信用を失って落ち目だし、ザマ―無いと思うけど被害者である俺達にとっては何の解決にもなっていない。
快くサポートしてくれるのは穏健派の人達だけだし、俺達勇者が当てにならないと知った強硬派の人達は、あっさり掌を返して何の責任も取ってくれない。
ムカついたんで、召喚魔法の事や犠牲になった亜人種の事をギルドで暴露したら、国全体にこの話が広がって非難されているらしい。
因果応報だな。
今じゃ国の情勢は真っ二つに別れ、強硬派は存続の危機にあるらしいよ?
元が貴族階級の人達らしいし、欲に狂った為政者だから心が痛まなくて済むのが幸いだ。
そんな訳で、俺達の境遇を知っているセリア達は家族の事を話す時に罪悪感を感じるみたいだ。
確かにその心遣いは嬉しいけど、別にセリア達が悪い訳じゃないから気にしなくても良いと思う。
何度も言ってるんだけど、この世界の人間として申し訳ないと思っているみたいだ。
皆こう云う人達だったら良かったのに……。
「何度も言うけど、気にしなくても良いよ? 悪いのは腐った名ばかりの貴族聖職者だし、全てが憎い訳じゃないからね?」
「うん、だけど司祭様達も酷いよね。勝手に呼びつけて於いて、断ったら知らん顔するなんて」
「あいつらは殆ど貴族階級だからな、自分達の利益にならない物には用は無いんだよ。その所為で自分達の立場が悪くなってるんだから自業自得さ」
「けど、奴等は資金が有るからな。そのうち馬鹿な真似をしでかすと思うぞ?」
クート、以外と辛辣だな。
地位や名誉に拘る連中だから、そのうち戦争でも引き起こすんじゃね?
神に見放されている以上、大義名分は失ったんだし最後に残されたのは力尽くじゃないかな?
破れかぶれの一発逆転の積りで、実は既に破滅してる事に気付かないんじゃないか?
みっともない悪足掻きをするんだろうなぁ~。
「そう言えば、コースケ以外の勇者って何してんだ?」
「性格やスキルの都合で冒険者以外にも生産職の方に大半が行ってる。穏健派に協力してるみたいだから、間違っても強硬派に協力する事は無いと思う」
「亜里沙はどうしたの? 何か、凄く遅いんだけど……」
「そう言えば……どうしたんだ?」
俺達が気になって受付を見ると、アリサは他の冒険者に囲まれていた。
「頼む、俺達のパーティーに来てくれっ! 回復できる奴が欲しかったんだ」
「駄目よ、女の子なんだから私達の方が良いに決まってるっ! ムサイ男共は向こうに行きなさいよっ!!」
「決めるのはその子だろっ!! お前等には聞いてねぇよっ!!」
本当に回復役が少ないんだな。
光属性の魔法を使える人は限られてるらしいし、どうやらバレたみたいだ。
「た、助けてぇ~~~っ!!」
まぁ、神クラスのスキルを所持してるから、多分受付の人が驚いて口を滑らせたんじゃないか?
現に受付の人は本気で謝ってるよ、個人情報の漏洩をしちゃったんだから失態だな。
信用問題に発展するのは間違いないけど、この状況は不味い。
「クート、セリアっ!」
「分かってる。助け出して撤収だ」
「世話が焼けるわね。まぁ、気持ちは分かるけど……」
回復職は慢性的に人手不足だからなぁ~……。
俺達は亜里沙の手を引き、この場より離脱した。
取り敢えずダンジョンを目指そう。
このまま直行、三十六計逃げるに如かずだ。
* * * * * *
「……酷い目に遭いました……」
「神スキルを取得したのが拙かったな……まさか、此処までの騒ぎになるとはね」
「看護師を目指していたから、回復役に少し憧れていたんですよ…こんな騒ぎを引き起こすスキルだなんて知りませんでしたから」
「何で回復魔法を使う奴が少ないんだ? 魔法を取得すれば簡単に覚えるんじゃねぇの?」
回復魔法は主に光か水が代表だ。
土や風、火や闇にも回復魔法は存在するけど、効果が高いのが光と水なんだよね。
俺達勇者は全属性を覚えられるし、効果もこの世界の人達よりも格段に高い。
攻撃魔法の威力や範囲を考えても、召喚された事による補正はチートと言ってもおかしくは無いだろう。
それでも俺達勇者より強い奴等は存在する。
兄貴が言っていたけど、『この世に絶対という言葉は存在しない』は間違っていなかった。
現にドラゴンや精霊王、魔王なんて連中が普通に生息してるし……最近では鬼神なんてのも現れている。
魔王を殲滅したと言うんだから、その強さのレベルやランクは半端なモノじゃないだろう。
チートに浮かれて格下に技量で負ける何て事もあるかもしれない。
現実は侮れない物と思った方が利口だな。
「そう言えば……看護師目指してたの? 何でアイドルになったんだ?」
「妹が勝手にオーディションに応募して……」
「それで合格しちゃったのか……運が良いのか悪いのか……」
「芸能活動は数年で止める積もりだったんですけどね」
マジで? ドラマや映画に出演してたよね?
CМなんかにも出て大活躍だったよね?
「グラビア撮影は恥ずかしかったです……特に水着撮影が……」
「あー……週刊誌の表紙にもなってたっけ……」
「発売されてから男子のいやらしい視線が気になって……数週間、仕事を名目に高校を休みました」
「・・・・・・・」
御免。俺、男子の気持ち良く解る。
いやらしい視線を送るなって言えねぇよ、俺も同類だったし。
思わずDカップバストに目が釘付けだったよ、マジで御免。
アイドル活動も大変だったんだなぁ~……。
「あ、ダンジョンの入り口が見えて来たよ?」
「早く稼ごうぜ? 金欠で苦しいからな」
「だな、早速試し斬りが出来る」
「何か……人斬りみたいなセリフですね」
すみません。
でもね、新しい剣の感触を確かめたいんだよ。
早く慣れたいし、何よりレベルアップは最重要項目ですぜ?
ランクも上がれば言う事なし。
さぁ、行こう。夢とロマンと欲望が渦巻くダンジョンへ!!
……見渡せばそこは石の壁。
通路は広いが、湿気が凄く黴臭い。
足元は苔が生えて滑りやすく、時折水溜りが出来ております。
このダンジョン、ノーザラスの街の東側に存在し、長いことこの街の経済を支えてきた貴重な収入源だ。
既に攻略されているけど、ラノベみたいなダンジョンコアは存在しないらしい。
ダンジョンがどうやって形成されるかは分からないが、大量の魔物が出現しては被害を齎す天災みたいな物らしい。
ある日突然現れて、大量の魔物を放出して暴走を引き起こす。
ダンジョンの大きさにもよるけど、その被害はかなり酷いものらしい。
一般人には太刀打ちできない強力な魔物が放出され、村や街を襲っては周囲に魔物の住む環境を作り出す。
不思議な事に、ダンジョン内部の魔物は食事を摂る事は無いが、外の放出された魔物は食料を求めて他の生物や魔物を襲うようになるそうだ。
まるでゲーム内のモンスターが画面から飛び出し、自然界の環境に適応するみたいに思える。
現に魔物を倒すと跡形も無く消え去り、俺達の経験値となって吸収されるし、何故か回収した覚えも無いのにアイテムボックス内にドロップアイテムが残される。
ゲームのような不自然な存在の筈なのに、モンスターの中には他の生物と交配して種族を増やす奴もいる。オマケに金属なども変質させ、武器やアイテムが別の存在に変わる事もあるそうだ。
剣で言うなら耐久力や斬れ味が良くなったり、変な特殊効果が付与される事もある。
呪いの武器なんかが最も有名で、そこまで行くには長い時間が必要らしい。
また、種族によってはランクが上がる事により、今よりも上位の存在に進化する事もある。
魔物が良く進化するのはこの為だが、人間や他の亜人種は進化が出来ないみたいだ。
何か切っ掛けが有ればその条件が解除され、それが神のスキルだと言われている。
その為、メルセディア聖国は神スキルを保有する者を優遇する傾向にあるが、あくまで権威を守る為の手駒としてで実際に進化した者はいないらしい。
人間至上主義を掲げた時、亜人種の神スキル保有者を大量に処刑した事から、この国は相当恨まれているそうだ。
最悪な事に、今まで小国に対して強気の態度をとっていた筈なのに、その小国の王様が神スキルを保有してしまったから立場が逆転した。そのスキルは祝福系統で、どんな効果が有るかは分からないけど、神スキルである事には間違いでは無い。
つまり神の加護を受けた訳だね。
神の教えを掲げているのに自分達は祝福されず、小国の王様が祝福を受けたという事は彼等の行いが完全否定された事になる。
自分達の行いが真っ向から否定されたお陰で面目は丸潰れ、しかも聖剣なんておまけまでついたものだから信者の数はその小国に流れ込む事になるだろう。
その小国がグラードス王国、俺達が目指している国になる。
グラードス王国に行くのに路銀が足りないから稼ぐんだけど、ダンジョンは良い稼ぎ場になるのだろうか?
とにかく頑張ってみよう。
「魔物は何処にいるんだ?」
「わかんないけど、歩いていればそのうち見つかるわよ」
「油断はできませんよ? 何処から現れるか分かりませんから」
そうだね、ダンジョンの魔物がどう出現するか分からないけど、油断はできない。
―――ピシッ!!
何? 今の音……後ろから聞こえたけど……
俺はゆっくり背後を見ると、今来た通路の空間に亀裂が入っていた。
何もない空中に黒い裂け間が現れ、そこからゴブリンが5匹出現した。
マジで? どんな原理なんだよっ!?
「出たぞっ!!」
「ゴブリンか……楽勝かな」
「油断はできません、鑑定をっ!」
「ランク1 レベルは……4」
うん、この辺は楽勝だ。
生まれて早々悪いけど、死んでください。
初めてのダンジョン戦は、楽勝でした。
だって、一撃で倒せたよ? 経験値は大した事は無いけど、本気で挑む程じゃ無かった。
でも油断はできない。
数で押し込まれたら厄介だし、何よりも前後を塞がれたら最悪だ。
今は一撃必殺だから良いけど、階層が下に為るほど魔物は強くなっていく。
まだ魔法を使ってくる奴等も居ないし、集団戦に持ち込まれたら数が少ない分俺達が不利になるし、組織的に動かれたら厄介だ。
斥候職がいない事が辛い。
俺とクートが前衛、セリアが遊撃、亜里沙が後方支援だ。
後二人ほどメンバーが欲しい所だね。
武器は俺とクートが剣、セリアが剣とハンマー、亜里沙がデカい鉄棍棒……。
あれ? 良く考えてみれば何で亜里沙は鈍器が武器なの?
打撃武器は有効だけど、支援職だよね?
さっきもぶん殴って仕留めてたし、おかしくね?
普通は杖がメインだと思うけど、何か怖いよ?
そう言えば、以前武器屋でモーニングスターを購入してたし、殴り専門の魔術師を目指してるのかな?
「楽勝過ぎて話になんねぇな」
「今はまだ一階よ? 下の階層になるに攣れモンスターの強さが極端に変わるらしいわ」
「お約束ですけど、油断してたら死にますよ? 死者を蘇生する事なんて出来ないんですから……」
「少なくとも、地下五階までは行けるかな? まぁ、状況次第で撤収しよう」
このダンジョンは最高で地下15階しかない。
けど、階層が少ない分、魔物の強さが極端な状況らしい。
希少種や亜種が出現し易いらしいから油断は禁物だ。
「バックアタックは洒落に為らんからな。前方と後方には注意が必要だ」
「弱い相手でもダメージを受けたらキツイわよ? 回復薬にも限りがあるんだし」
「だな……また調合でハイになるのは御免だ」
あー……二十四時間耐久ゴリゴリね。
……アレは地獄だわ。
マジで俺も遠慮したい。
「先へ進もう。地図ではこの先に十字路が有って……」
こうしてダンジョン内の地下へと降りて行った。
地下三階では楽勝だったね。
ただ、このダンジョンはめっちゃ広い。
下の階層に行くに攣れてその広さが極端に変わってるんだよ。
三階まで来たら倍の広さだし、正直侮ってたのは確かだ。
「地下五階のボスフロアに転移魔方陣が有るんでしょ? そこまで行けそう?」
「難しいな。今現在でランク2、レベル25だ……俺達のレベルも上がって来てるけど、だんだん成長率が落ちてる気がする」
「魔石の数が多すぎるな。売った所で安く買い叩かれるだろうし……」
「う~ん…魔石かぁ~……」
魔石は錬金術の素材で大量に必要になる。
ただ、俺達が錬金術で魔法薬を作っても、その製作には限界があるのは確かだ。
何とか有効活用できないかな? 魔石に魔力を封じ込める事は出来るんだし……あっ?
俺は徐に魔石を取り出し、魔法を使用してみる。
「何してるの?」
「いや、この大量の魔石に魔法を付与できないかと思って……」
錬金術で魔法の効果を封印する事が出来る事は確かめてある。
なら、攻撃魔法も封印できんじゃね?
内部に封じ込めるイメージで……
「ファイアー……」
試しにやってみた。
============================
【ファイアージェム】 ランク2
攻撃魔法ファイアーが封じられた魔石。
投げる事で効果を発動できる。
魔石内の魔力により威力が倍増しているが、効果は今一。
牽制程度にしか使えない。
使い捨ての消耗品。
売値 80リル
買値 160リル
============================
出来た……今一効果が弱いけど、無いよりまし程度か?
「おぉ~……錬金術の応用か?」
「まぁね……」
『職業スキル【付与魔術師】を覚えました』
へっ? 錬金術師の発生系が付与魔術師?
これは色々と試して見ないといかんかな……もしかしたら結構役に立つかも。
「錬金術に圧縮と言う魔法があったっけ……魔石を圧縮したら、強力になるかも」
「コースケ、良くこんな方法を思いついたわね?」
「ゲームでは良くあるけど、一回で成功させるなんて凄いです」
「あっ……失敗する事もあったんだ。危なかったな……」
失敗したらどうなってたんだ?
けど、売りに出したら金額も跳ね上がるかもしれない。
これは商売の好機?
「良し、魔石を大量に集めて挑戦してみよう。もしかしたら稼げるかも」
「装備を良い物にしたいし、これは覚えて損は無いかもな」
「えぇ~! 面倒な事はしたく無いんだけどなぁ~」
「戦力を上げる事に繋がりますし、挑戦してみるのも良いかもしれません。万が一冒険者を引退しても次の職があるのは心強いですし」
うん、これは良い物を覚えたね。
幸い俺達は錬金術師のスキルを獲得している。
錬成と圧縮、抽出、融合、飽和、拡散、攪拌などの魔法は使えるんだ。
色々試してレシピを埋めてみよう。
「目標はこのダンジョンの攻略で、ついでに資金稼ぎだ」
「失敗する事を考慮して、魔石をもっと多く確保して於くか?」
「そうですね。出来るだけ多く確保して、強力なアイテムを作ってみましょう」
「他の魔法も封印できそうだし、応用の幅は広がりそうね」
冒険者の仕事には思えないけど、先立つ物が無くちゃ先には進めない。
つまりはお金だね。貧乏生活は辛いよ。
「よし、戻る序でに雑魚を蹴散らして魔石を集めよう」
「「「お―――――――っ!!」」」
こうして俺達は低階層でジェノサイドを始めた。
他の冒険者たちは下の階層で素材確保を勤しむ中、俺達は魔石狙いで魔物を倒して行く。
何か、不審な目で見られたけどさ、別にレベルアップだけが目的じゃないんだし、無理する必要も無い。
資金稼ぎが重要だけど、実力や装備が心許無い以上は仕方ないよね。
消費アイテムの方が金が掛かるんだし、自作できるならそれに越した事は無いだろう。
三階層でもそれなりの素材アイテムは手に入るし、必要無い物は売って宿代に変える。
特に、コットンクロウラーの糸は良い値で売れたよ。
俺達に針仕事は出来ないから、要らないので売りに出しました。
ギルドで換金した時は夕暮れになっていたけどね。
張り切り過ぎたかな?
* * * * * *
戻ってきました木漏れ日の宿。
名前とは裏腹に見た目が怪しい……。
宿泊費自体は食事込みでお手軽だけど、正直ここには長居したく無い。
だって、宿の主人と従業員が変態だし。
「「「「只今帰りましたぁ~……」」」」
「おかえりなさい。無事に帰って来れたんですね?」
「「へっ?」」
俺とクートは驚いた。
宿の受付にいた女性は柔和でおっとりとした美人なお姉さん。
いや、待てやっ! この声には聞き覚えが……
「ま、まさか……」
「鶏マスクの……」
「お分かりになりませんでしたか? この格好だと正直恥ずかしいのですけど……」
「「鶏マスク、裸エプロンの方が恥ずかしいよっ!!」」
何で普通の格好をして恥ずかしいんだよっ!!
昨日の格好の方が変でしょっ!! 基準がおかしいよっ!!
「コースケ……裸エプロン、見たの……?」
「二人とも……最低です…」
「「何でだぁ――――――っ!!」」
何でゴミを見るような目で俺達を見るんだよ!!
理不尽だっ!!
朝起きて一階に来たら、鶏マスク裸エプロンだったんだよっ?!
俺達の所為じゃないでしょ!!
「正直この格好をしていると落ち着かないんですよ……やっぱり、いつもの格好の方が……」
「「「「普段から鶏マスク裸エプロンなの?!」」」」
これが宗教の違いから来るカルチャーギャップと云う物か?
いや、だからと言って被り物をしていても裸な訳だし……。
何? 俺がおかしいのか? 悩んでる俺達がおかしいのか?!
宿の主人はどうしたんだ?
「店長はどうしたんだ? 今朝はいたみたいだけど?」
「「・・・・・・・・・」」
「二人も人の事は言えんだろ……最低だな…」
「「思い出してないからっ?! そんな変な事は考えてないからっ!!」」
セリアと亜里沙は絶対主人の全裸を想像していたぞ?
顔が真っ赤だし、否定した所でバレてるからね?
「只今帰りました。おや? 皆さんもお帰りですか?」
「「「「誰っ?!」」」」
裏口から姿を現したのは、人の良さそうなナイスミドルな男性でした。
どこかのバーでグラスを磨いている様な感じの……て、この声にも聞き覚えが……。
「店長、お帰りですか?」
「えぇ、近所の宿仲間での会合が長引いてしまいまして、食事の準備は?」
「下ごしらえは済んでいます。後は調理するだけですね」
「そうですか。では、私は着替えて来ましょう」
待てっ!! それはつまり、鶏マスク裸エプロンになるという事か?
じゃあ、この人はやっぱり……。
「「「「お願いだから、普通でいてくれっ!!」」」」
酷い宿もあったもんだ。
常識を疑えと言う言葉はあったけど、この場合は何を疑えばいいんだ?
世間の常識か? それとも俺達の常識か? 若しくはこの人達の頭か?
その後、一度部屋に戻った後食事をし、俺とクートは魔石の加工に挑戦していた。
魔石を圧縮したり、融合させると品質は上がる。
其処に魔法を込めたらランクと威力が上がる事が判明した。
売値も200リルと高めです。
これは儲けるチャンスですな。
「これは戦力強化も期待できる」
「だが、俺達の魔力が持たないぞ? 魔力回復ポーションは高いからな」
「だが、このジェムを売れば採算が取れるだろ? 作業を分担すれば負担も軽減するし」
「まぁな、けどさ……飽きるな」
単調作業だから疲れるし、魔法を使うから精神力も半端なく磨り減る。
けど、目標が有れば何とか出来るだろう。
「新しい装備が欲しいいだろ? 安くても頑丈なやつ」
「そりゃあ、欲しいけどさ……何か落ち着かないだろ」
「良い装備を買うには金が必要だし、今の俺達の稼ぎじゃ時間が掛かる。多少回り道をしても資金稼ぎは重要だろ?」
「だけどさ、面倒なのは確かだろ。簡単にいかないもんかな?」
「スキルレベルが上がれば多少は楽になるし、魔力消費も減るから今が試練の時だな」
「だからって、何も今日から始めなくてもいいだろうに……」
思い立ったが吉日だ。
魔力消費しても一晩寝れば回復している。
なら、出来る限り消費すれば色々と好都合だ。
スキルのレベルも上がるし、保有魔力もわずかだが上昇する。
「若い内の苦労は買ってでもしろだ」
「楽して儲けるのは出来ないんだな……」
疲れてるのは分かるさ。
けどね、少しでも稼げる商品は作っておくべきだ。
多少の無茶は可能なんだし。
俺達は暫く作業を続けていたが、不意にクートが有る事に気付いた。
「なぁ、コースケ……」
「何だ?」
「あの受付の人……美人だったな…」
「あぁ、それが?」
「俺達、あの人の裸エプロンを見たんだよな?」
「?!」
俺の脳裏に浮かぶ鶏マスク裸エプロン。
だが、その鳥マスクが消え、その頭部は美人なお姉さんに切り替わった。
同時に鼻から熱い何かが流れるのを感じた。
クートも同様のようである。
「やべ……今夜は眠れそうにない……」
「俺もだ……何か、ムラムラ来る……」
気付かなければ良かった。
しかも俺達は禁断の園を目撃しているのだ。
正直これは不味いだろう。
結論から言えば、俺達は徹夜してしまった。
迸る熱い物を俺達は抑制する事が出来なかったんだ。
青い性に興味津々な俺達、若い青少年には刺激が強すぎた。
亜里沙達に白い目で見られた事は言うまでもない……。
あと1話くらいコースケ君の話を書こうかなぁ~。
正直迷っています。
ちょうどこの頃、レン君は坑道でグランモール相手にしていました。
レン君のスキル補正はあり得無い位に異常です。
これは魂の質による物が関係していますが……細かい設定をすると矛盾が出て来てます。
ご都合主義で良いような気がしてきたこの頃……いい加減だ。
こんな話でも楽しんでくだされば幸いです。