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 コースケ君、剣を買う

 やって来ました、次なる街に。

 ノーザラスの街は、実に賑わっておられる御様子。

 馬車に揺られ続け三週間、お尻が痛くなって困る所でした。

 いや、もうスゲェー尻が痛い。


 板バネすらついてない馬車が、まともに舗装されてない街道を行くんですよ? 

 そりゃ、お尻も痛くなるってもんでしょ? おまけに予定が一週間伸びたし。

 セリアやクートは馬車に酔っていたぞ、酔い止めの薬は作れないもんですかね。

 まぁ、何事も無く街に到着出来て幸いだ。


「以外にデカい街だな……」

「ここは商人が行き交う街ですからね、他国の商人達が利用するので、これだけ栄えているんですよ」


 商人のサナトスさんが懇切丁寧に教えてくれます。

 南にはグラードス王国にに続き、小さな町が点在しているとの事です。

 その街道で一番大きな町がアットの街で、その街から西に行けばグラードス王国の王都まで行けるようだ。

 王都の周囲は小さな山麓があるが、とても安全の商人が行き交えるような場所では無いらしい。

 主に酪農を中心とした村や街がある程度で、同時に天然の防壁となって攻め込めない地形だそうだ。

 歴史的に見ても幾度となくこの山麓での戦を実行し、戦争で勝てたのは指で数える程度しかない険しい地形だという。

 

 直ぐ東には魔物が徘徊する広大な森が広がり、冒険者はグラードス王国の方が優れた実力者が多いとの事。

 過酷な状況で国を維持して来たのだから、メルセディア聖国の様に腐った為政者がいないんだろう。

 実力主義で、何よりも誇りと尊厳を重んじる大陸でも有数の軍事国家だそうだ。

 神の教えを笠に着た似非宗教国家とは偉い違いだね。


「これだけ商人が行き交うと、冒険者の仕事もかなりありそうですよね」

「それはもう、護衛依頼から魔物の討伐まで毎日のように依頼書が発行されていますよ」

「ダンジョンもあると良いんですけどね」

「ありますけど、既に攻略されていますよ? この街にも迷宮は存在していますから」

「マジですかっ?!」


 おほっ♡ 漸く冒険者らしくなってきた。

 ダンジョン、良いねぇ~! 燃えて来るよ。


「攻略済みとは言え迷宮ですからね、毎年何人もの死者を出してます。気を付けてくださいよ?」

「どれくらいの深さなんですか?」

「大体、地下15階くらいの小さな迷宮ですよ。三回ほど守護者を倒せば攻略らしいので、初心者が腕試しに入るそうです」


 初心者向けか、腕試しには丁度良いかな?


「それでも毎日何人か死者が出てますから、危険な場所なのには変わり在りませんけど」

「油断せずに実力に見合った攻略が必要か……」


 冒険者の仕事は自己責任が付き纏う。

 実力を見誤れば、俺も死ぬ事になり兼ねない危険な場所。

 資金稼ぎもしないといけないし、入念な準備が必要だな。


「ギルドで手続きを済ませたら宿を探さないと、何処か良い宿はありませんか?」

「う~ん……【木漏れ日の宿】が良いかもしれませんね。あの宿は安いですし、料理もおいしいですよ?」

「俺達には丁度良い場所かな?」

「ただ……見た目が可成り見すぼらしいですけどね。……(宿の主人も些か問題がありますけど)」


 何で言いよどんだんですか? どんな宿なんですか?

 見すぼらしいて……ボロなんですか?

 最後に何か、不穏な事を言おうとしませんでしたか?


「隠れた名店と云う感じでしょうか? 中々味のある宿なので気に入っているのですけどね」

「行ってみない事には何とも言えませんよ、取り敢えず場所を教えて下さい」

「そうですね。では……中央通りから二つ目の角を右折し……」


 宿の場所を教えて頂きました。

 店がどんな物かは知らないけど、疲れた体を癒すには充分だと思いたい。

 何せ、三週間近くも野宿だったからな、今日から暫くはベットの上で眠りたいところだ。


 何事も無かったのは良い事なのだけど、モンスターとすら出くわさなかったのが効いた。

 緊張しすぎて精神的に疲れたよ、盗賊や魔物がいつ襲ってくるか分からない世界だからね。

 早く宿で休みたい……目の前に街があるのに、中々入る事ができないでいる。


 門の前で荷物検査をしているけど、順番が回って来るのは当分先の事だろう。

 早く報酬を貰って休みてぇー!!



 * * * * * *



 ギルドで報酬を受け取った俺達は、宿を探して街を彷徨っていた。

 途中で屋台の親父に場所を聞き直し、木漏れ日の宿に漸く辿り着いた。

 いや、参ったよ。


 この街の歴史は古く、かつては要塞として使われていた事から見て、街の構造は侵入者を防ぐために曲がりくねった構造になっている。

 これは戦乱の歴史の名残であり、嘗ての要塞は崩れ去り、今では只の岩の丘と化している。

 聞いた話では大規模な破壊魔法を幾度となく叩き込まれ、要塞は見る影も無く破壊し尽されたらしい。

 要塞跡は木々が生い茂り、今では市民の憩いの場と化しているそうだ。


 そんな丘の一角に、人知れず建てられているのが件の宿らしい。

 で、実際にその宿を見たのですが……ボロい……。

 いつ潰れてもおかしく無いほどに寂れておりますです。


「ここ? 嘘でしょ? 本当に宿なの?」

「何か……廃墟にしか見えませんけど……?」

「宿らしい……潰れてないよな?」

「俺に言われても困るぞ? 料理は旨いって聞いたけど……」


 言葉を無くすほどに寂れています。

 廃墟か……そう言われてもおかしく無いほど酷い有様だ。

 マジで営業してんのか?


「兎も角、一応営業してるか聞いてみよう」

「そ、そうね……さすがに疲れているし……」

「背に腹は代えられない。今日の所は妥協しよう」

「何か、邪な感じがします」


 そうだね。ドアに取り付けられた鶏の頭が無ければ、そう思いたくもなるよ。

 俺も怪しいと思うし……意を決して扉を開く。


 ―――チリン、チリ―ン


 ドアに取り付けられた呼び鈴が鳴り、営業している事が明らかとなった。

 しかし、そこで俺達が見た物は……


「「うぉおあぁああああああああああああああああっ!?」」

「「いやぁああああああああああああああああああっ!!」」


 鶏のマスクを被り、両腕に装着した鳥の翼を広げた全裸の男であった。

 しかも、俺達を真正面から見据えています。

 変態がそこにいました。


「いらっしゃい。お泊りですか?」

「「「「なんつ―格好して客商売をしてんだぁ―――――――っ!!」」」」


 パンツくらい履けよっ!!

 モロ出しだよっ!! 最低なくらいに見せてますよっ!!

 しかも尻に力が入ってるし、恥とすら思っていない様だ。

 何なのよ、この宿は……


「失礼、溢れんばかりのコケモモ神の信仰心に我を忘れていました」

「どんな宗教だよっ!!」

「それ以前にパンツを履けやっ!!」


 鳥の足を模ったブーツは履いているみたいだけど、どう見ても変態です。

 まごう事無き立派な変態です。


「四名様ですか、お泊りで?」

「そうだけど、何でふつーに接客してんだよ……」

「頼むから、前は隠してくれ。女の子がいるんだから……」

「これは失礼、我ながらうっかりしていました」


 そう言いながら、彼は股間の紳士を大き目の葉っぱで隠した。

 けど……隠しきれてねぇ――――――っ!!


「何でそんな格好してんだよっ!? 宿って、客商売だろっ?!」

「それ以前に、信仰は自由だと思うのです。私は偉大なるコケモモ神にこの身を捧げ、この教えを後世に残さねばならない使命があるのです」

「「それ以前に人としての常識は何処へ消えたぁっ?!」」


 セリアも亜里沙も背中を向けて俯いてるよ。

 そりゃぁ、見てられねぇ―わな。

 股間の紳士を見せられ平気でいられるなんて人としてどこか間違ってるだろうし、喜んで見るような女の子って流石に問題がある。

 恥じらいが無いのって正直幻滅するよね? ……二人が真面で良かった。


「……嘘……アレが男の人の…お父さんと違う……」

「……あんなの見せられるなんて……もう、お嫁に行けない……いずれアレが……あんな事に…」

「「・・・・・・・・・・・」」


 倫理観は兎も角、興味津々でした。

 いや、何れは家庭を持つとなると、当然だけど子供を持つわけであり、そうなると保健体育で習うこと以上の事をする訳で……興味がない訳では無いだろう。

 ただ、時期が問題なんじゃね?

 行き成り前見せな状況だよ? 混乱もするだろうさ。

 混乱してるんだよね? そう思って良いんだよね?

 

「部屋は空いてますよ? 四名様でそれぞれ別の部屋にしますか?」

「何でアンタはスルーしてんだ? 男同士、女同士でお願いします」

「二部屋ですね? こちらが部屋の鍵になります。あっ、ご宿泊は何日くらいですか?」

「・・・・・・・取り敢えず一週間で……」


 サナトスさん……良くこんな宿に泊まれましたね?

 まぁ、とにかく部屋に行こう。

 荷物を置いて食事して……風呂なんてないだろうなぁ~……。


「お風呂はどうしますか? 別料金になりますけど」

「あるのっ?!」

「二人くらいしか入れませんが、浴場は完備しております」

「お願いします。女の子を先に入浴させてください」

「承りました。別料金で100リル頂きます」

「「安っ!?」」


 宿の主人は兎も角、風呂があるだけマシな宿の様だ。

 今は疲れているので休もう……精神も思いっきり削られたし、もう寝たい。


 俺達は鍵を受け取り、それぞれの部屋に向かった。



 * * * * * *



 入浴を済ませた俺達は、食事をするべく再び宿一回の食堂に集まっていた。

 風呂があるのは良い事だ、何もかもがどうでも良くなる位に気持ち良かった。

 まぁ、最初は先に亜里沙たちが入った後なので、何だか変な気分になったけどね。

 男じゃないとこの気持ちは分からないだろう。

 何だか少し……ムラムラしました。


 いや、今は食事だっ!

 目の前には柔らかそうなパンと、鶏肉料理が良い香りを立てて俺達を誘惑している。

 ハーブの香りが香ばしい唐揚げみたいな料理と、野菜と鶏肉を煮込んだスープ。

 サラダも新鮮な野菜とドレッシングにより、実に色鮮やかで美味そう。


「「「「いっただきまぁ~すっ!!」」」」


 美味い、確かに料理は美味い。

 一級品の巧さだよ。


「ウマっ!? 何コレ、スゲェー美味い……」

「パンもふかふかで少し甘みがあるわね。今までの黒くて硬いパンが食べれなくなりそう♡」

「……美味しい。紹介されるだけの事はありますね」

「あぁ……ただ問題は……」


 厨房にいる鶏頭だろう。


『『『『鶏頭の男裸エプロン……何処に需要があるのだろうか?』』』』


 何だろ……今、皆の心が一つになった気がした。


「御味の方はどうですか?」

「美味いよ、凄く美味い」

「こんな料理初めて食べた。田舎の両親にも食べさせてあげたい」

「油で揚げている筈なのに、全然しつこくない……幾らでも食べられそう」

「マジでうめぇ――――っ!!」


 うん、最高の料理だ。

 これで宿の主人が真面だったら言う事無いんだけどね。


「所で、何でそんな被り物をしてんだ? 客が引くだろ?」

「コレですか? 偉大なるコケモモ様の信仰を忘れぬために、自ら鳥の格好をして信仰心を示しているのです」

「どんな宗教だよ……聞いた事無いぞ?」


 この世界の信仰は豊穣神と、最近現れた鬼神だと思うんだが……。


「コケモモ様は鳥の神。私達に糧を提供してくれる翼を持った神なのです」

『『『『知らねぇ――――――っ!!』』』』

「あっ、心の中でそんな神は知らないと思ってますね?」


 実際、聞いた事ねぇーし。


「今食べている鳥はコケモモ様の眷属、私達の糧となって生きる力を与えてくれるのですよ」

「待て……て事は、信仰の対象を食ってる事にならねぇか? 良いのかよ……」

「生きて行く上で肉を食べるのは当然の事、ならばその糧となる鳥に感謝を込めて、私達は自らを鳥の姿にやつし日々信仰を重ね祈りを捧げています」

「「「「そこまでする必要あんのかよっ?!」」」」


 何で、そんな変な方向に進んだ?!

 宗教て良く解んねぇ――――っ!!


「他に牛や豚を信仰している人がいたりして」

「いますよ?」

「「「「いるんだっ?!」」」」


 マジかよ……世界は混沌に包まれてやがる。


「憎きフンモモ教と、下賤なポークウィッツ教ですが……奴等とは孰れ決着を付けねばなりません」

「まさか、牛の被り物と豚ですか?」

「えぇ……見ているだけでも反吐が出ますね」

「見てるだけって……この街にいるんですか?!」

「変な宗教戦争が繰り広げられていたっ?!」

「美味しければどうでも良いわ……ん~~、ジューシー♡」


 幸せそうだな、セリア……だが、同感だ。

 宗教なんて人其々だし、俺達には関係ないからな。


「変な宗教戦争もあったもんだ……どう決着をつけるのか気になるけど」

「拳で叩きのめすのです。力こそ正義ですからね」

「物騒な事だ……死人は出ないよな?」


 変な宗教戦争で死んだら、俺だったら耐えられない。

 兄貴が知ったら嘆くぞ……いや、馬鹿みたいに笑うな…絶対。


 その後、俺達は俺達は食事を済ませ、部屋に戻った。

 この宿、見た目はボロイけど、部屋は綺麗なんだよ。

 態と見た目を廃墟同前に見せかけている様で、内部はかなり整備されているみたいだ。

 せめて外観を整えて於けば客が増えると思うけど、宿の主人がこんな格好じゃ逃げるかな?

 何にしても、問題だらけの宿である事は間違いない。


「いやぁ~食った食った……久しぶりの美味い飯だった」

「クート、せめて着替えてからベットで横になれよ」

「疲れてんだ、固い事は言いっこなし!」


 気楽でいいね。まぁ、同感だけど。


「なぁ、明日からどうする気なんだ?」

「取り敢えずダンジョンに挑戦したいけど、明日は休みにしよう」

「マジで? 良し、武器屋を覗いて来よう!」

「剣も買い替えないと駄目だな……貰い物だけど、既に刃毀れが激しいし」


 俺と亜里沙が持っている武器は、召喚された時に貰った武器だ。

 質が悪いのか、既に痛み出してきている。

 そろそろ自分専用の武器を用意した方が良いのかもしれない。


「聞いた話だと、ダンジョンでは鉱物を落す魔物が多く出没するらしいぞ? それで武器を作るのか?」

「そうしたいけど、資金も集めないと駄目だろ。今の予算じゃ厳しい所だ」

「魔物の討伐は美味しいけど、実力が伴わないとヤバイな」

「今の俺達は四人だけだし、戦力が足りない」


 俺達のレベルは全員がランク2のLv15、平均だけどまだ実力不足だ。

 経験値倍加のスキルがあるけど、パーティー編成で魔物を倒すと経験値が均等に分割される。

 俺のスキルで倍加した経験値が、何故か仲間に分配されるんだ。

 普通は逆じゃね? 俺に分配された経験値が倍加するんじゃないの?

 この世界の摂理が今一良く解らない。

 まぁ、仲良くレベルアップできるから良いけどさ、どうなってんの?

 成長促進も似たようなものだけどさ、もしかしてパーティー組んだ時にスキル効果が変化するのか?

 何とも不可思議で歪な世界だよ。


「暫くは経験を積んでレベルを上げるしかねぇか」

「あぁ、ランクも上げられるなら、それに越した事は無い」


 何にしても、休まない事にはね。


「今日はゆっくり休もう。考えるのは明日からでも出来るしさ」

「そうだな。コースケ……」

「何だよ」

「襲うなよ?」

「するかっ、ボケっ!!」


 俺はモーホーでは無い。

 誰が男なんか襲うかっ!! 女の子だったら……自信ないけど。


「寝よう……お休み、パ○ラッシュ……俺、眠いんだ……」

「誰がパトラッ○ュだっ!!」

「お休み、パト○イバー……出動が掛かったら教えてくれ」

「何それ?! パトレ○バーて何っ?! おいっ、コースケっ!!」


 あれ? アル○ォンスだっけ? 

 何か、どこかの錬金術師の弟みたいな名前だな……ねむ…。


「時々分かんねぇよ、お前っ! 何の話なんだよっ、気になるだろっ!!」


 クート、五月蠅い……。


 俺の意識は闇に落ちました。疲れてたんだなぁ~……



 * * * * * *



「うおぉおおおおおおっ……可愛そうな○ロっ、パ○ラッシュ!!」


 おはようございます。

 現在クート君は絶賛号泣中。


 いやね、昨夜の事が気になってしょうがないと言うから、ついあの名作の内容を掻い摘んで教えたら号泣しちゃって、今めっちゃ泣いております。

 こいつ基本的に良い奴だよなぁ~、この話で泣く奴に悪い奴はいない。

 何で詳しく知っているかと云うと、兄貴が借りて来たDVDを無許可でダビングして保管してたんだよ。

 普通に考えたらこれは犯罪です。中学の時からこんな調子だったんだよ、俺の兄貴は……。

 俺も何度も見せられたけどさ、兄貴の酷い所はダメ出しをして名作をぶち壊すんだ。


 例えば、パト○ッシュを鞭でシバクおっさんがいたけど、そもそも牧羊犬をあんな風に鞭で叩くような民族では無い筈なんだ。

 犬は家族同然の扱いだし、ついでに荷物を運ぶのは馬か牛、若しくはロバが当たり前、世界観がおかしい。

 犬に荷馬車を引かせるなんて物理的に無理だと、兄貴は馬鹿みたいに笑いながら説明してくれたっけ。

 俺を感動させてからもう一度見直し、そのたびに説明して俺が感じた感動をぶち壊してくれた。

 歪んでいるとしか思えない酷い趣味だ。

 その上で……


『良いか浩介、目に見える物が真実じゃない。物語には必ず間違いが存在するんだ、正しい見識と冷静な思考が重要なんだぞ?』

『ふざけんな、馬鹿兄貴っ!! 俺の感動を返せっ!!』

『物語に感動するのは良い。だが、全てを鵜呑みにすると馬鹿を見るぞ? そもそもこの教会にルーベンスの絵は無いっ! 歴史には必ず隠された真実が存在するんだ』

『わかっているけど、そこは割り切れよっ!! 何でこんな事すんだよっ!!』

『お前に正しい知識を知ってもらいたいからだ』

『アニメくらい素直に見させろやっ!!』

『浩介……人は純粋なままではいられないんだ。いつかは、少しづつ汚れて行くんだよ……』

『黙れ糞兄貴っ、表へ出ろっ!!』


 ……酷い兄貴だろ?

 小学生の俺にこんな真似ばかりしやがるんだ。

 今となっては良い思い出だけどさ、変にお節介なんだよ。


 で、俺はフラ○ダースの犬をクートに教えてやった。

 原作は知らないけど、アニメの方の話なら知っていたからな。

 何か腹立つけど、今更だな。


「落ち着いたか、クート……?」

「あぁ……なんて話を聞かせやがるんだ。お、俺は今まで……こんなに泣いた事は無い……」


 良い奴だ……だが、真相を知ったらどうなるんだろう?

 やべぇ…教えてぇ……。


「それより、少し寝すぎたな。今どれくらいだ?」

「知らん。それよりも着替えて街へ出ようぜ。武器や道具も調達したいしな……グス…」


 金がねぇよ。

 ダンジョンで稼ぐにしても、何処にあるかはギルドに行かなきゃ分からんし、今日ぐらいは自堕落にしていても良いんじゃね?


「動かないでいると、体力が落ちるぞ? 俺はもう少し体力が欲しい」

「あー……まぁ、ぐっすり眠れたし、今日くらいはのんびり街を散策するか」

「よっし、それじゃ行こうぜっ!!」


 こいつ、結局着替えずに寝ちまいやがった。

 風呂に入った時に着替えたから良いけど、他の着替えは洗わないといかんな。


「洗濯は宿に頼めるのか?」

「聞いてみないと分からんな。とりあえず下に降りようぜ」


 そんな訳で、俺達は街へ出るべく階段を下りて行った。

 だが、そこで見た物は……


「「うわぁおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅ!!」」


 鶏の被り物をした人……しかも宿の主人じゃない。

 何故ならその人は女性で、裸エプロンだったからだ。


「あら? お出かけですか?」

「何で裸なんだよっ!!」

「男には目のやり場に困るでしょっ!!」


 少し年上の女性の様だ。

 宿の主人は何処へ消えた?


「別に恥ずかしくはありませんよ? これを被っていますから」

「「それ以外がヤバいだろっ!!」」


 この街の倫理観はどうなってんだ?

 こんな連中が他にもいたら怖いぞ……。


「気にしたら負けですよ? 男なら堂々としていないと」

「いや、無理だろ……」

「自分の正気を疑うほどデンジャーだ……」


 考えたら負けなんだろうな。

 ここの主人との関係も気になるが、それ以前に別の宿を探した方が良いかも知れん。


「……所で、洗濯物はどうしたら良いんだ? 宿で洗ってくれる所もあったけど……」

「此方の籠に入れて下されば、洗ってお部屋に置いて於きますけど、別料金ですよ?」

「頼みます……ここ数週間分の洗濯物が溜まってますから…」

「俺も……」


 アイテムボックスから洗濯物を籠に入れ、追加料金を支払う。

 自分で洗うよりは手間が掛からないし、何よりも今日はゆっくり散策したい。


「有難うございます。それと、鍵はお預かりいたしますね?」

「「あぁ……」」


 やべぇよ、この宿。

 ここで宿泊しているだけで常識が根こそぎ破壊されそうだ。


「よいしょ……」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」


 被り物の女性が屈んで籠を持ち上げ、洗濯物を裏へと運んで行く。

 彼女の姿が消えた時、俺達の鼻から熱い何かが流れ出した。


「・・・・・・・見えたな・・・・」

「・・・・・・あぁ・・・・・モロだった・・・」


 常識って何だろうか……俺達がおかしいのか?

 ハッキリ分かった事は、この宿は早いうちに引き払うべきだという事だろう。

 鼻にティッシュを詰めながら、俺達は武器屋に足を運んだ。



 武器屋は大通りに面したギルド支部の直ぐ近くにあった。

 この一角は商業と工業の区画の境目になるみたいだ。

 魔法とは便利な物で、水魔法か光魔法の浄化さえあれば汚れた水も綺麗に出来る。

 水質汚染が無いのは良い事なのだが、鍛冶場で使った水には金属が含まれるんじゃないか?

 浄化した時、中の金属は何処へ消えるのだろうか? 謎だ。

 

 それはさて置き、武器屋の中には数多くの剣と防具が所狭しと並べられている。

 ここは工房も兼ねているらしく、店自体は狭いので正直可成り窮屈だ。

 だが、無造作に店に並べられている武器や鎧の類は全てここの手作りらしく、中々豊富な品ぞろえで何よりだ。

 問題は俺達が買えそうな武器なんだが、その前にゴブリンからドロップ回収した錆びた剣などを売りに出して於いた。

 意外に売れたけどさ、それでも良質な武器が帰るほどじゃない。

 まぁ、宿と食事代になったから御の字だ。


「これ、良い剣だよな……」

「10000リル……安くてコレかよ。稼ぐ前に、剣が駄目になって来てんだけどなぁ~」


 無理すれば買えなくも無いけど、宿代が拙い。

 俺が使っているのは大量生産の安物で、切味も最底辺の模造剣もどきらしい。

 いや、研いで貰おうとしたんだけどね?


「研いではやるさ。だが、これは新しく買った方が良いぞ? 予備にすらならねぇ駄作だ」


 と、言われました。

 俺だって買いたいけど、どうしても予算内では無理なんだよ。

 あの神官共、俺達に不良品を宛てやがったな。

 使い潰す気で召喚されたからそんな物だろうけど、いざ当てに出来ないと分かったら手の平を返しやがったし。

 

「ここの安い剣を見せてもあった方がよくね?」

「だな……少しでもマシな剣を選ぶか」


 俺は鑑定スキル持ちだし、選ぶだけなら問題ないだろう。

 幸いにも安い剣を置いてある場所は予算内で購入可能な値段設定だ。

 俺達は一振りづつ確かめながら剣を選んで行く。


「これなんかはどうだ?」

「ん~……俺の剣よりはマシだけど、少しだけ頑丈になった程度だな」

「こっちはどうだ?」

「それは駄目だ。鍛え方が甘いし、直ぐに折れそうだ」

「これならどうだ? 結構綺麗だぞ?」

「見た目だけだな。実用性が無い」


 安い剣なんてこんな物なのか?

 実戦で使ったら直ぐに壊れるような代物ばっかりじゃねぇか。

 鑑定して分かったけど、ここに置いてある剣は全てここの親方の弟子達が鍛えた武器だ。

 無名の剣なので安いらしく、ついでに不完全な代物が多い。

 駆け出しの冒険者にはありがたい所だが、俺達には少し厳しい。


「おっ? これは中々……」


 ============================


【鉄の剣】 ランク3


 未熟な鍛冶師見習いが試作した鉄の剣。

 他の弟子たちの物よりは真面だが、頑丈なだけ。

 切味自体は左程でも無く、力任せに叩き潰すタイプ。

 刃も刃毀れしにくいが、剣と云うよりは鉈に近い。

 武器としては比較的マシな代物。

 製作者―――ジャン・バモス


 ============================


 姓持ち? 下級貴族か商人の次男坊かな? 見た限りでは使える武器だ。

 俺の剣はランク1だし、これは買いだな。


「俺、この剣にするわ」

「マジっ?! て事は……同等の剣は他にあるのか?」

「ちょっと待て、えぇ~~と……」


 俺は更に物色する。

 気のせいか、カウンターの親父がにやけてる気がする。


「おっ? これが同じ物だな……こっちの剣と同じ時期に作られたと思う」

「さすがコースケ、見る目が違う。製作者も同じかもしれんな」

「同じだよ。多分だけど、後一振り作った筈だ」

「何で解んだよ?」

「剣は予備を含めて複数鍛えるのが常識だ。鍛えているうちに亀裂が生じる事があるからな、そのために予め複数の剣を用意しておくんだよ」


 名剣を一回で成功させるなんて、どんな名人でも無理な話だ。

 だからこそ予備の剣身を用意し、その中で一番良い物を売りに出す。

 これは予備を鍛えた剣だろうね。


「ほう、中々見所があるガキ共だ。そいつは俺の弟子が鍛えたもんだが、割かしいい代物だろ?」

「気に入りましたよ。名前が売れてない見習の剣だから安いんですね?」

「あぁ、俺が一番期待してる弟子の作品だ。良い目を持ってやがるじゃねぇか」

「冒険者は命懸けですからね、武器も信頼できるのを選びたいんですよ」

「その割には腰の剣はクズじゃねぇか?」

「予算内で買えるほど報酬は貰ってませんから、食い繋ぐだけで精一杯です」


 正直、依頼を熟しても宿代だけで金が飛んで行った。

 駆け出しには厳しい世界なんだよ、冒険者はね。


「だが、目利きが出来るのは良い事だ。そいつが出来るように為った冒険者は伸びるぜ?」

「そうだと良いんですけどね……」

「おい、コースケ……親父さんに気に入られてんじゃん」


 良い剣は見つかった。古い奴は売りに出した方が良いな……あるだけ邪魔だし。


「この剣も売りに出して良いですか? こちらの剣と比べると、どうしても見劣りしちゃうんで」

「良いぜ、大した金額じゃねぇが大事に使ってた見てぇだしな、潰して真面な剣の素材にしてやるよ」

「そうしてくれると此奴も浮かばれます。今まで助かりましたが、これからは持ちそうにありませんし」

「はははっ! 任せて於け、生まれ変われるならこの剣も喜ぶだろうさ」


 俺は約二ヶ月近く相棒だった剣を手放す事にした。

 駄作の大量生産品でも、この剣のお陰で生き残れたのは確かだ。

 新たに生まれ変われるなら本望だろう。


「精算をお願いします。もう少し稼いだら、防具の方も買いに来るかもしれませんけどね」

「おぅ、期待して待ってんぜ。頑張れよ」

「はい、慎重に上を目指します」

「良い答えだ。大半の駆け出しは、上に目指す事に捉われて足元を身ねぇ。身の程を弁えねぇから、真っ先に死んで逝くんだよ」

「肝に銘じておきます」


 この親父さんも良い人だな。

 職人気質みたいだけど、だからこそ冒険者の事を心配しているんだろう。

 何人も知り合った人達の死を見送って来たのかもしれない。


 掘り出し物を見つけた俺達は武器屋を後にした。


「良い剣が見つかって良かったよ。これで少しは安心できる」

「全くだ。コースケがいてくれて助かったぜ」


 クートが使っていた剣も、俺の剣と同じく大量生産品。

 ただ、俺の奴より多少マシだった程度の剣だ。刃毀れも凄かったし、買い替え時期が来てたのは間違いない。

 鑑定スキルがあって本当に良かった。これも兄貴のおかげかな?

 まぁ、だからと言って感謝するのもムカつくけどね。


 正直に礼など言ったら、『なっ? 俺が選んでおいて正解だったろ? 感謝し給え、はははっ!』何て言うに決まっている。

 こういう時、黙っていられず調子に乗る人だったからなぁ~……。


「この後、どうするんだ?」

「そうだなぁ~……ギルドでダンジョンの情報を集めるのはどう?」

「おっ? それは良いな。どの道稼がなくちゃならないから情報は集めておいた方が良いし」

「その後は道具屋を巡って宿に帰ろう」

「……あの宿、早い内に出て行った方が良くねぇか?」

「それは同感……」


 忘れてたよ……あの宿の事を。

 ギルドで他の宿の事も聞いておいた方が良いかな……精神が腐りそうだし。


 俺達の足は、急に鉛みたいに重くなったのでした。


 そう言えば、亜里沙達は何処で何をしているんだろう?

 まぁ、プライベートの事まで干渉はしないけどね。

 女の子同士だし、俺達には分からない事もあるだろう。


 さぁて、次はダンジョンに挑戦だ。張り切って行こうと思う。


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