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 コースケ君が行く

 どーも、浩介です。

 科学文明の世界から魔法文明の世界に召喚され一月経ちました。

 最近順調にレベルをあげまして、ランクCの冒険者になった所です。


 この世界は物価は安いけど、何かにつけて金が掛かる。

 食料などの値段は左程でも無いんだけどね、これが武器や魔法薬と云った物になると値段が格段に跳ね上がるんだわ。

 モンスターを倒せば金や素材なども手に入るけど、調合できなければ意味が無いし、素材の売値もめちゃくちゃ安い。

 例えば傷薬に必要な薬草と、効果を高める為の癒しの石、この二つの素材の値段は薬草が5リル、癒しの石が50リルと子供の小遣い程度の値段だ。

 これが傷薬になると150リルの値段になる。1000リルあれば半月は生活できるのだから、錬金術師ってボロイ商売だね。

 苦労して手に入れた素材も売値は三分の一で、買うとなると5倍になったりする。

 物にもよるんだけどね。そんな訳で俺達は錬金術師の真似事をして小銭を稼いでいる。

 大量に薬を制作してね。言って於くけど、ヤバい薬じゃないぞ?


 冒険者とて毎日仕事の依頼がある訳じゃない。

 誰もが副職を持っているし、依頼の金額や場所次第では受けない仕事も多い。

 依頼達成報酬が幾ら良くとも、交通費だけで報酬が飛んでいくなんて良くある事だし、遠方の田舎町の依頼は安い上にモンスターが強力だったりする。

 この手の依頼は街が蓄えた税金の一部を流用するが、発展してない田舎町では支払える金額に限界がある。

 そうなると今度は領主が払う事になるのだが、領主の才覚によって依頼を出さない事もあるので、実の所潰れて行く村も多い。

 これはもう人災だね。奴隷になる人たちもいるんだから、酷いものだよ。

 騎士団も居るんだから討伐隊を組んでも良い筈なのに、軍事行動は多額の費用が掛かるからと民間に委託、村人たちの陳情も無視している貴族も多いらしい。


 つまり権力者は当てにはならない事になる。

 良い領主の土地に生まれるかは運だからね、コレばかりはどうしようもない。

 俺達も生活するのに苦労しているところだ。


「傷薬、これで全部完成か?」

「待て、数えてみる……ちゃんと50個あるみたいだね」

「うぁ~~~っ! 長い仕事だったわ―――っ!」

「マルスさんとゴードンさんは?」

「いねぇ……いつの間に逃げやがったんだ?」


 新人冒険者はギルドから強制的にパーティーを組まされる。

 これは新人の生存率を上げる為と、新人冒険者を教育するカリギュラムの一つだ。

 冒険者はランクが低いと高額依頼を受ける事は出来ない。しかし、そのランクになるまで多くの新人が死んでいるらしい。

 これは実力が釣り合わないのと、目先の事に捉われヘマをやらかす者が多いためだ。

 無論研修期間で必要な事はベテランに叩き込まれる。

 地獄の様なブートキャンプだったよ……


 ランクCは新人から一人前と認められるランクで、俺達は短期間でこのランクに辿り着いた。

 ズルはしてないぞ? 効率良く複数の依頼を熟しただけ、盗賊討伐の時初めて人を殺したけど……あまりいい気持じゃ無かったね。

 けど、この世界は命の値段が安い。殺さなければ殺される状況は幾らでもある危険な世界なんだ。

 理解してくれとは言わないよ。平和な世界に生きる日本人には分からないだろうけど、生きる為に殺す事を躊躇しない世界なんだよ。

 善悪すら曖昧なそんな世界さ。


「取り敢えず、売る為の分は出来ましたね。後は使う分ですが……」

「お、俺はもう、二十四時間ゴリゴリはしないぞ……アレは変な世界の扉を開く……」

「何か凄い世界を見た気がするのよねぇ~……記憶にないけど……」

「私は途中から気を失いましたから……」


 薬草を二十四時間擂り続け、俺達は真理の扉を開く所だった。

 恐らくは、行ったら戻って来れないデンジャーな世界だと思う。

 俺も危うく逝き掛けた。


「最近、ゴードン達はつれないよね」

「良く他の冒険者と依頼を受けてるみたいだし、そろそろこのパーティーからも独立すんじゃね?」

「ランクCだからな。いつまでも当初のパーティーを貫く必要も無いだろうし、他の冒険者と依頼を受けて腕を磨くのもありだ度思う」


 俺達は歳が近いから良いけど、ゴードンやマルスは俺達よりも年上だし、他にも知り合いがいるみたいだからね。一つのチームに拘る必要は無いみたいだ。

 錬金術のスキルも覚える気は無いみたいだし、これからどうするんだろうね?


「私達はまだ、当分このままで良いと思います。けど、ゴードンさん達は自分達の目標があるみたいですし」

「そうよね。知り合いに誘われてるって聞いた事あるし、多分、今もギルド本部にいるんじゃないかな?」


 同じ道を歩いているように見えて、人の人生はそれぞれだと兄貴は言ってたっけ。

 出会いと別れはこれからも幾らでもあるし、これが最初だと思えば少しい淋しいかな。

 けど、だからと言って引き止める事も出来ない。

 この世界では、自分の人生は自分で選択しなくちゃならない事が顕著に表れている。

 元の世界でもそうだけど、この世界では極端にそういった事が多いんだよ。


「兎に角、俺達はこれを売りに出して、当面の生活費を安定させる。後は何か依頼を受けよう」

「錬金術って稼ぎは良いけど……精神的に参るわね」

「ゴリゴリは地獄だ……ゴリゴリ……フフフ……」

「じゃぁ、準備出来次第売りに行こう。回復薬や毒消しなんかは暫く要らないから、後は食料の確保という事で」


 まぁ、干し肉や何だか良く解らない缶詰なんだけどね。

 最近、兄貴の料理が恋しい。

 変に拘って、馬鹿みたいに旨い料理を作ってたからなぁ~……俺、甘えてたわ。

 亜里沙もこの世界の料理は難色を示してたし……塩味がキツイか、極端に甘いものが多いんだよなぁ~。


「砂糖や塩も必要ですし、後はハーブなんかも手に入れたいですね」

「香辛料は少し高いしなぁ~……醤油や味噌が懐かしい」

「醤油? 味噌? それ、調味料なの?」

「聞いた事無いね。美味しいのか?」


 発酵調味料と言えば、魚醤みたいなものが多いかな。

 カピなんかも売っているみたいだけど、匂いが臭いんだよ。

 味は良いけど高いし……内陸部は購入するのも大変だ。


「コースケが料理番をしてくれるからまだマシな方よ? 他のパーティーは干し肉を齧って、固いパンで飢えを凌いでいるみたいだから」

「コースケには頭が上がらねぇー」


 俺は兄貴に頭が上がらねぇー。

 料理を教えてくれたの兄貴だし、まさか役に立つとは思わなかった。


「私は料理苦手だし……」

「うん、知ってる」


 亜里沙はバラエティー番組で料理を作ったのは知ってるけど、凄く不味いって言ってた。

 米をトイレ用の漂白剤で研いでたし、鍋に農薬をぶち込んでた。

 あれ、どう考えても犯罪だよ。変なガスが発生してたからね?

 生放送で『しばらくお待ちください』のテロップが一時間ほど出て、映像が切り替わったらそこは戦場の様になってました。

 あの時、現場で何があったんだ?


「兄貴に感謝する日がこようとは思わなかった」

「良いお兄さんだったんですね」

「かなり自由な人だったけどね。巻き込まれる方は散々だよ」

「「おかげで食生活は最高です!」」


 そう思うなら、料理している時くらい手伝ってくれよ。

 俺は料理するだけの存在なのか?

 お前等なんで眼を逸らす?


「準備できたらギルドに向かおう。宿は明日までしか泊まれないし、仕事をしないとな」

「「「了解」」」


 部屋を借りるにしても、資金で困窮してんだよ。

 ラノべみたいに直ぐ家を買える訳じゃないし、チートが有っても苦しいものは苦しい。

 世知辛い世の中だ。


 ともあれ、俺達は準備を整え、ギルド支部へ向かった。

 良い仕事は無いかなぁ~?



 * * * * * *



 ギルド支部の見た目は殆ど酒場だ。

 壁の掲示板には依頼手配書が張られ、受付や換金所では多くの冒険者が集まっている。

 ホクホク顔の冒険者や、体中に包帯を巻いた冒険者などが居り、それだけで何があったのか様子は一目瞭然。

 栄光の光と影がはっきりと分かれている。


「俺は依頼書を見て来るから、アリサとセリアは傷薬と回復薬を換金しておいてくれ」

「任せて♡」

「何とか高値で交渉してみる」


 亜里沙さん、何とも頼もしいお言葉。

 俺はクートと共に掲示板に向かった。


「色々依頼があるね。どの依頼を受けるんだ?」

「緊急の奴が良いか……あ、マルス?!」

「おっ? お前等も依頼を探しに来たのか?」

「まぁ、金を稼がないと不味いからな。ゴードンと一緒じゃないのか?」


 何となくわかるけど、取り敢えず遠回しに話を向ける。


「すまないな。実は同郷の知り合いからパーティーに誘われてるんだよ。ゴードンの奴も一緒だ」

「やっぱりね。言ってくれれば良いのに」

「昨日、偶然会う事になってな。ランクCになったから誘われたんだ」

「気にしなくても良いよ。この手の仕事は馴染みの人と組む事が多いし、もうギルドの強制は無いからね」

「本当にすまない。早く話すべきだったんだが、昨日は……」

「24時間耐久ゴリゴリか……話を切り出すには問題だったな」


 精神的にヤバい所まで行ってたからな。

 話をするのにも真面な状態じゃ無かったし、無理も無いやね。


「もう決めた事なんだろ? なら暖かく見送るよ。俺達の都合に合わせる事は無いし、冒険者の仕事なんてそんなもんだ」

「本当に、すまなかった」

「気にしない……おっ? 緊急の護衛依頼? 報酬は30000リル? 明日の朝一か……」

「商人の護衛みたいだな。受けるのか?」

「目的地はノーザラスの街。食事込みか、グラードス王国に一番近い街だな……受ける」


 鬼神の存在が気になるからな。依頼料は安いけど、食事込みらしいから破格な依頼だろう。

 俺は依頼書を手に受付に向かい、手続きをした。

 その後はマルスさんと共に少し話をした後、ギルドの冒険者に話を聞く事にした。

 情報はあるに越した事は無いし、冒険者は気の良い連中が多いのは助かる。

 ガラの悪い連中は大概がギルドから追い出され、高レベルになる前に盗賊に身を落すらしく、大抵が犯罪奴隷の仲間入りになるそうだ。

 信用第一なのが民間組織の売りだから仕方ないんだよね。

 そんな訳で、中堅の先輩冒険者から情報を教えて貰ってます。


「最近、貴族連中の様子がおかしいんだとよ」

「何で?」

「このメルセディア聖国は法王を筆頭とした貴族社会なのが実情でな、市民から上の政務に携わる事になる前に島流しになんだよ。まともな連中は権力を持つ前に淘汰されんのさ」

「腐ってるんですね。この国も終わりじゃね?」

「神の国だなんて言って偉そうにしてたけどよ、グラードスの王様が神の祝福を受けただろ? その所為で上の連中に対して不信感が顕著に表れて来たんだわ」


 権力を笠に着てたら、本当の聖人が他国に現れて面目丸潰れって事かな?


「穏健派の連中が一気に非難を浴びせる様になったらしくてな、上の連中は抑え込もうにも根拠となるものが無くて、却って糾弾されてるらしいぞ?」

「神の祝福でしたっけ? 亜人種の多くが祝福されてるって聞いたけど?」

「あぁ、逆に人間は祝福を受けた者が居なくてな、それは神の意志に背いたからだって話だ」

「その上、他国の王様が祝福を受けた。……信仰が揺らいだわけね」

「前から疑問視されてたけどよ、強硬派って連中が裏で阿漕な事をしていたらしくて、今まで怯えて何も出来なかったわけだな」

「勇者召喚に多くの亜人種の命を犠牲にしたらしいからね。神に見放されても仕方ないんじゃない?」

「マジか? そんな外道な真似をしてたのかよ」

「聞いた話だけどね。命を犠牲にして欲望を叶えようとしたんだから、神様も愛想は尽かすだろうさ」


 俺達はそうやって召喚されたんだ、あいつらには苦しんで貰わないとね。

 その所為で兄貴が死んだんだし、恨みは晴らさせてもらうよ。


「そこまで腐ってたのかよ。穏健派の連中に教えてやるか」

「国が亡びるんじゃない?」

「腐った連中に牛耳られるよりはマシだろ? 貴族連中には参ってるからな」


 神の名の下に好き勝手やらかしてたらしい。

 その結果、信奉していた神に見放され、責任追及が苛烈化したって事か?

 そのうち内乱が起きて国が分裂すんじゃね? どこかの宗教国家みたいにさ。

 西と東に分裂して血生臭い事態になりそうな気がする。


「それは兎も角、ノーザラスの街方面の話は知らないか?」

「最近オークが出没しているらしいな。魔王が倒され、その配下の生き残りがこっちに流れてきているとか」

「鬼神か……魔王を単独で倒せるって、どんたけの化け物だよ」

「噂じゃ、楽勝だったらしいわね。神の名は伊達じゃないって事ね」

「後は、疫病が発生したって話も聞いたぞ?」

「マジで? 治療する薬はあんのかよ?」

「それが、どんな薬が効果あるのか分からんらしい。新しい種類の病だそうだ」


 マジかよ。病気には気を付けた方が良いけど、微生物による感染だったらどうすんの?

 この世界の医療技術は基本的に免疫頼りだし、細菌による感染が治療できるとは思えない。

 効果的な薬なんて知らないぞ? 兄貴なら何とかしそうな気がするけど……。


「盗賊も多いらしいぞ? かなりヤバイ連中らしく手掛かりがつかめねぇんだとさ」

「聞いた事あるわ。亜人種が特に酷い殺され方だったとか、狂信主義者かしら?」

「ヤベェ連中みたいだな。俺達も気を付けるわ、明日は早いからこの辺で宿に戻るか。情報助かったよ」

「おう。どこかで会ったら仕事しようぜ」

「死ぬんじゃないわよ」


 冒険者同士はこうした気さくな会話が成り立つ。

 みんな情報は生き残るために必要な物だと知っているし、名前が知らない相手でもどこかで仕事をする事がある。

 こうやって繋がりを作る事で生存率を上げる事に惜しみがない。

 今度、どこかで会ったら名前くらい聞いておくか。


「クート、そっちはどうだった?」

「う~ん、街道に盗賊とオークが出る事以外は平穏そのものだな」

「こっちも似たようなモンだ。食料は買い込んでおいた方が良いかも」

「えっ? 食料は向こうで用意してくれるんじゃないのか?」

「美味しい話には裏がありそうだから、念のためにな」

  

 用意しておいて損は無い。

 幸い食料は大した出費じゃないし、いざと云う時に備えておくに越した事は無い。

 人間不信と云う訳じゃないよ? 俺は用意周到でいたいだけ。


「セリアと亜里沙は?」

「下着を買いに行った……俺達はどうする?」

「俺達も必要な物を買って行こう。下着もそうだけど、今回は長旅になりそうだから」

「そうだな。食料も買い込んでおかないと、万が一があるからなぁ~」


 金銭に余裕は持たせているけど、大金と云うほどじゃない。

 出来る限り安く仕入れなければ……まるで主婦だな。


 明日に向けて準備は手早く済ませよう。



 * * * * * *


 

 翌朝、俺達は商人が待機している待ち合わせ場所に向かった。

 日が昇り始め、周りの風景は霧が立ち込め実に幻想的です。

 早朝だというのに市に向かう人や、店の準備に明け暮れる人たちが忙しく動き回り、霞みがかった風景に影として現れ、誠に不可思議な世界を見せている。

 こんな風景画が美術館に有ったような気がするけど、何処だっけ?

 俺達は眠気眼をこすりながら依頼主の商人を探した。


「あの門にある馬車がそうじゃない?」

「三両馬車、護衛についているけど、同類かしら?」

「移動は楽そうだな。大体二週間の道程らしいけど……」

「兎も角話をしよう。すみませぇ~ん」


 商人はまだ若い30代くらいの男性でした。

 後ろに居るのは奥さんと子供だろうか? 如何やら引っ越しの御様子。


「すみません。ギルドで護衛依頼を受けた者なのですけど、サナストさんでしょうか?」

「そうです。いや、護衛についてくれて有り難いよ。引っ越しの準備に追われてつい依頼を出すの…を……その顔、どうしたんですか?」


 サナトスさんは俺の顔を見て少し驚いている。

 当然だろうね。緊急の依頼を受けたと宿で言ったら、セリアにしこたま殴られた。

 亜里沙も機嫌が悪いっス。


 仕方ないじゃん。金額も良いし、グラードス王国に行くには丁度良かったんだから。

 そりゃ、相談しなかったのは悪いけどさ、昨日依頼を出された物だったんだよ?

 俺にどうする事も出来んよ。


 まぁ、この依頼の話をしようと部屋に言った時、ちょうど着替え中だったのが原因だけどね。

 ラッキースケベって、実際に起きたらこんなもんだよな。

 某貧弱な虐められっ子みたいに、風呂場にうっかり乗込んで『エッチ』の一言で済む訳ないし、地球だったら犯罪者として通報されてもおかしくは無い。


 ただ、モーニングスターで殴ろうとするのはどうだろう?

 下手をしたら殺人事件に発展してたよ、この世界じゃ合法で正当防衛が成立するけどね。

 誰だよ、ラッキースケベは美味しいイベントって言った奴は……。


「気にしないでください。アハハハ……」


 もう、笑って誤魔化すしかねぇ―よ。


「依頼はノーザラスの街までの護衛で宜しいですか?」

「えぇ、此方で小さな商いをしていたのですが、先日兄が他界してしまいまして……独身だったので店の権利を私が譲り受ける事になったんです」

「それはお気の毒に……」

「いえ、兄が死んでくれて清々しています。妻にも手を出そうとしたロクデナシでしたからね」


 ここにも兄弟の仲が悪い人がいました。

 俺の場合は兄貴がモテ過ぎたのが原因だけどさ……少なくとも兄貴は俺の事を考えてくれてたみたいだけど、この人の場合はマジで最悪だったみたいだ。


「子供はいなかったんですか? それ程の人なら愛人の一人や二人……」

「嫌われてましたからね。長男でなかったら父に追い出されてましたよ」

「いや、長男しか家を継げないわけ? 親が遺言で家督相続者を決められないの?」

「無理なんですよ。それが出来れば父も苦労はしなかっただろうに……」


 何か、聞いちゃいけない様な話だった。

 親父さんの苦労が忍ばれる。


「兎も角、今回の護衛、宜しくお願いします」

「い、いえ……こちらこそ…」


 護衛依頼を受ける前に、何でこんな遣る瀬無い気分になるんだろうか?

 国が変われば法律も風習も文化も違う。

 某国でピースサインを送って半殺しになる様なものだろう。

 無知ってこわっ!


 

 * * * * * *



 さて、護衛依頼について早三日。

 何事も無く順調に進んでいます。


 俺達は馬車に揺られているだけなのだが、正直飽きて来るね。

 現在護衛についているのは店の従業員で元は冒険者の方々だそうだ。

 正直俺達よりもベテランで、装備も中々良いものを揃えている。


 勇者として召喚されたけどさ、国の後ろ盾のない俺達の装備何て貧弱だよ。

 強力な装備はモンスターからドロップした素材で作らなきゃならんし、強力な装備程手強いモンスターと闘わなきゃならない。

 穏健派側についた勇者達も居るけどさ、そいつらは騎士団で訓練を受けたりしている様で、神殿を出た後は俺は見た事が無い。

 亜里沙は司祭達に引き留められてたけど、俺と共に来ることを選んだ。

 転生した兄貴を探す為だ。


 勇者って国の後ろ盾がなければ只の人だよね。

 みんな安全策ばかり取って、この世界を見る事ができるのかね?

 洗脳されてなきゃ良いけど、聖職者って場合によればかなり黒くなるもんだよ?

 怖くてあんな場所にいられねぇ―よ、欲に狂った連中の魔窟じゃん。

 

 何でこんな憂鬱な事を考えてるかな?

 それは暇だからだね。ベテラン衆は年配者が多く、大半が馬車の上で寝ており、時折馬車の御者を変わる程度だ。

 俺達も見張りを交代しつつのんびりと揺られている。

 こんな事なら本でも買っておけば良かった。

 物語のように簡単に街に着く訳では無いんだよ。何事も無ければいいんだけど……。


 いかんいかん、こんな後ろ向きな事を考えても気が滅入るだけだ!

 ここは一つ明るい事を考えなければ……ふと、亜里沙の姿が目に映る。

 そう言えば亜里沙て、グラビアアイドルみたいなこともしてたよなぁ?

 今はツルペタプニだけど、以前はナイスバディの美少女アイドルだったっけ……


 あれ? 今の姿は13歳くらいだよな? 数年であんなにナイスな体に成長するものなのか?

 たった数年で急速に成長したって事だろ? あり得るのか? Dカップだったぞ?

 まさかシリコン整形……


「今、何か失礼な事を考えませんでしたか?」

「いや、何で?」

「凄く不愉快な物を感じたものだから……気のせいでしょうか?」

「俺に聞かれてもねぇ~……」


 こえーっ!! もの凄く勘が鋭いよっ!!

 直感がハンパねぇ! アイドルやってたから、そういった他人の視線に敏感なのか?

 バレたら殺されるな、マジで……


「本当に変な事を考えてませんか?」

「暇で退屈だしなぁ~、ゴブリンでも襲って来ないかとは思ってるけど……」

「不謹慎ですよ。何事も無く済めばよいのでは?」

「そうなんだけどね……」


 ―――ヒュンッ!! ビィイィィィ―――――ン!!


「「・・・・・・・・・」」


 嘘っ、矢だ……。


「ゴブリンだっ!! 周りにいるぞっ!!」

「数はっ!? 数はどれくらいだっ!!」

「左右合わせて27匹っ!! 馬車を守れっ、流れ矢に注意しろっ!!」


 マジで? 俺が言ったからゴブさんが出て来たの? 冗談でしょ?

 俺はすかさず剣を抜き、森から襲ってくるゴブリンに斬りかかった。


「ウィンドカッター!!」


 亜里沙が魔法で援護し、クートとセリアは遊撃に出る。

 ベテラン引退組が強い事、一撃で三匹のゴブリンが吹き飛ばされてる。

 六人いる年配者なのだが、何の危なげもなく簡単にゴブリンを処理してるよ。

 これは闘いじゃない、作業だよ。俺達が護衛に就く意味があるのかね?


「コースケ、危ないっ!!」

「うおっ?!」


 いつの間にか左右から挟撃される所だった。

 あぶねぇー……お返しだっ!!

 俺はすかさずロングソードで二匹を薙ぎ払い、ゴブリンを斬り倒した。

 

「セリア、助かった!!」

「お礼は終わった後にしてっ!!」


 怒られてしまった。

 兎に角、このゴブリンを倒さないと話すら出来ない。

 子供が泣いてんだぞ? 雑魚はさっさと消えやがれっ!!


「フレイムアロー」

「えっ?」


 ちょ、周りが森なんだぞ、クート!!

 下手したら山火事に……あ、遅かった。

 クートが放った焔の矢は、ゴブリンたちに向かって放たれていた。

 追尾性能が有るので、逃げ惑うゴブリンに容赦なく襲い掛かり、そして松明のように燃え上がる。

 ゴブリンたちは次々に光の玉を放出しながら消えて行く。 


「せめて氷系統の魔法にしてくれっ!!」

「わりぃ、思わず使っちまったよ」


 咄嗟な時ほど炎系統の魔法を使っちゃうのは何故なんだろうか?

 俺もそうだけど、つい口にしちまうんだよなぁ~……ふっしぎぃ~!


 それにしてもベテランさん、ゴブ倒すの速いな。

 俺達ですら四人で半数なのに、向こうは二人で蹴散らし、残り四人は馬車の護衛に回ってるし……これが経験の差と言う奴なんだろう。

 今の俺達で前衛二人で27匹相手は無理だし、荷馬車を守りながらとなるとレベルが足りない。

 この人達のランクはどれ位なのだろうか? 鑑定しても全然見えねぇ。

 俺達が三回攻撃を加えている間に、あの人達は一撃で葬ってんだよ……つぇー……。


 やっぱ、ランクが高いモンスターを倒さないと駄目だな、経験値がしょぼい。

 今相手にしている奴等もランクは2でレベルは12、雑魚扱いですわ。

 俺達には良い経験値なんだけど、ベテランさんには大した事無さそうだ。


「あ、ランク2に上がった」

「あぁあっ! ゴブリンが逃げるっ?!」

「追いますか? 今なら全部倒せると思いますけど?」

「止めておこう。今回は護衛が仕事であって討伐じゃない、深追いは危険だ」


 クートとセリアがランク2になった。

 俺と亜里沙は既にランク2になっており、レベルも10になった所である。

 ドロップアイテムが魔石と錆びた短剣、予想以上にしょぼい。

 中には錆びた剣もあったけど、コレ、ちゃんと整備したらどうなるんだろうね?


 ベテランさんの話だと、中には魔剣の様な物があるらしいし、錆びた剣を好んで鍛冶師に修復してもらう冒険者も居るそうだ。

 魔剣を引き当てる確率なんてそう高いものじゃない、寧ろ大量に集めて素材として撃った方がよほど金になる。

 錆びた剣は鉄に出来るから鍛冶屋でもソコソコの値段で買い取ってくれる。

 割に合わないと思うなぁ~。


 鑑定してみようか? もしかしたら良い剣になるかもしれないし……


「鑑定」


 ===========================


【錆びた剣(黒鉄)】 ランク3


 鉄の剣より強度がある黒鉄製の剣。

 修復すればそれなりの名剣になる可能性大。

 魔法効果は付加されてはいないが、一般に出回る剣より上等。

 鍛冶師の腕次第では名剣になるかもね。

 修復には最低でも10000リルが必要。

 売値は1500リル。


 ============================


 おぉ――――っとぉっ?!


 マジで?! 名工に修復して貰えば良い武器になんじゃね?

 これは取っておくに限るね、多少値が高くなっても修復すれば最高の剣になるよ!!

 これは売らない方が良いだろう。

 噂では、グラードス王国に名刀工がいるとか……これは行くっきゃないでしょ。

 出来る限り資金を集めないといかんかな? 修復の最低金額が高過ぎる。

 これからは頻繁に鑑定しよう。


「コースケさん、どうしたんですか?」

「何でもない、錆びた剣で上物が手に入ったみたいだから、資金集めないと……」

「えっ?! 鑑定て、そんな事も分かるの?」

「俺がドロップしたやつも見てくれよっ!!」


 鑑定スゲェー!!

 採取以外に使ってなかったけど、買い物とかにも超便利。

 頻繁に使ってて良かったぁ――――――――っ!!

 あれ? 考えてみれば、簡単に分かるような事なんじゃ……まっ、良いや。


「そろそろ行こうぜ、馬車にに置いて行かれちまう」

「そうですね。では行きましょう」

「後でちゃんと鑑定してよねっ!」

「わかった、馬車に追いついてからな?」


 護衛している馬車はモンスターと接敵した場合に限り、先に行かせるのが鉄則だ。

 時に罠を張っている事もあるが、俺達にはそんなものは利かない。

 何せ、索敵スキルを手に入れているから、相手の行動は事前にわかるのだ。

 オーガ相手だと分が悪いけど、今の俺達にはこれが限界。

 早く強くなりたい。


 因みに馬車に追いついた後、早速鑑定したのだが……剣は全て錆び付いた剣でした。

 掘り出し物は錆びた杖だったんだけど、これは赤鉄棍でした。

 完全に鈍器だったんだが、誰が持つの?


 中々上手い話にはならない様だ。


 その後順調に街道を進み、三週間後にはノーザラスの街へ到着した。

 モンスターが出没したのはこの一回限りで、後は暇でした。


 暫く稼ぎに専念しようと思う。 



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