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 遊ばれちゃった……泣いて良いですかね?

「随分と活躍してきたみてぇ―だな。アースドラゴンにグランドモールかよ」


 ボランさんが満足げに頷いております。

 今? ギルドですよ?

 ここ数日の間に手に入れた物を換金してるであります。


 毛皮に鱗、お肉や骨どす。

 武器製作にも使うので残しておりますが、まだ大量にありますぜ。


「まだ持ってそうな気がするが、あんまり大量放出しても市場が荒れるからな?」

「わかってる。半分くらいは置いて行くぞ? 流石に大量過ぎてなぁ~、オークの肉も……」


 魔王の部下を殲滅した時にGETしたお肉が消費しきれません。

 偶に売りに出さないと肥やしになる一方ですわ。

 

「オークか、最近見かけないらしくてな。出来れば多めに置いて行ってくれ」

「あれ? もしかしてこの辺りに生息していたオークって……」

「魔王の配下だったようだな。肉が手に入らなくて困ってる連中がいる」

「料理人だろうね。大量にあるから幾らでもどうぞ」


 持っていた所で腐らせる……腐らないけど、肥やしになってるからなぁ~。

 どうでも良いけど、個人共通のアイテムボックス能力ってどうなってんの?

 肉が腐らないって、時間が止まっているのですかね?

 便利だから良いけどさ、あり得ねぇー!


「どうでも良いが、あの二人は何でヘタレてんだ?」

「最近、家の中に閉じこもりきりでな、無理矢理連れだして来たんだ。健康の為に」

「若いのに引き籠りかよ……そのうち飢え死にすんじゃねぇか?」

「昨日帰ってきたら、そうなりかけてたよ。立派な駄目人間になって来て恥ずかしい位だ」

「それは立派と言えるのか? 苦労してんだな」

「俺がいないと、何もしやがらねぇ。人として堕ちるとこまで落ちているみたいだ」


 聞こえているのか、メリッサとモーリーがぴくぴく動いております。

 まぁ、聞こえる様に言ってるんですけどね。

 恥ずかしいと思うなら、改めてくださいな。

 

「年頃の娘が着替えをせずに数日同じ服を着たきり、どう思う?」

「だらしねぇな。まるで独身野郎共みてぇじゃねぇか、幻滅モノだな」

「風呂も入らなかったみたいでな。将来が心配だよ」

「お前、0歳児じゃ無かったか?」

「モーリーもそうだぞ? 俺と違って前世の記憶がある筈なのに、女として駄目な方向に行ってる」


 マジで将来が心配だよ。特にメリッサが……。

 料理も出来る筈なのに、めんどくさいの理由で何もしないんだ。

 生きる気あるのかね? 時折疑問になります。


「あの歳で引き籠りか……娘が同じ事にならなくて正直ホッとするな」

「娘? 結婚してたのか? おっさん」

「失礼だなっ! 年頃の娘がいるぞ、息子も冒険者をやっているがな」

「息子が冒険者……あの下半身丸出しの連中に巻き込まれないと良いよな……」

「それが一番の心配事なのは確かだな」


 この街には変態の冒険者がいる。

 フル装備の全身鎧に只一点だけ、下半身のみ丸出し状態の変質者だ。

 生活態度は紳士らしい、文字通りの変態紳士なのだが、正直近付きたくない集団だ。

 しかもその性癖は伝染するらしい。いったい、どこの病原体なのだろうか?

 誰か治療法を探してください。


「他にも変態がいそうだな・・・・・・」

「いる。オカマなのに百合を愛する【紅百合の園】とか、モンスターにシバかれるのを目的とする【Mの明星】とか……昨日血塗れで満足そうに帰って来たな」

「大丈夫なのかよ、このギルド……」

「まぁ、普通の冒険者も居るが、奴等が濃すぎて困りモンだ」

「被害者が出ないと良いな……マジで」


 ギルマスの仕事はかなり精神にクルものがあるんだろう。

 不憫な話だ。


「精算は終わったが、これから依頼でもうけるのか?」

「うんにゃ、今日は街で買い物しようかと思ってる。引き籠りに太陽を浴びせないと干からびる」

「却って干からびるんじゃねぇか? 引き篭もりなんだろうが」

「運動させねぇと日がな一日ゴリゴリやってんだよ。じゃぁ、また来るぜぇ~」

「おう、またデカい獲物を頼む」


 良い取引が出来た。

 金なんかあり過ぎて使い道が無い……服でも買おうかなぁ~?

 何せ、執事服の上からブレスプレートを着こんでるからなぁ~……アレ? 俺、服持って無い?

 メリッサの事は言えねぇー!!

 よし、服を買おう。

 どんな服が似合うかなぁ~……何でワンピース姿しか思い浮かばないんだ?

 予想以上に着る物に難儀するぞ、この見た目じゃ……。


「メリッサ、服を買いたいんだが、何処か良い店は無いか?」


 ―――ガバッ!!


 何で、そんなに思いっきり、勢い良く頭を上げるの?

 君らは何を連想したんだ?

 怒らねぇ―から、言ってごらん?


「・・・・レン君・・・服・・買うの?」

「あ? あぁ……着るもの無いし、下着も買わないと……俺、二か月もどうしてたんだ?」


 やべ……服を洗ってる記憶はあるけど、何を着ていたのか覚えてねぇ。

 何を着て……思い出した……メイド服。

 何つーもん来てたんだよっ!!

 下着も良く考えてみたら、女性物のズロースみたいなやつ!?

 今も履いてるよっ、何で違和感なく着込んでんだっ?!


「ご主人様の見た目から、インド風のサリーでしたっけ? 似合いそう」


 似合うだろうねぇー……未婚だからケープで顔を隠せと仰るのか? モーリーよ……。

 それ以前に俺は男……説得力ないけどさ。


「ん・・・・・白い布を巻き付ける様に・・・・」


 俺は古代ギリシャ人かローマの人々ですか?

 つーか、んなもん着たら、めっちゃ浮きまくりだろっ!


「行きましょう、直ぐ行きましょうっ! 張り切って行きましょうっ!!」

「ん・・・・可愛いは正義・・・スカート・・フリフリ・・・」

「何でそんなに元気なんだよっ!? たすけ、ア―――――――……」


 こうして俺は連行された。

 この二人はやる気だっ!?

 どうなっちゃうの? 俺ぇっ!?



 * * * * * *


 

 衣料専門店、【ファニー・アフロディーテ】。

 アットの大通りに面した場所に店を構えるファンシーな店だ。

 男が入るには勇気が必要なそんな店である。

 店のウィンドに飾られた、やけにファンシーな衣服が無ければ、どこかの喫茶店でも通る様な店構えである。


 つーか、俺にここに入れと?

 逃げ出したい。けど逃げられない・・・・・・。

 それは何故かと尋ねられたら、メリッサに捕縛されて動けないのです。

 お前ら引き籠りの癖して、何でこんな店知ってんの?

 

「さぁ、行きますよっ! ご主人様♡」

「・・・ん・・・頑張る・・・」


 何を頑張るのですか? メリッサさん……。

 君らは俺を女装させる気満々ですね?

 逃げなければヤバイ……けど、逃げられない……。


「モーリー、いっきまぁ~すっ!」

「ん・・・・かっ飛ばして行こう・・・・」


 スピードを上げるどころか、最早Maxですね?

 凄まじい勢いで俺を引きずって、アチッ!? 摩擦熱で尻がっ?!


「「アフロさん、居ますかぁ~?」」

「あんらぁ~? いらっしゃぁ~い♡」

「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 化け物がいました。

 アフロのガチムチオネェが……。

 いや……胸が…僅かにある……まさか、女っ?!


「んふっ♡ 可愛らしい坊やねぇ~ん、これは腕の振るい甲斐が有りそうだわぁ~ん」

「な、なな……何でそんなガチムチに……」

「肉体美は美しいと思わなぁ~い? ちょっと肉体改造をしたら癖になっちゃって♡」

「ちょっと所じゃねぇ―――――――っ!! 取り返しのつかない事態になってんだけどっ?!」


 女としての人生を捨ててる。

 とんでもねぇ―猛者が居やがりましたっ!


「既婚者だから大丈夫よぉ~ん♡」

「マジでっ?! 世界はデンジャーに溢れているっ!!」

「因みに旦那は、あそこでミシンをかけてるわぁ~ん」


 その男、貧弱につきっ!!

 骨でした……いや、骨に近いほど可愛そうなくらい痩せております。

 何かの病気ですか? 顔色が、もの凄く悪いですよ?

 医者に見せる事をお勧めします。


「店長のアフロディーテよぉ~ん♡ 宜しくね」

「頭がなっ!!」


 こえーよ、この店。

 出来れば二度と来たくは無い。

 ヤバい匂いがプンプンします。


「お母さんっ!! お客さんが怯えてるでしょっ、奥にいてくださいっ!!」

「あっ、まともな人がいた……ブッ!?」


 見た目は普通の人です。

 平均よりも少し上くらいの美人さんです。

 ただし……髪型がニグロでした。チリチリです。


「娘のニグロディーテと言います。よろしくね」

「あ、あんた……何でそんな髪形を……」

「お母さんに無理やりやらされたのよ。さすがに泣いたわ……」


 酷い親もいたもんだ。

 なんつ―事をしやがるんでしょ! 娘の人生を破滅させる気か?

 でも、常識人で助かった。


「けど、段々と見られるのが快感になって♡ これはこれで良いかなぁーて」

「正気に戻れぇ――――――――――っ!!」

「これも個性だと思うわよ?」

「人生を捨てる一歩手前だぞ、アンタッ!!」


 前言撤回。

 真面だったのは最初だけだった。

 既に引き返せない道を歩み始めておじゃる。


「ちなみにお婆ちゃんはパンチェディーテと言うわ」

「知らねぇ―よっ!!」


 アフロにパンチに、ニグロかよ。

 どんな三代だよ。


「曾祖母さんはボンバディーテと言ったらしいわ」

「どんたけぇ――――――――っ?!」


 何で、そんなにパーマネントが好きなんだよっ!!

 血筋って、こぇーっ!!


「大体、この店に男物の服はあるのかよ」

「大丈夫よ? この店は女性物と、男の娘物しか置いてないから」

「嫌な店だったっ!?」


 どんな店だよっ、て……何だ、この店……?

 どうしてプラグスーツがあるの? どこかの魔法少女の衣装やら、どこぞの合体ロボの衣装まで……。

 まさかとは思うが、コスプレ衣装専門店?

 オルタナティブな制服もあるし、パイロットスーツも、これはヤヴァーイ!!

 俺は逃げ道を探す……あれ? メリッサ達は何処だ?


「ご主人様、こんな下着はどうですか?」

「・・・ん・・・レン君・・・コレ・・・」

「とんでもねー下着を持って来やがりましたっ!!」


 モーリーは黒のスケスケ(女性用)。

 メリッサは、もっと危険な真ん中がパックリ開いている奴……。

 この二人は俺をどうしたいんだ? 


「何で、こんな下着が置いてあるんだ?」

「この店、偶に娼婦館に下着を降ろしてるから……ヌルヌルで透ける水着とか」

「そんな生々しい話は聞きたくも無かったっ!!」


 問題はこの二人が俺の前に持ってきた事だ。

 お前等は俺に何を求めている……。


「……駄目ですか?」

「駄目だろ、倫理的にもOUTだ。特にメリッサ……戻してきなさい」

「・・・・残念・・・・・」


 そんな捨てられた子犬みたいな目をしたって履きませんよ?

 何度こちらをチラチラ見ても、ダメな物はダメです。


「あっ♡ じゃぁ、私のは良いんですね?」

「良い訳あるかぁ―――――っ!! 戻して来い」

「解りました・・・・・・・チッ・・」


 舌打ちしやがりました。

 だから、何を求めてるんだよ。

 世界はエロにまみれている……不潔よぉ――――っ!!

 あっ、メリッサが戻って来た。


「・・・服はこれ・・・・」

「それは水着だからねぇ――――――っ!?」


 僅かな部分しか隠れない幼児用の水着でした。

 しかも女の子用、何処に需要があるのか謎の多いヤツだ。

 YESロリータ、NOタッチの精神は何処に消えたんだ?

 それ以前に俺は男っ!!


「需要がるのか? ……これ…」

「偶にマスクをつけた男性が買って行きますよ? ハアハア言いながらですけど」

「衛兵に突き出せや、そんな奴っ!!」


 変態御用達かよっ!!

 予想以上に危険な店だった……。


「ご主人様っ!! こんな衣装が有りました」

「とうとう衣装と言いやがりましたよ……つーか、それは…」


 黒い死神装束でした。

 獄煉丸を背負った俺がそれを着たら、マジで卍解しそうな感じになる。

 何で、こんな衣装があるんだ? 他のもそうだが、色々不味い衣装がてんこ盛り。


「俺に仮面をつけたゴーストと闘えというのか?」

「ファンタジーな世界だから居るかもしれませんよぉ~?」

「著作権で揉めそうだから戻してきなさい」


 何で好んで危険な代物を持って来るんだ?


「・・・・ん・・・コレは?」

「・・・・・・・・・」


 全身タイツでした。

 しかもスケスケ……何に使うの、コレ……?


「偶に夜中に全裸で歩き回っている方が買って行きますね。最近はそのタイツを着ているみたいですけど?」

「そんな不審者はさっさと取り締まれやっ!!」

「その方は女性ですけどね」

「・・・・・・・・・・・」


 見たいと思ったのは出来心です。

 男の裸なんて見たくは無いけど、性別が異なると見たいと思うのは何故なんでしょう?

 どちらも変態には変わりない筈なんですがね? 不思議です。


「碌なもんがねぇな……それ以前に見た目と時代がが一致しない服があるんだが、どゆ事?」

「メルセディア聖国から流れて来た、勇者達の世界の衣装だそうよぉ~ん♡」

「勇者……殲滅した方が良くね? 世界観をぶっ壊す積もりか?」


 やりたい放題だな、勇者。

 それを仕立てているこの店の店主夫婦もそうだけど……世も末だ。


「ご主人様、ご主人様、これなんかどうですか?」

「俺にベーゴマやリボンみたいな武器で戦えと? 人妻でもねぇ―んだけど……」

「セクシーだと思うんですけどねぇ~。こっちはどうです?」

「セーラー服の戦士かよっ!! しかも娘の方っ、何で武器がハンマー?!」


 武器まで売ってんのかよ、この店。

 最早、何でもありだな。


「此方はどうですか?」

「『美しく戦いたい』のセリフを言わせる気か? しかも妹の方かよって……何でいるの?」


 何故か女神様達が居りました。

 セアラさんと女神さまは鼻息が荒いっス。

 アーシェラさんは額に手を当てて、頭痛に耐えておられる御様子。

 気苦労が多そうですな。


「私は此方が良いですね。丁度武器もあるようですし」

「ビビットなオペレーションはしねぇ―よ」


 何でそんな物を着せたがる。

 女の子同士で合体させようとでもいうのか?

 バロムなヒーローじゃねぇ―んだぞ? 俺は男だっ!


「ん・・・・これは似合いそう・・・」

「来た・・・な○は。それは何となく着てみたい気がするけど、最早魔法は関係ないよな?」

「こっちもある・・・・」

「相棒の方もか・・・・・・剣で戦うにはいいが、衣装に問題が…ミニだし」


 砲撃で考え無しにドカーンと殺りたいよね。

 その為ならスカートだって履いてやる。

 けど、武器は只のレプリカだ……残念だけどね。


「作れば良いんじゃないですか? 主様なら作れると思いますよ?」

「!?」


 女神さま……何て事を言うんですか?

 あんな武器を作ったらラグナロクですぜ?

 年端もいかない女の子が、広域殲滅破壊魔法砲撃をぶちかますんですぜ?

 たった一人で最終兵器彼女ですぜ?

 やべ……やりてぇ……。


「ご主人様……何故に、○のはには食種が動くんですか?」

「お前……魔法少女の根底を覆した一大作品だぞ? 何となく着てみたいじゃん。殺ってみたいじゃん」

「単に広範囲破壊攻撃を使いたいだけなのでは? どちらかと言えば魔砲少女ですけど」


 それより女神さまよ、何でこの作品を知ってるんですか?


「え? 以前勇者から見せて貰って感銘を受けたのですが?」

「勇者って、そういう奴等が多いよな……」

「赤ずきんもありますね。作品は二つですが……」

「マジ○ルプリンセスの方は遠慮する……あっ、能天気な天使のヤツもある」

「どちらかと言えば、悪魔の方が似合うのではないでしょか?」

「髪を切らないといけませんが?」

「・・・・駄目・・・」


 勇者よ……どんたけコスプレ衣装を普及させたんだ?

 ここ二ヶ月で増やせるラインナップじゃねーだろ。

 スゲェー充実してやがる。


「ふふふ♡ 勇者よりアイデアを戴き、衣装の型紙から作り続けて150年。ぽっと出の衣服店とは格が違うわよ?」

「意外にも歴史の古い老舗だったっ?! パネェ!!」 

「でもねぇ~、何故かあんまり売れないのよねぇ~。普通の服は売れるんだけど……」


 それは衣装が近未来過ぎて風景と合ってねーからだろ。

 プラグスーツなんて着て歩いたらドン引きモノだぞ?

 あと、ノーマルスーツもな。


「さて、ご主人様。色々文句ばかり言ってましたが、ちゃんと試着しないといけませんよ?」

「・・・ん・・・服は着る物・・・・」

「変な下着やら水着なんか着れるかっ!!」


 試着するにも変な物しかねーだろうが。


「何事も着てみなければ判らない物です。ここはしっかりと試着してみるべきですね」

「そうです。せっかく此処には可愛い服が沢山あるのですから……ハァハァ」

「……諦めるべきだ……もう、止められない・・・・・・・」


 セアラさん? 既に臨界点に達してませんか?

 僕、こわぁーい……逃げなければ……


「「「「「覚悟っ!!」」」」」

「みゃみれぇええええええええええええええええええええええっ!!」


 助けてぇ―っ!! ド○えもぉ――――――――んっ!!


 その後、何が起きたのか、俺の記憶は何も残されてはいない。

 唯一覚えているのが、お○ゃ魔女で始まり、セ○バーさんで終わったという事だろうか。

 しかも純白の衣装でした……連中のホクホク顔が恐ろしかったとです。


 気が付けば家のリビングにいて、フリフリの衣装が入った紙袋を抱えていたとです。

 次の日、一人で自分の服を買いに行ったとばいね。

 あの時、何があったかは思い出したくもないし、封印できるなら永久に封印して於くに越した事は無いと悟りました。


 二度とあの連中と買い物に行くもんか……ぐすん…あれ? 何で涙が出て来るんだろ?

 だって、涙が出ちゃう男の娘だもん……。


 信じられるのは自分だけと知りました。



 * * * * * * * * * * * * * * * *



 メルセディア聖国の三分の一を占める広大な領土。

 そこは聖域と呼ばれる特殊な結界に阻まれていた。

 しかし、その日異変が突如として起こる事になる。


 周囲に点在する村は、その聖域を物心ついた時から眺め、其処が神の住まう土地として信仰の対象としていたのである。

 雄大な山麓は見えるが、決してそこに行く事の出来ない不可侵の土地。

 多くの冒険者が挑み続け、決してその全貌を明かす事の出来なかった未開の秘境である。

 今日も何事も無くその日が始まる、村に住む者達はそれを信じて疑わなかった。

 だが……


「何だべ、アレは……?」


 農作業をしていた男が山麓を見上げた時、そこに亀裂の様な物が見えたのだ。

 空に刻まれた亀裂は見る間に広がって行き、やがて砕け散りながら魔力の光がが破片の如く風に舞う。


 美しい光景であった。

 それ以上に不吉な前触れに思えた。

 聖域に住まう聖獣達は、一斉に羽を広げ南を目指して集団で飛び去って行く。

 陸上で生活する聖獣も同様で、群れを成して大挙で押し寄せて来たのだ。

 それは聖域の崩壊を意味していた。

 ひと際巨大な大樹は見る間に枯れて行き、山麓一帯が紅葉の如く染まって行く。


「イルモール様が……イルモール様がいなくなった……」

「聖域が消えた……神のお怒りじゃ……」


 聖域崩壊の情報は、瞬く間にメルセディア聖国に広まって行く。

 聖イルモール西方教会の聖法院に伝わり、大規模な波紋が生まれて行く事になった。



「何故だっ!! 聖域が消滅したなど、こんな馬鹿な事がッ!!」

「我等は見捨てられたというのかっ!!」

「どうすればいいのだっ!! セコンダリア帝国は、この機に乗じて攻めて来るやも知れんのだぞっ!!」


 彼らの殆どがこの教会を牛耳り、私腹を肥やして来た貴族達である。

 聖職者とは呼べぬ不信人者であり、欲に溺れた強欲な聖教者だ。

 だが、聖域の消滅は彼等の存在を脅かすに値する最悪の事態となってしまった。

 彼等はここ数週間、不毛な言い争いを続けていた。

 そこに、更なる教法が飛び込んでくることになる。


「大変な事になりましたぞ!」

「もう既に厄介な事態になっておる。これ以上何があるかっ!!」

「グラードス王国国王、フレアランス王に、イルモール神様の加護が与えられたのだぞっ!!」

「な、何だとっ?!」

「更に、グラードス国の旧イルモール教会の司祭数名にまで加護が与えられた。これでは我等の立場は悪くなる一方だ」


 メルセディア聖国とグラードス王国では、国の政策が異なる。

 人間至上主義を掲げる聖国と、共存繁栄を掲げる王国の違いだ。

 其処が意味する事は……


「我等が間違っていたという事か……それ故に見捨てられた……」

「穏健派の連中はすでに動き出し、大々的に我等の批判を始めているぞっ!」

「厄介な事が立て続けに起こりよる……」

「穏健派の連中はこの機に乗じてセコンダリアに使者を送りおったやも知れん。いや、既に送った可能性がある」

「我等を潰す良い機会だという事か……忌々しい」


 彼等は自分達の行いに対し、罪悪感と呼ぶべきものを持ち合わせていなかった。

 長い時間の中で築き上げられた風習が、彼等に歪みを悟られる事無く浸透し、蝕んでいたのである。

 最悪なのは国民全てに聖域が崩壊した事が伝わった事であろう。

 こうなると人間至上主義は害悪とみなされ、周囲の国から淘汰される事態を招く事になる。

 結果としてメルセディア聖国が二つに分断する事になるだろう。

 何よりも、穏健派は既に長い時を賭けてセコンダリア帝国と繋がりを持っていたのだ。後ろ盾がある以上戦力としては強硬派が立場が悪くなる。

 逆転劇が始まった事を知るには些か遅過ぎたのだ。


「何とか、この騒ぎを抑えねば……」

「勇者召喚は既に使えん。アレは贄が大量に必要になるが、今この時に行えば立場は悪くなる一方だ」

「勇者共も当てにはならん」

「穏健派共は奴隷の獣共を開放せよと言ってくるだろうな。何も出来なかった役立たずの分際で……」

「問題はグラードス王国じゃ……王は既に二柱の神の加護を受けておる」

「聖人となった以上、我等が敵対の意志を見せるのは不味い……」


 彼等は自分の保身しか考えず、いかに体裁を取り繕うかを思案していた。

 だが、グラードス王国に加護を与えられた聖職者がいる以上、もはや自分達に正当性が無い事は露見したも同然である。更に言えば、この国に加護を持つ存在が獣人しかいない時点で、彼等は審判の時が来ていた事を改めて知る事になった。

 自らがあがめる神から見放された以上、未来は自分達で築かなければならない。

 周りが敵だらけの状態で、である。困難なんて物ではないだろう。

 大義名分を失った以上、彼等には如何する事も出来ないのだ。


「我等は滅びる……いや、まだ手はある筈だ」

「では? この地を逃れるか?」

「馬鹿な市井の信者を使えば何とかなるであろう。狂った奴等なら幾らでもいるからな」


 人類至上主義を掲げた連中の中には、歪められた信仰を妄信する者も少なくは無い。

 いや、寧ろ多いとさえ言える。

 彼等は亜人種を殺す事に喜び、彼等の命を神に捧げてきた狂信者達である。

 特に聖都イスモルンに多く存在し、民衆の前で残虐な殺戮を行っては血の臭いに酔い痴れていた。

 彼等は強硬派寄りの存在であり、信仰の為なら死ねるほど狂っているのだ。


「奴等を良い様に使うか……それしかあるまいな」

「戦力を整え、何れは我等が返り咲いて見せる」

「じゃが、鬼神の存在も忘れてはならぬぞ? 元を正せば、奴の存在が全てを狂わせたのじゃからな」

「魔王を葬り、フレアランスに加護と聖剣を与えた神……敵対するには危険ではないか?」

「然り、フレアランスにイルモール神の加護が与えられた以上、二柱の神は既に懇意の中なのじゃろう」

「最悪、我等は神敵として討たれる事になるぞ?」

「構う事はあるまい。我等は既に神の敵なのだ。ならば、多くの者を巻き込んで散ろうではないか」


 欲望に溺れた者達は、この日、神を逆恨みし反逆の狼煙を上げる事になる。

 その矛先はやがてグラードス王国に向けられるまで、暫しの猶予があった。


 狂える者達は往生際が悪かったのである。

 実にいい迷惑であった。




 







 

 


 次はコースケ君の話を書きたいと思っています。

 その前に別の話の方も書かないと……仕事で間に合わねぇー!!

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