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 試練? いいえ、面倒だっただけです。

「聖剣を私に下さらないかしら?」

「ハァ?!」


 剣が欲しい? 俺の? 何で?

 あの剣、壊れスキル内蔵のヤバい剣だよ?

 姫さんが、何であんな物を欲しがるんだよ。


 目の前にいる姫さんは、青い髪に青い瞳、とても剣を振るいそうにない温厚そうな顔立ちなのですが、心のどこかで警鐘が鳴ってます。

 この姫さんは危険人物に違いないと……でなけりゃ剣なんて欲しがらないでしょ。

 まさかコレクター?

 そうだったらひくわー……


「何で剣なんか欲しがるんだ?」

「決まっているではありませんか。最強の騎士になりたいからですわ」

「剣の力に溺れるのがオチじゃないか? あの剣はそんな事の為に鍛えた訳じゃねぇぞ?」


 嘘です。本当は気まぐれで出来たヤバイ武器。

 他人においそれと渡せる代物じゃないんです。


「分かっている積もりですわ、聖剣を振るうには高潔で強靭な精神が求められる。あの剣に秘められた力は、不用意に他者に与えて良い訳がありませんもの」

「分かっていて欲しがるか……剣に何を求めてるんだ?」

「誇りと信念。私が一人の騎士として、多くの民を守れる誓いと証です」


 たいそれた物を求めてるねぇ~。

 それって、正義の為なら人殺しも容認するって事だよね?

 本当にそこまでの覚悟があんのかね? まだ十代でしょ? 怪しいなぁ~……。

 どうでも良いけど、お父さんは随分と遅く結婚したんですね?

 ご苦労していた御様子で……。


「アンタは、決して抜かれる事なく錆び付いた剣を見てどう思う?」

「無様ですね。剣は振るわれてこそ意味があります。錆び付いた剣に何の意味がありましょうか?」


 正論だね。

 けど……


「フレアランス王、アンタはどう思う?」

「わ、儂ですか? むぅ……最も幸福な武器であるかと存じます」

「へぇ~……何故そう思う?」

「剣は命を奪う武器、それが研ぎ澄まされ抜かれる事は命の奪い合った証となりまする。錆び付いた剣とは、すなわち決して命を奪う事無くその役目を終えた平和の証かと…」


 そう、その通り。

 磨き抜かれた剣は、いつ抜かれてもおかしくは無い。

 逆に言えば、いつでも人を殺せるという事になるだろう。


「正義だろうが、欲望の為だろうが、剣が抜かれる時は必ず命が奪われる。武器である以上はその運命さだめからは逃れられず、決して抜かれる事なく錆び付いた剣は、最も誇り高い騎士の証。それを侮辱するのは騎士としてどうなんだ? 王族が最も選んではならない答えじゃないのか?」

「確かにそうでしょう。ですが、常に磨き続けずして何が守れましょうか? 私達は多くの命を背負っているのですから、使命の為に決して錆び付かせてはならぬ筈です」

「騎士ならそうだろうね。だが、アンタは王族だろ? 王族の責務は決して戦を起こさせず、どんな汚い真似をしてでも民を守らなければならない。戦は最終的に到達する最低の政治だろ?」


 王族と騎士の責務は違う。

 騎士は民を守る盾だが、王族は民の生活を常に念頭に置いて於かねばならない。

 この姫さん、自分が王族である事が頭から抜け落ちてやがる。

 自分が守られる立場だって事を理解してんのかね?


「私は王族である事より、騎士であり続けたいと思っています。ただ守られるだけの弱い存在など願いませんっ!」

「だが、王族として生まれた以上はそれは認められんだろ? アンタが生きてきた人生で全てが民から与えられた物だろうがっ! 騎士になるという事は、その全ての責務を放棄する民への裏切りだろ? 無論、貴族連中にも同じ事が言えるけどな」


 唯の我儘じゃん。


「いざという時に戦えずして王族などとは言えませんっ! 守られるだけの籠の鳥に、獰猛な獣から逃れられますか?」

「そこまで戦いが望みなのか? 俺には薄っぺらい幻想を追い求めている様にしか見えんけど? 誇りと証を立てたいなら、人生の全てを賭けて答えを見つけ出せよ。わずか十数年程度の人生で何が語れるって言うんだ?」


 この姫さんが言っている事は正論による看破だ。

 しかし、そこに重みが無い。

 目に見える証を求めているのが何よりの証拠だろう。


「私には資格が無いと言うのですか?」

「資格以前に理想しかない。王族として悩み苦しみ、もがき足掻いて、それでも尚最良の答えを求め続けた重みがな。理想がある事は良い事だが、そのために何か功績を残したか? 先達者となる為に後世に指し示す足跡を残したか? 自分が糧となる覚悟と責務に対しての重みを理解しているのか? 今しか見えてねぇだろうがっ!」

「理想無くして未来が語れますか? 責務だけで民が守れますか? 常に最悪を想定して動くのが王族の務めでは無いのですか?」

「分かっているなら何故に剣を求める? どんなに力を秘めようと剣は剣でしかない。命を奪うだけの凶器、それだけが偽りない真実だ」


 聖剣と云う武器は確かに有効な凶器だろう。

 だが、それが剣である以上は使い手の善悪は求めてはいない。

 武器に使い手の思惑などは求めないからな。

 理想を剣に誓うのは良いけど、その理想の為に剣に死す覚悟は生半可な物じゃない。


「どうしても駄目だと仰られますか?」

「真剣に理想を追い求めるのと、全てを剣に捧げ命を懸けるのは別問題だ。覚悟とは口で語る物では無く、生き様で語るべし」

「自分の理想は行動で示せ、そういう事でございますか?」

「当たり前の責務をただ熟すだけで何が示せる? 本当に実現させたい理想があるなら、脇目を振らず満身するのが本物だろ? 剣を求める必要が何処にある?」


 民の事を本当に思うなら、目に見える証では無く、寧ろ行動を起こすだろ。

 剣を欲しがるのは証でなく、単に自分を満たすだけの願望でしかない。

 早い話、その程度の理想しかないって事の裏返しで、自分に自信が無い事の表れだろう。

 大義名分が欲しいのと変わりはない。


 気付いていますか? ただ自分に酔っているだけだって。

 言葉に重みが無く、自分の力で築き上げた物が無いって事にさ。

 姫さんが言っている事は、単なる自己満足なだけだという事だよ?


「アンタはフレアランスの爺さんとは違う。人生を懸けて積み重ねて来た物が無い軽い存在だ。その程度の理想を追い求める奴等はごまんといるさね」

「納得いきませんわ。私の何処が間違っていると言うのですかっ!」

「目に見える答えを求めている時点でだよ。命を簡単に懸けられる薄っぺらい甘い戯言をほざいている時点で間違いだ。王族とはそんな軽い存在じゃないだろ?」


 王族とは象徴だ。

 民が安心して暮らせることを示す、信頼と期待、そして願いを込められた存在。

 例えそれを望まなくとも、そこに生を受けた時点で責務の放棄は許されない。

 それが判らないのは、この姫さんが我儘なだけだ。

 簡単に命を捨てられる考えを持っている時点で、既に民衆の期待を放棄しているに他ならない。

 こんなのに何時までも絡まれるのも時間の無駄、そう思っていたんだけど……


「寝言は寝てから言うもんだ」

「なっ!? それは私に対しての侮辱ですわ!」


 やべ、つい本音が出ちゃった。

 めっちゃ怒ってますね。参ったなぁ~……

 仕方ないので荒療治をするか? いや、失敗したらどうしよう。

 けど、このままじゃ済まないし……シクったぁ~!!

 ここは流れに任せて……何で俺、こんなに苦労してんの?

 ……早く帰りたい。


「剣を抜くか? その意味を分かって剣に手を掛けたのか? 単に感情に流されての行動だな。その時点で既に資格なんてねぇよ」

「試してみますか? 私は寧ろそれを望んでいるのですが?」

「安い挑発だな」


 うわぁ~……めっちゃ嬉しそう……

 甘かったのは俺でした。

 この姫さん、想像以上にアブナイ性格の御様子……

 見た目と性格が一致してねぇーです。

 うぇーん、早く帰りたいのにぃ~! 厄介な娘に絡まれたぁ~!


「本気で命を懸けてみるか?」 

「望むところですわっ!!」


 何でこんな性格に為ったのっ?! 俺ちゃんわかんない!! 

 引くに引けないし……ここはセオリー通りで行くしか…面倒になったなぁ~。


「一撃、己が全てを一撃に込めて見せろ」


 これしかないよね……心を圧し折らないと帰れそうにないし……。

 何でこんな危ない性格の奴が王族なの? どんな教育をしたのさ、親父さん!


「武神化」


 しょうがない、相手をしてあげますか。

 あぁ……帰りたい……。

  

 

 * * * * * * * * * * * * * * * *



「一撃、己が全てを一撃に込めて見せろ」


 その一言で全てが変わった。

 今まで鬼神は決して本気では無く、自分達に合わせていただけなのだという事を痛感させられた。

 目の前で鬼神の姿は変貌し、額の銀の角が消え頭部に二本の角が現れる。

 今まで見た事の無い衣装と鎧を身に纏い、圧倒的な力の本流が嵐の如く吹き荒れた。

 アルテミスは息を吞み、自分の甘さを実感する。


 そこにあるのは絶対的な暴力と云う名の力その物。

 鬼神の言った『寝言は寝てから言うもんだ』の意味が理解できてしまった。

 闘いの神とは純粋な闘争その物であった。

 災害と同じく、人には如何する事も出来ない強大な力の猛威。

 全ての原因が、自分の甘さから招いてしまった事を理解させらてしまった。


 アルテミスは恐怖で震え、自分の体が満足に動かせない状況に陥る。

 体の全身から逃げるべきだと警鐘が鳴り響き、それ以上に恐怖で体が麻痺したかのように動かない。

 これが神の試練である事は充分に理解できていた。

 しかし、その試練が父親であるフレアランスとは全く異なる。

 彼女は命を懸ける事の意味を穿違えていた事を改めて知る事になったのだ。


 聖剣を見た時、彼女は剣の輝きに魅入られていた。

 神から与えられたと云うその物語的な状況に、強い憧れを抱いてしまったのである。

 それは同時に目を曇らせ、聖剣の輝きに只没頭して行く。

 この時に気付くべきであったのだ。父親であるフレアランスは、その生涯の全てを民の為に注ぎ続け、神に認められたと言う事実を。


 彼女は結果を見ずに、答えだけを得ようとした結果がこれである。

 剣はどれだけ美しく輝こうとも、それ自体に左程意味は無い。

 善悪の判断は使い手に委ねられ、人を守る物から殺すだけの道具にもなる。

 それを如何様に使うかは使い手の意志によって委ねられ、その行動によって結果は後からついて来るのである。

 当たり前の事を失念し、聖剣を賜るという名誉に目が眩んだため、最悪の試練を受ける羽目になったのだ。


 今の自分が如何に軽い存在であったか、知るには全てがが遅すぎた。

 目を眩ませ判断を誤り、挙句に命を懸ける事になった。

 全てが未熟であったためと言うのは簡単だが、逃れられぬ事態を招き、その愚かさを知った時には既に手遅れである。

 事前にこうなる事を予測し避けるべきであったのに、よりにもよって未熟な自分が身の程を知らず挑んでしまった。

 王族の責務を放棄したと言われて充分に納得できる馬鹿な選択である。


「あ……ぅあぁ……」


 声すら発する事ができない。

 そこに在るのは最早死でしかない。

 試練に挑むという事は、命を捧げる覚悟を見せることだ。


 だが、意思のある生物であるが故に死は恐怖でしかない。

 鬼神が背に背負った剣を振り上げる。


「どうした? 試練を受けると言ったのは自分だろ? まさか今更逃げるとか言わんよな?」


 冷徹に響く声に、体が寄りいっそう恐怖に打ち震えた。

 生まれて初めて逃げ出したいと云う気分に曝されている。

 いや、気分などと生優しい物では無い。本能が全力を挙げて逃げる事を望んでいた。

 自分の愚かさを知った所で後の祭り、これは戦争と同義であり、自分が勝てない相手に戦を仕掛けたのだと思い知らされた。

 試練とは神と人が対等に向き合うための儀式であり、そこに正しい答えは存在しない。

 相手が何を求め、同時に自分が何を伝えるのかを形を変えて示す儀式なのだ。

 

「ここまでか……」


 何の感情も無い冷徹な声で呟くと、鬼神の目には侮蔑と憐みの色が見えた気がした。

 自分を見ていない。そこに在るのは愚かな自分を嘲笑するような物すら一切存在せず、ただ路傍の石を見る様な程度の物であった。

 絶望が目の前に広がる。


「動くなよ? 其処を動けば死ぬぞ?」


 その声に体が更に委縮する。

 彼女には、その時何が起きたのか分からなかった。

 気付けば鬼神の腕は振り下ろされ、大剣が床を引き裂き突き刺さっている。


「・・・・・・・なっ!?」

「こ、これは・・・・」


 この場を固唾を呑んで見守っていた者達が事態に気付いた。

 謁見の間に天井から床に至るまで一筋の亀裂が刻まれていたのである。

 それが斬撃によるものだと知った時、想像を絶する戦慄が走った。

 誰も言葉に出来ず呆然とする中、鬼神は一振りの剣を取り出し、気楽な調子で傍を通り抜ける。

 いつの間にかアルテミスの目の前に、一振りの鞘に納められたその剣が床に突き刺さっていた。

 鞘も金属製の様だが、あまり装飾の無い味気ない物である。


「神鉄の剣なんて、今のアンタにゃ過ぎた代物だ。そいつで出直してきな」


 決して振り返らず、其の儘この広間から出て行くのを見送るしか出来なかった。

 鬼神の姿が消えた時、アルテミスはその場でへたり込み、生まれて初めて本気で泣いたのであった。

 唯一人、イルモール神だけが事態を見守り続け、僅かながらに笑みを浮かべていた。





 少し時間を先に送ろう。


 神々との謁見の後からアルテミスは修練に身が入らないようになった。

 無論日課である鍛錬は欠かさなかったが、それでも時折思い詰めては深い溜息を吐く事が多くなっている。

 城内でもその事が話題となり、一部では神の怒りを買ったのだと囁かれる程であった。


 アルテミスは鬼神から授けられた鉄の剣を持ち、ただひたすら修練に明け暮れる。

 だがその日、一人の鍛冶師が城に来る事で事態は変わり始める事になる。

 この鍛冶師はグラードス王国が懇意にしてるドワーフの鍛冶師で、武器や鎧を一手に引き受ける国内で唯一の名工として有名であった。

 

 彼の名はギレム。

 主に王族の剣や鎧を手掛ける職人であり、彼はこの日の為に仕事を全て熟し、何とか時間を作ってこの城に訪れたのだ。

 主な目的はフレアランス王の鎧を新調する事と、聖剣をこの目で確かめる事であった。

 当然ながらアルテミスの鎧も整備するために、彼女もまた同席する事になる。


 鎧の寸法や他の王族の鎧の手直し自体はスムーズに済み、彼は念願の聖剣をその手に取り、その剣の完成度に感嘆の声を上げていた。


「こいつはスゲェ……嫉妬しちまうくらいに美しい剣だ。俺が鍛えた剣じゃねぇのが腹立つが、こいつを見たら納得しちまうぜ。畜生……」

「其方にそこまで言わせるか…神の鍛えし剣とは凄まじきものよな」

「おう、こいつはヤベェ……嬢ちゃんが欲しがるのも分かるぜ」


 ギレムは王族に対しても遠慮が無い。

 それは確かな腕前を誇る職人であり、仕事の面でも決して妥協しない程の腕前を誇るからだ。

 それ故に王家からも信頼が厚く、何よりも常に本音で語るからである。


「だがな嬢ちゃん。身の程ってのは弁えろよ、神さんに喧嘩吹っ掛けてどうすんだよ」

「反省はしてるわよ。自分が如何に愚かであったのか思い知らされたわ」


 ギレムの前では家族同様に砕けた様子で話し、城内での畏まった口調で話す事は無い。

 アルテミスも彼には信頼を寄せているのだ。


「嬢ちゃんは若いからな、剣に魅入られちまったんだろうぜ。その神さんは余程の存在だな、恐らく一目で見抜いたんだろうぜ」

「私の言葉は軽いって言われたわ。まだ生まれて間もない神に……」

「それはそうだろ。言葉の重みって奴は苦難を乗り越えた者にしか分かんねぇもんだ、嬢ちゃんは体裁を取り繕っただけだろ?」

「分かってるわよぅ……笑いながら言う事無いじゃない……」


 不貞腐れるアルテミスに、ギレムは更に人の悪い笑みを浮かべる。


「ギレムよ、あまり揶揄わんでくれぬか? これでも自分の浅はかさを知り、落ち込んでおるのだから」

「王様よぅ……ちょいと甘やかしすぎなんじゃねぇか? 俺は神さんの言っている事が全面的に正しいと思うぜ?」

「そうなのじゃが、儂も流石にあんな事態になるとは思わなんだ。親として恥ずかしい限りじゃ」

「まぁ、長男よりはマシじゃねぇか。アレは馬鹿だからな」

「本当に遠慮せぬのぅ」


 本来なら不敬罪に当たる事でも、このギレムに関しては別である。

 それ程までに信頼関係を結んでいるのだ。


「で? 嬢ちゃんも剣を貰ったんだろ? どんなのだ? 見せてみろや」

「ただの鉄のショートソードよ。聖剣に比べられるほどの物じゃないわ」

「良いから見せてみな。神の鍛えた剣だぜ? 何かあるかもしれねぇだろ」

「面白がってるだけじゃない。これよ……」


 鞘に納められたショートソードをギレムに手渡す。

 破顔の笑みを浮かべたギレムは、ゆっくりと剣を鞘から引き抜いた。

 何の変哲もないただの剣である。一見そう見えていたが、ギレムはある異常な事に気付く。


「おかしい。鉄の剣にしては軽すぎる」


 その目は人の悪いドワーフでは無く、明らかに職人の物へと変わっていた。


「どういう事じゃ?」

「全てが鉄製ならこんなに軽い筈がねぇんだよ。だが、強度はあるし……妙な剣だ…」


 ギレムは指で剣を弾いて音を調べたり、角度を変えて光の加減で使われている金属を調べている。

 時折軽く振りかざし、その感触と自分の経験から製造過程を類推していた。


「こいつ……とんでもねぇ技もんだ……」

「何か分かったのか? 長く調べておったが……」

「どうもこうも……こいつにはミスリルとオリハルコンが使われている。しかも一目で見たら鉄製の剣と見分けがつかねぇ。恐ろしいまでの完成度だ」

「「なっ!?」」


 ギレムが言った事が事実であるなら、この剣は至宝とも呼べる剣に入る事になる。

 ミスリルもオリハルコンも、金属自体は左程強度は無いが、他の金属と混ぜる事により格段に強度を増す特性があった。

 だが、そうなると剣自体の輝きが異なり、一目で使われている金属が判別できるのだ。

 だが、アルテミスの剣は鉄製の剣と変わらない輝きを放ち、それでいて完璧なまでの強度と切れ味を維持している。

 正に神業とも言える剣であった。


「何で鬼神は……私にこの剣を……」

「まぁ、アレだな……。見た目に捉われず本質を見抜けって事だろ? スゲェ剣だが、考えてみればかなり人を馬鹿にしたような代物だ。何せ、使っている本人はこの剣の性質を見抜けねぇんだからな」

「確かに……神はそなたに何を伝えたいのか…。いや、もう解っておるのではないか?」

「『出直して来い』そう言っていたわ……。騎士としてで無く、王族として出直せという事?」

「だろうな。嬢ちゃんはどんなに騎士を目指しても王族としての責務があらぁな、鍛錬をするなとは言わねぇが、責任だけは忘れちゃなんねぇだろ?」


 アルテミスは自分の思い違いに改めて気づかされた。

 どれだけ騎士に焦がれても自分は王族であり、王族には王族の民に対しての責任がある。

 彼女は騎士としての自分を追い求めるあまり、王族としての自分を忘れていたのだ。

 そして鬼神はこの剣だけを残して消えたのである。


「それって……つまり……」

「見放された訳ではなかろう。常に己を見つめ、正しき道を選び走り続けろ。そう言いたかったのではないか?」

「何が正しかなんてなぁ~人其々だ。だからこそ見た目に捉われず、自分の道を見つめ進んで行けと言う教訓なんだろぜ」

「一見して鉄の剣でも、中身は別物だ。剣の意味を知り、己の責務と道を歩む若者には相応しき剣じゃな」

「くそっ! 良い仕事しやがるぜ。創作意欲が湧いちまうわ!」

「嬉しそうじゃな、ギレムよ。じゃが、鎧の発注と整備は忘れる出ないぞ?」

「わぁーってるよ! 仕事で手抜きはしねぇ、こんな物を見せられたら猶更な」


 執務室が賑やかな騒ぎ声が聞こえる中、アルテミスは只涙を流した。

 恐怖では無く、神に見守られていると云う喜びの涙を……


 この日より彼女は自信を磨くべく、より一層修練と政務に励む事になる。

 腰に帯びた一振りの剣に誓って。

 

 

 * * * * * * * * * * * * * * * *



 あぁ~、終わった。

 これでようやく帰れるわぁ~。

 しかし、何で厄介事に巻き込まれてますねぇ~……しばらくゆっくりしたい。

 アットの町まで何時間かかるかねぇ~?

 確か、王都まで半日かかると言う話だから、おいちゃんが走れば三時間くらいかな?

 街の方向? 街門前に地図がありますから簡単に分かるよ?

 一周しちゃったけどね、てへぺろ♡


 転移しても良いけど、まだ使い方が判んないんだよ。

 変な場所に転移したら大変でしょ? 石の中だったら最悪です。

 まぁ、転移した先に固形物質が在ったら対消滅で爆発が起きると思いますけど。

 質量同士の衝突だからね。転移したら物質化する前に核爆発になるよ。

 転移魔法は手軽な物じゃないと思う。

 あれ? 何のお話だっけ?


 あっ! 帰る話だっけ? 

 そう言えばお土産買い忘れたな。

 けどさ、王都の名物なんて俺知らないし、買ってる暇なんてありませんよ。

 今の僕はしがないランナーさ!


 走るぅ~、走るぅ~、俺ぇ~ちゃ~ん。流れ~る汗は掻きまぁ~せぇ~ん♪

 化け物ですね。うん、分かってる。

 3時間だろうが、24時間だろうが、休まず走れるオイラは怪物君。

 顔は変えられません、手足も伸びません。体を武器にも変えられません。

 単に物理的に強靭なだけです。


 現に騎士さんが乗って全力疾走している馬を余裕でぶち抜きました。

 あっという間に点になってます。

 加速装置は搭載してませんよ? エイ○マンと同じです。

 流れる景色が凄い事になっていますが、気にしないでください。俺は気にしません。

 あれ? 人身事故を起こしたら不味いんじゃね?

 この速度でぶつかったら肉片になんじゃね?


 ……(怖い考えになりました)


 気を取り直して走ります。

 ちょっと涙が出ましたが、気にしないでください。

 18禁のエグイ感じのスプラッタ映像が脳裏に浮かんだだけです。

 どれだけエグイか? 言えません。

 夢で魘される位キモイ映像ですよ? ご自分で想像してくださいよ。


 今どの辺? わかりません。

 道なりに走り続けているだけなので……方向合ってるよね?

 ちょっと不安になりました。

 

 あっ、街がありますね。

 けど、アットの町じゃないですのでシカトします。

 街壁を一っ跳びで飛び越えました。気分はもうク○ーソー。

 追われてませんけどね。


 あっ、オークが商人を襲ってます。

 これより武力介入いたします。獄煉刀(ゴ-ちゃん)出番ですよ。


 ―――滅っ!!


 飛○御剣流てあんな感じなのかな?

 悪・即・斬で瞬殺しました……あれ? 派閥が違くね?


 あ…盗賊発見。

 どこかの村人が襲われてる。


 ――――殺っ!!


 何でしょ? 人間を斬り殺したのに、何の感情もわきません。

 もう人じゃないんだね。記憶にないけどさ……

 やっぱりどこか変質してるんだろう、普通は罪悪感を感じると思うんだ。

 モンスターで転生スタートしたからかな? 敵と判断したら躊躇なく始末で来た。

 何か、大事な物を無くしてきた気がする。


 いくつか村と街を飛び越えて来ましたが、アットの町はまだでしょうか?

 そう言えば、屋根とかが吹き飛んでいた気がするけど、俺は音速で走っているのでしょうか?

 ブロンズの戦士ですか?

 空を飛んだら野菜の戦士になれますかね?


 また町だ。突破します……

 

 いけね、今のがアットの町でした。

 思わず通過しちまったい。

 街門? 潜りませんよ? めんどいし、何故か長蛇の列ができておりました。

 何かあったんですかね? どうでも良いので飛び越えました。


「アットの町よ、俺は帰って来た!!」


 ギルドに報告は……明日で良いよね?

 目指すは街外れの商業区画、その境目にメリッサの店があります。

 しかし、人が少ないぞ? 傍を抜けて行くのは商人の馬車だけです。

 考えてみると、寂しい場所なのではないでしょうか? 

 お隣さんは農民ですが、見た事無いですな? 一体どんな人なんでしょうか?


 ―――スットロペッチョンモッキンキ―――――ン


 偶に……こんな怪しい音が聞こえます。

 怖くて覗きに行けないと言うのが正解だ。怪しすぎる……。

 壁も木の板で覆い尽くしていますし、入り口がねぇーんだわ。

 どう考えても真っ当な住人では無いでしょう。

 吹き飛ばしていいですかね? 


 んで、帰ってきましたツェイザ道具店。

 入り口は……開いてますな。 

 

「ただいまぁ~っ」


 店のドアを潜ると、店内は薄暗い状態だった。

 奥の部屋に西日が差し込むのか、その部屋だけが異様に明るい。

 ドアに鍵をかけ、俺は奥へと足を進めると、そこには・……


 ――グォルルルルルルルルルルルルルルルッ!!

 ――キシャ―――――――――――ッ!! シュゴォオオオオオオオッ!!


 何やら獰猛な肉食獣の如き唸り声と、巨大な怪獣が熱核破壊光線を吐き出すが如き腹の虫を鳴らす、二人の欠食児童がテーブルに突っ伏しておりました。

 

「ご……ご主人様……」

「・・・・ん・・・・・・レン君・・・・・・・」


 うん、何が言いたいのか予想は着く。


「「…お腹……すいた……」」


 やっぱり……

 二人はすっかり駄目な人間になっておられました。

 如何やら手遅れだったようです。


「……自分達で食事を作ろうとは思わなかったのか?」

「・・・・・あまり・・・・美味しくないんですぅ~・・・・・」

「・・・・・ん・・・・・めんどくさい・・・・」


 あぁ……最早この二人は、立派なニートになり下がったんですね。

 生きる為には食事は重要なんですよ? 何でそれを怠るんですかね?

 特にメリッサさん……


 仕方なく俺は夕食の準備に取り掛かる。

 この日、二人の獣がお肉を暴食し続けたのでありました。

 

 余談だが、誤って鉄の剣では無く、ミスリルとオリハルコンを使った剣を城に置いて来てしまった様だ。

 見た目と名称は鉄の剣でも、威力と頑丈さは破格の一品だ。

 うっかり間違えちゃいましたよ。やべぇ……

 色々と性能面で失敗したので潰そうと思っていた奴なんだが、マジでどうしましょう?

 返せとも言えないし、世間に流れでもしたら不味いと思う。


 何であんな紛らわしい剣が出来たのか……未だに謎だ。


 

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