厄介事を引き受けてもうた
只今、穴に落ちた要救護者を救出中。
皆さん懸命にロープを渡して引き上げようとしています。
幸い埋まらなかったみたいですね。地上にいた事だけでなく、崩落した穴自体が狭かったからでしょう。
多少土で汚れたみたいですが、皆さん元気です。
ただ、ダークエルフのおぜぅさんがめっちゃ睨んで怖い。
キッてます。
めっちゃ、メンチきっておりますぜっ!
事故だよ。態とじゃないんだから、そんなに睨まないでほしいなぁ~。
そう言えば、ダークエルフってファンタジーだと、幼女かエロい体付きのキツイ感じなキャラが多いよね。
彼女は中間ですな。
そんなに、ボン、キュッ、ボンじゃないです。
カッコ可愛い系? 褐色の肌は変わらないけど、灰色の髪に赤い瞳。
幼さを残した感じの可愛らしさと、大人びた雰囲気が丁度程良く混ざっている感じですな。
ポニーテールに萌えそうです。溢れる情熱の進化です。
如何やら剣士……騎士かな? そんな感じがする。
もう一人がお姉さま系かな?
どこか頼りに為るナイスバディの、それでいて温厚そうな感じの聖女様?
金髪のウェーブの掛かったロングに青い瞳、神官服を思わせる様な衣装。エルフの神官?
ただ、怒らせると怖いタイプか、逆に精神的に脆いタイプかは判別できねぇ。
腹黒タイプだったら速攻で逃げるぜぇ。
最後の一人が、銀髪を後ろで三つ編みにした二十代前半の女性。
エルフだから年齢は知らん。
落ち着いた雰囲気と云うより、寧ろ深い知性を持ち合わせている様な感じが凄く神秘的。
金色の瞳が印象的だな。
どこかの姫……いや、女王の様な威圧感を感じるが……三人の中で一番底知れないね。
少なくとも、この三人は他の連中とは比較にならないほど強い。
気になるのは先ほど得た称号【女神を(穴に)落した神】だ。
この世界で神と言えば、俺を抜きにして一人しかいない筈。
そう、豊穣神イルモールだ。
この三人の中で誰が女神かとなると、消去法で三人目の銀髪エルフだろう。
明らかに他の二人より格が違う。
しかも、俺を見ていますよ……恐らく神眼を持ってんじゃね?
そんで、これまでの情報を推測するに、この難民達を俺の神域に引き取って欲しいて所かな?
でなきゃ、こんな場所に難民がいる筈ねぇ―わな。
自分の不始末を俺に押し付ける気ですかね?
まっ、話を聞いてみん事には何とも言えねぇな。
では行きますかね。
「ジョンさん達は帰っても良いぞ」
「おい、帰れると思うのか? もの凄く睨まれてんだけどよ?」
「帰れるさ。こいつ等が用があるのは俺だからな」
「どう言う事だよ……」
「早い話、こいつ等は神域で生活したいんだよ。けど、俺の許可が無ければ神域には入れない」
「難民……セコンダリア帝国のか?」
「多分ね。で、あの銀髪のエルフさんが俺に用があるそうだけど、ジョンさんは無関係だからね」
「下手にお前を刺激出来ない訳か……大丈夫かよ」
「大丈夫でしょ。そんな訳で向こうと話しつけて来るから」
「おっ、おいっ!!」
俺は気にせず銀髪エルフの元へ向かう。
案の定、二人のエルフが俺の前を遮ろうとする。
「とまれ、ゴブリン風情があの御方の前に行くなど……」
「眷属風情が俺を止められると? 身の程を知れよ」
「なっ!? 何故っ……」
やっぱり眷属か、おかしいと思ったんだよね。
この二人の放つ気配は一般の人達に比べて異常なまでに強い。
見た事は無いけど、多分勇者と同等レベルなんじゃね?
「人の領域に踏み込もうとして只で済むと思ってんの? それとも、それがお前等の礼儀か?」
「き、貴様……何を言って」
「まさか……闘いの神……」
「こんな子供がっ!? いや、そう言えば…生まれたばかりだと……」
「用があるのは君らの主だけ、眷属風情が口出す事じゃない。それとも……一戦やらかすのが望みか?」
「「!?」」
「自分達の不始末に俺を巻き込もうてんだ。喧嘩売っているのと同義だと思えよ、お前等の行動一つで彼等が巻き込まれるんだからな」
脅し過ぎたか?
まぁ、ここまで言えば変な行動は出来んでしょ。
さて、どう出ますかね。
「二人とも、下がりなさい」
「で、ですが……」
「ここは私と彼との対談の場。貴方たち二人が口を挿める領分ではありません」
「わ、わかりました……」
「えっ?! 彼って……男の子っ?!」
「人が気にしてる事を大声で言わんで欲しいんだけど……まぁ、いいさ。通らせてもらうよ」
失礼しちゃうわぁ~。
確かに見た目はこんなだけど、れっきとした男だい。
「あの……」
何か、金髪エルフさんが声を掛けて来ましたよ?
これは、もしかしてフラグ発生ですかね?
「なに?」
「あの……スカートを履く気はありませんか?」
「ねぇーよっ!! つーか、アンタもそっちの趣味かよっ!!」
ですよねー……そんなにすぐにフラグは立たないよな。
「えぇっ!? そ、そんな……それは世界の損失です。こんな芸術を、冒涜するうような事を言うなんて……信じられませんっ!!」
「豪い食いつくなっ!? んな事より、嫌がる相手に女装させて何が芸術かっ!!」
「似合う相手に、似合う衣装を着せてこその芸術ですっ!! そこに性別の差など些細な問題ですっ!!」
「それは芸術じゃねぇ! ただの病気だぁっ!!」
前の印象を撤回する。
ただの腐った人でした……見た目が美人なだけにスンゲェー残念。
「アンタの相方、いつもこうなのか?」
「いや……こんな感情的なセアラ、初めて見た……だが…」
「何だよ」
「スカート……似合うと思うぞ?」
「わかってんだよ、そんな事っ!! だから嫌がってんじゃねぇ―かっ!!」
駄目だ、こいつ等……脳みそがピンクどころか、変な色に染まってやがる。
「そうです。人が強く拒絶している事を無理に押し付けても、無用の争いを生むだけですよ」
「「イネアレーゼ様……」」
「ただ似合うだけで女装さえるなど邪道の極みです。ありのままに愛らしさを愛でてこそ真の芸術、愛くるしい殿方を陰で見守り、時に状況を見計らって女装させるのが良いのです」
「「なるほどっ、悟りが開けましたっ!」」
「変な悟りを開くなぁ――――っ!! 人はそれを、ストーカーと言うんじゃぁ!!」
却って悪質になってんじゃん。
メリッサやモーリーと同類じゃんかよ。
どいつもこいつも、何で人を女装させようとするんだっ!!
「それだけ貴方が愛らしいと云う事です。その可愛らしさが周りを問答無用にその道へと引きずり込むのですよ? 気付いている筈です。貴方の周りの人達が変な方向に道を踏み外している事に」
「俺の所為?! マジで俺の所為なのっ!? 泣いて良いよな? 本気で泣いても良いよなっ!?」
「泣いた所で私達にはご褒美なだけです……寧ろ見てみたいですね」
「世界はドドメ色に染まっていたっ!! 俺に逃げ場がねぇ――――っ!!」
あぁ……PCゲームの男の娘達は、こんな苦しみを味わっていたんだね。
気付いてあげられなくてゴメン……、わが身になって初めて理解できたよ……。
いや待て、最後にヒロインとH出来るだけ向こうがマシか……やるせねぇ…。
「所で……話を進めたいのですが?」
「アンタ等が脱線したんだろぉ――――――っ!! それと、どっちの話を進めたいんだよっ!!」
男の娘の方だと言ったら即戦争だ。
なんか、凄く注目されちまってんじゃん。
どーすんだよ。この居た堪れない空気をよ……。
「えーと……イルモールさんで良いのか? 状況からして、俺にこの難民を預かれって事だよな?」
「!? 行き成り正体を明かす様な事を言うのは意趣返しですか? 闘いの神よ……」
「何か、めんどくさくなって来てな。帰ろうかとも思ってるんだが……」
「少し弄り過ぎましたか……意外に繊細な方ですね」
「嘘つけ、割と本気だったくせに」
「・・・・・・・・・そんな事はありません」
「今の間はなんだよ……そして、何故に顔を背ける?」
この人、基本的に駄目な人なんじゃね?
困った人を助ける積もりが、いつの間にか調子づかせて暴走、更に異種族弾圧にまで発展したんだぞ。
それをくい止めようと加護を消し去ったら、今度は嫉妬して弾圧がエスカレート。
更に修正しようとして聖域の機能を停止させたら、暴走が極端に悪化したんじゃないか?
そんで、どうにか多くの人達を救出しようと動いたら、今度は難民の数が増え過ぎて手に負えなくなったんだろう。で、都合よく神域が出来たから、交渉して難民キャンプを作るためにここまで来たと。
完全い俺が巻き添え食う事になるじゃん。
「おおよその事情はそれで合っています」
「あれ? 俺、口に出してた?」
「えぇ……それはもう、ハッキリと」
「じゃあ、遠慮はいらねぇな。加護を与え過ぎだ、その結果増長したんだろ。眷属には何をさせてたんだ?」
「主に救助の為に動いて貰っています。メルセディア聖国は、最早破滅するしかない状況に至りました。彼等の行動の根幹には私の浅はかさがあります」
「人間の欲望を嘗め過ぎだね。目に見える形で神の祝福があれば、その加護を受けた者は二つの道しか行動しない。一つは敬虔な信者として信仰し続ける、もう一つは欲に溺れ他者を弾圧する」
「結果的にそうなりました。だからこそ、この悲劇を終わらせたいのです」
「何で自ら表に出ないんだよ。他人の力を当てにしてまで自分の体裁を守りたいのか?」
奴等の暴走をくい止めるなら、自ら先陣に立ち行動した方が早い。
自分を信奉する連中なら、加護が無いだけで存在の信憑性を著しく損なうからな。
亜人種に加護持ちが大頭すれば、それだけで優位性が変わるだろう。
その上で暴走の危険性を考えれば、意に反した者は加護を取り消すと言って於けばいい。
実際にそれをやったんだから、出来ない訳じゃない。
それが出来ない理由……。
「亜人種側にも背教者が出るのを恐れているのか? だから表にです自然消滅を誘発させた」
「……その通りです。現に亜人種側にもそうした動きがあり、私の意思を無視して行動する者達も出始めています」
「んなもん、加護を取り消せば……、あー…加護を与えた奴を傀儡にしてんのかぁ~」
「良くお分かりですね。加護を与えた者達は純粋ですが、その周りの者達が勝手に私の神託を改ざんして行動しているのです」
「始末しちゃえば? 俺は基本的に『狼は生きろ、豚は死ね』がモットーだから。腐った連中は害虫として駆除しちまえばいいじゃん」
「それは些か乱暴では……」
「一時的に血は流れるが、未来を考えるとその方が手っ取り早い。死ぬ人数が減らせるからな」
エルフベースの神だと、考え方がかなりゆっくりなのかね? それとも俺が刹那的なのか?
どちらにしても血が流れる事に変わりないなら、代弁者を用意する方が良いんじゃね? その代弁者に自分の考えを伝え実行に移させる。
多少の欲望に染まるのは良いが、欲に溺れるのは不味いだろうし、確実に信頼できる人物を選定するシステムが必要なんだよなぁ~。
けど、この人はそれをしなかった。
要するに目に付く者をに手手当たり次第に救助の手を差し伸べ、気が付いたらそいつらが暴走していたんで焦ったんだろう。
しかも手を打ってみた作戦は全て逆効果、馬鹿が多すぎたんだな。
いや、気づけばそこに馬鹿がいたか?
宗教なんてのは所詮は血が流れるんだよ。どんなに立派な事を言っても中に過大講釈や教義を利用しようとするクズが現れれば、周りの迷惑を顧みず敵対者を始末し、何の計画性も無い自分の欲望の為に暴走を始める。
面倒なのはその馬鹿が死んだ後も、そいつの所為で広まった誤った教えが、更なる血を流す事に繋がる事だろう。某宗教圏内がこうした馬鹿が蔓延する温床になってる。
俺が神だったら間違いなく殲滅するね。自分達が正しいと言うのは傲慢な考えであり、宗教の大半が過去の権力者の都合の良い理屈に書き換えられているかもしれないと、何故疑わないのかね?
どの道そいつ等には国なんて作れないし、暴れるだけ暴れた所でまた同じことの繰り返し。
要するに宗教を笠に着た為政者になりたいだけなんだろうね。どうせ長く続かないけど……
独裁者になりたいなら、神なんか頼らず自分で動けって言いたい。
神なんてものは何もしてくれないんだからさ、現実を見ろ。
まぁ、この人は自分で動いてる分マシかな。
なんせ、自分の行動の結果生まれた宗教だし、それに関して責任を持ってる。
「未来の為に、今大勢の血を流せと言うのですか?」
「どの道そうなるだろ。大体この手の話には強硬派と穏健派が存在する物だし、強硬派が失敗すれば穏健派が彼等を処罰するだろ? いずれにしても血が流れるんだよ」
「例えそうでも、流れる血は少ない事に越した事は無いのでは?」
「それには同感だ。けど、現実は馬鹿が暴走してるし、まともな奴等は馬鹿を抑える事が出来ない。少しでもバランスを崩せば内乱に発展する。結果的には血が流れるな」
「それを防ぎたいのですが……無理なのでしょうか……」
無理だね。
既にそんな状況は逸したし、確実に何処かで戦争になる。
外に敵を作るか、内なる敵と戦うかの違いだけど、他に被害を最小限に抑える方法は……あっ……
「一つだけ方法はあるぞ? ただ、馬鹿が暴走すれば戦争になるけどな。そこまで責任は持てねぇよ?」
「その様な方法があるのですか? 一体どのような……」
「俺が加護を与えた王がいるんだが、その王にあんたも加護を与える」
「そ、そんな事をしたら獣人達の国、セコンダリア帝国が彼等の国を敵にするかもしれません」
「だから、信託で『意に背けば加護を取り消す』と予め言って於けよ。先に言って於けば大義名分が立つからな」
「成程……セコンダリアも、メルセディアの二の舞にはなりたくないという事ですか」
「しかも、グラードス王国は二柱の神の加護を受けた王が誕生する事になる。ついでにそこの神殿にも加護持ちを置いたとしたらどうなる?」
グラードス王国が神の加護を受けた国となり、他の国は手出しできなくなる。
幸いグラードス王国は獣人を受け入れている国だから大義が立つ上に、小国だから迂闊に戦争は仕掛けられない。序でに聖人は二柱の神の加護を受けた者と明言しておけば、勝手に聖人や聖女を量産されなくて済むだろう。
メルセディアは面目丸つぶれ、セコンダリアは馬鹿な連中を抑えられる。
何せ、人間と亜人種が共存している国だからな。
「正に軍神ですね。その様な策を直ぐに思いつくとは、見た目の可愛らしさにすっかりと騙されました」
いえ、ただの丸投げです。
「他にも次元神とか魔導神とか、色んな役職があるぞ? 良く解らんし、必要ないから使ってねぇけど……それと、見た目の事は言わねぇでくんない?」
「……残念です。所で、彼等の処遇なのですが、神域に一時的に住まわせる事ができませんか? 対価として私からある物を進呈いたします」
「別に良いけど、俺の眷属達と揉め事は起こすなよ? やったら叩き出すからな?」
「それで構いません。彼等は安住の地が必要だったものですから」
「と言っても、俺、神域の状況を見てねぇーんだよね。魔物がいないとも限らんし、場所は牛鬼達の村でいいか……」
無駄に広い平原だし、他の連中も基本的に争いは好まないから大丈夫かな?
ただ、ここの連中がどう行動するかによって状況は変わるだろう。
まぁ、食料には困らんな。
何せ米が無尽蔵に繁殖してるし、アレが雑草だなんて何かの間違いであって欲しい。
マジで美味い米なんだよ。
「生きる為の戦いなら認めるけど、他者を蔑ろにする様な一方的な戦いは認めんぞ? 後、臨時の難民居留地だからな? ある程度安定したら自分達で住む場所を探せよ?」
「それは、一時的に神域に住む事は認めるけど、何れは自分達の住む場所を外に作れという事ですか?」
「当然。神域に住みついたら、それ自体が増長を招くだろ? 余計な火種は要らないと思うけどな」
「ですが、今の彼等にそこまでの余裕はありませんよ?」
「何も、直ぐに行動に移せとは言わんよ。ある程度安定するまでは認めるさ。神域の出入り許可は一代限りにしておくし」
「生まれて来た子供達はどうするのです? その子達にとって神域は故郷になるのではないでしょうか?」
「それをどうにかするのは親の責任、そこまでは面倒は見切れんさ。俺は一時的に長い期間、逃げ場所を与えるだけだ」
甘えは許さんよ?
働かざる者、食うべからず。
安息の場が欲しければ自分達で作り、守れって事だし。
生態系が崩れる可能性もあるから、さほど多くは受け入れられないしね。
「厳しい条件ですね」
「楽に生きれると思うのかよ。生きる事は闘いの連続だぞ? 逃げられるものか」
「それで良いでしょう。生活が安定したら、どこかに村でも作りましょう」
「若しくは、フレアランス王に交渉して土地を借りるとか? まぁ、それは俺の役割じゃねぇな」
「分かっています。交渉は私が行うのですね?」
「当然だろ? 俺は巻き込まれるんだからな。攻めてきたら容赦はしないけどね」
交渉成立かな?
難民の受け入れは他国が問題視する懸案事項の一つだな。
数が増えればそれを補う金が必要となる。そんな状況が続けば国の経済を著しく圧迫し、最後は強制送還されるんだ。
俺は国を作る積もりは無いが、だからと言って難民を甘やかす積もりも無い。
違う文化と触れ合えば、眷属達の良い刺激になるかもしれないし、難民達も自分達の手で何とかしなければ放り出されるから真剣に取り組むだろう。
俺の神域は天国じゃないんだよ。
そもそも人の手が入った場所に楽園は無いと思う。
「んじゃ、ここにいる連中に通行許可を出すぞ?」
『神域の支配者スキル発動。『神域滞在許可書』が亜人種達に与えられます。ただし対応するのは当人のみと限定、今後生まれて来る血族には受け継がれません。尚、この許可は彼等が死ぬまで有効とします』
なんか、な○んなよの免許書みたい。
つまり、これから生まれて来る子供達は、今難民である彼等が頑張らないと路頭に迷う事になるんだよね。この人達の行動如何によっては子孫が不法滞在者となるから、後になって追い出される事になり兼ねない。
「出稼ぎの為の転移魔方陣があった方が良いか? だが、今の時点で転移は一日一回だけだし……」
「私の聖域の龍脈を、こちらに流せば充分に対応できるのではないでしょうか?」
「んな事したら、聖域が一気に消滅すんじゃないの?」
「あの地はもう消えた方が良いでしょう。ただ、そこに住んでいる聖獣達が行き場を無くしてしまいますが……」
「ハイハイ、ここまで辿り着けたら受け入れろね? 別に良いけど」
「ついでに厚かましく御思いでしょうが、私達も受け入れて貰えないでしょうか? 恥ずかしい話が……住む場所が無いのです……」
ホームレス・ゴッテス!? 駄目な人だっ!!
分かったぞっ!! この人は何かを考えているようで、実は行き当たりばったりなんだ。
しかも、何でも出来る分危機感が全く無く、その為先の事はあまり深く考えない性格なんだっ!!
今までその場凌ぎで行動し続けてきた結果、今の現状を生み出してしまったんだぞ、きっと。
見た目は優秀そうでも、内面は凄く考え無しだ。
「宿に泊まれば? 金はモンスターを倒せば手に入るでしょ?」
「そろそろ何処かに腰を落ち着けたいのです。ですが、聖域が消える以上、住む場所が……」
「家を買えば? 楽に稼げるでしょ?」
「私達が家を買って住むと、何故かご近所の殿方が押し寄せるのです……今まで同じ事が何度も繰り返されて、正直に言えば街では住みたくないのですよ」
「下心満載でんな……。仕事はしないのかよ? 何もしないでいると増々駄目な奴になって行くぞ?」
「何度も仕事をしては、そのたびに職場の上司に襲われて……。返り討ちにしたら辞めさせられました」
「命知らずだな。つーか、セクハラ受けてたのかよ……襲い易く見えるのかね?」
運がもの凄く悪いのかね?
後ろの二人も頭を抱えています。
目が合ったら視線を逸らしました。何かありそう……
「もしかして、勘違いさせるような行動をしたんじゃね?」
「例えば、どのようなものですか?」
「毎日上司が疲れてる時に差し入れしたりお茶を出したり、仕事を時折手伝ったり、プライベートでも偶に一緒に出掛けたり、時には弁当を差し入れたりと色々」
「・・・・・・・・・・・・」
「やったんだな。しかも良かれと思った行動が、男の気を引く行動に繋がっていると知らずに、しかも無自覚でズカズカと人の心に踏み込んだくせに、実は全く気にもしてませんと言われたら……同情の余地は無いな」
この人……ものすげぇー、危機感が足りないんじゃないか?
人が良いと言えばそれまでだが、行動が純粋なだけに悪質だ。
本人はただのおせっかいでも、男から見たら自分に気があるんじゃないかって思うぞ?
善意で無防備に相手に接しているから始末に悪い。
どんたけ男を泣かせたんだよ……
「あっ? 【無自覚男殺し】の称号が……まさか……」
「少しは自分の行動を顧みろよ……泣かされた男が不憫だろ」
あ、後ろの二人がめっちゃ頷いております。
この人、俺とは別の方向で厄介なんじゃね?
全ては善意から出た行動でも、結果を見たら最悪な破滅に繋がって行く。
先の事なんて一切考えていないから、結果的に勘違いを誘発させ、気づけば最悪の事態に発展してたんだ。
メルセディアの暴走も、こうした行動が発端なんだろうなぁ~……。
神に振り回されてると知ったら、信者達はどんな顔をするだろう。
「まぁ、どうでも良いか……案内するからついて来てくれ」
「今からですか?」
「面倒事はさっさとケリを付ける性格なんだよ。厄介な荷物を背負わせやがって……無責任だと思わね?」
「ですが、同じ神の立場ですし、少しくらいは請け負ってくれても……」
「甘えるなっ! 他力本願は嫌いでね、戦わない奴は死ねばいいと思ってる。無自覚善意なんてしてたから、今の状況を招いた発端になったんじゃねーかっ!!」
世の中は善意だけでは動いていねーんだよ。
それだけで救われるなら、地球で戦争は消えてるよ。
どんな人生だったか記憶にないけど……。
あー、今日は帰れそうにもねーな。
* * * * * * * * * * * * * * * *
はいっ、そんな訳で面倒事を押し付けられたレン君は、牛さんの村に来ております。
本当なら今頃家に帰り着き、メリッサ達とアースドラゴンのお肉で焼き肉パーティーで来たのに、片道5時間をかけて歩き続け、何とか村に辿り着いたとですばい。
普段転移して来たので知りませんでしたが、この神域も魔物がいます。
幸い食べられそうなデカい鹿の魔物と、巨大な猪でしたので楽に倒して今後の食糧にしたとです。
何故か亜人種の皆さん脅えていましたが、そんなに強い魔物でも無かったぞ?
脱線しましたが、先ほど長老達にも説明して協力を仰ぎ、快く引き受けてくれたのが幸いだ。
この間神域が出来た時に刈り取った筈の雑草が繁殖し、おかげで米が大量に余っているそうだ。食料に関しては大丈夫そうだね。
因みに交渉したのは、俺と牛鬼の長老、駄女神とウォルフェンさんと云う狼ん獣人だ。
他の白黒エルフ二人は難民達の護衛についている。
後は野菜とか肉だけど、神域内の森は彼等には危険そうだね。
この平原だって油断できる環境では無いだろうし、他の魔物が出没して襲われる可能性も否定できん。
彼等の住む場所はイルモールさんが周囲を土壁で覆い、防壁を築いたたようです。
けど、建物はそう簡単には出来ませんよ?
「物資の不足が問題ですね」
「ん~……いっそ、彼等の支援もグラードス王国に一任しようか? 俺を含め、加護持ち20人くらい増やせば……いや、オリハルコンもあげちゃおう」
「それでも、小国である限り支援には限界があるでしょう」
「転移門を臨時的に繋げて、出稼ぎに行かせれば? 亜人種って基本的に人間よりも体力があるんだろ?」
「やる事が多すぎて、何処から手を付けて行けば良いのでしょうか?」
「取り敢えず王様と話せや……」
これ以上、駄目な人と関わるのはいかんでしょう。
後始末まで押し付けられそうな気が、めっちゃします。
「レン様、食料の方は何とかできますが、肉などの食糧は此方ではさすがに無理ですぞ?」
「そこは連中に狩りに行かせよう。大規模な難民だから共同生活は当然覚悟の上だろうし、互いに協力させないと、今度は内部分裂になり兼ねんよ?」
「それは不味い。ただでさえ長旅で疲労していると云うのに、仲間割れは避けたい事態だぞ!」
「神域は私の聖域と異なり、何の調整もなされていないのですね? 魔物の強さが極端すぎます」
「そう? 結構楽に倒せるけど?」
そんなに強い魔物がいましたかね。
鹿も猪も簡単だったぞ?
分けてあげましたけどね。
「ここの魔物は恐ろしく強力です。外の世界の魔物よりはるかに強いのですよ?」
「マジ? 冗談でしょ?」
「ブラッディエルクはランク5、ヘルスタンピードはランク6の魔物だ。とてもソロで倒せる魔物では無い」
「儂等も以前より強くなっておりますが、未だ単独で倒した事はありませぬぞ?」
この世界のパンピーは平均ランクが1~2、冒険者でも最大が4。
レベルの差で強さも変わるけど、この辺りの魔物は凄く強い事になる。
わっはぁー! 俺ってば非常識っ☆
神域は楽園でなく、修羅の生き残りを賭けた地獄でした。
つーか、長老は御高齢なのに狩りをしてんですか?
「若い者達には負けてられませんからのぅ、最近はグランドバイパーを倒しましたぞい」
ランク5の超大型の蛇ですな。
まぁ、見た目はどこかの道場にいそうな達人風だが、そこまで強かったとは……。
牛さんの長老……侮りがたし。
「どうすべ……難民達は魔物の餌にしかならねぇぞ?」
「……明日にでもグラードス国王にお会いするしかないでしょう。早めに決断せねば彼等が死んでしまいます」
村の周囲って比較的安全な領域な筈……けど、平均ランク4の魔物が出没する。
命懸けのサバイバル生活になりますな。ヤベェ……
もう少し考えて引き受ければよかった。
せめて、死人が出ない事を祈ろう。
難民の皆さま、ごめんなさい。