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 女神を落してしまいました。物理的に……

 洞窟探検三日目、現在コボルト・ボックル……いや、元を付けた方が良いのか?

 まぁ、折角なので小狼族の村としておきましょう。

 この村で三日目の朝を迎えました。


 どうでも良いですが、彼等の衣服は僅かな布切れだけを体に巻き、見えてはいけない危険な部分がモロに見えそうで、自分的にはハラハラします。

 変態紳士には大喜びで暴走しそうな光景が目の前に広がっており、これは別の場所から規制が来るんじゃないかと実に悩ましい状況なのだ。

 彼等には殆ど衣服と云う文化が今一浸透していないみたいで、ユージ君だけがその光景で右往左往しているのが見られます。

 きっと、俺と同じように頭を痛めているに違いないだろうと思うが、衣服の文化はきっと必要に応じて生まれて来ると思いますので、慌てずゆっくりと広めて行けば良いんじゃないかと思う。

 

 まぁ、この文化を広めるのはユージ君に任せ、今日はこの洞窟内から帰還するべく、装備を整えている次第だ。

 転移魔方陣を使えば俺だけは帰れますよ?

 ですがね、この転移魔方陣の事はまだ知られる訳にはいかない。

 また、普通に坑道内を通るとしても、ジョンさん達は神域結界の影響でどこへ行ってしまうのか判断できないのですよ。

 実際、ただ真っ直ぐ進むだけなのに、本人達は方向転換したり、同じ場所で無意味に回り始めてたからなぁ~。きっと今回も同じ事を繰り返す事だろうと思う。

 無事にアットの町に帰れるのですかね?

 

「準備は整いましたか?」

「あぁ……だが、また神域の結界内を通るのだろ? 大丈夫か?」


 心配なのは分かるけどね、だからと言って転移魔方陣を使わせる訳にはいかんのよ。

 家に繋がっていると分かったら色々面倒な事になるし、何より冒険者が大挙として押し寄せそうな気がする。

 神域内は後でじっくりと調べる積もりだが、今はまだ調整段階なんです。

 余人に侵入されたらめんどくさい事になるだろう。


「大丈夫だと思うぞ。どうも出口は結界の先端スレスレみたいだし、出て行く分には何の効果も発揮しないと思いたい」

「確証は無いのか。少し厄介だな」

「思い切って進むしかないだろう。俺達にはそれしか道が無い」

「モフモフが……アタシのモフモフ王国が……」


 まだ言ってんスか、ネリーさん……。

 アンタ、めっちゃ嫌われてますぜ?

 当人の許しも無くモフったらいけませんよ? それは犯罪です。


「いい加減に諦めろよ。コボルト・ボックルから見たら、お前のしている事は迷惑そのものだぞ? ましてや、絶滅にまで追い込まれた弱い種族だったんだからよ」

「だからって……モフモフを奪う事ないじゃないっ!!」

「進化の先がどんなモノかなんて俺に解る訳ねぇ―じゃん。あの姿に変わったという事は、よっぽどモフられるのが嫌だったんじゃね? 進化は環境に応じて変化するものだからな」

「うわぁ――――――――――――――んっ!!」


 ネリーさん、号泣す。

 そんなにモフモフが好きなのですか?

 ですがね。彼等は最早この世界で滅びるしかなかった種族なんですよ?

 貴女のような人達に乱獲されてね。

 知ってますか?


「友好的な種族に、いきなりモフモフをかまして追い出された事もあったからなぁ~。偶には良い薬だろ」

「あの時は辛かった……一週間、森を彷徨い続けたからな……」

「ば、バーサーク・モフラー……」


 ネリーさん……アンタ、趣味で仲間を窮地に陥れたんだね。

 これは病気だ。手の施しようが無い……


「レン、もう帰るのかい?」

「ユージ? あぁ、欲しい物は採掘出来たんでな。家に帰らないと腹を空かせた駄目な子達がいるし」

「えぇっ!?、そんな奴等を置いてきたのっ? 飢え死にしてんじゃないの?」

「料理スキルがあるから大丈夫じゃね? 少しは自立してくんねぇと……」


 いつまでも甘え続けられては困ります。

 躾けには厳しいですよ?


「この集落も少しはマシになるかなぁ~?」

「他の眷属と交流すれば、少しは住み心地が良くなるだろ。どうでも良いが……」

「な、何だよ……」

「何故にふんどし?」


 ユージ君はふんどし一丁で、その上から出来の悪い防具を身に着けています。

 何というか、変態にしか見えねぇ……

 変な趣味は無いよね? 新たに目覚めたって事は無いよね?


「着る物が無いんだから仕方ないだろ! 昨日までは自前の毛皮があったんだから……」

「そう言えば……。機織りできる奴等は居るのか?」

「いるけどさ、素材が足ないんだよ。弱い魔物でも、僕達には驚異だったから」

「糸ならクロウラー手始めだろ? 倒せないのか?」

「倒せるけど、僕達は十人がかりで一匹倒すのがやっとだったんだよ」


 コボルト・ボックルは何処まで弱い種族だったのだろうか?

 クロウラーは子供でも倒せるような弱い魔物だぞ。

 弱いにも程があるだろ。


「この辺りのクロウラーは、コットンクロウラーなんだ。ランク2の魔物なんだよ」

「あー……ランク1じゃ荷が重いな」


 コボルト・ボックルのランクは1。

 コットンクロウラーとの戦力を考えても、攻撃力だけでも大きな開きが出来るだろう。

 コボルト・ボックルの攻撃力が最高で25だとしても、コットンクロウラーは攻撃力が90はありそうだ。

 そこに防御力などを加えても、かなり勝つのが困難だな。

 何しろ弱い魔物は群れを成す傾向が強い。

 コットンクロウラーを一匹倒すだけでも苦戦するだろう。


「だが、今なら殺れる。これからレベルを上げて、進化して強くなる!」

「回復役はいるのか? 戦闘職ばかりじゃキツイぞ?」

「何人かいるから大丈夫。しばらくは地上で修行だ、燃えて来たぁ~っ!!」


 ハジケてますなぁ~……。

 でもね。死んだらそれまでですよ? 慎重にね?


「この世界は命の値段が安い。信じられるのは仲間と、同じ眷属だと思っていた方が良いぞ?」

「弱小貧弱種族から人並みになったんだ。無茶はしないよ、地道にレベルアップして強くなって見せるよ」

「慎重にな。ただでさえ弱肉強食の世界だからな? 弱い魔物の相手が、いきなり強い魔物が乱入なんて良くあるし」

「ゲーム感覚は捨てろって事? まぁ、それは充分に弁えているけど」

「なら大丈夫だな。ラノベみたいに調子に乗って、手痛い洗礼を受けて、取り返しのつかない事態になるなんて事もある」

「どこかの勇者召喚で、高スペックなのを良い事に調子に乗って、剰えダンジョンで強力なフロアボスを相手にする事になり、最終的に仲間を見捨てて自分だけ逃げるみたいな?」

「そう、それ。実際に起こり得るんだよ、俺は魔王クラスを相手にしたぞ?」

「マジでっ!? こわっ……この世界、超こわっ!!」


 だから言ったでしょ? 弱肉強食だって。

 何か、魔王クラスも結構な数いるみたいだし。

 放浪しながら手近な国を襲撃している魔王も居るみたいだ。

 何が起こるか分かったものじゃない。


「暫くは神域周辺でレベル上げした方が良いな。いざと為れば神域に逃げればいいけど、装備は念入りにな?」

「そうする。僕はまだ死にたくないし」

「今よりも強くなったら武器をあげよう。神レベルの武器だぜ?」

「マジでっ?! 気合い入れて強くなるぞっ!!」

「慎重にな。モン○ンみたいな世界だからな? ……基本はRPGだけど」


 うん、やる気があって良い事だね。

 頑張って強くなって、俺の武器の実験……もとい、最強武器の使い手になってくれ。

 それまで俺も研究しておくから。


「レン殿っ! もう、お帰りになられるのですか?! みずくさいでは無いですか、一言御声を掛けてくれれば宜しいのに」

「長老……昨日の事とは言え、随分変わったな……」

「全く……」


 昨日までは長い髭を生やしたコボルト・ボックルだったのに、今では銀河美少年……いや、星の王子さま?

 まぁ、ふんどし姿でなければの話なんだけどね。

 メリッサと同年代の美少年の姿なんだよねぇ~、……これ以上老化はしない様だけど。


「そんな事はどうでも良いっ! 返しきれないほどの御恩があると言うのに、何も出来ぬ自分がもどかしくてのぅ」

「来ようと思えばいつでも来れるし、気にするなよ」

「しかし……」

「温泉があるからな、またここに来るさ」

「わかりました。その日が来るまで、少しでもこの村を発展させるとお約束いたします」

「気長にな? 焦った所で碌な事にならないからな?」


 そう、先ずはこの半裸状態を何とかしてください。

 変態紳士の聖域なんて要りませんよ? 半裸の女の子が歩きまわってるのは正直ヤバいですから。

 まぁ、見た目が子供でも成人している方々なんですけどね。

 ただ、すげぇ危険地帯と化してます。


「まずは服を何とかしないとなぁ~……」


 ユージ君、分かっていらっしゃる。


「別に、このままでも良いのではないかのぅ?」


 長老……その考えを捨ててください。

 今の貴方方はコボルトボックルでは無いんだぞ? ……あれ?

 もしかしてだけど、俺ってコボルトボックルを絶滅させたんじゃね? 

 モフモフ弱小種族を結果的に滅ぼした事になってませんかね?


「そう言えば、僕のスキルに新しく【獣化】てのがあるんだけど、これって……」

「ネリーさんの前で獣化はするなよ? ハグモフされる事になる……」

「やっぱり、その系統の能力かっ!? 怖い、モフラー怖いっ!」


 =====================


【獣化】

 獣型の魔物や半獣型の魔物が、完全人型と化した時に得られる能力。

 獣の姿に変える事ができ、能力も飛躍的に上げる事ができる。

 半面、体力や魔力の消費が激しく、長期の戦闘には向いていない。

 危機的状況化で使える切り札。


『ハグモフの危機は去っていません。十分にご注意ください』


 =====================


 念のため確認した所、ほらね? やっぱりこういう能力でした。

 バーサーク・モフラーの危機はいまだ健在なのです。


 長老とユージ君は青褪めております。

 気持ちは解かる。強く生きてくれ……あれ? 涙が……


「こ、この事は御内密に……」

「言える訳ねぇ―でしょ……また悲劇が繰り返される……」

「恐ろしい……モフラー…怖い……」


 モフリストの暗黒面に落ちた彼女には、バーサーク・モフラーの称号が相応しい。


「あれ? 称号が増えてる……て、〝バーサーク・モフラー〟!?」

「「「ぴったりの称号じゃねーかっ!!」」」


 やべっ、またやっちまった。

 つーか、【称号付与】て俺の意思関わらず、思った称号を勝手に与えてしまう様だ。

 ばれたら俺が責められるじゃん。

 何て融通の利かない能力スキルなんでしょ。


「所で、外に出るにはどの穴を行けばいいんだ? これだけ穴だらけだと、さっぱり分からん」

「一番奥の少し大きめな坑道ですな。ほぼ一直線ですから迷う事は無いでしょう」

「だが、地中はこれで油断が出来ねぇ。グランドモールの所為でだいぶ坑道の形が変わってたからな」


 ただ真っ直ぐな坑道でも、大型の地中生物によって道が塞がれる事もある。

 また、別の行動と繋げられて迷う事もあった。

 現にジョンさん達が迷子になってたし、正直信用できないのがこの世界なんだよなぁ~。


「神域の結界範囲は大丈夫だと思うが、そこから先が問題だな」

「結界の所為で、暫く使ってませんでしたからな。今はどのような形になっているのか分かりませぬ」

「僕達が案内しようか?」

「おぉ、ユージ、行ってくれるか!」

「僕達には恩があるんだろ? 少しくらい返さないとね」


 ユージ君、意外に義理堅いね。

 犯罪者呼ばわりしてごめん、頑張って更生して欲しい。


「よっしゃーっ! 帰るぞぉっ!!」

「「「お――――――――っ!!」」」


 こうして俺達は帰路に就く事になった。


 余談だが、長老の名前を確認してみた所、『カシンコジ』でした。

 マジで影の軍団にならねぇだろうな?



 * * * * *



 すんなり帰れるとは思ってなかったけど、現実にその場面に出くわすと、正直不機嫌になるのは何故であろうか?

 いやね、坑道自体は一本道なんですが、魔物が出るは出るわ……。

 因みにオイラはバトってません。

 みんなユージ君達の獲物になってます。


「レベルが……レベルが上がるぅうぅぅっ!!」

「スゲェ!! 進化したら調子が良いぞ♡ 強くなってる実感があるっ!」

「レン様様だなっ! 俺達は強くなれるぞっ!!」


 小狼族三人、ユージ君とサスケ君、後サイゾウ君はノリノリで魔物退治に勤しんでる。

 何で日本名? やっぱり影の軍団ですか?


 討ち漏らした魔物はジョンさん達が倒していますので、俺の出番が全くない。

 要らない子になってます。

 それにしても、どこかで見たような光景なんですが……デジャブですかね?

 あ……ユージ君たちの職業が【裸・NINJYA】になってる。


 何だろね?

 どこかのダンジョンゲームの職業ですか?

 裸だとクリティカル率が上がるんですかね?

 どこかの超人みたいな職業ネーミングなんですけど……。


「弱いっ! あれ程苦労したコットンクロウラーが、こんなにも弱いっ!!」

「糸を集めるぞっ! 服を作るんだぁ!! 寒いし……」

「もう、裸族は御免だぁっ!! 俺達の為に死ねっ、芋虫!!」


 切実だなぁ~……。


「弱くても、数が多いな」

「そうだな。正直面倒になって来た」

「飛行能力がある奴が問題だな。小型過ぎて命中させ辛い」

「虫と蝙蝠なんだがな……鬱陶しい」


 洞窟内での火力は危険だからねぇ~、下手したら生き埋めになりそう。


「「「やったぁ―――――っ!! ランク2に上がったぞっ!!」」」


 早っ!? ユージ君たちが早くもランクアップ。

 相手がランク2の魔物だからかな?

 多分、ただでさえ経験値が高いのに、ボーナス効果が追加されたに違いない。

 進化してもランクが低かったのは、恐らく元が弱い魔物だったからだろう。

【鬼神の加護】の効果で色んな能力が強化され、最早経験値の入れ食い状態。

 遭遇時は苦戦していたのに、僅かな時間で蹴散らすまでに強くなってるよ。

 スンゴイねっ!


 それにしても……暇だなぁ~。


「前方にコボルトっ!!」

「数は5、速攻で倒すぞっ!!」

「俺達の経験値になれぇ―――――っ!!」


 あの……君達? それって共食いじゃね?

 一応、通常進化した場合は、君達はコボルトになるんじゃないの?

 まぁ、人間同士でも殺し合うから別におかしくは無いのかもしれないけど、良いのかな?

 それよりも、コボルトはランク4ですよ? 危険じゃありませんか?


「封縛鎖っ!!」

「残影刃っ!!」

「円月斬っ!!」


 ……倒しやがりました。

 封縛鎖で動きを完全に封じ、後は滅多斬りです。

 酷い……仲間じゃないの? つーか、忍者?!


「怖いな……あいつら血に酔ってないか?」

「諸行無常だな……」

「あんなにモフモフで可愛かったのにぃ~……」

「レベルが上がるたびに狂気に溺れて行くような……」


 アンタ等も同じ事してたじゃんっ!

 寧ろ大火災を越した上に、毒で動きを止めて皆殺しじゃんっ!!

 そっちの方がよっぽど酷いよっ!!

 

「よしっ! ランク3だぁっ!!」

「何でだ? 確かに格上の相手だったが、苦戦はしていないぞ?」

「強くなってんだから良いじゃん。それよりも糸を集めないと」


 楽しそうだなぁ~、オイラちょぴり淋しい。

 

 それにしても、この魔物は何処から湧いて来るんでしょうかね?

 こんな狭い坑道で良く生きて居られるもんだ。

 何はともあれ順調に坑道を進んでいる。

 徐々にだが上り坂になっているようだし、この先に行けば外に出られるのだろう。


「あっ?」

「どうした、ユージ」

「いや、この坑道は僕達が利用してただからね、出口の穴なんだけど、多分かなり狭いと思うよ?」

「その時は掘るからいいさ。幸い鶴嘴があるし」

「そう? まぁ、其れなら問題ないかと思うけど……この先は魔物の気配が無い。案内は要らないよね」

「光が見えるな。これなら後は俺達だけで充分だな」

「ここでお別れかぁ~。まぁ、長い付き合いになりそうだから気にしないけどさ」


 ユージ君達ともここでおさらばだ。

 うん、出会いと別れをこの道で繰り返すんだね。


「じゃあ、僕達は村に戻る。早く服を作りたいからね。和服みたいな感じが良いなぁ~」

「半裸じゃなぁ~……。今後の課題は糸集めが優先か?」

「それが重要だろね。見た目が子供の半裸に、需要があるのは一部の濃い人達だけだし」

「毛皮モコモコも、ある意味で半裸だったんだけどな……」

「愛に生きて、愛に死にたかったのにぃ~~っ!」

「「「「「「「ハグモフのなっ!!」」」」」」」


 ネリーさん、まだ言いますか。

 ネリーさんの一時の快楽の為に、彼等はそのモフモフを捨て去ったんですよ?

 悔やんだ所で失ったものは戻った来やしませんぜ?

 貴女は大事なものを奪って行きました。それは、モフモフです。


「偶に遊びに行くからなぁ~」

「うん、けど変な奴等は連れて来ないでよ?」


 一斉にネリーさんを見る俺達。 

 こうして俺達は別れた。

 ただ一人、ネリーさんだけが『何であたしを見るの?』と言っておりました。

 自覚してください。あんたが変な奴の代表であるという事を……。

 しかも、モフモフ達には最悪のね。

 深い愛情が当人達を苦しめるという事を知るべきだ。

 多分、無駄なんだろうけど。



 気を取り直して……愈々出口です。

 ですが、ユージ君の言った通り、とても俺達では出入りできない小さな穴でした。

 コボルトボックルでもギリギリの狭い穴だけが開いております。

 しかも、意外に長い。


「これは……鶴嘴で掘り進めるより、魔法で穴を広げた方が良いな」

「俺達は大地系統の魔法は苦手なんだよ。火なら得意なんだけどな」

「どこまで放火が好きなんですかね。仕方が無い、俺が掘りやしょう」


 予想はしてたけどね。

 土木関係の魔法なんて知らないけど、なる様になるだろう。

 大地魔法『ピッド・ホール』を続ければ、穴は広がるんじゃないですかね?

 試したところ上手く行きました。


 この調子でガンガン行こうと思う。


 

 * * * * * * * * * * * * 



 レンが横穴を広げながら突き進む少し前、神域付近の丘にまで来た難民達は立ち往生していた。

 原因は神域を包む結界であり、ここを進むと何故か同じ場所に戻ってきてしまう。

 幾度となく挑戦しても結果がどれも同じであり、これまでの疲労が蓄積されていた彼等は、只力無くうなだれていた。

 さすがに神が生み出した結界を無効化するような力は彼等には無く、この結界をいかにして越えるかが重要な課題となっていた。


「何度試しても結果は同じか……ここまで来て……」

「問題は、この結界をいかにして通り抜けるかですね。聖域なら中に入る場所が必ずあるのですが、原理が同じであるなら神域にもあるはずです」

「それが何処なのかが判らないのが痛い。このままだと食料が尽きる方が早いだろう」


 セアラとウォルフェンは現状打開を模索するも、状況は芳しく無かった。

 神域が聖域と同質のも尾であるなら良いが、逆の全く異なるモノであったとしたら打開策の取りようも無い。現に聖域の結界は外部との通行は可能であり、複数のルートが存在していたのだが、神域に至ってはそのルートすら見当たらず見えない力の覆われていた。

 更に言えば、一歩でも先に進もうとすれば霧が立ち込め、気が付けば元の位置に戻ってきてしまう。

 完全に外部からの介入を遮断し、拒絶の意を示しているとしか思えなかった。


「あの御方の判断を仰いでみますか……」

「セアラ殿と共に来た女性ですか? 見た所エルフの方だと思うが……俺にはなぜか、恐怖の様なものを感じる……」

「あの御方の力を感知しているからそう思えるのです。私達にとっては長の様な方ですからね」

「まさか、ハイエルフ?」

「当たらずとも遠からずですね。では意見を聞きに行ってまいります、この話は御内密にお願いしますね」


 ウォルフェンはセアラの背中を見送った。


 彼女が向かった先は他の難民達が肩を寄せ集まった一角で、そこにはボロボロのマントのフードを目深く被った一人の女性の姿があった。

 傍らにはダークエルフの剣士が並び、辺りの様子を険しい表情で睨みつけている。


「アーシェラ、異常は無いですか?」

「問題ない。これと云った魔物の気配すら感じないな」

「なら宜しいのですが。イネアレーゼ様、少し問題が出てしまいました」

「結界の事ですね?」

「はい。あの結界を抜けない限り、私達は神域に入る事は出来そうにありません」

「あの結界は聖域とは異なるモノです。神域には誰も入る事は許されないのでしょう……加護を受けた者以外はですが」

「どうにかして闘いの神と接触できないのでしょうか?」

「既に、私が試していますが……」


 イネアレーゼは神域に向けて思念派を送り、鬼神と対話を試みていた。

 しかし、神域の結界が想像以上に強力であり、彼女の力が簡単に弾き返されてしまう。

 それ程までに強力な結界であり、同時に彼女の知覚能力が麻痺するほどに濃密な威圧感を放っていた。


「予想以上の存在です。私如きでは足元にも及ばぬほど強大な力ですね……悔しいですが、神としての位はあちらが上です」

「そ、そんな事が……まだ、生まれて間もない神なのですよね?」

「信じられませぬ。イネア様を上回るような存在など……」


 セアラもアーシェラも、イネアレーゼが言った言葉に耳を疑った。

 彼女達からしてみれば、イネアレーゼは絶対的な存在であった。

 魔王達からもその力の相性の悪さから嫌厭され、恐れられるほどの存在である。

 しかし、鬼神はそのイネアレーゼを簡単に上回る存在であった。

 それはつまり、現時点でこの世界で最強の存在である事を示唆し、迂闊に機嫌を損ねるような真似は出来ないという事になる。

 正に、触らぬ神に祟りなしを地で行っていた。


「改めて神域に接触してみればわかります。これほどの強力な力ですが、まだ不完全な状態なのですよ」

「そ、そんな……」

「まさか、その様な事が……」

「甘く見ていました。私を超える存在と云うのは分かっていましたが、まさか……これほど底知れないなんて……」


 それは、例えるならば巨大な穴を覗き込んでいる様なものである。

 底が見えず、どれだけ深いのかすら判断できない、異常なまでに深い闇が口を開けている状態。

 更に言えばその闇はまだ深くなる一方で、とてもでは無いが全容を把握するなど不可能に思える程だった。

 

「神域を構成している龍脈の力が恐ろしく濃密で強大、これ程の力を操れるなど想像以上の方のようです」

「ですが、まだ子供なのですよね? ならば……」

「子供とは言え神は神。強大な力はそれだけ脅威なのですよ」

「ならば……万が一の時には…」


 戦う事も覚悟していた。

 神や魔王と云う存在は、そこに存在するだけで多大な影響を周囲に与える者なのである。

 その力を悪戯程度に行使されては世界が滅び兼ねない。

 悲痛な覚悟を彼女達は胸に秘める。


「なっ、何だぁ!?」

「何で、突然穴がっ!?」

「やったーっ!! 開通したぞっ!!」

「久々の地上だぁ―――――っ!!」

「森の空気が気持ちいい」

「おっ、何でこんな場所に亜人種達が?」

「知らん……それよりさっさと帰ろう」


 突如起きた騒ぎに目を向けると、穴の中から褐色黒髪少女と冒険者四人が這い出してきていた。

 意外な闖入者に、三人は呆気にとられる。

 地上を目指し掘り進んでいた連達が、ようやく帰還した所であった。

 問題は、そこに難民達がいた事なのだが、彼等はそんな事を気にする様子も無い。


「さてと、それじゃ帰りましょうかね。家に着くまでが冒険だぞ?」

「久しぶりに酒が飲みてぇ~」

「あの集落じゃ、酒は無かったしなぁ~」

「その前に換金しないといかんだろ。宿に泊まるにも金が無い……」

「いっそ、家を買ったらどうよ? 四人で暮らせるくらいの家」

「アタシにこいつらと暮らせと言うの?! 襲われたらどうするのよっ!!」

「「「誰もネリーなんか襲わねぇよ」」」

「あ、アンタ等……死ねぇ―――――――――――っ!!」


 賑やかな一団だった。

 彼等は自分達が起こした騒ぎを無視し、さっさと西に向けて歩き出していた。

 恐らくはグラードス王国の冒険者なのだろう。しかし、彼等が出てきた穴の方向は見る限り、明らかに神域へと続いている可能性が高い。

 つまり、彼等は神域を抜けてきた事になるのだ。

 その事実に辿り着いた時、セアラは彼等を呼び止めるために立ち上がった。

 だが……


「「「きゃあああああああああああああああああっ!!」」」


 突如足元が崩れ、セアラ、イネアレーゼ、アーシェラの三人はその穴の中へと落下したのである。

 それは、冒険者…もとい、レンが掘り続けた穴が崩落したのであった。

 予想外の出来事に、レン達冒険者や亜人種達は間抜けな顔をしてその穴を見ていた。

 


 * * * * * * * * * * * * * * * *



 何っ? もしかして俺のせい?

 いや、まさかこんな所に人がいる何て思わないでしょ!

 何か叫び声が聞こえたけど、まさかあの穴に落ちたんじゃ……

 やべぇー、逃げた方が良いかな?


「……レン、あの坑道……崩落したみたいだぞ?」

「叫び声が聞こえたけど、落ちたんじゃねぇか?」

「不可抗力だろ。とは言え、このまま逃げるのも人としてどうなんだ?」

「何か、女性みたいだったわよ? しかも複数……助けるべきなんじゃ…?」


 いや、分かってますよ。逃げませんてっ!

 けどさ、何で魔物が徘徊する様な森の中に獣人達がいるんだ?

 着ている衣服や状況からして、まるで難民の様なんだけど……どうなってんの?

 それ以前に、穴の陥没は俺の所為じゃないだろ。

 不可抗力なんだし、まさかこんな事になるなんて思わないじゃん。

 それ以前に、救出しに言った方が良いかな?

 けど、何か……深さが四メートルくらいありますよ? 大丈夫ですかね?


『新たな称号【女神を(穴に)落した神】を手に入れました。最低ですね』


「何でっ!? つーか、女神って?!」


 何がどうなってんのさ、誰か教えてぇ――――っ!!

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