そして眷属は増えて行く
レン君探検隊は、現在霧に包まれた坑道を突き進んでおります。
目指すはコボルト・ボックルの集落なのですが、些か面倒な事態になっている。
彼等コボルトボックルは基本的に群れで行動し、狩りをしては食料を集める良くあるパターンの魔物です。
しかし、種族としての生存能力は低く、ゴブリンに一撃で殺されるほど弱い立場である。
また、魔力も低く、魔法を使った所で大した威力も出せない事から、完全に捕食される側の弱い存在なのです。身体的に弱くとも、フェアリー並みに魔力があれば状況は変わって来るのでしょうが、残念な事に彼等の魔力は底辺であり、身を守る術が無いに等しい。
進化できるなら変わるかもしれないが、現時点で彼等には未来が無い。
眷属にした方が良いですかね? だって、絶滅危惧種だし……。
さて、現在神域の結界に入りましたが、実に面白い事になっております。
全員が一つのロープで括りつけられ、宛ら電車ごっこの状態で前進しているのですが、それでも変な行動を執ろうとしてしまう様だ。
具体的にはその場でくるくる回り出そうとしたり、何を思ったのかあらぬ方向に歩きだしたりと様々です。
そのたびにロープを引っ張り正気に戻すのですが、これが頻繁に起こるとなると正直めんどくさい。
恐らく視覚と認識能力、方向感覚を狂わされ、真っ直ぐ歩いてる積もりであらぬ方向へ誘導されるようである。
つまり、神域から追い出される訳ですな。
当初は面白くてニヨニヨと笑っていましたが、こうも短時間で頻繁におかしくなられるとウザい。
殴っちゃ駄目ですかね? 苛々してきます。
まぁ、何とか前進しているので良しとして置こう。
『本当に大丈夫なのか? あの人を連れて行って……』
『大丈夫なんじゃね? モフられる位なら死にやしないでしょ』
『アレは本当に人なのか? マジで怖いんだが……』
多分、人の範疇だと思いたい。
「フシュゥ~! フシュルルルルルルルルッ!!」
鼻息が荒いですよ? ネリーさん。
マジで怖いんですけどねぇ。
ユージ君じゃありませんけど、本当に人間なのか心配になってくんだけど……。
「ルガーさん。ネリーさんは本当に人間なのでしょうか?」
「今は化け物だな。モフモフの暗黒面に落ちかけている」
化け物認定をされましたよ!
犬さん、逃げてぇ――――――っ!!
「……普段からあの調子なんでっか?」
「いや、依頼を受けた時は何とか理性で堪えているようだが、今は限界だな……闇落ちするのも時間の問題だ」
「アレさえ無ければ良い魔法師なんだけどなぁ~……」
「最早、病気だ……末期のな……」
なんつー凶状持ちなんでしょう。
普段からこの調子だったら、依頼達成なんて出来ねぇ―わな。
我慢できるだけの理性があって良かったですね。
魔物の中にはラブリーな姿の奴もいますし、そのたびに暴走してたら仕事なんて出来ないだろう。
どうでも良いけど、ルガーさんて若干厨二病入ってね?
まぁ、ほっとくとしよう。
こんな調子で出口を求め、探検隊は賑やかに前進を続けている。
* * * * *
トンネルを抜けると、そこはやけに広い空間だった。
殆どドーム状の空間なのだが、外壁の岩場に無数の空洞が開いているのが見える。
恐らく、これがコボルト・ボックルの住居なのだろう。
彼等は基本的に群れで行動し、弱い獲物を求めて狩りをする魔物である。
比較的弱い部類の魔物であるため、こうして地下に集落を作る事で外敵から逃れているのだが、同種族のコボルトやゴブリンにすら勝てない弱い存在であった。
その為地下深くに追われる事になり、滅多な事では地上に上がる事は無い種族らしい。
しかしなが地下にも強力な魔物は存在する訳であり、彼等は身を守るために決死隊を組織して高位の魔物から身を守る手段をとっている。
こう言えば聞こえはいいが、早い話が生贄であり、この決死隊が注意を引き付けている間に同族は逃げるのである。
これは社会性でそうした部隊を作っているわけでは無く、種の保存による本能で獲得した習性みたいです。言葉を交わす限りじゃ残酷な行いをしている様に見えるけど、実際は魔物だし言葉が通じなければ生存本能だと言われると納得が行くのが不思議だ。
言葉が交わせると、どうしても人の感性と常識に左右されるからね。
考えてみれば勇敢な魔物なのかもしれない。弱いけど……。
『か……帰って来た……』
『かぁちゃん、元気にしてっかなぁ~』
『かみさんも俺がいない間に、他の雄とつがいになって無ければいいが……』
『嫌な事言うなよ、もしそうだったら俺死んじまうぞ……』
『皆、俺達は返って来たぞぉ~!!』
ようやく集落に帰れて、彼等はかなり安堵している模様ですな。
一時は不幸な事故もありましたけど、無事に帰れてよかったですね。
けどね、ラブリーな姿で生々しい事を言うのはやめてください。
正直、それはないわぁ~……。
「ここが、こいつ等の集落かよ……」
「意外に広いな……」
「結構、文化的な種族なのか? 俺達が知らないだけで…」
「フシュルルルルルルルル……モフゥ~……モォ~フゥウウゥゥゥッ!」
ネリーさん、アンタ……何処まで…。
そんな俺達の周囲を囲むように、コボルト・ボックルは武器を携えて現れた。
子供や戦えない者達を奥に隠し、威嚇するように唸り声を上げている。
別に敵対したいわけじゃないんですよ?
……あ、説得力がねぇ……。
『お、お前達、まさか裏切ったのか?!』
『なっ?! ち、違う!! あの霧を越えるのに力を貸してもらっただけだっ!!』
『嘘を吐くなっ!! 人間共を連れてくるなど、一族の恥さらしめっ!!』
『話を聞いてくれっ!! あの霧を抜けるには、ここにいるごぶりんの力が必要なんだ!』
『えっ? 俺っ?』
何でいきなり話を振るの?
少し焦るじゃん。
『角持ち?! ゴブリンの上位種かっ! お前等人間だけで無くゴブリンにまで……これは一族に対する完全な裏切りだぁ!!』
『ちょ、話を聞いてくれよっ!! 頼むからさぁ!!』
あー、皆さん弓で狙ってますねぇ~。
俺ちゃん達は危害は加えないよぉ~?
信じて欲しいんだけど……あ、無理。若干一名ほど危険人物がいるし……。
これって説得無理じゃね?
『裏切者に死をっ!!』
『死ねぇーっ、人間共っ!!』
これは拙いね。
仕方が無い……「えい!」。
俺はネリーさんを縛りあげているロープを切った。
「うきょきょきょきょきょきょきょきょきょきょっ!!」
歓喜の叫びを上げネリーさんは開放されると、けたたましくも人から外れた笑い声をあげて彼等に襲い掛かる。
当然こんなモフモフ天国で解放されたらハジケるわけで、彼女は手近なモフモフを捕え思う存分にモフリ出した。
『や、やめろ、それだけはやめてくれぇ――――っ!!』
『うあぁああああああっ!! 助け……』
『や、止めてぇ――――っ!! 私には夫が!! あぁ……』
『た、たのむっ!! 彼女だけは…彼女だけはやめてくれぇええええええっ!!』
『ウアァ―――ンッ!! おかぁ~さぁ~ん!!』
あれ? 俺、何か選択肢を間違えた?
『穢れてしまった……僕は穢れてしまったぁああああああああっ!!』
『ひ、酷い……もう、お嫁に行けない………』
『か……彼女にさえ…された事が無かったのに……』
何で、モフられただけでそんなに悲壮的なの?
意味わかんないんだけど……。
―――クぅ~……。
そろそろお昼ですね。
神域結界の影響で此処まで来るのに時間が掛かったからなぁ~。
「お腹すいたっスね。食事でもするか……」
「現実逃避しやがった…で? 何を作るんだ?」
「アースドラゴンの肉を使ってみますかね? どんな味か興味あるし……」
「周りは地獄だ……。まぁ、気にしない方が良いな」
「そのうち静かになんだろ。ほっとけ」
みんな無責任。
ハグしてモフして無双するネリーさんを無視しました。他人の暴走より飯さ!
どうせ彼女を止めるなど不可能に近いだろう。
阿鼻叫喚地獄絵図がソコで繰り広げられても、僕ちゃんには何にも聞こえないよぉ~?
関係ないね!
「モフハグゥ~…モフハグゥウゥゥゥ~…URIYYYYYYY!!」
『た、助けてくれ……』
『えぇー………無理っ!!』
『た、頼む…うぎゃぁあああああああああああああああっ!!』
もう完全に彼女を止める事は出来ない。
一度ハグしてモフったら、動く者が居なくなるまで行動を止める事は無いだろう。
それがモフリストだ。
悲痛の叫びなんて聞こえないよ?
これは只の幻聴さ……多分……そうであって欲しい。
・
・
・
悶絶して倒れているコボルト・ボックルの屍(死んでない)の山で、ネリーさんは『コハァ~~!♡』満足そうな獣の声を上げていたのだが、無視しました。
だって、同類に思われたくないじゃん!
アブナイ人に思われたくないし、こんな危険人物と知り合いだなんて、とても言えませんよ?
知らん顔して他人事と割り切った方が精神衛生上負担が少ない。
酷い奴と思われるでしょうが、人はこうして無責任になって行くのです。
生後二か月のオイラでも、それは変わらないのですよ。
大人になるってこういう事なんですね。
あ、アースドラゴンの肉なのですが、すんごい美味しいです。
霜降り和牛の上物ですよ? Aランクなんて目じゃありません。
思わずゴマダレで頂いちゃいましたよ、しゃぶしゃぶでね☆
今度は角切りステーキにしてみようかな?
『『『『『申し訳ありませんでしたっ!! 許してくださいっ!!』』』』』
何の事?
俺は何も見てませんよ?
何故、皆さんは土下座をしているんですか?
獲物を求めて、此方を見て不気味な笑みを浮かべているネリーさんなんて知りませんよ?
気のせいです。
また犠牲者が出てるようですが、僕ちゃんは知りません。
ハグられモフられて、口から泡を吹いてるコボルト・ボックルなんて、俺は見てません。
「うぅ~ん……生卵も欲しいなぁ~……」
「このライスだっけ? 実にこの料理と合うな。すげぇー美味い」
「美味だ……俺はこの味を一生忘れないだろう」
「田舎のかぁちゃんにも食わせてやりてぇ……こんな肉は初めてだ…」
美味、美味♡ これは帰ったら二人に食べさせてやらんとね。
メリッサがマヨネーズを投入するかもしれんけど……あ、サラダに使ってもいいかも。
時にアレンさん、出稼ぎ冒険者なんですか?
『『『『『頼みますから、アレを止めてくださいっ!!』』』』』
『俺はね? 人の自由意思を尊重するんだよ。ハグモフ大暴走をしている人なんて知りません』
『『『『『何でもするから許してぇ――――――っ!!』』』』』
「さぁあぁぁて、もう一モフりしますかぁあぁぁぁ~♡」
『『『『『ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!』』』』』
触らぬ気違いに祟り無し……迷わず成仏してくれ。
ナムゥ~。
何か、言葉は分からないけどニュアンス的な物は感じるみたいだね?
ネリーさんの声に反応してますよ。
シックスセンス?
『このまま殺られて堪るかっ! 燃え上がれ、俺の小宇宙っ!!』
「かもぉ~ん♡ ぷりてぃぼぉうい……私が可愛がって、ア・ゲ・ル♡」
何処のオネェですか、アンタ……。
『や、やめろ、ユージっ!!』
『馬鹿な真似はよせッ!!』
『食らえ、肉球流星拳っ!!』
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
ユージ君が高速パンチを放った瞬間、ネリーさんの姿が消えた。
いや、高速の動きによる残像拳だろう。
何者? と言うより……
「ば、馬鹿な……アレが人の動きかっ!?」
どう見ても人の限界を超えておりますです。
「いや、ネリーならあり得る……」
「だな、あいつ時々化け物になるからなぁ~」
「暗黒の力に溺れたか……ネリー、死ぬ気か…?」
だからさぁ~あんた等、止めろよ!
あ、無理か。あの動き、速いってもんじゃねーです。
質量をもった残像が無数に出現してんよ、ユージ君の攻撃を尽く避けております。
『!?』
「お前の後ろだぁ―――っ!!」
何処のフェニックスさんですか?
いつの間にか背後に移動してハグ体勢のネリーさん。これは拙いですねぇ~。
つーか、本気で人間やめてますよ……。
『うぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!』
『『『『『ユゥ――――ジィ――――――――――――ッ‼‼‼‼‼』』』』』
哀れ、ユージ君は星座になりました。
君の雄姿は忘れないよ、グッバイ……モフモフ座の聖闘士……。
因みに、ハグモフは二周目に突入しました。
・
・
・
この惨劇は七周目まで続いた。
モフラれた彼等は咽び泣き、その姿は実に痛々しい。
後から聞いた話では、彼等コボルト・ボックルにとってハグモフは求愛行動か、互いの親愛を示す行為らしいです。
つまり、ネリーさんの一方的な行為は強姦に当たる訳で、彼等は精神的に多大なダメージを受けた模様です。
酷い話ですが、野良犬に咬まれたと思って諦めてください。
その事実を知った時、ネリーさんは大変SHOCKを受けましたが自業自得だと思う。
俺は正直、関わり合いになりたくない。
コボルト・ボックル達は、ファーストコンタクトを誤った。
敵対しなければモフられなかったものを……。
もう、どうでもいいけどね。
あ~、お肉が美味しい♡
* * * * *
惨劇が終わり、彼等の精神が落ち着いた頃、俺は長老と面談する事になりました。
長い髭の生えたモフモフです。
小柄な体格の半人犬型モンスター、つぶらな瞳が可愛い彼等は最早絶滅危惧種として認定間近。
元々弱い種族で、尚且つその外見からペットとして乱獲され、或いは他のモンスターの餌にしかならない彼等には後が無いのは確かだろう。
このまま絶滅するのも運命だと思うが、幸いにも彼等は神域の結界内部で生存している。
この場所なら外敵から身を守れるだろうが、同時に食料を確保するのが非常に困難だ。
てなわけで、レン君の眷属になりますか? それとも静かに滅びますか? を選択してもらってます。
皆さん険しい表情(見た目にはラブリー)でオイラの話を聞いているんですがね、眷属を選択するなら直ちに加護を上げる積もりでございます。
だって、このまま絶滅されたら寝覚めが悪いし、逆恨みして枕元に立たれたら怖いでしょ?
実際、ネリーさんの所為で泣いている奴等が沢山いますし、首を吊ろうとしている奴もいます。
そのネリーさんなのですが、八周目に突入する前に簀巻きにしました。
今は打ち上げられた魚の様に跳ね回っています。
『で? どうする。眷属になれば進化して今よりも強くなる可能性が出て来る。けど、このままだと絶滅は免れないぞ?』
『しかし、それはお主の配下に加われという事じゃろう? お主は儂らに何をさせる気じゃ?』
『何も。これと言って困ってないし、好き勝手に生きれば良いんじゃね?』
『俄には信じられぬな』
『信じるか信じないかはアンタ等次第だぞ? 俺は選択肢を与えるだけに過ぎないからな?』
別に何かをしてもらうために眷属にする訳じゃねーし、ただの自己満足だぞ?
他に深い意味は無いからな?
『じゃが、お主達はアレを嗾けたじゃろ? その謝辞は無いのかのぅ』
『先に武器を向けたのはアンタ等でしょ? 何で詫びを入れなければならないのさ?』
『ぬぅ……』
『剣を抜いていいのは斬られる覚悟のある奴だけだぞ? そこはちょいと虫が良すぎるんじゃね?』
殆ど一方的だったし、仲間事始末しようとしたからね。
そこまで責任は持ちませーん。
『このままだと、この集落も捨てなければならなくなるぞ? 食料だって少ないんだろ?』
『我らを脅す気か?!』
『いや、純然たる事実を言っただけ。何でオタクら程度に脅迫しなきゃならないのさ? 俺は只提案してるに過ぎないんだ。別にこのままで良いと言うのなら何もしないぞ? ただ帰るだけだし、その後はどうなろうと関与はしない。これは最初で最後の選択肢だ』
『他に眷属は居るのか?』
『元ミノタウロスの集落と、最近ではサハギンが眷属化して身内になったぞ? この先の神域で平穏に暮らしとるでぇ~』
彼等は一斉に騒ぎ出し、互いに意見を言い合い今後の事を模索し始めた。
彼等コボルト・ボックルも内心では地上で暮らしたい様だ。
だが、彼等が地上で暮らすにはあまりに脆弱で、仕方なく地下に生活圏を求めなければならない事情があった。しかし、眷属化して進化すれば地上で暮らせる可能性も出て来る。
同時に俺には絶対服従にい為るが、条件が破格なため悩む様である。
さぁ、どっちにするんだい?
俺は君たちの選択を尊重しますよ?
『長老、どの道僕達はこのままじゃ滅びる。ここは賭けに出た方が良いと思う』
『おぉ、勇者ユージよ……其方はこのゴブリンに忠誠を誓うと言うのか……?』
ゴブリンじゃなく、ごぶりん♡
ひらがなの方がラブリーでしょ?
あれ? 俺、男の娘化進んでない?
『基本的に自由にしても良いと言うのなら、これほど良い条件は無いと思う』
『他の眷属と争わなければな。それ以外は互いに相談し合ってくれや』
『なっ? 本当なら俺達を眷属にした所で何のメリットも無いんだよ。これは生き残るための最初で最後のチャンスかもしれない』
Ohー勇者よ……モフられるとは情けない。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
つーか、ユージ君は勇者なんだな。
まぁ、転生者なら彼等よりは強いだろうけど……。
『でも、スキル構成が残念だ』
『今、大事な場面でそれを言うかぁ?!』
あ、口に出してた?
でもねぇ~……。
『過去は変えられない』
『お願いだから忘れてぇ――――っ!!』
無理です。
でもね、君より酷い奴を知ってますから安心していいよ。
ユージ君は更生できるレベルです。
『わかりました。お主の提案に乗りましょうぞ……。どの道、この分では食料獲得すら出来ませぬからな』
『ハイ、決まりぃ~。では早速……』
そろそろ来ますかな?
『コボルト・ボックルが眷属に加わりました。これより【鬼神の加護】が適応されます』
ハイ、来ました……あれ? 今回は真面だ。
どうしちゃったんですか、脳内アナウンスさん。
『当担当者は島流……基、一身上の都合により別の現場に配属いたしました』
島流しって言いそうになったよね?
クビには出来なかったんですかね? かなり自分勝手でしたよ?
すっきりしたから良いけど。
『放せぇ―――っ!! 俺はこの職場が良いんダぁ!! もっと俺は責められたいんだぁ―……』
『早く取り押さえろっ!!』
『内部告発によって、お前の処分は決まったんだ。いい加減、受け入れろっ!!』
『腐れ野郎が、もうここにお前の居場所はねぇ―んだよっ!!』
『嫌だぁ―――………』
あの……今のは?
何か、職場に乱入して来て取り押さえられ、強制退去されたみたいですけど?
『コボルト・ボックルが進化します』
え? スルーするの?
事情くらい教えてよ。凄く気になんですけど……ねぇ?
『社内の内部事情は外部には教えられません』
あ、そう……。
何か、モヤモヤします。
時に、犬さん達は……?
『『『『『ふにゅごぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』
強制進化が始まったね。
あれ、結構痛いんだよねぇ~、全身が作り替えられるから……。
お子様は泣いちゃうんじゃね?
『幼児には安全にソフトな進化をさせております』
え? 嘘でしょ?
俺の時は途中から凄かったんですけど?
言葉に出来ない痛みでしたよ?
『前任者の趣味です』
成程……あの野郎、だから職場を追われたのか。
ザマ―!
さて、進化したコボルト・ボックル達ですが……見た目が全員子供です。
何か、グラスランナーやホビットみたいな感じですかね。
ただし、ケモミミと尻尾がそのまま残ってるけど。
あ、手足も若干獣みたい。手に肉球が見えましたぞ?
別の意味でケモナーさんが暴走しそうですね。
ロリやショタもウハウハものです。これはヤバイ……。
=================
【小犬族】 ランク1
鬼神の眷属となったコボルト・ボックル達が進化した姿。
見た目は子供のような外見だが、力や速度が格段に跳ね上がった種族。
獣人族と妖精族の中間のような存在。
寿命も人並みに伸びた。
見た目の可愛らしさとは裏腹に、集団戦で敵を追い詰める中々エグイ戦闘を好む。
完全な狩猟民族である
=================
弱小種族が凶暴になりました。
宛ら狂犬病に罹った野良犬の集団でしょうか。
影の軍団になりそうな気がします。
「やったーっ!! 人の姿になったぞぉ――――っ!!」
ユージ君、嬉しそうですな。
モフモフわんこよりも、こちらの姿が馴染みがあるからですかね?
これで襲われる心配も無くなったね。
「嫌ぁ――――――――――っ!! 私の天国がぁ―――――っ!!」
ネリーさん……別にアンタの為のモフモフだった訳じゃねーですぜ?
何気に自分の物にせんでくださいな。
彼等にとっては命懸けの選択だったんだぞ?
「「「「「助かったぁ――――っ!! これで、あの悪魔から狙われずに済むっ!!」」」」」
あ、皆さん泣いて喜んでいらっしゃる。
余程の恐怖だったんですね。
これからは相手を選んで戦いを挑んでくださいな。
取り返しがつかなくなりますから……。
それよりも……「服を着てくれよ」
みんな半裸状態なんだよ。
これを喜ぶのは変態だけだからね?
別方向の需要なんて要りませんから。
この日、コボルト・ボックル達は絶滅の危機から脱したのだった。
こうなると当然宴になりまして、集落の食糧を持ち出してチャンチキ桶作状態に突入。
解放されるまで騒ぎまくったとです。
まぁ、これで三度目だから慣れました。
その後、酔っぱらった勢いで、その場でエロい事始める奴等も出て来たので御開きになった。
見た目が幼いからヤバい事この上ない。
合法ロリでも不味いでしょ、喜ぶのはそっちの趣味の人達だけです。
進化しても文明水準がコボルト・ボックルのままなんですよ。
参ったわぁー。
そんな訳で、今俺達は温泉に浸かっております。
そう、何と彼等の集落には温泉があるのですよ。
効能は肩こり腰痛などに効き、血行促進と美肌効果もあるそうだ。
ラジウム温泉です。
ただの風呂より温泉は良いものです。
「いやぁ~……極楽だぁ~ねぇ~♡」
少し熱い程度の温泉だが、実に気持ちいい。
このまま溶けてしまいそうです。あぁ~いい湯だ。
「所で、何で湯船に入らねぇんだ?」
「いや、そうしたいんだけどよ……」
「レン……お前、本当に男なのか?」
「見た目がヤバいぞ?」
男ですけど何か?
「悪いか? 別に好きで美少女顔な訳じゃねぇんだけど……」
「わかってる。わかっているんだが……」
「頭では理解できていても、心のどこかが危険信号を出している」
「変な趣味に目覚めたくねぇんだよ……」
男同士なのに何を意識してんだよ。
「お前、自分の見た目をもっと自覚した方が良いぞ?」
「何で?」
変な事言うジョンさんだねぇ~?
気のせいか、男共が俺をチラチラと此方を横目で見ている気がするんだが……はて?
何故に頬を赤らめてるんですか?
「ユージだっけ? こいつ、鼻血出して湯船に浮かんでるぞ……」
「……あ」
隣の浴槽を見ると、ユージ君が大量の鼻血を出して殺人事件の現場と化しております。
やっぱり、むっつりだったんだなぁ~。
一体何を想像したんだ、コイツ……。
「見た目が子供なのに何をそんなに意識してんだよ、しかも同性だぞ? お前等、変態かぁ?」
「「「お前の場合は、子供とか同性とかのレベルを超えてんだよっ!!」」」
「意識してる時点で邪な感情があるのを、俺の所為にされても困るんだけど?」
「「「俺らにもそんな趣味はねぇ!!」」」
「なら、気にする事ないじゃん」
変な人達だ。
あー・・・・・段々のぼせて来たなぁ。
そろそろ出るか……。
俺は何気に湯船から出ようとした瞬間……
―――ブシャ――――――――――――――ッ!!
この風呂場の野郎共、全員が盛大な鼻血を吹き出した。
この世界は変態しかいないのか?
世の不条理を嘆きつつ、俺はこの場を後にする。
鼻血を吹き出して倒れた男共を残して……。
追記。
朝起きたら集落の真ん中に転移魔法陣が出来てました。
これで他の眷属達と交流が可能となる事だろう。
うん、俺は良い事をしてるね。
余談だが、温泉浴場で鼻血を出した野郎共は全員白い目で見られたとです。
男に欲情したんだから当然だね。
あれ? そうなると……俺、貞操の危機だったの?
危なかったー。
レン君は男の娘みたいだと自覚しているけど、他人からの見た自分の姿に関しては無自覚です。
オトボクの主人公みたいなもんでしょうか?
しかも、進化しているので無意識に【魅了】が発動してたりする。
本人はその事に気付いていません。
自分の能力を殆ど使いこなそうとしていないので、当然知らない内に能力が発動していたりする。
そもそも、自分の能力がどれほど保有しているのか分からないのだから、使いこなすにしてもどの能力を修練すればいいのかが判らない。
こうしてスキル暴走は続いて行く。
何か、いい加減になった来たような……。
こんな話ですが、楽しんでいただけたのなら幸いです。