転生者って何人いるの?
さてさて、洞窟生活二日目。
レン君探検隊は謎の地底生物アースドラゴンを求めて鍾乳洞に入りました。
て言うか、鍾乳洞と言うよりも地底湖です。
何か、目の無い魚も泳いでますし、調合素材のイモリやヤモリが大量です。
メリッサさんが見たら喜んで踊りまくる事でしょう。
この世界の両生類って薬効成分が豊富なんですねぇ~。油で揚げても美味しいけど……。
所で、肝心のドラゴンが見当たりませんが…何処へ?
「お、おい……本当にあれと闘うのか?」
「良く解らないけど、そんなにスゲーの?」
「大きさがハンパじゃないのよ……攻撃しても全然効果ないし……」
「自殺行為だな」
「命あっての物種だぞ?」
そこまで凄いモンスターですかい。オラ、ワクワクして来たぞ!
「何で、そんなに嬉しそうなんだよ!!」
「ドラゴン装備……それはロマンです」
「気持ちはわかるが、アレは倒せる相手では無い」
「無謀よ!」
「馬鹿な真似はやめるんだ!!」
ふふふ……冒険者が冒険をしないでどうするよ。
ドラゴン? 良いじゃない、血祭りにあげてやんよ。
「今宵の獄煉丸は血に飢えておるわ……ククク…」
「「「「退く気ねぇ―――――――っ!?」」」」
ドラゴンのお肉はいかほどの味なんでしょうかねぇ~実に楽しみです……じゅるり♡
「……こ、こいつ……アースドラゴンを食う気だ…」
「何て恐ろしい事を考えてるんだ……ドラゴンはモンスターの中でも最強の部類だぞ?」
「あ、でもお肉は凄く美味しいて聞いた事がある」
「……伝説だ。今まで倒したなんて話は聞いた事が無い」
え~? ドラゴンて、そんなにヤバいんですか?
それなら増々挑戦しないといけませんね。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「「「「「!?」」」」」
地底湖に響き渡る獣の咆哮。
俺はすかさず走り出し、その声の主を調べる。
いました……
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【アースドラゴン】 ランク6
地底に生息する竜種であり、固い甲殻を持つ。
鱗だけでも楯として珍重され、ドラゴン装備は伝説級の装備とされている。
武器素材としては一級品だが、同時に最高難易度の魔物でもある。
骨は錬金術の素材としては最高級であり、高い薬効成分を誇っている。
牙や鱗で作られた武器や防具は、いかなる攻撃すら弾き返すほどである」
別名【要塞龍】と呼ばれ、勇者ですら倒せないほどの圧倒的な強さである。
聖獣では無いので災害級モンスターとして登録されている。
肉……すんごく美味しい。
『死なない程度に頑張ってねぇ~♡』
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軽っ!? それよりも、そんなに凄いのドラゴンてっ?!
これは何としても倒さねばいけませんな。
それにしても、やはりモグラなんだね。
土竜と書いてモグラ……。
アルマジロかセンザンコウを足した様なモグラです。
口はワニのようですけどね……んじゃ、行きますか。
「武神化っ!!」
俺は穴倉から飛び出し、戦闘モードで一気に畳みかける事を選択した。
「一撃必殺!!」
ゴーちゃんの魔力を籠めて、一気にアースドラゴンに向けて振り抜く。
強力な斬撃が鍾乳石を引き裂き、そのままアースドラゴンに直撃した。
ギュオオオオオオオオオオオオオオッ!?
俺の放った一撃が、アースドラゴンの躰を一気に抉り取る。
アレ? 弱くありませんか?
HPが一気に減りましたぞ? 何処が災害級なのですか?
問答無用で2~3回斬り付けたら、そのままレッドゾーンに突入したんだけど……。
あ……もう、虫の息だ……。
武神化しなくても勝てたよ……空しい。
止めを刺してあげよう……凄く可哀想になって来た。
弱い者虐めって恥ずかしい行為だよね……。
「成仏しろよ。えい……」
アースドラゴンの頭の上に乗り、手を当てた状態でゴーちゃんを突き刺した。
HPが0になったアースドラゴンは、そのまま綺麗に消えてしまった。
大量のドロップアイテムを俺のアイテムボックスに残して……。
何だろね……この心に吹きすさぶ冷たい風は。
「武神化解除……寒い…心が・・・・・」
俺、無敵状態なんだね。
やり遂げた満足感が全く無くて、寧ろやっちまった感がハンパねぇ。
ドラゴンなのにこんなに弱いって、如何なのよ?
ないわー……。
「おいおい……アースドラゴンが一方的かよ」
「とんでもなく強いわね。さすが神様」
「はっきり言えば無敵だな……羨ましい」
「敵でなくて良かったぜ」
えー? ほんの数回ほど攻撃しただけで倒せたけど?
何でこんなに驚かれてるの?
「俺のワクワク感を返せぇ――――――っ!!」
俺が強すぎるんですね。
今度からは鬼神化も武神化もやらないようにしよう。
・
・
・
神秘的な地底湖には、何故か水晶の柱が立ち並んでおります。
実に幻想的で美しい光景ですな、観光名所になること請け合いです。
これを売っても相当な金額になると思うが、誰も採掘しなかったんですかね?
まさか自然保護法とかで環境保存している訳でも無いでしょうから、単に水晶が固すぎる上に魔物が繁殖してるからでしょうね。
手間が掛かるし人件費も馬鹿にならないし、危険手当が出る訳じゃないから鉱物しか見向きされなかった為に採掘しようがないんだろう。
地中で繁殖してる魔物の所為で坑道の形は頻繁に変わるし、危険地帯と化しておじゃる。
「おい、早く上に上がろうぜ。いつまでも地下じゃ落ち着かねぇ」
「だな、俺もかえって鍛冶に勤しみたいし」
―――ゴゴごゴゴ……
何だ? 何かが接近してくるような……嫌な予感。
ギョパァアアアアアアアッ!!
「グランドモールっ!?」
「まさか、まだ居たのか?!」
皆さん、一斉に武器を引き抜いて戦闘態勢を整えた。
ここ、モグラさんの繁殖地なんスかね?
それより、何かこのモグラ様子がおかしい。
「「「「アァ―――――――ッ!? 出口がぁっ!!」」」」
グランドモールの出現で、来た道が完全に塞がれてしまった。
崩落です。完全に坑道が崩落しやがりましたよっ!!
「クッ、こんな奴を相手になんかできねぇぞ……」
いや、俺なら楽勝です。
ん?
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【超耄碌グランドモール】 ランク6
長く生き過ぎた為にアルツハイマーになったグランドモール。
今自分がいる場所や、いつ食事をしたかなどを直ぐに忘れるほどボケてる。
最早仲間の声すら届かないほどに頭がおかしくなってます。
老齢なので肉質は悪く、とれも食べられたものでは無い。
もう直ぐ寿命が来るでしょう。
素材は兎も角、獲得金額は高い。
『ご老人は大切にしましょう。一思いに……フフフ…』
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黒いよっ!! 財産目当てで倒せとっ?!
マジでボケ老人なの?
アルツハイマーて、魔物にもあるんだぁ~。
つーか、片足棺桶に突っ込んでんじゃん。
こう言っちゃなんだけど、めっちゃ痩せ細って体毛も抜け落ちて剥げてんだけど……。
「な、何か弱そうだな……」
「そうだな……倒せそうな気がする」
倒せると思うよ。だって、HPがめっちゃ低くなってますから。
しかも、徐々に減って来てます。
もう直ぐ寿命みたいだけど、倒す必要あんの?
ズダァアアアアアアアアアアン!!
「「「「倒れたっ?! 何もしてないのにっ!?」」」」
あー……どうやら脳梗塞のようです。
脳梗塞グランドモール……マジでお年寄りだった様だ。
本当に寿命が来ちゃったよ……。
所で、倒した訳じゃないんだけど経験値はどうなるの?
「「「「何か、レベルが上がってるっ!?」」」」
えぇー?! 俺には何も入って来ないみたいですけど?
ジョンさん達に何故か経験値が加わってるみたいだス。
武器を引き抜いているから戦闘状態と見做されたのですかね?
何か、納得できねーんですけど……。
「運が良いんだか、悪いのか……それよりも、この先の出口はあるんですかね?」
「俺達に聞かれても知らんぞ?」
「仕方ないか。どこか出口を探しますかい……」
神眼を使ってそれらしい場所を探して行く。
そんな俺の跡をついて来る四人組。
マジで迷ってるんですね。
一流の冒険者には程遠くね?
さて、マップの様子だと、この先に上に行く為の洞窟があるはずなんだが……おや?
「何か、誰かに見られている様な気がする」
「こんな場所でか?」
「まさか、ゴースト関係のモンスターか?」
「じ、冗談でしょ? あたしはゴースト系統苦手なんだけど……」
「あの屋敷でトラウマだもんなぁ~……俺も少々苦手だ……」
そう言えば古びた洋館で捕まってましたっけね。
マップ識別を変更して見たろ、何かが俺達の周りをうろついてるみたいだ。
何でしょね? 魔物と思えるけど識別が黄色で中立だし……。
ア……いた。
何か、コボルトの小さい奴が……
つぶらな瞳の可愛いモフモフです。
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【コボルト・ボックル】 ランク1
基本的に最弱のモンスターで、成長しても子供の大きさまでにしかならない。
群れで行動するが、どう考えても捕食される側である。
愛玩動物として人気が高く、貴族達のペットとして捕獲依頼が後を絶たない。
成長が早いが寿命も短いため、絶滅危惧種として保護すべき存在でもある。
見た目も可愛らしく頭も良いが、最早滅びるべき種であり候。
『美味しいよ♡』
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食えるのぉ―――――――――っ?!
何て残酷な事を言うんでしょう!
あんな可愛いいモフモフを殺せと仰るのですか?!
酷い、何て残酷な現実なんだっ!!
百万人が泣くよ、間違いなく。
「ま、不味い……アレン、ネリーを抑えろ!!」
「おっ? おう……」
「な、何事だよ、おいっ!」
「ネリーの奴は可愛いものに目がねーんだよっ!!」
「て、事は……」
「あのコボルト・ボックルは……ハグ魔の餌食になる……」
ハグ魔? まさか……
「ハグゥ―――――――――――――――――っ!!」
やっぱりぃ――――――――っ!?
「は、早い……」
「通常のネリーの三倍は早いぞ……」
「まるで、赤い彗星……」
いや、とめろよ!
どこぞの汎用人型兵器並みに暴走してんぞ?!
不味い、このままじゃ彼等が食われる!!
食われて自己再生機関の一部にされる。
けど……
『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
怖い……マジで初号機。
……ハグりますか? それとも人間やめますか?
『ぎゃわんっ!!』
あ……捕まった。
少し小さい奴だけど……グッバイ、君の犠牲は忘れないよ……。
『ぎゃうん、ぎゃわ、ぎゃんきゃんぐわん!!』
『ハグゥ~~~ぅ……ハグ、ハグハグゥ~~~~ッ!!』
可哀想に、このままモフり殺されるんだね……。
下手すれば大人の階段を上る事になるかも。強制的にだけど…。
無力な俺を許してくれ、俺は彼女に近付きたくない。
『コボルトの言語を覚え……今、良い所なんだよ、邪魔すんじゃ『――ピシィッ!!』
はうぅン♡』
……へ?
『もっとぉ~♡ もっと俺をシバいてくれぇ~……ハァハァ…ハウッ!?』
『うるさい豚ですね。なんて情けない声を上げてるのかしら……汚らわしい豚に言葉を話すなんて許した覚えは無いわよ?』
―――ビシッ!! パシィ――――ンッ!!
『もっと、激しくぅ~~~っ!! 女王様っ!!』
『誰が言葉で話せと言いましたか? 卑しい豚の分際で、私の命令に逆らうのですか?』
『ブヒィ!! ブヒッ、ブヒィ~~~~ンッ!!』
・・・・・・もう、奴は戻って来れないだろう。
遠い世界の住人になってしまったんだね……清々した。
上司さん、どSだったんですね。予想はしてたけど・・・・・。
つーか、マジで俺の脳内はどうなってんの?
ハッ! 呆けてる場合じゃない。
言語を覚えたって事は……
『は、離せぇ~っ!! 僕をどうする気だっ!! まさか、僕を監禁してめくりめくる禁断の世界に連れ込む気かっ!?』
見事的中。
あー……このままだと、ソウナルダロウネ。
別の意味で美味しく食べられちゃうかもしれないね。
まぁ、それもひと夏の経験だと思った方が良いんじゃね?
酷いトラウマが残るかもしれないけど、生きていれば良い事あるさ。
ドンマイ!
『何、良い顔してサムズUPしてんだよっ!! 見てないで助けてくれぇ~~っ!!』
『助けたとして、何か見返りがあるのか?』
『あれ? 俺達の言葉が判るの? 頼むからこの女を何とかしてくれよ。僕は年上好きではあるけど昼は淑女、夜は獣の方が好みなんだぁ~っ!!』
『うん、爽やかなくらいエロい下衆だね。このまま死んだ方が良いんじゃね?』
『嫌だぁ~っ!! こんな猛獣で大事なものを散らせるくらいなら、幼馴染と結婚した方がマシだぁ!!』
あっ、今世界の男達の大半を敵に回しやがりましたよ。
『チッ! リア充が……相手がいるんじゃんかよ! 爆ぜやがれっ!!』
『幼女を相手になんかできるかっ!! YESロリータ、NOタッチだろっ!!』
『お前も幼児じゃねぇのかよ、このエロガキが……』
『体は兎も角、心は大人だぁ~っ!! ちょ、何処に頬擦りしてんの? や、やめて……』
『HEY,YOU! いい加減、大人になっちゃいなYO!』
『何でもするから助けてぇ~っ!! こんな所で賢者になりたくなぁ~いっ!!』
切実だね。
仕方が無い……「ていっ!」
「はぐっ!!」
ネリーさんの首筋に手刀を落して気絶させました。
今の内に縛り付けた方が良いかもしれん。
『所で、出口知らんか? デカいモグラの所為で出口が判らん』
『ある事にはあるけどさ、誰が教えるかっ!!』
あっ、逃げた。
けどね、誰が逃がすと思ってるんだい?
「うりゃ!!」
―――ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
『ぎゃぴぃ―――――――――――っ!!』
斬撃を軽く撃ち込んでやりました。
いけないなぁ~…信頼を裏切っる様な事をしちゃぁ~……。
そんな事をすると、ハグ魔にまた君を預けるよ?
仏の顔に二度目は無いんだよ?
どちらがイニシィアチブを握ってるか分からないのかい?
『さぁ、選べ。地獄に落ちるか、天国に行くかを……』
『どっちも死ぬんじゃないかっ!! 生きる選択肢は無いのっ?!』
『はっはっは。一度逃げ出した君に選択肢があると思うのかね? 蕩けるプリンのように甘い奴よ、ほろ苦いビターチョコレートの味を噛み締め死ぬがいい』
『くっ、化け物め……ん? プリン? チョコレート? なんで…知ってるの?』
『砂糖と卵と牛乳で作るお菓子だろ? 後、カカオとミルクと砂糖……まさか、転生者か?』
『まさか、君もか?!』
マジで?
何でこんな所に転生者がいるの?
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種族 コボルト・ボックル 名称 ユージ・オダ
レベル25 ランク1 職業 アサシン
スキル
『剣術』Lv3『隠密』Lv3『無音』Lv3
『索敵』Lv2『体術』Lv2『鑑定』Lv4
特殊スキル
【瞬殺】Lv1【追跡】Lv2【覗き】Lv3
【窃盗(女性下着限定)】Lv2【瞬間記憶力(女性限定)】Lv2
【自己嫌悪】Lv6【好奇心】Lv8【優柔不断】Lv5
称号
【むっつりスケベ】【駆け出し犯罪者】
進化 95/100
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『お巡りさぁ~~~ん、この人ですっ!!』
『嫌ぁ―――――――――っ!! 古傷を抉らないでぇ――――っ!!』
こいつ、常習犯だ……出来心でやっちまったんだ。
しかも何度か犯罪を犯してるよ、瞬間記憶って盗撮かぁ?
何度かやらかして自己嫌悪で悩んでたのね。
つーか、古傷って……
『まさか、前世の記憶を持ってるのか?』
『君はどうなの? 転生者なんだろ?』
『俺は知識はあるんだが、記憶の方はサッパリだな』
『成程、そういう形の転生もあるのか……』
こいつは王道転生者だ。
ただ、スキルが残念だな。
これは多分だが、前世での行いが影響してんだろうね。
『所で、君はゴブリンなのか? 見た所、角以外は人間みたいだけど……』
『ごぶりんな。他は見えなかったのか?』
『種族以外は全く見れない。名前すらわからないなんて……どんたけ高レベルなんだよ』
『レン・オーガだ。一応男だからな?』
『げっ?! マジで? 男の娘かよ……』
―――ブン!!
俺はユージ君の喉元の獄煉刀を突きつける。
『今度言ったら、首が胴から離れると思え』
『イエッサー・・・・・』
まったく、失礼しちゃうわー。
『お前だって、実は覗き魔で下着泥棒だなんて知られたくないだろ? 更に盗撮犯……』
『お願い、それ以上は言わないで……僕のHPは0だから……』
俺は容赦しませんよ?
口には気を付けたまえ。
「お、おい、レン…こいつらの言葉が判るのか?」
「あぁ、俺も元はモンスターだから分るぞ? 今は別の意味でモンスターだけどな」
「出口は? こいつらが知ってのか?」
「知ってるらしいが、逃げ出そうとしたんで攻撃して止めたんだよ」
「か、過激な奴……まぁ、逃げ出すのも分かるからなぁ~」
「下手すりゃ肉片になってんじゃん……」
「容赦なしだな……」
そんな事ないですよ?
いざと為ったらごぶりん印の秘薬が炸裂しますからね。
こいつは効くぜぇ~!
『な、何か背筋が寒くなったんだが……』
『気のせいだろ、ユージ君』
さすが最弱モンスター、自分の身の危険には敏感なのね。
フッ……弱い奴ほど戦場では生き残れる。
犠牲は出るけどな。
『んな事より、さっさと出口に案内しろや』
『そうしたいんだが、少し問題があるんだよ』
『何だ? 辞世の句なら聞いてやらんでもないぞ?』
『何で殺したがるんだよ!?』
『社会の塵だから』
『お願いだから更生させてぇ~!! 僕には黒歴史だからっ!!』
『知ってるか? 過去は消す事が出来ないんだぞ?』
どれだけ更生した所で、犯した罪は消える事なんてない。
一生ついて回るんだよ、どれだけ距離を置こうとも死ぬまでね。
刑務所を出たからと言って罪が消える訳でも無いし、殺人者は一生涯殺人者なんだよ?
それがどんな形でもね……。
フッ……罪と罰は決して許される事の無い十字架なのさ。
『で、何が問題なんだ?』
『僕達の村が白い霧の先にあるんだが、何故か霧の中に入ると元の位置の戻るんだ。出口は一度村に戻らなければ行く事が出来ない』
『霧?』
『狩りの為に霧を抜けて洞窟まで出て来たんだけど、今度は戻れなくなったんだ。ひと月近くサバイバル生活をしてるよ』
『何だろ? もしかして神域の結界の中に村があるのか?』
『神域?』
『俺が支配する広大な土地なんだけど、周囲が霧状の結界になってて外部からの侵入を防ぐんだ。俺の配下になるなら素通り出来るんだけどね』
『何モンだよ! この世界のごぶりんは化け物か?!』
『いや、進化したら鬼神になっただけ。レベルとランクが低いから、俺の種族の先の文字が読めなかったんだろ?』
『そう言えば、?マ―クが……アレの先が鬼神だったのか……チートかよ』
『まぁ、配下にならなくとも、俺が先頭に立って全員をロープで結べば何とかなんだろ』
『チョイ待て、あの女も連れて行くのかっ?!』
ネリーさんか……モフモフ王国を見たらどうなるんだ?
きっと、完全に人間を止めるんだろうねぇー。
まっ、犠牲になるのは俺じゃないから良いか!
『マジかよ……』
『村に戻れるんだから良いじゃん。他の奴等にも伝えろや』
『僕には選択肢が無いのか……』
『こっちも何とか話を付けてみるから、説得宜しく』
当たり前じゃん。
仲間を生かすも殺すも君次第なんだよ?
ネリーさんに襲われるのは運命だね。
ケモナーは時に迷惑になるんですなぁ~。
「てなわけで、彼等の村を目指す事になったんだけど……問題は…」
「ネリーか……業が深いな……」
「取り敢えず、雁字搦めにしとけば良いんじゃないか? ミノムシみたいに」
「それしかねーか。友好的な奴等を襲うのは戴けないからな」
友好ね……彼等は捕獲対象なのを知っていますか?
冒険者や他の魔物に襲われて、今や彼等は絶滅寸前なのですよ。
その原因がネリーさんみたいな人達なんだけど、理解してはりまっか?
高額のペットなんだぞ?
「放してぇ――――っ!! モフモフが、私のモフモフがぁ―――っ!!」
「「「「あっ、気が付いた……」」」」
解放したら暴走するでしょ?
異種族間に余計な荒波を立てたくは無いのですよ。
正直、今のネリーさんは毒にしかならねぇ。
『……何とか説得したけど、本当に大丈夫なのか?』
『実際に見てみないと分からんけど、俺がいるなら大丈夫だろ』
『みんな村に帰りたがってるんだ。頼むよ、ホント……』
まぁ、ひと月近くサバイバル生活をしていれば帰りたくもなるよね。
良く生き延びれたもんだよ。
『んじゃ、村の道まで案内宜しく。霧が出たら俺が先頭を歩くぞ?』
『わかった……』
旅は道連れ、世は情け。
こうして登りの坑道を突き進む事になりし候。
この先、何が待ち受けているのか……レン君探検隊は慎重に進むのであった。
* * * * * * * * * * * * *
長い道程を進み続ける亜人種達の集団。
彼等はメルセディア聖国とセコンダリア獣帝国の国境から逃げ出してきた移民たちである。
彼等は群がる魔物を命懸けで倒し、傷つきながらもある場所を目指して魔物の跋扈する領域を歩き続けていた。
倒した魔物は彼等の食糧になるが、だからと言って決して勝てる相手ばかりとは限らない。
現に幾人もの犠牲者を出し、あるいは重傷者となりながらも目的の地へと進み続ける。
彼等に安住の地は無く、幾度となく侵略を受けては故郷を追われ続けた種族もかなりの数存在している。
その殆どが戦い続ける事に疲れ果て、静かに暮らせる場所を求めていた。
しかし、彼等を受け入れてくれるセコンダリア獣帝国ですら戦力としてしか見ておらず、故郷を追われた彼等の心境を重んじる者は多いが、手を差し伸べるにしても問題があるのだった。
セコンダリア獣帝国では国土面積の都合上、彼等難民達の全てを養えるだけの食糧は用意できず、実際問題として援助の為の食糧が不足しがちなのは仕方ない事であろう。感情面では助けたくとも、経済面で事実上困難なのだ。
とてもでは無いが、彼ら難民を救済するだけの余裕などある筈も無く、実際に於いては黙認せざるを得ないのが現状であった。結局難民達は難民同士で手を取り合い、自分達の手で安住の地を探し続ける事となる。
そこでイルモール神の神託が下されたのが、闘いの神の聖域である。
彼等はその地に希望を求め、傷つき戦いながらも目指すしかないのである。
ある意味で彼等は見捨てられた民であった。
「もう直ぐだ。もう直ぐ神域へ行く事が出来る……」
「俺達の新たなる土地だ……」
弱り果てた心に鞭打つかのように、彼等は前進するしか手段が無かったのだ。
「セアラ様、神域までは後どれくらいだと思いますか?」
「恐らくですが、あの山を越えたあたりかと思います」
「疲れてはいませんか? かなり無茶な強行軍を続けていますが……」
「大丈夫ですよ。ウォルフェン殿も大変でしょう、彼等を支え続けているのですから」
「イルモール様の神託が今まで間違いであった試は有りませんぞ。この程度で値を上げる事はありませんぞ」
そう言うリーダー格の青年である獣人も、その顔に疲労の色は隠せないでいた。
彼等は民間人を守るために自らを盾として魔物の前に立塞がり、命懸けで彼等を守り続けていたのだ。
それもひとえに希望を繋ぐためにである。
そんな彼等の姿に、セアラは言いようの無い罪悪感を覚えていた。
「少しお休みになった方が良いでしょう。皆さんが疲れ果てています」
「あの山の中腹辺りで休憩にしましょう。今は少しでも距離を稼いでおきたいのです」
セアラはこの難民を束ねるリーダー格の一人である。
彼女はエルフ族の出身者であるが、何故か他のエルフたちとは異なり森林内の結界にとじ込まらず、難民達の中を動き回りケガの治療などに明け暮れていた。お供は数人だけなのだがどれも種族がバラバラで、中にはダークエルフも居たりする。
実質この難民を束ねているのはウォルフェンなのだが、彼女の発言権も中々の物なのである。だが、彼女は決して出過ぎた真似をせず、時折横から助言などのフォローを行う立場であった。
基本的な序列はNo2に甘んじている。
「急ぐ必要もあるでしょうが、このままでは皆さんが限界に来てしまいます」
「……確かに。ここまで来れば追手は来ないでしょうし、いざと為ればグラードス王国がありますからな」
「あの国も異種族には好意的な国でしたね」
「えぇ、小さな国力ですが、ここ数十年で急激に力を付けてきた国です。しかも、貴族内には我等の同胞も居ますからな、我等を受け入れてくれるかもしれません」
「それは最後の手段ですね。今は闘いの神に会う必要があります」
「我等を受け入れてくれるほど慈悲深い方か、あるいは……」
「災厄を齎す厄神かですね……」
神域を作り出せる以上、この神はイルモール神を超える最強の部類に属する存在である事は分かる。
しかし、その存在が自分達にとってどういった存在かは全くの未知数であった。
行き成り現れたこの闘神は魔王に戦いを仕掛け殲滅し、かと思えばグラードス王国国王を救う真似をしている。その中で有名になるっているのが【神の試練】であり、これは魂の資質を見せるための儀式を行った事が広まっている。その中でグラードス国王は、弱った体で聖剣を鞘から抜くと言う無茶な試練を受けたのだ。
その試練を見届けた時、闘神は聖剣を国王の物であると宣言、そして神の秘薬で病を癒し同時に若さをも取り戻したのである。
グラードス王国の国王は賢王としても知られており、武人としても並び称される程の人物だ。
その功績は試練と共に神に認められた事を称され、今では聖人として扱われつつあった。
この話から類推するに、間違っても好戦的な神では無い事が伺われる。
「我等も試練を受けるのでしょうか?」
「それは分かりません。ですが……何にしても神域まで行かねばならないのは確かでしょう」
二人は神域のある方角を見つめる。
そこから感じる濃密な魔力のうねりは、獣人とエルフである二人に否が応でも存在感を与えて来る。
種として備わった感覚にすら影響を及ぼす程の存在であると分かってしまうのだ。
それは神域に近付くにつれ、彼等亜人種達に枷となって圧し掛かって来る。神域ですらこれほどなのだ、当の神に出会ったらどうなるか分かった物では無い。
それでも彼等は行かねばならなかった。
ただ、平穏に暮らせる場所を求めて……。