鉱山へ行こう
皆さん、こんにちわー。
ごぶりんのレン君生後二か月です。
早いもので、メリッサと生活を始めて二か月が過ぎようとしています。
途中からモーリーが加わりましたが、いたって平和そのもの。
最近思うのですが、俺て只のお手伝いさんになってね?
朝起きて朝食を準備し、その後掃除洗濯をしながら昼の準備をし、適当に家事や薬を作りながら夕食の献立を考える。
ここ数日こんな感じなのですが、これって可成り不健康ですよね?
俺としては偶に街に繰り出したいのですが……。
ごりごりごりごりごりごり……
二人とも錬金術の真っ最中。
正直おいちゃんは肩身が狭いです。
いい若いもんが部屋の中で一日中座りっぱなし、健康に良い筈がありません。
何とか打開したいのですが……。
「なぁ、二人とも……偶には街に出かけないか?」
「・・・・ん・・・・めんどい・・・・」
「お買い物はご主人様にお任せしますぅ。今は錬金術が面白いですから」
「・・・・・・・・」
これは、倦怠期と言う奴でしょうか?
二人共に外に出ようとしませんし、一応道具屋ですからお薬調合は当然の事であります。
ですがね? こんな不健康な作業を続けて良いのだろうか?
こんな事を言ったら俺は落ち着きの無い問題児に思われるかもしれませんが、正直暇で仕方がありません。
ですがね、この長い沈黙に耐えられないのですよっ!
お仕事? 俺が作った物はすべて規格外です。
とてもではありませんが、決して売りに出して良いものではないのだ。
無論、手加減は覚えましたとも、ですが普通の物を作ると精神がすり減るのは何故でしょう?
こんな状況でも多分幸せなんだろうと思うけど、この状態がいつまでも続くと人として駄目になりそうな気がする。
あ……そう言えばこの二人、俺がいなくても生活できるのか?
モーリーは料理スキルを覚えていたし、メリッサも簡単な料理は出来た筈だ。
よし、大丈夫だな。
ちょうどいいし、金属採掘に行こう。
そろそろ鍛冶で使う鉱物が無くなって来たし、一々買うにも金が掛かる。
お金は有るけどさぁ~それじゃつまらないし、やはり人は働いてこそ生きているという実感が持てると思う。
ついでにギルドにまで足を延ばすか。
何か良いお仕事があるかもしれないからね。
因みにですが、俺が作った武器の類は眷属たちに無料であげました。
ヤバい物は溶かしましたよ?
大事にとっておく意味は無いし、そもそも危険極まりない追加効果は世に出すべきじゃ無い。
量産武器を大量に作ったら、皆泣いて喜んでくれたっけ……。
「ちょっと出かけて来る。帰りはいつになるか分からないけどな」
「・・・・・ん・・・・」
「いってらっしゃ~い」
扱いがぞんざいになってる気がする。
まぁ、良いか……本音はちょっぴり悲しいレン君です。
俺、ハブられてる?
しかたない。先ずはギルドからだな……さびしい…。
* * * * * * * * * * * * *
冒険者ギルド。
それは荒くれ共が集う悪の組織である。
魔物退治や護衛を行い金をせしめ、偶に人に絡んでは衛兵の御厄介になるロクデナシの寄り合い所だ。
時折新人に絡んでは返り討ちに遭い、息巻いて依頼を受ければ直ぐに自然の糧に返る、不憫な連中が集まりやすい魔窟だ。
今日もこの場所にロクデナシ共が集い、金と素材を求めて悪事を働く。
「「「「失礼だぞっ、俺達は真面目に仕事をしてるっ!!」」」」
「おぉう? だが、命懸けのやくざな商売には変わりない」
「そりゃ、そうだがよ」
「俺達がいないと困る連中もいるのは確かだろ?」
「何を行き成り喧嘩売る様な事を言ってんだよ。俺達は見境なしに一般人は襲わねぇよ!」
「そもそも、脛に傷のある連中は冒険者にはなれねぇからなっ!」
あぁ、今日もテンプレは起きないんですね。
俺はいつになったら主人公になれるのだろうか?
誰か俺に喧嘩を売ってください。
「何を物騒な事を言ってんだ? お前に喧嘩を売ったら肉片すら残らんだろ」
「酷いやボランさん!! 僕はただ、ロクデナシを土に返して主人公の道に進みたいだけなのに!」
「主人公にしては強すぎんだよ。お前は少し自重してくれた方が良い」
「一撃必殺のヒーローかよ……何て空しい……」
「物騒な事よりは遥かに平和だろうが」
そうだけどね。
けど、偶には全力で戦いたい時もあるんです。
魔王でも戦争を仕掛けて来ませんかね?
「何気にとんでもない事を言うなっ!! 暇なら仕事をしてくれ」
「良いの? 大半は殲滅しちゃうよ? 彼等のお仕事が無くなっちゃうよ?」
「それが可能なだけに扱いがムズイんだよ。で、今日は何の仕事を受けるんだ?」
「私用で鉱物を採掘したいんだけど、何処か良い鉱山はねぇ―すか?」
「あー……あるにはあるんだが、あそこは魔物の巣窟だぞ? 地下の鍾乳洞がやたら広くてな、偶に迷って遭難する連中が後を絶たない」
おやま、以外にすんごい場所があるんですね。
地下となると暗いでしょうに、どうやって採掘に行きますかね。
「安心しろ、繁殖力の強い夜光苔が大量にはびこってるからな、意外に明るい場所だぞ?」
「蝙蝠さんが大量繁殖しているとか?」
「あぁ、キラーバッドにブラッディバットだ。他にも大型のワームなんかも住みついてるからな、並の冒険者じゃ帰って来れん」
「それはまた、刺激的な場所だな」
「偶に竜種も出て来るからな、命懸けの採掘になるだろう」
「スリル満点。それは行かなきゃ損でしょ」
「何で嬉しそうなんだよ。そんなに暇だったのか?」
暇です。
どこかのドラゴンさんと同じで暇をもてあましております。
朗らかに遊べるくらい暇ですよ?
「どんな鉱石が採掘できんだ? 鉄以外にだけど…」
「黒鉄鉱・赤鉄鉱・ミスリル・偶にダマスカス鉱に、オリハルコンも発見できるぞ?」
「オリハルコンの確率は低そうだから、ミスリル狙いにしようかな」
「それは俺からは何とも言えんが、手に入ったら少しで良いから売ってくれ」
「ほい来た。で、場所は何処なんだ?」
「待ってろ、今地図を渡す」
ボランさんは受付の奥の部屋に行ってしまった。
俺は一人寂しく彼が来るのを待ってます。
健気でしょ?
「本当に健気な人は、自分から健気なんて言わないわよ?」
「お刺身鰤ですサテナさん。その後、恋人は出来ましたか?」
「……レン君、その口を閉じないと……お婿に行けなくするわよ?」
「マジでっ?!」
「そして、私を養って頂戴ね♡」
狙われてるっ?!
この時の戦慄を俺は一生忘れないと思う。
だって、もの凄くどす黒いオーラが揺らめいてるんですよ?
こんな禍々しい気配は生まれて初めてだ……。
ヤベェ……恋人ネタは禁句だ。
てか、美人でモテそうなのにどうして恋人が出来ないんでしょうかねぇ~?
ま、まさかとは思うけど、ショタ?
「今、もの凄く失礼な事考えていなかった?」
俺は全力で首を左右に振るう。
ヤバい。この人はマブだっ!!
「良いのよ。私は年下の美少年しか興味ないから……自ら銀河の美少年を名乗る様な、自意識過剰は遠慮するけど」
「認めやがりましたよっ!! 不味い、捕食圏内だっ!?」
「ここで既成事実を作っちゃおうかしら?」
「逃げなければ、逃げなければ食われるぅ!!」
「そんなに怯えなくても良いじゃない。大丈夫、優しくするから♡」
「こんな公の場で何言ってんの?! つーか、皆さん見てますぜ?」
「……それはそれで…燃えるわね☆」
「いやぁ―――――――っ、犯されるぅ―――――――――っ!!」
「良いではないか、良いではないか……」
目がヤバイ。
完全に俺を食う気だ!!
俺様ピィーンチっ!!
「アホな事やってねぇで、仕事しろよ……サテナ」
「えぇ~っ? レン君を玩具にするの楽しいんですけど……仕事しなきゃダメ?」
「駄目に決まってんだろ。親父さんが泣いてたぞ、お前に婿が出来るのはいつになるかってな」
「だから、ここで既成事実を……」
「そんなのは別の場所でやれ、お前が衛兵に護送されるとギルドの評判が落ちるんだよ」
「いや、そこは全力で止めろよ! 俺、美味しく食われそうなんですけど?!」
「……合意の上なら良いんじゃねぇか? 捕まるのはサテナだけだし」
「良くねーだろ、俺のハートに消えないトラウマが刻まれるよっ!!」
「……レン、お前がそんな繊細な奴な訳ねぇーだろ」
「ひでぇ!!」
何て事言うんでしょうか、このムサイおっさんは……。
俺ほど繊細で傷つきやすいお子様は他にいませんよ?
肉食獣を前にしたら怯える兎さんなんですぞ?
「本当に繊細なら、サテナを見た瞬間に気絶してると思うがな……こいつ、病気だし」
「ギルマスが認めるほどの逸材だった!? 何でそんな人を雇っているんだっ?!」
「いや、こいつはまだマシな方だし……他に危険な連中なら……今、このギルドに入って来たぞ?」
「へ?」
ボランの指さす方に向き直した時、俺は信じられない物を見た。
彼等は全身を鎧で覆い隠した冒険者パーティーである。
しかし、そこに一つだけ違和感があるのに気づいた時、俺はこの世界を生まれて初めて信じられなくなった。
何故なら、彼等は下半身だけは裸状態。
股間の紳士を曝け出していたのだっ!!
「・・・・・・・・・彼等は・・・いったい・・」
「奴等はAランク冒険者パーティー、フリーダム紳士同盟の連中だ」
「な、何故に股間の紳士を曝け出してはるんでっか?」
「奴等はな、『紳士たるもの、自らの紳士を惜しみなく肌蹴ろ。それが紳士の証である』をスローガンに、常に恥ずかしくない態度であの格好をしている」
「フリーダムな紳士って、そっちの意味じゃねぇかっ!! しかも変態紳士、何で誰も止めないんだよっ!!」
「それはな……紳士は伝染するんだ………」
「!?」
俺は今、どんな顔をしているだろうか?
言葉に出ない恐怖をどんな表情で表しているのであろうか?
アレが伝染するだと? 何て恐ろしい……。
あぁ……変態は何処の世界にもいるという事であろうか?
奴等に係ったら、何れ俺も……。
……悪夢の軍団はそこにいる。
「神は……死んだ……」
「いや、神はおめぇーだろ?」
「そう、だから俺は死ぬのさ……精神的に……」
「それよりも地図だ。いい加減受け取れよ」
何でそんなにナチュラルにスルーしてるんですか?
変態紳士が其処にいるんですよ? 頭がおかしいんじゃないですか?
「毎日見てたら慣れた。お前もそのうち慣れるだろうさ……フッ……」
その時、俺はギルマスの背に漢の哀愁を見たのだった。
あぁ、この人もこんなギルドに嫌気がさしているんだ……。
すみません。俺は我儘を言いました……。
あんたも耐えているんですね、ボランさん。
「気にするな……人って奴は、どんなに非常識な事でも毎日見てたら慣れちまうものさ」
「クッ……ボランさん、アンタって人は……」
何故だろう。涙が止まらない……。
ギルドマスター……何て辛い仕事なんだ。
俺、少し舐めてました。
「ほれ、鉱山に行くんだろ? お前はお前なりに、このギルドに貢献してくれればいいさ」
「うぅ……ボランさん…俺、やってやんよ。少しでもギルドの為に……」
「頼りにしてるぜ……クッ……目にゴミが……」
「……私、あいつ等と同列なわけ?」
ショタコンが何か言ってますが、どうでも良いです。
俺は、目の前のこの人に力を貸すって決めたんだ……。
「ボランさん、不肖このレン・オーガ、ギルドの為に突貫して来るであります!」
「行ってこい。そして、無事に帰って来るんだ……幸運を祈る」
互いに敬礼を交わし、俺は鉱山に向かうのであった。
意外に神域に近かったのが救いだ。
転移魔法陣を潜ってから向かう方が早い。
それにしても……世界は不条理に満ちている。
これが世界の選択なのだろうか?
俺はこの日、世界が穢れている事を知った。
* * * * * * * * * * * * *
神域から走り続けて半日(レン基準)、俺は目的地に到着する。
そこは幾度か人の手を受け入れながら放置された鉱山だった。
原因はモンスターの出現が頻繁に起こり、犠牲者の数が続出したわけですが、現在俺の目の前にゴーレムが立ちはだかって居ります。
「ゴーレムか……ロックゴーレムだな」
正直アイアンゴーレムかシルバーゴーレムなら実入りが良かっただけどねぇ~。
魔石くらいしか手に入らないんじゃないか?
「成敗」
―――ドゴゴンッ!!
一撃粉砕したら消えました。
よわっちくて泣けて来る。
因みにドロップアイテムは魔石に耐火レンガでした。
何故に?
この鉱山を進むと、ゴーテラシス鍾乳洞にぶつかる事になる。
何はともあれレッツらゴー!!
奥はかなり入り組んでいて、まるで迷路のようです。
好き勝手に掘り進んだのか、地図に無い道があって正直困るぜよ。
早く採掘ポイントに向かいたいんですが、困った事にある筈が無い道が出来ていて悩ましい。
モンスター? 拳圧だけでイチコロっスよ?
今更蝙蝠ごときに後れを取る訳無いじゃないですか。
一撃必殺は伊達では無いのだ!
「しかし、弱い……いや、俺が異常なんだろうなぁ~……つーか、ここ何処?」
はい、迷いました。
だって、最早地図なんか意味ないんですよ?
何でこんなに空洞が増えてるんだよ、採掘ポイントは何処だ!!
何故か巨大な空洞が蛇行してたり、あるべき筈の道が完全に閉ざされてたり、挙句には何処とも分からない通路に出たりとデンジャラスなんだよ。
これ、明らかに何かが掘りまくってるよな? しかも埋めてるよな?
地中適応モンスターでも居るのか?
―――ドドドドドドドドド……
おや? 何でしょうかね、この振動。
もの凄い勢いで此方に接近しているようですが……ワームかな?
神眼発動……
=================
【超高速グランドモール】ランク5
地中を高速で掘り進む巨大モグラ。
主にワームを捕食する肉食モンスター。
その肉はとても美味で、高級食材である。
毒の爪や毛皮は討伐の難易度から珍重され高級。
色んな意味で美味しいモンスター
=================
「はい、ゲットーっ!!」
「ギョパァ!!」
出てきた瞬間に頭部に一発強力な一撃をかましました。
更に奴の上に飛びついて、止めの一撃を食らわせる。
肉や装備素材を美味しく大量ゲットしましたよ。
ふふん♡ 幸先良いですね~。
……あ、最初から神眼使ってればよかった。
採掘ポイントも分かるんじゃね? 探査魔法を一々使わなくても良いじゃん。
何で気づかなかったんでしょう。
つーか、神眼があれば探査魔法は要らない子です。意味がありません。
採掘ポイントは……七ヶ所発見しました。
では、行ってみたいと思います。
・
・
・
「うはははははははははははははは♡」
てなわけで、現在採掘ポイントで絶賛採掘中。
いやぁ~出るわ、でるわ。
色んな鉱石がゴロゴロと、笑いが止まりません。
振るう鶴嘴が進む事、今度は何を作ろうかなぁ~うへへへ♡
黒鉄鉱・赤鉄鉱・ミスリルも少々……ダマスカスは出て来ないなかな?
―――ブニョン
何でしょう。今、変な感触が伝わりましたよ?
凄く柔らかい物に突き刺さった感触なんですがね、何が埋まってるんだ?
岩を払って確認してみるか……。
「ゲッ?! オリハルコンだ……」
マジで? つーか、コレ……鍛冶場の金庫に入ってた奴よりもデカいんですけど……。
粘土質の鉱物なのだが、他の金属と混ぜる事により強度を上げたり魔力伝導率を飛躍的に強化できる。
これ……国の経済が崩壊するほどの値打ちになるぞ?
……金庫にあった方を売るか。
それにしても、ここは鉱物資源が豊富だね。
偶に宝石の類も見つかるし、一財産ここで稼げるんじゃね?
「ふむ、粗方採掘したし、次のポイントに向かいますかね」
俺は雑魚共を蹴散らしながら、次なる採掘場所に向かう。
足取り軽く、懐もホックホク。
もう、気分は最高ですぜ。
「装飾品でも挑戦してみますかねぇ~」
武器や防具の類は作ったけど、装飾アイテムはまだ作ってないんだよなぁ~。
魔法付加が使えるから作れるとは思うけど、問題はデザインなんだわ。
何の飾り気のない腕輪やブレスレットを作っても味気ないし、かと言って思い付きで作ると変な物が出来かねない。
何せ自重知らずのスキルだからね、何が出来るのか怖い所だ。
ん? 何か聞こえる……
「・・・で・・・・から・・・・」
「・・・・だろ・・・・・た・・・」
話し声ですな。
誰か採掘に来てらっしゃるんでしょうかね?
まぁ、俺一人だけここにいるとは限りませんからな、他の人がいたとしても別におかしくは無い。
何せ採掘現場だから、他の冒険者が一獲千金を目的としてここに来ていたとしても問題は無いだろう。
けどね……何か、聞いた事ある様な声なんだが…?
声を掛けてみますか?
「皆さん御苦労さまで……ジョンさん?」
「……お? おぉ?! レンじゃないかっ!! 助かったぜ!!」
声を掛けたら冒険者のジョンさんだった。
何故か顔に髭が生えており、かなり薄汚れた格好をしているんだが……。
まさか、遭難してたんですか?
「助かったぁ―――――――っ!!」
「これで地上に出られる……」
「生きて帰れるぞ!!」
・・・・・遭難してたんですね。
「まさかとは思うけど、ここ数日遭難してたのか?」
「そうなんだよ……装備を新調する為にこの鉱山に潜ったんだが、出口が判らなくなった」
「おまけに坑道が直ぐに変わるし……出るに出られなかったのよ」
「すまないが、食料が在ったら分けてくれないか?」
「ここ数日、真面な食事をしてないんだ」
食事……そう言えば採掘に夢中になって何も食ってなかったな。
うん、この辺で食事にしますかな。
飢えた獣が目の前におりますので……。
* * * * *
じっくりと香草で煮込まれる肉。
坑道内には食用のキノコも大量なので、具材としてとても重宝する。
薬効成分が含まれる茸は回収しております。
メリッサ達へのお土産だ。
目の前の腹ペコ冒険者達は生唾を飲んで鍋を凝視しているんだが、ハッキリ言って怖い。
出来上がれば速攻で鍋に突っ込みそうな雰囲気ですぜ、目が血走っておられる。
こいつ等、どんたけ飢えてんだ?
「ところで、鉱物は採掘できたのか? 何日もここにいたんだろ?」
「それがよぉ~……地図と坑道の状況が実際とは食い違って、採掘ポイントに辿り着けねぇんだよ」
「魔物は襲ってくるし、道に迷うしで散々」
「アースドラゴンに追いかけられたのには参ったよなぁ~」
「それより……飯はまだか?」
中々にハードな日々だった御様子。
待て、アースドラゴン? ドラゴンが坑道にいるのか?
「アースドラゴンは何処で見かけたんだ?」
「更に下の鍾乳洞だが?」
「アレはデカいだけじゃ無く速い……」
「レン君なら一撃で倒せるかもしれないわね」
「俺らが相手をするにはまだ無理だ……」
ネリーさん? 俺をどんたけ高く見てはるんですか?
幾ら俺でもドラゴンを必殺は出来ないと思うんですよ。
まぁ、倒しには行きますけどね。
「採掘場所は分かるぞ? 俺も行くけどついて来るかい?」
「良いのか?」
「ここまで来て無駄足だったら情けないだろ。よしみで案内してやんよ」
「「「「案内お願いしますっ!!」」」」
調子の良い連中だけど、別に良いかな。
何せ大量に鉱物が出て来るから、多少はお裾分けしても罰は当たるまい。
知り合いが困っている事だし、協力してあげるのも吝かではないだろう。
冒険者は信頼関係が命どすえ。
「その前に飯だな」
「あぁ……」
「腹が鳴るぜぇ」
「お腹すいたぁー」
「食、それは命を繋ぐ神聖な儀式……」
彼等の目には鍋しか映っていない。
そして、その鍋は完成して僅かな時間で空になるのであった。
彼等の目はとてもでは無いが、人とは思えない程の狂気を孕んでいた。
わずか数日で、人はこれほどの獣と化すのだという事を俺は知る。
その食い意地の汚さは、とても言葉で語り切れる物では無い事をここに記しておく。
彼等はこの食事の時だけ人を止めていた。
いやぁ~、飢餓状態って本当に怖いですね。
* * * * *
「いやぁ~、食ったぜ」
「美味しいお肉だったわ……あんなの初めて♡」
「全くだ」
「何の肉だったんだ? やけに旨い味わいだったんだが…」
「グランドモール」
時が止まりました。
「今、何て言った?」
「デカいモグラ」
「いや、変わってるだろ! グランドモール?!」
「最高級食材……」
「あれが……噂に聞く食材…。思いっきり掻っ込んじゃった……」
おや? まるで『もう少し味わえば良かった……』とか、そんな顔をしてますよ?
飢えた状態で美味い物を見せられたら、そりゃあー理性はぶっ飛ぶでしょ。
まぁ、数日食事をまともに摂ってない状態であれだけ食べたら、おなかの調子の方が心配だけどね。
下った所で自業自得の自己責任だ。
俺、知らねぇ~♪
「んじゃ、採掘ポイントに行くぞぉ~」
「「「「いやいやいや、もっと他に言う事あんじゃね?」」」」
「食っちまった物は仕方ないだろ? 今更後悔した所で戻らんぞ?」
「「「「うっ?! 確かにそうだけど……」」」」
「それよりも採掘に行くぞ? 俺も暇なんだからよ」
「「「「暇なのかよっ!? 急ぐ必要ねぇ―じゃん!!」」」」
「自分達が必要な分は、自分達で採掘しろよ? 俺は知らんからな?」
まだ採掘する所があるんですぜ?
こんな所で留まっている時間はねぇ―のですよ。
・
・
・
何事も無く採掘ポイントに着きました。
モンスター? 出ましたけど一撃で仕留めましたよ?
ゴーレムばっかりだったけど、大量に金属ゲットです。
ロックに始まり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、ダマスカス……一通りね。
中には、アンアン♡ゴーレムなんてのも居ましたけど……。
どんなゴーレムかって? いや、正直18未満御断りのゴーレムです。
完全人間型のゴーレムなんですけどね……妙にエロいゴーレムなんだよ。
熱海の秘宝館に行けば何となく分かるんじゃね?
エロい姿のゴーレムが、エロいポーズで待ち構えてるんです。
まぁ、ただのアイアンゴーレムの亜種なんですけど……かなりきわどい。
叩き潰せばただの鉄屑なんですけどね、何でこんなのが大量発生してるんでしょ?
モザイクが必要なくらいにヤバかったとです。
「うほ♡ ミスリルだ、ミスリルが出たぞぉ~!!」
「少ないけど、防具を強化するにじゃ充分よね」
「これはエメラルドか? ルビーも出て来たみたいだが……」
「宝石類が多くね? まぁ、資金になるから良いけどさ」
おー、皆さんウハウハですな。
俺も掘ってはいますがね、最早鉱物は要りません。
ある程度掘り進んだ後は採取に専念しとるとです。
ミスリルやダマスカス、後は宝石の類はゲットしてるけどそれだけだよ?
装飾アイテムを作るんだぁ~。
「レンがいてくれて助かったな……このままだったら強化素材も手に入れられなかった」
「ルノーさん、褒めても何も出ませんぜ? 所で、充分に採掘できたん?」
「ここまで足を踏み入れた人間はあまりいないのだろうな。正直、大量過ぎて困るほどだ」
「何だ? 変な柔らかい物が出て来たけど?」
「あ、それオリハルコン」
「「「「何だとぉ――――――――っ!!」」」」
ビー玉サイズのオリハルコンが三個ほど、小さい……。
けどね、このサイズだけでも武具がいくつも強化できるんだよ。
ほんの一撮みの欠片でも、武具を2倍くらいの強度に強化できる夢の素材です。
俺は掌サイズが一個と、子供が一抱えするサイズが一個あります……売りに出したら市場は荒れるぜ。
「その三個だけでも、ジョンさん達の防具はかなり強化できた上におつりが来るぞ?」
「マジで?! 運が向いて来たぜ」
「ミスリルは金属としては弱いけど、合金にすると強度が跳ね上がる。そこにオリハルコンが僅かに入れば強度は格段にアップするだろな」
「おぉ……夢にまで見たオリハルコンの武具……」
「一流の証だな……」
「俺抜きでここまで来れたら一流なんだけどね」
「「「「さーせんでしたっ、お世話になってますっ!!」」」」
迷ってたくせに一流の文字に酔ってんじゃねぇ。
しかも調子がいい……意外に太い性格だよな、こいつ等……。
さて、採掘も終わった事だし……
「アースドラゴンをぶっ飛ばしに行きますかね」
「「「「!?」」」」
何で皆さん固まっていらっしゃるのですか?
そこに大物がいるんですよ? 行かない訳無いじゃねぇ―ですか。
ドラゴン装備は男の夢です。
* * * * * * * * * * * * *
その頃のツェイザ道具店では、空腹な少女たちが突っ伏してた。
「・・・・・お腹・・・・すいた・・・」
「どこに行ったんでしょうかねぇ~……ご主人様……」
ただ無心で聖約作業を続けていた彼女達は、ここに来て食事が無い事に気付いたのである。
普段はレンが用意しているのだが、今日に限ってそのレンの姿が見当たらない。
それどころか、食事の準備すらされていなかったのだ。
彼女達のハングリータイマーは最高潮に達しており、最早動く気力が無い。
「そう言えば、暫く出かけて来ると言ってましたねぇ~」
「・・・・いつ・・・・・帰って来るの・・・・?」
「さぁ~……何処に行ったのかもわかりませんしぃ~」
残されているのは固いパンと、保存の利く食料や調味料だけである。
普通はここで自分達で調理する事を思いつくのだが、彼女達の頭にはその事が思いつかなかった。
この時点でレンに甘えていた事になるのだが、彼女達はそこに気付くほど大人では無い。
それ以前に、レンは冒険者でもあるので、長期的に家を空ける事も念頭に入れて於かねばならない筈である。
だが、二人はその事すら考え付かないでいた。
「いつ頃帰って来るのでしょうかぁ~……」
「・・・ん・・・・不明・・・・」
「食事……どうしますぅ~?」
「・・・・・ん・・・・めんどい・・・・」
すっかり駄目な子になっていた。
依存し過ぎて当たり前になっていた日常が、その日崩壊した事を彼女達は気づかない。
レンが戻って来るのはそれから四日後の事である。