燃えよ麺
気が付くと、そこは海だった……。
何処までも広がる海原と、太陽の光で輝く穢れなき青の世界。
ぼやけた意識を無理にでも引き起こし、何とか身を起こせば、そこには簡素ではあるが集落が点在していた。
如何やら船の上で気絶していたようだが、あの速度でよく河に投げ出されなかったものだと安堵する。
それ以前に滝から落ちた気がするんだが、何で無事なの?
いや、別に滝壺に落ちたかったわけでは無いですぞ?
純粋に不思議に思えただけです。
よく見ると既にモーリーは目を覚ましており、桟橋で蹲っております。
船酔いがまだ収まらないんだね。分かります……。
メリッサは……うん、まだ目を回しているね。
魂が渡ってはいけない河を対岸にまで行ってしまっていたようだが、どうやら無事の様だ。
うわ言で、『マヨネーズは主食です……偉い人には…それが判らないんですよ……』と言っている。
メリッサ、それは間違いだからね?
アレは調味料であって主食では無いですよ? いい加減、目を覚ましてくださいな。
「ここがサハギン…もとい、彼等水妖族の村か……干物の臭いがする」
一言でいうなら生臭い。
しかし、干物は天日に干してこそ美味しくなるのだ。
よく見るとワカメも干してある。
後で貰って行こう。
「おぉ、気が付かれましたか、レン様」
「ウォード……何とか無事だ。二人が大変な事になってるけど……」
「申し訳ありません。レン様をお運びになると思ったら、思わず力が入ってしまいまして……」
「それは良いが、あの滝を荷船はどうやって上に上ったんだ? 軽く三十メートルはあったぞ?」
「・・・・・・・」
何故、目を背ける。
そして、何故に大量の汗を流しているんだ?
聞いてはいけない事だったのか?
まさか、あの滝を泳ぎながら登ったわけでは無いだろう。
もし、そうであるなら、引いている荷船の荷物が滝壺に落ちる事になる……謎だ。
「ま、まぁ、いいか……。それよりも、何かいい干物が無いか? スープの出汁に使える様な…」
「小魚の煮干しならありますね。後は、魚の身を燻製にしたものですが」
「何っ?」
魚の身を燻製?
それって、まさか鰹節じゃないのか?
期待が膨らむ。
「使っている魚は回遊魚か? 割と大きめで、生で食うと美味しい……」
「え? えぇ、赤身の魚でとろけるような脂身が実に美味ですが、それが何か?」
「その燻製、無茶苦茶固いんじゃないか?」
「良くお分かりで…、普通の燻製もありますけど…」
「よっしゃーっ! 煮干しと鰹節ゲットだぜぇ!!」
勝利へのルートコンボは構築された。
後は作るだけだ。
あ、海苔もあったらほしいなぁ~。
「時にレン様、村の広場に奇妙な建物が出現しているのですが、何か知りませんか?」
「奇妙な建物? どんな?」
「赤い柱で壁が無いのですが、床に奇妙な文様が……」
「それ、転移魔方陣じゃね? 牛鬼の村に簡単に行けるようになったんじゃないか?」
「なんと?! では、もう滝を遡上する必要が無くなったのですか!?」
……いま、何と言いましたか?
滝を遡上て……? やはり泳いで滝登りしてたのか。
だが、荷船は? 荷船はどうやって運んだんだ?
まさか、荷物を背負って滝の上と真下を往復してたのか?
それなら荷物が減った分、船自体は軽くなる訳だから引き上げる事は可能だろう。
しかし、明らかに背負えない様な荷物はどうしてたんだ?
二人で背中に背負って、シンクロ状態で滝を溯ったのだろうか?
何にしても豪い手間が掛かるのは確かだ。
ヤベェ、スンゲェ~見てぇ!!
「便利になったな。しばらくは物々交換が楽になる事だろう、良い事だ」
「素晴らしい。これでこの村も活気づく事でしょう」
結果的に見れば離れていた村が近くなったわけだし、交流も容易になるだろう。
そうなれば特産物の交換も頻繁に行われる訳で、原始的な経済が回る事となる。
念の為に【神域の支配者】で確認した所、思った通り転移魔方陣だった。
如何やら牛鬼の村にも同じものが出現したらしい。
どうなってんの? 俺の意思が完全に無視されてんだけど……。
俺、名ばかりの管理者?
「皆がレン様に会いたがっておりますので、広場まで案内いたします」
「あー……モーリーとメリッサが再起不能なんだけど、もう少し待ってくれないかな?」
「あっ……。申し訳ありません! 水のある場所での移動を私達の基準で判断してしまいました」
「何事も経験だって、気に……少しでも留めておいてくれ……」
気にするな何て言えん。
モーリーが桟橋で倒れ込んでるし、メリッサは未だに気絶状態。
立ち直ってる俺がおかしいのか?
「彼女達はどうしてしまったのでしょうか?」
「船に揺られて酔っただけだ。明日には回復すんだろ」
「では、どこか休める場所をご用意します」
「転移魔方陣で戻った方が早くねぇか?」
あるなら便利だが、あの二人を連れて行くのはめんどい。
二人を運ぶのは手を借りればいいのだが、転移魔方陣は一日一回しか使えない。
仮に使ったら、明日の昼過ぎまで使う事が出来んのだわ。
どうも、神域がまだ完全ではないために龍脈から魔力が溜められず、神域全体に循環できない様である。
ダンジョンの位置も判明しているのだが、ここは現在閉鎖されている。
誰が管理してんだろうね?
スキルと連動しているから情報は得られるみたいなんだが、次の段階に行くまで龍脈を活性化させる必要があるらしい。その為には眷属を増やす必要が出て来るみたいなのだが、現在この神域内では眷属になりそうなのは牛さんと魚さんしかいません。
外からスカウトしてくる必要がるみたいだな……ほっといても三年くらいで神域は完成するみたいだし。
ダンジョンには興味あるね。まだ、一部屋しかないみたいだけど……。
「食事でも作れば匂いで起きるかな? 二人とも育ち盛りだし」
「気分がすぐれないのに食事は無理なのでは?」
「あの二人なら復活する。ゾンビの様にな……間違いない」
「そこは不死鳥の如くと言い直すべきでは……?」
ふっ……あの二人の食い意地を甘く見て貰っては困る。
少なくとも十人前は平らげる事だろう。
メリッサにしてみれば、マヨネーズが在ればその三倍は食える。
あの二人の胃袋は異次元だ。
ちまい体の何処に入るんだろうね? 身体の神秘で脅威だよ。
「どちらにしても運ばないといけませんよ?」
「だねぇ~。どこか日当たりのいい場所は無い?」
「そうですね……長老の家の軒先がちょうど良いのではないでしょうか?」
「んじゃ、案内してくれ。あの二人をさっさと運んじまおう」
俺はモーリーを背に背負い、メリッサはウォードが運ぶ事になった。
何故なら、俺がメリッサを運ぶと背丈の問題で引きずるからだ。
お姫様抱っこ? 無理です。手が短すぎて支えられません。
何しろオイラは見た目が10歳児のベイビーなのですよ?
体の小ささには自信があります。
鬼神化したら運べますけどね……豪く腹が減るけど。
さぁ、食材を探したろうかぁ!
結論から言えば、この村は只の漁村でした。
ただし、周りが断崖絶壁に囲まれていたけどね。
そこで手に入れられたのは新鮮な海の幸……さぁ、作ろうかぁ!!
俺の滾る食欲は、もう抑えられない所まで来ていた。
* * * * *
グツグツと煮込まれるスープを見て、自然に笑みがこぼれる。
そう、このスープは完成した時に味を深める大事なものだ。
ババエテコウの骨と浅利、さらに複数の野菜を加えた白湯スープ。
松の実に胡桃なども交えた特製のスープだ。
豚骨や鶏ガラとも違う独特の風味と香りが、俺に自然と笑みを浮かべさせる。
普通に味付けしても良いスープになるんじゃね?
だが、俺は満足などしない。
真に食べたいものはこの先にあるのだ。
そう、国民的に愛される至高の料理!!
その名も、〝拉麺〟!!
このスープの決め手となるのは煮干しと鰹節ならぬ鮪節である。
カツオでは無い所がミソで、マグロは独特の上品な深みを与えてくれるのだ。
無論、昆布や干し椎茸も中に入っている。
干物の風味はどうしても捨てる訳には行かんのですよ。
その横で煮込まれているチャーシューは、魔王である豚さんからドロップした最高の豚肉だ。
この肉を薄くスライスして束ね、それを糸で縛り上げて煮込む。
醤油とみりん、そして酒で味付けしてある贅沢な逸品だ。
あぁ……白いご飯で思いっきり掻っ込みたい♡
問題は麺だ。
縮れ細麺も良いが、太麺も捨てがたい。
あぁ、何と悩ましい事よ。
俺はどちらの麺を選べばいいんだ……実に悩ましい。
麺となる小麦を捏ねながら俺は悩み続ける。
そう、問題は麺なのだ。
このままでは時間が足りない。
スープは良い。時間をかければかける程に味がしみ出してくるのだから……。
チャーシューに於いても弱火でじっくりと煮込む事により、味が良くなる事だろう。
しかし、麺だけはそうは行かない。
この麺こそが拉麺を拉麺足らしめる重要な物なのだ。
細麺のツルツルした喉越し、太麺のシコシコとした食感……俺はどちらを選べばいいんだ!!
不本意なのだがババエテコウは骨で出汁を取ると、どちらの麺にも合うのだ。
あんな悍ましい魔物だと言うのに、実に上品な味わいの出汁が取れる。
糞猿の分際でどこまで俺を苦しめるのだ……。
「クッ……仕方が無い。中太麺で行くしかないか……」
妥協……何て嫌な言葉であろう。
しかし、このままでは俺が悩み続けてしまう事になる。
あぁ、神は俺に試練ばかりを与えて来やがる。
「さて……」
俺はアイテムボックスから、ある武器を取り出した。
=================
【神鉄の棍】 ランク6
神鉄製の長い棒。
特殊効果は一切ないが、頑丈で打撃力がある。
重量もそれなりにあり、麺棒としても使える。
=================
これを鍛えてから、いつかは拉麺を作ると決心していた。
逆に、こんな物を作らなければ拉麺が食いたいなんて思わなかっただろう。
さぁ、いこうか……極上の麺を打つために。
「れ、レン様? その武器はいったい……」
うるさいぞ、ウォード。
これから神聖な戦いが始まるのだ。
食材との真剣勝負がな……。
今日の俺は……マジだっ!
俺は棍棒を構え、呼吸を整える。
逸る気持ちを抑え、目指すべき麺の頂のみを見つめるのだ。
「ふぅ……フォ~~~~~~っ、ハイヤァッ!!」
―――ズドン!
麺生地に狙いを定め、渾身の一撃を放つ。
確かな手応えを俺は感じた。
「ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ!!」
連続で繰り出される突きが、麺生地を巧みに練り上げて行く。
だが、まだだ。
まだ、こんな物では無いはずだ。
「ハイヤァ―――――――――ッ!!」
―――ズバンッ!!
麺生地を麺棒の先端の絡ませ、上からテーブルに叩き付ける。
風切り音を立てて振り回される麺棒が連続して麺生地に撃ち込まれ、そのコシをより強固な物へと変えて行く。
良い麺は良く叩かなければ出来上がらない。
―――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
隙など与えない。
僅かな隙が麺生地を殺すのだ。
より強いコシを、より最高の歯応えを求め麺棒は激しく叩き込まれる。
「セイッ!!」
空中に高々と舞う麺生地。
「ホォ~アァタタタタタタタタタタタタタタタッ!!」
その麺生地に向けて、麺棒で突きや打撃を繰り出す。
空中の麺生地はその場で停止しているかの如くその形を変え、何度も力強く練り上げて最高の状態へと鍛え上げられる。
更に麺生地に向かって高々と飛び上がり、麺棒を思いっきり叩き付けてテーブルへと落した。
―――ズバァ―――――――ンッ!!
そうだ、麺づくりとは格闘技だ!
より良い麺を打つためには強力な打撃が必要不可欠。
中途半端な威力など必要は無い。
求められるのは強いコシを生み出す強力な一撃。
「りょ、料理とは、ここまで苛烈な物だったのか……何と、奥深い……」
ウォードがなんか言ってる。
当然だ。
拉麺、うどん、蕎麦、凡そ麺類には歯応えが必要となる。
その満足感が人の胃袋を満す要因の一つでもある。
故に中途半端な捏ね作業など不要だ。
俺はこの作業を幾度となく繰り返す。
麺生地は大量に必要なのだ……何故なら、家には大喰らいがいるから(切実)。
=================
【神麺(中太)】 ランク8
究極にして極上のコシがある最高のちぢれ麺。
スープに絡みやすく喉越しも良い。
食べた者に至福の満足感を齎す奇跡の麺である。
特殊効果【満腹度80パーセント】が加わる。
怪我人をたちどころに癒す【超回復】が発動する。
更に、【筋力増強効果・特大】【超節制】により数日は食事を摂らなくて済む。
『これは……麺ではありませんね。貴方は何を作っているんですか?』
=================
あ、上司のお姉さん、こんにちわー。
部下の粛清は済みましたか?
『粛清はしてませんよ? ただ、調ky…いえ、教育を施してあげただけです』
いま、調教て言いかけたよな?
奴がどんな目に遭ったのか気になる処だ。
『もっとーっ!! もっと俺を蔑んでくれぇーっ!!』
『うるさいですよ? 少し静かにしてください』―――ビシッ!!
『アァ――――ッ♡ いい……実にいい♡ もっと~、もっと叩いて下さい女王様ぁ~♡』
・・・・・・奴は遠いところへ行ってしまった様だ。
禁断の扉を開き、新たな世界を見てしまったんだなぁー……。
別に同情はしないけどさ、あんたら人の脳内で何してくれてんの?
正直さぁ~、知りたくも無かったよ。そんな世界……。
俺の脳内はどこに繋がってんのさ?
「レン様? 何故に虚空を遠い目で見ておられるのですか?」
「世界は不条理に満ち溢れていると知ったところさ。……気にするな」
「? 何の事でしょうか?」
ウォード……世の中にはね? 知らなくて良い事もあるんだよ。
さて、麺も出来たし、後はこの麺を揉んでちぢれさせて於けば準備完了。
では、盛り付けを始めますかね。
麺をお湯でゆで上げる前に、この日の為に作った特製の醤油。
ねぎは軽くラー油で味付け。
ナルトとメンマが無いのが残念だが、これは後から作る方向で良いでしょう。
無い物ねだりをしてもいけません。
あ……どんぶりが無かった。
仕方が無いので木の器に盛りつけるしかないだろうなぁ~、今日は試作の段階だからこれで良しとして置こう。
「特性醤油を器に入れ、そこのスープを流し込む」
「おぉ! 何とも良い香りなんだ……。このような料理、【美食の経典】にもありませんでした」
「ゆでた麺のお湯を切り、手早くスープの中に入れ、チャーシュー・刻みネギを載せて……茹で卵の数が足りないんだよなぁ~」
代わりにワカメを載せたけどね。
海苔が無いのが残念だ。
これで特製試作醤油拉麺は完成した。
「あ~……拉麺ですぅ……」
「・・・ん・・・良い匂い・・・」
―――グゥ~~~~~~~~!
Ohー、二人のハングリーアラームが最大で鳴り響いておるね。
やはり目覚めましたよ。食欲旺盛なお子ちゃまが……。
そして二人は途中からグラトニー(暴食者)に変わるのです。
そんな二人の前でラーメンを啜る俺。
うん、美味い。
少し具が足りないが、試作にしては上出来だろう。
スープに関しては文句は無い出来栄えだ。
麺もコシがあり、歯応えも抜群。
「こ、これは何という美味……。素晴らしい味です」
「この村に来た目的は、食材の調達だからな。是非とも自分の目で見て調達したかったんだよ」
「なるほど……しかし、貝からこれほどの旨味が出るとは思いませんでした」
「乾燥させた貝の身でも良い出汁が出るぞ? 寧ろ旨味成分が高いだろうな」
「あの猿の骨から取れる出汁も、あっさりしていながらもトロミがありますな? 他の具材との兼ね合いも実に相性が良い」
「問題はのせる具が少ない事だな。あっさりし過ぎて物足りない」
「難しい問題です。ですが、遣り甲斐がありますね」
グゥ~~キュルルルルル……キシャ―――――――――ッ!!
「どんな腹の虫だよっ!!」
「二人だけで食べる何て狡いですっ!!」
「・・・・ん・・・レン君・・・・御飯・・プリーズ・・・」
この万年腹ペコ児童が……君らが来たら全部食われちゃうじゃないですか。
村の人達にも食べていただくんですよ?
つーか、腹の中に何を飼っていらっしゃるのですか?
明らかに腹が鳴る音じゃないよな?
「仕方が無い。一杯だけだぞ? 他の人にも食わせるんだからな?」
「イエッサー!」
「・・・・ん・・・・努力する・・・」
一杯だけでは物足りぬと?
努力するほどに飢えていらっしゃるのですか?
やはり、何か得体の知れない化け物が腹の中に住みついているのだろうか?
ともかく、俺は二人に拉麺を作った。
ズゾゾゾゾゾ……
ラーメンを啜る音が響く。
「・・・・・ん・・・マヨネーズ・・・要らない子・・・」
「ふぅあ♡ すんごく美味しいですぅ」
これにマヨを入れたらぶち壊しですよ、メリッサさん……。
拉麺にマヨネーズは必要ありません。
「ウマウマ、ウマウマ」
「・・・・美味しい・・・チュルチュル・・・」
「カロリーが高そうだな。食い過ぎると太るかもしれん」
「「!?」」
何でそんな恐ろしい物を見たような目で俺を見る?
拉麺は高カロリーなんですよ? そりゃ、大量に食べれば太るでしょ。
気付かなかったんですか? 美味い物は大概が太りやすいんだぞ?
三食の食事に然り、お菓子等に然りだ。
それ以前にマヨネーズだって油とお酢だぞ?
幾ら酢の作用で健康には影響が少なくとも、油の成分が多すぎて太る確率は高いし、卵は動物性たんぱく質だ。健康に悪いから控えてくださいメリッサさん。
この世界の卵は濃厚過ぎるんです。
「酷い、女の子に太るだなんて言い過ぎですよ、ご主人様っ!」
「・・・・マヨネーズ・・・食べ過ぎ・・・駄目?」
「駄目。食事はバランスよく食べないといかんぜよ? マヨばかりじゃ健康に悪い」
「でも、お酢と卵ですよね? 油も入っているけど、そんなに悪い物じゃ……」
「この世界の卵は栄養価が異常に高いんだよ。特に黄身が濃厚で、高カロリーだ。マヨネーズに使ってる黄身の量がどれほどなのか知っているのか?」
そう、一昔前まで日本で『マヨネーズを使い過ぎると太りやすく健康に悪い』と言う噂が広まっていたが、この世界では決して噂などでは無く、マジで太る確率が高い。
一度TKGにして食べてみたんだが、すんごい濃厚で美味いんだよ。
高金額で取引されるのも頷けるくらいに極上です。
そんな卵で作るマヨネーズに使う卵黄の量が如何程か、君達は想像できるかね?
スーパーで格安で売ってる卵が目じゃ無い位に高品質なのだ。
毎日、烏骨鶏の卵を食っている様なものだぞ? 気付いていますか? 同じ転生者のモーリーさん。
「ど、どうりで……朝御飯が美味しすぎると思った……」
「・・・・マヨネーズ・・・・・」
「わかりましたかね? マヨネーズはこの世界では太る切っ掛けになりやすい事に……」
「・・・・マヨネーズだけ・・・・食べれば・・・・」
「みんなが朝食を楽しく食べる中、メリッサは一人でマヨネーズをスプーンでなめるのかな? そんな食事が美味しいのかな? ハッキリ言って気まずい食事になる事は間違いない」
そんな食事なんかしたく無いぞ?
想像してみよう。料理を口にする度に、メリッサがマヨネーズをスプーンで舐めながら恨めしそうに見つめて来るんだ。これほど落ち着かない食事は無いだろう。
そんな食事が美味しい訳が無い。
色々とぶち壊しだと思う。
「二人は、どすこいクイーンになりたいのか?」
「ど、どすこいクイーンっ?!」
「・・・・・・やだ・・・」
ただでさえ引き籠りなために運動しないから、当然栄養は余分なお肉になる訳で、瞬く間にオークの様な豚さんが出来上がりやすいのだ。
偶に採取に行くけど、とても運動量が足りないんだよね。
「・・・・・食べ過ぎには注意しようね?」
「「・・・はい・・・・」」
我が家のフードファイター、説得完了!
これでしばらくは料理する量を減らせるだろう。
まぁ、一週間持てば良い方だと思うけどね。
「おぉ? 村長、随分美味そうな物を作ってますな?」
「今まで感じた事の無い香り……食欲が沸き起こりますぞ」
「ほんと、実に美味しそうよねぇ~」
「皆、漁は終わったのですか?」
「おー、レン様にお渡しする新鮮な魚介類を獲ってきましたぞ」
海から集団で現れる水妖族の方々。
あれ? 今、ウォードの事を村長て言いませんでしたか?
「ウォード…アンタ、村長なの?」
「あれ? 言いませんでしたか?」
「聞いてねぇーよ。気が付いたら数人の村人しかいなかったし、まさかこんなに大勢いたとは……」
「大半が海で漁をしたり遊んでいますからね。陸には寝る時しか戻って来ない事が多いんですよ」
周りは断崖絶壁で囲まれた入江だしね。
河を下った所で水棲の魔物に襲われる事もあるだろうから、陸に戻るのは日が暮れてからになるのかね?
魔物は夜行性の物が多いし、態々断崖を降りてくる事も無いだろう。
比較的安全に暮らせる場所なんだね。
「それにしても、見た事の無い料理ですな」
「実に食欲をそそられるわねぇ~」
「前はどんなものを食ってたんだ?」
ちょっとした疑問が出たので聞いてみた。
「以前は貝や魚を煮込んだものが多かったなぁ~」
「その前は生魚を丸ごと食らいついてたし……」
「海藻もそのまま食ってたよなぁ~」
Ohー、WILD!
まさに原始的な生活だったんだね。
まぁ、魚に手足が生えた種族だったんだからしょうがないけどさ。
考えてみれば、進化ってとんでもねぇな。
「さてと……客も増えた事だし、全員にラーメンを食べて貰うか」
「宜しいのですか? てっきりご家族で食べるのかと思っていたのですが……」
「量が多すぎるでしょ…。まぁ、全部食いまくる底無しの胃袋を持つ奴が、其処に二人ほどいるけどな」
「「ギクゥ!?」」
「そんな訳だから、ウォードも手伝ってくれ」
「わかりました。考えてみればこれは本格的な料理……全力でお手伝いいたしましょう!」
そんなに力を入れなくても良いぞ?
気楽に行けよ、たかが簡単な料理なんだからさ。
あ……エビの殻を使ったあっさりスープも悪くは無いかも。
担仔麺も作れんじゃね?
「皆の衆、宴会じゃ―――――――――――――っ!!」
「「「「「おぉ――――――――――――――っ!!」」」」
また、このパターンかよ。
一々宴会なんてしなくてもいいのに、難儀なものだ。
別に歓迎してくれるのは良いけどさ、個人的に苦手なんだよね。
どうせ晒し者になるんだし……あぁ、めんどくさい。
こうなりゃ、自棄だ。
「お前等、俺の拉麺を食えぇ――――――――――――――――っ!!」
その日、お魚さんの村で共通した絶叫が響き渡った。
「「「「うぅーまぁ――いぃ――――ぞぉおおおおおおおおおおっ!!」」」」
大袈裟ですって……。
お魚さんの村での一夜はこうして過ぎて行った。
そろそろ村に名前を付けた方が良いですかね?
翌朝、俺達は転移魔方陣で帰宅したのであった。
追記。
豚魔王さんのチャーシュー丼は大変おいしゅうございました。
メリッサたちには内緒でお願いします。
* * * * * * * * * * * * *
森の中を鋼のぶつかり合う甲高い音が響き渡る。
戦っている者は前進を白い鎧で身を包んだ騎士達と、相対するはエルフや獣人達で構成された混成部隊であった。
戦力的には一進一退の攻防が続き、双方ともに大きな犠牲を強いられていた。
「糞っ! これ以上は先に進ませるなっ!!」
「この下種共をこれ以上増長させてはならんっ!!」
騎士達の侵攻を食い止めようと、亜人種達は命懸けで阻んでいる。
対する騎士達も、自分達の正義の為に剣を振るっていた。
いや、一部の者達はそうは思っていないのかもしれない。
何故なら、この戦況を後方で眺めている司令官は、下卑た笑みを浮かべタイミングを見計らっていた。
この騎士達はメルセディア聖国軍であり、獣人の帝国でもあるセカンダリア獣帝国に戦いを仕掛けたのだ。
多くの目的は亜人種達の制圧と彼等を奴隷化するためであり、人間至上主義と化した聖国は長い歴史の中で何度も起こした戦を再び仕掛けたのである。
「重槍騎士団を前に出せ、前線部隊はそれに合わせて左右に展開。獣共を叩き潰せ」
「了解! 前線に伝令!!」
命令は直ちに実行に移される。
重装備の槍兵は動きは遅いが、集団で槍を持って前進するために正面からの突破は難しい。
更に両翼に部隊を分ける事により、亜人種達を一気に制圧するつもりなのだ。
更に悪い事に、亜人種達の後方には魔獣聖域が広がっており、この新緑地帯に侵入する事は自殺行為に等しかった。
亜人種達には引くに引けない背水の陣になってしまていた。
「チッ、俺達を魔獣共の住処に追い込む気か」
「このままでは、民達が奴等の食い物にされる……それだけはさせぬっ!」
獣人達は特に仲間意識が強い種族である。
一度同胞と認めてしまえば、容易に裏切らない義理堅い気質であった。
その為、他の種族と共にいるエルフやドワーフ、ホビットやフェアリー達すら守ろうとしていた。
彼等も元はエルフたちと敵対していた歴史がある。
しかし、メルセディア聖国が侵攻を開始し、他の種族が雪崩れ込んで来てその垣根は崩れ去って久しい。
今では互いに支え合う同胞であり、守るべき仲間であった。
だが、それだけに戦う力の無い民達は足手まといになり、このままでは全滅する可能性まで出て来たのである。
「不味い……押し切られる…」
『南へ……』
「「「「!?」」」」」
彼等の脳裏に響く女性の声。
『南に新たな神の領域があります。そこへ向かいなさい……』
「こ、この声は……まさかっ!」
「イルモール様の神託かっ?!」
「だが、南には魔物の住む領域だぞっ!?」
信託は彼等に希望と絶望を与えていた。
確かに、助かる為には魔物の住む領域に足を踏み入らねばならない。
しかし、新たな生活圏を得られる保証はどこに無かった。
ましてや、イルモール神の言う新たな神が自分達を助けてくれるとは思えないのだ。
『彼の者は闘いの神……気高き魂を愛する存在。故に示しなさい、汝らの魂の輝きを……』
「おぉ……闘いの神、勝利を導く存在か!」
「聞いたか、皆っ!! イルモール様が救いの道を指し示してくださったぞ!!」
「我等は魔物の領域を抜け、神の神域へと向かうぞっ!!」
「民達を守れ、我等の魂を闘神様に示すのだっ!!」
彼等は一斉に動き出し、魔物の領域へと突き進んで行く。
呆気にとられたの聖国軍である。
魔物の領域は別名【魔王の戦場】。
魔王同士が戦い、覇を競い合う危険地帯なのだ。
誰が好き好んで足を踏み入れるだろうか?
だが、彼等は知らなかった。
この領域をうろついていた暴食魔王が既にいない事を……。
聖国内では新たな神の存在について箝口令が敷かれ、決して民に知らされる事が無かったのである。
無論、聖国軍の中にもである。
その後、この騎士団は背後を突かれ、瓦解しながらも自国に帰還する事になる。
やられたら倍返し、それがセカンダリア獣帝国であった。
先の話は兎も角、魔王の戦場へ突入して行く亜人種達を見ている存在がいた。
金色に輝く艶やかな髪と、長い耳の女性である。
一見すればエルフと思われるだろう。
しかし、内包する力はエルフすら足元に及ばないほど強大な力を秘めていた。
「……何とか誘導は出来ましたね。後は、彼の者の采配次第と言うところでしょうか……」
「奴らめ……好き放題やりおって! あの者共がいなければ今頃聖域は……」
「よしましょう……聖域の事はもう良いのです。今は彼等を導くのが先決です」
「しかし、新たな神が我等に力を貸してくれましょうか? もし、手に負えない様な荒ぶる存在であったなら……」
「その時は……我が身に変えてでも彼等を守ります。それが私の役割なのですから」
「口惜しい限りです。どことも知れぬ神に我等の命運を託さねばならぬとは……」
「今は良いですが、彼の存在に出会ったとしても、決して剣を向けてはなりませんよ? 彼の者の力は私よりも遥かに強大、とても太刀打ち出来る様な相手では無いのですから……」
「御意に……全ては御身の命のままに……」
「では、彼等と合流いたしましょう。闘神の神域まで彼等を守らねばなりませんからね」
彼女は軽く杖を振るうと、忽然とその姿が消え去った。
当の鬼神の意志を無視し、事態は転がり始めるのである。
その頃、鬼神であるごぶりんレン君は、呑気にラーメンを啜っていたのであった。
歯応えの無い麺は麺じゃない。
伸びきった拉麺は、最早死んでいる。
チャーハン、TKG、チャーシュー丼。
半ライスにも種類もありますが、個人的には普通にライスです。
ギョーザもあれば幸せ。
レン君の拘りには、自分の好みが含まれております。
因みにレン君は水ギョーザ派、あれ? 俺は焼きギョーザ派なんだけど?
レ 「俺をどこぞのドラゴンと一緒にするな。かぶってんだよ!」
リュ「作者が同じなんだからしょうがねーだろ。諦めろ」
レ 「納得いかねぇ、俺は男なんだ。オカマ扱いされんのが嫌なんだよ!」
リュ「男の娘だろ? 何が不満なんだよ、男なだけマシじゃん」
レ 「アンタはどうなんだよ? 性別が女に固定されてんのか?」
リュ「知らん、それも気分次第で話が変わる」
レ 「いい加減だな。俺もそのノリで弄られんのか?」
リュ「俺はむしろ暴れる側だからな、女装させられる事は無い」
レ 「あんたはセクハラ受けてんじゃん」
リュ「設定次第で状況は変わる。何とかなんじゃね?」
レ 「そうであって欲しいけどね。そのうち女湯に入れられそうで怖い」
リュ「あー、頑張ってくれ。俺は性別が無いのが本来の設定だから」
レ 「裏切られた?! つーか、性別で作者が悩んでるらしいぞ?」
リュ「マジで? なら、性別無しの方で頼みたい」
レ 「それも気分次第だろ? ロボで暴れたんだから良いじゃん」
リュ「良くねーよ? 性別がハッキリしてないとお怒りを受けてんだ」
レ 「大変だなー」
リュ「お互いにな…」
作 「男の娘、良いじゃん。どっちつかず、ナメクジじゃなくて良いじゃん。弄って、弄られ、暴れられればそれで良いじゃん!」
両 「「死ねぇ――――――――――――――っ!!」」
作 「ぎゃぁああああああああああああああああああっ!!」
レ 「殺ったか?」
リュ「処分、どうする? 埋めとくか?」
レ 「半分死んでるような奴だからなー、焼却で良いんじゃね?」
両 「「証拠が残らない様に!」」
こんな夢を見ました。