エテ公は危険と知った日
春はボノボノ……。
『いぢめる? いぢめる?』と言いそうなメリッサさんと、0歳わがままボディ牛幼女と共に、今日も元気にレベルアップをすべく採取と言う名の殺戮の巷へ来ております。
勿論ギルドで依頼を受けてですよ?
我が家には金銭感覚がどこかおかしい必殺の仕事人がおりますれば、お金は有るに越した事はありません。
俺は確かに金は有ります。しかしですよ?
生活費すら素材に注ぎ込むメリッサの感性を矯正しなければ、万が一俺が長期出張した時に飢え死にしかねないのです。
『・・・ん・・・マヨネーズがあるから大丈夫・・・』などと言い切るメリッサさんですが、原材料である卵が高価なのと、異常なまでの消費量が追い付かないのです。
嫌ですよ? 帰ってきてドアを開けたらミイラ化したメリッサさんを見る羽目になるのは……。
考えすぎだ? いいえ、現在進行形でありうるのです。
業務用マヨネーズ500本あったとします。
先ず一週間はもたないでしょう。
それ程までに消費量がハンパねぇ―のですわ。
以前にも申しましたが、『マヨネーズが主食』になっているんです。
本人もそう豪語致しましたことを、ここにご報告いたします。
さて、今回のご依頼ですが……
=================
【ミッション】 冒険者ランクC
グレートビックボアを討伐せよ。
オラの村さ畑にグレートビックボアが出たさ。
畑ば荒らされて困っておるだべ、至急討伐してけろ。
村のもんさ怖くて外に出れねぇべ、誰か助けてくだせぇ!
森には【ババエテコウ】も出没するさね、き~つけてくんな。
=================
こんなのです。
【ババエテコウ】はその名の通り、糞を投げつけてくるお猿さんですぜ。
白と赤の毛皮が珍重されている猿なのですが、素早い動きで捕まらないのが特徴で、木の上から糞を投げつけて来るらしい。
動物園のゴリさんのようですな、ストレスが溜まっているんでしょうかね?
現在メリッサとモーリーが絶賛殲滅中。
正直俺のやる事がねぇ。
だって、ねぇ……
「・・・・ん・・・捕まえた・・」
ワイヤートラップで片っ端から捕縛するメリッサと……
「ナイスです。師匠っ! そ~れ、パッカーン♡」
巨大な戦斧を振り廻して薙ぎ払うモーリーが無双してんだよ。
もう、一方的すぎぃ~ぃ! 殺る事が無い。
気配を消して罠を仕掛け一気に捕縛するメリッサと、一撃粉砕の轟斬撃をぶちかますモーリー。
一気にレベルが上がるので威力も増加し、ボーナス効果でウハウハですわ。
幼女でもさすがは牛さん、マップ内の敵性エネミーが一瞬でで消えていんだな~、コレが……
俺はいらない子になっています。ちょっぴり疎外感……
これはアレですか? 大艦巨砲主義は時代遅れだと言いたいのですか?
所詮は航空戦力の前に消え去る運命なのですか?
弱い相手だと役立たずな私、るぅ~る~るる~る~……空しい。
しかしなんだね……。
倒せば倒すほどにお猿さんが集まって来てますが、気のせいでしょうか?
視界の片隅に映る単為マップに、赤い点が無数に此方に寄って来てますぜ?
恐らく木々の間を飛びながら移動してるんだろう。こちらを囲むように移動している。
・・・・・スゲェー嫌な予感がします。
「メリッサっ、モーリー! 嫌な予感がする。直ぐにこの場から離脱するぞっ!」
「えぇ~? もう少しでレベルアップできるんですよぉ~?」
「・・・・ん・・・」
「囲まれたらタコ殴りだ。有利な地点へ移動した方が良い」
「この程度なら倒せますよぉ~、やらせてくださいよ御主人さまぁ~!」
「・・・・ん・・・」
メリッサさんもやる気だ。
何故か人の言う事を聞いてくれません。
これはアレです。レベルアップ・ハイに罹ってしまった様だ。
糞猿が遠回りに包囲網を構築し、次第に接近してきている。
ん? 糞猿?
念の為にアナライズ機能を使ってみます。
=================
【ババエテコウ】 ランク3
通称、投糞猿。
群れで行動して獲物を狩る凶暴な猿である。
縄張り意識が強く、侵入者は執拗に追い駆け回し排除する習性をもつ。
周りを囲み集団で糞を投げ込んで来るので注意が必要。
その臭気はもの凄く臭く、一ヶ月経っても臭いが消えない程である。
オナラも酷い悪臭なので注意。
この悪臭を消すには【最上級消臭液】が必要。
囲まれたら全力で逃げろ。
=================
・・・・・・・・・マジで? 今、ヤバくないっスか?
「に、逃げろぉ――――――――――っ!! 奴等、頭上から糞を投げて来る気だっ!!」
「「?!」」
理解したのか、二人は慌てて逃げ出す。
俺も逃げなければ恐ろしい攻撃の餌食になってしまう。
走れっ、走れ、はしぃ~れ~っ!!
―――ビシャ!
来たぁ――――――――――っ!?
悪魔の攻撃。
何という汚い攻撃だろう。
四方八方から雨霰の如く、悍ましい物体が飛来して来る。
たちまち周りは悪臭に包まれて行く。
吐き気を催す強烈な臭気だ。ある意味、地獄!!
『『いやぁあああああああああああああああああああっ!!』』
『・・・ん~~~~~~・・・・・・・・・・っ!!』
追いかけて来るぅ~~~~~~~~~っ!!
なんて酷い攻撃なんだぁ!!
こんな恐ろしい攻撃は見た事が無い。
怖い。別の意味で怖すぎるぅ~~~~~~~~~っ!!
何とか逃げないと、悪臭で殺されるぅ!!
酷い、こんな酷い攻撃を仕掛けて来るなんて、大自然は何て恐ろしい!!
包囲網が完成していなくて助か……ゲッ?!
前方にやたらデカイ猿とババエテコウが……。ま、まさか、誘導されたっ?!
デカい猿を中心に横一列に並び、一斉にこちらに尻を向けた。
「「「!?」」」
―――バブフゥ―――――――――――――ンっ!!
周囲に毒々しい黄色の霧が立ち込めた。
それ以降の記憶は俺には無い……。
気が付けば、見知らぬ洞窟に身を寄せ合って震えていました。
幸いメリッサが最上級消臭液を持っていたので助かりましたが、もし持って無かったらと思うと恐怖で涙が出てきます。
外に出て吃驚、森が広範囲で枯れていたんですよ。
「これが……オナラの威力なのか……。恐ろしい……」
恐るべし、猿!! そして悪臭……おぇ、吐き気が……。
雑魚とは言えど、甘く見てはいけないという教訓を学びました。
それから一時間後、グレートビックボアを倒しました。
猿に比べれば楽勝でしたよ。ははは……。
更にババエテコウの群れを仕留めた。泣きながらですがね……フフフ…。
あのデカい猿は【ゴッドババエイプ】と言う上位種らしい。
スーパーやキング、グレートを通り越してゴッドです。
経験値は美味しかった(二人にとって)みたいだけど、それ以外が酷過ぎる。
どうやって倒したかって?
そんなの……【断罪の雷】に決まってるじゃないですか。
あの猿とは二度と狩りたいと思いません。
色々大事な物を無くしそうです。
今日、生まれて初めてトラウマを刻んだ。
悪夢は群れでやって来る……しばらく魘されそうだ。
森林の白い悪魔には気を付けろ。
* * * *
「で? 三人はこうしてテーブルで突っ伏しているのか……。まぁ、気持ちは分かる」
「どうも……。あの猿は酷い、別の意味で悪魔だ」
「・・・・・・ん・・」
「二度と、あのお猿さんのいる場所には行きたくないですぅ~」
精も根も尽き果てた。そんな俺達をボランのおっさんは苦笑いを浮かべ見ていた。
正直もう、動きたくないっス。
魔物の生態系は分からんけど、あの猿だけは近付きたくねぇ。
精神がガリガリ削られて行くんですわ。
「毎年、新人が良く犠牲になる。ランクの割に強くは無いんだが、集団戦に持ち込まれると厄介な猿だからな」
「女性冒険者も嫌厭するんだろ? なんせ、あの攻撃は酷いからなぁ~……」
「あぁ、だから討伐依頼を受ける奴等がいなくてな。毛皮の値段が一気に高騰する」
「そんで数が増えて、難易度が上がるんだな?」
「肉も旨いぞ? 美食の経典に乗るほどの食材だ。高値で取引されてはいるが、中々出回る事は無い」
「何? その美食の経典て?」
「遥か昔、勇者アジノが記したとされる美味なる食材調理法が書かれた料理人のバイブルだ。彼は世界中を駆け回り、ありとあらゆる食材を求め戦い続けたと言う」
「そのついでで魔王を倒したのか?」
「うむ、魔王シモフリオンは至高の肉であったと書かれているとか。正に幻の肉だな」
「魔王……食われたのかよ」
凄い勇者がいたもんだ。
人の為で無く、自分が求める食材の為かよ。
それで魔王を倒すんだから非常識だ。
「お前も至高の肉を持っているんじゃないのか? 豚魔王の……」
「あるかも知れんが、世に出す積もりは無いぞ? アレは俺が食う」
「それより、ババエテコウの毛皮が在れば売ってくれないか? 商人達からも催促が来てんだよ」
「いいぞ? 大量にあるし、俺はいらん」
「小出しで売りに出してくれ。一気に市場へ売りに出ると価値が下がるからな」
「とりあえず、ババエテコウが200、ババソルジャーが135、ゴッドババエイプが3て所だな」
「・・・・・・どんたけ大規模な群れだったんだよ」
「コレでも半分んだぞ? 間引きされなかったから、そこまで増えたんじゃね?」
「定期的にギルド強制依頼で倒した方が良いか……? 辺境村の被害が出そうだ」
「新人を含むCランクの冒険者に強制依頼を出せば? 良い経験値を稼げると思うぞ?」
嫌な魔物でも倒さなくてはいけない時があるんです。
集団戦が厄介という事は、ごく少数規模の群れにしておけば然程脅威では無い。
これは冒険者が選り好みをして討伐をしなかったツケだと思う。
・・・・・・何で俺がそのツケを払わんといかんの?
解せぬ。
「まぁ、そんたけ売りに出ればしばらくは商人共も潤うだろう。換金してくれるか?」
「骨なんかも使えるのか? 結構ドロップしてんだけど」
「スープの出汁にすると旨いらしい。料理人が挙って買い漁るだろうな」
「じゃぁ、それも半分ほど売ろう。後は俺が使う」
スープの出汁か……ラーメンの出汁に使えるか?
何事も試してみなければ分かるまい。
後は貝なんかも手にはいれば、試作できるかもしれんな。
ラーメン……何て心に響く料理名なんだ。
おいちゃんの心を激しく揺さぶりますよ。
「じゃぁ、手続きの書類を申請しておくぞ?」
「うーす。準備が終わるまで、俺はここで暫くダラダラしてます」
「迷惑はかけるなよ?」
「俺にその積もりは無い」
でもね、お約束を諦めた訳では無いのですよ。
今度こそ主人公路線に乗ってみせますとも。
ギルドで馬鹿を叩きのめしてこそ、正当な主人公への道が開かれるのです。
「まぁ、過ぎた事を思い出しても仕方が無い。何か食べて帰ろう。あっ、お姉さん。オーダーよろしく」
「は、はい!?」
ちょうど傍を横切った食堂担当のウェイトレスさんを呼び止めた。
うん、新人さんだね。
実に初々しいですな。
「・・・・ん・・・こってりランチBセット・・・」
「・・・じゃあ、日替わりランチのCセットで」
「俺は……『山間部なのに北海の香り漂う、草原の彩り豊かな砂漠のスパイシーな風味ロクサ―ナ地方風、溶岩の如き冷たい永久凍土を醸し出す、モロモロ鳥の香味焼定食』で頼む」
「な、何それっぇ―――――――――っ!?」
「・・・ん・・・・意味・・・不明・・」
ですよねぇー、俺も意味が解らん。
ただ、メニューに書いてありましたので頼む事にします。
頼んだ後に出て来た物は、普通に鳥を香辛料と香味野菜でを丸ごと香ばしく焼いたお肉と、野菜スープ・サラダ標準装備でパンはおかわり自由との事でした。
ただ、モロモロ鳥の香味焼定食としかウェイトレスのおねーさんは言ってませんでした。
長い前書きは何のために?
「お…おぉ……ご主人様、美味しそうですね?」
「ん、美味いぞ? 中々にスパイシーで、舌がヒリヒリするけど」
「・・・・一口・・・ぷりーず・・・」
モーリーの頼んだものは大体が俺と同じだが、鳥肉では無く川魚のムニエルでした。
メリッサが注文したやつは、角切りの焼いた肉にこってりソースの掛かった実に旨そうなステーキ。
スープもビーフシチューを思わせる様な、肉煮込みでした。
どちらも旨そうなんですけどね、やはりメリッサがマヨネーズを普通に使っています。
変な味になりませんかね?
ただ一つだけ、感動する事がありました。
メリッサがマヨネーズを節約しとるとです。
涙が出そうになったとばい。
思わず世界の中心で叫びたかなったとです。
「ライスが無いのが残念とです……」
「う~ん……確かに御飯が欲しいですねぇ~」
「・・・・マヨネーズ・・・・代用・・・」
「「ふつ―、ならねぇ―からね?」」
前言撤回、やはりマヨラーはマヨラーです。
御飯の代わりに山盛りマヨネーズって、いったい何の罰ゲームなんすか?
普通に胸焼けしそうです。て、何ですか、その丼に入ったマヨは?
それを使ったら、マヨネーズはしばらくお預けですぞ?
「師匠、そのマヨ使ったら……しばらくマヨネーズは作れませんよぉ~?」
「・・・・ん・・・・進むべきか、退くべきか・・・・それが問題・・」
「退くべきだ。俺はしばらくマヨは作らんぞ? 面倒だから」
「!?」
あの…メリッサさん? 何でそんな絶望したような目で俺を見るんです?
そんな泣きそうな目で俺を見てもダメです。甘やかしません。
器のマヨネーズを見つめプルプル震えておりますぜ。
葛藤中? 葛藤中なのね? メリッサさん。
白い悪魔と黒い天使がビームライフルで撃ち合っている所なのですね?
「・・・マヨネーズ・・・・武力介入・・・する・・」
「「ぶっかけたぁ――――――――――――――っ!!」」
メリッサさんは欲望に敗北しました。
メリッサさんはとんでもない物を破壊しました。それは、料理の味です。
せっかくの料理をマヨネーズで破壊したのです。
食堂の料理人に謝ってください。
こちらに被害が出ないように食べ切ってしまいましょう。
いつ、マヨネーズの武力介入が来るか分からないから……。
* * * *
食事も済ませたので精算の時間です。
ギルドの奥にある素材倉庫で、ババエテコウのドロップアイテムを大量に山積にした。
職員の皆さん驚愕していたけど、やり過ぎた?
まぁ、大量に持っていても意味が無いんです。
だから売りだ。何度か分けて売りに出しますぜ。
へへへ……どうでぇ、買うのかい? 買わないのかい?
これを逃したら後がねぇぜ?
「これはまた……大量だな……」
「ババエテコウはしばらく出てませんからね。商人が押掛けますよ?」
「骨もあるから料理人も……あ、肉は売ってくれないのかい?」
ボランのおっさんと、職員のお兄さんはホクホク顔だ。
肉? 美味と言われる程の肉なら、そう簡単には売りませんぜ?
「爪や牙もあるけど、売れるのか? 何に使うか分かんねぇんだけど……」
「武器を鍛えるときに粉末状にして金属と混ぜ合わせるそうだ。属性追加効果が加わるらしい」
「魔法薬にも使えますよ? 属性力を上げたり、耐性を強めたりする感じのですが」
ほう、良い事を聞いた。
今度試してみよう。
「・・・属性効果魔法薬・・・・作れる・・・たくさん必要・・・」
「じゃぁ、少し売りに回して、後は調剤素材として残しておくか?」
「・・・ん・・・お金、大事・・」
「師匠、散財してる人が言っても説得力ないですよ?」
魔法薬はメリッサに任せよう。
俺が作ったら常識を覆す物が出来ちまう。
嗜む程度で丁度いいのだ。
「これが換金の金額だ。異論が無ければ直ぐに金をを渡すぞ?」
「特にないぞ? 三人で山分けで良い」
「おう、暫くはギルドも安泰だな」
「そうなのか?」
「仕事を選ぶ連中が多すぎんだよ。おかげで消化されない依頼書が溜まってな、下手すると村一つ消える事もある」
難儀な話だ。
確かに実りの無い魔物もいるだろうが、間引きは頻繁に行わないと農作業にも影響が出るだろう。
村を襲うのは繁殖目的だろうし、依頼書と実際の状況が食い違う事もあるだろうな。
最悪、冒険者が仕事を選り好みし過ぎて国が滅ぶ事態になり兼ねない。
その所為でギルド自体の信用にも大きく影響が出る事だろう。
バランス良く依頼書を消化するのは中々に難しい。
「まぁ、報酬が安いと誰も仕事を受け付けなくなってな、辺境に近付くほど顕著に現れる」
「だろうな。移動するにも金は掛かるし、馬車を持ってる冒険者なんて少ないだろ?」
「大所帯のクランだけだな。フリーや駆け出しには痛い問題だ」
クランは冒険者が効率良く依頼を消化するために作った、一種の会社の様なものだ。
それぞれのランクに合わせ依頼を効率良く消化し、ノルマに応じて個人の収入が変わる。
フリーの場合は報酬は自分の物になるが、個人で動くために収入は低い。しかし、クランになると依頼を多く果たした者が高収入を得られ、同時に集団で効率良く依頼を果たすので損耗率も低くなる。
ただ、クラン内部では独自の戒律があり、仕事を熟せない者は容赦なく切り捨てられるだけでなく、手を抜いている者は収入が少なく下手をすれば追い出される。
実力がモノを言う冒険者の世界は結構世知辛いのだ。
「今回は複数の依頼が纏めて消化されたからな、ギルドの面目も保たれたぜ」
「どんたけ仕事が溜まってたんだよ?」
「ババエテコウだけでも18件の依頼が滞っていた。その全てが一気に消えたんで助かったな」
「本当に人気が無いんだな……あの糞猿…」
「後一歩で騎士団が動く事態だったから、かなりヤバイ事態だった事は確かだ」
結果的に俺達は良い事をした。
懐も温まる事でしょう……メリッサの……。
「で、これが報酬だ」
ボランのおっさんはテーブルの上に金の入った布袋を載せて行く。
最初は金貨の入った袋を重ねて行ったのだが、次第に俺達の目の前で山積みになって行く。
その袋の数に次第に怖くなっていった。
「おかしいだろ。何で、こんなに多いんだよ?」
「受けた依頼以外の未達成依頼を消化した報酬と、素材を含めた買い取り金。更に騎士団からの報奨金が加わった事で、報酬金額が倍になるのは当たり前だろ?」
「騎士団から? 何で?」
「あのなぁ~……、討伐隊を組むとなると其れだけで金がかる。食料や輸送費、果ては人件費を合わせても莫大な費用が掛かるんだぞ? お前らはそれを少数で打倒し、全ての手間をチャラにしたんだ。これだけの報酬は当たり前だ。魔物の暴走一歩手前まで来てたんだから、当然だな」
「子供が手にして良い金額じゃねぇぞ?」
「俺は、お前を子供とは思わん。周りに出る影響が大きすぎる」
ハッキリ言えば、5487984300リラでした。
しばらくの間、遊んで暮らせます。
「ついでにお前はSランクで、激安依頼で大規模な群れを倒せば、コレくらいは出るだろうさ」
「いや、しかしなぁ~……」
「生産職も居るんだから必要だろ? 受け取らないとこっちが困る」
「三人で山分けしても、金額がハンパねぇ」
そこまであの猿は嫌厭されてたのか……。
塵も積もればだな、上位種もいたし。
一般の人達は一年生活するだけなら10000リラあれば充分らしい。
普通に装備を買い替えて、暫く実験する素材を買ってもおつりが来る。
魔王を倒した時に手に入れた金額を加算しても、一生遊んで暮らせますぜ。
人として駄目ですな。
「これは……装備が整えられますぅ~」
「・・・ん・・・・卵・・・お酢・・油・・」
「俺にマヨを作れと? 自分で作ってくれませんかね?」
モーリーよ、お前の武器や防具は神鉄製……。
装備を買う必要はねぇぞ?
「ま、良いか……しばらくはその辺をうろついてレベルアップをしてますかね? 二人が」
「そうですね。村の畑に蒔く種も欲しいですしぃ~」
「・・・ん・・忙しくなる・・・」
メリッサさん? 君、暇でしょ?
「暫くしたら、また依頼でも受けに来るよ」
「おう、しっかり稼いでくれや」
「またのご利用をお持ちしております」
ギルドを後にした俺は、金の使い道に頭を悩ませる。
贅沢な悩みだけどさ、何に使っていいのか分かんねぇ。
アレだ、ロープレ後半で装備やアイテムを一通り揃えた結果、使い道の無い多額な資金が残るのに似ている。
あと一歩でエンディングの状況で、多額の資金は邪魔でしかない。
冒険者、ぼろい商売だぜ。
「早速服でも買いましょう、師匠♡」
「・・・ん・・・フリフリ・・・猫耳・・」
何で、そんなのを買うんですか?
コスプレ流行っているんですか?
「ご主人様に似合いそうですよね、ナース服」
「・・ん・・・バニー・・・・スク水・・・狐耳・・・尻尾・・」
「自由への逃亡、明日に向かってダァ――――――――――シュッ!!」
とんでもねぇ事、企んでやがりました!!
二人は、また俺を女装させる気だっ!!
俺に消えない心の傷を刻み付ける積もりだ。
敵は外の世界じゃない、身近にいるんだっ!!
俺は夕日に向かって走り出す。
あの二人の玩具になる積もりはない。似合うだけに涙が出るんですぅ……。
男には、全力で逃げなければならな時がある。
それが今だだと俺は思う。
寝る時には気を付けないといかんとです……。
* * * *
家に帰ると、庭先にモースがいました。
なんか、干し肉を齧りながら待っていたみたいです。
「あ、お父さん。どうしたの?」
「おぉ、モーリー! それにレン様も、ようやくお戻りになられたか」
「神域で何かあったのか? それ以前にいつ此処に来たんだよ」
「昼にここに来たのですが、留守にしていらした様なので待たせて貰いました」
昼からここで待ってたのか。
随分と待たせたみたいだな、知らなかった事とは言え悪い事をした。
「狩りに出てたんでな、待たせちまったようだ。すまない」
「い、いえ、こちらも連絡をせずに行き成り来てしまったので、謝っていただくほどの事では……」
「とりあえず、中に入ってくれ。何か作るわ」
「れ、レン様にそこまでして頂かなくとも!」
「待たせちまった詫びぐらいさせてくれよ。話も聞きたいし」
モースを中に案内し、俺は簡単な料理を作る。
即席のピザみたいな物を作る合間に、用件を聞いてみる。
「で、何か用があるんだろ?」
「ハッ、実はサハギン達がレン様にお会いしたいと申しておりましてな」
「はぁ? サハギンが?」
「正直に申しまして、今の彼等をサハギンと呼んで良いものか……」
「進化でもしたのか?」
「はい、【水鱗族】という姿に変わっていました」
ohーやっぱりですか。
ミノタウロスも加護を受けたら変身しましたからね、そうじゃないかと思ってました。
「会う必要があるのか? 正直、好き勝手に生活してくれても良いんだけど?」
「彼等も正式な眷属になりたいと申しまして、我等に頼みに来たのです」
「なるへそ、取り敢えず会ってみるか。塩の取引は大事だからな」
「魚介類も中々良いものですぞ? 新鮮なまま運んでくれますからな」
「Ohー、干物や鰹節なんかも作れるかも。食卓の夢が広がる♡」
昆布だしや煮干しも良いけど、やはり鰹節の風味は外せませんぜ。
一番重要なのはやはり食ですから。
風呂も在ればいいんですけどね。
「いつ頃が都合つく?」
「明日にでも行商に来ますからな、その時に繋ぎを取れば宜しいかと」
「一緒について行くのも良いな。どんな村か興味あるし」
「では、明日にでも神域に?」
「行くべ。食卓が潤うのは良い事だ」
魚介類が手に入る。
刺身、天ぷら、煮付け、フライ……。
おぉ、夢が、食文化が広がるぅ~♪ デカルチャー!
楽しみだぁ~ね。