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 お約束は横から攫われる。

 メリッサの店、ツエイザ道具店には客があまり来ない。

 精々ご近所の人達が買いに来る程度だろう。冒険者を見かけた時は、まだ一度も無い。

 メリッサの謎のお婆さんはそれなりに信用され顧客がいたようだが、幾らレベルが上がったとは言え、駆け出しである錬金術師であるメリッサに客がつく筈がない。

 無論、引きこもり体質で日夜魔法薬製作と店番を励むメリッサに……客が寄り付く訳も無い。

 やはり少し社交的になった方が良いと思われる。


 俺が手伝わないのかって? 俺が魔法薬なんか作ったら非常識なもんが出来るに決まってる。

 訓練はしてますよ? 品質の悪いポーションの生成に……。

 何か、言ってて悲しくなって来たよ。

 普通の回復薬も作れるようになったさ、でもね? メリッサが作った奴よりも効果が高いんです。

 俺の作ったやつを売る訳には行かないじゃん。何気に落ち込んでたんだぞ?

 手落ちは無いはずなのに、スゲー罪悪感を感じるんです。


 そんなメリッサさんのステータスなんですが……


 =================


 種族 ハイヒューマン(成長中) 名称 メリーセリア・ツエイザ

 Lv85 ランク5 職業 必殺の上位錬金術師


 スキル

『剣技』Max『罠』Max『探索』Max『隠密』Max

『追跡』Max『格闘』Lv4『幻惑』Max『連撃』Max

『採取』Max『採掘』Lv3『料理』Lv5『野営』Lv3


 特殊スキル

【鬼神聖母】Max【錬金術師の極み】Lv3【薬物知識】Lv4

【鉱物知識】Lv2【錬成の極意】Max【精製の極意】Max

【薬物耐性】Max【毒物耐性】Max【麻痺耐性】Max

【特殊工作員】Max【格闘の心得】Max【暗殺者の極み】Max

【一撃必殺】Max【魔導の極致】Max【六大魔術の極み】Lv5

【見えない狩人】Max【忍び寄る殺意無き殺意】Max【殺しの美学】Max

【甘えん坊】Max【家庭を守る者】Lv3【萌えの道を行く者】Max

【寂しがり屋】Lv4【動じない心】Max【広すぎる心】Max

【硝子のハート(胸)】Max【鬼神の祝福】Max


 固有スキル

【草原の殺戮者】【見えない悪魔】【死の風】【一刀必殺】

【獣の眼】【マイペース】【スローライフ】【魔術を極めし者】

【武闘派上位錬金術】【未熟な叡智】【トラップマスター】

【飢えた家族愛】


 称号

【相思相愛】【暗殺の錬金術師】【サイレント・キラー】

【牛幼女の師匠】【不動の錬金術師】【豚さんの天敵】

【萌やす狩人】【レン君LOVE】【可愛いもの好き】

【強欲な愛】【愛人さんいらっしゃ~い♡】【何でも受け入れる者】

【果て無きマヨネーズ愛】【スーパー・マヨラー】


 進化 15/80


『この子……何を目指してんの?』


 =================


 俺が聞きてぇ――――――――――――――――っ!!


 錬金術よりも暗殺スキルの方が高いっ!!

 寧ろ錬金術がオマケになってるし、おかしいよね?

 どう見ても斥候職が生産職の内職してる風にしか見えねぇよ?

 それに魔術師として見たら影が薄い。

【飢えた家族愛】が固有スキルにあるけど、【寂しがり屋】と【甘えん坊】から類推するに、仮に俺が誰かとくっついても家族として受け入れて離さないみたいな感じ? 

 現に【広すぎる心】【強欲な愛】と【何でも受け入れる者】があるから、賑やかな家族を求めてるんだね。

 考えてみれば不憫な子なんだろうけど……これじゃ、マジで暗殺者じゃん。

 つーか、前見た時は【必殺錬金術師】だったのに、いつの間にジョブが変わったの?

 上位職になってんじゃん。


 俺より凄くない?

 何なのこのスキル? 前に確認した時よりスキル異常に増えてるよね?

 つーか、よく考えたら人のプライバシーを覗いてね?

 相手の性格見抜いちまうよ、【神眼】。


「あの、メリッサさん? 暗殺スキルが高いんですけど……錬金術師だよね?」

「・・・・ん・・・・・凄い?」

「いや、まぁ~…凄すぎる」色んな意味で……。

「・・・・・んふ~♡」


 いや、胸を張って喜ぶのは良いんですけどね? 錬金術師としてどーなのよ?

 可愛いから良いけどね。


「師匠、下級ポーションと毒消し、麻痺消しに魅了解呪薬、各種準備整いました」

「ん・・・・じゃ、行く・・・・」


 メリッサたちが準備しているのはギルドの依頼を受けるからで無く、ギルドのホール内で魔法薬を売る準備だ。

 この店に客が来ない以上、露店でも開いて売るしかない。

 俺は執事服に着替え、メリッサはローブと魔術師装備、モーリーは牛鬼の民族衣装だ。

 俺は金があるけどメリッサやモーリーは金銭的に今一、稼がないとやって行けないのです。


 この間、オークジェネラルをメリッサは倒したけど、得られたお金はみんな素材に注ぎ込んでしまった。

 金銭感覚がおかしいんですよ。『宵越しの金は持たねぇ』みたいに豪快に使うんだ。

 モーリーは無一文で俺達に寄生している様な状態で、本気で働きたいみたいだし。

 けどね? モーリーは冒険者資格を取れるのでしょうか?

 やはりサポート職から行くしかないんじゃね?

 まぁ、元が牛さんなんで戦力としては問題ないかな?


 話がズレた。一応、ギルドの許可は取ってあるんで、問題は無いですがね。

 今度こそ絡んでくる人たちがいる事を期待したい。


 どうでも良いけど、執事服着ると子供がカジノでディーラーやってるみたいに見えます。

 しかも、どう見ても男に見えないのが悲しい。

 悲しいまでに美少女顔です。髪、切ろうかなぁ~……。

 腰の上あたりまで髪が伸びてるんだよ。ロングよりショートにした方が中性的に見えると思うし。


「・・・・だめ・・・髪・・そのままで良い・・」

「口に出してたっ?! しかも散髪不可!?」

「せっかく綺麗なサラサラ黒髪なのに、勿体無いですよ? ご主人様」


 否定されました。


「・・・・スカート・・・ダメ?」

「……駄目」

「ご主人様、メイド服が似合いそうなんですけどね~」


 ヤバい……退路を塞ぐ気だ。

 俺は男だ。スカートなんて絶対に履かんぞ!!


「ワンピース・・・・白の・・・似合う・・麦わら帽子、絶対・・・」

「赤のドレスも似合いそうですよ、師匠?」

「・・・ん・・・捨て難い・・・」


 冗談じゃない。何て事を言うんでしょう、この二人は……。

 たぶん似合うと思います。自分で解るだけに、なおさら悲しい。

 誰か助けてください。


「余程の事が無い限り着る積もりは無い! 持って来たら全力で俺は逃げるぞ?」

「えぇ~~?」

「・・・・むぅ・・・残念・・・」

「アホな事言ってないで、さっさと行くぞ」


 外堀を埋められて堪るか。

 朝一でギルドに行かんと、儲けを失う事になる。

 商売は迅速が肝心なのです。


 玄関に鍵を掛けまして、それでは行ってきまぁ~す。


「泥棒、大丈夫なんですかぁ~?」

「大丈夫。この間、捕まえてボコった挙句に衛兵に突き出し、そのまま鉱山送りになったから」

「・・・・・この店・・・金目の物・・・無い」


 メリッサさん、そこは泣く所ですよ?

 ついでに金目の物はあります。オリハルコンが………。

 早朝、賑やかにギルドに向かいました。少し寄り道して卵を購入した事は言うまでもない。



 * * * * * 

 


「レン君……スカートに興味ない?」

「アンタもかよっ!?」


 受付のサテナさんが同じ事を聞いて来やがりました。

 憎い、自分のぷりちーさが果てしなく憎い。


「履かせて見たいのよねぇ~、駄目?」

「断固として断る。男の矜持として、こればかりは譲れませんよ」

「残念。履きたくなったらいつでも言ってね? 似合いそうなの取寄せるから」

「どんな時だよっ、無駄金使おうとすんなっ!」


 何故、皆…スカートを履かせたがる。

 そんなに人が傷つくのが見たいのですか? ならば戦争だ。

 所詮は力でしか解決できないのだ。ならば受けて立つまでの事。

 俺は今日より聖戦を行う。

 ふっ……所詮、血塗られた道か……。


「何で渋そうな顔をしてるの? それは兎も角、あの子……大丈夫?」


 俺の後ろには、青い顔をしたメリッサがテーブルの上で店を開いています。

 また大勢の人の気配に呑まれちゃったのね。

 その内、死んじゃいませんかね?

 それぐらい顔が蒼褪めています。


「人が大勢いる所が苦手なんだよ。引き籠りだから……」

「手伝ってあげないの?」

「仮にも店を開いているんだから、この程度対応出来なければやって行けないでしょ? 慣れて貰います」

「ちょと、厳しすぎない? Sっ気があるの?」

「なんでやねん! 人と応対出来なければ、そもそも店を開けないでしょ。客商売なんだから……」

「そうよねぇ~……。まぁ、こちらとしては道具屋に押しかけないで済むから、ありがたいんですけど」

「錬金術師って少ないのか? 結構いそうな気もするが…」

「みんな研究ばかりしている引き籠りなのよ。偶に商売しに出て来るから魔法薬が中々手に入らないし、大半が商人のお抱えになってるから一般よりも価格が高いの。買えない訳じゃないけど、数が少ないからねぇ~」


 手作業で作ってますからね。そりゃ~数に限りは出るでしょうな。

 しかも錬金術師の殆どが商人と契約を結んでいるらしく、普通の店では中々に出回らない。

 命懸けで仕事をする冒険者の数と、回復薬の生産が追い付いていないって事ですかね?


「所で、【必殺の上位錬金術師】て……どんな職業?」

「魔物の暗殺が出来る錬金術師……。この間、オークを一撃。ジェネラルをメッタ刺しにしていた」

「何それ、凄い。小柄な子なのに強いのねぇ~」

「まぁ、色々とチートだけどね。成長速度がハンパねぇ……」

「所で、スカート……」

「履かねぇよっ!!」

「・・・・・・・チッ!」


 何気に会話に入れて来やがった。しかも舌打ち。

 そこまでしてスカートを履かせたいんですか? 

 このネェーちゃんも油断が出来ねぇ……。


「おっ、レンじゃねぇか。こんなとこで何してんだ?」

「おや? 誰かと思えば……名前なんて言ったっけ?」

「ジョンだ。ギルドになんか用か?」

「ここで魔法薬を売ってんだ。店に客が来ないからな」


 いつぞやの放火魔冒険者だ。

 そう言えば名前すら聞いていなかったな。


「もしかして、あそこで店開いてんのが、そうか?」

「おう、よかってら見て行ってくれ。多分、定価で出回っている物よりも、少し安いと思うぞ?」

「マジでっ? 見せてくれや、安ければ購入する」

「おおきにぃ~♪ 一名様ご案なーい!」


 ジョンはテーブルの上に置かれた商品を見ては、値段と懐具合を計算している。

 割かし真剣な表情に、以前見た燃え盛る炎を見て狂喜していた姿とは別人に見えた。

 頭のおかしい狂人では無かったのか? 評価を改めねば……。


「中級ポーションを八個、毒消しと麻痺消しを十個づつ。傷薬を七個頼む」

「は、ハイ、お買い上げ、有難うございますぅ~!」

「・・・・ん・・・どうも・・・うぷっ!」

「だ、大丈夫なのか? その子の顔色、めっちゃ悪いぞ?」

「た、多分限界ではと……師匠、大丈夫ですか?」


 意外に早く限界が来そうだな。

 俺も少しフォローに回るべきか? いや、もう少しだけ様子を見よう。


「何だ? ジョン。こんな駆け出しの魔法薬を買うのか?」

「道具屋行ったら在庫が無いって言われたんだよ。多少効果が落ちても、回復薬が有るに越した事はねーだろ?」

「まぁな、ケガをして回復できないのは痛いからな。仕方がねぇ、俺も売り上げに貢献してやるか」

「おっ? 何か、依頼を受けたのか?」

「輸送貨物の護衛だよ、そっちは?」

「俺はコボルト討伐だ。近くの村で依頼が出てたよ…。まっ、効果が良ければ贔屓にでもさせてもらうさ」

「駆け出しは信用できねぇぞ?」

「商人も信用が置けんけどな、足元を見やがるから」

「違いねぇ」


 おや、意外に客足が出て来たな。

 快調な滑り出しだ。

 大半の冒険者はパ-ティーを組んでいるから、一人が購入すれば仲間も買う確率が高くなる。

 おぉ! 新人冒険者も見てるぞ? 

 防具がしょぼくて真新しいから、最近になって冒険者になったんだな。

 良心的なお値段だから買って行きなさいよ。

 おや? そう言えば……。


「なぁ、ジョン。一つ聞いても良いか?」

「何だ?」

「ギルド内で駆け出しの錬金術師が店を広げるのは許されてるけど、メリッサ以外に居ないのは何故だ?」

「あー……、居るんだよ。邪魔する奴が……」

「もしかして、商人に雇われて嫌がらせか?」

「そ、んで自分達の傘下に引き入れようとすんだよ」

「ギルドは何も言わんのか?」

「基本的に揉め事には関わらないからな。だからやりたい放題だし、ギルドの物を壊しても商人が弁償してくれる」

「成程……そいつを潰したらどうなる?」

「ギルドから何も言わんな」


 お約束な展開が来そうな予感がする。

 獲物は何処だ? 来い。さぁ、来るんだ。

 客足が増えて行ってますよ? 商人としては見過ごせない事態が起きてますよ?


「駆け出しの回復薬が効く訳ねぇーだろ。お前ら馬鹿か?」


 来たぁ――――――(゜∀゜)―――――――っ!!


 ゴツイおっさんです。

 ガラの悪い酒臭い中年です!

 如何にも使い捨てのパシリの様なチンピラですっ!!

 俺はこの時を待っていた。


「ガキが作った薬が効果が有るとは思えねぇな」

「その辺は保証するぞ? その子は、物心ついた時には錬金術を齧っていたから腕は確かだ。ついでに、売りに出したのは今日が初めてだが、こう見えて上位錬金術師だぞ? そこら辺の駆け出しと一緒にすんな」

「何だ、お嬢ちゃんは…? まぁいい。こんな小娘が上位錬金術なて使える訳ねーだろ」

「ギルドカードに既に登録してあるから事実は隠せんぞ? アンタが何を言おうが腕は保証される」

「信じられねぇな」

「信じる信じないはアンタが決める事じゃない。買う気が無いなら向こうに行きな、邪魔だからな」


 さぁ、殴り合おう。

 俺にボコらせろ。

 テンプレを回収させてくれ!


「俺の仲間が駆け出しの薬の所為で死んだんだよ。他の奴等にまで同じ目に合わせて堪るかってんだ」

「その駆け出しと、ウチのメリッサが同じだという確証はないだろ? 何を根拠にそこまで言い切れるんだ? アンタはこの魔法薬を使ったのか? 使用して確かめた上で証拠をしっかり持ち込んでそう言ってるのか? そもそもアンタの仲間は本当に死んだのか? 寧ろアンタの方が信用できねぇな」

「おい、お嬢ちゃん。目上の人間には敬語で話せって教えて貰わなかったか?」

「んな記憶は無いな。俺は自分の目で確かめて得た答えしか信用はしない。他人の言う事も態度で判断するし、尊敬できる人には敬語で話すさ。で? アンタは明確な証拠を持ち出した上で使えないと断言してんのか? まさか、ただの言いがかりをつけて商売の邪魔をしてるとは言わねぇよな?」

「おいおい、お嬢ちゃんよ。俺が誰だか知らねぇのか? ワルダー商会お抱えの冒険者だぜ? 使えない商品を見抜く目は……」

「持って無いだろ? アンタは俺みたいな【鑑定】持ちじゃない。品質を見抜く目なんか持っている筈がないんだよ」

「うっ?」

「で、その上でもう一度聞くけど、証拠が有って言ってんのか?」


 さぁ、さぁ、キレろ。

 俺に殴りかかれ!

 拳が語りたがってるんだ。


「随分、威勢の良いお嬢ちゃんだな。俺らに喧嘩吹っかけてんのか?」

「喧嘩を売ってるのはアンタらだろ? なら買うだけ、拳で語りたかったんだ」

「この糞餓鬼が……後悔させてやるぜ!」

「上等、返り討ちにして全裸で放り出してやんぜ!」


 わーい(*´▽`*)お約束の展開だぁ~♪

 これで俺も主人公の仲間入り。

 長かったよ。全然お約束が起こらないんだもん。


「世間の厳しさって奴を教えてやるぞ、クソガキっ!!」

「ハッ! やれるもんならやってみなっ!!」


 待ってましたぁ――――っ、ヒャッホォ――――――――ィ♪


「・・・ん・・・・邪魔・・・・」

「「へっ?」」


 床から極細のワイヤーが跳ね上がり、おっさんを雁字搦めにして天井へ吊し上げた。

 って、これはまさか、メリッサさんですか?!

 まさかのお約束な展開を、メリッサが回収しちゃったんですか?!

 そ、そんな……主人公への道が……お約束が…テンプレが………。


「こ、この技は……まさか【ブラッディ】!? 馬鹿なっ、あのバァさんは死んだはずじゃ?!」

「・・・・・・あの子、その婆さんの孫…だけど?」

「あの【鮮血の錬金術師】の孫だとっ!? 二代目がいたのかよっ、冗談じゃねぇ!! そんな化け物に喧嘩なんか売れるかっ!!」

「そんなに有名なのか? メリッサの婆さん……」

「俺みたいな奴等には天敵みたいなバァさんだったんだよっ!! 始末された奴等も数が知れねぇ、俺はこの仕事を下させてもらう!! 命がいくつあっても足りねぇ!!」


 えぇ――――――――っ?! じゃぁ、お約束の展開は?

 王道主人公の路線は?

 何でメリッサが回収しちゃうの?

 酷いや、母さん………。


「・・・・・んふぅ~♡」


 何で、そんなに得意げに?

 あぁ、お婆さんを尊敬しているんですね。

 自慢のお婆さんなんですね。

 可愛いいは正義って本当ですね。全てが許されてしまいます。

 卑怯だよ、ソレ……。


「レン…お前、なに燃え尽きたかのように真っ白になってるんだ?」

「・・・・拳で・・・・語りたかったんだ・・・お約束を奪われた・・・・」


 主人公達よ、この悔しさ解るよね?

 冒頭で起こるイベントを横から搔っ攫うんですよ?

 そこで展開が大幅に変わってしまうんです。

 王道路線から離れてしまうんですよ? 泣いても良いですか?

 チンピラに絡まれるイベントは見事に潰されました。


「今更王道も無いだろ、最初からずいぶん破天荒に爆進してるよな?」

「ゴブリン村を放火して狂喜していた人に言われたく無い……」

「俺だけじゃねぇ―だろ?」

「そう言えば、お仲間さん達は?」

「分担して準備中、明日には仕事に入るからな」

「また放火?」

「森の中であんな真似が出来るかっ!! 俺達をなんだと思ってるんだよっ!!」

「すまん、放火魔のイメージしか沸かなくてな……あんなもん見ちまったらよ……」

「毎日あんな手段を使ってるわけじゃねぇ―ぞ?」

「えぇ――――っ!?」


 マ○オさん風に驚いてしまった。

 仕方ないよね、ゴブリン村に火を放って狂喜乱舞してたんだから。

 イメージが定着しても俺の所為じゃないと思う。

 アレは酷かった。


「師匠、凄いです♡ 憧れちゃいます! 一生ついて行きますぅ~♡」

「・・・・むふふぅ~ぅ♡」


 メリッサさん? めっちゃ得意気です。

 モーリー……お前、本当に必殺になりたいのか?

 裏家業の人になるのか? 納得できねぇ……でも、怒れねぇ。

 だって普通に見たら喧嘩を仲裁しただけだぞ? 怒る要素が見当たらねぇ。

 帰ったら不貞腐れて寝よう。


 

 * * * *


 その後、回復薬は順調に売れて行きました。

 メリッサさん、ホクホク顔です。可愛いですねぇ~……。

 そんなメリッサとモーリーは現在お食事中。

 

「モーリー、ギルドにサポーター登録はしたか?」

「何ですか、それ?」

「冒険者の荷物持ちだな。登録しておけば簡単に冒険者になれるし、身分も証明されるんだ」

「ご主人様は登録しているんですか? そのサポーターに」

「俺はトップレベルの冒険者って事になってる。Sランクのな」

「凄い、流石ご主人様っ♡ 早速登録してきますぅ~」

「パーティー名は『ごぶりん一家』だからな、間違えるなよ?」


 ハァ……俺って主人公に向かないのかねぇ~。

 何でこんなに空しいんでしょうか。

 王道テンプレすら回収できないなんて、所詮俺は脇役って事ですか?

 神様ヘルプ。


『己が道を進むがよかろうて、儂らに期待されても困るぞ?』


 ハイ、神様からあっさり見捨てられました。

 まぁ、人生なんて損な物ですよね。

 全て思い通りに行ったら世界はカオスに包まれていると思う。

 鬱だ……。


 回復薬の販売も一通り済んでいるし、今はのんびり調剤の最中。


 ごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごり……。


 擂り音だけが通り過ぎて行く、ギルドの隅っこで……。

 何が出来るんでしょうね。


 =================


【万病丹】 ランク3

 如何なる病をも回復させる仙薬。

 滋養強壮栄養補給、衰弱回復心身増強。

 仄かに甘いイチゴ味。


 =================


 うん、まともな物が出来たね。

 でも、何でイチゴ味?

 果物を混入した記憶は無いんですがね?


 =================


【ゴージャスカレー粉】 ランクMax

 驚くほどに美味い奇跡のカレー粉。

 食べた瞬間に口に広がる具材の甘みと、香辛料の辛味が混然一体と化する。

 芳醇な香りは意識を天界へと導き、食した物を至高の幸福へと誘う。

 如何なる素材も美味へと昇華させ、非常識で有り得ないリアクションをしたくなる。

 使い勝手が良く、どんな料理にも使える万能さが素晴らしい。

 一口食べたら他のカレーは食べれなくなる程のスパイスの帝王。


 =================


 薬草混ぜてたのに、何故にカレー粉? しかも、チョー旨いらしい。


 ……よし、今日はカレーにしよう。

 けど、肉には飽きたな。魚が食いたい。

 タマネギあったかな?


「・・・マヨネーズ・・・・・欲しい」

「いや、スープにマヨネーズは必要ないでしょ」

「師匠、筋金入りのマヨラーなんですねぇ~」


 あら? モーリー、もう受付から帰って来たの?

 俺より手続き早くね? 比べるのが間違いか。


「午後はどうする? まだ売る商品はあるのか?」

「・・・ん・・・手持ち・・・もう無い・・・」

「たくさん売れましたねぇ~♡」

「・・・ん・・・素材・・・買える・・」


 食料は?! 野菜とかは買わないのっ?!

 素材に注ぎ込んで生活は維持できませんよ? 死活問題ですよ?

 まぁ、俺が有り余るほど金があるから良いですけどね。

 この世界はホントにオイシイわ。


「・・・マヨネーズ・・・たくさん・・・作る・・」

「メリッサが思ってるほど作れないぞ? 黄身を使うからな」

「白身は使わないんですかぁ~?」


 以前は小麦粉に混ぜて、数日なんちゃってお好み焼き生活だったからな。

 マヨを盗み食いされないように管理せんといかんがな。

 迂闊な場所に置いておくと全部食われてしまう。

 このマヨラーは危険だ。


「少し買い物をしてから家に帰るか」

「・・・ん・・・・」

「帰ったら売れた分の補充を作らないとぉ~、生産職を目指します」

「無双したかったんじゃないのか?」

「止めておきますよ? ご主人様に嫌われたくありませんから」


 俺は無双したけどね。

 食事を済ませた後、俺達は市場を回り家へと帰路についた。

 当然ながらメリッサは、売り上げの全てを薬草などの素材に注ぎ込む。

 モーリー……止めろよ。

 俺が生まれる前はメリッサがどう生活していたのか、謎が残るのでした。

 



 * * * * * * * * * * * *


 アットの街の中央公園。

 のどかな昼下がりの中、一人の女性がベンチに座る。

 一見して普通の町娘に見えるのだが、手練れの剣士が見れば一目で只者では無いと分かるだろう。

 平穏な街の中に居ながら明らかに異質、裏側の住人である事に街の人達は気づいていない。


「・・・王宮で鬼神に手を出すのは危険と判断された。だが、あの殿下が諦めるとは思えん」

「そうですか。では王命通りに……」

「鬼神に接触せよ。出来るだけ早く陛下との繋がりを付けるのだ……潜伏している場所はこの紙に書いてある」

「了解しました」


 いつの間にかベンチの裏に居た浮浪者と、彼女は聞き取れないような声で会話をする。

 この浮浪者も裏側の住人。彼女の同僚でもある。


「……陛下のご容体はどうです? 病状の進行具合は?」

「余命半年と言われている。後継者があの様な愚物であるのが口惜しい所だ」

「せめて陛下の病だけでも直せれば……」

「全ての医者が匙を投げたのだ。どうする事も出来ん……」

「クッ……陛下……」

「お前の気持ちは分かる…俺達も陛下に救われた身だからな。だが、運命さだめだけはどうする事も出来ん」

「無力ですね……私達は…」

「……行け、我等は最後まで陛下と共に生きる。そう決めたのであろう?」

「そうですね……。陛下からの命、しかと果たして見せます。最後まで……」


 前を通る街民がすれ違った時、彼女等は忽然と姿を消していた。

 あたかも、初めから其処には誰も居なかったかのように……。

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