いつの間にか居た牛娘
魔王の一柱が倒された報告は、グラードス王宮に直ぐさま伝えられた。
その報告を受けて歓喜したのがフラフース殿下である。
彼は父親であるフレアランス王とは違い、自分の利益のみにしか興味は無く、同時に権力に対しての執着心が異常なまでに強かった。
何よりも彼は、民より貴族達からの献金が重要視しており、正直に言えば民衆からの支持率が低かった。
寧ろ弟であるアクティオン殿下や、アルテミス王女殿下の方が遥かに信頼されていると言って良い。
それと言うのも、下の兄弟たちは市井生まれの第一王妃マルグリットの子であり、街の人々からも信頼を一身に受けた才女として有名であった。
彼女はこの国で一時期猛威を振るった病を克服する特効薬を発見し、その薬を無料で民衆に与え広めた功績がある。問題は第二王妃セリザリーヌであり、彼女は貴族の中でも有数の公爵家の長女であった。
国内で一・二を争う貴族出身故に民衆に対しては横暴な態度が度々見られ、更に国民が恩を感じているアルテミスに対しても敵意を隠さず、民衆の前で恥をかかせる真似をしでかした。
結果として公爵家共々民からは信用されず、大いに顰蹙を買うほどである。
幾ら発言力が強い公爵家の家系でも、民衆を敵に回す振る舞いを見せた彼女にフレアランスは厳しい沙汰を言い渡したのだ。まぁ、王宮から二度と民衆の前に姿を現す事を禁じただけだが、彼女は当然逆恨みするようになり、それを第一子でもある我が子の教育にぶつけたのである。
その結果出来上がったのがフラフースなのだが、矢張り家臣からの信頼は低い。
フラフース殿下の最大の致命的欠点は他力本願なくせして他者を労わらず、自分の失敗を他人の所為にする横柄さ、更に言えば権力にのみ目が行き政治を見ようとしない視野の狭さであろう。
フレアランスが後継者に選ばないのも分かりやすいほど、見事なまでに愚かであった。
何より他人の意見を聞かないの身勝手さが、一層タチが悪かったのだ。
早い話、マザコンのとっちゃん坊やなのだ。
そんなとっちゃん…もとい、フラフース殿下の前に、ボランは定例の報告に来ていた。
ボランの目的は王宮へ対しての警告の為である。
下手に連を突いて怒らせれば、最悪この国が消える事になる。
それを防ぐのがギルドマスターの役割であった。
「して、魔王を倒したと言うSランク……鬼神はいつここへ呼ぶのだ? 是非とも余の家臣にしたいと思っているのだがな」
「それは不可能でしょう。彼の者は権力に縛られる事を拒否しておりますし、何より面倒事は断ると申しております」
「王族の命でも拒否すると言うのか?」
「するでしょうな。アレは人に近い存在ですが、決して人では御座いませぬ。何しろ、手を出して来たら王族だろうが貴族だろうが滅ぼすと断言しましたからな。個人で付き合うならまだしも、配下にしようとすれば間違いなく殺されるでしょうな。それも、国事……」
王宮が騒めく。
何しろ、魔王を倒したのがそれを上回る鬼神と呼ぶ神である。
今まで聞いた事の無い種族に進化したソレは、冒険者として国を好き勝手に歩き回るが、国すら敵に回すと言い切るほどの強者であった。
しかも単身で魔王の軍勢を滅ぼしたとなると、最早人の手には負えない存在である。
「我が国を滅ぼすと言っておるのかっ!」
「手を出して来たら、ですが? 殿下は国が亡びるのをお望みで?」
「望む訳なかろう! だが、鬼神は何としても我が配下に欲しい所だ。そう言えば、確かその魔物を産み落とした者が居ったそうだな?」
「それは悪手ですな。奴が言ってましたぞ? 『身内を人質に攫い、婚約者などと言って来たら真っ先に王宮を滅ぼす』と、手を出したら確実に滅びますな。ははははは!」
「笑い事かっ!! 何とかしてこちらに引き入れろ!!」
「無理です。聖域を超える神域を作り出す神に、人如きが太刀打ちできる訳無いでしょう?」
更に謁見の間が騒ぎ出す。
聖域とは、メルセディア聖国が神の領域として神聖視している不可侵の地であり、その領域を作り出せる存在こそが神なのである。
その聖域を遥かに上回る神域を作り出せるレンは、既に【豊穣神イルモール】を上回る存在である事を示していた。
この事実が広がれば、メルセディア聖国との戦争になり兼ねない事態へ発展する事になる。
「イルモールを上回る存在か……増々我が配下にしたいぞ?」
「ご自分で説得すれば良いでしょう。運が良ければ死ぬのは殿下だけで済みますので」
「そんな真似が出来る訳無かろうっ!! だからこそ、余が命じておるのだっ!!」
「はて? 何故我ら冒険者ギルドが殿下の命に従わねばならないので? 我らギルドは中立であり、国の内政には関わらぬ決まりとなっているのは御承知でしょう? でなければ他国にあるギルド支部と連携が取れませんからな。おかしなことを仰る」
「ぬっ?! うぐぐぐ……しかし、以前来たギルドの者は……」
「奴は夜逃げしましたな。恐らくギルドとして秘匿とした鬼神の存在を無断で情報漏洩したのでしょう。我等は鬼神とは敵対したくありませんので、基本的に傍観する事に決めました。鬼神の方にも了承は取っておりますれば、これ以上の詮索は無駄かと。御諦め下され、何分鬼神はSランクですからな」
フラフース殿下としては、何が何でもレンを配下に置きたかった。
しかし、鬼神自体が王族と関わるのを拒否し、人質を取る事すら国を滅ぼすと脅迫して来たのだ。
しかも本気で滅ぼす力があるだけに、下手に手を出す事すら不可能となってしまった。
彼としては事が思い通りにならず、腹立たしい事この上ない。しかも冒険者ギルドは中立を決め込み、鬼神との敵対しない事を既に了承済みであった。
これでは王族だけが敵対する意思を見せると言っている様な物である。
「相手が悪かったですな。彼の者はどうやら転生者のようで、見た目が幼くとも叡智に長けておりますぞ? その上で警告して来たのですから、下手に手を出さない事をお勧めいたします。そもそも魔王を倒したのが、この国に対しての警告の積もりですからな(大嘘)」
「転生者だとッ?! クッ、何も解らぬ幼子では無かったのか! 厄介な……」
「後もう一つ、殿下の御気性は彼の者が最も毛嫌いするタイプの様なので、下手に近付かぬ方が良いでしょうな。真っ先に殴られますぞ、間違い無く」
「余と性格が合わぬと言うのかっ!? 余は王族だぞっ!!」
「彼の者にとっては只の人なれば、そこに遠慮の文字はありませんな。何せ、闘いの神ですから」
相手が神であれば人など只の雑魚に過ぎない。
まして性格が合わないと知れば、真っ先に殺す事も厭わないだろう。
フラフース殿下の企みは、簡単に潰される事になった。
「気分が悪いっ!! 今日は此処までとするっ!!」
苛立ちを隠せずフラフースは取り巻きを引き連れ、謁見の間から姿を消した。
ボランは溜息を吐いて立ち上がると、王の玉座に一礼をして退室した。
馬鹿な王族の企みを事前に潰せ、漸く一心地着いた状況であった。
『カスールの奴め、厄介な仕事を残して行くんじゃねぇよ! 今度見かけたら殴り飛ばしてやる』
王宮で余計な事は言えず、内心で悪態を吐くボランであった。
後始末、御苦労さまである。
* * * * * * * * * * * *
何処までも熱く赤熱化する鉄を鍛え続けて数日。
長く苦しい戦いの日々も、もう直ぐ終わる。
俺は何度も失敗を繰り返し、漸くその境地に辿り着いた。
次こそは、今度こそ、まだやれる。
苦渋の時間だけが流れ続け、漸く納得の行く境地の糸口が見えたのだ。
そこから更に修練を続け、やっとの思いで頂に辿り着いた。
もう直ぐだ。
……もう直ぐ答えが出る。
俺の辿り着いた場所が、確かな物であることが証明されるのだ。
【神炎】は既に封印し、熱く燃え盛る炎に挑んで数日。
それでも納得の行く剣は作れなかった。
作っては封印し、また作っては処分の繰り返し。
幾度となく襲う絶望と焦燥の末に、最後の好機を逃さずに挑み続けた。
鉄は生き物だ。
灼熱の炎に挑まずして、何が鍛えられようぞ。
鉄の熱さを知らぬ者に、剣を鍛える資格など最初からなかったのだ。
その真理に辿り着いて挑み、やっと俺は納得の行く物が作れると確信した。
長い道程だったと、今なら感慨深く思い返せるだろう。
だが、その感傷こそが雑念となりうる。
最後の最後でしくじる訳には行かない。
俺は丹念に出来たての剣を研ぐ。
剣に命を吹き込む最終工程。
ここで誤れば最初からやり直しとなる。
失敗は許されない。何せ、もう鉄が無いのだから……。
鈍色に光る鉄の輝き……そう、コレなのだ。
俺はこの瞬間を待ち望んでいた。
出来る。
……今度こそ出来る。
俺が待ち望んだ剣が、今誕生する。
逸る心が抑えられない……焦るな俺。丁寧に、丹念に磨き続けろ。
あぁ……これだ、漸く完成した。
何と長い戦いであっただろうか、最早……精も魂も尽き果てそうだ。
しかし、まだ倒れる訳には行かない。
最後に確かめなければ為らないからだ。
「鑑定」
これで駄目なら、俺はこの世界と神を呪う事だろう。
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【鉄の剣】 ランクMax
ごく普通のただの鉄の剣。
何の効果も付加されていない平凡な鉄製の剣である。
初めて剣を握る者が、最初に購入する一般的な武器。
頑丈なだけが取り柄で、それ以外に特に目立った物は無い。
鉄製の剣にしては上質な作品。
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「やった……漸くで来たぞ! 普通の武器がっ!」
マジで長く苦しい道程だった。
え?『最高の武器を作っていたんじゃないのか?』って?
誰がそんな事を言いましたか?
俺は普通の武器が作りたかっただけだぞ?
何度も失敗を繰り返して、やっとの思いで完成させたんです。
納得いかないかも知れないけどさ、今まで作った奴を見てもそう言えるのかな?
例えば……
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【斬鉄剣・ロングソード】 ランク6
鉄すらも斬り裂く最高の剣。
同じ鉄から作られたとは思えない切れ味を持つ。
使い手の腕によってオリハルコンの武器すら斬り裂く。
追加効果で【天魔覆滅】のスキルが追加される
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普通じゃねぇよ……何で鉄でオリハルコンの武器が斬り裂けんだよ。
使い手次第って言うけどさ、ロングソードは元々重量で叩き切る剣じゃん。
刀じゃねぇんだから、腕っ節が強ければ効果絶大じゃねぇか!
更に……
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【銅の斬鉄剣・ロングソード】 ランク1
ミスリルすらも斬り裂く銅製の剣。
同から作られたとは思えない程の切れ味を誇る。
使い手次第では空間すら斬り裂く強力な剣。
追加効果で【天衣無縫】の効果が追加される
超重い。
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明らかに強度がおかしいだろっ!! ランクと重量もだけど……。
何で、銅でミスリルが斬れんだよっ!!
しかも空間すら斬り裂くって、コレ…銅の剣じゃ無いだろっ!!
斬鉄剣の名前自体が変だし……色々間違ってる。
ついで・・・・・
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【鉛の聖剣】 ランク3
ありとあらゆる物を引き裂く呪われた剣。
蒟蒻が斬れない欠点以外、至高の切れ味を持つ。
使い手が良ければマーダー・ハッピーに陥りやすい。
人間を切り刻まなければ正気に戻れない効果が有る。
ごく稀に道端で銅貨を拾う幸運が訪れる。
めっちゃ軽い。
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聖剣じゃねぇ――――――――――――――っ!!
鉛だぞっ?! 強度がおかしすぎる!! 何で斬れるんだよ!!
つーか、殺人の快楽に溺れる自体おかしい。何で呪いが付加された?!
しかも蒟蒻が斬れないて、至高の切れ味は何処に行ったのさっ!!
人生を破滅させる効果のくせして幸運の効果がしょぼい。
しかも鉛なのに軽いって、何なの?
てな訳で、俺は普通に武器が作れる様になりたかっただけさ。
他のも似たり寄ったりの武器ばかりでさ、凄く大変だったわけよ。
作った傍から高性能で、偶に思い出したかの様にとんでもないスキルが追加されるんだよ。
中には厄介の性質を持つ事もあって、仕方なく処分が決定する物もあったし……。
例えばこんなの……。
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【肉欲の魔剣グリ-ドミートハングリー】 ランクMax
あらゆる肉を色んな意味で食わなければ収まらない魔剣。
食欲と性欲を異常なまでに持て余すようになる。
副次効果で筋肉愛にも目覚める。
欲望に溺れ易くなるので使用には注意が必要。
肉を食えば食うほどに切れ味が増すが、理性が蝕まれて行く。
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何でこんな武器が出来ちゃったんでしょうねぇ~……。
普通に剣を鍛えてただけなんだよ?
解せぬ。
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【自己犠牲愛の剣・偽善者君壱号】 ランク1
愛に目覚める聖剣。
困っている人を見かけたら救わずには居られなくなる性質を持つ。
人を救うためなら自分の財産を全て投げ打つ様になるので要注意。
最悪自分の身を捨てて盾になる事を選ぶため、別名【肉の盾の剣】。
同性相手でも愛し合えるようになる。
両手持ちの剣なのにある意味両刀の剣。
一度装備したら死ぬまで手放せなくなる。
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美徳と言うより呪いだよね?
重犯罪者に持たせるのには丁度良いけど、一般人が持つような武器じゃねぇよ。
しかも、これでランク1。破滅の剣じゃね?
ランクが上がったらどうなっちゃうのよ、これ……。
ねっ? 普通の武器が作りたいと思うだろ?
けどね、普通の武器を作るのがこんなに難しいとは思わなかった。
普通は逆じゃね? 最高の剣が難しい筈だよね?
何で高威力の武器が簡単に出来んだよ。おかしくね?
だが漸く普通に武器が作れるようになった。
長かったよ、ホント……。
へへへ……もう、嬉しくてさ。あれ? 涙が……。
防具は簡単に作れるんだよ? 武器だけがこんな状態になっちゃうんだよ。
解ってください、この努力……。
一度作り方を覚えれば、もう失敗しなくても済むから良いよね。
そこまで行く過程が大変でしたよ。
「疲れた……精神面で果てしなく疲れた……」
ここ数日ほど武器を作り続け、やっとの思いで加減と云う物を覚えたんですけどね。
いやはや、ここまで手古摺るとは予想外ですわ。
普通の剣がこれほど大変だとは夢にも思わなかった。
高ステータスから来る補正の所為なんでしょうね。逆に手加減が難しい状況になってるし、少しでも力が加わればいきなり馬鹿みたいな威力の武器が出来上がる。
経験が無いせいか、スキルだけに頼って製作したんで洒落に為らない武器に変化しちまう。
メリッサが高威力の武器を持つのは良いよ? 護身用は優れた武器があればその分有利になるし、万が一何かが遭ったとしても生存率が高いに越した事は無い。
その分だけ切り抜ける確率が高くなるからね。
けど、一般的にも世間に流すには危険な武器でもあるんです。
とてもでは無いですが、売り出す事すら出来ませんぜ? へへへ……。
本気でヤバイ武器は潰しましたよ。
今は溶鉱炉の中で真っ赤な鉄に変わっています。
そう、ただの鉄でこうなんですわ。
鉛で試作もしましたがね、先ほどの聖剣を見ればわかるでしょ? もう、ヤバしゅぎぃ~っ!
経験を得るために試行錯誤を繰り返し、その結果最優良解を覚えましたよ。
ソレはもーぅ……地獄でした。正直、寝てません。
「鉄も仕入れなきゃいかんかねぇ~……ミスリルよりは安いだろうけど」
色々作りましたよ? トンファーにヌンチャク、三節棍から十節棍、連接鞭など……中華系?
しゃーないやん。神域が東洋風なんだらぁ~♪
偃月刀に三叉戟……ついでに軽装備、西洋風みたいな重装備じゃ動き辛いでしょ?
防御力より機動力、大艦巨砲主義より航空戦力ですわ。
要は致命傷を避けて必殺の一撃を加えるのに重点を置きたい。
そもそも、馬鹿みたいに高いステータスの俺に、動きを阻害するような重装備が必要ですか?
スキルの効果で防御力が極端に変わるこの世界で、重装備が如何程の価値があるのか分かりません。
下手すると俺は、オリハルコン装備より頑丈なんだよ。
上位種族にもなれば保々無敵に近いですからね、意味がありません。
拳の拳圧だけで人が塵の様に吹き飛ぶんです。考えてみれば非常識な世界ですよ?
その分、圧し掛かる責任は重いんですけどね。
自分自身の力は常に把握し、必要に応じて力を振るえる様でなくてはいけません。
力に溺れる者は力によって滅ぶ、これは真理だと思います。
チートに浮かれては、何れ死ぬ事になり兼ねませんしね。我思う故に我在りです。
己を極めろとも言えますけどね。修行は大事ですよ?
「さて、そろそろ休みますか。の前に……飯だ」
ここ数日、真面に食事してないからハングリーです。
昼時だし、メリッサにも何か作ってあげますか……何にしようかな?
献立を考えつつ、俺は鍛冶場の戸締りをして道具店の方に向かった。
* * * * *
ごりごりごりごりごりごり……薬草を擂る音がしています。
道具店の作業場に来ると、モーリーが目の下に隈を作りながら変な笑みを浮かべ、薬草を擦り潰している。
何でしょうねぇ~……もの凄い既視感を感じるのですが?
アレですか? まさか、アレをやっちゃたんですか? 『二十四時間耐久ゴリゴリ』。
ヤバいんですよねぇ~……アレは精神が壊れます。
って、言うか……モーリーはいつ此方に来たんだ?
もしかして剣を鍛えている時だろうか? 記憶に無いんだが……。
ごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごり……。
「うふ♡ うふふふふふふふふふ……」
やべぇ……変な世界にトリップしてますぜ? 薬草が虹色ですわ。
恐るべし、『二十四時間耐久ゴリゴリ』。
アレは苦行だ。ヤバい方向に悟りを開く悪しき荒行だ。
今目覚めなければ、別の何かに目覚めてしまう。
止めなくては……けど怖いぃ~…。
「も、モーリー? おーい、モーリー? 聞こえてるかぁ~?」
「うふふふ……誰ですか? 私は今、赤道直下の極寒の地で、筋肉マッチョの激ヤセ美少年と骨の様になるまで鍛えた抜かれたマッスルお兄さんが、真理の扉を開くべくヌーディストビーチでセーラー服を着て、大観衆の孤独の中、たった一人で頼朝さんとカエサルさんが、○×△を掛けてし○かちゃんの目の前で□△×をするべく、茨の園へバットとドリルを突きつけ合い、お○松君のお尻を狙うべく、千人規模のタイマンバトルを見ている所なのですが?」
「帰ってこぉ―――――――――――いっ!! そこから先は危険だっ!!」
不味い、カオスワールドのデッキを構築してるっ!!
ここで戻らなかったら親父さんに申し訳が立たん。
直ぐにでも引き戻さないと、取り返しのつかない事態になってしまう!
「正気に戻れっ!! ご両親が泣いてるぞ、生まれ変わっても腐女子の道を進む気かっ!?」
「うへへへ………ハッ!? 私は何を? ここは誰っ?!」
良かった……危うく禁断の世界へ堕ちる所だった。
デンジャラスな世界に落ちていたら、最早手遅れとなる所だったよ。
「あ、ご主人様?」
……Howat? 何か、聴き慣れない言葉が聞こえましたが?
気のせいだよね? 確か、ご主人様と……。
「どうしたんですか、ご主人様? ……気分でも悪いんですか?」
「聞き間違いじゃねぇ―――――――っ!? 何っ、いつから俺がご主人様になったの?!」
「そ、それは……ぽっ////////」
「わかんねぇ―――――――――――っ!! 何なの、そのリアクション!?」
いつ、どこで、ご主人様フラグを立てたんだっ?!
全然記憶にないんですけどっ?!
「ご主人様は私達の王様だから、誠心誠意この身を捧げてでもお仕えしますぅ~♡」
「何でそんな事になってんの!? 俺がモースに殺されそうになったら、どうすんのっ!」
「大丈夫です。お父さんも、お母さんが説得してくれましたから。物理的に……」
「怖っ!? 村で一体、何が起きたんだよっ!!」
何でこんな事になってんだ?
さっぱり分かんないんですけど、誰か説明してください。
「初めてだったんですぅ~♡ 本気で自分の為に叱ってくれた人って……♡」
「あん時かっ!? 生後六日だったもんね、そりゃ初めてだろうねぇ~っ!!」
あれだけでフラグ立ったのっ!?
嘘でしょ?!
「それからと言うもの、毎日ご主人様の事が頭に浮かんで、お母さんに……」
「相談した所こっちに送り出されたと? 物理的にどう説得したんだよ、お袋さん。あのモースを……」
「凄く激しい夜でした……恥ずかしくなるくらいに……/////////」
「生々しいよっ、御両親の性生活なんて聞きたくも無かった!! つーか、覗いてたのっ?!」
「半年後には姉妹が出来てるかもしれませんねぇ~♡ お父さんもやつれてましたし」
「それでいいのかよ、奥さんっ!! でも姉弟かもしれないよっ?!」
「長老も喜んで送り出してくれましたよ?『歳も同じだし、ちょーどえー』て」
「奴もグルだったっ?! 爺、少しは考えろよっ!!」
「それに此方には師匠も居ますし」
「師匠?!」
ドアの向こうで、メリッサさんが見ていた。
手に『鬼神のコンバットナイフ』を持って……こ、怖い。
何処の歪んだ愛に狂った人ですか?
「師匠、薬草擦り終わりましたぁ~」
「・・・ん・・・次は・・本格的・・・頑張る」
「ハイ、師匠♡」
あれ? 何気にメリッサさんが嬉しそう。
弟子が出来て嬉しいんですかね?
所で、コンバットナイフを片手に何してたの?
「ん・・・・素材・・刻んでた・・・」
「顔に出てたっ?! 上級の回復ポーションでも作ってんのか?」
「・・・・ん・・・毒消しの方・・・回復効果もある・・・・」
「ヘンショク草も使うのか? 俺の記憶だと必要無かったような……?」
「同時に製作・・・・・中級・・・簡単・・・・」
俺と似たようなスキル構成だったし、直ぐに覚えたのか?
つーか、モーリーはいつこっちに来たんだよ。
まぁ、いいか。どちらにしても目の前にいるんだし、今更聞いた所で手遅れだ。
「そう言えば、二人は昼食を取ったのか?」
「・・・・まだ・・・」
「気が付いたらお昼時になってました」
うん、作る様だね。
お手軽に豚丼でも作るか。丁度米もあるしな。
醤油に味噌はマジで助かる。
「俺が昼を用意するから、二人は仕事を続けてくれ」
「はい♡」
「レン君・・・・・マヨネーズ・・・・」
「無い! 材料の卵が特に・・・・」
「・・・・・・卵・・・・」
メリッサさんが泣きそうな顔をしてるんだけど、そんな顔をしても無い物は無いんですよ?
マヨネーズを全て美味しく頂いたのはメリッサだからね?
この世界で養鶏はまだ行われていないみたいなんだよね。
庭先で鳥を飼う事はあっても、商売として飼育する事は無い。
王宮では専用の飼育場で鳥を飼う事を行っているようだが、一般市民が飼育するには少々厳しいのが現状だろう。
土地の問題もあるけど、鳥が野良猫に襲われる可能性の方が高い。基本的に野放しだから。
因みにこの世界では【ウケッコウ鳥】と呼ばれる鳥が主流らしい。
卵が市場に出ると真っ先に売り切れるほどの高級食材になっている。
また、肉も実に美味で、売ればそれなりの収入になるらしい。
シメる時は足技に気を付けないとボコボコにされると言う凶悪な習性をもっている。
別名、グラップルバード……鶏じゃ無いよね? たぶん魔物です。
マヨネーズを作った時は、偶々卵が売りに出た所に出くわし全部買い占めたのだが、日持ちしない事を前提でマヨネーズを作ったんだよねぇ~……メリッサが全部食べちゃったけど。
一応忠告はしたよ? 卵が高級な以上は、いつ手に入るか分からないから大事に使おうって。
その忠告に耐えられず、全部食べちゃったんです。メリッサさんは……。
保存の利く調味料として作ったんだけど、こっそりつまみ食いしていたのを目撃しております。
庭は既に薬草畑と化しているので、とてもでは無いけど鳥を飼う余裕など無い。
後悔先に立たずだ。
「卵が市に出るまで諦めてくれ。材料が無ければ俺じゃ作れん」
「・・・うぅ・・・マヨネーズぅ~・・・・・・・」
マヨネーズ渇望症に罹てしまった様です。
禁断症状が出なければいいんですがね。
仕方が無い。ヘルハウンドのハンバーグにしとこう。
豚肉が余りまくってんですけどねぇ~、中々減りません。
* * * *
オイラは最近、食事担当になってる気がしているなぁ~。
メリッサも料理はしてるけど、最近は薬草ゴリゴリに勤しんでいる様な……?
厨房で野菜を切り刻み、肉をミンチにしていた時に気付いたんだが……床に棚を移動させたような跡がありました。
「・・・・・何の跡だ? まさか、この棚……動くのか?」
いや、まさかだよね……そんな訳……うん、動かない。
少し安心した、って……あれ? 良く見ると棚と壁の間に指が入るスペースが……。
嫌な予感がします。
隙間に手を入れ、中間位を探ってみると……思った通りに取っ手の様な物が付いていました。
しかも指が当たる位置にスイッチの様な物が……(;゜д゜)ゴクリ…。
息を吞んでそのスイッチを押す。
棚は横に音も無くスライドし、その裏に隠されいたのは……ヤバい道具でした。
禍々しい形のナイフや、首を斬り飛ばす様なワイヤー状の刃物。
袖の中に隠す暗殺道具など一式が揃ております。
コレ……メリッサノ、オバアサンノモチモノジャナイノ……?
やはり裏家業の人でした。
必殺の人でしたよっ!! だって、使った痕跡があるんだもん!!
しかも、纏わりつく様な禍々しい気配を放出しておりますです……。
うん、呪われてますね。間違い無く。
・・・・・・・見なかった事にしよう。
俺は静かに棚を戻し、昼食の準備に戻りました。
世の中には……知らなくても良い事があると知った昼下がりだった。