転生者に会いました
スキル【真・神眼】の映るステータスは、俺に既視感を抱かせるのに充分の間もであった。
効果は劣るが初期の俺と同じ状況で、恐らく【鬼神の加護】が加わる事により、その効果は一気に上昇したのだろう。
間違いなく転生者だ。でなければ【忍耐】が最大値であるわけがない。
これは前世でオタク気質がバレて、周りから揶揄われたんだろうな。
そして引き籠りになってゲームだけをしていた。
通常スキルは俺と同じで、生まれて直ぐから訓練を始めたからだろうし、前世での自分が反映されているんだろう。
俺はそんな風にステータスに出てなかったけど、これは多分だが前世での生活がそのまま反映されてね?
モーリーは俺を見て固まっている。
うん、ショートボブの小柄な女の子ですね。
ただ……体付きがけしからん。
俺と身長が変わらないのに、不自然なまでに胸がありんす。
流石、牛さん。将来はナイスバディになりそうですよ。
ゲフン! 兎も角、少し試してみますか。
「エネルギー充填120パーセント。これの意味する所は?」
「ぼ、暴走寸前」
「AEGと00、選ぶならどっち?」
「00の方が良い」
「ワンコインと言えば?」
「○屋!」
「え? 吉○家じゃねぇの?」
「こ、好みの問題だと思う……」
俺は吉○家の方が良いんだが、それを押し付けるのは傲慢だな。
好みの差は人によって違うし……。
「こ、こっちからも質問。ま○かとな○は、選ぶならどっちですか?」
「無論、元祖クリーミーな方だ!」
「ふ、古い……。それ以前に方向性のジャンルが違う。同性愛についてどう思いますか?」
「俺に絡まなければ、友人としてOK」
「広い心ですね。塩、醤油、味噌、選ぶなら?」
「豚骨醤油も捨てがたいが、鶏ガラ味噌が良い。チャーシュー多めで餃子付き、ライスはチャーハン! これだけは譲れんよ。ワカメスープが在れば尚良し」
「定番メニューをこよなく愛しているんですね……。しかもがっつり系」
時が止まる。
そして動き出す。
「・・・・・・・転生者か?」
「・・・・・・多分・・・・人格と変な知識はあるんですけど、記憶の方は今一で・・・」
「俺もだ。前世がどんな奴だったのか、その辺が綺麗に抜け落ちている」
「「・・・・・・・・」」
再び時が止まり、そして動き出す。
「「仲間!」」
互いにがっちり握手。
まさか同類に出会うとは、俺みたいのモンスタースタートの奴って結構いるのか?
俺はゴブリンで彼女はミノタウロス……普通に出会ってたらどうなってたんだろ?
うん、間違いなく経験値行き確定だな。
ゴブリンじゃ勝ち目ねぇよ。
「あの~、どういう事なんでしょうか?」
「今一解り辛いのだが……」
「端的に言うと、俺もモーリーも生まれる前から人格と知識を持っていて、その所為か強力なスキルを最初から持っていたんだ。んで、俺が与えた【鬼神の加護】の相乗効果により急速に成長した。ただ、それだけの話」
奥さんと長老が困惑しているな?
まぁ、当然だろうが……。
「人間でいう勇者と同じという事ですかな?」
「転生者が勇者になるっていうなら、間違いなくそうだな。魔物に転生できる事には驚きだが、残念な事に前世でどんな生き方をして来たのかさっぱり分からん。知識はあるんだけどな」
「成程のぅ……つまり、我ら一族の勇者になる資質があると?」
「本人次第じゃね? 戦闘に向かない性格もあるし……。護身程度に武器の使い方を覚える事は推奨するけどな」
魔物の世界は弱肉強食だ。
隙を見せれば美味しく経験値にされ兼ねない危険な世界なのだ。
身を守る術はあるに越した事は無い。
「これは凄い事になりましたな。村一の戦士の娘は、勇者ですか」
「本人次第だって。好きにやらせて見ればいいんじゃね? 俺も好き勝手に生きてるし」
「それもそうですな」
「モーリーには自由に未来を選択してもらいたいです」
良い母親だな。
それに比べて親父の方は……未だに部屋の隅でいじけてる。
情けないぞ、牛さんの勇者。
「さて、用も済んだし、帰り支度でも始めるか」
「何と?! この地に住まわれるのでは無いのですか?」
「言ったろ? 修行中の身だって。自分の力が制御出来なきゃ、此処にいる事自体危険なんだよ」
「しかし……」
「この神域が今住んでる所と繋がっているなら、話は楽なんだけどなぁ~」
『スキル【次元神】【神域の支配者】の効果により、この神域とツエイザ邸に転移ゲートを設置します。ゲートの位置はマップで確認してください』
「ブフッ!?」
待て、今とんでもない事を言いやがった。
転移ゲートだと? 俺はそんな事を望んだ事は無いぞ?
脳内アナウンサー……またやりやがったな!
ボヤいても仕方が無い。転移ゲートの位置を確かめねば。
あ……、あのなんちゃって少○寺の一角にありやがる。
しかも【神武帝城】て名称がついてやがるよ。
やはり城なのね……アレ……。
「どうやら……ここと街まで、直通で行き来が出来るようになったみたいだ」
「人間の街に繋がっているですと?! そ、それは……」
「見てみない事には何とも言えんが、眷属専用じゃないかな? 加護の無い人間には使えない」
神域の情報を見ていますが、どうもこの領域は空間が歪められ、外部からの侵入を遮断している様である。外側から見れば普通に自然の光景が見れるのだが、眷属でも無い物がこの領域に侵入すると迷うようになっている。一定数の軍団で侵攻して来ようものなら、物理的な障壁によって阻まれる事になる。
ここを簡単に通る事が出来るのは【鬼神~】と付いたスキルが必要みたいだな。
装備でも通行は可能だが、俺は自分の装備を売り捌くつもりはない。
ついでに隷属化した魔術を使い侵攻してきた場合、呪詛系の効果が付与された者達は呪縛をかき消され侵入すら出来ない。
簡単に言うと【認識阻害】し【障壁】で眷属以外完全シャットアウト。
呪われた者達は完全浄化される。これだけである。
気になるのはこの神域にもレベルが存在し、徐々に強化されて行くみたいだな。
行き成り土地成金ですわ。
「無駄に広い領域だな。農業でもやれと言うのか?」
「それ程に広いのですか?」
「情報だと、小国が三つほど余裕で入る広さだな。領域が広がる可能性もあるが……」
頭の中にこの世界を宇宙から見た光景が映るんだが、黒い円が無数に存在している。
これは魔王の支配領域なのだろう。俺の領土は魔王に比べればはるかに小さい。
その領域がぶつかり合っている所が存在するが、どうも戦争中だね。
俺と同じような聖域もあるが、これはメルセディア聖国の領土みたいだ。
けど聖域自体が弱まっているらしいし、神様いないんじゃね? 若しくは聖域を維持する事を放棄して全機能を停止した?
何で解るかって? 【真・神眼】と全神様スキルのフル稼働で見れるんです。
しかし、聖域を維持する神が居ないのに、何でこんなに支配領土が広いんだ?
きっと信仰を盾に戦争を吹っかけて、領土を増やして行ったんだろうね。血生臭い聖職者の良くやる手口だ。ま、どうでもいいか。
あ、マップ内に転移ゲートも出てる。グラードス王国アットの街だな……どうやら鍛冶場にゲートが出来たようだ。
「なぁ、味噌や醤油を使って人間と交易する気無いか?」
「人間と交易ですと?」
「無理にとは言わねぇよ。当面はこの神域内での生活を安定させるだけだし、養鶏や養豚もしたいなぁ。放牧が良いか? 牛は……そう言えば、料理に魔牛の肉が出てたけど、ミノタウロスの時食ってたのか?」
「無論です。あの肉は最高の馳走ですからな」
牛が牛を食うんですか? 牛の顎で肉が食えるとは思えないんですがね、骨格的に……。
まぁ、そこはファンタジー世界ですから、そんな生物が居てもおかしくはありませんけどね。
でも……共食いじゃね?
「いつでもこっちに来れるようになったからな、じっくり確実に行くべ」
「は? ハァ……」
焦ってもしょうがねぇし、目の前に集中しましょ。
「俺に用がある時は転移ゲートで一人づつ来てくれ、大勢で来られても場所的に問題があるから」
「わ、分かりました」
「まずは農業を充実させて特産物を作るのが良いな。味噌と醤油も大量生産できれば良いし、酒も出来る事なら欲しい所だ。人でも少し増やしたいが……信用における種族はいないですかね?」
「残念ながら、我等の周囲でそれほど知恵の回る種族はおりませんぞ?」
「んじゃ、探すか。俺は身軽だし、自由に動けるからな」
醤油と味噌を定期的に得られるなら努力は惜しみません。
グラードス王国の料理は旨いんですがね、香辛料の味がキツイんですよ。
お米も大量だし、今後が楽しみです。
アレ? 王様街道爆進してね?
「ね、ねぇ、貴女帰っちゃうの?」
「帰るさ、それは……て、今俺を女扱いしなかったか?」
「え? 女の子じゃないの?」
「俺は男だ……。誰も勘違いしやがる」
「男の娘……実際に見るのは初めて♡」
「人が気にしている事をズケズケ言うのは嫌われるぞ? 俺は今の姿が不満なんだからな?」
失礼しちゃいますな。
時にモーリーよ、何故にそんなに嬉しそうに俺を見るんですか?
「……スカートに挑戦する気は?」
「ねぇよ!!」
こいつ……俺を女装させる気だ!
「・・・レン君・・・女装・・・見たい♡」
「メリッサさぁ――――――――――んっ?!」
何でそんなに期待の籠った眼で見るんですか?!
やりませんよ? 女装は絶対にやりませんよ?
俺にも男としての矜持があるんです。こればかりは譲れません!!
「モーリー、この方は私達の王様なのですよ? 失礼な事を言ってはいけません」
「えっ?! じゃぁ、この【鬼神の加護】て……鬼神て……」
「俺の事だな。つまり、俺が与えた加護って事だ。それが無ければもしかしたら牛さんのままだったかもな」
「まさか、『俺、TUEEEEEEEEE!!』するつもりなの? 強大な勢力を組織して戦争仕掛けて無双するの? ハーレム作ってウハウハするの? 天空の城でも作って『見ろぉ! 人が塵のようだぁ♡』て言うつもりなの?! 黄金と銀と青銅の戦士達を組織して、神々と闘うの?! 世界を革命しちゃうの?! 魔眼を使って人を操って、平和な世界に礎になっちゃうの♡」
「いや、ただ平穏に生きたいだけ。戦争は最低の政治だぞ? どれだけ経済を破壊すると思ってんだ?」
ヤバい……コイツ、真性のオタクだ。
「えぇ~、戦争しようよ」
「お前ねぇ~、そんなに殺し合いがしたいのか? ゲームじゃねぇ―んだぞ? 解ってんのか?」
「えぇ~? ステータスが出てるんだよ? ゲームじゃないの?」
「それがこの世界のルールだが、だからと言って死んでも生き返る訳じゃない。人を殺すなら殺される覚悟も必要だぞ? その覚悟があるなら止めないけど、俺を巻き込むなよ?」
「そ、それは……」
「親の目の前で子供を殺せるのか? 多くの恨みを一身に背負えるのか? 世界を敵に回しても果たしたい信念があるのか? たった一人きりになっても戦い続ける覚悟があるのか?」
「うぅぅ……」
「幾ら魔物から進化したとはいえ、不用意に戦いを仕掛ければ淘汰されるのが現実だ。遊びで戦争をするほどタチの悪い物は無いだろう?」
「・・・・・・」
うん、間違いなく厨二病だな。
でなければ、こんな馬鹿な事を言う筈がない。
ゲーム感覚で生きようとしているのがハッキリしたね。
「幾ら魔法が存在しゲームみたいな世界でも、そこで暮らす者達には意志が在り、命は一つしかない。お前は自分の命を懸けて戦争する程の理念に殉じる覚悟があるのか? 多くの犠牲の上に築きたい世界があるのか? この世界を破壊したいほどに恨む何かがあるのか? 無いのなら今後馬鹿な事は言うな」
「で、でも、転生しているんだし、次の人生も……」
「あると何で言い切れる? 俺達が人格と知識を持ち合わせている事自体異常なんだよ、次に転生できると断言できる根拠が何処にある? 俺がこの世界の管理者なら、寧ろ危険視して再び転生させようとは思わんね」
「・・・・・・・・」
「世界は変わっても、生きて死ぬ。現実何てこんなもんだ。変な期待はしない方が良いぞ?」
力の強弱がはっきり別れる世界だが、それでも生きて行く事は何処の世界も変わりない。
何の責任も持たずに暴れまわるのは止めないけど、俺の責任にされても面倒なだけだ。
ついでに甘い考えを捨てさせ、現実を教えて於くに越した事は無い。
世界なんて実際は優しくは無い。
そう思えるのは自分たち以外の世界を見ずに、盲目に現状に依存している奴だけだ。
平穏なんてものは簡単に壊せるもんだからな。強大な力なんて無くても理不尽を振り撒く事なんて誰にでもできる。
俺はそんな真似はしたく無いけど。
「・・・夢が無いね」
「現実を見ていると言ってくれ、殺し合いの何処に夢があるんだよ。波乱万丈がお望みなら一人で好きに生きる事だ、俺は関わらないからな? どこかの小説みたいに好き勝手に無双したところで、実際は恨まれ白い目で見られ、何れは危険視され殺される。俺達はこの世界に生きる者達より有利な条件で生まれたに過ぎず、だからと言って好き勝手にして良い訳じゃねぇんだよ。お前は自分の考えと同じ連中に剣を刺されて、納得して死ねるのか?」
「そ、それは・・・・・」
「俺に戦争したいと言ったが、それは自分勝手な無責任の屁理屈だ。自分の都合を俺に押し付けているだけに過ぎねぇんだよ。それを承諾する積もりは毛頭ない」
まぁ、要するに『死にたければ一人で死ね』て事だ。
「この世界の命の値段は思っている以上に安いぞ? 死んだら経験値に早変わりだからな、死体すら残らん」
「れ、レン様、子供にそれは言い過ぎでしょう!!」
おっ? 親父復活。
娘に甘いのは良いけど、ここは譲れんよ?
「俺も子供だぜ? ついこの間生まれたばかりのな。モーリーと大して変わらん」
「し、しかし……」
「ここで誤った考えを正して於かないと、何れはとんだ過ちを犯す事になる。俺と同類ならなおさら自覚させておかないと、今後多くの犠牲者が出る事になるぞ?」
「ま、まさか……モーリーに限って、その様な事……」
「転生者や召喚勇者はそれだけ危険なんだよ。実際に強い力を持っているからな、馬鹿だったら手におえない真似をしでかすな。間違い無く」
「・・・・・・・」
「今の内に釘を刺して於くに越した事は無い」
ふっ……今日の俺は最高にクールだ。
て、メリッサさん? 何故にモーリーを睨んでいますか?
そして、何故傍に行きますか? 人見知りなのに珍しい。
「・・・・・・・・」
「な、何? て、―――――――!?」
「メリッサさぁ――――――んっ!? 何してんのっ!?」
メリッサが思いっきりモーリーの胸を掴みましたぁ!!
じっくり揉んで感触を確かめ、そして……自分の胸を手で触って泣きそうな顔をしております。
世界が一瞬、凍りついた瞬間だった。
そのメリッサさんは部屋の隅に行き、膝を抱えて蹲ってしまった。
気にしていたんですね。胸が小さい事……。
今後の成長に期待しましょう。
「何なの……あの子?」
「何も聞くな……」
生後六日の子供に負けたのが悲しかったんですね?
色々とぶち壊してますよ、メリッサさん……空気を読んでください。
* * * *
さて、その後俺達は再び宴会場に戻り、盛大な宴で精根を使い果たした後、転移ゲートを調べるべく【神武帝城】に来ました。
何というか、結論を言えば少○寺です。
深紅の柱と白い壁が実に美しいのですが、装飾も少なく実に趣のある佇まい。
ですが、広い。広すぎる!! こんな所に住める訳がない。
何処も彼処も石畳が敷き詰められ、見習いの僧たちが心身を鍛える光景が浮かんでくるようだ。
マジで拳法を伝えてみるかね? 何か、出来そうな気がします。
ひと際大きな宮殿には奥に皇帝の椅子が置かれ、落ち着いた中にも威厳のある光景が広がっていた。
この椅子に俺が座れと? 冗談でしょ?
他にも政務殿や軍務殿、王宮殿に財務殿などが築かれており、人手が在れば国として運営できるほどの準備が整っておりました。
正直、要らねぇ。
何つーか、巨大な寺の中に王宮が存在している感じ? 微妙に頭が混乱するような建築様式だ。
これ、誰が管理するんだよ。
「これは素晴らしい……」
「武神に相応しき城ですな」
「難攻不落の空の城……しかも美しい」
うん、元牛さん達は気楽でいいね。俺は正直うんざりしております。
「今は使い道がねぇんだよなぁ~、どうすんだよ、この城」
「他の種族も招き入れたらどうでしょう。眷属にすれば言葉も通じる故に」
「相手が承諾しなければ意味が無い。そもそも王様と云う立場はあまり好きじゃねぇんだよ」
「責任のある立場ですからな。分かりますぞ」
生まれて一ヶ月すら立ってない身空で、何で王様になんかなるかね。
これもあのフザケたスキルと、脳内アナウンサー共の暴走が原因に違いない。
恨む事しか出来ない無力な自分が憎い。
「それにしても、何処に転移ゲートがあるんだ? この辺の筈なんだが」
転移ゲートの位置を確かめながら移動している俺達なんだが、位置は特定出来ているのに場所が見つからない。何故なんだ?
そうなると可能性はただ一つ。
「やはり地下か……何処から行けばいいんだ?」
転移ゲートの位置は王宮殿裏の中庭に位置しているのだが、それらしいものは見つからず澄んだ水が湛えられた池しか見当たらない。
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【神水(劣)】
飲むと体力と魔力を完全回復する水
王宮殿中庭に湛えられている湧き水
植物を大幅に変異させる効果が有る。
どのような成長を遂げるかはお楽しみ♡
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「これ……いきなりトンデモアイテムが出たんじゃない?」
「まぁ、神域だしな。この程度は予想範囲だろ」
モーリーはあまりの高効果アイテムに絶句した。
当然だろうね。
レベル1の状態で、いきなり勇者の剣を手に入れる様なものだ。
この神域の素材アイテムの効果も後で確かめた方がよさそう。
「・・・・ん・・・採取♡」
メリッサさんは上機嫌で水を汲んでおります。
錬金術師の血が騒ぐんですね。
武闘派ですけど……。
「この池の真下? どこかに入り口が……」
「あの回廊の突き当りが怪しくないでしょうか? 直ぐ傍が別の建物で塞がれていますし」
「モース、良い着眼点! 冒険者になれるぜ」
「お父さん、やるぅ~!」
「そ、そうか? はははは、任せろ!」
うん、馬鹿親だ。
そんで、案の定モースの言った通り階段がありました。
「おーい、メリッサ? 置いて行くぞ?」
「・・・ん・・・待って・・・・」
トテトテついて来るメリッサ、カワユッスね。
ところで、どんたけ【神水】を汲んだんですか?
実際に錬金術に使えるの?
地下に降りて暗い回廊を少し進むと、広い空間に出る事になった。
周りは水で満たされ、その中央に八卦版の様な魔方陣が存在していた。
「うん、転移ゲートに間違いないな。けど、何で地下に設置するんだ?」
「・・・・・綺麗♡・・・・」
「侵入者を撃退するための可能性もあるが、場所を秘匿にするためでは無いかのぅ?」
「この水は何処に流れているのだ? 解らん」
「それ以前に何処から流れてきてるのかしら? 不思議ね」
色々謎多き空間、それが神域なのだろう。
それは兎も角、早く帰りたい。
「転移ゲートは中央に行けば勝手に発動するみたいだ。ただし、一日しか使えない」
「便利なのか、不便なのか微妙だな」
つまり往復が出来ない訳だ。
これは神域のレベルが低いからか? レベルが上がったらどうなるかが怖い。
「じゃぁ、暫くしたらまた来るからな。世話になった」
「いつでもお越し下され、ここはレン様の支配する国です」
「支配……国…とんでもない事になったもんだ」
「・・・ん・・・全ての事象には意味がある・・・・レン君・・・受け入れる」
あぁ~……確かにあるだろうな。
神の玩具とか、悪魔の悪戯とかそんな感じの奴が。
そんな事を考えていたらゲートが作動し、気づけばメリッサの自宅に転移していた。
鍛冶場のほぼ中央の地面が硬質化し、そこに転移ゲートの八卦陣が刻まれている。
本当に繋がったみたいだが、この転移ゲートは誰が設置したのだろうか?
実に謎である。
「取り合えず、ギルドに報告に行くか?」
「・・・ん・・・・・」
依頼達成の報酬は報告しなければ貰えないので、俺達は直ぐにギルドに向かった。
さて、どう切り出して報告するかな。
頭が痛い話だ……。
* * * * * * * * * * * *
「……てなわけで、豚魔王をぶっ殺してきた」
「プゥ―――――――――――――――ッ‼‼‼‼」
レンの報告を聞いたボランは盛大に紅茶を吹き出した。
この依頼をレンが受けてからまだ五日と掛かっていない。
更に色欲魔王グモールは移動を繰り返して居場所を特定するのが困難であり、同時に軍団規模での移動なので戦力だけでも凄まじい程の戦力を保有している。
現に幾度となく討伐軍が組まれる事があったが、その全てが無残に敗北に帰し、多大な人的被害を齎してきたほどである。
その魔王をたった一人で、しかも足手纏いを抱えながらも勝利するなど、最早歴史に残るほどの化け物である事を意味していた。
多くの者は信じそうにないであろうが、その証拠にグモールが使った魔剣が目の前に置かれていた。
魔物を倒す事で手に入る武器は、倒した本人でしか扱う事が許されないという特殊効果が付随している。
その為、この魔王の魔剣はレン以外に使う事が出来ないのだ。
また、剣自体から尋常ではない呪詛が放出されており、それに耐えられるような者はこの場には誰も居なかった。
「た、たった一人であの軍団を滅ぼしたと言うのかっ?!」
「あぁ、まさかあそこまで弱いとは予想外」
「お前から見たら誰も弱い存在だろ。だが、正直やり過ぎだ」
「マジ?」
レンは自分がしでかした事の重大さを今一理解していない。
魔王の軍勢を単騎で滅ぼせるなど、もはや常識の埒外の存在であり、誰もが無しえなかった最悪の偉業である。
それはつまり、レンを相手にするには国の騎士団如きでは、到底勝ち目がないと言う事実であった。
この事実はメルセディア聖国に喧嘩を売るに等しく、そして彼の国はレン一人に勝つ事は出来ない。
勇者を大量導入すればそれも可能かもしれないが、鬼神と云う新たな神の前に意味があるとは到底思えない。何せ、魔王に無傷で勝利したのだから、魔王討伐を掲げるメルセディア聖国は存在そのものを揺さぶられる事に繋がるだろう。
魔王クラスであるランク7とレンのランク8とでは、たった一つの差で10倍近い開きがあるのだ。
更にそこにスキル効果が加わる事により、その力は更に増大する事になる。
不味い事に、レン自身が国自体に縛られるのを拒絶しているので、神敵として討伐依頼が出る可能性が高くなってきた。
実に厄介な事態である。
「お前……メルセディア聖国に狙われるぞ?」
「あ~、人間至上主義で亜人種を排斥している宗教国家だろ? しかも神に見放された国」
「な、何? 神に見放されただと?」
「ちょいと聖域の様子を見る機会があったんだけど、聖域の力が急速に弱まってるな。あそこの聖域を管理する神がいないって事だろ?」
「初耳だぞ?! その情報は確かなのか?」
「ボランさん……俺、鬼神」
「成程な……神であるが故に神を知るか」
レンが言ったことが事実なら、メルセディア聖国は既に神から捨てられた背教者の集団という事になる。
この事実が知れ渡れば、この大陸は再び戦乱に巻き込まれる事になるだろう。
「しかし、豊穣神【イルモール】は何故見捨てたのだ? 自分を信奉する信徒だろ?」
「予想は出来るぞ? 確信も確証もねぇけど」
「何?」
「原因は恐らく亜人種の排斥。予想ではイルモールが亜人種から進化した神である可能性が高い」
「ふむ……そう考えると、自分の同胞を排斥する連中を見限る可能性は高いな。だが、何故そう思う?」
「ボランさん、俺、元はゴブリン。魔王にはならなかったけどな」
「その姿でゴブリンだったと言われてもな」
「ほっとけやっ!!」
愛くるしい姿でプリプリ怒るレンの姿は、どう見てもゴブリンには見えない。
寧ろ萌えさせるだけであった。
メルセディア聖国が神に見放されたとするなら、勇者が集められる理由にも説明がつく。
恐らくは復権を狙っているのであろうと、ボランは予測した。
聖域はメルセディア聖国にとっては重要な場所であるが、その力が弱まって来ているとなると魔王の侵攻を止める事は出来ない。
脅威を打ち払うために、この辺りの魔王を滅ぼそうとする行動に移したと推察した。
だが、こうなると別の問題が出てくることになる。
「レン……お前、メルセディア聖国からお呼びが掛かるぞ?」
「そこはきっぱり断る。めんどくせぇ」
「まぁ、そうだろうが……しつこく付き纏われるのは確定だな」
「そん時は、俺が神域に逃げ込むからいいさ」
「神域? お前、まさか自分の領域を手に入れたのか?!」
「スキルが勝手に暴走した。俺の意思じゃねぇが、逃げ込むには充分だな」
本当に関わる気が無いのが厄介である。
ボランは頭を抱えたくなって来た。
「メルセディア聖国は、魔王の侵攻の際に聖域がある事で被害を防ぐ事が出来た。神域の存在が明るみに出れば、何としてでも手に入れようとするぞ? それこそ、お前の身内を洗脳してでもな」
「俺の加護を受けた連中はその程度の事で支配はされんよ。呪詛関係は無力化されるし、神域内に近付けば強制解除される」
「つまり、洗脳された奴等は開放され、全てが敵に回る訳か」
「そうなるな」
最早蓮をどうこう出来る問題では無い。
敵に回せばレンに戦力を与えかねない事態である。
聖国に勝ち目など端っから無いに等しい。
「ま、先の事を心配してもしょうがねぇ。豚の討伐に関しては報告しておく」
「何か、ここまで言われると、報酬はいらねぇから黙ってて欲しいんだけど。金に困ってねぇーし」
「そうも行かん。これも仕事でな、魔王なんかを倒したお前が悪い」
「理不尽だ!」
「世の中は理不尽だらけだぞ? 知らなかったのか?」
「知ってるよ、チクショー!!」
こうしてレンの魔王討伐達成は受理された。
結果として新たな騒ぎが起こるのは、少し先の事である。
今はただ、偉業を成し遂げた筈なのに、不貞腐れるレンの姿があるだけであった。