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 王様に祭り上げられました。

 目の前に広がる雄大な光景。

 特殊スキルの暴走で出来たとは思えない長い歴史を感じさせる大自然。

 どこかの水墨画や三国統一戦争の話で出て来る様な、そんな景色が俺の目の前に広がっていた。


「・・・・・何んでだ……? 何故にこんな事になってんの?」


 どうもこの広大な領域は俺の支配下にあるらしい。

 つまりは俺の領地……冗談でしょ?

 しかも何故か一際巨大な断崖に、何処かの拳法映画で出て来そうな寺院の様な物まで築かれている。

 若しくはどこかの皇帝が暮らす宮殿か? 色々間違ったものが混同されているが、幸い東方建築様式で統一されているので違和感が無い。


「あれが俺の城だとでもいうのか? 霧が出たら天空の城じゃん……つーか、少○寺やん」


 まぁ、建物に玉ねぎ型の屋根が乗っかってないだけ風景に合ってはいるけど、ここに君臨しろとでも言うのですかね?

 正直落ち着きませんよ、何処の坊さんですか。

 元ミノさんに拳法でも教えろと言うのか? あ、それ良いかも……。


「こ、これはいったい……、俺に何が……」


 おや、ミノさん。突然の事態に呆然としてますね。

 気持ちはわかるよ、俺もそうだから。


「俺のスキルが暴走した……。何か、アンタら俺の眷属になってるぞ?」

「何ですと? まさか!!」


 少し前は牛さんだったのに、今ではすっかり男前になってる。

 無造作に伸ばした髪に、精悍な顔立ちで、頭の左右に牛の角があります。

 体格はミノタウロスよりは小柄になったが、180は身長があるだろう。

 鍛えられた肉体が、はち切れんばかりの生命力をこれでもかと主張してる。


 ====================


 種族 牛鬼・半鬼族(固定) 名称 モース

 Lv93 ランク3  職業 獣戦士 


 スキル

『大剣』Lv6『戦斧』Lv7『盾』Lv5『弓』Lv6

『格闘』Lv8『薬師』Lv3『農業』Lv8『狩人』Lv9

『育児』Lv3『料理』Lv3『指揮』Lv5『統率』Lv6

『防御』Lv6


 特殊スキル

【身体強化・特大】Max【精強・大】Max【攻撃力増加・大】Max

【防御力強化・大】Max【狂乱】Lv3【闘争】Lv6【守護】Lv1

【気配察知】Max【家族愛】Max【親馬鹿】Lv6【戦士の誇り】Max

【鬼神の加護】Lv1【無双】Lv5【戦士の矜持】Max【忠臣】Lv1

【義理と人情】Lv8【子煩悩】Lv7【勇猛果敢】Max【男気】Lv8

【愛妻家】Max【酒豪】Max【堅物】Lv5


 称号

【ミノタウロスの勇者】【バカップル】【酒に呑まれない男】【命知らず】

【愛に溺れた漢】【リア充】【美人の奥さんを持つ男】


『・・・・・羨ましくないからね?! チクショー、爆ぜやがれっ!!』


 進化 16/80


 ====================


 ・・・・・おい、今のアナウンス…俺に恨み持ってる奴だろ。絶対!!


 それにしても、無茶苦茶男前じゃね?

 仁義に厚い男の中の男だよ、別の意味で羨ましい。

 俺、男の娘だし……チクショー!


「何か、姿が人間に近くなっている気がするんだが……?」

「多分、村にいる連中も同じじゃね? 暴走に巻き込まれて全員眷属化してるし」

「何と、それは素晴らしい」

「いや、あんたが勝手に決めても良いのかよ?」


 俺に仕えたいと言って来たのはこの人だけだし、村の合意は受けてねぇよな?

 勝手に話を進めても不味いだろ。

 厄介な事態になりましたよ……あぁ~寝てぇ……。


「確かに…。一度、村に戻るべきでしょうな。貴方様もできれば来ていただきたい」

「選択肢がねぇしな……。もう直ぐ日が暮れるから、どの道村に寄る事になるか」

「では案内いたしましょう」


 もう、なる様になれだ……。

 俺はぐっすり眠っているメリッサを背負い、もとミノタウロスの村へと向かった。

 


 村の中は矢張り、人の姿に変化した牛さんだらけになっておりました。

 皆さん混乱している御様子で、俺が悪い訳でもないのに罪悪感をひしひし感じる。

 

「お、お前、モースか?」

「まさか、タウロか?」


 知り合いを認識するのに一苦労の様だな。

 ところで、牛だった時はどう互いを認識してたんだろうな?

 ゴブリンもそうだけど、みんな同じ顔に見えるぞ?

 不思議だな。


「どうにも我等はあの御方の眷属になったらしい」

「何? だが、俺達が進化したのは何故だ?」

「恐らくは【鬼神の加護】の影響だろう。この力は我等を更なる高みへ導くだけでは無く、力も以前よりも遥かに高める効果が有る様だ」

「おぉ……我等にそこまで力を与えて下さるか! して、あの御方のご尊名は?」

「あ……そう言えば聞き忘れていた。これは失礼であったな」

「お前なぁ~……我等に加護を下さった御方に、それはねぇ―だろ」


 そう言えば、俺も名乗った無かったな。

 いきなりスキル暴走で忘れてたよ……それにしても眠い。

 おかしい。何でこんなに眠いんだ?

 暴れてた時はなんともなかったのに……。


 チョイとステータスを見たら、魔力がレッドゾーンに突入していました。

 成程、これが原因かよ。

 条件が整ったら勝手に発動するスキルって、時限爆弾と同じじゃねぇか!

 あと、【鬼神の加護】は経験値を増価させ、成長を促進させる効果もあるみたいだぞ?

 俺の状態を胆略化させたスキルも含まれている。

 更に、この神域から出入りできる許可証の役割もある様だ。

 至れり尽くせりだね。今後、どう進化するのか恐ろしくてたまりません。


 あれ? 何で皆さんは俺の周りに集まっているのですか?


「我等が王よ、失礼と承知いたしますが、ご尊名を伺いたい」

「あ? レンだ。レン・オーガ、今はごぶりんだが、成長すれば鬼神に正式に変化すると思う」

「二つの種族が重なっておられるので?」

「俺はこの間生まれたばかりなんだよ、短期間で成長した弊害だろうな」

「成程、不思議な事もあるものですな」

「俺自身がそう思ってる。しかもスキルは勝手に発動するし、厄介だ」


 好き勝手に発動するスキルなんて厄介なだけだ。

 俺ってスキルに弄ばれてるよね?

 ステータスの方も適当な感じがするし……どうなってんの?


「皆の者、これより我等はレン・オーガ様を王と仰ぎ、この身尽きるまで忠誠を誓う事を宣言する!!」

「「「「オォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼‼‼‼」」」」


 ちょ、何で勝手に盛り上がってんの?!

 俺、容認しましたっけ?!

 やべぇ、何か既に退路を断たれたみたい。逃げられねぇ!!


「何故に?! この間生まれた若造に、何でそんなに忠誠心が厚いのさ!! おかしくね?」

「何を言うのよ、王様。この村の危機を救ってくれたではありませんか!」

「んだ、恩に報いるのは儂らの流儀じゃて」

「村を救って貰ったからには、この村全員で誠心誠意を籠めて尽くす所存に御座います」

「貴方様には、返しきれないほどの御恩が出来ましたわ」


 ひぃ―――――っ!! もう、どう仕様もねぇ――――っ!!!!

 この人等を従える話は兎も角、既に選択肢が出ない事態が不味すぎる。

 何とか誤魔化して、この場を脱しなければ。


「いやな? 俺はこの間生まれたばかりだから、暫くは自分を極めたいと思ってるんだよ」

「ほう、お若いのになかなか関心ですな」

「どうも……でだ、王とか言われても俺は未熟過ぎるし、未だ修行中の身の上なんだよ」

「ふむ、つまりは王と名乗るには未熟故にもう少し待って欲しいと、そういう事でしょうか?」

「あ、あぁ…? 魔王なんて単に傍迷惑な連中なだけだろうし、俺は基本的に戦争とかは起こしたくねぇ―んだわ」

「しかし、人間共にとっては脅威ではございませんか?」

「まぁ、確かに……」


 広大な支配領域を持った存在何て魔王以外に居ねーだろうし、そんな存在が新たに現れたら驚異としか思わんだろうな。

 別に敵対する気はねーけどさ、相手がどう思うかは別問題なんだよなぁ~。

 それ以前に俺自身が馬鹿げた存在なんだし、間違いなく宗教関係の奴等は邪神扱いで討伐依頼を出すだろうし、今の内に戦力を集めた方が良いのか?

 今は様子見にしておいた方が良いか。


「無差別に戦争を起こす訳じゃねぇから、今は足元をしっかり固めるのが優先だな。焦ったところで禄でも無い馬鹿が入り込む可能性もあるから、見極めながら行くしかない」

「確実に信用のおける者を受け入れるという事で宜しいか?」

「あぁ、取り敢えず今は、神域化した領土を調べ尽す事が優先だ。自分達の地の利くらいは把握しておかないと痛い目を見る事になる」

「おぉ、確かに……それにしても、いったいどれほどの領土を収めたのですか?」

「知らない。スキルが勝手に神域化したから、把握するにも魔力不足で倒れそうなんだよ」

「それはいけませんな。早速休める場所をご用意しましょう」

「あー…頼む」


 あれ? 何か、いつの間にか俺、上から目線で命令してね?

 まぁ、共存共栄は良い事だし、ゆっくり行きますか。

 今は眠いし、少し休ませてもらおう。

 あー疲れた。

 

 その日、俺は元牛さんの長老の家に御厄介になりました。

 それにしてもメリッサさん、良く眠りますね。寝る子は育つですか?

 些か眠り過ぎじゃないでしょうか?


 

 

 * * * *


 牛さんを配下に加えた次の日、魔力は完全回復して実に爽やかな朝を迎えました。

 これで昨日の事が無ければ実に清々しいんですけどね、頭が痛い問題だ。

 メリッサは……俺にしがみついて眠っておりますです。

 ところで、どうして俺の腹の上で寝ているんでしょうか?

 ラッコですか、貴女は……どんな寝相だよ。


 そんな訳で、いつもの如く動けません。

 仕方が無いのでステータスをチェックします。暇だし……。


 ====================


 種族 ごぶりん・鬼神(成長段階) 名称 レン・オーガ

 Lv99 ランク8 職業 萌え萌え武闘神王


 スキル

【千のスキルを持つ者】Max


『いや~、だってさぁ~? 表記するのチョーめんどいしぃ~♡ これで充分だよね?』


 特殊スキル

【成長促進・神】Max【経験値倍加・神】Max【真・神眼】Max

【武神乱舞】Max【魔導の極限・神】Max【戦術の極み・神】Max

【仙術の極限・神】Max【鍛冶の神】Max【薬術の神】Max

【戦神】Max【破壊神】Max【癒しの神】Max【武闘神】Max

【農耕神】Max【混沌神】Max【次元神】Max【勇者王】Max

【魔導神】Max【自重を忘れた者】Max【殲滅せし者】Max

【超越する者】Max【歩く災厄】Max【天下無双】Max

【禍を転じて福と為す】Max【非常識を超越した者】Max

【萌え萌え神】Max【絶対無敵】Max【我が道を行く】Max

【ツッコミ体質】Max【世界に喧嘩を売った者】Max

【世界をひれ伏させた者】Max【気が付けば戻れない】Max

【三千世界を制覇する者】Max【絶対の放浪者】Max

【流されて人生】Max【勢いに呑まれた者】Max

【狩猟の神】Max


『これ以上は表記めんどいから、【万の特殊スキルを持つ者】で良いよね☆』


 固有スキル

【眷属化】【鬼神の祝福付加】【鬼神の加護付加】【鬼神化】

【武神化】【神域を統べる者】【神域の支配者】【鬼神の権威】

【神体強化】【神罰執行】【神の奇跡】【神の祝福】【神の加護】

【神体異常無効化】【全属性完全耐性】【全属性完全掌握】

【次元制御】【物質生成】【知識の泉】


 称号

【相思相愛】【魔王殲滅者】【降臨せし鬼神】【不幸を受け入れた者】

【幸せの探究者】【世界に遊ばれた者】【僕らの鬼神王】

【成り行きに身を任せてみても良いでしょ?】


『あ~あ、やらかしたぁ~。どうすんのよ、コレ』


 ====================


 俺が聞きて―よ!! めっちゃ増えてるやん!!

 前から思ってたけど、称号みたいな特殊スキル、一体何なの?!

 スキルに神の役職みたいなのがあんだけど、いつの間にそんな事になってんのよ!

 俺にどないせぇーちゅうねん!!

 基準がわからねーて言ってんじゃァ!!

 

 もう、ステータス見るのを止めよう……精神が削り取られる。

 最悪なくらいに自重無し……スキルが千と万て、なして?

 そんなにスキル持ってんの?

 もう、どうでも良いよ……俺は自分の幸せを探す事にする。


 最悪だよ、【禍を転じて福と為す】てスキル。マイナススキルをプラスに変えやがんの。

 つまり、ただでさえ非常識なまでに高いステータスを、マイナススキルの補正効果を逆転させて加算するから、どうしても凶悪なまでに強くなるんだよ。

 更に【超越する者】と【非常識を超越する者】の効果は、相手の持つ特殊スキル効果を無効化するんだよね。

 ついでに状態異常なんかも完全に効果なし。


 ゲージステータス自体修正された分が現れないから、副次効果でどれ位加算されたかが見えないんだよね。

 数字で表示してもらいたいけど、正直見たくねぇ。

 このままで良いよ、もう……。

 

「・・・・ん・・・」

「お? 起きたみたいだな? てか、良く押しつぶされて窒息しなかったよな、俺」

「・・・・・・・おあよ・・・」

「おはよう。昨日の夕暮れからよく眠れたな? かなり睡眠時間取ってたぞ?」

「・・・・・・育ち・・ざかり・・・」


 寝る子は育つと言いたいんだね。

 まぁ、もとが引き籠りだからフィールドワークで疲れたんだろうな。

 体力的には問題なくても、精神的に疲れが出たんだろう。

 それより、そろそろ上から退いて貰えませんか?


「・・・ん~・・・・・」


 体を伸ばしている眠気を飛ばしていますが、また眠くなる事でしょう。


「・・・・ここ・・・どこ?」

「今更ですかい。ミノタウロスの村だったところだよ、今は全員が進化したみたいだけどな」

「・・・ん・・・危険・・無い?」

「大丈夫だろ、中々良い連中だぞ? 少し混乱状態だけどな」

「・・・・ん・・レン君いるから・・・安心♡」


 萌えてまうやろぉ―――――――――――――――っ!!

 

 そんな小動物みたいににっこり微笑まれたら、萌えない奴はおりませんぜ!!

 何処まで最終兵器なんですか!! 思わずハグしたいですよ!!

 まぁ、俺がハグしたところで、抱き着いてるようにしか見えないんですけどね。

 男として、萌えを振り撒く気はありませんよ。


「んじゃ、朝食でも作りますか。豚肉はあるから、冷しゃぶサラダにしてみるか……」

「マヨネーズ・・・・大盛りで・・・」


 ふっ……メリッサさんは、マヨラーに目覚めてしまったんです。

 それも丼一杯分は余裕です。

 俺は……作ってはならないモノを作ってしまった。

 マヨネーズで味付けをするんじゃない。マヨネーズが主食になっているのです。

 けどね、卵が高くて量を増やす事が出来ないのが責めてもの救いだ。


「厨房を借りるか、マヨネーズはあるが他に食う物を作らなきゃな」

「・・・マヨネーズだけで充分・・・・・」

「メリッサさぁ――――――ん、ちゃんと食べなきゃだめですよ!!」


 恐ろしい事を仰います。

 確かに山で遭難した時に、手持ちのマヨネーズで命を繋いだ人はいますよ?

 けどね、栄養は効率良く取らないと健康に悪いんです。

 何処まで剛の者なのですか? いっそ清々しさすら感じます。

 でもご飯はきちんと食べようね?


「失礼します」

「はい、何でしょう?」

「お食事の準備が整いましたので、お呼びに参りました」

「これはご丁寧に、直ぐに参ります」

「いえ、長老様からレン様を丁重に案内せよとの名を受けておりますので、準備が出来次第私がご案内いたします」

「・・・・・・案内?」


 その時、俺は無性に嫌な予感がした。

 そしてそれは現実のモノとなるのです。



 * * * *


 広場には村中の牛鬼達が歓喜の宴を催していた。

 そんな状況の中、オイラはメリッサと共に長老と、一際高い位置の壇上で食事を出されていた。

 これって、俗に言う晒し者じゃね?

 どうにも俺は完全に王様になってしまった様で、彼等に思いっきり祭り上げられておりますです。

 正直食事が喉を通りません。寧ろ胃の辺りがシクシクと痛むのですよ。

 生まれて一ヶ月も満たない身空で、胃潰瘍を発症するのはあまりに情けなさ過ぎる。

 そんなオイラの心を知らず、うちの母さんは食事を満足そうにパクついておる。

 大量のマヨネーズをぶっ掛けて……ブレないですな。


「レン様、あまりお食事が進んでおりませんが、お口に合いませ何だか?」


 長い白髭の体格の良い爺さんが俺に声を掛けて来た。

 この爺さんが長老で、名をタウスという。


「い、いや、こんな風に食事をとるのは初めてなんで、慣れないと言うか…場違いと云うか……」

「ほっほっほっ、確か生まれて間もないのでしたな。それでは仕方がありますまい」

「同じ定位置であったなら少しは違ったんだが……」


 こんな場所、慣れる訳ね―でしょ。

 けど、俺を歓迎とお礼の意味を込めている訳で、とても文句は言えましぇん。

 少し何かを口に入れれば変わるかもしれん。

 何気に木製フォークで煮物らしき物を刺し、口に運ぶ。


「?!」

「い、如何なされた?!」

「長老、この味付けに使っている物は……まさか……」

「コレですかな? 我が村で作っております【ショシュ】と云う味付けの元ですな」

「ショシュ……醤油か?! 醤油をここで作っているのか?」


 醤油発見。何故か知らないが、懐かしい味がした。

 間違いなく俺は転生者なのだろう。

 記憶は無いけど……。


「まさか醤油をミノタウロスが作っていたとは……、豚魔王を倒して本当に良かった」

「き、気に入ってもらいましたかな?」

「うん、この醤油はぜひとも欲しい所だ! 煮て良し、焼いて良し、そのまま掛けても良しの万能調味料だよ」

「では、少しお分けしましょうかの? 何分作るのには時間が掛かりますから、それほどの量は出せませんが」

「良いのか? 醤油、ゲットだぜ!」


 おぉ、幸先良いな。まさか醤油があるとは……。

 あれ? 醤油があるとすると……アレもあるのでは?


「なぁ、もしかして、味噌もあるのか?」

「味噌? なんですかな……あー! もしかして【ミジュク】ですか?」

「ミジュク? 茶色い色の醤油の前段階みたいなやつだぞ?」

「ありますぞ。ショシュを作る過程で失敗した物ですが、中々に使い勝手が良い物です」

「おーっ! 味噌もあるか……けど、肝心の塩はどうしてたんだ? 塩分が無ければうまく作れんだろ?」

「そこは、人魚たちに頼んで塩を分けて貰っております」

「人魚? この辺に海なんかあったか?」

「偶に川を遡上して行商に来ますれば、その時に塩と作物を交換するのです」

「なるほ……アレ?」


 チョイ待ち、川を遡上て……現在かなり地形が変わってんぞ?

 行商人はここまで来れるのか?

 少し調べるか…… 【神域の支配者】スキル発動。


 俺の脳裏にこの神域の領土が映し出される。

 かなり広範囲だ。恐らく小国三つ分はあるだろう。

 お、海も領土内にあるぞ? あ……村があるみたいだって……。


 俺はそこの住人の情報を見て絶句した。

 人魚でもマーメイドの方では無く、どこかの暗黒神話に出て来そうな……。

 もっと言えば、日本の妖怪の類に入る姿だ。

 これって、サハギンじゃね? 人魚じゃなくて魚人。

 うん、辛うじて川は繋がっている。

 良かった。これで塩は手に入りそうだ……待て、こいつらと意思疎通は出来んのか?


「なぁ、サハギンとミノタウロスじゃ種族が違うが、会話は成り立つのか?」

「あ奴等は結構頭が良くてのぅ、我等の言葉以外にも人間言葉も話せまする」

「魚人、スゲェー! あ、進化した後で会話はどうなるんだ?」

「レン様の加護のおかげで、嘗ての同族とサハギンの言葉は解ります。然程問題は無いでしょう」

「【鬼神の加護】ハンパねぇー!! まさかの万能ぶり、自分でも吃驚だよ」


 そこまで凄いスキルだったか。

 自分の能力なのに今一良く解らん。

 これは加護を受ける側に都合良く影響するのか?

 自分で確かめられないのが残念だ。


 醤油と味噌、二つが手に入っただけでも眷属にした甲斐がある。

 俺は今最高に気分が良い。

 更に驚くべきは米がありました。


「米か……水田も無いのに良く作れたな?」

「この実は雑草の種ですぞ?」

「ハッ? 雑草?」

「えぇ、神域化したら再び大量に繁殖して……刈りだすのも大変ですな」

「この種、大量に獲れるんだな?」

「それはもう、食べきれないほどに大量に……」


 米がまさかの雑草とは……だが、備蓄するには丁度良いんじゃないか?

 実際すごく美味いし、これは売れると思う。

 

「米も欲しい。是非とも大量に、ついでに酒も作れんじゃね?」

「作っておりますぞ? 利用できなければ迷惑なだけの草ですな」

「この世界の米、生命力強い! 水田が要らねぇ……」


 何だろね。世界が変わると、こうも違うのか?

 農家の人の苦労を嘲笑うかのような性質だぞ?

 あぁ~、また何処かの知識が……。便利だから良いけどさ。


「美味いわ~、やはり戦争は何も齎さんな。文化を破壊するなど愚の骨頂」

「このような事をしていたのは我等だけでしょうな。他の同族達は戦う事しか頭に無かったからのう」

「果てしなく脳筋だったのね。俺は運が良かった」

「そう言ってくださるとは喜ばしい限りです」


 これは、そのうちサハギンも眷属にする様か?


『神域内の種族に強制権が発動しました。サハギンを準眷属にします。【鬼神の祝福】が彼等に与えられます』


「ぶっ!?」

「如何なされた?」

「サハギンを準眷属にしちまった……スキルの暴走だ」

「何と、それは喜ばしい。彼等も見た目は悍ましいですが、アレで中々温厚ですからな」

「そうなのか?」

「海の魔王から逃げてきて、静かに集落を築いていたのですよ」

「なら良いか。どうせ神域に害のある連中は入って来れないからな」

「彼等も、さぞ喜ぶでしょう」


 勝手にやって良かったのか?

 静かに暮らしたいだけなら、何処の陣営にも組みしない方が良いのでは?

 ま、やっちまったのはしょうがねぇ。

 その内何とかなるだろう。

 無責任? 神様は皆無責任だよ。

 俺も含まれるね。


「そう言えば、モースの姿が見えないが?」

「・・・・・・実は、モースの娘に少し異変が起きまして、あ奴は今その事で家から出て来ないのです」

「何かあったのか?」

「六日ほど前に生まれた奴の娘が、昨夜急激に成長いたしまして……」


 あれ? どこかで聞いたような話……。


「それの何処に問題があるんだ? 俺は生まれて直ぐに捨てられ、急速成長だぞ?」

「ほう、似たような状況ですな。それで会話が出来るようになったと知った奴は……」

「・・・・まさか、親馬鹿だったとか?」

「お恥ずかしい限りです。我が村一の戦士なのですが、初めての娘を溺愛し過ぎておりまして」

「それは良いとして、急激に成長したのは、モースの娘だけなのか?」

「はい。他の赤子はその様な事はありませんで……」


 気になるな。

 漠然と予感はあるが、自分の目で確かめてみない事には何とも言えん。

 俺の心に疑惑が湧いた。


「そこに案内してくれないか? 少し気になる事があるし」

「は? いえ、分かりました。直ちに案内しましょう」


 どうせこんな壇上に上げられては飯なんか食えん。

 それよりも、気になる事を優先して調べる事にしよう。


「・・・どこ行くの?」

「ちょっと気になる事が出来たんで、調べに行く積もり。一緒に来るか?」

「・・・・ん・・・」


 あの、メリッサさん? あれ程大量にあった料理は何処に消えたんですか?


「・・・・ケプ・・・」


 全部食ったのかよ!? あり得ねぇ……。


「マヨネーズ・・・最強・・・・」


 oh……マヨネーズをかけて全部頂いたんですね。

 あの量が一体どこに入ったのか気になる所ですよ。


「では参りましょう」

「あぁ……」


 俺が壇上から降りて少し騒ぎになったが、気にしないでいよう。

 気にしたら負けだし、今後も似たような事は起きるだろう。

 慣れたくは無いが、義務と思う事にする。



 長老に案内されて俺達が向かった先は、一軒の東屋であった。

 木造製でミノタウロスの伸長を基準に建てられていたので、人化した彼等には些か大きい家になる事だろう。


「モース、居るか? 入るぞ」


 勝手知ったる他人の家。

 田舎の集落はこんな感じだよな。

 ご近所づきあいがマメで、互いに協力し合って生活をしている。

 ここも同じようだな。


「何しておるのだ? モースよ……?」


 俺達がモースの家の中に入ると、彼は部屋の隅で膝を抱えいじけていた。

 ミノタウロス一の戦士の名が泣くぞ? 今は牛鬼だけどね。


「これって、アレじゃね? 急成長で話すようになったら感激して思わず娘に抱き着いたら、力加減を誤って娘に『お義父さん嫌い』て言われたとか?」

「そうなのか? モースよ」


 彼は言葉を交わさない。

 だが、デカい図体を増々縮こませ、更なるドツボに嵌り込んだ。

 如何やら図星だったようである。

 父親は何故か娘に嫌われる傾向が強い。

 哀れだねぇ~……背中に哀愁の風が吹いてるよ?


「どうしたのですか? 長老。私達に何か御用でしょうか?」

「いや、レン様がお主の娘の事が気になったらしくてな? 自分の目で確かめたいと仰られたのだ」


 おい、今、モースの肩が『ぴくっ』としたぞ?

 俺は狙ってませんよ?

 幼女には興味はありません……俺も似たようなものだからだが。


「これはレン様。片付いてはございませんが、ようこそ我が家へ。私はモースの妻でタウアと申します」

「これはご丁寧に……ごぶりんで鬼神のレン・オーガです。宜しく」


 うわ、スゲェ美人だよ。

 褐色の肌だけど、大和撫子風の超美人、しかも巨乳。

 流石、元ミノタウロス。

 宴会の場でもそうだけどナイスバディが多いぞ、この村。

 羨ましすぎる。


「早速だけど、お子さんが急に成長したとか。俺も同じように成長したもんだから確かめに来た」

「まぁ、レン様もそうなのですか? 不思議な事もあるのですね」

「見れば原因が判るかもしれないので、会わせてくれませんか?」

「そうですね。私達も気になりますし、少し待ってくださいね」


 奥さんが奥の部屋へと向かうと、俺はモースに目を向けた。

 彼は俺の視線を感じたのか、慌てて顔を逸らす。

 親馬鹿じゃなくて、馬鹿親になってきてませんか?


 それにしても奥さん綺麗だ……嫉妬するぞ、モース!


「・・・・ん・・・」

「何? メリッサ・・・」


 腕を引っ張られメリッサを見ると、頬を膨らませて睨んでいます。

 何で怒ってんの? そんなに俺を萌やしたいのですか?


「お待たせしました。こちらが娘のモーリーです」

「ども。あ、こんにち……げ…」


 ====================


 種族 牛鬼・半鬼族(成長段階) 名称 モーリー

 Lv3 ランク3 職業 無職


 スキル

『四元魔法』Lv5『言語理解』Lv3『無属性魔法』Lv3

『料理』Lv1『錬金術』Lv1


 特殊スキル

【成長促進・大】Max【経験値倍加・大】Max【鑑定眼】Max

【鬼神の加護】Lv1【ひきこもり】Lv3【献身】Lv2

【硝子のハート】Lv3【忍耐】Max【不運】Lv3


 固有スキル

【狂乱】【冷静沈着】【ゲーム脳】


 称号

【ちょっぴり腐女子】【いぢめられし者】


 進化 64/80


 称号

【牛さん勇者の愛娘】


『どう見ても確定だろ……』


 ====================


 どこかで見た事がある様なスキルのラインナップ。


 疑惑が確信に変わった瞬間だった・・・・・。


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