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 魔王さん御覚悟を

 * * * * * * * * * * * *


 色欲魔王グモールは神輿の上で捕らえた女性たちを凌辱して楽しんでいた。

 元々グモールはオークから特殊な条件を満たし進化し続けた末に魔王に至ったのだが、ベースとなったオークの習性は抜ける事なく残り、その圧倒的な力で多くの種族の村や街を襲い被害と勢力を拡大している。

 

 オークの特性は力と防御力、並外れた精強さが有名だが、それ以上に恐ろしいのが繁殖能力である。

 ゴブリンも人を襲い苗床にする習性はあるが、それは飽くまで上位種に進化してからの話であり、進化前の通常種では生殖行動が出来ない。しかし、オークは最初から繁殖するための機能が備わっており、わずか三か月で生殖行為が可能となるのだ。それ故に大量繁殖で大規模な集団が生まれて来る。

 更に【オークキング】や【オークジェネラル】は特殊スキルで【統率】を持ち、同族の力を二倍近くに跳ね上げるのだ。そこに全てのオーク種特有の精強さが加わる事で手に負えない軍団にまで成長する事になる。

 そこに魔王クラスのオークが加わると、その強さは一気に十倍にまで膨らむのである。


 その理由が特殊スキル【魔王の支配権】だろう。

 このスキルは同族や加わった眷属の能力を増幅させ、何とか倒せるレベルであった配下のオーク達を獰猛な個体に変貌させるのだ。

 しかも数が増えるほどにその効力は増大し、配下の統率スキルが加わる事で相乗効果が発生し、手に負えない悪夢の様な軍団に仕上げてしまう。

 人間を含めた多種族が良く持ち堪えられるものだと思うほど、その効果は凶悪極まりない物であった。


 その軍団の王であるグモールは正直に言えば戦闘など興味は無かった。

 いつもの様に蹂躙し、雌を奪い繁殖しては自軍を強化して行く。

 繰り返された日課の様な物であり、些末な物の筈であった。

 今日までは……。


 先鋒で突如として巻き上がった爆発は、自軍の兵士を巻き込んで高々と宙に吹き飛ばし、爆心地に居た兵はすでに消滅していた。

 その攻撃だけで100近いオークが消し飛んだ。

 

「な、何事だ……何が起きておる?」


 いきなり前触れも無く消滅した眷属の反応を知り、グモールはその巨体を起こして前線を見る。

 異変は爆発だけでは無かった。

 何の前触れも無く起こった攻撃で浮足立つオークたちに更なる攻撃は加えられる。

 その攻撃はあまりに静かであった。


 瞬時に多くの者達が斬られ絶命して行く。

 急激に消滅して行く部下の反応に、困惑するするしか出来ない。

 だが、異様なまでに底知れない何かが暴れまわっているのだけは理解できた。

 しかし敵の姿が確認できない。


 既にわずかな時間で一割の眷属が喰われている。

 そう、喰われているのだ。

 まるで自分達が喰われるだけの存在であるかの如く、その被害は確実に増えて行っている。


「状況はどうなっている! 何が我等の邪魔をしているのだ!!」

「分かりません。何かが我等に戦いを挑んでいますが、この数の兵を相手に戦い続けるのは不可能でしょう」

「そんな事はどうでも良い! 何としても敵を見つけ出せっ!!」

「ハッ!!」


 自分の部下達はこの状況が異常である事を知らない。

 数では勝るが、今自分達を攻めている存在は得体の知れない何かなのだ。

 確実に消えて行く眷属の反応に、グモールは底知れない恐怖を感じていた。


「ば、馬鹿な……魔王である俺が恐怖だと?!」


 それはオークであった時に有った弱者ゆえの本能。

 魔王となってからは久しく忘れていた物である。

 グモールは強者であるが故に敵の存在が強大である事を直感したのだ。


「まさか……別の魔王が介入して来たのか……?」


 魔王と呼ばれる存在はこの世界に多くいる。

 だが、魔王同士は互いに不干渉を貫いており、互いに戦う事など滅多に起きない。

 これは互いに争えば被害が拡大するだけで意味の無い行為であり、遊び半分で小競り合いをする事はあれど本格的に殺し合う事は無いに等しい。

 そういった面では人間などの種族が遥かに野蛮であり、現在も同族同士の殺し合いが続いている。

 魔王は自分達に益にならない戦いは起こさないのだ。


「違う……他の魔王では無い。これほどの戦闘を繰り返しながら、まるで殺意が無い。我等が雑魚だとでも言うのか……? フザケおって!!」


 20分立たずにオーク達は、今起きている殺戮が異常であると感じ始めた。

 既に尋常では無い数の同胞が蹴散らされ消滅していた。

 だが、敵の姿を捕える事が出来ない。


 姿を消し、高速で移動を繰り返しながら多数のオーク達を狩り続けている。

 魔王の膝元で栄光に酔っていたオークを含む魔物達は、自分達が狩られる番が回ってきた事を理解し始めていた。

 それは同時に恐怖であり、自分達が殺される事を実感する事に他ならない。

 徐々に混乱が起き始め、スキル『統率』で押さえるには不可能なほどに膨れ上がって行く。 


「何としても敵を見つけ出せっ、俺が直々に殺してやるっ!!」


 魔王としての矜持が判断を曇らせた瞬間であった。

 グモールはこの時逃げる事を選択しなかった。

 それは悪夢の始まりでもあった。



 * * * * * * * * * * * * *


 うん、『ステルス』の魔法は便利だ。

 何せ一方的にこちらから攻撃出来るし、向こうは此方を補足できない。

 数が多いからめんどくさいよね、多勢で向かって来られては相手するのがうざいんだ。

 しかし、よくもまぁ、ここまで大量に繁殖したもんだね。

 お盛んにも程があるでしょ。


 エロい事するしか、やる事が無いのか?

 まぁ、所詮は畜生だし、そこまで文化的な事が考えられるとも思えんけど。

 第一、芸術家肌のオークなんて不気味過ぎる。

 さっさと始末して帰りたいよ。ホント……。

 働きたくないでござる。


 因みに魔王のステータスなんですけどね?


 ====================


 種族 オーク種変異種科目魔王科 名称 グモール

 レベル35 ランク7 職業 エロ魔王


 スキル

【大剣技】Lv6【戦斧技】Lv8【指揮】Lv3【ガード】Lv9

【激昂】Lv6【性犯罪】Lv9【闇魔法】Lv6【地魔法】Lv6

【炎魔法】Lv5【破壊】Lv9【殺戮】Lv9【暴行】Lv9


 特殊スキル

【超絶倫】Max【精強】Max【超回復】Lv8【超身体硬化】Lv9

【嗅覚強化】Max【色に狂いし豚】Max【しぶとい豚】Max

【傍迷惑な無法者】Max【子宝一番】Max【HP強化・特大】Max

【防御力強化・特大】Max【審美眼】Max【色欲増大】Max

【傍若無人な強姦者】Max【タフなあん畜生】Max

【嫌われ者(女性限定)】Max【色欲だけ強欲】Max【再生】Max

【魔王の支配領域】Lv1【魔王の支配権】Lv9【魔の聖域】Lv1

【暗い憎悪】Max【転落人生】Max【色狂いの首領】Max

【分厚い心の壁】Max【生真面目】Max【硝子のハ-ト】Max

【豚不信】Max【不細工】Max【穢れた純真】Max


 称号

【エロ豚野郎】【強姦豚】【食えない豚はただの豚】【スケベ脳】

【恋人にしたく無い豚Nо1】【非モテ豚】【役立たず】【逃走だけは一人前】

【醜い豚は醜い】【放浪のぼっち】【騙されやすい豚】【カモ】

【偽りの愛に溺れた豚】【肉欲の落ちた豚】【放浪の豚】【孕ませ王】

【貧弱豚】【いぢめられた豚】【掘られた豚】


『……魔王、もしかして結構苦労した?』


 ====================

 

 ・・・・・・何、コレ?


 アレですか、もとは真面目な一般人が、女で狂っちゃったみたいな……。

 真面目でコツコツ働いていたのに、女を知って人生転げ落ちたみたいな感じですか?

 貢いで溺れて騙されて、挙句に財産失って、うっかり犯罪に手を染めて転落人生まっしぐら。

 しかも同じオークからも嫌厭されてるって、どんたけ不細工扱いなの?

 俺にはただの豚です。区別なんかつかねぇよ。

 自分が悪い訳でも無いのに周りから爪弾きにされて、自棄になって犯罪を起こして裏街道を爆進しちゃった人みたい。

 あ、豚か。ホームレス豚さん?


 でもね、どんたけ辛い人生を送っても、犯罪に手を染めちゃいけねぇよ?

 いくら嫌われてたからって、他人に怒りをぶつけても状況が悪化するだけだからね?

 現に俺に狙われてんだから、自業自得だし……。

 身内すら信じない王様が信用される訳ないじゃん。

 今が転落人生の最終段階になってんよ?


 まぁ、俺の知ったこっちゃ無いけどね。

 しかし、雑魚が多いな。

 依頼書にはおよそ10万の戦力て書いてあったけど、明らかに多いよ。

 村を囲ってるオーク達は無視して一番戦力が厚い場所を集中的に狙ったんだけど、予想以上にめんどくさい。

 全部一撃で倒せるから良いんですけどね、酷く効率が悪いんです。

 広範囲魔法で一気に殲滅した方が良いか?

 あ、鬼神固有能力に丁度いいのがあったっけ!


「【断罪の雷】」


 使ってみました。


 ====================


【断罪の雷】

 鬼神固有能力。

 神に近い存在が使用できる特殊超広範囲殲滅技。

 敵と判断した者を情け容赦なく一気に殲滅できる卑怯な攻撃。

 一切の防御は不可能であり、魔に属する存在に超絶大なダメージを与える。

 最悪、たった一撃で軍団規模を消滅させる冗談のような必殺攻撃。

 一日一回限定仕様。途中キャンセル可。


『もう、笑うしかないよな。あはははははははははははははは!!』


 ====================


 段々、説明が面倒になってきてね?

 まぁ、こんな技です。

 魔法じゃないからMPが減りません。非常識なまでにチートです。


 夕暮れの渓谷に暗雲が立ち込める。

 雲の隙間から雷が光り、辺りに雷鳴が響き渡る。

 オーク達は言葉すら失いその光景を呆然と見ていた。


 分かります。立ち込める暗雲に膨大な力が感じられますから。

 自分で言うのも何ですが、これってかなりヤバイ技なんじゃね?

 いや、使ったことが無いからさ、軽い気持ちでやってみたんだけど……少し後悔してます。


 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 そして雷が落ちた。

 て言うか、コレ雷じゃないよね? 最早、極太のレーザー光線だよね?

 クレーターを作っただけでなく、とんでもない威力の爆発まで起きてんよっ?!

 爆発に巻き込まれたオークが一瞬で即死してます。

 それも桁外れの数が一瞬にして消滅したよ。これ、禁呪の類だ……。


 阿鼻叫喚地獄絵図、オークが逃げ惑う傍から降りまくる雷で消し飛ばされてる。

 巻き添え食らいたくないので非難します。

 雷は俺には落ちないけど、爆風と衝撃波は俺を襲うんだよっ!

 逃げます。


 いやぁあああああっ!! 魔物と武器や角材とかが爆風で飛んでくるぅ!!


 角材は荷馬車に使っていた物みたいだけど、衝撃波で粉砕されて散弾状態でこちらに襲い掛かるよ!!

 逃げ場がねぇ!! 何でこんなの使ったんだっ、俺っ!!

 大してダメージにはならないけど、ハッキリ言って怖い!! 無茶苦茶怖いっ!!

 剣が飛んできた時は生きた心地がしませんでした。

 ダメージは受けないんだけど、当たると痛いんですぅ!!


 幸いオーク軍団の数が減るに連れて威力が落ちているみたいなんですがね、それでも容赦なく降り続ける雷は恐ろしい物があります。

 定番な技名なので軽い気持ちで使ったのが大間違い。これは酷い……。

 雑魚は一掃できるけど、罪悪感がハンパねぇス!!

 オーバーキルを超えてるよ、コレぇ!!

 まぁ、一瞬で壊滅状態にできる分には便利だけどね、ここまで酷い威力とは思いませんでした。

 この技は封じよう……他にもヤバイ技があるけど……。

 普通に広範囲魔法で対応すればよかった……自然破壊です。


「Oh……何てこったい…。 村を残して辺りが月面状態に……酷い」


 いや、やらかしたのは俺です。すみません……。

 言葉を失う状態て、こんな光景を言うんだね。

 俺が受ける側なら、悪夢以外の何物でもないよ!

 俺、普通にのんびり生きられないの? 歩く災害じゃん……。

 空しい……。


 あ、生き残ったオークだ……。


 ピシャァァァァン!!


「ギャピィ!!」


 雷受けて消えちまった……逃げられないんだ…惨い。

 マップ兵器でもここまで酷いのはラスボス位だろ。

 て事は、俺がラスボス?


「グォォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 あ、魔王さん、雷に集中攻撃されてる……。

 なまじタフで体力と防御力があるだけに死ねなかったんだね。

 まさに生き地獄。

 

 ま、まぁ、今更遅いけどキャンセル!

 せめて俺の手で葬ってやろう。


「武神化」


 ====================


【武神化】

 見た目は【鬼神化】と変わらないけどよ、どこぞの仏像みたいな装備が付属する。

 全ステータス極限増加、ま、劫火は纏わねぇから腹が減らねぇのが強みだな。

 その分、肉弾戦重視だけどよ、そもそも付属効果が必要か?

 どーせ、チートなんだから気にするだけ無駄。ヒック!


『お酒飲んでる最中です。上司がすみません』


 ====================


 ……これ、仕事なの? 職場で酒を飲んでんの?

 自棄になってない?


 で、俺の見た目なんですが、本当に鬼神化と変わりません。

 どこかの仏法守護神の様な装備を纏っています。

 二本の角に額の眼。あ、髪の色が白銀に変わってる。

 手にした獄煉刀がやけにエキゾチックな形に変化してるし、カッコイイ♡


 さて、魔王さんに引導を渡してあげますかね。



 * * * * * * * * * * * * *


 グモールはその光景を見て言葉を無くしていた。

 何者かの攻撃を受けたのは分かる。しかし、相手が何処にいるのかは判らず配下は徐々に減って行った。

 恐らくは姿を消す魔法を掛け、この軍団の中を好き勝手に移動しては部下達を狩り続けているのだ。

 それだけに厄介であり、敵の姿が見えない以上、部下事消し飛ばす訳にもいかない。

 グモールが魔王として脅威なのは、この集団による圧倒的な殲滅戦であり、配下のスキルによる相乗効果により無敵の軍団と化しているからだ。


 しかし、今相手にしている敵は数が判らず、更に自軍の個体よりも遥かに強力な力を持っている事になる。でなければ一撃で部下たちが消滅するなどありえない。

 少なくとも魔王クラスの魔物である事は理解できていた。


「おのれ卑怯な……姿を見せずに我等を駆逐する積もりか!!」

「如何いたします、グモール様っ!」

「ぐぬぬ……已むを得ん、撤退する」

「グモール様?!」

「恐らく相手は魔王クラスの魔物だ、俺だけなら兎も角、配下をこれ以上失う訳には行かん!」

「ぎょ、御意に!」


 今までこんな戦い方をする敵などいなかった。

 軍団である事を逆手に取り、内部に入り込み殲滅するなど正気とは到底思えない。

 だが、それだけに有効な手段でもあった。


 軍団で襲うとなると、その数が災いして動きに制限が出来てしまう。

 内部に入り込めば周りが敵であるゆえに好きに攻撃できる利点がある。

 それを行うにはどうしても力が備わっていなければならず、相手が魔王クラスであればこれほど有効な攻撃は無いのだ。

 しかし、思いついたとしても実行に移すのには話は別で、仮に実行するのであるとしたら余程の馬鹿か、若しくは狂気に冒されているとしか思えない。

 こうなると撤退して、混乱した群を立て直すしか手は無かった。


「早くしろ! 何時、此方に攻撃してくるか分からんのだぞっ!!」

「グモール様、アレを!!」

「何だっ! ……?!」


 急激に空が闇に包まれ、雷鳴を轟かせ始めていた。

 その暗雲には尋常ならざる力が秘められており、明らかに自然発生した雷雲とは異なる。

 そこに在るのは明確な敵意であり、敵が起こした攻撃である事は目に見えていた。

 グモールの背に冷たい汗が流れる。

 そして……


 ズガァアアアアアアアアアアアアンッ!!


 途轍もない光が天から降り注ぎ、密集していた配下達を一瞬にして消滅させる。

 更に発生した余波は衝撃波と化し、周囲に居た者達を無残に吹き飛ばした。

 更に残骸は他の部下達に凶器として襲い掛かり、手痛い打撃を与えて来る。

 そんな馬鹿げた威力の攻撃が幾重にも降り注ぎ、一気に配下の魔物の数が減って行く。

 眷属の気配も異常な速さで消滅して行った。


「あり得ん……このような馬鹿げた力、魔王ですらない……」


 魔王は確かに強力な個体であるが、問答無用に敵を殲滅するほど非常識では無い。

 それは強者であるが故に自らの生き方を貫いている為、他者に干渉するような真似を避ける傾向にあるからだ。

 力の強弱はあれど魔王同士は決して相対せず、大半は配下の小競り合い程度で済んでいるのが通常である。されど、今グモール達を襲っているのは、暗黙の了解を消し飛ばすほどの殲滅者であった。


 呆然とするグモールに雷が降り注ぐ。


「グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!?」


 強大な力を秘めた雷が、グモールを滅ぼさんと無数に襲い掛かって来た。

 超回復と再生をフルに使い肉体を直そうとするも、容赦なく降り注ぐ雷は回復した傍から瀕死の状態へ戻そうとする。グモールの存在を否定するかのように、降り注ぐ雷は勢いを止めようとすらしなかった。

 グモールは何度も絶叫の声を上げる。


 幾度の雷を浴びた事か、不意にその攻撃が止む。

 何とか残りの魔力で体力を回復させるが、その時初めて敵の姿を見た。


 体は幼いと言ってよい程に小柄ではあるが、内に膨大な力を内包したその存在。

 荒々しく靡く銀の髪。

 頭部に生えた同色の二本の角。

 金色の瞳でグモールを見据え、見た事の無い防具を身に纏い、手には巨大な剣を携えていた。


「よう、止めを刺しに来てやったぜ」

「き、貴様が、我が軍団を……」

「おう、数が多くてうんざりしてな、思わず消し飛ばした。後悔はしていない」


 軽い調子で話すレンに対して、グモールは激高した。


「許さん!! よくも俺の配下共を、殺してくれる!!」

「やれるもんなら、やってみな」

「死ねぇ――――――――――――っ!!」


 幾度となく敵を葬ってきた愛用の大剣を振りかざし、猛然と連に迫る。

 全力で叩き込んだグモールの大剣は、小柄なレンの手であっさりと受け止められてしまった。


「ば、馬鹿な……こんな事が………」

「ん~、中々の威力。だが、この程度じゃ死なねぇよ」

「おのれ、化け物め……」

「お互い様だろ? 単に俺が強すぎただけで、お前が弱かっただけだ。お返し!」


 一瞬連の姿がぶれたと思った瞬間、グモールの腹に強烈な一撃が叩き込まれた。

 吹き飛ばされた瞬間、レンが左腕を構えていたのを見て、殴られた事を理解する。

 だが、その一撃すら魔王の力を凌駕し、口から血反吐を吐き出した。


「所詮この世は弱肉強食、今まで弱者を貪って来たんだろ? 次は自分が貪られる番が来ただけだ」

「ウゴォ……おのれ……」

「仮にも魔王なんだから最後には潔く死ねよ、見苦しいぞ?」

「き、貴様……何故我等を狙った。魔王なら他にもいたはずだ……」

「偶々依頼を受けたら、近くにお前がいただけ。運が悪かったな」

「い、依頼だとぉ~…人間共の冒険者とか言う雑魚か……?」

「そ、ただ漠然と魔王退治としか書かれてなかったんでな、手頃な奴を狙っただけ」


 冒険者ギルドに張り出されている依頼手続き書の中で、魔王だけは討伐する名を書かれてはいない。

 これは魔王の全てが冒険者程度では勝ち目が無く、魔王全てを把握しているわけでは無いからだ。

 今のところ有名なのは三体の魔王であり、【色欲魔王】【暴食魔王】【憤怒魔王】だけである。

 どの魔王も被害が大きく、決まった支配領域を持たない放浪癖のある存在であった。

 討伐依頼は主にこの三体の魔王を指し示す。


「そ、それだけでこの様なっ!!」

「それだけで充分だろ? 要はお前の日頃の行いが悪かっただけ、自業自得じゃん」

「フザケルなぁ――――――――っ!!」


 怒りに任せてグモールはレンに斬りつける。


「じゃぁな」


 だが、それ以上に速い斬撃がグモールを一刀両断にした。

 一瞬でHPは消え去る。


 色欲魔王と呼ばれたグモールはこうして消滅した。



 * * * * * * * * * * * * *


 ミノタウロスの最強戦士であるモースは、目の前で起きた光景が信じられなかった。

 

 一族滅亡する瀬戸際で、突如来た魔王に対しての攻撃。

 最も攻め難い魔王本陣に向かって、何者かが圧倒的力で敵を蹴散らして行った。

 村を守るため籠城戦を決め込んでいたミノタウロス達は、その非常識な光景をかたずをのんで見守るしかなかった。

 下手に門を開けばオーク達が雪崩れ込んで来るため、彼等は防壁に取り付くオークだけを徹底的に蹴落とす作業に従事していた。


 そして起こる雷の攻撃。

 この雷は村に落ちる事は無く、寧ろオーク達を徹底的に蹂躙して行く。

 全てのオークが殲滅されるまで然程時間は掛からなかった。

 一方的な蹂躙の後に残されたのは、二体の超越した魔物だった。


 一体は巨大化したオークである色欲魔王グモール。

 もう一体は自分よりも小柄な戦士であった。

 白銀の髪を靡かせ、強大な力を持つ魔王すら一蹴する猛き存在。

 この謎の魔物は、雷で倒す事を良しとせず、自らの手で魔王を葬る事を選んだ。

 その姿に、ミノタウロス達は感嘆の声を上げる。


「な、何と猛々しい……」

「あの様な小柄な体格なのに、魔王すら足元にも及ばぬというのか?」

「何と気高くも美しい……王と呼ぶに相応しい……」


 多くのミノタウロス達がその姿に見惚れた。


 彼等は何より誇りを大切にする。

 力の強弱以前に気高く生きる事が美徳とされ、そのために己の強さを磨くのだ。

 圧倒的な戦力に対して単騎で挑んだこの強大な魔物の姿は、彼等の緊線を大きく揺さぶる事に十分な効果を発揮した。

 ミノタウロスは巨人型の魔物に匹敵する強力な魔物である。

 何より誇りに従事するため、多くの魔王が彼等種族を手に入れるために躍起になっている。

 彼等に認められた魔王は一流の王である証であり、グモールもまたミノタウロスの配下を求めたのも無理なからぬ事だろう。

 だが、結果としてグモールは拒絶された。

 グモールは繁殖行為に溺れただけの愚王とみなされ、ミノタウロス達を納得させる事が出来なかったのである。

 その結果が力尽くで制圧する事に繋がったのである。


「……まだ、我等に味方したとは思えんが、敵対行為をしなければ話をする事が可能やもしれん」

「我等に肩入れする理由は無いが、戦う気も無いという事か?」

「でなければオーク共だけを狙ったことに説明がつかん」

「成程・・・・彼の御仁は王に相応しいか?」

「まだ判らん・・・・・・だが、礼を言わねば我等の矜持に反する」

「誰が行く?」

「俺が行こう」


 モースは自らあの魔物の元へ赴こうとしていた。

 理由はどうあれ自分達一族は救われ、敵は駆逐されたのだ。

 それは自らの意志でかの存在の真意を確かめ、同時に王に相応しき存在かを判別するためである。


「門を開けてくれ」

「気を付けろ、まだ味方とは決まったわけでは無いからな」

「うむ、いざと為ればどんな手を使ってでも逃げろ。ここで滅ぼされる訳には行かんからな」

「任せろ」

「では、行ってくる」


 モースは心は緊張と期待に震え、レンの元へ足を進める。

 この日、彼等ミノタウロスの運命を変える出来事になろうとは、だれも予想できなかった。




 * * * * * * * * * * * * *

 

 あぁ~終わった。

 これで依頼達成だよな。他の魔王も倒せとか言われないよな?

 豚さんだけ倒したんだから、他の奴等は何とかしてくれって言いたい。

 あまり魔王ばかり倒しても戦力バランスが崩れそうな気がするし、他の魔王共から危険視されたくねぇし。

 まぁ、ここまでやっちまうと如何なる事やら……。


「暫くは自堕落に生きたいなぁ~……」


 駄目人間のセリフだな。

 でもね、ハッキリ言えば今回稼ぎ過ぎたよ。

 ドロップしたアイテムもそうだけど、手に入れた金額がハンパねぇ。

 俺だけでインフレ起こせんぞ? 大人しくしているに限る。


「あ、メリッサの所に戻らなきゃ……大した時間は掛かって無いけど、今頃どうしてるかね?」


 俺が戻ろうとした時、向こうから牛さんが来ました。

 何か、着物に近い衣装を着てるけど、もしかして文化水準が高いのか?

 それにしても、何だろね? 俺としては用は無いけど?

 まぁ、敵対するよりは、ここは一つフレンドリーに行きますか。


「おや、ミノタウロスさん。俺になんか用か?」

「うむ、貴殿のおかげで我が村が守られた。その礼を言いに来た」

「別に気にしなくていいぞ? 俺は魔王を相手にしたかっただけだからな」

「理由はどうあれ、助けられた事に変わりない。感謝する」

「そういう律義な所は嫌いじゃねぇよ。豚共にも見習ってほしい所だな」

「その意見には同意する。奴等は繁殖する事しか頭に無い」

「やっぱりかよ……どうりで馬鹿だと思ってた……」


 ところでミノさん、何で俺をそんなに見つめてんの?

 俺はモーホーではありませんよ?

 もしそうなら、俺は全力で逃げます。

 それはもう、命懸けで……。


「んじゃ、用はすんだな、俺は連れがいるんで帰らなきゃならんし」

「ほう、貴殿の様な方がお連れなさるとは、さぞかし手練れでしょうな」

「いや、人間……て、言って良いのか? ハイ・ヒューマンて人間を超えてるし……」

「人間? 貴殿は人間と行動を共にしているのか?」

「まぁな、基本的に俺を生んでくれた人だけど、俺の大本はゴブリンだから母親って気がしない」

「な、まさか……ゴブリンから魔王が誕生するとは……」

「あ、俺は魔王じゃねぇよ? それを超えてるから」

「何と?!」


 ミノさん驚いてるね?

 そんな種族は知らないって感じだけど、鬼神ていないのかね?


「正確には鬼神てやつだな、荒ぶる神の化身てやつ。自覚が無いから手探り状態だけどな」

「鬼神……魔王とは異なる存在、聞いた事が無い」

「多分だが、俺が最初の存在なんじゃね? 人間の間でも魔王を倒せと手配が回ってるが、鬼神とか夜叉とか聞いた事も無いしな」

「成程……新たな種族という事か、それなら納得できる」

「人間の街で暮らしてるけどな、ちょっと魔王を倒さなきゃならん用事が出来て、豚を狙ってたんだよ」

「何故魔王を倒さなくてはならなかったのだ? 貴殿なら人間共など造作も無く滅ぼせるだろうに」

「そうなんだけどね、ここで力を示しとけば馬鹿な王がちょっかい掛けて来なくなるかなぁ~と。豚魔王はとんだ災難だったな」

「此方としては助かったがな」


 本当に災難だよな。

 けど、目を付けられそうな行動をしてた豚が悪い。

 そこは同情はしねぇよ。


「俺としてはのんびり暮らしたいんだよ……」

「強者故に利用しようと近づいて来る者もいる。そういう事か?」

「そ、面倒になったら潰せばいいが、関係ない奴らまで巻き込む気は無いしな」

「ふむ……安寧を望むが周りが勝手に騒ぐわけか」

「神を気取る気は無いが、いざと為れば力尽くで潰す事も已む無し。覚悟はできてるが、今の所は生みの親を巻き込むつもりはないだけ」


 結局巻き込まれるんだろうけどね。

 けど、俺ってメリッサをどう見ればいいの?

 ゴブリンの本能がある以上、母親としてみる事が出来ない。

 けど、精神の何処かでそれを抑制しようとするんだよね。

 俺も豚の事を如何こう言えないな。

 本能で生きる事を優先する傾向が強いようだし……思考が人じゃない。


「己が力を無作為に振るう気は無いと? 貴殿なら多くの者が付き従いましょう?」

「止めてくれよ、自分の事で手一杯なのに他者の命を背負えるかよ。俺には重過ぎらぁ」


 あの、ミノさん? 何でそんなに震えていますか?


「素晴らしい……」

「はい?」

「我等は……漸くお仕えするに相応しい方と巡り合えた」


 アレ? 何か不思議な言葉を聞いたのですが……気のせいですよね?


「あの、どゆ事? 意味が分からないんだけど?」

「最近の魔王は力を固執する傾向が強い。だが、貴方様は御自分の力を知り、あえて振るわぬ道を選ぶという。これほど王に相応しき御方等おりますまい」

「何で、そんな話になってんの?! おたく等の命を背負うのは重過ぎるんですけど?」

「そこです!」

「はい?」


 どゆ事です?


「命の重さを知らぬ者に、王を名乗る資格は無い。我等の命の重さを知り、共に生きる事が出来る者こそ真の王! 貴方様は王になるに相応しき御方、我ら一族を貴方様の配下として置いて下され」

「何でそんな事になるのっ?!」


 何、ミノさん……アンタ等、主君を求めて引き籠りしてたの?

 何処まで武闘派なのさ、俺は王になる気は更々ねぇよ?

 ここは何としても断らねば……。


「い、いや、俺はな…」


 俺はミノさんの申し出を断ろうとしたが、その時にソレは起こった。


『これより眷属化のスキルが発動します。ミノタウロス×143が眷属となりました』


 おい!? 俺の意思を無視して何を勝手な!!


『特殊スキル【鬼神の加護】が発動しました。ミノタウロス全てに加護が与えられます。休日の恨みはまだ終わらんよ……へへへ…覚悟しな』


 お前かぁ――――――――――――っ!!


『魔王を倒した事により、第一の封印が解除されました。セカンドプロセスに移行します』


 何? セカンドプロセスて何よ?


『特殊スキル【聖域化】が【鬼神の聖域】に変化しました。【鬼神の聖域】を発令。聖域化を実行するぜぇ!!』


 テメェ、何勝手な事してんだよっ!!

 余計な事してんじゃねぇ!!


『聖域化予定ポイント内に眷属を確認。危険なのでこちらに転移します。チッ!』


「へ?」


 俺の目の前に魔方陣が現れた。

 そこにグッスリおねむなメリッサが現れた。


『改めて、聖域化発動!! 派手に行くぜぇ――――――――――っ!!』


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 突如始まった地殻変動。

 俺の意思を無視して勝手に発動するスキル。

 脳内アナウンスの悪意しか感じない。

 

 ミノタウロスの村を中心にして、地形が瞬く間に変貌して行く。


『龍脈ポイント製作開始』

『龍脈によるマナの流動を確認』

『特殊スキル【森羅万象】強制稼働』

『特殊スキル【仙神領域】強制稼働』

『特殊スキル【天地開闢】を獲得、同時進行で強制発動』

『特殊スキル【事象操作】を発動、生態系を維持したまま事象を書き換えます』

『【鬼神の聖域】が【鬼神の神域】変わりました。同時進行で強制発動、事象記録からランダムで神域を選びます』

『管理システム【アスラ】が起動しました。防衛システム【シヴァ】が起動しました。生態系維持システム【ヴィシュヌ】起動しました。眷属神化システム【アプサラス】起動しました。迷宮管理システム【ナラク】起動しました』


 ちょ、何事? 何がどうなってんのよ!!

 お前等、俺をどうしたいのよ?!


『眷属を進化します。初期種族【牛鬼】に変異します。【鬼神の加護】の効果により、彼等の進化は強制的に神族へと確定しました。今後如何なる進化を辿っても、彼等は神族で固定されます』


「オォォォォォオオオオオオオオオオオオッ!?」


 牛さんが急激に進化し始め、人間に近い姿に変貌して行く。

 見た目は人。ただ、頭部に二本の牛の角があるだけです。

 肌は俺と同じで褐色。


 更に地殻変動は続き、目の前の光景は異常なまでに変化を進めていた。

 何と言いますか、中国の廬山みたいな光景です。

 柱の様な岸壁が幾重にも聳え立ち、村の周囲は城壁で囲まれ、どこぞのカンフー映画にでも出て来そうな建物が山間に築かれていた。


『特殊領域【鬼神の神域】完了しました。今後は如何なる種族も許可無くして立ち入る事は許されません。くれぐれも許可を出す事をお忘れなきよう御注意しろやっ、ウケケケケケ!!』


 また、お前かよっ!!

 どんたけ俺を恨んでんだよ。迷惑だ!!

 つーか、ここの領地勝手に使っちゃっていいの?

 それよりも……王様? マジで?


 何でこんな事になんだよ、畜生………訴えてやる。


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