お約束は起きませんでした
はい、こちらレポーターのレン君です。
今日は冒険者ギルドにお邪魔してみようかと思います。
ギルドはですね、商業区画ほぼ中央に位置しておりまして、多くの人達が行き来してに賑わっていますね。
景気が良くていい事です。
中には武装した厳ついお兄さんたちの姿も見えまして、この先に冒険者と言う名の傭兵さん達が仕事を探して大変混雑していそうですよ。
やっぱり絡まれちゃうんでしょうか?
喧嘩を売られて返り討ちにするのが楽しみで仕方がありません。
それとも腕試しで糞生意気なおっさんが因縁をつけて来るのでしょうかね?
その時は地獄を見せたいと大変期待している所存です。
建物は結構大きいようですね、どうやら一階が食堂兼酒場となっておりまして、他の冒険者さん達がテーブルで情報を交換したり食事をしたりしていますね。
実に活気に満ち溢れていますよ。
以外にも受付が解り易いようにプレートが天井から下げられていまして、初心者にも実に解り易い親切設計です。
それでは受付に参りたいと思います。
「受け付けは奥のカウンターだけど……メリッサ、大丈夫か?」
「・・・ん・・・・人・・・多くて気持ち悪い・・・」
メリッサは俺の手を握りしめ、しがみ付いています。
基本的に人見知りが激しくて、こうした賑わいの場が苦手なんだろうな。
凄く顔色が悪いんだが、吐いたりしないよね?
「大丈夫かよ……何なら受け付けは俺が済ませて来ようか?」
「・・・一緒に・・・行く・・・」
メリッサが必死にしがみついてきます。
でもね……傍から見ればハグされている様にしか見えませんからぁ~っ!! 残念ッ!!
何人かこちらを見て萌えていらっしゃいます。
俺は背が低かったぁー斬り!!
今後、背が伸びる事を期待したい。
何せ見た目が10歳児前後、悲しいけどコレ現実なのよね。
いい加減受付に行きますかね。
「すみませぇ~ん」
「はい、何でしょ……あら、かわいい子ね。お使い?」
少し茶髪で顔にそばかすがチャーミングなお姉さんが対応しておりました。
所で俺、お使いに来た子供に見えるの?
「いや、冒険者になりたいんですけど、手続きには如何すればいいんですかね?」
「あ~……残念だけど、冒険者登録は13歳からでしかなれないのよねぇ~。あなたはちょっと……」
「マジでっ?! 何とかなんね? 薬草採取でもいいからさ」
「う~ん……お金がそんなに必要なの?」
「今から稼いでおかないと、数日後にはヤベェス」
何という事でしょう。
まさか年齢制限があるとは……俺、登録無理じゃん。
13歳どころか、生後数日ですよ?
「それは困ったわね。でも規則だし…町の外は危険だから」
「その辺は大丈夫だな。大抵の魔物なら殲滅できるし、仮に俺が無理でも、せめて後ろでしがみ付いてる子の方は登録できるんだろ?」
「それは出来るわよ? でも……その子、大丈夫なの? 顔色悪いけど」
「人見知りが激しくてね。こうした盛り場が苦手なんよ」
「なるほどぉ~……あなたは代理で応対するのね。じゃぁ、先ずはその子の方を登録しましょう」
そう言いながら必要な書類をカウンター下から取り出す受付嬢。
うん、これは完全にマニュアル化してますな。
良い対応です。
「まずはこの書類に名前と職業を書いてね。後はこのこの水晶球で魔力を登録すれば完了」
「メリッサ、取り敢えずこれを書いて……マジで大丈夫か?」
「・・・・ん・・・大丈夫・・・が、がんばる・・・」
いや、とても大丈夫には見えねぇよ?
すげー顔色が悪いんだけど?
震える手で書類にペンを走らせる姿が凄く痛々しい……書くだけですよ?
紙に書くだけで、何でそこまで必死なんですか?
人見知りじゃなくて、対人恐怖症なんすかね。
心配でたまりません。
「・・・か・・・書けた・・・」
「本当に大丈夫か? プルプル震えてるぞ? 生まれたての仔馬の様に……」
「その子、顔色が悪いけど……本当に大丈夫なの?」
「さっさと手続きを済ませた方が良いな。このままじゃ限界が来る・・・・・」
「そ、そうね。じゃあ、この水晶球に魔力を籠めてね」
受付のお姉さんが水晶球を前に出してくる。
その水晶球に震えながらメリッサは魔力を流した。
何でこんなに罪悪感を感じるんだ? 俺がおかしいのか?
かなり無茶な真似をさせているように感じるのだが……。
受付のお姉さんもハラハラしながら見ております。
気持ちは分かりますよ? うん。
「メリーセリア・ツエイザちゃん、13歳。職業は……高位錬金術師っ!?」
「!?」
大声で驚いたお姉さんに反応して、メリッサが俺の背中に隠れてしまう。
小動物みたいで可愛いのですが、全然隠れていないよ?
「脅かさないでくれよ、気が小さいんだからさ……」
「ごめんなさい。でも、凄いわね。13歳で高位の錬金術師って……はっきり言えば天才よ?」
「才能と性格は比例するとは限らない。現に小動物だし……」
「ひょっとして、引きこもり?」
「だから俺が要るんだけどね。俺はサポーターでもやるかね」
「あ、それは良いわね。サポーターは10歳からでもなれるから」
「あるんだ?」
「あるわよ?」
サポーターは要するに冒険者見習いだ。
主に荷物持ちの事で、良く孤児などがこの職業に就く事が多いそうだ。
この世界の人間は誰しもアイテムボックスを所有し、レベルが上がる事でその許容量も増えて行く。
早くからサポーターにつく事により経験を積み、成人してから冒険者にジョブチェンジする事になる。
実力のある冒険者は奴隷などを使っているらしいが、大半は職に就けない孤児を雇うのが一般的だ。
何せ危険がつきまとう冒険者だ。実力があっても少しの油断で全滅する事もあり、後人育成にも力を入れているという。
考えられていますね。
「それじゃあなたも書類申請してね?」
「あいよ」
名前、年齢……0歳はおかしいから10歳サバを読むか。
職業は……魔剣士という事で……。
「これでいいのか?」
「えぇ、後はこの水晶球で登録してお終い」
「ホイ来た」
俺は水晶球に魔力を流した。
「えっ?」
「なに?」
受付嬢が驚いているんですが、何かやらかしちゃいましたか?
「あ、あのね? あなたのステータス……測定不能て、出てるんだけど……」
「……マジ? まぁ、そうだろうね」
何せ、壊れステータスだからそうなるでしょう。
予想できる事でした。
忘れてたけどな☆
「おかしいわね? 最高でもランク6までは計測できるはずなのに……?」
「俺、それ以上だから、この水晶では見る事が出来ないだろうな」
「……どれだけランクが高いの? ランクはそう簡単には上がらない筈なんだけど……」
「秘密♡」
これまでの経験から、レベルは99までしか上がらず、訓練や魔物を倒す事により成長する事が分かる。
だが、ランクになるとそうも行かず、一定の条件を満たさないと上がる事は無いのだ。
それは個人によって条件は異なるが、ステータス・ゲージの上限ではないかと俺は思っている。
ただ、俺の場合は特殊スキルの所為で一気に成長した為、その条件と云うやつが分からない。
現に現在停滞しており、レベルが上がる事は無い。
ただ、俺が異常であるという事実があるだけだろうね。
「困ったわね……計測出来ないんじゃ登録が出来ないし……」
「計測は出来てんじゃね? 単に水晶に映らないだけで」
「そうなんだけど、種族や名前すら映らないのよ? ギルドカードが作れないわ……」
「マジ?」
oh……俺がメリッサの足を引っ張っているよ。
これは想定外だ。
「ここは責任者に相談したらどうだ? ここのギルドを仕切っている人がいるんだろ?」
「そ、そうね。子供なのにしっかりしてるわねぇ~」
「いや、面倒ごとは上司に丸投げするのが一番正しい。それで失敗したら首を切られるのは下っ端だけどね」
「うぇ~、世知辛い事を言うのねぇ~。私が首になるの?」
「上司次第じゃね? 有能なら切り抜けるだろうし」
「うぅ…仕方が無いわ。ギルマスに報告して来る。あなたたちはその辺で寛いでいて」
そう言葉を残し、受付嬢は近くの階段を駆け上がって行った。
如何やら2階が事務所の様だ。
しかし……。
「メリッサ……もう少し我慢できるか? 厄介な状況に突入したみたいだから」
「・・・ん・・・が・・がまんする・・・」
蒼白な顔をしたメリッサが今にも倒れそうなんですよ。
お姉さん、早くしてくださ―――――い!
メリッサの限界が近づいています。
* * * * * * * * * * * *
アットの街の冒険者ギルド支配人ボランは、達成された依頼書や収益の明細をチェックしていた。
冒険者ギルドの運営費は依頼の1割と、魔物から得られるドロップアイテムの売り上げで賄われている。
数多くの依頼を受け付け、その収益で職員の給料も支払わねばならず、少しのミスが書類整理を再びやり直す事になりかねないのだ。
その為、面倒ながらも彼は事細かに書類の束を入念にチェックしていた。
「何でこんな仕事をしてるかな……」
それが彼の口癖である。
嘗てはSランクの冒険者であったが、ケガが原因でこの職に就く事になった。
彼は元々現場主義の実践派であり、こうした細かい仕事は苦手なのだ。
そういう面ではサブ・ギルマスであるカスールが管理者として相応しいと言えよう。
だが、そのカスールは冒険者から嫌われていた。
原因は彼のねちっこい嫌味な性格である。
早い話がパワハラをするほどに権力志向が強いのだ。
その所為で職員からも嫌われているのだから始末に負えないが、仕事の面では有能なのである。
「もう少し性格が真面だったらな……」
結果として自分がギルマスを降りれない状況であり、ボランはいつもの如く溜息を吐いた。
そんな変わらない日常を送る彼の仕事場に、扉をノックする音が聞こえた。
「入れ」
「失礼します。ボランさん」
部屋を訪れたのは受付を担当する職員の女性である。
彼女は困惑した表情を見せており、一回の依頼斡旋所で何か起きたと推察した。
「サテナか…どうした?」
「いえ、その……少し困った事が起きまして……」
「ふむ……聞こう」
「実は、新人の冒険者登録を行っている最中で、測定水晶では測り切れないランクの子がおりまして、このままではギルドカードを発行する事が出来ないんです」
「ブッフッ?!」
丁度、お茶を口に含んだ時に聞かされ、彼は思わず吹き出してしまった。
「ま、まて……測定水晶はランク6は測定可能なはずだ! それが不可能という事はランク7以上、つまり勇者のランクを超えて魔王に匹敵する人物という事になるぞ?!」
「あ・・・・・・」
「気づかなかったのか?」
「す、すみません! あまりに可愛い子だったので微笑ましくて……つい…」
「どんな奴なのだ、いったい……」
流石にこんな非常事態は初めてである。
ランク6は現時点で確認されている人型種の最高ランクである。
レベルはどうしても99までしか上がらないが、ランク+レベルで全ての生命の強さが分かるのだ。
それが不可能という事は、恐らく魔王である可能性も否定できない。
「そいつの特徴を教えてくれ」
「えと……見た目は10歳前後の女の子で髪は黒くストレートのロング、褐色の肌に赤い瞳で、額に銀の小さな角がありました」
「・・・・・・き、鬼神・・・」
ゴブリンキングを討伐したジョン達の報告で聞いていた存在。
桁外れの強さを誇り、親であるゴブリンキングを一蹴した化け物である。
更にこの街に潜伏しているという話から、ジョン達に捜査協力を依頼していた。
しかし、まさか向こうから来るとは予想外であった。
「す、直ぐにここに通せ……下手に怒らせると不味い」
「え? は、はい!」
サテナは慌てて部屋を飛び出して行った。
「まさか、化け物と相対する事になろうとはな……」
下手な対応をする訳にも行かない為、ボランはもう直ぐ来るであろう対面の時に緊張を隠せないでいた。
選択を誤れば国が滅び兼ねない最悪な事態になりかねないのだから。
「何でこんな仕事をしてるかな……」
今まで吐いてきたボヤキ以上の陰鬱な思いが其処に込められていた。
ご愁傷様である。
* * * * * * * * * * * *
少し待たされた俺達は、何故かギルドマスターと面会する事になった。
俺としてはさっさと面倒ごとを片付けたいのだが、俺自身のランクとレベルがそれを邪魔している。
案内のお姉さんは何故か緊張した面持ちで対応していた。
この数分間で何があったの?
「お連れいたしました。ボランさん」
「入れ」
「ちょ、仮にも上司だよね? さん付で良いの?」
「え? ギルドマスターの肩書で言うと、ボランさんは拗ねるから……」
「なるほど……堅苦しい役職が嫌いなんだな?」
「当たりです」
「何でこんな仕事してるかな?」
「それ、ボランさんの口癖よ?」
「……当の本人が納得してないわけね。押し付けられたんだぁ~、気の毒に……」
ギルドマスターは書類整理が苦手の様だ。
多分現場で暴れるのが好みなんじゃね? さぞかし窮屈な事でしょう。
同情します。
案内された部屋は日当たりの良い窓辺で、棚や机の上には無数の書類が乱雑に重ねられている。
そこに初老を迎えた屈強な体格の男が腰を据えていた。
目つきは鋭く、顔に大きな爪痕の傷があり、歴戦の戦士を彷彿させる。
このおっさん、ただ者じゃねぇ。
「まぁ、座りなさい」
「んじゃ、遠慮なく」
「・・・ん・・」
どうも値踏みされてるみたいだな、視線がやけに鋭い。
警戒されてる? 当然か……ステータスが見れなかったんだからな。
多分魔王クラスと同列に見られてんじゃね?
迷惑な話だよぉ~。
「何でも測定水晶ではステータスを確認できなかったとか? 正直こんな事はギルド始まって以来の事でな、こちらも戸惑っている」
「だろうね。ランク8のレベル99なんてそうはいねぇだろうし、一般人基準で言ったら俺は異質だ」
「ほう、自覚はしていたのか?」
「当然だろ? 自分自身が一番戸惑ってんだからな」
「ふむ……」
考え込んでる姿がやけに渋いな。
羨ましい限りだ。
何で少女顔なんだよ…クソ…。
「しかしな、それだけ強ければ冒険者になる必要はあるまい? 例えば騎士団に入団するという手もある」
「国に仕える気は更々ねぇよ? だって面倒じゃん。貴族とか王族とか、上司とか」
「確かにな。時には不本意な命令に従わねばならぬ事もあるしな」
「だろ? 俺は堅っ苦しい組織にはいたくねぇの、身軽が一番だ」
「それについては同感だな」
苦笑いするおっさん。
いぶし銀の渋さがあるぜ、一々様になってやがる。
正直、カッケ―。
「だが、其れだけではあるまい? 欲しいのは身分証の様なものだろ?」
「まぁね、多分報告で聞いて警戒してんだろ? 不確定因子がどんな奴なのか。当然の対応だな、俺が同じ立場ならそうする」
「中々話が分かるな。サブ・マスターにも見習って貰いたいものだ」
「ふ~ん、今日はいないのか?」
「所用で王都まで出向いている」
「……嫌な予感がするんだけどよ……そいつ、信用できる奴なのか?」
「信用という面では出来んな。仕事が出来ない奴であったら殴り飛ばしてやる所だ」
「・・・・嫌われてるわけね。さて……」
俺の事はギルドにある程度は報告が出ているはずだ。
場合によっては国に知られる事も念頭に置いておいた方が良いな。
その前に釘を刺しておくか。
「俺としては国のために働く気は無いし、人質を取って俺を動かそうと云うなら無理だぞ? そうなれば暴れるからな? やりたくねぇけど」
「儂としてもそれは遠慮してもらいたいが、こればかりは御上の行動次第だしな。どうする事も出来ん」
「屁理屈こねて動かそうとすんだろうなぁ~、例えばメリッサを攫って後から婚約したとほざいてさ、身内の為に働けとか言うんだぜ。そんな真似したら真っ先に城を攻め滅ぼすぞ、俺は……」
「何故そう思うのだ?」
「俺が一番やられたくない手だからだよ。権力者なんて屑の集まりだろ? お約束と云うやつだね」
「偏見だと言い返せんのが辛い所だな」
利用されるのは遠慮したいからな、誰かに言って於くのは布石になるはず。
貴族なんかも冒険者は利用するだろうし、こうした話が伝われば迂闊に動けないだろからな。
王族がチョ-シこいて来たら、そん時は遠慮なく行かせてもらおう。ククククク……。
「お前、顔に出ているぞ? 碌でも無い事を考えていたな?」
「え? ホントに? それは危ないなぁ~…ん~?」
ポーカーフェイスの積もりだったんだが、顔に出てた?
俺、正直者だからなぁ~、きっと顔に出ちゃうんだろうね。
「ま、言い分は分かった。『好き勝手に生きるから干渉はするな』と言いたいのだろ?」
「話が分かるね。俺としてはのんびり暮らしたいんだよ、邪魔するなら容赦はしないけどね」
「一応、御上に伝えておくが、期待はするなよ?」
「そこまで民間組織には求めんよ。警告だけしておいてくれ、国が滅んでも自分達は知りませんでしたとかじゃ済まさねぇからな?」
「怖い事を言うな…、生かして置く気は無いんだな?」
「無いね、自分達で何も出来ないから他人を動かす為に人質を取る。死んだ方が良いだろ、そんな糞野郎」
「その辺も同感だ」
何か、このおっさんとは気が合いそうな気がする。
考え方が似てると言うか、良い付き合いが出来そう。
「しかし、あり得んな」
「何が?」
「お前さんのその知性の高さだ。生まれて数日とは到底思えん……まさか、転生者か?」
「多分ね。前世の記憶は持ち合わせてないけど、知識に関しては生まれた時から色々持っていたからな」
「納得した。だから人間に対しては友好的なんだな? でなければ力任せに侵略を開始しているだろう」
おぉ? 転生者の事も知っていますか。
俺も恐らくその類だと思うけどね、記憶が無いのですよ。
変な知識とかは幾らでもあるんだけどね。
「以前に転生者と会った事は?」
「無いな。ただ、前世の記憶を持って生まれて来るとしか聞いた事はない。魔物に生まれて来るとは予想外だがな」
「生まれて俺もびっくりだ。親父を見た時に思わず叫んじまった」
「そう言えば、ゴブリンキングは親だったのだな。罪悪感は無いのか?」
「無い。所詮この世は弱肉強食、弱い奴は死に強い奴が生き残る。魔物の世界はそんなものだろ? 生きるか死ぬかの過酷な世界だからな」
「順応している訳か……、こちらと敵対しないのであれば問題は無い」
「お偉いさん次第だけどね」
「全くだ・・・・・」
互いにニヤリと笑う。
何か知らんが、長い付き合いになりそうだと直感した。
「そう言えば、ギルドに登録は出来るのか?」
「問題は無いが、お前のステータスが見れないから難航するだろう。作るだけなら簡単だ」
「そうなのか? 測定水晶て魔導具だろ? 測定不能であればカードの発行が出来ないと思ったんだが」
「別にそれ程面倒では無いぞ? あの魔導具はな……」
測定水晶はステータスを調べるための物であり、ランクに応じて制限が掛けられているらしい。
それは個人の保有する魔力の質であり、その制限が一定を超えると測定不能の文字が出るそうだ。
だが、測定水晶はあくまで個人の情報を読み取るだけで、大本の大型記録水晶にはしっかりと記録される様だ。
解り易く言えば測定水晶がパソコンで、記録水晶が企業サーバーみたいなものであろう。
これ、どう考えても転生者が作った奴だよな?
この世界の住民が作れるとは思えん。
「で、結局ギルドに登録はしてくれんの?」
「こちらとしては問題ない。ただ、王族とのいざこざには巻き込むなよ?」
「善処します。関係ない人まで巻き込む気はねぇよ」
「それを聞いて安心した。心行くまで稼いでくれ、こちらもその方が助かる」
「任せろ。たっぷりと生きの良い素材を下してやんぜぇ」
商談は成立した。
「「今後ともよろしく。ククク……」」
互いに固い握手を交わす。実に良い取引が出来そうだ。
きっと俺は、いま、相当あくどい笑みを浮かべているに違いない。
目の前のおっさんも悪辣な笑みを浮かべているし、似た者同士なんだろうね。
気が合う訳だよ。
「では話が済んだところで、ギルドカードは受付で受け取ってくれ。後、緊急の強制依頼というのがあるから、それは参加しないといかんぞ?」
「おう? 例えば魔王軍が攻めて来たとか?」
「街の防衛も冒険者の仕事だからな」
「その前に魔王を始末するという手もあるけどな。その方が儲かる」
「出来るならやってくれ、程ほどにな」
「りょ~かぁ~い。出来る範囲で戦力を削ってみまぁ~す♡」
うん、本当に話が分かるね。
中々良い人と繋がりが出来たようだ。
でもね、俺は焦らずにのんびり行かせてもらうよ。
ま、相手次第だけどね。
後はカードを受け取って、依頼を受けるだけです。
最初の仕事はあまり期待していないけどね。
カードはどれくらいで出来るのかなぁ~♡
* * *
「おまたせ、これがギルドカードよ」
「長かったなぁ~、手間取らせてすみません」
「いいのよ。これも仕事だから」
新品のギルドカードを手に取り、俺は目を疑った。
「あれ? Sランク冒険者になってますけど、何かの間違いじゃ……?」
「・・・・ん・・・・金色・・・悪趣味・・・」
メリッサが黒銀でランクB、俺が金……どゆ事?
「えと……強力な戦力だから一気に上げた方が良いと、ボランさんが……」
「上げ過ぎでしょ?! 普通は地道にコツコツ上げてくもんじゃね?」
「直ぐにランクを上げて来るだろうし、面倒だからと云う理由でこうなりました♡」
「良い笑顔で言われても戸惑うだけでしょ!? 何つー無茶振りすんのよ!!」
「底辺で権力者に付け狙われるよりも、自由が利く再上位ランクにした方が良いとも言ってたわよ?」
ランクSは自由采配が利き、王侯貴族の依頼ですら断る権限ががあるらしい。
つまり、メリッサを守る意味でもこのランクは凄く便利なのだが、周りから見れば明らかに異常である。
悪目立ちしてる気がすんだけど、どうなのよ?
「出来ればパーティーやクラン名も考えて欲しいと、ボランさんは言ってたわよ?」
パーティーは数人のグループで組む一時的な仲間の集まりであり、クランは組織的に動く冒険者の集団である。
だが、現在は二人しかいない。
パーティーもクソも無いよね?
「……パーティー名は『ごぶりん一家』で登録よろしく……メンバーは今のところ二人」
「わかりました。これからよろしくね♡」
「営業スマイルで言われてもなぁ~……掌で踊らされているとしか思えん」
アノおっさん、矢張りただ者じゃねぇ……。
Sランク冒険者は自由采配が利くだけでなく、同時に高ランクの魔物を定期的に倒さなければならない。
つまり、ヤバイ魔物を狩らせる気なんだ。
クソ、何でこうなった……俺の所為だけどね。
仕方が無い。どこかで高ランクのモンスターをぶっ殺さなければいかんな……。
よし、魔王を倒そう。
そうすれば暫くは安泰だ………めんどくさいぜ、畜生。
* * * * * * * * * * * *
王都より戻ったサブ・ギルドマスターのカスールは内心浮かれていた。
彼は王族の前で連の情報を流した事により、再び出世街道の道が開けたからだ。
その歓喜を内に秘め、彼はボランの元に報告に向う。
「王都での定期報告は無事完了しました」
「御苦労」
彼はこのボランと云う男が気に入らなかった。
一般市民の分際で自分より上の地位に居る事が彼には我慢が出来ないのだ。
だが、それももう直ぐ終わると思うと、そんな事すら些末な事に思えた。
「そう言えばカスール、お前、例の件は誰にも話していないだろうな?」
「鬼神の件ですな、当然です。言う筈がないでしょう」
実際は既に情報を流し、後は居場所を突き止めるだけである。
彼は心の内でボランを嘲笑う。
「なら良い。今日その鬼神がギルドで登録してな、Sランクの冒険者になった」
「は?」
「だから、鬼神がSランクの冒険者になったと言ったのだ」
「な、それはどう云う……」
予想外の展開に彼の頭はついて行かない。
まさか、こうも簡単に姿を現しただけでなく、Sランクの冒険者になったなど前代未聞である。
「どうもこうも、冒険者になりたいらしいが強力な力を低ランクに押し込めるのが勿体無くてな、Sランクの冒険者に推挙しただけだ」
「?!」
ボランは元はSランク冒険者である。
その彼は同じSランク冒険者を見極め、推挙するだけで無く決定権まで持っていた。
つまり、彼がSランクだと言えばそのまま採用される事になる。
「何でも権力者に使われるのが嫌らしくてな、同居人が人質にされてこき使われるのを懸念していた。それを踏まえるとSランクにしておいた方が良い。幸い魔王と互角以上に戦える力があるしな」
「・・・・・・・」
カスールは『余計な事を…』と内心思ったが、口に出すのを何とか抑え込んだ。
どちらにしても居場所が判明したのだ。
後はフラフース殿下に報告するだけである。
「その鬼神はこう言っていた。『もし身内を人質にして婚約者だとほざいて利用しようとすれば、城に乗り込んで徹底的に暴れる』とな。先に警告して来たぞ?」
「なぁ?!」
「人質の意味を理解しているのだな。人質は生きているからこそ価値がある、国一つ滅ぼしても人質を殺害出来ず、殺害すれば自分達が完膚なきまでに殲滅されるのだからな。馬鹿な真似をしたら徹底的に追い詰められるだろう……どうした? 顔色が悪いぞ?」
カースルは自分がとんでもない地雷を踏んだ事に気付いた。
メリッサを婚約者にするという発言をしたのは自分自身であり、フラフース殿下は間違いなく実行して来る。
だが、それは滅びの引き金であり、諸刃の剣どころか龍の逆鱗だった。
出世欲に駆られた彼は、最悪の選択をしてしまったのである。
「幸い攻撃対象は王侯貴族になるだろうからな、儂らには意味の無い事だ」
ボランの声は彼に届いていない。
Sランク冒険者は国家の枠組みを飛び出して活動が出来る。
しかも魔王クラスの化け物が好き勝手に動くのだ。逆鱗に触れた自分を許す筈も無いのは明白である。
「き、鬼神は生まれて間もないはずでは……?」
「どうも転生者らしくてな、生まれながらに人格を持っていたようだ。見た目は幼くとも成人と同等の知性がある。まさか、情報を漏らしたわけでは無いだろうな?」
「い、いえ……そのような事は…」
カスールは鬼神が生まれたてで、幼い感情のまま母親を救出したのだと思っていた。
ところが実際は転生者であり、成人と同等に知性がある。
しかもギルドに警告を入れてくるほど狡猾な一面を持ち合わせていたのだ。
この時、カスールは計画が簡単に瓦解したことを知った。
「疲れただろ、もう休んでも良いぞ?」
「は、ハイ……失礼いたします……」
蒼褪めた顔をしたカスールを見送ると、ボランは深い溜息を吐く。
「今夜あたり夜逃げするな……。後任を探さねばならんか、面倒な事だ」
面倒な仕事が一つ増え、ボランは再び溜息を吐く。
翌日、カスールは出勤してこなかった。
職員が彼の自宅を訪ねた所、まるで借金の取り立てで追われたかの如く荷物をまとめ姿を消したのだった。
捕らぬ狸の皮算用は王族に矛先だけを残し、首謀者は何処と無く逃げたのである。
無責任ここに極まりであった。