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68.意外な再会なのかな


 異世界生活九十八日目。



 グラオード王国国王生誕祭まであと十日。

 最近の街は完全にお祭り前の空気で、あちこちがにぎやかになっている。大通りには既に結構な数の屋台が組み立てられている。

 お祭り当日に良い場所で商売できるように、各店が場所取り合戦をしているんだね。


 ちなみにリリネコ商店もお祭り当日出店するわけだけど、場所はすでに予約完了している。

 その場所は街の大通りの中間点、はっきり言ってかなり良い場所だ。

 どうして場所取りもなく、俺たちがこの場所をすでに確保できているのかというと……オードナさん、ラナリー商店の協力によるものなんだね。

 既にラナリー商店が確保している出店予定地、その一角にウチも間借りさせてもらえることになった。その見返りとしてラナリー商店へ塩コショウを始めとした商品の納品量を増やすことになっているのだけども。

 正直、納品量を増やすことはウチの儲けにつながるわけで、こっちにはメリットしかない。

 だから、これは取引というよりも、完全なオードナさんやルシアさんの優しさというか善意というか、そういうものだと理解している。そのことを伝えて頭を下げると、オードナさんから軽く拳骨されたけれども。いつか二人にもしっかり恩返しできるように、もっともっと頑張らないといけないね。

 

 そういう感じで、リリネコ商店のお祭りへの準備はほぼ万端だった。

 メロンパンやチョコレート、コーヒーの準備は前日で十分間に合うので、リリネコ商店はお祭りまでしっかり通常営業に励むだけだ。

 ただ、リリネコ商店としてお祭りまでに抱えているもう一つの案件、こっちが問題だった。

 それはもちろん、リムルさんとアルバラルダさんの件だ。

 リムルさんが彼を納得させるものをお祭り当日に見せられなければ、リムルさんはお店から強制的に戻されることになってしまう。

 それを避けるためにも、リムルさんは日夜仕事と並行して鍛冶に励んでいる。定休日には一日中倉庫にこもって鍛冶魔法を使い続けている。

 そんなリムルさんをサポートするために、俺たちは可能な限り助力している。リムルさんのお店の仕事を最低限にして、身の回りのことを率先して行ったり。本当はリムルさんを全休みにして鍛冶に集中してほしいんだけど……お店のお仕事を完全に休みにしようとすると、リムルさん、嫌がるからね。

 最近のリムルさんの武器作りの姿は本当に凄まじいものがある。正直、彼女が作業しているときは誰も声をかけられないくらいの緊張感というか、鬼気迫るものを感じさせる。

 ただ、それが順調かというと……俺は倉庫にリムルさんの手から投げ捨てられた片手剣を拾い上げながら、彼女に問いかけてみる。


「リムルさん、この剣も駄目?」

「駄目なの。心に全然こないの。そんなんじゃお父さん認めてくれないの」

「そっかあ……」


 今しがた作ったものには微塵も興味はないとばかりに、リムルさんは新たな武器作りへ既に移行していた。

 俺は手に握った剣を倉庫の一角に運んでいく。その場所にはキラキラ輝くリムルさんの失敗作という名の武器の数々が置かれていた。

 これで通算、六十二本目の武器なんだけど……本当、どうしよう、この武器。リムルさんは『煮るなり焼くなり捨てるなり好きにしていいの』って言ってくれてるけど……これ、全部売ると恐ろしい価格になるんじゃないだろうか。材料は工房から大地の民の人が笑顔で運んでくれてるんだけど、これ、そろそろお金払った方がいいんじゃ……

 とりあえず、今はリムルさんのことが最優先なので、この武器をどうするかは一時保留にしている。ふとしたときにリムルさんがこの武器たちを見て、何か凄いアイディアとか出る可能性もあるかもしれないからね。


 現状、リムルさんの武器作りは完全に行き詰っている状態だった。

 これまでのなかでリムルさんが納得できる武器は何一つないそうだ。素人の俺から見たら、どの武器も本当に凄いと思うんだけど……職人の世界、領域なんだなあと痛感する。


『リツキさんー! お客さんがお呼びですよー!』

「今行くよ。それじゃリムルさん、無理だけはしないでね」


 俺の言葉にリムルさんはぺこんと首を縦に振る。無理、するんだろうな……

 俺は小さく溜息をつきつつ、呼びに来てくれたタヌ子さんとともに倉庫から店へと戻る。

 しかし、俺を呼ぶお客さんって誰だろう。オードナさんへの納品は既に今朝終えているし、ラリオさんだろうか。

 首を小さく傾げながら店に戻ると、カウンターでネーナとメルに見惚れているお客さんの姿が……って、あれ、あの人って。


「……高宮さん?」

「よう、神楽! 会いに来たぜ!」


 俺を待っていたお客さん、それは俺と同じく異世界に呼び出された高宮さんだった。

 会うのはあの売上競争以来だろうか。びっくりしている俺に、高宮さんは笑顔で近づいてきたかと思うと、いきなりヘッドロックをかましながら絶叫。


「久しぶりだな、って言いたいところだが、それ以上に文句を言わせろ! お前、こんなとんでもない可愛い子たちと一緒に暮らしてんのかよ! 美少女なんてレベルじゃねえぞ! 美少女を超えた何かだ!」

「いたたっ! いや、それは、前からちゃんと、お話してたじゃないですかっ」

「やかましい! 可愛い子と一緒に暮らしているとは聞いていたけど、こんな天使を超えるような美少女揃いなんて聞いてねえ! こんな可愛い子たち三人と一つ屋根の下だなんて、このやろおおおお!」


 高宮さんの腕に回した力がぐいぐいと上がっていく。

 これで倉庫にもう一人リムルさんがいるんです、なんて言ったら恐ろしいことになりそうなので何も言わないことにした。あとタヌ子さんはやっぱりノーカウントらしい。

 そんな俺たちの光景をネーナは微笑ましそうに、メルは呆れるように眺めていた。ルシエラは……いつもどおり、店の隅でゲームタイムのようだ。本当、興味ないことには微塵も興味ないね……

 ヘッドロックから解放された俺は、高宮さんにここにいる理由を問いかける。


「どうして高宮さんがここに? 確かここから少し離れた村に住んでいるんですよね?」

「出稼ぎだよ。もうすぐ国王生誕祭だろ? この日は毎年、村の民芸品をこの街まで売りに出るのが習わしなんだと。それで俺が村の代表なんて役割をクソババアに押し付けられたってわけさ。あのクソババア、人を使い走りかなにかと勘違いしやがって」

「クソババアって……高宮さんがお世話になっている方ですか?」

「そうだよ。村の長老で居候させてもらってる。そこは感謝するけどよ、本当にうるせえんだよ毎日毎日怒鳴りやがって……ババアもうるせえし、孫娘も輪をかけてうるせえし……リツキ、俺と立場変わってくれないか?」

「それはちょっと……それじゃ、一人でこの街に?」

「いんや。口うるせえ孫娘と二人でだよ。あいつも本当、口が減らねえっていうか、毎日毎日怒鳴り散らしやがって……」

「ああ、いた! ちょっとフミヒコ!」


 俺と高宮さんが話していると、お店の扉が開かれ、そこから一人の女の子が現れた。

 三つ編みが特徴的な、茶髪で小柄、だけど人数倍気の強そうな女の子。年齢は……俺やネーナ、メルより少し下くらいかな。げっ、と口にする高宮さんに、女の子はガンガンと近づきながら捲し立てる。


「街にたどり着くなり勝手な行動しないでよ! リリネコ商店とカグラさんの話を前もって聞いてなかったら、どこを探せばいいのか困り果ててたところだわ! まずはリリネコ商店の前に、これからお世話になるナロル叔父さんのところに挨拶に向かうって先に言っていたでしょ!?」

「あーもー、うるせえなあ……叔父さんの家よりこっちのが近いんだから、先に向かったっていいだろうが」

「何その言い草! だいたいあんたはいつもいつも……」

「神楽、助けてくれ! このリトルババアをなんとかしてくれよ!」

「えええ……」


 俺の背中に隠れる高宮さん、俺にどうしろと言うんだろう……

 困惑する俺に、少女は俺を見上げ、その表情を怒りに満ちたものから瞬時に笑顔に変える。そしてペコリと頭を下げて、俺に挨拶をしてくれた。


「はじめまして、カグラさん。私はニャコ・ローペンと言います。カグラさんのお話は何度もフミヒコから聞いています。ウチのフミヒコがとてもご迷惑をおかけして……」

「ああ、いえ、これはご丁寧に。こちらこそ高宮さんにはとてもお世話になっていて……」

「神楽、騙されるんじゃねえぞ! こいつは人前では良い子ちゃんを演じているだけで、その下はとんでもねえモンスターだからな! こいつの本性は俺を相手にしているときのそれだからな!」


 高宮さんの言葉に、少女――ニャコさんは傍から見てもわかるくらい表情をひきつらせた。というかそれって高宮さんにだけ本当の素顔を見せているってだけなんじゃ……いや、それを口にしたら両者からものすごい剣幕で怒鳴られそうだから言わないけども。

 再び険悪な睨み合いに発展しそうになる二人の間に入りながら、俺は高宮さんとニャコさんに再び問いかけた。


「そ、それじゃ二人はお祭りまでの間は街に滞在するんですか?」

「おう! だからこれからは毎日のように店に遊びに行くと思うけどよろしくな!」

「毎日遊ぶ前にお店の準備をするのよ! カグラさん、フミヒコがご迷惑をおかけするかもしれませんが、適当にあしらっていただけると助かります」

「こちらこそよろしくお願いします」


 高宮さんと握手を交わして俺たちは笑いあう。突然の来訪だけど、やっぱり同じ境遇の人が傍にいると嬉しい。

 ここにあとは水上さんがいれば勢ぞろいでもっとにぎやかになったんだろうけれど……それと、早野さん、か。早野さん、タヌマールに吹き飛ばされていたけど、怪我とかしていなければいいけれども。


「それじゃ叔父さんにお世話になるって挨拶にいくわよ。ほら、荷物も持つ!」

「わーってるよ! それじゃ神楽、またな! 次に店にきたときは、そちらの天使のような美少女たちの紹介を……って、痛えええええ!」


 ニャコさんに全力で右足、そのつま先を踏みつけられて悶絶する高宮さん。うわあ、あれは痛い……

 結局二人は激しく口論をしながらお店の外へ出ていった。

 そんな二人を眺めながら、やがてメルは息をつきながら俺に尋ねかけてくる。


「話を横から聞かせて頂きましたが、リツキさんの世界の同郷の方ですの?」

「うん、そうだよ。高宮さんって言って、売上競争の時にお世話になった人だね」

「とても賑やかな方ですね。リツキ様もお話されていて、とても楽しそうでした」

「え、そ、そうかな?」

「とーってもいい笑顔で笑っていましたわよ。ほんっとーに楽しそうでしたわ」


 どうやら俺は思った以上に高宮さんが来てくれたことが嬉しかったみたいだ。

 そんな俺に、メルはリムルさんに負けないくらいのじと目を送りながらとんでもない言葉を投げつけてくる。


「そういえば、今朝オードナさんとお話していた時のリツキさんも凄く楽しそうな顔をしていましたわね。リツキさんは私たちよりお友達とお話しする方が楽しそうですわ」

「えええ……そんなことないって」

「そうかしら。その割には私たちとお話しするときの表情は少し固い気がしますわ」

「それは仕方ないよ。一緒に生活して結構経つけど、俺だって普通の男だから。ネーナやメルみたいに綺麗な女の子と会話することなんて、これまでの人生で全然なかったんだ。それを緊張無しで話すなんて無理だよ」

「うっ……だ、だからそういうことを真っ直ぐに言わないでください!」


 正直なところを話したらメルに怒られてしまった。

 高宮さん、俺と立場変わりたいって言っていたけれど、結局この立場になっても怒鳴られることに変わりはないんじゃないだろうか。

 ただ、ネーナとメルが今日一日ずっと上機嫌だった。よく分からないけど、とてもいいことだと思う。メルなんかノリノリでネーナの料理を手伝っていたし。メルの手作りのサンドイッチのようなものは美味しかった。

 でも、まさか高宮さんが街に来てくれるとは思わなかった。祭りまであと十日、リムルさんの件も含めて、本当に色々と忙しくなりそう……かな。











・九十五日 入荷商品

画鋲 120本セット


・九十六日

ヘッドフォン


・九十七日

ミントガム ボトルタイプ


・九十八日

ボイスレコーダー





大変お待たせしました。

一番忙しい時期を乗り越えた……と、思います。この時期は本当にもう(遠い目)



ええと、サトゥンのほうでは告知させて頂いたのですが、こちらでもっ。

なろう様に投稿させて頂いております『神竜鎧機ドルグオン』が、第9回HJ文庫大賞にて銀賞を受賞いたしました。本当に本当にありがとうございました!

詳細は活動報告に記載しておりますので、もしよろしければ、ちらりと眺めて頂けるととても嬉しいですっ! 以上、ご報告でしたー!


 

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