67.熱気が漂い始めたのかな
異世界生活九十四日目。
グラオード国国王生誕記念祭まで二週間を切り、気づけば街中がいつも以上に賑やかな空気に包まれ始めていた。
大通りではいつも以上に屋台の数が増え始め、新しく作り始めた屋台や出店などもちらほらと見かけるようになっていた。それらはすべて生誕記念祭の前後にあわせてオープンするんだろう。
かくいうリリネコ商店も他人事ではなく、生誕祭が近づくにつれて売り上げがどんどん上がってきている。
特に大きいのは、以前の売り上げ競争の際にメルが契約を結んでくれたお得意様からの受注だった。
祭りの二週間も前だというのに、オードナさんから毎日矢のような発注がくるし、他の取引先も似たような状態だ。
お祭りという大儲けのチャンスを逃すほど彼ら商人は鈍くはない。一リリルでも多くを稼ぐために、前準備のために誰もが奔走しているという訳だ。
そういう訳で、リリネコ商店は毎日が目まぐるしく忙しい。
儲けも格段に伸びているから、まさしく嬉しい悲鳴なんだけれど……祭りが終わったら、みんなでまとめて休みをとるのもいいのかもしれない。
今日もドタバタな営業を終え、リリネコ商店は閉店時刻を迎えた。
みんなで簡単な片付けと掃除を終え、少し間をあけてみんなで夕食を取り始める。
だけど、ものの五分も経たないうちに、リムルさんが席を立ってしまう。
「ごちそうさまなの! それじゃ私は倉庫に行てくるの!」
「い、いってらっしゃい」
食器を下げ、リムルさんは駆け足気味に部屋を飛び出していった。
この光景にもはや誰も驚いたりはしない。あの日、リムルさんの家から戻ってからというもの、リムルさんはいつもこんな調子だった。
小さく溜息をつく俺に、食事の手を止めてメルが尋ねかけてきた。
「リムルさん、今日も倉庫で武器を作りますの? 昨日も夜遅くまでやっていたのでしょう?」
「うん。というより、仕事の空き時間や休み時間もずっと作っていたね。無理だけはしないように注意しているんだけど」
俺の返答に、メルは何とも言えない表情を浮かべている。以前、自分が無理をして倒れてしまったことを思いだしてしまったのかもしれない。
メルの言う通り、リムルさんは最近自由時間のほとんど、それこそ夜遅くまで武器鍛冶作業に追われている。その理由はもちろん、リムルさんのお父さんであるアルバラルダさんとの約束にある。
アルバラルダさんがリムルさんに提示した、リリネコ商店に残る条件――それは、生誕祭の日に、用意したステージ上でアルバラルダさんやお客さんの胸を打つような物をみせることだった。
言い換えれば、超一流の職人であるアルバラルダさんを納得させるほどの物が出来なければ、リリネコ商店には残れないということだ。
つまり、リムルさんはリリネコ商店に残るために現在必死で武器を生み出し続けているということで、それは店長として嬉しいことなんだけど……やっぱり、リムルさんの体調面が心配でもある。それは俺だけじゃなくて、店員のみんなが同じ考えだ。
「リムルさんは現在たくさん武器を作られては倉庫に並べられていますが……その出来はどうなのでしょう?」
「ううん、俺には武器の良し悪しなんて全然わからないから……」
ネーナの問いに、俺は首をひねるしかできない。日本で高校生をやっていた俺には武器の質なんて当たり前だけど門外漢だ。
そして、みんなの視線は自然にルシエラへと集まっていく。
唯一武器の目利きができるルシエラは、ネーナの作った肉料理をゆっくりと咀嚼し終え、飲み込んだのちに語ってくれた。
「どれもこれも恐ろしいほど高値で売れるだろうな。競りに出したとすれば、一本あたり五百万リリルくらいからか」
「五百万……リリネコ商店の売り上げが一瞬ですわね」
「メル、悲しくなるから言わないで……でも、それだけの出来ならアルバラルダさんも」
明るい展望が見え始めた俺たちに、ルシエラは軽く首を横に振って水をぶっかけた。
それは彼女らしい歯に衣をきせない言葉だった。
「売る相手がお飾りの武器を求める貴族連中ならという前提だ。リムルの父が一流の鍛冶職人だというのなら、あれは絶対に認めんだろうな」
「そ、そうなんですの?」
「現に私はあの武器に『命を預けたい』とは思わん」
はっきりとしたルシエラの言葉に、俺たちは何も言えなくなる。
俺たちにはよくわからないけれど、一流の戦士であるルシエラがそういうからには理由があるのだろう。
ただ、ルシエラ……君が今、命を預けてる武器って、ホームセンターで投げ売りされてるようなシャベルとスコップなんだけど……うん、深く考えないことにしよう。
とにかく、ルシエラの目から見て、リムルさんの武器には足りないものがあるらしい。それがわかっているからこそ、リムルさんも必死になって武器を作り続けているのだろう。
「とにかく、リムルさんがうちに残れるかどうかの瀬戸際だからね。協力できることは全部協力していこう。本当は、お祭りまでの間、休んでくれても全然いいんだけど……それは絶対嫌だってきかないから」
「リムルさんは本当に真面目な方ですからね。リリネコ商店の店員としてのお仕事を疎かにしてしまっては負けも同然と思っているのでしょう。その気持ち、私にも分かりますわ。みんなに迷惑をかけたくないという思いからきているのでしょうね」
「分かっていながらメルは無理をして倒れたのか。メルが倒れたから、私たちに思いっきり迷惑がかかったわけなんだが」
「うぐっ」
ルシエラの辛辣な突込みにメルは言葉を続けられない。
でも、メルがまたあんな無理をしないためにもルシエラはこんな風に言ってくれてるんだと……たぶん、思う、思いたいです。たぶん天然で言いたいことを言ってるだけなんだろうけど、そうなんだと思い込むことにした。
しかし、タイムリミットはお祭りまでか。何ができるかは分からないけれど、リムルさんが店に残るためにもできる協力はどんどんやっていこう。
まあ、今のところ何かできることはないかと問われても『大丈夫なの』としか言われないんだけどね。少しでも力になれる方法を探していこう。
そんなことを考えていた俺に、ルシエラの突込みから立ち直ったメルがお祭りについて尋ねかけてきた。
「そういえばリツキさん、結局お祭りでリリネコ商店が何をするのか決めましたの?」
「いや、決めるどころか何も考えてないよ。というか、リムルさんのことで頭がいっぱいで出店の存在を忘れてた」
「はあ……リツキさん、仮にも国王生誕祭なのですから、一商人として祝う姿勢を見せなくては駄目ですわよ。何を売るにしても、お店を出して祝うだけで、街の人々から国を大切にする商人だと思われるんですから」
「そうだね、とりあえず何をするのか決めてしまおうか。俺としては、何より優先すべきはリムルさんのことだから、そこまで祭りで稼ごうとは考えていないんだけど……」
俺の意見に、誰もが頷いて応えてくれた。
ただ、この街……というよりも、この国で商売を行っている人間として、国王生誕を祝わない姿勢をみせるのはよろしくない。というわけで、控えめでも出店を出す必要がある。
そこで、俺たちがたどり着いた結論は、文字通り原点回帰だった。
「『めろんぱん』と『ちょこれーと』を販売する出店はどうでしょう? このお店を持つまで、私たちがやっていたように」
「なるほど、それはいいかも。それなら準備をするのは二種類だけでいいし、場所も取らないからね。みんなはどう思う?」
「反対する理由はありませんわ。ネーナからは話を聞いていましたが、リリネコ商店が立ち上がったばかりのころの商売を経験してみたい気持ちもありますし」
『賛成でーす! 青空商売、実に素敵です! このタヌ子、全身全霊を賭して接客業務に励んでみせますよー!』
「何をするにしても私のやることはいつもと変わらん。好きに決めてくれ」
こうして全員の賛同を得て、リリネコ商店がお祭りですることは開店直後と同じメロンパンとチョコレート販売に決まった。
これなら店員が二人くらいいれば回せるし、手の空いた人はリムルさんの力になったり、コタロやリラを連れてお祭りを楽しんでもらったりすることができるね。
「それじゃ、決定ということで。お祭りまでの二週間、リムルさんの力になったりお店の準備をしたりといろいろあるとおもうけど、みんなで頑張っていこう」
みんなの元気の良い返事に、俺は気合いを入れなおすのだった。
特にリムルさんのことは力を入れなければ。武器鍛冶の良し悪しなんて右も左もわからない俺だけど、彼女のために力になれることはきっとあるはずだから。
※前話にて倉庫内獲得アイテムを記入忘れていましたので、ここに記入いたします。
・八十四日 入荷商品
使い捨てストロー 300P
・八十五日
アルカリ単三電池 四個セット
・八十六日
卓上ブックスタンド
・八十七日
スピニングリール(釣り具)
・八十八日
カーテンレール
・八十九日
小学校二年生用 さんすうドリル
・九十日
スマートフォン充電器
・九十一日
水性蛍光ペン(赤と黄色)
・九十二日目
孫の手
・九十三日
TVゲーム機本体、ゴーカートゲーム同梱セット
・九十四日
バトミントンセット
更新に間があいてしまいすみませぬ、すみませぬ……風邪と残業、許せぬ!(理由明確)
なんとか更新ペースが取り戻せるよう、しっかり頑張りますー! ふぁいおー!




