62.リムルさんの笑顔かな
――動の芸術。
リムルさんの鍛冶作業、その光景を目にして俺の胸に浮かび上がった言葉がそれだった。
宙に浮いた大小様々な素材に対して、リムルさんが翳した両手の指先を細かに動かしていく。そのたびに、素材は様々な加工が施されていった。
人差し指をそっとなぞるように動かせば、石の塊のような素材にメスが入るように光の刃で切断された。
中指を押し出せば、まるで中抜きされるかのように鉱材が綺麗に押し出された。
切ったり曲げたり熱したり。それはまるでリムルさんが指先で奏でるピアノミュージックのようにすら思えた。
モノ作りであるはずなのに、まるでそれは楽器を演奏するかのように。
呆然と魅入る俺たちだが、一人別の感想を抱くのはルシエラだった。
リムルさんの物作りする姿を眺めながら、ルシエラは鋭い目を細めながら、賞賛するように呟く。
「かつての戦争で大地の民を相手に攻めきれなかった訳だ。これだけの魔力を戦いに用いられ、守りを固められては手も足も出ないだろう」
「戦い……ああ、古に行われた戦争だっけ」
「そうだ。私たち冥府の民が多くを侵略した戦争だ」
はっきりと事実だけを言い放つルシエラ。
それはルシエラたち、冥府の民が貴族階級の人たちや支配した地域の人たちに恐れられるようになってしまった原因となってしまった昔の戦争らしいんだけど、ルシエラはいつもながら微塵も気にしていないみたいだ。本当にルシエラは強いね。
戦争の話は置いて、ルシエラはリムルさんの力について説明を加えていく。
「魔力とは文字通り、魔法を用いるために使う力。それをここまで細かな、そして複雑な使い方をするのは大地の民ならではだな」
「ルシエラは同じことはできないの? ルシエラも剣に光を覆わせたり、遥か高いところから着地するための補助をしたり、凄いこと色々できたと思うんだけど」
「無理だな。あれだけ小さく、細かな形状を切りだしたりしようとすれば、間違いなく魔力が暴発する。魔力は制御が命だ、普通なら細かな制御を要しないような魔法を考え組み替えるのが一般的だが、リムルたち大地の民は逆だ。より細かな制御を必要とする矛盾を追い続けることで、常人とは一線を画する力を手に入れたんだろう」
ルシエラが珍しく饒舌に語ってくれている。それだけ、リムルさんのやってることはとんでもないことだってことなんだろうけれど……一つだけ言わせてほしいんだ。
他の誰でもないルシエラに常人とは一線を画すると言われても俺にはピンとこないよ……それを言うルシエラ自身がこの世界の誰よりも滅茶苦茶なんだから。
でも、ルシエラの言うとおり、リムルさんがやってのけていることが凄いのは何となく俺でも分かる。
今、リムルさんが切り出し形成終えている水鉄砲の各部のパーツ。
それはまるで機械で切り出したようになめらかだ。精度と言うんだろうか、それが段違いに凄い。正直、機械無しでこれらを再現するなんて思わなかった。
熟練の技と時間をかけて、丹念に精度を求めていく、そんな俺の中の職人像をリムルさんは簡単に砕いてくれた。リムルさんの職人の技は、そこに恐ろしいほどの『早さ』が加わっていた。
以前、月に何十、何百本もの武器を生み出していたと言っていたけれど、この光景を見たならば納得せざるを得ない。材料と、リムルさんのやる気さえあれば、リムルさんはそれが成せるんだ。
全ての部品を切り抜き加工し終えても、リムルさんの演奏会は終わらない。
宙に浮かせた各部品、それぞれをまるでロボットの合体シーンのようにつなぎあわせていく。光の球とでもいうんだろうか。ふよふよと浮かぶそれが部品同士に近づいて、その境界線を辿ると、もとから一つだったかのように部品同士は接合されている。
あれは溶接……とも違うな。熱で加工しているようには見えないし……まるで物そのものの境界線を溶かしこんでいるような、不思議な力だ。
理解できない原理の分からないものを人が魔法と呼ぶのなら、これは魔法の一言でしか表わせない。リムルさんは俺たちの世界の技術をはるか先をいく奇跡の力だと興奮していたけれど、俺から見たら、リムルさんの力こそオーバーテクノロジーの奇跡のように思えるよ。
そして、リムルさんが加工を始めて十五分。とうとう彼女の演奏会はフィナーレを迎えた。
最後の部品となる水タンク部分をつなぎ終え、リムルさんの生み出した水鉄砲は完成をみせた。
黒く染まった、両手で持つ突撃銃のような形状。本物の銃のようにすら思えるけれど、しっかり水を貯めこむためのタンクが自分は水鉄砲であると自己主張をしている。
完成した水鉄砲をゆっくりと片手で掴み、一息ついてリムルさんは俺たちに振り返って笑って告げた。
「――できたの。これが私、リムル・ラダツが作りだした異世界技術道具、ミズデポウ……『リリネコミズデポウ』なの」
リムルさんの言葉に、俺たちは一人、また一人と拍手で彼女を讃えていく。
いや、本当に完成させるなんて凄い。それもここまで再現するなんて。まだ外見だけなのに、既に俺たちは感動の一言だよ。物作りって、本当に凄い。
そんなリムルさんに、ネーナが、メルが、タヌ子さんが労いの言葉をかけていく。
「お疲れさまでした、リムルさん。本当に素晴らしい物を見せて頂き、ありがとうございます。私、大地の民の物作りを見たのは初めてで、本当に感動しました」
「私もですわ。話には聞いていたのですが、実際に目にするのは初めてで……貴族たちが大地の民の製品に拘る訳ですわ」
『素晴らしいです! 職人技です! 神の領域です! ここはもうリリネコ工房を開くしかありません! 店を改築して、商店の横に工房を作って、お店にリムルさんの品物を並べるしかありません!』
「ありがとうなの、ネーナ、メル、タヌコ。でも、タヌコのそれはちょと気が早いけれど……とても素敵なの。私もいつか、リツキに認められるくらいの異世界の物を作て、リリネコ商店の商品棚に作た物を並べてみせるの! 誰でも気軽に買えるような値段で、異世界の技術や商品を生み出して街の人たちに広められたら、とてもとても素敵なの!」
グッと拳を握って力説。
それがどうやらリムルさんの当面の目標らしい。なんていうか……夢を目指して走る人って、やっぱり格好いいね。
「いや、リムルさんが希望するならいつでも並べるけれど……でも、凄いね。本当に凄い。ありがとう、リムルさん。本当に凄い物を見せてもらったよ」
「リムル姉ちゃ! 凄かった! びしー! ずばばば! どどどど! ぴかー!」
「格好良かった」
「ありがとうなの、リツキ、コタロ、リラ」
「リムル、次は『これ』を再現してくれ。もう十台ほど同じものが欲しいんだが」
「わ、私の技術はルシエラの玩具作りのためにあるんじゃないの! それよりも私の鍛冶魔法を見て感想とかないの!?」
「見たぞ。鍛冶魔法凄いな。さあ、『らじこんかー』を作ってくれ」
「夜、寝るときにルシエラと私のベドを別にしてくれるなら構わないの」
「それは嫌だ。お前を抱きしめて寝ると温かいから手放したくない。要求はのめないが、『らじこんかー』は作ってくれ。頼んだぞ」
「お、横暴過ぎるの!」
ラジコンを持ってきて頼み込むルシエラと不満げなリムルさん。
いや、この二人本当に仲がいいよね……歳も近いし、性格もこんな感じだし、変に波長が合うのかもしれないね。
二人の漫才を見ているのもいいんだけど、俺としてはやっぱりリムルさん作の水鉄砲がどんな性能にしあがっているのか是非とも見てみたい。
真っ直ぐちゃんと飛ぶのだろうか。凄くドキドキする。できるなら、是非とも水鉄砲を撃たせてほしい。その光景がみたい俺は、リムルさんに試運転を頼んでみた。
「リムルさん、折角だからその水鉄砲使ってみてもいい? ちゃんと飛ぶのかどうか撃ってみたいんだけど……」
「そうなの、まずは動作を確認しないとなの。リツキに撃たせてあげてもいいけど、リツキじゃ厳しいと思うの」
「……え、なんで? 引き金を引くだけ、だよね?」
「動作はそれだけで水が出る仕組みにしたの。でも、これ、リツキたちからしたら凄く重いと思うの」
「えええ……ちょ、ちょっと貸してくれる?」
そう言って、俺はリムルさんから漆黒の水鉄砲を受け取って……お、重っ! なんだこれ!? 軽く二十キロはあるぞ!?
驚く俺に、リムルさんはその重量の理由を説明する。
「軽くてそこそこ強度を保てる素材が他になかたの。リツキの言う『ぷらすちく素材』を完全に再現するのは難しくて、とりあえずメルセリ鉱石にラルチエラ材を混ぜ込んで固めた物を流用したの。それでもだいぶ軽さを確保したほうなの」
「そ、そうなんだ……で、でも水鉄砲なんだから、あんまり強度はなくてもよかったんじゃ……」
「何を言てるの。リツキの世界では、これで対人同士で撃ちあうと言ていたの。撃ちあう以上、接近戦を考慮しない訳にはいかないの。剣で切られても受け止められる、変形だて起きないくらいの強度を確保したつもりなの」
変なところにこだわりを見せたリムルさんだった。武器職人の経歴は伊達じゃないんだね……でも、玩具にそんな剣で切られるような想定はいらなかったと思うんだ。
あまりに重くてリムルさんに返す情けない俺。リムルさんが楽しそうに銃を構えてみせる。ううん、こう見ると軽そうに見えるんだけどなあ……あれを片手で持てるリムルさんの怪力が恐ろしい。そして自分の力の無さが情けない。体、鍛え直そうかなあ……
「流石に倉庫で撃つ訳にはいかないの。水浸しになると掃除が大変だから、お風呂で試し撃ちをするの」
「そうだね、それがいいね」
水鉄砲を持ったリムルさんを先頭に、俺たちは大浴場へと移動した。
高級ホテルの大浴場そのもののお風呂場へと足を踏み入れ、リムルさんは取り付けられている蛇口から楽しそうに水を補充する。そして、準備は整ったとばかり銃を構えて、楽しげに語る。
「それじゃ、早速撃てみるの。ドキドキなの」
「本当だね。楽しみだよ」
「それじゃ、撃つの。発射なの!」
リムルさんの掛け声と同時に、水鉄砲の引き金が引かれた。
水鉄砲から発射された水のアーチが見事に虹を描く。いや、凄いね。大浴場の端から端まで真っ直ぐ届いてる。水鉄砲ってこんなに飛ぶんだね。
みんなから歓声が再びあがり、拍手の嵐。凄い凄いと喜ぶ俺たち、凄く嬉しそうに笑うリムルさん。そんな彼女に俺は笑顔で賞賛の言葉を送る。
「凄いよ、水鉄砲を完全に再現してるよ。おめでとう、リムルさん」
「えへへ、なの。ありがとうなの、リツキ! でも、本当はもと色々と手を加えたかたの。氷を発射したり、熱湯を発射したりできたらとても素敵だと思うの! このあたりはこれからの改善で考えようと思うの」
「いや、それもう玩具じゃないよね……危ないから止めようね」
「何を言てるの、改善なくして良い物は生まれないの。よりよい物を目指すためにも、もともと色んな視点から……」
熱をこめて語り始めたリムルさんに、俺たちはつられるように笑ってしまう。リムルさんがあまりに楽しそうに笑うものだから、ね。
何にせよ、リムルさんがリリネコ商店で楽しそうに物作りする姿が見られて本当によかった。実家の方では物作りに関して色々とあったみたいだけど、俺としては、リムルさんが今みたいに笑ってくれるなら、ずっとこんな風に物作りを続けてほしいなって思うから。
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