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55.ピクニックかな

 



 異世界生活八十一日目。




 眼前に広がる広大な草原をバギーで駆け抜けていく。

 今日はリリネコ商店の休店日。その折角の休日、俺は一人あてもなく、ぶらりとバギーをかっ飛ばしている……訳がないんだね。

 俺がバギーを運転する背後、少し離れた距離をキープして浮いている不思議倉庫。その中からコタロの楽しげな声が聞こえてくる。女性陣の楽しそうな会話もね。


「ルシエラ、道はこのまま真っ直ぐでいいの?」

「ああ、そのまま直進していればアルペナ湖にたどりつく」


 ルシエラの指示を受け、俺は安全ヘルメットをかぶり直してアクセルを上げ続けた。目的の地、アルペナ湖を目指して。

 うん、そうなんだ。今日は折角の休日ということで、みんなで街の外にお出かけなんだね。遠足みたいな感じで。

 昨日、みんなの予定が良いならってことで提案してみたんだけど、全員から了承をもらえたから決行と相成りました。コタロはそれはそれは大はしゃぎ。可愛いね。

 リラも嬉しいようで、尻尾と耳がピコピコ動いていた。本当に可愛いね。


 街の外、自由都市マルシェリアから少し離れた場所にあるアルペナ湖。

 魔物もほとんど姿を見せず……というより、この近辺の魔物は討伐者の皆さんが狩り尽くしてしまったらしく、比較的安全な観光地として結構有名らしい。遠足にはもってこいだね。

 平日はコタロとリラに少々退屈な思いをさせてしまっているから、こういう時にしっかり遊ばないと。ネーナお手製のお弁当も楽しみだし、今日は良い日になりそうだ。


「兄ちゃ、兄ちゃ、まだー!?」

「もうちょっとみたいだよ」

「もうちょと! もうちょと!」


 嬉しそうに尻尾をブルンブルンと振りまわすコタロ。

 ネーナに優しく抱きしめられているのは、うん、コタロは手を離すと興奮のあまり倉庫から飛び出そうだからね。安全面の確保です。

 リラは大人しいもので、チョコンと座って流れる景色を見つめている。ただ、やっぱり興奮はしているらしく、尻尾がバシバシと隣のタヌ子さんに当たっているのは気にしないことにする。


 走り続けること三十分。

 俺たちは目的の場所、アルペナ湖へとたどり着いた。

 眼前に広がる湖を見渡して、俺は思わず感嘆の声をあげてしまう。


「凄いね……太陽の光が湖に反射して綺麗だね」

「この光景を見るために、多くの観光客がこの地を訪れますのよ。なかには貴族も沢山いて、社交界などではよく話にあがったりもしますわね」


 メルの解説に、俺はなるほどと納得する。

 これだけの光景なら、平民だろうと貴族だろうと足を運ぶわけだ。それだけの価値があるね。異世界の観光名所、来てよかった。

 湖の光景に見惚れている俺だったけれど、その時間はあっという間に終わる。

 敷布を丸めたもので頭を軽く小突かれて、俺はその犯人へと振り返った。


「なにするのさ、ルシエラ」

「ボーっとしてないで、昼食の準備を手伝え」

「ああ、ごめん。ネーナ! 重いのは俺が持つから!」


 倉庫から食べ物を包んだ袋を運び出そうとしていたネーナに、俺は代わりを申し出る。

 力仕事は俺の仕事だからね。ネーナは昨日の夜からお弁当作り、頑張ってくれたんだから。俺はネーナから荷物を受け取りながら、お礼を言う。


「お弁当、ありがとうね、ネーナ。今日は凄く楽しみだよ」

「いいえ、私も楽しんで作りましたから。みんなが喜んでくれると嬉しいです。それに、私ひとりじゃなくて、メルも手伝ってくれたんですから」

「メルが……? メル、料理できたの?」

「リツキさん、あなたは私を何だと思っていますの……? 嗜む程度くらいにはできますわよ」


 そうなのか……メルが料理してる姿なんて一度も見たことないから、全然できないんだと思ってた。事実、ネーナはルシエラに教えてもらうまで、一度も料理したことないって言っていたし、貴族のお嬢様ってそういうもんなんだと。

 そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、メルはため息をついて口を開く。


「ネーナは特別ですわ。貴族の娘とはいえ、どのような家に嫁ぐかも分かりません。料理や手芸といった作法は幼いころより叩き込まれていますのよ」

「そっか。メル、良いお嫁さんになれそうだね。メルやネーナの夫になる人が羨ましいや」


 タイプは違うけれど、メルもネーナも本当に素晴らしい奥さんになると思う。

 二人はいったいどんな人と結婚するのだろう。貴族だから、相手も当然相応の人なんだろうけれど……なんか、嫌だな。二人が誰かと結婚する姿を想像するのは、思った以上に胸にくる。

 ……ジェラシーってやつなのかな。そんなことを考えていたけれど、二人からは一向に返事がこない。

 そんな二人を見てみると、ネーナは少し顔を赤らめつつも、いつも以上にニコニコして俺の傍に寄り添い、メルは顔を真っ赤にして下を向いていた。

 困惑する俺と無言の二人。そんな俺たち……というより俺に、ルシエラさん怒り度上昇。

 再び敷布を丸めたもので俺の頭を叩き、ジト目で注意。


「誰がネーナやメルを口説けと言った。そんなものは夜に寝床で好きなだけしろ」 

「いや、おかしいから。しないから、できないから、やったことないから」


 ルシエラに促され、俺たちは昼食の準備を進めていく。

 俺とルシエラ、ネーナとメルが昼食の準備を進め、コタロとリラの遊び相手をタヌ子さんが務めてくれている。うん、いいね、全員でこうやってピクニックを楽しむっていうのは……全員?

 俺はふと周囲を見渡して、人数を数えてみる。

 いち、に、さん、し……いや、足りないね。明らかに一人足りないね。リムルさん、どこいったんだ。


「リムルさん、どこにもいないけど……倉庫の中かな?」

「リムルさんなら、倉庫の中で飲み物などの準備をしてくれていますよ」

「そうなんだ。ちょっとそっちを手伝ってくるよ」


 敷布を広げ終え、俺は倉庫の中へと入って行った。

 倉庫に入ると、入り口横に紙コップとミネラルウォーターやウーロン茶、コーヒーや量産されたポテトチップスやチョコレートなどが綺麗に並べられている。もう準備を全てしてくれていたみたいだ。

 ただ、肝心のリムルさんの姿がない。どこにいるのかと見渡してみると、部屋の隅っこに彼女の姿はあった。

 そちらの方へ足を運ぶと、そこにはバラバラに分解された懐中電灯や電動ハンドガン、電動マッサージ器などが床に並べられていた。

 ……いや、凄いね、これ。朝、バギーを倉庫から出すときには気づかなかったけれど、こんな状態になっていたのか。工具ボックスも完全に使いこなしてまあ……俺は一心不乱に機械を分解し続けるリムルさんに、そっと背後から声をかける。


「リムルさーん、目的地に到着しましたよー」

「了解なの。ちょと待てね、すぐ終わるの」


 バラバラにした懐中電灯を一か所にまとめ、工具を片づけてリムルさんはペコリと俺に『お待たせなの』と頭を下げる。

 気にしないでと手を振りつつ、俺はリムルさんに足元の状況について訊ねかけた。


「かなり派手に機械を分解しているみたいだけど、どうかしたの?」

「うん。内部構造が見たかたの。私の知らない技術や原理で動く不思議な道具、それを把握するためには分解するのが一番早いの。昨日の夜から夢中になてやり続けてしまたの」

「昨日の夜って……いや、まさかリムルさん、寝てないんじゃ……」

「だいじょぶなの。三日や四日くらい寝なくても平気なの。この胸に燃える情熱は眠気なんかには負けないの! この技術を絶対に私のものにしてみせるの!」


 拳を握りしめて力説するリムルさん。いや、本当に情熱の塊だ。

 なんというか、まさしく異世界のエンジニアというか。モノ作りに対する熱い想いを感じるね。

 俺は思わず笑みを零しながら、リムルさんに声をかける。


「燃えるのは全然構わないけれど、無理だけはしないようにね。健康第一なんだから」

「もちろんなの。お店で働く以上、健康管理は何より優先しているの。病気にでもなたりして休んだら、他の人に負担が出るの。それは駄目なの」

「……リムルさん、本当にしっかりしているね」

「当たり前なの。私はみんなよりお姉さんなの」


 えへんと胸を張るリムルさん。その姿は子供っぽいのに、女性特有の胸のふくらみは全然子供っぽくない。俺は視線を少しそらしつつ、訊ねかけてみた。


「リムルさんは地球……俺たちの世界の技術を学ぼうとしているけれど、どうして?」

「この世界にない、凄い技術だからなの。もしこの技術を応用し、私たちが現在手にしている技術と融合した物が作れれば、きとこの世界の在り方は変容するの。時代の先端を行くモノ作り、それだけで心がワクワクするの」

「それはまた、壮大だね……でも、いいね、そういうの」

「今までにない技術によて作られたものが、みんなの生活をより便利に、豊かにする……想像するだけで震えるの。胸に躍る物が見つけられたなら、後はそれに向けて走るだけでいいの」


 そっか、それがリムルさんの夢、目標で目指す場所なんだ。

 胸を張って言えることだからこそ、夢中にもなれるし時間も忘れるほど集中できる。

 メルもそうだけど、夢に向かって頑張る姿は本当に眩いと思う。恰好良いと思う。

 だからこそ、俺は何気なく思ったことを口にしたんだけど。


「いいね、目標に向かって全力で走るって、格好いいと思う。羨ましいな」

「羨ましい? どうして? リツキも目標があて、それに向かて走てるのに?」

「目標?」

「リツキ、十億リリル貯めて元の世界に戻りたいんじゃないの? 元の世界が恋しいんじゃないの? だから頑張て商売してると思たのだけれど」


 リムルさんの何気ない一言。その言葉に、俺は咄嗟に言葉を返せなかった。

 それはリムルさんにとって何気ない一言だったのだろう。俺のこの世界に来た事情を聞いて、彼女が思ったままに発した一言。

 だけど、それは俺にとって『そうだ』と簡単に返すことができない問いで。

 胸の中に浮かび上がった疑問、それを俺は脳内で一人言葉にしていた。



 ……俺、この世界に来て、元の世界が恋しいと思ったことがあったか?

 ……俺、なんで元の世界に絶対に帰りたいって思っていないんだ?



 その疑問に対する答えは、用意しようとすればいくらでも用意できる。

 ネーナやコタロ、リラと出会い情が湧いたから。コタロやリラを親元に帰すまでは元の世界のことは考えないと誓ったから。

 この世界で出会ったみんなは本当に素敵な人ばかりで、離れたくないと感じているから。

 そう、理由ならいくらでも用意できる。並べられる。だけど……だけど、それだけが本当の理由なのか。

 まるで、この世界にいることが『当たり前』のように感じている自分。

 リムルさんに問われるまで、俺は自分の居場所が当然のようにこの世界だと思っていた。

 まるで、自分自身、『神楽立輝』という人間がこの世界に『溶け込んで』しまっているかのように。


 嫌な胸のざわめきが広がる。

 なんだろう、この違和感は。なんだろう、この歯車のズレは。

 自分でもよく分からないモヤモヤしたものを、俺は必死で抑え込む。

 何かに気づかなければいけない。だけど何に気づけばいいのか分からない。

 そんな俺の顔を覗き込みながら、リムルさんは首を傾げて訊ねかけてくる。


「リツキ? どしたの?」

「いや……なんでも、なんでも、ないよ」


 小さく首を横に振って、俺はリムルさんと並んで倉庫の外へと向かっていった。

 外に出て、みんなの笑顔に迎えられるころには、胸の中の嫌な靄は完全に霧散していた。







 ただ、俺の脳裏をよぎった光景があった。

 それは、売上競争の説明会にて、早野さんが俺に辛辣に言い放った姿。



『――状況に流されて生きているのね。実に楽な生き方だわ、これからもそうやって生きていくといいわ』



 その言葉が、なぜか俺の頭から離れることはなかった。

 まるで何かを戒めるように、俺の頭の奥底に碇のように沈み込んで。








・八十一日入荷商品

 木柄なわとび




 

すみません、仕事が残業祭りで忙しく、三日もお休みしてしまいまひた!(嘔吐)

今週いっぱいは不定期になりますが、来週は通常更新に戻れる! ……と、信じています(願望)


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