表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/73

52.みんなで決めないとな

 



 ネーナたちを連れて、俺は再びリビングへと戻ってきた。

 もちろん、リムルさんの雇用についてどうすべきかをみんなで話し合うためだ。


 現在、リムルさんはルシエラとともにお風呂に行った……というより、ルシエラに拉致されていった。

 夕食は終えたけれど、水浴びはまだ終えていないとリムルさんが言ったら、ルシエラが『今から私も入るから一緒にこい』と強引に連れて行ったんだね。小脇に抱えられてジタバタするリムルさんを見て噴き出しそうになった俺は悪くないと思うんだ。

 ……リムルさん、お風呂、驚くだろうな。でも、リムルさんがお風呂に行ったから、話し合いをするにはちょうどいいのかもしれないね。

 お風呂に向かう際、ルシエラは俺の耳元で小声で『こいつの採用はリツキたちで決めてくれ』と言い残していった。投げっぱなしなところが実にルシエラらしい。


 ルシエラ以外のリリネコ商店メンバーに、先ほどのリムルさんとの一件を伝える。

 家出してきたこと、ウチに住み込みで働きたいということ。

 そして、それに対する俺の意見。表の人員ではなく、裏方の仕事としての採用なら欲しいと思っていること。

 それらを全て伝えると、メルは小さく息をついて俺に指摘する。


「私たちに確認を取らずとも、どうすべきか答えが出ていると思うのですけれど。リツキさんは店長として裏方の人員が必要だと考えているのでしょう? でしたら、この機会を逃さず採用すべきだと思いますわ」

「いや、さっきのはあくまで俺の意見な訳で。住み込みってなると、これからリムルさんも一緒に暮らすってことだからね? 働くこともそうなんだけど、やっぱり、同居人が増えるわけだから、みんなの意見が聞きたいんだ」

「店長の意見として決定することもできますのに」

「ううん……そういう決め方もあるんだけどね。勝手な考えだけど、リリネコ商店は俺だけのお店じゃない、みんなのお店だから。頼りないかもしれないけれど、やっぱりこういう大事な決定は俺一人じゃなくて、みんなで決めたいんだ」


 俺の素直な意見に、やがてメルは穏やかに笑って『仕方ないですわね』と口にした。

 ううん、やっぱり俺が一人で勝手に決めるより、ネーナやメルたちの意見を取り入れたほうが絶対に良い結果になると思うんだ。

 いや、俺がオードナさんくらい頼りになれば勝手に決定するのもありかと思うんだけど……まだまだ頼りにならなくて申し訳ない。

 そんなことを考えていたんだけど、メルはそんな俺に予想外の言葉をくれた。


「そんなリツキさんだからこそ、支えたいと思ってしまうんでしょうね。信じて、頼って、任せてくれるからこそ、応えたくなってしまいます。リツキさんのお店に対する考え、私はとても好ましく思いますわ」

「それは嬉しいね。うん、これからはどんどん困ったことはメルに……」

「た・だ・し! 店長として、しっかりするべきところはしてもらいますわよ」

「はい、すみません、善処いたします」


 飴と鞭を見事に使い分けるメル先生だった。

 俺はしょんぼりとしつつ、膝の上に乗ってきたコタロの獣耳をモフモフする。ぷるぷるして可愛いね。撫でてあげよう。

 俺の隣でネーナもリラの髪を優しく梳いてあげている。というか、隣のネーナからお風呂上がりの凄く良い香りがする。ちょっとドキドキしてるよ。コタロ、兄ちゃんの心臓またうるさくなるかも。

 そんな俺をおいて、女性陣の話し合いは始まっていく。


「私の意見としましては、リツキさんが面接されて問題ないと判断されたのなら採用の方向で問題ないと思いますわ。リムルさんなら足繁く店に来てもらっていて、知らない方でもありません。どのような方か分かっている分、安心できますわ」

「私も同意見です。リムルさんはお店でよくお話させていただきますが、とても礼儀正しくしっかりされた方という印象です」


 礼儀正しく、しっかりしている。うん、確かにその通りだ。

 時々俺……というか、商品をキチンと説明できない俺に対して毒を吐くくらいで、リムルさんはかなりしっかり者だ。

 『姉ちゃが増えるの? 増えるの?』とワクワクしているコタロをよしよしと撫でながら、俺は女性陣の会話に耳を傾け続ける。

 タヌ子さんは椅子から立ち上がり、嬉々として拳を突き上げて主張し始めた。


『賛成賛成大賛成! 私は絶対に絶対に絶対に採用してほしいです!』

「タヌ子さん、物凄く上機嫌ですわね。何か理由でも?」

『はい! もしリムルさんが採用されたら、私の後輩ってことですよね! 私は皆さんにとって人生の先輩ではありますが、お店では一番後輩ということになります! そんな私に後輩さんができるのですよ! これはもう指導するしかありません! 楽しみです! リムルさんに頼られて、『仕方ないわね』なんて言いながら毅然と指導する私! きゃー!』

「あ、ごめん、タヌ子さん。もし採用になったら、リムルさんの仕事は表じゃなくて裏方なんだ。だからタヌ子さんがリムルさんに指導する機会はないと思う」


 タヌ子さんは泣いた。机に突っ伏してめそめそとすすり泣き始めた。

 いや、期待を裏切るようで本当に申し訳ない……タヌ子さんは引き続き、表の仕事の一番後輩として、メルやネーナにご指導されて頂きたい。最近はお金を床にぶちまけなくなってきたからね、凄いよタヌ子さん、成長だよ。

 

 でも、これでネーナ、メル、タヌ子さんの全員が賛成ってことになるね。

 最後の確認とばかりに、俺はコタロとリラに今回のことを訊ねかける。


「コタロ、リラ。明日から新しいお姉ちゃんが家族に増えるかもしれないんだけど、いいかな?」

「うん! 姉ちゃ、みんな優しいから好き!」


 満面の笑みでコタロは大賛成。リラもこくんと頷いてオーケーをくれた。積極的賛成と消極的賛成の違いはあるものの、二人は賛成らしい。

 これでみんなの意見がまとまり、リムルさんは採用の方向で決まった。

明日伝えるって言ったけれど、お風呂からあがってきたら、早速伝えた方がいいね。流石に色々準備もあるから、明日からすぐに働いてもらうってことにはならないけれどね。


「それでは、リムルさんを新しいリリネコ商店の仲間として迎える方向でいきます。でも、みんなが簡単に受け入れてくれてよかったよ。もっと話し合いは長引くかと思ってた」

「採用の相手がリムルさんだからですわ。彼女の人となりは何となく分かりますし、何より同性ですから。全く見知らぬ人だったり、ましてや男性だったりしたら今日中に結論なんて出せませんでしたわ」

「そうなんだ。裏方の仕事を募集しようかなって前から考えていたんだけど、裏方って力仕事ばかりでしょ? だから男の人を探そうかなって……」


 そう口にした瞬間、メルの目が見事に釣り上った。

 あ、やばい、これはまずい。地雷踏み抜いた。やっちゃった、完全にやっちゃった。

 憤怒の表情のメルに、俺はコタロを抱きしめたまま即座に頭を下げた。怒ったメルは怖いからね、仕方ないね。

 そんな完全降伏状態の俺に、メルは少し声を荒げてきっぱり言い放つ。


「男性の募集をするときは絶っっっっっっっ対に私たちに相談してくださいまし! 採用もそうですが、何があっても勝手に住み込みを了承したりしませんように! リムルさんの件はあくまでよく見知っていた人物だったこと、そしてそれ以上に彼女が女性だからこそ話が早かっただけですからね! 男性と同棲なんて考えられません!」

「それはもう、勿論、当然、必ず守ります……ですが、あの、メルさん、俺も一応男なんですがそれは……」

「リツキさんは特別です! これは私だけの意見ではなく、女性陣の意見として真剣に覚えておいてくださいまし! ネーナも嫌ですわよね!?」

「リツキ様以外の殿方と一緒に暮らすのはちょっと……」

「姉ちゃ! 姉ちゃ! 僕も男!」


 胸を張って男をアピールすコタロに、ネーナはにっこり微笑んで撫で撫で。にぱーっと笑うコタロは可愛いね。ついでに俺もリラを撫で撫で。ネーナの膝の上から俺の膝の上に移動してきて、満足そうに目を細めるリラも可愛いね。

 ただ、メルが俺と一緒に住むことは別だと言ってくれたこと、それは正直に嬉しかった。

 みんなと一緒に住み始めて一カ月から二カ月くらいしか経っていないけれど、彼女たちと過ごした時間でこう言ってもらえるだけのものを築くことができたことが誇らしい。

 ぶんぶん振り回されるコタロの尻尾とふるふる揺れるリラの犬耳をさわさわしながら、俺はみんなにしっかりと宣言する。


「さっきも言ったけれど、こうやって新しい人を雇うときはみんなに絶対確認するから安心してね。報告、連絡、相談は大事だね」

「リツキさんを信じていますわ。リムルさんがいくら綺麗でも、決して変なことはなさらないという点についても心から信頼していますわ」

「リムルさんにそんなことする度胸があるならネーナやメルに我慢せずにしているよ……」

「な、な、な!?」

「あ、やば……」


 ……口が滑った。

 さっきまでルシエラとそんな話をしていたものだから、同じノリで言ってしまった。メル、この手の話に凄く敏感だからね。大激怒間違いなしじゃないか……

 今の自分の発言、どう振り返ってもセクハラです。顔が一気に真っ赤に染まったメルに、コタロとリラを抱きしめて再び一緒にごめんなさい。

 俺の腕の中で、『ごめんなさー! ごめんなさー! 兄ちゃんの真似!』と叫びまわるちびっこ。コタロ、楽しそうね……兄ちゃんに笑顔を分けておくれ。リラ、あくび出始めて眠そうだね。もう少ししたら寝室まで連れていくからね。

 わなわなと震えるメル、反省する俺。

 室内は静寂……じゃないね、未だメソメソするタヌ子さんの涙声だけが響き渡っている。いや、タヌ子さん、そろそろ泣きやもうよ。後輩どれだけ欲しかったんですか。

 あまりに気まずく、隣のネーナに助けを求めようとした、その時だった。

 部屋の扉を開く音が響き渡り、そこからルシエラの声が投げかけられた。


「おい、こいつのぼせたぞ。どうにかしてくれ」

「ああ、リムルさん初めてのお風呂だから勝手が分からなかったのかもしれな……」


 そう言いながら振り返った視線の先、そこにはとんでもないものがあった。

 慌てて風呂からあがってきたのか、ルシエラの髪は今だ濡れっぱなしだ。いや、髪どころか体のあちこちが濡れている。すらりとした肢体から滴が滴り落ちる姿からそれは想像に難くない。


 ただ、問題なのはそんなことじゃない。彼女の今の恰好、それは全裸にタオルを一枚巻き付けただけというとんでもないものだった。

 風呂の更衣室に備え付けられていたものを適当に巻きつけてきたのだろう、胸の巨大な二つに連なる山脈が今にも零れ落ちそうになっている。

 俺は絶句したまま、視線は完全にルシエラの体にくぎ付け状態だ。いや、こんなの卑怯でしょ。見るでしょ、見ちゃうでしょ、こんなの。


 室内に張り詰める静寂……もとい、タヌ子さんのすすり泣く声だけが広がる室内だったけれど、意識を取り戻したメルが全力で怒鳴りあげることでこの空気を破壊した。


「ふ、ふ、ふ、服を着てからここに来てくださいまし! リツキさんもいるというのに、ななな、なんて恰好で来ているんですの!」

「どうせまた風呂に入り直すからな、これのほうが面倒がなくていいだろう。他の男ならまだしも、リツキに見られても私は困らん。そもそも、私はこうしてちゃんと隠している訳だから、問題はないな」

「は、裸をリツキさんに見られても大丈夫だなんて、大問題にもほどがありますわよ! 隠しているといっても、最低限度過ぎるでしょう!?」

「口うるさいのはいいから、こいつを頼むぞ。私は風呂に戻りたいんだ」


 そう言って、ルシエラは長椅子に茹で上がったリムルさんを寝転がした。

 完全にクルクルと目を回したリムルさんだけど、彼女の恰好もルシエラと同じでバスタオル一枚。小さい体とは対照的、女性的に発育した凹凸が見事に強調されている。

 しかも、ルシエラが適当に転がしたものだから、適当にまとっただけのバスタオルが体をいつまでも守ってくれるはずもなく。

 リムルさんの体からはらりとバスタオルが落ちる瞬間、メルの絶叫とともに俺の視界は暗転した。

 そして、俺の顔を包む柔らかい感触と良い香り。心の落ち着く、それでいてドキドキする俺の一番好きな香りだ。


「と、とにかくルシエラさんは今すぐお風呂に戻ってくださいまし! 私たちでリムルさんを介抱しますから……って、ネーナ!? あなた、どさくさに何をやっていますの!?」

「えと、今のリムルさんの姿をリツキ様から見えないようにと考えていたら、こうなりまして。どうしましょう、メル。私、凄く幸せです。胸がどきどきして、温かくて」

「私は! 凄く! 不幸せですわっ! で、でもリツキさんがリムルさんの裸を見るよりはまだマシなのかしら……ネーナはそのままで! タヌ子さん、リムルさんの介抱のお手伝いをお願いしますわ! 『先輩』として『後輩』の面倒を見る最初のお仕事ですわよ!」

『先輩のお仕事ですか!? お任せ下さい! このタヌ子、ビシバシリムルさんをご指導しますよー! さあ、何か教えればよいのでしょうか! 接客ですか、お掃除ですか!』

「指導はいいから介抱してくださいな!」

「……本当に、長い夜になりそうだね」


 ネーナの温もりを誰より傍で感じながら、俺はしみじみとそう呟くのだった。

 結局、リムルさんはそのまま朝まで眠り続けてしまい、彼女に採用を伝えるのは翌日になってのことだった。

 お風呂からの記憶が曖昧になっていたこと、それだけが救いだった。何かの拍子でリムルさんに今日のことを知られたら、俺、本気でジト目で射殺されそうだよ……見てないから、何も見てないからね。俺は何も覗いていません。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ