46.みんなと一緒に、かな
異世界生活七十四日目。
前夜の大騒ぎから一夜が明けた。
今日は店休日、売上競争もメルのことも一段落したので、久しぶりにゆっくり羽を伸ばすように惰眠を貪る……つもりだったんだ。のんびりするつもりだったんだ。
そんな俺は今、ある館の一室でその主人と向き合って座っている。うん、意味分かんないよね。
部屋に置かれた調度品は派手さこそないけれど、素人の俺が見ても『絶対高いでしょこれ』って言い切れるようなものがずらり。趣味の良いお金持ちの部屋というんだろうか。
その部屋で俺は部屋の主……ラリオさんと向き合っている。いや、俺だけじゃなくて、俺の隣に座っているメルと一緒に、だね。
メルがこれまでのこと、リリネコ商店での出来事の全てを澄んだ声でラリオさんに報告し、ラリオさんはそれに対して黙って耳を傾けている。俺はやることもなく、座っているだけ。いったいどうしてこうなったんだろうね。俺は今朝のことを振りかえる。
朝、みんなで朝食を取りながら今日は何をして過ごそうなんて考えているときに、メルから俺に頼みごとをされた。
何でもラリオさんに『正式に』リリネコ商店にお世話になることを伝えたいので、報告に行くのに付き合ってほしいと。
メルのお願いに、俺は二つ返事でOKをだした。ラリオさんにも心配かけちゃったしね、何より大切なお孫さんをこれからもウチでお預かりするんだから、店長として向かわなきゃね。いや、俺がメルの世話をするより、メルの世話になるほうが絶対に多いとは思うんだけども。
そんな気軽な気持ちでメルと一緒に街外れのラリオさん宅へ……向かったら、いや、とんでもない大きな館だった。
街一番というほどではなく、同じような館はいくつもあったけれど、それでも俺にとっては恐ろしいほどに大きな館だ。
門の前には警備のための兵士が立っているし……唖然とする俺に、メルは首を傾げながら俺にとんでもないことを言い切った。
『お爺様は派手な建物を嫌いますから、この館を選んだそうですわ。隠居を決めた際、父はもっと豪華なものを用意しようとしたそうですが、全て突っぱねてしまったそうです』
メルの言葉にもはや何も言えない。そういえば、ラリオさんってこの地方の元領主だったんだ……エロジジイ、もとい好好爺のイメージしかないから、完全に忘れてたけど、あのお爺さん滅茶苦茶偉い人だったんだ。
メルの姿を見て、敬礼をして門を開く兵士。一礼し、毅然と通るメル。不審者のようにきょろきょろしながら入る小市民の俺。仕方ないね、こんな凄い建物に入るの、人生で初めてだからね。
綺麗に手を入れられた庭や、玄関ホールを見てうわあうわあと子どものように感嘆する俺。そんな俺を見て頭を押さえて溜息をつくメル。いや、ごめん、だって感動するんだもん。中世の貴族世界にタイムスリップしたみたいで……アウトレット品にデジカメがあったら、絶対写真撮りまくっている自信があるよ。
あまりに俺の反応があれすぎたのか、メルは少し顔を赤らめて俺の手を引いてぐいぐいと奥へ進んで行ってしまった。いや、本当に申し訳ない。恥ずかしい店長でごめんよ。
『全くもう……リツキさんって人は、リツキさんって人は!』
『いや、本当にすみません……』
『私を励ましてくれた時のリツキさんはどこにいったんですか。あのときは本当に格好良かったのに……いつもあの時みたいに頑張って下さいまし!』
『いや、あの時は頭の中がメルのことでいっぱいで……メルの笑顔を取り戻すんだ、力になるんだってことしか考えてなかったよ。俺、メルの綺麗に笑ってくれる笑顔が大好きだから、メルの笑う姿がまた見たくて……メル? 話、聞いてくれてる?』
『知りませんっ!』
顔すら合わせてもらえず怒られた。
ただ、俺を引っ張るメルの手がこころなしか優しくなった気がする。
そんな状態で、俺はラリオさんの待つ部屋まで案内されていった。
ただ、なぜかメルまで気が動転していたらしく、手をつないだままラリオさんの前に出てしまった。それに気付いたのは、ラリオさんが笑って『仲がええのう』と俺たちを茶化した後だった。いや、涙目で俺を睨まれても、俺が悪い訳じゃ。
そしてラリオさんに挨拶した後、メルからラリオさんにこの日までの出来事全ての報告、説明を始めて現状に至るという状況だった。
メルの話が終わり、全てを聞き終えたラリオさんは軽く息をついた。
閉じていた瞳をゆっくりと開いて、メルを見つめながら口を開く。
「それでは、メル、お前はこのまま『商人』としての道を歩き続けるんじゃな」
「はい、お爺様。私はリリネコ商店の皆様と一緒に、夢を追い続けたいと思います」
「お前が『貴族』である限り、同じようなことは何度も起こるじゃろう。メル・レーグエン・ダーシュタルトという人間を『商人』ではなく『貴族』としてしか見ず、お前を恐れたり利用しようとしたりする人間は数え切れないほどに現れる。それでも構わぬのじゃな」
ラリオさんの言葉に、メルは一瞬言葉を止めた。
そして、机の下でそっと俺の手を握り、メルは真っ直ぐにラリオさんを見つめ返して言い切った。それはどこまでも彼女らしく、凛とした姿で。
「構いません。どんなに揶揄されようと、誰に何を言われようと、私は胸を張り続けます。どれだけつらいことがあっても、私にはみんながいますから……みんなが私の頑張りを認めてくれるなら、私はどこまでも走り続けられます。私は、一人ではありませんから」
「……それが、お前の答えなんじゃな、メル」
「はい。我儘をお許し下さい、お爺様。ただ、もしこのことでダーシュタルト家の迷惑や負担になるとお爺様が判断された時は、迷わず私を――」
メルの言葉を遮るように、ラリオさんは掌をメルへと向けた。
そして、ラリオさんはゆっくりと瞳を閉じて息をついた。
メルの言葉、誓い、その全てを咀嚼するように間をおいて、やがてラリオさんはそっと口を開いた。
「……ワシは二つの道、そのどちらかを選ぶじゃろうと思っておった。一つは商人の道を諦め、家に戻ること。『貴族』が『商人』としてやっていくことの意味、現実に耐えきれず、夢を諦めてしまう可能性じゃな。もっとも、こちらの可能性は低いと思っておったがの。誰に似たのか、本当に一度決めたことは曲げない頑固な娘じゃからのう」
「おほめ頂きありがとうございます。両親からはお爺様譲りだとよく言われましたわ」
メルの返しにラリオさんはホッホと笑うだけ。
でも、メルは確かにラリオさん譲りなんだろうな。優秀さ、先を見通す力、分析力。本当にこの一家は凄いんだね。まあ、領主を務める家系だから当たり前かもしれないけれど。
そして、ラリオさんはメルにもう一つの予期していた未来を語った。
「そして、もう一つの道は『貴族を捨てて商人を選ぶ道』じゃ。ダーシュタルトの名を捨て、メルという一人の商人として生きること……ワシはこうなると思っておった。これなら、貴族としての重圧から逃れて夢に生きることができる。そのためにワシも奔走するつもりだったんじゃが……孫馬鹿のあまり、ワシはメルを見誤っておったんじゃな。メル、お前はワシが考えるより遥かに心が強かった」
貴族であることを放棄すること、確かにそれはメルを重圧や揶揄から解き放つ手段だったのかもしれない。だけど、それはある意味において逃げだ。
メルはそれを選ぶことなく、『貴族』である自分をありのままに受け入れ、『商人』と両立して歩いていくことを選んだ。ラリオさんも言った通り、それは本当に大変な道だ。
これから先も、きっとメルへの風当たりはあるだろう。恐れられたり、利用されそうになったり、メルの望まない商人としての経験を沢山するかもしれない。
だけど、それらにメルは立ち向かうことを選んだ。誰に何を思われても、言われてもみんなと一緒なら大丈夫だと言いきってくれた。みんなが支えてくれる限り、自分の夢は終わらない、『誰に対しても胸を張れる商人』でいられると。
重ねられたメルの手の熱が俺の心に伝わる。うん、頑張らなきゃ。このメルの頑張り、誓い、想いに応えなきゃ駄目だ。それが俺の、店長としての役割なんだから。
もっと成長しよう。メルに恥ずかしくないくらい、メルの気高い夢の傍にいても恥ずかしくないくらい、立派な店長になるんだ。
心の中で覚悟を決め直した俺に、ラリオさんは視線を向けて深々と頭を下げた。
「リツキ君、今回の件、君には本当に世話になった。ワシの可愛い孫娘のために奔走してくれたこと、頭を下げても足りないくらいじゃ。本当にありがとう」
「い、いえ! お礼を言うのは俺の方ですよ! 本当に色々ありがとうございました! 俺、まだ全然頼りない店長ですけど、絶対に立派になって、メルに恥じない店長になってみせますから!」
「ほほう? つまり、メルに相応しい男を目指すと、そういう宣言じゃな?」
「そうです! 俺、絶対にメルに相応しい男になります!」
ラリオさんの問いかけにはっきり断言する。
そうだ、俺はメルが一緒に働いてよかったって思えるような店長を目指すんだ。
自信を持って言い切ったのだけれど、何故か机の下でメルが俺の手をパンパンと叩いてくる。地味に痛い。
何事かとメルを見ると、メルは顔を真っ赤にして上目づかいで俺を睨んでくる。いや、なんでさ。
ラリオさんは本当に嬉しそうに笑うだけ。首を傾げる俺だが、そこからラリオさんとメルと俺の三人で雑談に興じ続けるのだった。
そして、昼前の時間となり、俺たちは館を後にすることになる。
お礼を告げる俺とメルに、ラリオさんは笑って外まで見送ってくれた。
「それじゃリツキ君、メル、また店での」
「はい。いつでも店に遊びに来て下さいね。俺もメルも待ってますから」
「勿論じゃ、嫌と言われても遊びに行くぞい。それとリツキ君、そろそろ新しい艶本の入荷は……」
「ありませんっ!」
俺が口を開く前にメルがはっきり言い放った。
やっぱり孫娘としては、お爺さんのこの趣味は受け入れ難い物があるんだろうか。
苦笑しつつ、俺はラリオさんに別れを告げてメルと店へと戻ろうとした。
そんな俺の背中に、ラリオさんは飄々とした口調で言葉を投げかけてくる。
「ところでリツキ君。貴族の血縁者が必ずしも貴族と婚姻を結ぶとは限らないことはしっとるかの?」
「そうなんですか? いや、全く知りませんでした」
「例えば、力のある商人なんかに嫁ぐことは別に珍しいことではないんじゃよ。時と場合によっては、貴族間の結びつきよりも力が勝ることすらある」
そうなんだ。なかなか貴族社会も色々あるんだな。
そんなことを考えている俺に、ラリオさんはにっこり笑って最後にとんでもない爆弾を投げつけてきた。それはもう、この世界の全てを破壊するほどの爆弾で。
「そういう訳でリツキ君、メルと君の子どもが出来たら、いの一番にワシに抱かせてくれよ。今からひ孫の誕生が楽しみじゃのう、名前も色々考えておかんとの」
瞬間、メルの恐ろしいまでの咆哮が解き放たれた。
あの、なんで俺まで怒られて……ラリオさん、本当に勘弁して下さい。
「よう、リツキに嬢ちゃんじゃねえか」
店へと戻る途中、大通りで声をかけられた。
この気さくかつ荒っぽい声の主は勿論オードナさんだ。
背後を振りかえると、オードナさんとルシアさんが並んで歩いていた。そんな二人に俺たちは挨拶を返した。
「こんにちは、オードナさん、ルシアさん」
「おうよ。その様子だと、どうやら嬢ちゃんは元気になったみたいだな」
「……どうして知っていますの?」
オードナさんの一言に、メルがジト目で俺を見つめてくる。
いや、うん、ごめん、メルが落ち込んでいたこと相談に乗ってもらっていたから知ってるんだよね……縮こまる俺だが、そんな俺の首に腕を回して、オードナさんが豪快に笑って言い放つ。
「まあ、そう怒ってやるなって。リツキがびーびー泣きながら嬢ちゃんを笑わせてやりたいって言ってきたから、大人の男である俺が一肌脱いで力になってやったってだけだ」
「び、びーびーは泣いてませんよね!?」
「泣いてたようなもんじゃねえか。いやあ、嬢ちゃんにも見せてやりたかったぜ、こいつの情けない顔っつったらもう」
酷過ぎる。オードナさん、俺の恥を全面的にメルに暴露してしまった。
その話を聞いて、メルは少し嬉しそうに笑ってくれた。いや、笑ってくれるならいいんだけどね……俺の心の傷と引き換えに、メルが喜ぶならそれでいい、そう思うことにしよう。
ただ、俺を弄り回していたオードナさんに返しの刃を叩きつけてくれたのはルシアさんだった。
ルシアさんはニコニコと笑いながら、メルに声をかけてくれた。
「オードナの話では、リツキさんは本当に必死になってメルさんのために走り回っていたそうですよ。良いですね、そんなに必死になってくれる素敵な男の子が傍にいるというのは。私に仕事を全て押し付けて遊びまわる誰かとは大違いです」
「ちょ、おい、待てよ!? 悪かったって思ってるからこそ、こうして今日は時間を作ったんじゃねえか! いい加減機嫌直してくれよ!」
必死なオードナさんにニコニコしたまま声すら返さないルシアさん。
ルシアさん、強いな……というか、オードナさんもルシアさんには勝てないのか。
思わず噴き出してしまったら、オードナさんから首を絞めつけられてしまった。理不尽だ、人のことは散々弄り倒したのに。メルの助けもあり、何とか解放してもらった。
「ま、何にせよ元気になったなら何よりだ。これからバンバン注文入れていくんだから、気合入れて頼むぜ」
「ありがとうございます!」
「お前らには期待してるんだから、しっかり店を盛りたててリリネコ商店を大きくしていけよ。それじゃあな、いこうぜ、ルシア」
そう言い残し、オードナさんとルシアさんは去って行った。
これまでのこと、詳細を突っ込むでもなく、俺たちの姿を見て満足して笑いながら。
寄り添って歩く二人の姿、それは本当にどこまでも共に連れ添ったという関係の強さが感じられるくらい自然で。
そんな二人の姿を眺めながら、ぽつりとメルは口を開いた。
「……目指したい姿、目標がもう一つだけ増えたかもしれません」
「目標?」
「ええ。私もいつか、あんな二人のように、なりたいなって」
メルの言葉に、俺は共感する。
そうだね。俺もオードナさんみたいな男になりたい。
あんな風に強く、自分を貫いて、頼りがいのあるそんな男を目指せたら。
そのことをメルに伝えると、メルはなぜかそっぽを向いてしまった。
ただ一言、『鈍感』という言葉が胸に突き刺さる。俺、鈍感だったのか……泣かないぞ、泣くのはベッドに入ってコタロが寝てからだ。
昼過ぎに店に戻り、みんなで昼食を取った後、俺たちは倉庫に集合していた。
理由はただ一つ、九十九位に入った褒賞が何なのかをみんなで確認するためだ。
既に倉庫の電気をもらっているので、あくまでおまけ程度なんだろうけれど、どんなものが貰えるのかはやっぱり興味がある訳で。
みんな思い思いに語り合いながら倉庫に向かったという訳だ。
「何がもらえるんでしょう? 商品なのでしょうか?」
「どうかなあ。ネーナの言うように、アウトレット品の可能性が高いけれど、選択式って言っていたのが気になるんだよね」
「商品が何になるにせよ、リツキさんが決めて下さいな。店長なのですから」
「えええ、みんなで決めようよ……相談はありだよね?」
「相談なんかいらんからスパっと決めろ。男らしくいけ」
「兄ちゃん! 僕、食べ物がいい!」
「私も」
『リツキ様が決めたものなら何でも構いませんよー!』
結構投げっぱなしな意見多数、欲望に忠実な子どもたち。
コタロとリラにチョコレートを渡しつつ、俺は早速張り紙の方へと向かった。
どうやら売上ランキングの紙はまだ残っているようだ。もうイベント終わったから要らないと思うんだけど……まだこれを使うことがあるってことだろうか。
そして、売上ランキングの横に、褒賞とやらが書かれている紙が貼り出されている。これに何が良いか選べばいいんだっけ。俺はペンを右手に握りながら、紙面を流し読みする。
そこには日本語で『九十九位の商品は以下の二つから選択となります。欲しい方を丸で囲んで下さい』と書かれていた。そして、最初の選択肢を読んでみる。
・身体能力向上特典! 異世界内でもびっくりされるくらいの身体能力を身につけます! 商売は命が資本! 魔物が跋扈するこの世界では必要不可欠かも! なんと、今なら病気完全ガードのおまけつき!
なにこれ凄い。特に病気にならないという特典が凄い。
それに身体能力が向上したら、朝の準備が楽になるかもしれない。二十キロのツボとか平然と持ち上げられそう。色々と捗るかもしれないね。
こんな凄い物をもらえるなら、ほぼ決定かもしれない。
そう考えながら、次の選択肢を眺めると、そこにはもっととんでもないものがあった。
・倉庫にお風呂とトイレを完備! 異世界で元の世界の生活が恋しいあなたにピッタリ! 倉庫内に温泉施設顔負けの大浴場と水洗式トイレをお付けします! 常に清潔な状態が保たれますので、掃除も要りません! 備品も勿論全て完備、何度でも再生します!(ただし、売り物としての使用はできません)
「リツキ様? どうしました?」
硬直した俺にネーナが声をかけてくれるけれど、俺は返答を返せない。
風呂にトイレ、だって? それはつまり、あったかいアツアツのあのお風呂と、水をジャーと流せる洋式トイレに再会できるってことなのか?
もう冷たい水で体を流したり拭ったり、どう考えても原始式なトイレと紙代わりの植物から作られたよく分からない葉っぱみたいなものとサヨナラできるってことなのか。
いや、待て。落ち着け、俺。よく考えろ、風呂やトイレがないくらい、何だというんだ。
この世界ではそれが当たり前だし、それが普通の生活なんだ。そもそも、そんなものがあったって、一銭の売上にもならないんだぞ。あくまで自分の生活が変わるだけだ。
その点、身体能力向上は素晴らしい。体力があがれば、店の仕事がはかどるし、何より体調不良にならないのは大き過ぎる。一番店にとって困るのは、店員の病気で、俺が体調不良にならないのは確実に俺が働けるということで。
そうだ、こんな選択初めから迷う理由なんてないんだ。みんなが俺に選択肢を任せて、相談はいらないって言ってくれた以上、俺はスパっと決めるべきなんだ。
俺は決意を決め、いざ手を紙に伸ばしながら、みんなに口を開くのだった。
「……ねえ、みんな。『オフロ』と『トイレ』っていう設備について、ちょっと話をしたいんだけど」
仕方、なかった。
だって、お風呂とトイレが、恋しくて恋しくて仕方がなかったから。
倉庫の奥、新たに設置された大浴場からみんなの楽しそうな声が聞こえてくる。
早速倉庫内にできた大浴場に俺を除くほぼ全員が実際に入浴している最中だ。
入浴前に俺ともどもみんなで中を回り、設備の使い方を全て説明した。流石に俺が一緒に入って説明なんてすることもできないからね。
しかし、この褒賞のお風呂は本当に凄かった。どこのホテルの温泉設備だってくらい凄かった。
泡風呂やら薬草風呂やら数々のお風呂に始まり、色んな種類のサウナも完備。更衣室にはマッサージ機まである始末。まさしく、完全な浴場施設だった。
正直に言うと、身体能力強化よりもこっちを選んで本当に良かったと思う。それくらい凄く立派な設備だった。本当に売上競争頑張って良かったと思う。
みんなも説明を聞いている時、凄くワクワクしていたし、何より今こうしてお風呂に入っている声を聞くと楽しそうだしね。騒いでいるのは主にコタロみたいだけど、みんなもワイワイ言っているからよしとしよう。
温かいお湯につかるという概念がこの世界ではあまりないみたいで、貴族でも温めのお湯を使って体を流すくらいらしい。実際にお風呂に入ってみて、みんながこの素晴らしさに気付いてくれるといいな。
「そう思うよね、タヌ子さん」
『全くですー! この湯加減の素晴らしさ、絶対にみんな気に入りますよ! この世の天国ですよ!』
俺の問いかけに、隣でタヌ子さんはハキハキと元気よく答えてくれた。
タヌ子さんは30センチ大になって、俺の横で洗面器に張ったお湯の中に浸かって幸せそうにしている。うん、タヌ子さんも居残り組なんだね、人形だから仕方ないね。
一度、みんなと一緒に等身大サイズで入ろうとしたタヌ子さんだったけど、お湯を吸い過ぎてとんでもないことになったらしい。『体の重力が五十倍くらいになってます! 骨が折れてしまいます!』なんて突っ込みどころ満載の台詞を口にしていたけれど、スルーした。
タヌ子さんだけ入れないのは悲しいので、こうして洗面器にタヌ子さん専用のお風呂を作ってみたら、これならいけるらしい。という訳で倉庫で俺と仲良く並んでみんなを待っている状態だね。
そんな幸せそうなタヌ子さんを眺めながら、俺は息をついて呟く。
「今回は本当に色々あったけど……でもこうして、みんなが楽しそうでよかった」
『ですです! メルさんも元気になりましたし、お店は絶好調ですし、問題無しですよ!』
「そうだね。まだこの異世界のこと、タヌマールのこと、分からないことばかりだけど……とにかく今は、いいかな。タヌ子さん、本当にお疲れ様」
『はい! リツキ様もお疲れさまでした!』
俺はタヌ子さんと笑いあって、今までのことを振りかえる。
今回はメルのことを中心に、本当に色々あったけれど……今はこうしてみんなが幸せそうに笑いあってくれているから、それでいいかなと思う。
まだまだ分からないことばかりで、考えなきゃいけないことは山積みだけど、それもきっとみんなと一緒なら一つ一つ解決していけると思うから。
だから、これからも頑張っていこう。みんなと一緒に、このリリネコ商店で。
『あああ! 今気付きましたけれど、私リツキ様の前で裸ですよ!? 思いっきり裸で入浴しちゃったりしてますよ!?』
「ああ、うん、そうだね、それは大変だね」
『きゃー! リツキ様のえっちー! 辱められました! 私、もうお嫁にいけません!』
「ああ、うん、そうだね、それも大変だね」
メルの言葉じゃないけれど、みんなと一緒なら、きっとどんな困難も乗り越えられると信じているから――ね。
これにて第三部は終了となります。
ここまでお読み下さり、本当に本当にありがとうございました!
次は第四部となるのですが、続きを書く前に、ちょっと更新お休みになります。申し訳ありません!
以前どこかで書いたかもしれませんが、ちょっとアイテムの増加設定に減少の方向で全面的に手を加えるのと、現時点で分かっているルールを明記しようと思います。今はちょっと色々分かりにくいので、その辺りをまとめてしまうつもりです!
ここまでの物語の中で登場したアイテムが減ったりすることはありませんので、物語に変更はありませんのでご安心くださいませ! アウトレットの物語のバージョンが1.01になるみたいな感じです!
来週には四部『騒動・騒乱・鍛冶娘編』が開始できるよう頑張ります。
これからもアウトレットを何卒よろしくお願いしますー! 本当にありがとうございました!




