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18.ここから全てが始まるんだな

 




 気を失った奴隷商人を一人残らず倉庫に放り込み、俺たちはバギーで街へと引き返した。

 もう二度と再犯させないように、こいつらはきっちりと衛兵に突き出さないといけないからね。

ルシエラが奴等を倉庫内で監視して、目覚めそうになれば再びシャベルを振り下ろして気絶させるという悪夢を繰り返していたそうだけど、俺はバギー運転していたから詳しくは見ていない。自業自得とは言え、哀れだ。


 街に到着して、衛兵に倉庫から叩きだした奴隷商人を付きだすと即座に縄で縛りあげてくれた。

 どうやら、リラが攫われて俺がぶん殴られる現場を見て通報してくれた人が何人もいたようで、衛兵に事情は通っていたらしい。本当に助かった。

 流石に目の前で浮く倉庫に驚いていたけれど、『魔法です』の一言で納得してくれた。まさに魔法の言葉、魔法って便利だ。

 犯人を連行する衛兵に、リラやコタロが異国から連れてこられた被害者で国に戻したりしてあげられないか訊ねてみたけれど、首を振って無理だと言われた。


『可哀想だけれど、私たちにはどうすることもできない。この地に住む半獣たちと同じく、永住して貰うしかない』


 国同士で協力して犯罪に対処し、被害者を国に返してあげる元の世界がどれだけ恵まれていたのか痛感させられた。

 コタロとリラのことは、国に頼らず自分たちでなんとかしてあげるしかない。

 ……最低だと思うけれど、少しホッとしてしまった。まだコタロやリラと今すぐに別れずに済んだことに、少なからず喜びを感じている自分がいて複雑だ。兄ちゃん、心弱くてごめんな。

 

 事件が一段落したので、次は俺の治療のために魔物討伐斡旋所へと向かうことになった。

 なんでもそこには専属の医者がいるらしく、俺の頭を診てもらえとルシエラが言ってくれた。たんこぶにはなって少し切れているけど、そんなに重くないんだけどな。

 魔物討伐斡旋所までの道中、リラが俺から何故か離れようとしなかった。

 ネーナ相手にそうなるのはいつものことだけど、俺相手にこうなるのは珍しい。

 そんなリラを見て、ネーナは嬉しそうに微笑みながら『リツキ様はリラにとって王子様なんですよ』とのこと。あの、王子さま、ルシエラの背後に隠れてびびってただけですけども……まあいっか。


 その魔物討伐斡旋所の前までいくと、なぜか討伐者の皆さんが集まって、歓声で俺たちを出迎えてくれた。いや、なんでさ。

 もみくちゃにされて『よくやった』だの『格好良いじゃねえか』だの『それでこそ男だ』だの『さすが俺たちの店長だ』だの、意味不明な賞賛の嵐を投げかけられ続けた。

 今にも胴上げが始まりそうな空気に頭を傾げていると、討伐者を代表してベルマーダさんが理由を教えてくれた。『ルシエラを連れていくときに事情を全て話していたじゃねえか』と。そうだった……

 頭から血を流しながら『攫われたリラを救うために力を貸してくれ』と『召喚獣』に乗って叫ぶ俺の姿は、自分の身を犠牲にしても幼子を救おうとするまさしく勇敢な姿だったそうだ。召喚獣ってなんですか、バギーは獣に入るんですか。

 無事リラを救いだして戻ってきた俺は、賞賛に値する勇気ある人間だと……やばい、死にたくなる。ルシエラの背後に隠れて『ルシエラさんお願いします!』なんて思っていただけなんて、口が裂けても言えない。


 そんな討伐者の皆さんをルシエラが道を開けろと一喝し、俺は彼女の手で強引に医者の元へと送られた。診察して一分、美人医師から一言、『怪我にも値せん。その程度で来るな』。ですよね。

 頭に変な薬を塗りつけられて早々に放り出され、それから俺たちは宿ではなく飲み屋へと連れて行かれることとなった。討伐者の陽気な皆さんたちが飯を奢ってくれるらしい。

 ……まあ、コタロとリラもいい加減お腹が空いているだろうし、好意に甘えるとしよう。

 背中をバシバシ叩かれながら、俺たちは笑いあって飯屋へと向かうのだった。討伐者の人たちって、本当に気持ちが良い人多いんだなあ。










 翌日から当然、リリネコ商店は営業再開だ。

 頭の怪我が微塵も大したことなかったので、俺たちはいつものように早朝開店。

 ただ、その事件以来、お客さんの空気が一気に変わった気がした。

 みんな以前以上に気さくに話しかけてくれて、世間話なんかはしょっちゅうだ。

 売り上げも絶好調、それから一週間はうなぎのぼりの売り上げだ。

 一日平均八万リリルはいけるようになり、本当に嬉しい悲鳴ばかり。

 そんなことを今日訪れていたベルマーダさんとパンの販売ついでに会話をしていた。せがんできたリラを肩車して、コタロを撫でながら……リラ、本当に軽いね。


「あの日以来、本当に嬉しい悲鳴ばかりで。討伐者の皆さんも気軽に色々話してくれますし、ありがたいことです」

「はっはっは! 良いことじゃねえか! 昔、ウチの親父も言っていたぜ? 商売人にとって何より大事にしなきゃいけねえのは人とのつながりだってな」

「人のつながり、ですか?」

「そうだ。商売人ってのは結局のところ、人間同士が顔を突き合わせて物を売り買いするもんだろ? 売っている物がいくら良くても、それだけなら客は何度も足を運ばねえよ。今回の事件は店にとって大きな意味を持つと思うぜ?」


 ベルマーダさんの言葉の意味が分からず、頭に疑問符を浮かべている俺。

 頬をリラからぺちぺちされている俺に、ベルマーダさんは笑って説明してくれた。


「カグラリツキって店主の人間性が伝わった。あの状況で必死に『気張れる』こいつの店なら、何度も足を運んでやりてえって思えた。客を引き付けるのは店の品物だけじゃねえ、店やお前を好きだと言ってくれる客とのつながりが何よりの武器になる時だってあるんだ。それを頭の隅に置いておくといいんじゃねえか? まあ、俺は商売人じゃないけどよ」


 ガハハと豪快に笑うベルマーダさん。その言葉が全て胸にしみる。

 商売は物を売ればいいって訳じゃない。いくら物が良くても売れないことは身を以って思い知った。

 商売とは物の売り買いだけじゃない、お客との心のやりとりの場でもあるんだ。

 『この店が好きだ』『この店員が好きだ』と思ってもらい、何度も足を運んでもらうために商売人は多大な努力をする。形に見えない成果『人とのつながり』を得るために。

 人の想いは何より大きな武器になる。それを大切にするために商売人はあの手この手で奔走するんだ。目先のお金よりも大切なものを得るために。

 そういう意味では、今回の事件は大きかったのかもしれない。お客との心の距離がぐっと縮まった意味でも、不幸な事件の中で確かに得られたものがあったのかもしれない。

 俺はぺちぺちと頬を叩き続ける小さな女神様に感謝しつつ、傍で笑ってくれているネーナに語りかけた。


「本当、お客を大切にしないといけないね。店舗を借りて場所が変わることになっても、足を運んでもらえるくらいに店を好きになってもらえるように」

「そうですね、私もそう思います」

「なんだお前ら、店をここから別の場所に移すのか?」


 頑張ろうと意気込みあっていると、ベルマーダさんが横から訊ねかけてくる。

 興味深々な様子なので、隠す内容でもないと俺たちは店舗のことを話した。


「いつか店を持とうと思っているんですよ。今はメロンパンやチョコレートだけですが、本当はもっと別に売りたい商品が山ほどあるんです。流石に露店で並べるには数も多過ぎて」

「そう言えば、ルシエラの武器はリリネコ商店で買ったとか言っていたな……」


 そう言いながら、ベルマーダさんはルシエラに視線を向ける。

 腕を組んで瞳を閉じるルシエラ、その腰にはスコップとシャベルが下げられている。どう見ても工事現場で働いているようにしかみえないんだけど……


「そんな訳で現在借り店舗を探して商人組合を当たっているんですよ」

「その感じだと色良い返事はねえみたいだな」

「なかなか良い条件がなくて……」

「それじゃ、俺と交渉の余地はあるってことだわな」

「へ?」


 ニカっと笑うベルマーダさんの言葉に俺は変な声を出してしまった。なんだ、交渉って。

 ベルマーダさんの後ろに来た別のお客さんにメロンパンを渡してお金を受け取る俺に、快闊そうに笑ってベルマーダさんは話を続けた。


「前に言わなかったか? 俺の親父とお袋は商売人で店を持ってたってよ。もっとも、二人とも店を畳んで農村で隠居しちまったけど」

「そういえばそんな話をしていたような」

「後を継ぐより、俺は討伐者になりたかったからな。二人も俺に継がせる気なんて鼻っからなかったようで、店だけ俺に遺産として渡されたんだよ。売り払っても良いって言われたんだが、俺の生まれ育った思い出の家を他人に売り払うのも躊躇っちまってな。貸すにしても良く分からん商売人には渡したくねえしよ。けど、お前らなら話は別だ」


 どんな人間かも理解しているし、何よりルシエラが気に入ってる奴等だしよ。そうベルマーダさんは言い切った。

 お客のベルマーダさんにそこまで気に入ってもらえたことは本当に嬉しいことだ。

 そして、ルシエラって本当に討伐者に尊敬されてるんだなあと感嘆する。強いし格好良いし、凄いね、本当に。


 ただ、これは本当に大きなチャンスだ。どこに店があるのかは分からないけれど、リリネコ商店の拠点を構えられるかもしれない。

 メロンパンやチョコレートで築き上げた地盤、それを元に本来の目的だったアウトレット品の販売に乗り出せる。ネーナも少し緊張しているのか表情が強張っている。

 俺も胸がドキドキしている。コタロとリラに勇気をもらいつつ、気合を入れて俺はベルマーダさんとの交渉に乗り出した。


「ベルマーダさんさえよければ、是非とも交渉をさせてください。よろしくお願いします」

「乗り気で何よりだ。条件なんだが、二階建てで一階が店部、上が居住施設だ。下は大きな一部屋、上が七部屋くらいだったか? だいぶ家に入ってねえからな、埃だらけだろうってのはお墨付きだぜ」


 大きい。七部屋も居住区があるってことは、かなり立派な店だぞこれ。

 とりあえず、月の予算として家賃に二十万リリルを算出する。今の稼ぎなら、これくらいの予算はいけるはずだ。

 俺はネーナに視線を向け、左手の指を二本立てた。限度二十万までいけるだろうかという意味だ。

 その問いにネーナは指を三本立てて応えた。三十万までいけるのか。

 予算管理のネーナが言うなら間違いないんだろうけれど、そこまで出せるくらい良い物件だと判断したんだろう。これなら多少僻地でも悪くない条件だ。

 ネーナと意見をすり合わせ、俺は早速ベルマーダさんに語りかけた。


「とても良い物件だと思います。あとは実際に見て判断したいと思いますが、とりあえず俺たちの予算の限度額として月三十万リリルまでとなります」

「三十万も要らねえよ。五万でいい」

「五万!? いや、そんな馬鹿な。それじゃ破格過ぎますよ」

「その代わり条件がある。もし、ルシエラの持っているような面白い武器を仕入れたら、真っ先に俺と交渉すること。どうだ?」


 ……なるほど、値引きの対価はそういうことか。

 どうやら、ベルマーダさんはルシエラのシャベルとスコップに心惹かれているらしい。ホームセンターにいけば数千円で買えるんですけど、それ……

 ただ、これは俺たちにとって悪くない……むしろ最高の条件だ。

 店を手に入れ、家賃も恐ろしく安い。それに加え、今後シャベルやスコップみたいな品物が追加されたときに、いの一番で交渉してくれる顧客を得ることができるのだから。

 俺たちにとって得しかない条件だ。俺はネーナに視線を向けると、彼女はコクコクと何度も頷いてくれた。乗るべきだ、この話は。

 結論を出して、俺はベルマーダさんに答えを出した。


「分かりました。実際に店を見ての最終判断となりますが、前向きに考えさせて下さい。家賃は五万リリル、そして武器の販売はベルマーダさんを一番の交渉相手に、販売時は定価よりも大きく割引させて頂ければと思います」

「いいのか? 俺としては助かるし嬉しい限りだが」

「五万リリルまで下げてもらえたんです、こちらも誠意で返させてください。それが人とのつながりってものでしょう?」


 ニッと笑う俺に、ベルマーダさんが豪快に笑う。コタロがそれを真似して笑う。可愛いね。

 みんなが笑顔になったところで、俺たちは今後のことを話し合おうとしたのだけれど。


「それでは、今日の営業が終わり次第、そのお店を拝見させてもらってもよろしいでしょうか。内部を確認して、最終決定を……」

「確認なら今すぐすればいいじゃねえか。店はルシエラを店番にしてればいいだろ」

「いえ、流石に遠くまで離れる訳には」

「遠く? 何言ってんだ、店ならすぐそこにあるだろうが」

「は……?」


 そう言いながら、ベルマーダさんは道の向こうにある一件の建物を指差した。

 それは二階建てで、魔物討伐所にも負けないくらい大きな建物だった。

 唖然とする俺とネーナに、ベルマーダさんはしてやったりといった笑顔で語りかけた。


「さあ、見てもらおうか? 徒歩十秒、魔物討伐斡旋所前、商人組合の連中には断固として譲らなかった俺の城をよ?」


 そのときのベルマーダさんの笑顔は、コタロにも負けないくらい子供のような笑顔だった。

















 翌日からの二日間、リリネコ商店は朝だけの営業となった。

 午前中に営業を行い、お客に新店舗開店の告知をし、午後からはその準備に追われた。

 手入れをされていない店舗の大掃除に、二階の居住区に住むための生活用品の買いだし、そして店舗に倉庫内のどの商品をどのくらいの価格で並べるかの話し合い。

 開店準備は本当に忙しく、ルシエラの手すら借りてしまうほどだった。コタロとリラも元気よく家の掃除を手伝ってくれた。


 その甲斐あって、二日目の夜にはなんとか全ての準備を終えることができた。

 一階の店舗にとりあえずの商品を並び終え、俺は安堵の息をついた。

 ネーナたちは既に二階で夕食の準備を進めてくれている。台所もあったので、ネーナとルシエラが料理をしてくれている。

 ……意外なようだけど、料理はネーナよりルシエラが遥かに上手いらしい。ネーナは料理をほとんどしたことないらしく、ルシエラにイロハを教えてもらっているとか。ルシエラが飲み込みが早いと昨日褒めていた。


 夕食の準備が整うまでの間、俺は倉庫内の最後のチェックを終わらせる。

 棚卸や整理も終わり、倉庫内は種類ごとに商品が綺麗に並べられている。

 それらを眺めながら、俺は軽く息をついて一人つぶやいた。


「ようやく始まるんだな……このアウトレット品を用いた、異世界での商売が」


 メロンパンとチョコレートだけじゃない、本当の意味での商売。

 これらを売り抜いて、十億を貯める。それが元の世界に戻るための条件。

 それが本当かも分からないし、今はコタロとリラを親元に返すことでいっぱいでそんな気もさらさらないけれど。

 この世界に来た時のことを思い出しながら、俺は苦笑交じりにつぶやく。


「十億か……本当に途方もない数字だけど、みんなとならやれるかもしれないね」


 一人だったら早々に諦めたと思う。

だけど、みんなと一緒なら達成できるかもしれないと思えるから不思議だ。

 ネーナと、ルシエラと、コタロと、リラと。

 もし、コタロとリラの件が落ち着いたら、十億を目指して頑張るのもありかもしれない。

 いや、落ち着いたら二人はいなくなっているんだろうけれど……そのときは、二人の故郷で商売をするのも楽しいかもしれないね。そう思えるくらい、今の俺はみんなと離れたくないと感じてしまっている。

 もっともっと、みんなと一緒に過ごしていたい。

 この右も左も知らない異世界で出会えた、大切な家族と一緒に楽しみながら。


 そんなことを考えながら、俺は倉庫内を歩き回る。

 そして、壁に貼り出された紙が目に入り、そちらへと歩いていく。

 元の世界に戻る条件が書かれた紙。しまった、全然チェックしてなかったな。

 追加の連絡事項等があるときはここに書きだされるって書いていたけど、一カ月何も見てなかった。忙しかったから仕方ないね。


 頭を書きながら、俺は紙面に目を走らせた。

 書かれているのは以前と同じ注意事項と十億までの残り額。うん、以前と同じだ。

 そう思っていると、一番下に新たな項目が加えられていたことに気付く。そこには以下のように書かれていた。






・経過日数 三十日


・現在の売り上げ順位 188位/1000人 (同順位0人)






「なんだ、これ……」


 紙面に書かれている数字の意味が理解できず、俺は眉を顰めることしかできなかった。

 胸の中の言いようのない靄がかったものが、まるでこれから先に巻き起こる動乱を予感させているようで。

 ネーナが夕食ができたと呼びに来てくれるまでの間、俺は紙面とひたすらにらめっこを続けるのだった。










 現在の所持金:105万4200リリル


 10億リリルまで残り:9億9894万5800リリル





 

 

これにて第二部『出店奔走編』は終わりとなります。

次話から第三部『売上順位争乱編』が開始となります。

やっとアウトレット品販売のための前準備編が全て終わり、本当の意味での物語開始となります。これからも何卒よろしくお願いいたします!


また、二部で入手したアウトレット品のまとめは明日最新話と一緒にアップいたします。


 

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