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お嬢様の試験(前篇)

少し間が空いてしまいましたが、いよいよ依頼の内容に入る……かと思いきや、その前にひと推理、依頼人から仕掛けられてしまったようです。

 姫幸先輩と鈴笠を追いかけて僕らが事務所を出ると、そこには銀色のワンボックスカーが停まっていた。

「乗って」

 どうやら、彼女たちが先に出ていったのは、車を回すためでもあったらしい。うちの事務所、それから一階の喫茶店でも専用の駐車場など設けてはいない。だから、大方近くのコインパーキングにでも駐車しておいたそれを、取りに行く必要があったのだ。

「ありがとうございます」

 お礼もそこそこに、僕たちは素早く乗車する。あまり長い間ここに停めていては、店の迷惑になるからだ。

「姫さんって運転できたんですね。知らなかった」

 よせばいいのに、車が走り出して早々、とても失礼なことを飄々と言ってのけたのは、しーちゃんである。つまみ出されないかと内心、少しひやひやしたが、先輩も大人になったのか、

「当然。だって日本って暑いし寒いじゃない」

とさらりとカーブミラー越しに応じるだけだった。

「成程」

 いかにも姫幸先輩らしい理由で、僕も思わず苦笑する。そして、どうせ車中じゃこれ以上仕事の話は聞かせてもらえないと思ったので、代わりに気になったことを口にした。

「ところで、いつものビートルはどうしたんですか」

 先輩の愛車=黄色のビートルというイメージだったので、僕はまずそこに違和感を覚えたのである。しかしそれも、とても事務的な理由だったようで、

「あれだと荷物が入らなくって。一応、セキュリティに関しての相談も受けてるから」

という至極真っ当なものだった。

「だから、しーちゃん。後ろの荷物触っちゃだめよ」

「は、はーい」

 運転しながら僕と会話しつつ、しーちゃんの行動にまで目を配っているとは。流石の彼女でも、姫幸先輩には敵わないようだ。


「さぁ、着いたわ。ここよ」

 意外と安全運転の姫幸先輩が運転する車に乗せられて、数十分。辿り着いたのは、大きな黒塗りの門だった。僕らはその大きさに圧倒されていたが、先輩は慣れたもののようで、十分に門に、正確にはその真ん中に設置されたインターホンに近づいてから、運転席側の窓を開ける。

 すると、いかにも使用人らしい初老の男性の声が聞こえた。

「ようこそいらっしゃいました、廣野様。本日はどのようなご用件でしょうか」

 この会話から察するに、どうやらこのインターホン、音声だけではなく、カメラもきちんと取り付けてあるようだ。

「こんにちは、山岸さん。お嬢様に例の件で。信頼できる探偵を連れてきたと、お伝え願えるかしら」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 すると、ブツッ、と一旦電源が切れる音がした。そのまましばらく待機していると、

「お嬢様はすぐお会いになられるそうです。どうぞ、お入りくださいませ」

門が内側に開き、僕たちは中に入ることを許された。


「広っ……」

「予想はしてたけど、まさかここまでとはね」

 車を降りると、そこからは壁しか見えないほどの巨大な屋敷が鎮座していた。さて、今回の依頼人はどれだけのお嬢様なのだろうと思考を巡らせようとすると、

「そりゃあ、天下の高峰(たかみね)財閥のお屋敷だもの。これでも狭いぐらいじゃない?」

あっさりと答えが返ってきてしまった。っていうか、

「たかっ」

「みねっ」

「あれ? 言ってなかったっけ」

そんな重要なことを言い忘れるなんて。皆から世間知らずといわれる僕でさえ知っている、超有名財閥の名前を、改めて姫幸先輩は、依頼人の名前と共に口にした。

「今回の依頼主、華蓮(かれん)さんは、あの高峰財閥のご令嬢だよ」


 先輩はいつの間にか、ロングスカートにパンプスという、清楚な出で立ちに変わっていた。おそらく、運転するときに靴を履きかえ、ついでに車の中でスカートだけ、くるりと腰に巻いてきたのだろう。それだけ、流石の先輩でも気を遣う相手ということか。

 先ほどの執事、山岸さんに案内され屋敷の中に入ると、流れるような長い黒髪の、美しい女性が僕たちを出迎えてくれた。

「姫幸! よく来たわね」

「こんにちは、華蓮さん」

 どうやら彼女が、今回の依頼人らしい。どちらも淡い色で統一された、品の良いブラウスとひざ丈のスカートを身にまとう彼女は、高校生と聞いていなければ社会人と見まごうほどに大人びている。……まぁ、今そのお嬢様と抱き合っている本物の社会人が、姫幸先輩だから仕方がないのかもしれない。

それにしても、出会って早々に抱き合う姿を見て、僕たちは戸惑いを隠せなかったが、

「彼女は帰国子女だそうだよ」

「へぇ」

という鈴笠の言葉で納得がいった。親友でもなければそんなことはしないだろうと思ったのだが、ようは挨拶をしただけなのである。しかし、お嬢様は女性にしては背が高いようで、それでなくとも小柄な姫幸先輩とでは、まるで親子のようだった……ということは、心の中だけに留めておこう。

「じゃあ、こちらの方が」

「ええ。私が一番信頼する探偵よ」

 ようやく挨拶が終わったのか、僕を紹介してくれる気になったようだ。

「参道潤です」

「助手の八柳です」

「ごきげんよう。高峰華蓮と申します。華蓮で結構ですわ」

 僕たちが一礼すると、彼女も礼で返してくれた。けれどもその所作は比べ物にならないほどに優雅で、育ちの良さを感じさせる。

「まぁ、立ち話もなんですから。どうぞ、お入りになって」

 日本人根性で靴を脱ぎかけたのをぐっとこらえて、僕らは応接間に通された。


「早速ですが、潤。私、まだあなた方を信用したわけではありませんの」

 そばに控えているメイドさんが用意してくれた紅茶を一口含んでから、とても歯切れよくお嬢様は言った。

「気を悪くされないでね。どうしても疑り深くなってしまって」

「いえ、慣れていますから」

 探偵というのは信用されない商売であると、僕自身痛感している。それよりもむしろ、この若さでこれだけ慎重であることの方が驚いた。彼女も案外、苦労しているということなのだろう。

「それで、少しだけ、試させていただけないかしら」

「喜んで」

 安心したように微笑むと、お嬢様は本題に入った。

「姫幸から依頼内容については、どこまでお聞きになられているのかしら」

「贈り物の依頼主を探せ、としか」

「それは上々。口止めしておいた甲斐がありましたわ」

 口止め、となればそれが差す人物は一人しかいない。姫幸先輩の方を見ると、

「ごめんね、潤ちゃん」

と舌をぺろりと出していた。彼女があまり多くを語らなかったのは、依頼人の指示でもあったようである。

「私からの試験は、こうですわ。今からあるお部屋に行っていただきます。そのお部屋にあるものだけで、今回私が何に気を悩ませているのか、見事推理してくださらないかしら」

「分かりました」

「制限時間は三十分。その後こちらへお戻りいただき、そして私にあなたの推理を聞かせてください」

 三十分、か。このお嬢様、なかなかにシビアなのかもしれない。それとも、見ればすぐに分かるようなものなのだろうか。

「あとは彼女から……。園宮」

「はい、お嬢様」

 どうやら、そばに控えていたメイドさんは、園宮さんと言うらしい。年は三十代前半、といったところだろうが、淀みない立ち振る舞いにはそれ以上のキャリアを感じる。

「あの部屋に案内して差し上げて」

「かしこまりました」

「では、ご健闘を」

 お嬢様に見送られ、僕としーちゃんは応接間を後にした。


「こちらです」

「うわぁ……」

 長い廊下を抜け案内された部屋は、アンティークの家具と色とりどりの鮮やかな花、帽子や鞄、服に宝石が展示してあるかのごとく並べられていて、そう、まるで洒落たブティックのようだった。

「素敵なお部屋」

「ありがとうございます」

 しーちゃんの心からの称賛に、園宮さんも微笑んで応じる。

「こちらはお嬢様のお部屋の一つになります」

「ということは、華蓮さんのお部屋は、他にもいくつかあるんですか」

「それは申し上げられません。何が手掛かりになるか分かりませんので、ご容赦を」

 けれどもやはりこの人、お嬢様の身辺を任せられているだけはあって、一筋縄ではいかないようだ。仕方がない。ここはお嬢様に従い、彼女から与えられるヒントだけで、謎を解き明かすことにしよう。

 僕が情報収集を諦めたのを確認してから、園宮さんはルール説明を始めた。

「先ほどお嬢様がおっしゃったように、お二人にはこの部屋に入っていただき、そしてお部屋にあるものから推理を組み立てていただきます。勿論、お部屋のものには触れていただいて結構ですし、引き出しの中も開けていいと、お嬢様から許可をいただいております」

 成程、ルール自体には特に変わったことはないらしい。けれども園宮さんは、ここからが重要だとばかりに、口元を引き締めてから、言った。

「ただし、あまり無暗に引っ掻き回すような真似は控えていただきます。こちらはあくまでも、お嬢様のお部屋ですので」

「それは勿論。分かっています」

「私の希望としては、出来れば包みを開くのも遠慮してほしいですわ。特に、八柳さんとおっしゃいましたっけ。あなた」

「ひゃ、ひゃい!」

「よろしくお願いしますね」

「……はーい」

 どうやら、お嬢様のルールに彼女が、おそらく使用人の域を超えてわざわざ付け加えたのは、目をらんらんと光らせるこの子猫がいたづらをしないように、忠告するのが目的だったようだ。しーちゃんが大人しくなったのを見て、園宮さんは話を続ける。

「当然のことながら、こちらにはお嬢様があなた方を混乱させるために、今回の件とは全く関係ないものも置かれています。けれども、例えば隠し扉や隠し金庫、そのようなものはありません。お嬢様は誠実なお方ですから、そんな無作法なことは致しません」

 最後の注意は、だから部屋を引っ掻き回すなよ、ということなのだろう。念には念を、ということなのだろうが、それにしても一発でしーちゃんの本質を見抜くとは。やっぱりこの人、只者ではない。

「また、失礼とは存じますが、お荷物も預からせていただきます。メモにはこちらをお使いくださいませ」

「はーい」

 部屋を荒らさない、という条件が出ていた時点で、なんとなく想像はついていた。園宮さんならきっと、写真を撮られることにも苦言を呈すだろう、と。それに、外部の人間が入るということは、万が一にも盗聴器やカメラ等々を仕掛けられる危険性がある。それらにも気を配るためにも、予め手ぶらにしてしまった方が手っ取り早い。

 しーちゃんと僕の鞄をそれぞれ丁寧に回収してから、彼女は居住まいを正しこう告げる。

「お嬢様から言付かっていることは、以上です。ご質問は」

「では、一つだけ」

「何なりと」

「こちらには華蓮さんの所有物しか置かれていないんですよね」

「その通りですわ」

 僕の質問を受けて、再び彼女はふわりと笑みをこぼした。良い線だということなのだろう。

「それでは、念の為鍵をかけさせていただきます。三十分後、お迎えに上がります」


 ガチャリ。鍵がかけられたのは、十一時ちょうど。

「さて……」

「所長、では何から始めますか。この部屋にある物のリストでも作りますか」

 普段はパソコン作業が中心のしーちゃんだが、だからといってアナログ作業を面倒がるような娘ではない。気合十分に先ほど渡されたペンとメモ用紙を握りしめている。ちらりと伺うと、メモ帳にはもうリストアップしやすいように、簡単に罫線が書かれていた。

「そうだね」

「分かりました。では早速」

 そう言って、いの一番に手近な木製のチェストの引き出しに手をかけるしーちゃんを、僕は制した。

「待った」

「はい?」

「僕の考えが正しければ、きっと引き出しの中やクローゼットの中には、今回のヒントはない。だから、部屋に入った今、この状態で見えるもの。それだけをリストアップしていこう」

「そ、そんな、最初から絞って、大丈夫ですか」

 しーちゃんは不安そうに僕を見る。彼女がそう思うのも当然だ。何故なら人間心理としては、自分にとって大切な物ほど、見つからないような場所に隠すのが道理なのだから。しかし、あのお嬢様は違う。

「今回の依頼人は、僕たちを試す目的でこの勝負を挑んできている。ということは、もしも万が一にも、僕らがヒントとなるものを見落とす、なんて事態は避けたいはずだ。三十分という制限時間から見ても、間違いない」

 とはいえ、今見えている分の物でも、全てを把握するには結構な時間を食うことになるだろう。

「十五分。この間にリスト作成、残りでなんとか推理を組み立てる。しーちゃん、やるよ」

「あいさー!」

 この時点ですでに二分経過。残りは二十八分。僕らは手分けしてリスト作成を開始した。


「お、終わりました……」

「ご苦労様。ありがとう」

 僕が品名と個数を伝え、しーちゃんがただひたすらにそれを記録していく。言う方はまだ楽だが、書く方の負担は半端ない。それにもかかわらず、彼女はほとんど僕が話すペースそのままに、十五分間ずっとペンを走らせてくれた。

「さ、流石に疲れました……」

 速記は比較的得意のはずだが、よっぽどこたえたのか、手首をプラプラとさせている。こりゃ、今度何かおごってあげないと。

「でも、なんだか統一感はないですね」

「そうなんだよね」

 この部屋にあったもののリストは、以下の通りだ。

・生花(一輪挿しの花瓶三十本分) 計四十三本

・ドライフラワー(栞、リースなど) 計百オーバー

・洋服 マネキン三体分

・和服(一式)

・鞄 九個

・帽子 八個

・アクセサリー類(指輪、ネックレス等) 二十四

・飾り箱(中身は手紙) 十二個

 リスト化する際にはもっと細かく記述したが、まとめてしまえばやはり、大した量ではなかった。加えて、しーちゃんが言うように、これらの関連性はあまりなさそうに思える。

「ということは、やっぱりこの中のどれか一つが、って考えた方がいいのかな」

「そうですね。除外できそうなのは、洋服や鞄、アクセサリーでしょうか」

「アクセサリーと鞄は同意。学生においそれと用意出来る訳じゃないもんね」

「そうですね。捜索範囲が学校で、それもお嬢様学校となれば、部外者ではなく内部犯。我々に依頼してきたことから鑑みて、おそらく生徒の可能性が高い。で、合ってますか」

「そうだね。僕もそう思うよ」

 助手の成長を感じつつ、しかし一つだけ腑に落ちなかったので、そこに関して口をはさむ。

「でも洋服って、ピンキリだから、学生でも良いのかなとも思ったんだけど。あれかな。やっぱりかさばるし、隠す場所もあるし、除外かな」

「甘いですね、所長」

 すると、にやりと指を一本立てて、得意気にしーちゃんは言った。

「ここにあるお洋服、さっきちらりとタグを拝見しましたが、どれもなかなかのハイブランドのものばかりです。流石に鞄ほど値は張らないと思いますが、それでも諭吉さんはパタパタと飛び去ってしまわれるでしょう」

 よ、洋服って、そんなに高いのか。軽くカルチャーショックを覚えつつも、一瞬でタグまで確認するその注意力には舌を巻く。僕が驚いているのを後目に、彼女はさらに畳みかける。

「あと、よっぽど親しくないと、お洋服って贈りづらいですし」

「え? 女の子って洋服好きじゃない。おそろいのとか買ったりするし。好みなんて、見てれば分かるんじゃ」

「所長、女性服のブランドがどれだけあるか、ご存知ですか?」

「成程」

 これは完全に僕の考え不足だった。種類が多いという点においては、女性の洋服は男性物の比ではない。選ぶだけでも一苦労だろう。

「それに、普段着ているものをよく知っているならまだしも、彼女たちは学生ですから、制服姿しか見慣れていないはずです。そんな相手にお洋服贈るなんて。あと、贈られた側も気味悪くてとっておけないと思います」

 まぁ、サイズが分からないと贈っても意味がないというのもありますけどね。そういう意味でも、かなり近しい間柄の人でないと、としーちゃんはそう付け加えた。女性の視点は、こういうところで参考になる。僕なんか昔は、親が買ってきてくれた服を着せられていた立場だから、そういうところには鈍いのかもしれない。

「確かに、それはそうだね。じゃあその理論で行くと、身に着ける物は除外できそうだ」

「残ったのはお花と、お手紙ですか」

「どちらもプレゼントとしては、ベタだよね」

 部屋に最初入った時からなんとなく、そんな予感はしていた。しかし、いざ他の可能性を消してみると、ここからの絞り込みの難しさに気付く。

「それに、お花もまだ萎れていないということは最近のものですし、お手紙も消印がないものばかりでしたから、判断は難しいです」

 せめて中が見れればなぁ、と彼女は呟くが、園宮さんから念押しされていなくとも、それは人としてやってはいけない。個人的なやり取りほど、見てはならないものもないだろう。

『うーん』

 おそらく、どちらかなのだ。しかし、決め手に欠ける。

「何か、何か足りない……」

 僕らが見落としているものが、何かあるはずなのだ。ちらりと時計を見ると、時刻は十一時二十五分。タイムリミットまで、あと五分だ。

「まぁ、不自然な点がないわけでもないんですけどね」

「そうだね。手紙の差出人は、おそらく同一人物だし」

「え、どうして分かるんですか」

「あのイラストだよ。描いてあるものは違うけど、タッチが同じだ。それが何を指すのかは、まだ分からないけど」

「ああ、あのサーカスみたいなやつですか?」

 サーカス? はて、そんなもの、書いてあっただろうか。

「僕が見たのは、女の子とか、動物とかだったと思うんだけど」

「そういうのも勿論あったんですけど……あー、もう。持ってきた方が早いですね」

 しゅばばっと、風を切る音が聞こえてくるようなスピードで、しーちゃんは迷うことなく、家具の上に置かれた飾り箱のいくつかから、手紙を取り出した。

「ね?」

「本当だ」

 そこにはボールやボーリングのピン、ブランコなど、確かにサーカスを彷彿とさせるようなイラストが描かれた手紙があった。どうして気が付かなかったのか。

「ね、不思議でしょう? 全然系統が違うから、差出人は複数人いるものかと……所長?」

 このイラストは、彼女の日記のようなものだ。どこで誰と遊んだ、今はどんなことをしている、といった具合の。そして、これらを満たす人物を、僕は一人だけ知っている。

「……世間は狭いねぇ」

「え?」

「この手紙の差出人が分かったよ」

「なんと! じゃあ、お嬢様を悩ませる贈り物とは!」

「花の方だね。おそらく」

「そうですよね。おかしいと思ってました」

「どうして?」

「だって、普通、あんな活け方しないですよ」

「そうだよね。バラなんて色ごとにばらばら……失礼、別々に挿してあるなんて」

 花が入った一輪挿しは、窓辺のチェストにずらりと一列に整列していた。それも、花の種類ごとだけには飽き足らず、複数ある花は色が少しでも違えば違う花瓶に挿してあるなんて。随分と几帳面なんだなぁと思っていたのだ。けれども、しーちゃんが感じた違和感は、僕とは異なる視点からのものであった。

「いえ、そうではなくてですね」

 普通ですよ、普通。あまりにもその発見に僕がべた褒めするものだから、彼女は照れてそう言ったが、僕が常識に欠けていることを差し引いても、しーちゃんから告げられた“不思議な点”は、彼女の洞察力は並大抵のものではなかった。

「でかしたぞ、しーちゃん」

 僕らがハイタッチを交わした瞬間、静かに扉が開いた。

「お時間です。成果は……あったようですね」

 園宮さんから鞄を返してもらいながら、僕としーちゃんは誇らしげな顔でうなづいた。

さて、手紙の差出人の方は、ぴんと来る方ならお分かりかもしれません。

お花の方は肝心な点はぼやかしてしまいましたので、なんとなく推理しながら、後篇を待っていただければと思います。

(後篇は間が空かないようになるべくがんばります……)

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