母親の死
街の喧騒から逃れるようにしげる、森のなかにひっそりと暮らす親子がいた。
「母様、母様!!しっかりしてください!!」
木造作りの小さな家で、今一つの小さな命が消えようとしていた。
「やだっ!!死なないで!!」
すがり付く手を母―サファイア―はそっと握った。
その手はすでにもう力がまともに入らなくなっていた。
「ナティーシャ、ねぇ私の愛しい娘…聞いて…」
今にも消えそうな小さな弱々しい声で、彼女は必死になって言葉を紡ぐ。
「お願いがあるの…私が死んだら…このペンダントを世界樹に持っていってほしいの…
ナティーシャは巫女として世界樹に行かねばならないから、これを託すわ…」
「ダメだよ!!生きて、世界樹に持っていかなくてもいいようにしなくちゃ!!駄目なんだよ!!」
大粒の涙がこぼれる。
「行きなさい、ナティーシャ。
世界樹に届けて…私の想いを…
そして、歴代の巫女ができなかった…音楽の復活を果たして…
出来るのは…貴女、だけだから…」
言葉が次第に途切れていく。
それはもう残された時間が少ないことを表していた。
「あいして、いるわ…」
「母様…?………母様ぁー!!」
少女の悲痛な叫びが響いた。
泣いて、泣いて、涙が枯れ果てるまで泣いて、顔を上げたナティーシャの顔には弱々しい少女の面影はなかった。
「ねぇ、母様。私はやりとげて見せるよ。
願いを叶えて見せる」
使命に燃えた瞳は誰よりも強かった。